特許第6497927号(P6497927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6497927-伸縮伝送路 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497927
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】伸縮伝送路
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/06 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
   H01B7/06
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-256428(P2014-256428)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2016-119158(P2016-119158A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】巽 俊二
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/157070(WO,A1)
【文献】 特開2013−101823(JP,A)
【文献】 特開2009−301880(JP,A)
【文献】 特開2014−229568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%以上の伸縮率を有し、導電性の細線1本又は2本以上の集合体から成る導体線が螺旋状に捲回されており、前記導体線は細線の周囲又は細線の集合体の周囲に絶縁層を有する伸縮伝送路であって、
前記絶縁層を形成する絶縁材料が、
細線の周囲に絶縁層を有する場合には、エナメル被覆材であり、
細線の集合体の周囲に絶縁層を有する場合には、フッ素系、ポリオレフィン系、塩化ビニール系、又はゴム系の絶縁材料であり、
数式:V=V/V×100{Vは伸縮伝送路の体積であり、Vは絶縁層を含む導体線の体積である。}で表される前記導体線の含有体積比率Vが20.0〜50.0%であり、そして
前記導体線の剛軟度G(mN)と捲回回復ピッチP(mm)との積として定義される捲回反発値GPが200以下であることを特徴とする、伸縮伝送路。
【請求項2】
前記導体線の剛軟度G(mN)と捲回回復ピッチP(mm)との積として定義される捲回反発値GPが92以下である、請求項1に記載の伸縮伝送路。
【請求項3】
前記導体線の本数が2本以上であり、該2本以上の導体線が同一方向に並列に捲回されている、請求項1又は2に記載の伸縮伝送路。
【請求項4】
前記導体線が弾性円筒体の周囲に捲回されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の伸縮伝送路。
【請求項5】
前記導体線が絶縁性糸状体で拘束されている、請求項4に記載の伸縮伝送路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れる伸縮伝送線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、伸縮自在な芯材の周囲に、銅線、光ファイバ等の伝送線を配設又は捲回させ、外層として繊維等の絶縁体を被覆して成る伸縮伝送路が提案されている。該伝送路は、電線、信号伝送ケーブル、光信号伝送ケーブル等としての適用が意図されており、例えば、ロボット分野、身体装着機器配線、衣服装着機器配線、多関節ロボット等の分野における産業上の利用可能性が示唆されている。
上記の伸縮伝送路をより多くの用途に展開しようとした場合、製品安全試験等に認証される必要がある。さもないと、使用制限を受けて用途展開の支障になる場合がある。
特に燃焼特性試験は重要である。内部配線に使用する伝送路は、UL758の水平法による燃焼試験(水平状態に試料を保持しての機器用配線材の燃焼試験)に従って評価されなければならない。
【0003】
しかしながら、従来の伸縮伝送路について上記燃焼試験を行った場合、十分な難燃性を示すものはなかった。特に、無張力状態で行う水平燃焼試験においては、伸長状態の場合と対比して燃え易い傾向にある。
