(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497940
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】マンモグラフィ像を生成するための核磁気共鳴断層撮影システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 350
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-2287(P2015-2287)
(22)【出願日】2015年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-131112(P2015-131112A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2017年11月14日
(31)【優先権主張番号】10 2014 200 342.3
(32)【優先日】2014年1月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト レーナー
【審査官】
亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06023166(US,A)
【文献】
実開平01−087711(JP,U)
【文献】
特開平05−015509(JP,A)
【文献】
特開2013−158429(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0316539(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0096456(US,A1)
【文献】
特開平05−095943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 −24/14
G01R 33/20 −33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者(2)の少なくとも片方の乳房(2.1)の3次元像を生成するための核磁気共鳴断層撮影システム(1)であって、
1.1.均一磁場を生成するための装置(4)と、
1.2.測定ボリューム内において少なくとも1つの磁場勾配を生成するための複数のアクティブな勾配磁場コイル(5)のシステムと、
1.3.前記測定ボリューム内におけるMR走査中に前記乳房(2.1)を位置決めするための内側スペースを有する少なくとも1つの乳房ホルダ(6)と、
1.4.磁気共鳴信号を受信するためのアンテナとして機能する少なくとも1つの個別コイル(7)から成る少なくとも1つの局所コイルシステムと、
1.5.前記片方の乳房(2.1)と前記内側スペースの外側区切り部との間において前記内側スペースを埋めることにより前記片方の乳房(2.1)を安定化するための、少なくとも1つのクッション(8)と、
を有し、
1.6.前記少なくとも1つの乳房ホルダ(6)は、前記内側スペースに、磁気共鳴領域において前記局所コイルシステムの前記少なくとも1つの個別コイル(7)と電磁結合を生成する少なくとも1つのクッション(8)を有し、
前記少なくとも1つのクッション(8)は、前記少なくとも1つの個別コイル(7)と誘導結合するように構成された複数のパッシブのアンテナ素子(8.1)を有する、核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項2】
前記パッシブのアンテナ素子(8.1)は、支持体上に設けられた銅からなる導体路として、形成されている、
請求項1記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項3】
前記アンテナ素子(8.1)は、少なくとも1つのキャパシタ(C1〜C4)および少なくとも1つのインダクタンス(I)を、および/または、送信中にパッシブな離調を行うための逆並列ダイオード対(D1,D2)を、および/または、ヒューズを有する、
請求項1または2記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項4】
前記少なくとも1つのキャパシタ(C1〜C4)の容量は、前記アンテナ素子(8.1)が磁気共鳴周波数で共振し、前記アンテナ素子(8.1)の磁場増幅が最大となるように選択されている、
請求項3記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項5】
前記少なくとも1つのインダクタンス(I)の値は、前記核磁気共鳴断層撮影システム(1)で用いられる磁気共鳴周波数で少なくとも1つのインダクタンス(I)および前記少なくとも1つのキャパシタ(C1〜C4)が共振し、送信時に前記アンテナ素子(8.1)が離調するように選択されている、
請求項3または4記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項6】
前記少なくとも1つのクッション(8)は、少なくとも100である比誘電率を有する材料を含む、
請求項1記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項7】
