(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乗員拘束用のウェビングの基端が係止され、巻取方向へ回転されることで前記ウェビングが層状に巻き取られて格納され、格納された前記ウェビングが引き出されることで引出方向へ回転される巻取軸と、
前記ウェビングに設けられたタングと車体に固定されたバックルとの係合及び係合解除を検出する着脱検出手段と、
所定の方向へ回転される出力軸を備え、供給される駆動電圧に応じて前記出力軸を回転させるモータと、
前記モータの出力軸の回転を前記巻取軸に伝達して前記巻取軸を前記巻取方向へ回転させる伝達手段と、
前記モータの駆動電流を検出する電流検出手段と、
前記着脱検出手段により係合解除が検出された後に、前記モータの前記出力軸を回転させて巻取トルクが予め設定された第1のトルクに達しない範囲内で前記巻取軸を回転させ、前記ウェビングの全量が前記巻取軸に巻き取られる時間に対応する時間が経過した後に前記出力軸の回転を停止させる事前動作を実行し、前記事前動作を実行した後、前記駆動電圧を供給して前記モータの出力軸を回転させて前記第1のトルクよりも高い巻取トルクが得られるように前記巻取軸を回転させ、前記電流検出手段で検出された駆動電流が予め定めた制限値に達した場合に、前記出力軸の回転を停止させ、かつ前記出力軸の回転開始から回転停止までの時間を計測する確認動作を実行し、前記確認動作を、計測された計測時間が前記巻取軸に前記ウェビングの全量を巻き取った状態で前記出力軸を回転させた場合に回転開始から停止までの時間に対応する判定時間以下となるまで、所定の時間間隔で繰り返すように制御し、前記計測時間が前記判定時間以下となった場合に、前記確認動作を終了させる制御手段と、
を含むウェビング巻取装置。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係るシートベルト装置10を示す。シートベルト装置10は、乗用車などの車両12に用いられる。なお、以下の説明において、車両12の前後方向の前方を矢印FR、上下方向の上方を矢印UP、及び車幅方向の内方を矢印INで示す。
【0025】
(シートベルト装置の構成の一例)
シートベルト装置10は、長尺帯状のウェビング14を長手方向の一端側である基端側から巻き取って格納するウェビング巻取装置16を備える。シートベルト装置10は、ウェビング巻取装置16が、例えば、車両12のセンターピラー18の下端部に配置されて図示しない車体に固定される。また、シートベルト装置10は、所謂3点式となっており、ウェビング巻取装置16から引き出されているウェビング14が、例えば、センターピラー18の上部に取り付けられたスリップジョイント20に巻き掛けられて折り返されている。さらに、シートベルト装置10は、ウェビング14が、スリップジョイント20で折り返された先端部が、センターピラー18の下端部近傍に固定されたアンカープレート22に係止されている。
【0026】
シートベルト装置10は、スリップジョイント20とアンカープレート22との間のウェビング14に、ウェビング14の長手方向に沿って摺動可能とされたタング24が設けられている。また、シートベルト装置10は、バックル装置26を備える。バックル装置26は、車両12に乗車した乗員が着座する座席(例えば前席)28のウェビング巻取装置16と反対側に配置される。バックル装置26は、一端にバックル30が取り付けられたアーム32を備え、例えば、バックル30が座席28のシート28Aの上面近傍の予め定められた位置となるようにアーム32の他端側が車体に固定されている。なお、シートベルト装置10は、バックル装置26に限らず、バックル30を座席28のシート28Aの上面より上方のタング24との着脱位置と、シート28Aの上面によりも下方の格納位置との間を移動させるリフトアップ機構を備えたバックル装置が用いられても良い。
【0027】
シートベルト装置10は、座席28に着座した乗員が、タング24を把持してウェビング巻取装置16からウェビング14を引き出し、タング24をバックル30に係合させることで、ウェビング14による乗員の拘束が可能なウェビング装着状態となる。なお、シートベルト装置10は、車両12の前席である運転席及び助手席の各々に設けられ、また、後席には着座可能な乗員分が設けられているが、以下の説明では、運転席に設けられたシートベルト装置10を例に説明する。また、シートベルト装置10の基本的構成は、公知の構成が適用され。
【0028】
図2及び
図3には、本実施の形態に係るウェビング巻取装置16の一例を示している。
図2に示すように、ウェビング巻取装置16は、図示しない車体に固定されるフレーム34を備えている。フレーム34は、断面U字形状に形成され、車体に固定された状態で各々の面が車両前後方向に向けられ、互いに対向された脚板36、38を備える。脚板36、38の間には、巻取軸とされるスプール40が配置されている。本実施の形態においてスプールは、巻取軸の一例として機能する。スプール40は、略円筒形状に形成され、脚板36、38の間に回転自在となるように掛け渡されている。
