特許第6497952号(P6497952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6497952自己修復性と硬度を備えた硬化物の得られる組成物、並びにそれを硬化した皮膜を有する自己修復コートフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497952
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】自己修復性と硬度を備えた硬化物の得られる組成物、並びにそれを硬化した皮膜を有する自己修復コートフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20190401BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20190401BHJP
   C08K 5/3435 20060101ALI20190401BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20190401BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20190401BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20190401BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08L83/10
   C08K5/3435
   C08G18/42 069
   C09D175/06
   C09D7/65
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-19421(P2015-19421)
(22)【出願日】2015年2月3日
(65)【公開番号】特開2016-141753(P2016-141753A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 祐介
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−138671(JP,A)
【文献】 特開平06−207143(JP,A)
【文献】 特開2005−042001(JP,A)
【文献】 特開2010−260942(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/060260(WO,A1)
【文献】 米国特許第04657796(US,A)
【文献】 米国特許第05277944(US,A)
【文献】 特開2012−052057(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0056929(US,A1)
【文献】 特開2006−070118(JP,A)
【文献】 特開平07−126408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオールと、(B)ポリイソシアネートと、(C)少なくとも1種のヒンダードアミン系光安定剤と、(D)表面調整剤とを含有する組成物であって、
前記(A)ポリオールのOH基価が、150〜400mgKOH/gであり、
前記(A)ポリオールが、ポリカプロラクトントリオールであり、
前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤が、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートと、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物であり、かつ、
前記(D)表面調整剤が、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサンおよび水酸基末端ポリジメチルシリコーンからなる群から選択されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記(A)ポリオールのOH基価が、250〜350mgKOH/gであることを特徴とする請求項に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、さらに(E)フィラーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の組成物を硬化させた皮膜を有する自己修復コートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己修復性を有する材料を形成するための組成物に関するものであり、例えば、携帯電話やパーソナルコンピュータなどのモバイル機器の液晶ディスプレイや、自動車ボディなどの表面保護フィルムとして使用した場合に、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備えつつ、さらに耐UV性に優れた塗膜を形成できる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶パネルなどの光学部材や自動車のボディなどの表面保護フィルムとして、ハードコート処理が施されたプラスチックフィルムが用いられていた。一般的なハードコートでは、架橋密度を高めることにより塗膜の硬度を増大させるため、塗膜の表面を硬くすることができる。これにより、塗膜の表面の耐擦傷性が向上し、液晶ディスプレイの画面や自動車のボディなどの表面に傷を付きにくくすることができる。しかしながら、表面に一旦小さな傷が付いてしまうと、その傷自体を元に戻すことは不可能である。そのため、このようなハードコートに代えて、自己修復性を有する材料の使用が検討されてきた。