前記乳房ホルダ(6)と前記少なくとも1つのクッション(8)とは、前記クッション(8)を前記乳房ホルダ(6)内に一義的に位置決めすることのみを可能にする互いに相補的な位置決め構造をそれぞれ有する、
請求項1から6までのいずれか1項記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項8】
前記乳房ホルダ(6)は、複数の異なる乳房サイズに対応する複数の交換可能なクッションセット(8)を有する、
請求項1から7までのいずれか1項記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項9】
前記局所コイルシステムは、複数の前記個別コイル(7)を有する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【請求項10】
前記患者(2)を水平方向に寝かせるための患者台(3)が設けられており、
前記患者台(3)は、検査対象の各乳房(2.1)に対してそれぞれ開口を有し、
前記各開口に対し、それぞれ局所コイルシステムを有する1つの乳房ホルダ(6)が割り当てられている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の核磁気共鳴断層撮影システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元マンモグラフィ像を生成するための核磁気共鳴断層撮影システム(=MRTシステム)に関し、当該核磁気共鳴断層撮影システムは、均一磁場を生成するための装置、測定ボリューム内において少なくとも1つの磁場勾配を生成するための複数のアクティブ勾配磁場コイルのシステム、当該測定ボリュームにおいてMR走査中に乳房を位置決めするための内部スペースを有する少なくとも1つの乳房ホルダ、および、患者の乳房と当該内部スペースの外側区切り部との間において当該内側スペースを充填することにより当該乳房を安定化する少なくとも1つのクッションを有する。
【背景技術】
【0002】
女性の乳房組織における病変を診断するために、核磁気共鳴断層撮影では画質すなわち信号雑音比(=SNR)を改善するため、専用の局所コイルシステムを用いる。この局所コイルシステムは大抵、複数の個別コイルを含む。乳房の核磁気共鳴検査を行うためには、前記局所コイルシステムの凹入部内において片方または両方の乳房がぶら下がるように、患者をうつ伏せにする。この開口の周辺には、MR受信アンテナとして機能する複数の個別コイルから成る最適化されたアンテナアレイが、局所コイルシステムのハウジング内部に配置されている。これらの個別コイルは、アクティブの低雑音増幅器(LNA)を介してMRTシステムに接続されている。
【0003】
このような局所コイルシステムは、当該局所コイルシステムによって大部分の患者を検査できるように構成しなければならない。このことは、検査対象の乳房の想定可能な最大体積に合わせて局所コイルシステムの凹入部を構成しなければならないことを意味する。しかし女性の乳房は、その寸法に非常に大きなばらつきがある部位である。その結果、乳房体積が大きい患者に対しては局所コイルシステムの充填率が高いのに、乳房体積が小さい患者に対しては同じ局所コイルシステムの充填率は悪くなる、ということになる。この充填率、ひいては、局所コイルシステムの各個別コイルまでの組織の距離は、実現可能なSNRに直接影響を及ぼすので、乳房体積が小さい患者の場合には画質が落ちてしまう。
【0004】
たとえば独国特許公報DE4434949C2から、女性乳房のMR検査(MR=核磁気共鳴)用の特別な局所コイルシステムのアンテナ配列体が公知である。しかしこのアンテナ配列体では、異なる乳房サイズに適応調整する問題について言及がないか、または当該問題は解決されていない。
【0005】
独国特許出願公開DE102005024325A1にも、女性乳房のMR検査用に特別に構成された、ベスト状の支持部材の形態の局所コイルシステムが記載されており、検査時には患者はこの局所コイルシステムを着用する。この局所コイルシステムは、女性の解剖学的構造に適合しなければならない。同文献では、乳房サイズが著しく異なっており適応調整が必要であることの問題に関しては、挿入される真空クッションにより乳房組織を安定化することにより、異なる乳房サイズに合わせて調整できることが記載されているだけである。しかし、比較的小さい乳房に合わせてアンテナの幾何学的構成を調整することは記載されていない。
【0006】
最後に、独国特許公報DE102007047020B4から公知となっている、磁気共鳴信号を伝送するための装置を有するMRTシステムは、複数の個別コイルを用いて核磁気共鳴検査の高周波信号を受信する局所コイルシステムと、別のパッシブな個別アンテナとを有し、当該パッシブな個別アンテナは、局所コイルの個別コイルに電磁結合されており、前記局所コイルシステムの個別コイルとパッシブの個別アンテナとは相互に結合されている。同文献に記載されたアンテナ配列体は、当該患者におけるSN比ゲインをベースとする物理的原理を具現化するものであるが、同文献でも、MRTマンモグラフィ検査分野において使用すること、特に、当該物理的原理と乳房固定用のクッションとを組み合わせることについては何ら言及がない。また、誘電率が高い材料を用いることについても何ら言及がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許公報DE4434949C2