【0029】
スプール40には、外周部に長尺帯状のウェビング14の長手方向の一端側となる基端部が係止されている。スプール40は、軸線を軸に一方向(例えば、
図2の矢印A方向)に回転されることでウェビング14が層状に巻き取られ、巻き取られたウェビング14が基端側と反対側の端部側へ引かれることで、他方向(一方向と反対方向、
図2の矢印B方向)へ回転される。以下の説明では、一例として矢印A方向を、ウェビング14の巻取方向とし、矢印B方向をウェビング14の引出方向という。
【0030】
スプール40には、軸心部に、長手方向がスプール40の軸線方向に沿う棒状のトーションシャフト(図示省略)が設けられている。トーションシャフトは、脚板38の端部近傍でスプール40に対して相対回転不能な状態で繋がり、スプール40と一体的に回転する公知の構成が適用されている。
【0031】
脚板36には、脚板38と反対側の面に、ロック機構42のハウジング44が取り付けられている。ウェビング巻取装置16では、ロック機構42が車両急減速時にウェビング14が引き出されるのを規制するロック手段の一例として機能する。前記したトーションシャフトは、ハウジング44に回転自在となるように直接又は間接的に支持されている。ハウジング44の内部には、車両が急減速状態になった場合に作動し、作動することでトーションシャフトの脚板36側の端部が引出方向へ回転するのを規制する所謂「VSIR機構」を構成する各種部品や、トーションシャフトが急激に引出方向へ回転することで作動し、作動することでトーションシャフトの脚板36側の端部が引出方向へ回転することを規制する所謂「WSIR機構」を構成する各種部品が収容されてロック機構42が形成されている。
【0032】
また、脚板36には、脚板38と反対側にプリテンショナ46が設けられている。ウェビング巻取装置16では、プリテンショナ46が車両急減速時における強制引張手段の一例として機能する。プリテンショナ46は、車両急減速状態で作動し、作動することで前記トーションシャフトの脚板36側の端部又はスプール40に対して巻取方向への回転力を付与して、スプール40を強制的に巻取方向へ回転させる。これにより、シートベルト装置10は、車両急減速時に乗員の体が車両前方へ移動してしまうのをウェビング14により阻止する。
【0033】
一方、ウェビング巻取装置16には、モータ48が設けられている。本実施の形態においてモータ48は、駆動手段の一例として機能する。ウェビング巻取装置16は、モータ48の駆動力によりスプール40を巻取方向へ回転させてウェビング14を巻き取るモータリトラクタとして機能する。ウェビング巻取装置16は、モータ48が、例えば、脚板36、38の間でスプール40の下側に配置される。モータ48は、回転軸である出力軸48Aの軸線方向がスプール40の軸線方向に沿うように配置され、出力軸48Aが一方の脚板38の下部に形成された透孔38Aから脚板36と反対側に露出されている。モータ48は、出力軸48Aが第1の方向及び第1の方向と反対方向である第2の方向に回転駆動される。以下の説明においては、一例として、第1の方向を矢印C方向とし、モータ48の出力軸48Aの矢印C方向へ回転を正転回転と言い、第2の方向を矢印D方向とし、モータ48の出力軸48Aの矢印D方向への回転を逆転回転と言う。
【0034】
(第1の伝達手段の構成の一例)
脚板38には、脚板36と反対側に、収容部材としてのギヤハウジング50が取り付けられる。ギヤハウジング50には、下側部分に、脚板38と反対側へ向けて開口された収容部としての下凹部52が形成されている。下凹部52には、下部に第1凹部54が形成され、上部に第2凹部56及び第3凹部58が形成されている。第1凹部54、第2凹部56、及び第3凹部58の各々は、軸線方向がモータ48の出力軸48Aの軸線方向に沿う円筒状に形成され、下凹部52は、第1凹部54、第2凹部56、及び第3凹部58が重ね合わせられるように連続されている。また、第1凹部54は、第2凹部56及び第3凹部58と比べて大径とされ、第2凹部56は、第3凹部58と比べて小径とされている。
【0035】
また、ギヤハウジング50には、上側部分に追加収容部として、脚板38側に向けて開口された円筒状の上凹部(図示省略)が形成されている。ギヤハウジング50は、この上凹部の軸線がスプール40の軸線と同軸的に配置される。また、この上凹部は、内径が下凹部52の第1凹部54の内径に比べて大径とされ、ギヤハウジング50では、この上凹部と下凹部52の第3凹部58とが連通されている(図示省略)。さらに、ギヤハウジング50には、下凹部52の底壁にモータ48の本体部分が固定され、第1凹部54の底壁にモータ48の出力軸48Aが挿通されて第1凹部54内に突出されている。
【0036】