【0003】
ここで、自己修復性を有する材料とは、架橋密度を低くすることにより塗膜にゴム弾性を付与させ、このゴム弾性による反発力を利用して表面に生じた小さな傷を経時で回復させる性質を有するものである。一方で、このような自己修復性を有する材料は、架橋密度の低下に伴い塗膜の硬度も小さくなるため、塗膜の表面に十分な塗膜硬度(耐擦傷性)を付与することが困難である。そのため、より耐擦傷性が向上した自己修復性を有する材料が求められている。
【0004】
そこで、自己修復性及び耐擦傷性を有する軟質樹脂層を形成するため、硬質樹脂フィルムあるいはシートの少なくとも一方の表面に、ポリイソシアネートとポリエステル系ポリオールとから得られたウレタン系樹脂を使用した軟質樹脂層が形成された透明プラスチック積層体が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、耐擦傷性に優れた自己修復性を有する材料を提供するために、ポリカーボネート系樹脂を主成分として含有する基材層並びにポリメチルメタクリレート系樹脂を主成分として含有する当該基材層の表面層及び裏面層とを有する基材シートと、当該基材シートの表面に積層されたポリウレタン系樹脂を主成分として含有する自己修復性を有する軟質樹脂層とを備える自己修復性フィルムが提案されている(特許文献2)。
【0006】
しかしながら、従来の自己修復性を有する材料をもってしても、依然として十分な塗膜硬度を備えた自己修復性を有する材料は得られていない。また、自己修復性を有する材料により形成された塗膜の表面に紫外線照射などによる外的負荷がかかると、塗膜硬度の低下をもたらし得ることから、十分な塗膜硬度に加えて、さらに耐UV性も示す自己修復性フィルムの提供も要求されている。そのため、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度を示すと共に、さらに耐UV性にも優れた塗膜の提供が望まれている。さらに、自己修復性を有する材料から得られるフィルムは、特に、光学部材の表面保護フィルムとしても使用されることから、高い全光線透過率を示すことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−195623号公報
【特許文献2】特開2013―144391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性にも優れた表面塗膜を形成できる組成物、並びにそれを硬化した皮膜であって、90%以上の高い全光線透過率を示す皮膜を有する自己修復コートフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、(A)ポリオールと、(B)ポリイソシアネートと、(C)少なくとも1種のヒンダードアミン系光安定剤とを含有する組成物であって、前記(A)ポリオールのOH基価が、150〜400mgKOH/gであり、前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤が、下記の一般式(1)
【化1】

(式中、
nは、1〜10の整数であり、
Rは、水素又はC〜Cアルキル基であり、
Aは、C〜Cアルキル基又は下記の一般式(2)
【化2】

で表されるピペリジル基であり、かつ
R’は、水素又はC〜Cアルキル基を表す)で表される化合物であることを特徴とする組成物である。
【0010】
上記態様では、組成物中に(A)150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールと、(C)一般式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン系光安定剤との両方を含有させることで、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性に優れた表面塗膜を形成できる組成物を得ることができる。したがって、基板上に当該脂組成物を塗布することにより、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性に優れた塗膜が形成される。また、上記組成物を硬化させた皮膜を有する自己修復コートフィルムは、90%以上の高い全光線透過率を示す。
【0011】
本発明の態様は、さらに(D)表面調整剤を含有する組成物である。
【0012】
本発明の態様は、前記(A)ポリオールが、ポリカプロラクトントリオールである組成物である。
【0013】
本発明の態様は、前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤として、式中、nが5〜8の整数であり、Rが、C〜Cアルキル基であり、かつR’が、C〜Cアルキル基である前記一般式(1)で表される化合物を、少なくとも1種含有する組成物である。
【0014】
本発明の態様は、前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤が、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートと、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物である組成物である。
【0015】
本発明の態様は、前記(A)ポリオールのOH基価が、250〜350mgKOH/gである組成物である。
【0016】
本発明の態様は、さらに(E)フィラーを含有する組成物である。
【0017】