【特許文献2】独国特許出願公開DE102005024325A1
【特許文献3】独国特許公報DE102007047020B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、検査対象の患者の乳房体積が異なることにより局所コイルシステムの充填容積が異なっても、局所コイルシステムのサイズの調整を行うことなく可能な限り最大限のSNRを実現するように、マンモグラフィ検査用のMRTシステムを構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、独立請求項の請求項1の特徴により解決される。従属請求項に本発明の有利な実施形態が記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】従来技術の乳房ホルダを備えたMRTシステムを示す図である。
【
図2】測定信号を結合するための高比誘電率の材料から成る挿入されたクッションも含めた乳房用の局所コイルシステムと、乳房ホルダとを備えたMRTシステムを示す図である。
【
図3】測定信号を結合するためのパッシブコイルを更に有する、挿入されたクッションも含めた乳房用の局所コイルシステムと、乳房ホルダとを備えたMRTシステムを示す図である。
【
図4】パッシブ増幅アンテナ構造体を備えた挿入されたクッションを含めた、局所コイルシステムを組み込んだ乳房ホルダを示す図である。
【
図5】パッシブ増幅アンテナ構造体の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述の課題の可能な解決手段は、容器形の両乳房コイルの充填されていない自由スペース内において、使用されるMR周波数において共振する1つまたは複数のパッシブのアンテナ構造体を、つまり、1つのアンテナ素子または複数のアンテナ素子から成るアンテナアレイ全体を、乳房組織に可能な限り近接するように位置決めすることである。このようにして、前記パッシブのアンテナ構造体は、さらに遠隔にある本来のアクティブアンテナ素子に誘導結合することができ、これにより、SN比の改善を実現することができる。というのも、自由振動するパッシブのアンテナ素子が、送信コイルにより生成された交番磁場(=B1磁場)を増幅する作用を有するからである。MRT技術を用いた乳房イメージングでは、種々のサイズの乳房を安定化するため、異なるサイズの複数のクッションを用いることが公知である。本発明ではこのようなクッションは、誘導結合型のパッシブのアンテナ素子と共にこのクッションに統合することができ、これにより、検査準備のための作業フローを適合する必要を無くすことができる。このパッシブのアンテナ素子はたとえば銅導体路から、または、良好な導電性を有する他の材料から形成することができ、この銅導体路または当該他の材料は、たとえばFR4支持材料等の支持材料に配置される。その際には送信中にパッシブな離調を行うために少数のキャパシタおよびインダクタンスと、逆並列ダイオード対と前記支持体に配置し、かつ、固定具を当該支持体に配置することができる。離調にパッシブのアンテナ素子を備えつけることにより生じるコストは比較的低い。というのも、能動電子デバイスやシース波トラップ装置は不要だからである。パッシブのアンテナ素子を安定化クッションに組み込むことより、さらに、パッシブなアンテナ素子を局所コイルシステムのアクティブな個別コイルに対して良好な再現性で位置決めすることができ、これにより、誘導結合の再現可能な最適化を実現できるという利点も奏される。
【0012】
また、個別コイルを用いる代わりに、少なくとも100の値の高い比誘電率を有する材料から、乳房安定化に用いられるクッションを製造することも可能である。このような材料もまた、局所コイルシステムのアクティブな個別コイルが見かけ上、乳房組織により近接するように当該アクティブな個別コイルを移動させ、これらのアクティブな個別コイルによって総体的に、測定対象の電磁波信号のSN比が改善されるように、測定磁場に生じる電磁波信号を増幅する作用を有する。SN比ゲインを最大限にするためには、前記材料は可能な限り低い誘電損失率を有さなければならない。
【0013】
このような本発明の挿入物を、乳房ホルダ内の自由スペースの充填のために用いると、上述のような手段が医療検査技師の既存の作業フローを阻害することはなくなるので、作業上の負担が増えることはない。
【0014】
したがって本願の発明者は、患者の少なくとも片方の乳房の3次元像を生成するための核磁気共鳴断層撮影システム(=MRTシステム)であって、以下の構成を有する核磁気共鳴断層撮影システムを提案する:
・均一磁場を生成するための装置。
・測定ボリューム内において少なくとも1つの磁場勾配を生成するためのアクティブな勾配磁場コイルのシステム。
・前記測定ボリューム内においてMR走査中に前記乳房を位置決めするための内部スペースを有する少なくとも1つの乳房ホルダ。
・磁気共鳴信号を受信するための、アンテナとして機能する少なくとも1つの個別コイルから成る少なくとも1つの局所コイルシステム。
・少なくとも1つのクッション。当該クッションは有利には、乳房と前記内部スペースの外面区切りとの間において当該内側スペースを充填することにより前記乳房を安定化するために用いられる。
