(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497930
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】薬剤包装材
(51)【国際特許分類】
C08F 8/12 20060101AFI20190401BHJP
B65D 65/46 20060101ALI20190401BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20190401BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
C08F8/12
B65D65/46
B65D65/02 F
C08F216/06
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-259999(P2014-259999)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121204(P2016-121204A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紀人
(72)【発明者】
【氏名】辻 和俊
【審査官】
藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−285143(JP,A)
【文献】
特開2002−284818(JP,A)
【文献】
特開2008−208347(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0023880(US,A1)
【文献】
特開2000−327508(JP,A)
【文献】
特開2007−239171(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/027720(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00、301/00
B65D 65/00−65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が98〜100モル%で、
下記一般式(1)で示される構造単位を有する側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を含有することを特徴とする薬剤包装材
で、カーバメート系化合物を包装してなる薬剤包装材。
【化1】
(式中、R
1,R
2,およびR
3は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結
合を示し、R
4,R
5,及びR
6はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
【請求項2】
側鎖に1,2−ジオール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂の側鎖1,2ジオール構造単位の含有量が0.1〜20モル%である請求項1記載の薬剤包装材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有する薬剤包装材に関するものであって、さらに詳しくは、包装材に包まれた状態の薬剤を水に投入した際、水に溶解した薬剤包装材が、薬剤に対する分散剤となり、薬剤を均一に分散させることが可能な農薬等の薬剤の個別包装用に有用な薬剤包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
非水溶性の粉末農薬などの薬剤は、使用する際には、一般的に水などに均一分散して使用するわけであるが、その際に薬剤が手に付着したり、周囲に飛散することがないように、少量ずつ水溶性の薬剤包装材に包装する方法が用いられてきている。
水溶性の包装材で包装することにより、水中に包装された薬剤を投入し、撹拌すればよく、薬剤の計量が不要であり、さらに包装材は水に溶けるため廃棄物も排出しないため、広く普及している。
【0003】
従来から薬剤包装用の水溶性包装材として、変性されていない未変性ポリビニルアルコール(以下、ポリビニルアルコールをPVAという)で、溶解性の点からケン化度70〜90モル%程度の部分ケン化PVAが用いられてきた。
しかしながら、未変性のPVAは、薬剤の種類により水に溶解しにくくなる場合があるなどの問題が生じていた。そこで、溶解性に優れるスルホン酸基を有する変性PVA(例えば、特許文献1)が提案されている。しかしながら、スルホン酸基含有PVAは耐熱性が低い事や水溶性の経時での低下が問題となっている。
【0004】
かかる課題を解決するために、主鎖に1,2グリコール結合を有するPVA(例えば、特許文献2)が提案されている。
主鎖1,2−グリコール結合を有するPVAは、ビニレンカーボネートとの共重合や高温での重合により製造されるもので、下記のような構造を有するPVAである。
【化1】
【0005】
しかしながら、上記の変性PVAは水溶性に優れ、その後の経時による水溶性の低下は少ないものの、冷水溶解性についてはまだまだ満足いくものではなかった。
【0006】
そこで、さらに冷水溶解性に優れるPVA系樹脂を含有する水溶性包装材として、側鎖に1,2−ジオール結合を有し、ケン化度が85〜97モル%であるPVAが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−222546号公報
【特許文献2】特開2001−206435公報
【特許文献3】特開2006−257225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA(以下、側鎖1,2−ジオールPVAという)のケン化度85〜97モル%のものでは、溶解性には優れるが、包装材が水溶解したあとに非水溶性、難水溶性薬剤が水中に沈殿するという問題があった。
薬剤としては、非水溶性や難溶性の薬剤であれば、撹拌したとしても時間の経過とともに薬剤が水中に沈殿するため、スプレーや計量尺での薬剤散布は、不均一なものとなる。
本発明の目的は、非水溶性、難水溶性薬剤を包装した水溶性包装材が水に溶解した後に、非水溶性、難水溶性薬剤の分散剤として作用し、薬剤が沈殿することがなく、非水溶性、難水溶性薬剤の分散性に優れる水溶性薬剤包装材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構造を有し、特定範囲のケン化度の変性PVA系樹脂を含有する薬剤包装材が、かかる課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、ケン化度が98〜100モル%で、側鎖に1,2−ジオール結合を有するPVA系樹脂を含有する水溶性薬剤包装材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薬剤包装材は、薬剤を包装した水溶性包装材が水に溶解した後に、非水溶性や難水溶性の薬剤の分散剤として作用し、分散性に優れるものである。