本発明の態様は、上記組成物を硬化させた皮膜を有する自己修復コートフィルムである。このような自己修復コートフィルムとして、例えば、PET基板上に上記組成物が塗膜形成された自己修復コートフィルム等が挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、組成物中に、(A)150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールと、(C)一般式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン系光安定剤との両方を含有させることで、基板上に、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性にも優れた塗膜を形成することができる。また、上記組成物を硬化させた皮膜を有するフィルムは、90%以上の高い全光線透過率を示す。したがって、例えば、本発明の組成物から形成された塗膜を、液晶ディスプレイや自動車ボディなどの保護膜として用いると、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性にも優れた、高い全光線透過率を示す表面保護フィルムを得ることができる。
【0019】
本発明の態様によれば、組成物中に、さらに(D)表面調整剤を含有させることにより、基板上に形成される塗膜の硬度をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明の態様によれば、前記(A)250〜350mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールを使用することにより、基板上に形成される塗膜の硬度をさらに向上させることができる。
【0021】
本発明の態様によれば、組成物中に、さらに(E)フィラーを含有させることにより、基板上に形成される塗膜の硬度をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の組成物中に含まれる各成分について説明する。本発明の組成物は、(A)150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールと、(B)ポリイソシアネートと、(C)一般式(1)で表されるヒンダードアミン系光安定剤少なくとも1種を含有する組成物である。
【0023】
(A)ポリオール
本発明の組成物は、塗膜形成のための主成分の1つとして、150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールを含有する。ポリオールは、ポリイソシアネートと反応させてポリウレタンを得るための主原料であり、このようなポリオール類として、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。本発明におけるポリオールの種類は、150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有していれば特に限定されるものではないが、塗膜硬度と自己修復性とのバランスの観点から、ポリエステルポリオールが好ましく、また、ポリエステルポリオールの中でも、得られるコーティング層に高い反発弾性や基板との良好な密着性を付与する観点から、環状エステルを開環して得られるポリカプロラクトンポリオールが特に好ましい。なお、これらのポリオールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、2官能性のポリカプロラクトンジオール、3官能性のポリカプロラクトントリオール及び4官能性のポリカプロラクトンテトラオールなどが挙げられるが、塗膜硬度と自己修復性とのバランスの観点から、ポリカプロラクトントリオールが好ましい。これらのポリカプロラクトンポリオールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
本発明の組成物中に含まれる前記(A)ポリオールは、150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有する。ポリオールのOH基価が150mgKOH/g未満であると、十分な塗膜硬度を付与させることができず、一方で、ポリオールのOH基価が400mgKOH/gより大きいと、塗膜に自己修復性を付与させることができなくなる。また、ポリオールのOH基価の下限値は、塗膜により高い硬度を付与させる観点から200が好ましく、250が特にこのましい。一方、ポリオールのOH基価の上限値は、自己修復性の観点から380が好ましく、350が特に好ましい。
【0026】
また、前記(A)ポリオールの質量平均分子量は、塗膜硬度と自己修復性との特性バランスの観点から300〜1000が好ましく、500〜900であることが特に好ましい。これらの分子量の異なるポリオールを2種以上組み合わせて使用することも可能である。
【0027】
150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有する前記(A)ポリオールとして市販されているものには、例えば、PLACCEL 305(ポリカプロラクトントリオール:株式会社ダイセル製、OH基価=305mgKOH/g)、PLACCEL 308(ポリカプロラクトントリオール:株式会社ダイセル製、OH基価=195mgKOH/g)、PLACCEL 309(ポリカプロラクトントリオール:株式会社ダイセル製、OH基価=186mgKOH/g)等を挙げることができる。これらのポリオールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(B)ポリイソシアネート