・前記少なくとも1つの乳房ホルダは前記内側スペース内において、前記局所コイルシステムの少なくとも1つの個別コイルの磁気共鳴領域において電磁結合を形成する少なくとも1つのクッションを有する。
【0015】
マンモグラフィに用いられるMRTシステムを上述のような構成とすることにより、種々のサイズで乳房固定を行うための装置を実現することができ、これにより、検査対象の患者の解剖学的構造に依存することなく常に、乳房組織に対するアンテナ素子の位置決めが最適な状態で乳房の再現可能な成形を行えることを保証することができる。その上、乳房の再現可能な成形を実現できることにより、比較的長い時間間隔を置いて検査を複数回行って得られる複数の所見が同等なものとなり、実際の乳房組織における病変の位置検出が必要な場合には、これを容易化することができる。もちろん、放射線専門家が乳房の安定化を所望しない場合には、乳房が小さい場合にSN比を増大させるためだけに上述のようなクッションを用いて、作業フローの面倒さが若干増えるのを甘受することも可能である。
【0016】
有利には、本発明の一実施形態のMRTシステムは、前記少なくとも1つのクッションは、局所コイルシステムの少なくとも1つの個別コイルと誘導結合するように構成された少なくとも1つのパッシブなアンテナ素子を有するように構成することができる。この実施形態では、前記少なくとも1つのパッシブなアンテナ素子はたとえば、支持体上に設けられた銅導体路とすることができる。前記支持体は有利にはFR4支持体である。
【0017】
他の1つの有利な実施形態は、前記少なくとも1つのアンテナ素子に少なくとも1つのキャパシタと少なくとも1つのインダクタンスとを備え付けることができる。これと併用して、送信中にパッシブな離調を行うための逆並列ダイオード対を、および/または、ヒューズを設けることもできる。導体路とキャパシタとの組み合わせは有利には、MR周波数(核磁気共鳴周波数)で前記アンテナ構造体が共振し、これにより磁場増幅が最大になるように選定することができる。
【0018】
上述の実施形態に代えて択一的に、集中キャパシタを追加することなく自己共振するアンテナを用いることも可能である。測定対象の信号を結合するための同様のパッシブなアンテナはたとえば、上記にて挙げた刊行物DE102007047020B4に詳細に記載されているが、同刊行物はマンモグラフィシステムに関するものではない。
【0019】
局所コイルと、乳房組織により近接している共振器との本発明の結合の他の1つの択一的な実施形態は、前記少なくとも1つのクッションが比誘電率の高い材料を含むことにより実現することができる。その際に有利なのは、前記比誘電率の値を少なくとも100にすることである。乳房組織と局所コイルとの間の自由容積の詰め物にこのような材料を用いることにより、測定信号を結合するために巨視的なアンテナ構造体を用いる代わりに、分子領域の微視的なアンテナ構造体が用いられることになる。
【0020】
常に再現可能でありかつ一義的に規定された通りの結合状態と成形状態とを実現するためには、更に、乳房ホルダと前記少なくとも1つのクッションとが、当該クッションを当該乳房ホルダ内に一対一での位置決めのみを可能にする相補的な位置決め構造を、それぞれ有することを提案する。さらに、前記乳房ホルダは、複数の異なる乳房サイズに応じた複数の交換可能なクッションセットを含むこともできる。
【0021】
もちろん、1つの有利な実施形態では、前記アクティブな局所コイルシステムは複数の個別コイルを含むことができる。
【0022】
さらに、検査対象の1つの乳房ごとに、1つの局所コイルシステムを有する乳房ホルダを設けた方が良い。このような構成により、1回の検査で女性の両乳房を同時に検査することができる。しかし、たとえばそれ以前の診断結果が陽性であったため既に乳房切除が行われた場合には、局所コイルを1つだけ有する1つの乳房ホルダのみを用いることも、本発明の範囲内であることを述べておく。さらに、‐患者の両乳房の大きさが異なる場合‐これに応じてそれぞれ異なって配置されたパッシブなアンテナ素子をそれぞれ有する、乳房ホルダの両開口に、それぞれサイズが異なる2つのクッションを設けることも、本発明の範囲内である。
【0023】
さらに、患者を水平方向に寝かせるための、検査対象の各乳房に対してそれぞれ開口を有する患者台を設け、各開口に対してそれぞれ、局所コイルを有する乳房ホルダを設けることも有利である。
【0024】
総じて、MRTシステムの本発明の構成により、乳房体積が小さい患者の場合に、技術的に小さい手間で、かつ低コストで、SN比を改善することができる。その際には、アクティブなアンテナ素子をスライド可能に実現するために、摩耗のリスクのある面倒な機械的構造を設ける必要はない。すでに乳房安定化の機能を有するいわゆるクッション(=Breast Stabilization Cushion)も従来は使用されていたので、パッシブアンテナ構造体ないしは高比誘電率材料を組み込むことにより、MTRAの作業フローが変化することはなく、従来設けられていたクッションを本発明のクッションに簡単に交換することができ、これにより、局所コイルを既存の乳房ホルダに備え付けることができる。
【0025】
以下、図面を参照して有利な実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図面では、本発明を理解するために必要な構成のみを示している。
【実施例】