公知の伸縮伝送路について、部材の一部に難燃部材を使用する方法、伸縮伝送路自体に難燃加工を施す方法等によって難燃性を向上しようと試みた場合でも、上記燃焼試験に十分満足できる成績を示すものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4690506号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術における問題点を解決する伸縮伝送路を提供することを目的とする。特に、水平状態で保持して使用した時に、無張力状態及び伸長状態のいずれにおいても、高度の難燃性を有する伸縮伝送路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した。その結果、伸縮伝送路の構造を形成する導体線に着目し、該導体線を螺旋状に捲回する構造とし、伝送路における該導体線の体積含有率を特定の範囲に設定することにより、上記課題を解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明に到達したものである。前記導体線は、剛軟度及び捲回回復ピッチの定量的な関係が特定の範囲に規定されていることが好ましい。
【0007】
すなわち、本願において特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)10%以上の伸縮率を有し、導体線が螺旋状に捲回されており、そして前記導体線の含有体積比率Vが15.0〜50.0%であることを特徴とする、伸縮伝送路。
(2)前記導体線の剛軟度G(mN)と捲回回復ピッチP(mm)との積として定義される捲回反発値GPが200以下である、(1)に記載の伸縮伝送路。
【0008】
(3)前記導体線の本数が2本以上であり、該2本以上の導体線が同一方向に並列に捲回されている、(1)又は(2)に記載の伸縮伝送路。
(4)前記導体線が弾性円筒体の周囲に捲回されている、(1)〜(3)のいずれか一項に記載の伸縮伝送路。
(5)前記導体線が絶縁性糸状体で拘束されている、(4)に記載の伸縮伝送路。
【発明の効果】
【0009】
本発明の伸縮伝送路は、無張力状態又は伸長状態のいずれにおいても難燃性の効果を発揮でき、装置の内部配線用のケーブルとして用いた場合でも外観に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】導体線の捲回回復ピッチを評価する際の巻き付け方を説明するための略図
図2】導体線の捲回回復ピッチを評価する際の巻き付け後の回復状態を説明するための略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明における伸縮伝送路は、10%以上の伸縮率を有し、導体線が螺旋状に捲回されており、そして前記導体線の含有体積比率Vが15.0〜50.0%であることを特徴とする。この伸縮伝送路は、好ましくは難燃性を有する。
【0012】
ここでいう伸縮率とは、伸縮回復率が50%以上を保持できる最大の伸長率である。上記伸縮回復率とは、伝送路を所定の伸長率まで一旦伸長してから元に戻した時の、戻し応力がゼロとなる時点における試料の伸長率の、前記所定の伸長率に対する百分率である。
本発明の伸縮伝送路の伸縮率は、10%〜90%が好ましく、より好ましくは20%〜80%であり、最も好ましくは30%〜70%である。伸縮率が10%未満では伸び感がなくなり、100%超えでは伸縮回復性が悪くなる。
上記の伸縮率及び伸縮回復率は、具体的には、後述する実施例中の測定方法で求めることができる。
【0013】
導体線の含有体積比率Vとは、伸縮伝送路の体積V当たりに含まれるすべての導体線の体積Vとの比率であり、数式V=V/V×100(%)で表される。V及びVの測定方法の詳細は、後述の実施例に記載したとおりである。導体線の体積Vは、該導体線が絶縁層を有するものである場合には、該絶縁層の体積を含む値である。
本発明の伸縮伝送路における導体線の含有体積率は、15.0〜50.0%が好ましく、より好ましくは17.5〜47.5%であり、最も好ましいのは20.0〜45.0%である。導体線の含有体積率が50.0%を超えると、高度の難燃性は発揮されるものの、伸長率が不十分になり易いことの他、隣接する導体線同士が重なり合って外観不良となる場合がある。一方、導体線の含有体積率15.0%未満では、難燃性が損なわれ、燃焼し易くなる場合がある。
【0014】
本発明の伸縮伝送路に使用される導体線は、その捲回反発値GPが200以下であることが好ましい。ここでいう捲回反発値とは、該導体線の剛軟度G(ガーレこわさ、mN)と捲回回復ピッチP(mm)との積GPで表される。
導体線の剛軟度Gは、100mN以下であることが好ましく、50mN以下であるとより好ましく、25mN以下であることが最も好ましい。そのため、本発明における導体線としては、極力剛軟度の低い導体線を用いる方がよい。導体線の剛軟度Gが100mNを越えると、製造時の捲回が困難となり、取り扱いが難しくなるため、好ましくない。