本発明の組成物は、塗膜形成のためのもう1つの主成分としてポリイソシアネートを含有し、当該ポリイソシアネートは、ポリオールと反応させてポリウレタンを得るための主原料である。前記ポリイソシアネートは特に限定されず、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート及び脂環式ポリイソシアネート等を挙げることができる。具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(2,2’−MDI、2,4’−MDI、4,4’−MDI)、カルボジイミド変性MDI(変性MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネ−ト(2,2’−TDI、2,4’−TDI、4,4’−TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート若しくはフェニレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ダイマー酸ジイソシアネート若しくはリジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、又はイソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、ジフェニルメタンジイソシアネートの水素化物(H12MDI)、キシリレンジイソシアネートの水素化物(HXDI)、シクロヘキサンジイソシアネート若しくはジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート、又は、これらのポリイソシアネートのアダクト体、ビウレット体若しくはイソシアヌレート体などが挙げられ、これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記(B)ポリイソシアネートとして市販品されているものには、例えば、タケネート D−170N(HDIのイソシアヌレート体:三井化学株式会社製)、ミリオネート MT(4,4’−MDI:日本ポリウレタン工業株式会社製)、コスモネート LL(カルボジイミド変性MDI:三井化学ポリウレタン株式会社製)等を挙げることができる。これらのポリイソシアネートは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記(B)ポリイソシアネートの配合量は、特に限定されないが、前記(A)ポリオール化合物のヒドロキシ基(OH)に対する前記(B)ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)の当量比(NCO/OH)が、例えば、0.6〜2.5となる量が好ましく、0.9〜1.5となる量がより好ましい。前記当量比が0.6より低すぎると、硬化不良や架橋密度の低下により、耐熱性に劣る材料となる場合があり、一方、前記当量比が高すぎると、塗膜が硬くなりすぎてしまい自己修復性が得られない場合がある。そのため、前記(B)ポリイソシアネートの含有量は、好ましくは、前記(A)ポリオール100質量部に対し50〜200質量部であり、より好ましくは65〜150質量部である。
【0031】
(C)ヒンダードアミン系光安定剤
ヒンダードアミン系光安定剤は、基板上に形成される塗膜にUV耐性を付与させるために添加するものであり、以下の一般式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン系光安定剤が使用される。当該ヒンダードアミン系光安定剤は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
【化3】

(式中、
nは、1〜10の整数であり、
Rは、水素又はC〜Cアルキル基であり、
Aは、C〜Cアルキル基又は下記の一般式(2)
【化4】

で表されるピペリジル基であり、かつ
R’は、水素又はC〜Cアルキル基を表す。)
【0033】
上記の一般式(1)において、R及びR’で表されるC〜Cアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0034】
また、基板上に形成される塗膜のUV耐性をより向上させる観点から、上記一般式(1)において、nが5〜8の整数であり、RがC〜Cアルキル基であり、かつR’がC〜Cアルキル基で表される構造を有するヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。このような構造を有するヒンダードアミン系光安定剤として、例えば、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートやメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート等が挙げられ、これらの混合物の使用が特に好ましい。
【0035】
前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、例えば、JF−95(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート:城北化学工業株式会社製)、JF−90(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:城北化学工業株式会社製)、Kemistab 29(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物:ケミプロ化成株式会社製)、TINUVIN 292(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物:BASFジャパン社製)等を挙げることができる。これらのヒンダードアミン系光安定剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記(C)ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、特に限定されないが、その下限値は、例えば、前記(A)ポリオール100質量部に対し、UV耐性の観点から0.5質量部が好ましく、より好ましくは1質量部である。一方、その上限値は、例えば、前記(A)ポリオール100質量部に対し、全光線透過率の観点から10質量部が好ましく、より好ましくは5質量部である。