【0026】
以下、図面を参照して有利な実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。図面では、本発明を理解するために必要な構成のみを示している。
【0027】
図1は、MRTシステム1の概略的な縦断面図であり、このMRTシステム1では患者2は測定領域内の患者台3上に横たえられている。この測定領域は第1セットの磁気コイル4により画定されており、MR検査時にはこの第1セットの磁気コイル4によって均一磁場が形成される。勾配磁場を生成するためには、第2セットの磁気コイル5が設置されている。測定を支援するために、公知のように測定領域内においていわゆる局所コイルが設置されており、この局所コイルは通常、特定の関心箇所に配置される。マンモグラフィMR検査を行う本実施例では乳房ホルダ6が使用される。この乳房ホルダ6は、複数の個別コイル7から成る局所コイルシステムを包含し、この局所コイルシステムは、乳房領域からの測定信号を取得するために構成されている。図中の実施例では、患者2の乳房2.1は比較的大きく、前記局所コイルシステムを有する乳房ホルダ6を良好に充填するので、前記個別コイルはすでに乳房組織の近傍に来ており、これにより、測定信号の伝送を改善するための結合素子の追加は不要となる。また、破線により、乳房が小さくて乳房ホルダ6を充填できない場合の態様も示している。このような検査状況では、局所コイルシステムの個別コイル7と乳房組織との間に比較的大きな間隔が生じていることが明らかであり、この大きな間隔により、SN比が有意に悪くなる。
【0028】
それに対して
図2には、MRTシステム1の同様の検査状況であって、乳房2.1が若干小さい他の患者2の場合を示す。乳房2.1が小さくなっているので、乳房組織と局所コイルシステムの個別コイル7との間の距離は格段に大きくなり、これにより、追加的な措置を講じなければ、受信した測定信号のSN比が悪くなることが予測される。本発明ではその場合には、局所コイルシステムを組み込んだ乳房ホルダ6内に乳房を位置決めするために、高誘電率の材料から成るクッション8を用いる。これにより、乳房組織から送出された測定信号の、局所コイルシステムの個別コイル7への伝送が改善され、これにより、クッション8を用いずに測定を行う場合と比較して測定信号のSN比を改善することができる。
【0029】
図3に再度、
図1および
図2と同じMRTシステム1を示す。患者2の乳房2.1は、
図2と同様に小さい。乳房2.1が小さくなっているので、乳房組織と局所コイルシステムの個別コイル7との間の距離はここでも顕著に大きくなっており、これにより、追加的な措置を講じなければ、受信した測定信号のSN比が悪くなることが予測される。そのため本発明では、局所コイルシステムの個別コイル7を包含する乳房ホルダ6内にクッション8を入れ、本実施例ではこのクッション8はパッシブのアンテナ素子8.1を有している。これは、アクティブな前記個別コイル7との間に電磁結合を形成し、パッシブのアンテナ素子8.1は空間的に乳房2.1に近接しているので、伝送される測定信号のSN比が改善される。それと同時にクッション8は、乳房ホルダ6と乳房組織との間の空であったスペースを充填するので、乳房組織は安定化され、所望のように位置決めされる。
【0030】
念のため述べておくが、
図1〜3には更に、楔形の頭部サポートの形態の寝台補助手段を特定の参照符号無しで示しているが、これらは本発明の必須構成要素であると見なされるものではない。
【0031】
図4は、乳房ホルダ6の補足的な細部図であり、この乳房ホルダ6には、複数の個別コイル7を有する局所コイルが組み込まれており、当該乳房ホルダ6内には、当該乳房ホルダ6と比較して小さい乳房2.1が配置されている。本発明では、乳房ホルダ6の内壁と乳房2.1の乳房組織との間のスペースに、複数のパッシブなアンテナ素子8.1を組み込んだクッション8が設けられており、このパッシブなアンテナ素子8.1は前記複数の個別コイル7と誘導結合し、SN比を改善して、前記乳房組織から送出されたMR測定信号を個別コイル7へ伝送する。個別コイル7とパッシブなアンテナ素子8.1との誘導結合は矢印9により示している。本実施例では有利には、各アクティブアンテナ素子に対してパッシブなアンテナ素子が設けられていることにより、システム全体の総出力を最大限にしている。
【0032】
パッシブな離調を行うアンテナ素子8.1の‐回路技術的な‐構成の一例を、
図5に示す。この実施例では1つのアンテナ素子8.1は、4つの容量C1〜C4を環状に接続したものから成り、そのうちの1つの容量C4の両端はインダクタンスIを介して、パッシブな離調を行うための、相互に逆並列接続されたダイオードD1およびD2と直列接続されている。
【0033】
上述の有利な実施例を用いて本発明を詳細に図示および説明したが、本発明はここで開示した実施例に限定されるものではなく、当業者であればこの実施例から、本発明の範囲を逸脱することなく他の態様を導き出すことが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 MRTシステム
2 患者
2.1 乳房
3 患者台
4 磁気コイル
5 磁気コイル
6 乳房ホルダ
7 個別コイル
8 クッション
8.1 アンテナ素子
9 結合
C1〜C4 容量/キャパシタ
D1,D2 ダイオード
I インダクタンス