上記剛軟度Gの具体的な測定方法は、後述の実施例中で説明される。
【0015】
本発明の伸縮伝送路に使用される導体線の捲回回復ピッチPは、0mm以上20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが最も好ましい。捲回回復ピッチPとは、螺旋状に捲回された導体線自身の曲げ反発力を、導体線同士の間隔距離で表現した数値であり、下記数式により算出される。
P=Y/N(mm)
Y:評点間の直線距離(mm)
N:20捲回の拘束を解いた時の戻り捲回数(最大20回)
d:導体線の直径mm
捲回回復ピッチPが20mmを超える導体線を用いると、燃焼時に、導体線周辺の材料が焼失した場合に導体線の拘束が一瞬で解け、導体線がバネのように伸びるか、或いは捲回径が一気に広がる。そのため、導体近傍への空気の取り込み量が急激に増加し、燃焼が加速されることとなり、好ましくない。
捲回回復ピッチPの具体的な測定方法は、後述する実施例中で説明する。
【0016】
なお、導体線を捲回した後に、熱処理(乾熱又は湿熱処理。例えば、80℃乾燥機内に、無張力状態で2時間放置する、等。)を施すと、捲回回復ピッチPを小さくできるので、捲回回復ピッチPが大きい導体線であっても、捲回後に熱処理を施すことにより、本発明の導体線として使用することができる。
【0017】
本発明の伸縮伝送路を構成する導体線として、具体的には、導電性の細線を単独で、又は2本以上集合させて1つの導体線として、用いることができる。しかし電気抵抗を可及的に小さくするため、導電性の細線を2本以上集合して1つの導体線として用いることが好ましい。集合本数の上限は特になく、導体線の柔軟性及び電気抵抗を勘案して任意に決めることができる。ただし、集合本数を過度に増やすと生産性が低下するため、同線性の細線の集合本数としては、10,000本以下が好ましく、より好ましくは1,000本以下である。
【0018】
導電性細線としては、比抵抗が1×10−4Ω・cm以下の電気伝導体を使用することができる。特に好ましくは1×10−5Ω・cm以下の金属から成る細線である。具体的な例としては、所謂、銅(比抵抗=0.2×10−5Ω・cm)、アルミ(比抵抗=0.3×10−5Ω・cm)等を挙げることができる。
その中でも銅線は、比較的安価で電気抵抗が低く、細線化も容易であるため、最も好ましい。アルミニウム線は、軽量にできるため、銅線に続いて好ましい。銅線は軟銅線又は錫銅合金線が一般的であるが、強力を高めた強力銅合金(例えば、無酸素銅に、鉄、燐、インジウム等を添加したもの);錫、金、銀、白金等でメッキすることにより酸化を防止した銅線;電気信号の伝送特性を向上させるために、金その他の元素で表面処理した銅線等を用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
導体線を構成する細線の単線直径は、0.5mm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.1mm以下であり、特に好ましくは0.05mm以下である。単線を細線化することにより、その集合体である導線の柔軟性を高めることができる。更に、単線を細線化することによって表面積が高くなるから、高周波特有の表皮効果によって伝送性をより高めることができる。しかしながら、あまり細線化し過ぎると、加工時に断線し易いため、細線の直径は0.01mm以上が好ましい。
細線を集合させるには様々な方法が知られており、本発明においても、公知のどのような方法で集合させてもよい。例えば、ストレートの引き揃え、撚線等を例示できる。しかし、加工時における捲回のし易さを考慮すると、撚線にする方が好ましい。
【0020】
本発明で用いられる導体線においては、上記のような単線のそれぞれ、又は単線の集合体が、絶縁されていることが好ましい。この絶縁は、単線のそれぞれ、又は単線の集合体の周囲に、絶縁層を設けることにより、達成することができる。絶縁層の厚み及び種類は、それぞれ、伸縮性信号伝送線の用途により、任意に設計される。可撓性を発揮するために、上記絶縁層として、単線の集合体を絶縁繊維で捲回したものを用いることもできる。
絶縁材は、公知の絶縁材料から任意に選定することができる。絶縁材は、絶縁性、並びに得られる導体線の伝送性及び柔軟性を加味して選択されることが好ましい。
【0021】
細線のそれぞれに絶縁層を形成するための絶縁材料としては、所謂エナメル被覆材を用いることができる。例えば、ポリウレタン被覆材、ポリウレタン−ナイロン被覆材、ポリエステル被覆材、ポリエステル−ナイロン被覆材、ポリエステル−イミド被覆材、ポリエステルイミド・アミド被覆材等を挙げることができる。