【0037】
また、本発明の組成物には、さらに、必要に応じて(D)表面調整剤や(E)フィラーなどを含ませることができる。
【0038】
(D)表面調整
表面調整剤は、塗膜の表面を滑らかにする作用を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコーン系、炭化水素系、アクリル系等が挙げられる。このような表面調整剤の中でも、塗膜の硬度をより向上させる観点から、シリコーン系の表面調整剤を使用することが好ましく、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリメチルアルキルシロキサン、ポリエーテル変性ポリメチルアルキルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、水酸基末端ポリジメチルシリコーン等が挙げられる。これらの表面調整剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記(D)表面調整剤の市販品としては、例えば、Silmer OH Di−10(水酸基末端ポリジメチルシリコーン:SILTECH社製)、Silmer OH Di−50(水酸基末端ポリジメチルシリコーン:SILTECH社製)、BYK−306(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン:ビックケミー社製)、BYK−307(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン:ビックケミー社製)、BYK−310(ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン:ビックケミー社製)、BYK−330(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン:ビックケミー社製)等を挙げることができる。これらの表面調整剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
前記(D)表面調整剤の含有量は、特に限定されないが、前記(A)ポリオール100質量部に対し、塗膜硬度とヘイズとの特性バランスの観点から0.005〜5質量部が好ましく、より好ましくは、0.010〜1質量部である。
【0041】
(E)フィラー
フィラーは、塗膜の機械的強度を増大させる作用を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、無機フィラー、有機フィラー、表面有機化処理した無機フィラー等が挙げられる。このようなフィラーの中でも、塗膜硬度の向上と組成物中での分散安定性の観点から、表面有機化処理した無機フィラーを使用することが好ましく、例えば、メタクリル表面処理されたナノシリカ、ビニル表面処理されたナノシリカ、フェニル表面処理されたシリカなどが挙げられる。これらのフィラーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記ナノシリカを使用する場合、その平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、フィラーを組成物中により分散させる観点から、好ましくは、1nm〜200nmであり、より好ましくは5nm〜100nmである。
【0042】
前記(E)フィラーの市販品としては、例えば、YA010C−SM−1(メタクリル表面処理されたナノシリカ:株式会社アドマテックス社製)、YA010C−SV−1(ビニル表面処理されたナノシリカ:株式会社アドマテックス社製)、YA010C−SP−3(フェニル表面処理されたナノシリカ:株式会社アドマテックス社製)、YA050C−SM−1(メタクリル表面処理されたナノシリカ:株式会社アドマテックス社製)等を挙げることができる。これらのフィラーは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
前記(E)フィラーの含有量は、特に限定されないが、前記(A)ポリオール100質量部に対し、塗膜硬度と全光線透過率との特性バランスの観点から0.1〜200量部が好ましく、より好ましくは、1〜100質量部である。
【0044】
さらに、本発明の組成物には、上記成分の他に、必要に応じて、種々の添加成分、例えば、反応遅延剤、有機溶剤、各種添加剤などを適宜配合することができる。
【0045】
(F)反応遅延剤
反応遅延剤には、前記(A)ポリオールと前記(B)ポリイソシアネートとを反応させてポリウレタンを形成する際、反応時間を調整できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、リン酸エステル等の公知のものを使用することができる。反応遅延剤を用いる場合の配合量は、特に限定されるものではないが、前記(A)ポリオール100質量部に対し0.005〜1質量部が好ましい。
【0046】
有機溶剤は、組成物中の粘度や乾燥性を調節するために使用するものである。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、などのアルコール類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、石油エーテル、石油ナフサ等の石油系溶剤類、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等の酢酸エステル類等を挙げることができる。有機溶媒を用いる場合の配合量は、特に限定されるものではないが、前記(A)ポリオール100質量部に対し10〜30質量部が好ましい。
【0047】