【0011】
本発明の包装材は、側鎖に結合する水酸基と主鎖の水酸基の相乗効果により、かかる水酸基が薬剤中のイオン性基と電気的相互作用を引き起こし、本発明のPVA水溶液中に薬剤を安定的に分散できたものであると推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
本発明は、側鎖に1,2−ジオール結合を有し、ケン化度が98〜100モル%であるPVA系樹脂を含有する薬剤包装材である。
【0013】
まずは、本発明の側鎖1,2−ジオールPVAについて説明する。
本発明の側鎖1,2−ジオールPVAは、例えば、下記一般式(1)で示される構造単位を有するものである。
【化1】
(式中、R
1,R
2,およびR
3は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R
4,R
5,及びR
6はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
【0014】
前記炭素数1〜5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等が挙げられ、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよいが、R
1〜R
6のすべてが水素原子であることが好ましい。
【0015】
前記結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH
2O)
m−、−(OCH
2)
m−、−(CH
2O)
mCH
2−、−CO−、−COCO−、−CO(CH
2)
mCO−、−CO(C
6H
4)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO
2−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO
4−、−Si(OR)
2−、−OSi(OR)
2−、−OSi(OR)
2O−、−Ti(OR)
2−、−OTi(OR)
2−、−OTi(OR)
2O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数である)が挙げられる。熱安定性の点や高温下/酸性条件下での構造安定性の点から、単結合が最も好ましい。
【0016】
したがって、上記一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位のうち、最も好ましい構造は、R
1〜R
6のすべてが水素原子で、Xが単結合である構造単位である。
【0017】
本発明の側鎖1,2−ジオールPVAのケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、98〜100モル%であり、好ましくは98.5〜99.5モル%である。かかるケン化度が低すぎると、薬品の分散性が低下する傾向がある。
また本発明におけるケン化度とは、主鎖の水酸基及び側鎖1,2−ジオール構造の水酸基の割合である。側鎖の部分は通常、ケン化度は100モル%である。
【0018】
また、本発明の側鎖1,2−ジオールPVAの4重量%水溶液粘度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常は0.5〜50mPa・s、好ましくは1〜30mPa・s、特に好ましくは2〜20mPa・sである。かかる4重量%水溶液粘度が低すぎると、強度が不充分となる傾向があり、逆に高すぎると、溶解に時間を要する傾向がある。
【0019】
また、側鎖1,2−ジオール構造の含有量(変性度)としては、通常0.1〜20モル%、好ましくは1〜15モル%、特に好ましくは2〜10モル%である。
かかる含有量が小さすぎると水への溶解性が低下する傾向があり、高すぎると原料製造が困難となる傾向がある。
【0020】
本発明の側鎖1,2−ジオールPVAの製造方法は、特に限定しないが、例えば、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0021】
【化2】
【化3】
【化4】
【0022】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR
1、R
2、R
3、X、R
4、R
5、R
6は、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R
7及びR
8はそれぞれ独立して水素原子またはR
9−CO−(式中、R
9はアルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、又はオクチル基であり、かかるアルキル基は共重合反応性やそれに続く工程において悪影響を及ぼさない範囲で、ハロゲン、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい)である。R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。R
10、R
11のアルキル基としては特に限定しないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。当該アルキル基は、共重合反応性等を阻害しない範囲内において、ハロゲン、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有していてもよい。
【0023】
式(2)で示される化合物としては、具体的にXが単結合である3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、Xがアルキレン基である4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン、Xが−CH
2OCH
2−あるいは−OCH
2−であるグリセリンモノアリルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン、3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。
【0024】
式(3)で示される化合物としては、入手の容易性、共重合性の観点から、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6がすべて水素原子であり、Xが単結合であるビニルエチレンカーボネートが好適に用いられる。
【0025】
式(4)で示される化合物としては、入手の容易性、共重合性の観点から、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6がすべて水素原子であり、R
10、R
11がメチル基である2,2−ジメチル−4−ビニル−1,3−ジオキソランが好適に用いられる。