細線の集合体に絶縁層を形成するための絶縁材料としては、例えば、フッ素系、ポリオレフィン系、塩化ビニール系、ゴム系等の絶縁材料が挙げられる。これらのうち、フッ素系及びポリオレフィンの絶縁材料は、誘電率が低いので、伝送性の観点から好ましく;塩化ビニール系、ゴム系等の絶縁材料は、柔軟性の点から好ましい。
【0022】
導体線における絶縁層の厚さとしては、細線それぞれに絶縁層を形成する場合には、細線の半径に対して;細線の集合体に絶縁層を形成する場合には、該集合体の半径に対して、それぞれ、1%以上50%以下であることが好ましく、10〜20%であることがより好ましい。この範囲の厚さで絶縁層を形成することにより、所期の絶縁性能と難燃性とを両立することができる。
本発明で用いられる導体線として、導電性のよい物質から成る細線の集合体を絶縁層で被覆して成る線であることが、最も好ましい。このような導体線は、柔らかく、断線し難いため、伸縮性信号伝送線の伸縮性及び耐久性の向上に寄与する。
導体線が絶縁層を有する場合、該導体線の直径及び体積は、前記絶縁層を含む値として計算される。
【0023】
本発明の伸縮導体線において、上記導体線は螺旋状に捲回されている。
螺旋状に捲回された導体線は、隣接する導体線と互いに接触していてもよいし、離隔していてもよい。離隔している場合には、隣接する導体線との間隔が、該導体線の直径の0.2〜1.0倍程度であることが好ましい。
本発明の伸縮導体線において、導体線は1本のみを使用してもよいし、2本以上を使用してもよい。好ましくは4〜16本の導体線を使用することである。本発明の伸縮伝送路が2本以上の導体線を有するものである場合、これらの導体線は、同一方向に並列に捲回されていることが好ましい。
【0024】
上記のように螺旋状に捲回された導体線は、絶縁性の糸状体によって拘束されていてもよい。また、導体線が、隣接する導体線と離隔して捲回されている場合には、導体線間に導体線と同一方向に絶縁性の糸状体が捲回されていてもよい。また、前記導体線と逆方向に、絶縁性の糸状体を捲回して、捲回された前記の導体線を拘束してもよい。この場合、糸状体は、捲回された導体線の上側及び下側を交互に通過して、該絶縁体を編み込むようにして拘束することが好ましい。
これらの糸状体の太さ(直径)としては、導体線の直径の0.1〜0.5倍程度であることが好ましい。上記で使用される糸状体としては、例えば、ウーリーエステル糸、ウーリーナイロン糸、スパンデックス糸に前記ウーリー糸を巻き付けたカバーリング糸等を使用することができる。
しかしながら、本発明の伸縮伝送の難燃性をより向上するためには、絶縁糸状を極力使用しないことが好ましい。
【0025】
本発明の伸縮伝送路は、伸縮性及び導体線保護の観点から、芯部、導体部、及び外部被覆部から成る三層構造が理想である。
本発明の伸縮伝送路を構成する芯部は弾性円筒体であることが望ましい。
弾性円筒体は、より詳しくは、例えば、弾性紐、弾性チューブ、コイルバネ等から成ることができ、特に限定されるものではない。これらのうち、弾性紐又は弾性チューブを用いることが好ましい。
【0026】
上記弾性紐及び単製チューブは、それぞれ、弾性長繊維から形成することができる。この弾性長繊維は、10%以上の伸縮性を有することが好ましい。この弾性長繊維の伸縮性は、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、最も好ましくは300%以上である。上記弾性長繊維は、上述した程度の伸縮性に富むものであればよく、ポリマーの種類は特に限定されない。例えば、ポリウレタン系弾性長繊維、ポリオレフィンン系弾性長繊維、ポリエステル系弾性長繊維、ポリアミド系弾性長繊維、天然ゴム系弾性長繊維、合成ゴム系弾性長繊維、天然ゴムと合成ゴムとの複合ゴム系弾性長繊維等が挙げられる。
【0027】
上記材料のうち、ポリウレタン系弾性長繊維は、伸びが大きく、耐久性にも優れるため、本発明における弾性長繊維として用いるには最適である。
上記のような弾性長繊維を形成するための弾性材料を押し出し機に仕込み、円筒形状の紡糸口を備える装置から、垂直方向に、1本〜複数本を押し出す。使用する紡糸口の形状を適宜に選択することにより、所望の弾性紐又は弾性チューブを得ることができる。弾性紐又は弾性チューブは、それぞれ、モノフィラメント及びマルチフィラメントのいずれであってもよい。
【0028】