各種添加剤には、例えば、シラン系、チタネート系、アルミナ系等のカップリング剤といった分散剤、三フッ化ホウ素−アミンコンプレックス、ジシアンジアミド(DICY)及びその誘導体、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル(DAMN)及びその誘導体、グアナミン及びその誘導体、アミンイミド(AI)並びにポリアミン等の潜在性硬化剤、アセチルアセナートZn及びアセチルアセナートCr等のアセチルアセトンの金属塩、エナミン、オクチル酸錫、第4級スルホニウム塩、トリフェニルホスフィン、イミダゾール、イミダゾリウム塩並びにトリエタノールアミンボレート等の熱硬化促進剤を挙げることができる。
【0048】
上記した本発明の組成物の製造方法は、特定の方法に限定されないが、例えば、上記各成分を所定割合で配合後、室温にて、三本ロール、ボールミル、サンドミル等の混練手段、またはスーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の攪拌手段により混練または混合して製造することができる。また、前記混練または混合の前に、必要に応じて、予備混練または予備混合してもよい。
【0049】
次に、上記した本発明の組成物の塗工方法について説明する。ここでは、PET(ポリエチレンテレフタレート)基板上に、本発明の組成物を塗工して、保護膜を形成する方法を例にとって説明する。なお、本発明の組成物は、PET基板以外にも、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂等の各種材料から得られる種々の形態の基材に塗工することができる。また、基板の厚さも、必要に応じて適宜設定することができる。
【0050】
上記のように製造した組成物を、PET基板上に、バーコーター、スクリーン印刷法、スプレーコート法等の方法を用いて所望の厚さに塗布し、60〜170℃程度の温度の乾燥炉等で15〜60分間程度加熱することにより乾燥硬化させ、PET基板上に目的とする自己修復性保護膜を形成させることができる。
【0051】
本発明の組成物は、液晶パネルなどの光学部材や、自動車のボディなどの表面保護フィルムとしての用途の他に、傷の修復が困難な宇宙・医療用の表面保護フィルムにも利用可能である。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0053】
実施例1〜5、比較例1〜6
下記表1に示す各成分を下記表1に示す配合割合にて配合し、3本ロールを用いて室温にて混合分散させて、実施例1〜6、比較例1〜6にて使用する組成物を調製した。そして、調製した組成物を後述する試験片作製工程を用いて基板上に塗工し、試験片を作成した。下記表1に示す各成分の配合量は、特に言及されない限り質量部を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
なお、表1中の各成分についての詳細は以下の通りである。
(A)ポリオール
・PLACCEL 312:株式会社ダイセル製、ポリカプロラクトントリオール(OH基価=135mgKOH/g)
・PLACCEL 308:株式会社ダイセル製、ポリカプロラクトントリオール(OH基価=195mgKOH/g)
・PLACCEL 305:株式会社ダイセル製、ポリカプロラクトントリオール(OH基価=305mgKOH/g)
・PLACCEL 303:株式会社ダイセル製、ポリカプロラクトントリオール(OH基価=540mgKOH/g)
(B)ポリイソシアネート
・タケネート D−170N:三井化学株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体
(C)光安定化剤
・Kemistab 29:ケミプロ化成株式会社製、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとメチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートとの混合物
・アデカスタブ LA−57:株式会社アデカ製、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)
・アデカスタブ LA−81:株式会社アデカ製、炭酸=ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−ウンデシルオキシピペリジン−4−イル)
・KEMISORB 113:ケミプロ化成株式会社製、2,4−ジ−tert−ペンチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート
(D)表面調整
・Silmer OH Di−10:SILTECH社製、水酸基末端ポリジメチルシリコーン
・BYK−306:ビックケミー社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン
(E)フィラー
・YA010C−SM−1:株式会社アドマテックス社製、メタクリル表面処理されたナノシリカ
(F)反応遅延剤
・JP−508:城北化学工業株式会社製、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート
【0056】
試験片作製工程
(1)塗膜硬度及び自己修復性を評価するための試験片
厚さ100μmのPET基板(帝人デュポンフィルム株式会社製、「テトロンG2」)上に実施例1〜6及び比較例1〜6のように調製した組成物をバーコーターでそれぞれ塗布し、次いで、乾燥炉内にて、100℃で30分間乾燥硬化させることにより、PET基板上に当該組成物の塗膜を形成し、試験片を作成した。塗膜の膜厚は100μmであった。
(2)全光線透過率を評価するための試験片