【0026】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を採用できる。
なかでも、共重合反応性および工業的な取り扱い性に優れるという点から、R
1〜R
6が水素、Xが単結合、R
7及びR
8がR
9−CO−であり、R
9 がアルキル基である、3,4−ジアシロキシ−1−ブテンが好ましく、さらにそのなかでも特にR
9がメチル基である3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。かかる3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、その共重合体をケン化する際に発生する副生物が、ビニルエステル系モノマーとして多用される酢酸ビニルに由来する構造単位からケン化時に副生する化合物と同一であり、その後処理や溶剤回収系に敢えて特別な装置や工程を設ける必要がなく、従来からの設備を利用出来るという点も、工業的に大きな利点である。
【0027】
なお、(ii)や(iii)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、ケン化度が低い場合や、脱炭酸あるいは脱アセタール化が不充分な場合には側鎖にカーボネート環あるいはアセタール環が残存する場合があり、その結果、かかる側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂の薬品の分散剤としての機能が低下する傾向があり、これらの点からも、(i)の方法によって得られた側鎖1,2−ジオールPVAが本用途においては最も好適である。
【0028】
以上のような側鎖1,2−ジオール構造単位を提供できるモノマーとともに共重合されるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的にみて中でも酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0029】
従って、側鎖1,2−ジオール含有PVA系樹脂は、上記式(1)で表される側鎖1,2−ジオール構造単位のほか、下記(5)式で表されるビニルアルコール単位が含まれる。
【0030】
【化5】
【0031】
また、ケン化度が100%未満の場合には、さらに下記式(6)で表されるビニルエステル単位が含まれることになる。式(6)中、R
20は、炭素数1〜20のアルキル基、好ましくは炭素数1〜13のアルキル基、最も好ましくはメチル基である。
【0032】
【化6】
【0033】
また上述のモノマー(ビニルエステル系モノマー、一般式(2)、(3)、(4)で示される化合物)の他に、樹脂物性に大幅な影響を及ぼさない範囲であれば、その他の共重合成分として、エチレンやプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類、およびそのアシル化物などの誘導体;イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、AMPS等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩などの化合物などが共重合されていてもよい。
【0034】
その他の共重合成分が共重合される場合、その他の共重合成分に基づく構成単位が含まれることになる。
かかる共重合成分は、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。
【0035】
本発明の薬品包装材は、上記の側鎖1,2−ジオールPVA以外にも、可塑剤、界面活性剤、滑剤、フィラーなどを含んでも良い。
【0036】
可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピリングリコール等のアルキレングリコール類やトリメチロールプロパン等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0037】
本発明の薬剤包装材の形状は、例えばフィルム状やシート状、テープ状、不織布状、ボトル状、パイプ状、フィラメント状、さらには異型断面形状等を挙げることができるが、なかでもフィルム状やシート状、不織布状、あるいはボトル状が好ましい。
【0038】
また、本発明の薬剤包装材の大きさは、形状によって異なるが、例えば、フィルム状又はシート状の場合の厚みは、通常10〜100μm、好ましくは40〜80μmである。かかる厚みが薄すぎるとフィルム又はシートの機械的強度が低下し、逆に厚すぎると冷水での溶解速度が大幅に遅くなり、好ましくない。
ボトル状の場合の厚みは、通常0.1〜5mm、好ましくは1〜4mmである。かかる厚みが薄すぎると容器の機械的強度が低下し、逆に厚すぎると冷水での溶解速度が大幅に遅くなり、好ましくない。
不織布状の場合の目付は、通常20〜80g/m
2、好ましくは30〜70g/m
2である。かかる目付が小さすぎると不織布の隙間から薬剤が漏れる恐れがあり、逆に目付が多すぎると冷水での溶解速度が遅くなったり、風合いが硬くなったりするため、好ましくない。
また、本発明の薬剤包装材の表面はプレーンであってもよいが、エンボス模様や梨地模様等を施しておいても良い。
【0039】
また、本発明の薬剤包装材の製造方法は、フィルム状又はシート状の場合は、溶融成形法、水溶液成形法が挙げられ、溶融成形法としてはTダイフィルムキャスト法、インフレーション法等;水溶液成形法としては流延法等が挙げられる。
ボトル状の場合には、射出成型法が挙げられる。
不織布状の場合の製造方法は、スパンボンド法およびメルトブローン法が挙げられる。
【0040】
本発明の薬剤包装材に薬剤を包装する方法としては、フィルム状やシート状、不織布状の場合は、多角形状の薬剤包装材の1辺以上をヒートシールし、薬剤を包んだ後に、開口部をヒートシールする方法等がある。
ボトル状の場合は、ボトル内に薬剤を充填し、蓋をすることにより包装することができる。かかる蓋は、フィルム状やシート状、不織布状のものを用いてもよい。
【0041】
本発明の薬剤包装材に包装される非水溶性、難水溶性薬剤は
、カーバメート
系が挙げられる。
【0042】
中でも、本発明の薬剤包装材を用いた場合の水分散性の点からカルバメート系が好ましい。例えば、かかるカーバメート系としては、アラニカルブ、アルジカルブ、ベンダイオカルブ、ベンフラカルブ、ブトカルボキシム、ブトキシカルボキシム、NAC、カルボフラン、カルボスルファン、エチオフェンカルブ、BPMC、ホルメタネート、フラチオカルブ、MIPC、メチオカルブ、メソミル、MTMC、オキサミル、ピリミカーブ、PHC、チオジカルブ、チオファノックス、トリアザメート、トリメタカルブ、XMC、MPMC等が挙げられる。
【0043】