弾性円筒体の直径は、モノフィラメントで用いる場合には、該モノフィラメントの直径として;2本以上の弾性長繊維を用いる場合には合撚した外径として;弾性チューブとする場合には、該弾性チューブの外径として、それぞれ、0.01〜20mmの範囲が好ましい。より好ましくは0.02〜10mm、更に好ましくは0.03〜5mmである。直径が0.01mm以下の場合は、伸縮性が不十分になる場合があり、直径が20mmを超えると伸長応力が過大となり、取扱い難くなる場合がある。
【0029】
本発明における外部被覆部は、繊維から成ることが好ましい。この外部被覆部に用いられる繊維としては、特に限定されるものではなく、公知繊維から任意に選定できる。例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエステル系エラストマー繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリプロピレン系繊維等の合成繊維;綿、麻、ウール等の天然繊維;キュプラレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセル等の再生繊維等の他、任意の繊維を使用することができる。また、得られる伸縮伝送線の伸縮性をより向上するために、上記の繊維と、ポリウレタン系弾性繊維、ポリオレフィン系弾性繊維、天然ゴム、合成ゴム系弾性繊維等と、組み合わせて用いてもよい。これらの繊維の断面形状としては、例えば、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、偏平型、多角形型(例えばドッグボーン型等)、多葉型(例えば、八葉型等)、中空型等を挙げられる他、不定形であってもよい。繊維の形態としては、未加工糸、紡績糸、撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等、いずれのものを採用してもよい。
上記の繊維としては、マルチフィラメントを用いることが好ましい。
上記繊維としては、10〜2,000dtexの太さのものを用いることができる。その単糸繊度は任意に設定できる。
【0030】
本発明の伸縮伝送路は、公知の製紐機に、伝送路の各部を構成する上記のような材料を装填する他は、公知の方法により、又はこれに当業者による適宜の変更を加えたうえで、製造することができる。
上述したように、使用する導体線の捲回回復ピッチPが大きい場合には、伸縮伝送路を形成した後に熱処理を施すことにより、前記導体線の捲回回復ピッチPを小さくすることができる。この場合の熱処理としては、例えば、60〜180℃において、0.1〜24時間の乾熱処理又は湿熱処理を挙げることができる。使用する導体線の捲回回復ピッチPが過度に大きい場合には、最終の伸縮伝送線の伸縮回復率が例えば70%以上を維持する範囲で、上記のような熱処理を行うことによって、本発明における好適な伸縮伝送路を得ることができる。
【0031】
上記のような本発明の伸縮伝送路は、伸縮性と難燃性とが両立されたものである。
具体的には、上記のように、伸縮回復率50%以上を保持できる最大の伸長率が10%以上であるとともに、UL758の燃焼試験に合格する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。しかしながら本発明はこれらに限定されるものではない。
例中の各測定及び特性評価は、それぞれ、下記の方法で行った。
【0033】
(1)伸縮率の測定
各実施例及び比較例で得られた伸縮伝送路を200mm長にカットし、これを試料とする。各試料に、つかみ幅40mm及びつかみ間隔100mmの位置に評線を引く。
テンシロン万能試験機((株)エーアンドディ社製)を用い、つかみ幅25mm、つかみ間隔100mm、引張速度200mm/min、及び戻し速度200mm/minの条件下で、所定の伸長率まで延伸した後、元に戻すサイクルから成る1サイクル試験を行い、戻り応力がゼロとなる長さ(つかみ間隔)を測定する。
上記1サイクル試験における所定の伸長率は、つかみ間隔の10%〜200%の範囲内で設定され、伸縮回復率が50%未満となる伸長率まで、5%刻みで伸長率を増加しつつ、繰返し測定する。そして、伸縮回復率が50%以上を保持できる最大の伸長率を、本明細書における伸縮率とする。ただし、1サイクル試験は、1つの試料片で1回測定とし、試料片は毎回交換する。
伸縮回復率は下記数式によって求めた。
伸縮回復率(%)={(L−L)/(L−L)}×100
ここで、Lはつかみ間隔(元試料長)であり、Lは所定伸長率まで延伸した時の伸長長さであり、Lは戻り応力がゼロとなる時のつかみ間隔である。
【0034】
(2)導体線の含有体積比率Vの測定方法
各実施例及び比較例で得られた伸縮伝送路を100mmの長さにカットしたものを試料とする。