ガラス板(板厚2mm)上に実施例1〜6及び比較例1〜6のように調製した組成物をバーコーターでそれぞれ塗布し、次いで、乾燥炉内にて、100℃で30分間乾燥硬化させた後、ガラス基板上に形成されたフィルムを剥ぎ取り、試験片を作成した。フィルムの膜厚は100μmであった。
【0057】
評価
(1)塗膜硬度
塗膜が形成された試験片を、JIS K 5600 5−4に準拠して評価した。ここでの評価は、Bの数値が小さいほど硬く、BよりもHBの方が硬く、HBよりもHの方が硬く、Hの数値が大きいほど高硬度であることを示す。「H」以上の塗膜硬度を示す試験片を、優れた塗膜硬度を有するものとする。
(2)自己修復性
真鍮ブラシを1kg荷重で塗膜に押し当て、10往復移動させて、10分以内に目視で傷の有無を評価した。評価は下記の2段階で行なった。
「○」:傷が観察されない場合。
「×」:傷が観察される場合。
(3)耐UV性
塗膜が形成された試験片を、超促進耐候性試験機(アイスーパーUVテスター SUV−W151:岩崎電気株式会社製)内に導入し、50℃の温度で湿度50%(RH)の下、UVを100mWの照度で100時間照射し、その後、上記(1)による塗膜硬度試験により、試験片の塗膜硬度を評価した。上記(1)と同様、「H」以上の塗膜硬度を示す試験片を、耐UV性に優れているものとする。
(4)全光線透過率
得られたフィルムを、分光光度計(日立分光光度計U−4100:J株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定した。90%以上の全光線透過率を示すフィルムを、高い全光線透過率を示しているものとする。
【0058】
実施例1〜6及び比較例1〜6の評価結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、組成物中に、150〜400mgKOH/gの範囲内のOH基価を有するポリオールと、一般式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン系光安定剤との両方を含有させた実施例1〜6では、PET基板上の塗膜は、塗膜硬度及び耐UV性も双方「H」以上であり、さらには、自己修復性も「○」であった。また、実施例1〜6では、試験片としてのフィルムも、90%以上の高い全光線透過率を示した。したがって、実施例1〜6では、PET基板上に、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性に優れた塗膜を形成することができ、また、90%以上の高い全光線透過率を示すフィルムを得ることができた。
【0061】
さらに、実施例1〜5と実施例6とから、実施例1〜5では、塗膜硬度及び耐UV性も双方「2H」以上であることから、さらに表面調整剤が添加された組成物を使用することで、形成される塗膜の硬度をより向上させることができた。
【0062】
また、実施例1と実施例2とから、OH基価が305mgKOH/gのポリオールを使用した実施例1では、OH基価が195mgKOH/gのポリオールを使用した実施例2よりも塗膜硬度及び耐UV性の双方が高いことから、OH基価が、250〜350mgKOH/gであるポリオールを使用することで、形成される塗膜の硬度をより向上させることができた。
【0063】
さらに、実施例1と実施例5とから、実施例5では、実施例1よりも塗膜硬度及び耐UV性の双方が高いことから、さらにフィラーが添加された組成物を使用することで、形成される塗膜の硬度をより向上させることができた。
【0064】
一方、組成物中のポリオールとして、400mgKOH/gを超えるOH基価を有するポリオールが添加された比較例1では、PET基板上の塗膜は、塗膜硬度は「2H」であったものの、耐UV性は「HB」であり、自己修復性も「×」であった。したがって、比較例1では、PET基板上に、良好な自己修復性を備え、さらには耐UV性に優れた塗膜は形成されなかった。
【0065】
また、組成物中のポリオールとして、150mgKOH/g未満のOH基価を有するポリオールが添加された比較例2では、PET基板上の塗膜は、自己修復性は「○」であったものの、塗膜硬度及び耐UV性の双方とも「HB」であった。したがって、比較例2では、PET基板上に、優れた塗膜硬度を備え、さらには耐UV性に優れた塗膜は形成されなかった。
【0066】
また、組成物中にヒンダードアミン系光安定剤が添加されていない比較例3では、PET基板上の塗膜は、塗膜硬度は「3H」であったものの、耐UV性は「<6B」と極めて低い値であった。したがって、比較例3では、PET基板上に、耐UV性に優れた塗膜は形成されなかった。
【0067】
また、組成物中に一般式(1)とは異なる構造を有する他のヒンダードアミン系光安定剤が添加された比較例4、5では、PET基板上の塗膜は、塗膜硬度は「3H」であったものの、耐UV性は比較例4では「3B」であり、比較例5で「<6B」と、いずれも極めて低い値であった。したがって、比較例4、5では、PET基板上に、耐UV性に優れた塗膜は形成されなかった。
【0068】
また、同様に、組成物中に一般式(1)とは異なる構造を有する他のヒンダードアミン系光安定剤が添加された比較例6では、PET基板上の塗膜は、塗膜硬度は「3H」であり、耐UV性も「2H」であり、さらには、自己修復性も「○」であったものの、試験片としてのフィルムでは、全光線透過率が83%であり、実施例1〜6及び比較例1〜5と比して明らかに低い全光線透過率を示した。したがって、比較例6では、90%以上の高い全光線透過率を示すフィルムを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の組成物は、良好な自己修復性と優れた塗膜硬度の双方を備え、さらには耐UV性に優れた塗膜を形成できると共に、90%以上の高い全光線透過率を示すフィルムを形成することもできるのであり、例えば、液晶ディスプレイや自動車ボディなどの保護膜、特に光学部材の表面保護膜での利用価値が高い。