薬剤の形状は、顆粒状、錠剤、紛体、液状のいずれでもよいが、本発明の効果が得られやすい点から紛体が好ましい。紛体の場合の薬剤の粒径は通常2.5〜1000μm、好ましくは10〜300μm、特に好ましくは15〜100μmである。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0045】
実施例1
<側鎖1,2−ジオールPVA1の作製>
まず、酢酸ビニル1000部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン160部(8モル%対仕込み酢酸ビニル)、メタノール300部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
0.26モル%(対仕込み酢酸ビニル)を準備した。
次いで、還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応缶に、メタノールとAIBNの全量、および酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの50%を投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。さらに酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの残部(50%)を8時間かけて滴下し、酢酸ビニルの重合率が90%となった時点でm−ジニトロベンゼンを所定量添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込みつつ蒸留することで未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液を得た。
【0046】
次いで、上記メタノール溶液を濃度50%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウム中のナトリウム分が2%のメタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して5.0ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。粘度上昇を確認後に水酸化ナトリウム中のナトリウム分が2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して7ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行すると共にケン化物が析出し、粒子状となった時点で、中和用の酢酸を水酸化ナトリウムの0.8当量添加し、濾別、メタノールで充分洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、1,2−ジオール構造単位を有するPVA系樹脂を得た。
【0047】
得られた側鎖1,2−ジオールPVA1のケン化度は、残存酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の加水分解に要するアルカリ消費量で分析を行ったところ99.2モル%であり、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726に準じて測定したところ3.0mPa・sであった。また、1,2−ジオール構造単位の含有量は
1H−NMR(内部標準物質;テトラメチルシラン)で測定して算出したところ8.0モル%であった。
【0048】
<薬剤包装材1の作成>
得られた側鎖1,2−ジオールPVA1を、水に溶解して20重量%のPVA水溶液を得、かかる水溶液をキャストし、23℃、50%RHの環境下で48時間乾燥して厚さ70μmの薬剤包装材1を得た。
【0049】
[分散性評価]
上記で得られた薬剤包装材1を水に溶解し、2重量%の薬剤包装材水溶液100部を作成し、薬剤を5部投入し、薬剤が分散するまで撹拌するし、分散液を得た。1時間経過後の分散液の状態を目視で観察し、以下のように評価した。
A:均一に分散した状態を保持
B:薬剤が沈降
【0050】
実施例2
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA2(ケン化度99.2モル%、変性度6.0モル%、4重量%水溶液粘度4.5mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材2を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0051】
実施例3
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA3(ケン化度99.2モル%、変性度3.0モル%、4重量%水溶液粘度6.0mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材3を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA4(ケン化度99.2モル%、変性度6モル%、4重量%水溶液粘度13.0mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材4を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0053】
実施例5
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA5(ケン化度98.5モル%、変性度6.0モル%、4重量%水溶液粘度13.0mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材5を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA7(ケン化度96.0モル%、変性度4.5モル%、4重量%水溶液粘度4.5mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材6を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0055】
比較例2
実施例1において、側鎖1,2−ジオールPVA1を1,2ジオールPVA8(ケン化度93.0モル%、変性度6.0モル%、4重量%水溶液粘度4.5mPa・s)に代えた以外は同様にして薬剤包装材7を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
ケン化度が98〜100モル%の側鎖1,2−ジオールPVAを含有する薬剤包装材を用いた実施例1〜5は、1時間が経過しても、薬剤が均一に分散した状態で保持できた。一方、ケン化度が96モル%以下の側鎖1,2−ジオールPVAを含有する薬剤包装材を用いた比較例1および2は、1時間経過後には薬剤が沈降してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の薬剤包装材は、薬剤の分散性に優れ、薬剤包装材として有用である。