上記伝送路の最外層を含む直径D(mm)をマイクロスコープ(ハイロックス社製 KH−8700)により測定する。測定回数は10回としてその平均値をD(mm)とし、数式V=(D/2)×π×100により、伝送路100mmあたりの体積V(mm)を求める。
次に、前記伝送路を分解し、導体線(絶縁層を含む)の直径d(mm)をデジタルノギス(シンワ測定社製)により、長さi(mm)をものさしにより、それぞれ測定する。導体線の直径dは測定10か所の平均値として表し、長さiは導体線の合計本S本分の平均値として表す。
上記のV、d、及びSを用いて、数式V={(d/2)×π×i×S}/V×100により、各伸縮伝送路における導体線の含有体積比率V(体積%)を求める。
【0035】
(3)導体線の剛軟度Gの測定方法
ガーレ試験機(安田精機製作所 NO.311ガーレ式柔軟度試験機)を用い、その操作マニュアルに準拠して測定する。導体線の試料長さは70mmとし、中央(端から35mmの位置)に印を付けて把持時の評点とする。装置設定及び剛軟度Gを計算するための数式は、それぞれ、下記のとおりとし、測定回数5回の平均値を採用する。
(装置設定)
G:剛軟度(ガーレこわさ、mN)
R:目盛り板の読み
K:荷重取付位置
W:荷重
A:試料取付長さ、35mm一定
d:試料の直径(mm)
(剛軟度Gの計算式)
剛軟度G(mN)=R×K×W×(A−12.7)÷d×3.444×10−5
ただし、R値ができるだけ中央値5に近づくように荷重取付位置K及び荷重Wを適宜に調整したうえで測定を行う。具体的には、以下のとおりである;
最初に、K=25.4mmの荷重取付位置に、W=5gの荷重を取付けて測定する。この時に目盛り版の読みRが振り切る場合には、K=50.8mm及び101.6mmの順に荷重取付位置を変更し、R値が振り切らない取付位置を選択する。K=101.6mmとしてもR値が振り切る場合は、W=10g、20g、50g、及び100gの順に荷重を変更して、R値が中央値5に近くなる荷重Wを選択して測定を行う。
【0036】
(4)導体線の捲回回復ピッチPの測定方法
図1及び2を参照しつつ、捲回回復ピッチPの測定方法を説明する。
捲回芯として、直径8d(d=導体線直径(mm))、長さ200mmのステンレス製マンドレル1を準備する。
図1に示すように、導体線3の片側端部を上記マンドレル1の端部近傍に導体線固定用テープ2(セロハンテープ)により固定したうえで、隣接する導体線同士が互いに接触し、且つ重ならないように、20回巻き付ける。次いで、導体線巻き付け部の両端に2箇所のマーカー点4を入れた後、巻きが緩まないように固定部反対側のマーカー点のやや下側を指で拘束しながら、マーカー点で導体線をカットする。
その後、指による捲回拘束を30秒間継続した後、指をゆっくりと放して導体線の捲回を弛緩・回復させて、2つのマーカー間の直線距離Y(mm)を測定する。また20捲回の拘束を解いた後の戻り捲回数Nを測定する。
そして、上記で得た値を用いて、下記数式により、捲回回復ピッチを算出する。
P=(Y−d)/N
測定回数は5回とし、その平均値を採用する。
なお、伸縮伝送路を製造する際に熱処理を施す場合には、巻付け回数を30回として捲回した後に捲回を拘束し、20回捲回の位置にマーカー点を付け、伝送路に施す熱処理と同じ条件下で熱処理を行った後に、前記マーカー点位置で導体線をカットし、捲回拘束を解除して測長する。
【0037】
(5)外観評価方法
各実施例及び比較例で得られた伸縮伝送路について、目視観察及び触診によって、伝送路の表面に凹凸感又はいびつ感を感じた場合を×(不良)、感じなかった場合を○(良好)とする官能評価によって判定する。
【0038】
(6)難燃性評価
ケーブル燃焼試験UL758における水平法の適用規格に準拠して判定する。
各実施例及び比較例で得られた伸縮伝送路試料を、無張力状態及び伸長状態の2つの状態において、それぞれ燃焼試験を実施する。伸長状態の試験における伸長率としては、上記(1)で得られた伸縮率における伸長率を採用する。
表1における「合否判定」欄は、試料が上記燃焼試験に合格した場合には「○」、不合格であった場合には「×」として示した。
【0039】
[実施例1]
(1)弾性円筒体の製造
940dtexのポリウレタン弾性長繊維(旭化成せんい(株)社製、商品名:ロイカ)を芯にして、244dtexウーリーナイロン糸(東レ(株)社製、122dtexのウーリーナイロン糸の2本引き揃え)を鞘にしたダブルカバーリング糸を得た。得られたダブルカバーリング糸を製紐機のボビンに巻き取り、16本打製紐機(コクブンリミテッド(株)社製)を用いて組紐にした、直径3.1mmの弾性円筒体を得た。
【0040】
(2)伸縮伝送路の製造
次に16本打製紐機を用い、上記の弾性円筒体を芯部に配置し、ブレーダーZ方向にはボビン巻きしたPVC導体線(住友電工社製、AWM1571 LF AWG28(44/0.05))4ボビンを1イン1アウトで入れ、残りの4ボビンには何も入れず、S方向にはボビン巻きしたウーリーエステル糸(アビラス(株)社製、56dtex先染め加工糸/晒し加工品)を8ボビン通して製紐して、直径3.8mmの伝送路中間品を得た。
得られた伝送路中間品を1日エージング処理(自然放縮処理)した後、16本打製紐機の芯部に配置し、16ボビンのすべてにエステル原着加工糸668dtex(南亜プラスチック(株)社製、334dtex糸の2本引き揃え)を製紐することにより、直径4.7mmの伸縮伝送路を得た。
(3)評価
上記で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を、それぞれ表1に示した。
【0041】
[実施例2]
(1)弾性円筒体の製造
上記実施例1の「(1)弾性円筒体の製造」において、8本打製紐機(コクブンリミテッド(株)社製)を用いた他は実施例1と同様にして、直径2.1mmの弾性円筒体を得た。
(2)伸縮伝送路の製造
上記実施例1の「(2)伸縮伝送路の製造」において、上記の弾性円筒体を4本分引き揃えて芯部に供給し、Z方向ボビンのすべてにPVC導体線を入れた以外は実施例1と同様にして、直径6.7mmの伸縮伝送路を得た。
(3)評価 本実施例で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を表1に示した。
【0042】
[実施例3]
(1)弾性円筒体
本実施例においては、弾性円筒体として上記実施例2で製紐した弾性円筒体を用いた。
(2)伸縮伝送路の製造
上記実施例1の「(2)伸縮伝送路の製造」において、上記の弾性円筒体を芯部に供給し、Z方向にボビン巻きしたUSTC導体線((有)竜野電線社製、2USTC:144/0.03)4ボビンを1イン1アウトで入れ、ウーリーナイロン糸の先染加工糸732dtex(アビラス社製、244dtex先染加工糸の3本引き揃え)を1アウト1インの配列で入れた以外は実施例1と同様にして、直径3.8mmの伸縮伝送路を得た。
(3)評価
本実施例で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を表1に示した。
【0043】
[実施例4]
上記実施例2において、導体線としてETFE導体線(日星電気(株)社製、(40/0.053)STYLE10231AWM)を使用した以外は実施例2と同様にして、直径6.8mmの伸縮伝送路を得た。
得られた伸縮伝送路に対して、熱風乾燥機を用いて、80℃、2時間の乾熱処理を行った。
上記で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を、それぞれ表1に示した。
【0044】
[比較例1]
上記実施例1の「(2)伸縮伝送路の製造」において、導体線4ボビンのうちの対角2ボビンをウーリーナイロン糸の先染加工糸732dtexに変更した以外は実施例1と同様にして、直径4.5mmの伸縮伝送路を得た。
本実施例で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を表1に示した。
【0045】
[比較例2]
上記実施例2の「(2)伸縮伝送路の製造」において、弾性円筒体として上記実施例1で得た弾性円筒体を用いた以外は実施例2と同様にして、直径4.2mmの伸縮伝送路を得た。この伝送路は、表面に凹凸感があり、伝送路の全体が畝っており、見栄えが悪いものであった。
本実施例で使用した導体線の諸物性、並びに得られた伸縮伝送路の諸物性及び評価結果を表1に示した。この伝送路は、伸長率が低いものであった。
【0046】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の伸縮伝送路は、機器内配線用電線として利用できる。
更に、産業用ロボット、家庭ロボット、ホビーロボット、ヒューマノイド型ロボット等のロボット分野;パワーアシスト装置、ウエアラブル電子機器、リハビリ用補助具、モーションキャプチャー、電子機器付防護服、ゲームコントローラー、マイクロヘッドフォン等の身体装着機器等における信号伝送路として、好適に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 ステンレス製マンドレル
2 導体線固定用テープ
3 導体線
4 マーカー位置
Y マーカー点間の直線距離
図1
図2