ギヤハウジング50には、駆動力伝達機構60が収容される。本実施の形態において駆動力伝達機構60は、伝達手段の一例として機能し、また、第1の伝達手段の一例として機能する。第1凹部54内に突出されたモータ48の出力軸48Aには、外歯で平歯の出力ギヤ62が取り付けられている。また、下凹部52の第2凹部56には、二段シャフト64が、第2凹部56と同軸的にかつ底壁と一体的に設けられている。二段シャフト64には、二段ギヤ66が設けられ、二段ギヤ66が回転自在に支持される。二段ギヤ66には、各々が外歯で平歯の大径ギヤ68と、大径ギヤ68よりも小径の小径ギヤ70とが同軸的にかつ一体に形成され、第2凹部56内に収容されている。また、二段ギヤ66の大径ギヤ68は、出力ギヤ62よりも大径とされて、出力ギヤ62に歯合されている。なお、以下の説明において、ギヤの大径及び小径は、外径のみで無く歯数の相違も示し、大径のギヤは小径のギヤに比べて歯数が多いことを示す。
【0037】
下凹部52の第1凹部54には、荷重制限機構としてのオーバーロード開放機構72が設けられている。第1凹部54には、支持シャフト74が、第1凹部54と同軸とされて底壁に一体的に設けられている。支持シャフト74には、オーバーロード開放機構72を形成するリングホルダ76及びロータ78が回転自在に支持される。
【0038】
ロータ78は、外歯で平歯とされ、リングホルダ76は、軸心部が中空状とされ(図示省略)、外径がロータ78より大径とされて、かつ外歯で平歯のギヤとされている。ロータ78は、リングホルダ76と同軸とされて、軸線方向の一端側(ギヤハウジング50の第1凹部54側と反対側)がリングホルダ76の中空内部に挿入されている。
【0039】
リングホルダ76の中空内部の内周面とロータ78との間には、弾性部材により形成された図示しない所定数(例えば2つ)のリング部材が介在されている。リングホルダ76は、弾性部材により形成されたリング部材を介して一体回転可能とされ、このロータ78を介して支持シャフト74に回転自在に支持されている。また、リングホルダ76は、回転方向に所定以上の荷重(回転トルク)を受けることでリング部材から受ける弾性力(付勢力)に抗して、ロータ78に対して相対回転可能となっている。
【0040】
リングホルダ76は、二段ギヤ66の小径ギヤ70よりも大径とされ、この小径ギヤ70に歯合されている。モータ48の出力軸48Aの回転は、二段ギヤ66を介して、リングホルダ76に伝達される。
【0041】
ここで、オーバーロード開放機構72は、例えば、プリテンショナ46が動作するなどして、リングホルダ76とロータ78との間に、予め設定された以上の荷重による回転力が付与された際に、リングホルダ76とロータ78とが相対回転され、予め設定された以上の荷重による回転力の伝達が阻止される。これにより、ウェビング巻取装置16では、予め設定された荷重以上の回転力がモータ48等に伝達されてしまうのを阻止している。
【0042】
下凹部52の第3凹部58内には、外歯で平歯の中間ギヤ80が、第3凹部58と同軸とされて、回転自在に配置されている。この中間ギヤ80は、オーバーロード開放機構72のロータ78よりも大径とされ、ロータ78に歯合されている。
【0043】
ギヤハウジング50には、図示しない上凹部内にクラッチ機構82が配置されている。本実施の形態においてクラッチ機構82は、クラッチ手段の一例として機能する。クラッチ機構82は、クラッチギヤ84を備える。クラッチギヤ84は、内部が中空とされ、外歯で平歯とされている。クラッチギヤ84は、中間ギヤ80よりも大径とされ、ギヤハウジング50に形成された上凹部と下凹部52の第3凹部58との連通部分で、中間ギヤ80に歯合されている。従って、クラッチギヤ84は、モータ48が作動されて出力軸48Aが正転回転(矢印C方向への回転)されると、出力軸48Aの回転力(駆動力)が、出力ギヤ62、二段ギヤ66、オーバーロード開放機構72(リングホルダ76とロータ78)、及び中間ギヤ80を介して減速されて伝達され、ウェビング14の巻取方向へ回転される。
【0044】
クラッチギヤ84には、中空内部に、クラッチ部材としての所定数(例えば2つ)のロックレバー(図示省略)が付勢された状態で回動可能に支持されている。また、クラッチギヤ84には、軸心部にラチェットギヤ86が同軸的に配置されている。ラチェットギヤ86は、前記したトーションシャフトの脚板38側の端部を介して、スプール40に同軸的に、かつ相対回転不能な状態で連結されている。
【0045】
ラチェットギヤ86は、外周部全体に、外歯のラチェット歯86Aが形成され、ラチェット歯86Aが、クラッチギヤ84の中空内部に配置される。なお、脚板38とクラッチギヤ84との間には、略円盤状のクラッチカバー88が配置される。クラッチカバー88は、軸心部をラチェットギヤ86が貫通した状態でギヤハウジング50の上凹部の開口を閉じるように取り付けられる。
【0046】
クラッチ機構82は、モータ48の出力軸48Aの正転回転によりクラッチギヤ84が巻取方向へ回転されると、クラッチギヤ84の内部の図示しないロックバーの各々が、付勢力に抗して回動されてラチェット歯86Aに噛み合う。これによりクラッチ機構82は、クラッチギヤ84が巻取方向へ回転されることで、クラッチギヤ84とラチェットギヤ86とが一体回転し、スプール40を巻取方向へ回転させる。
【0047】
また、クラッチ機構82は、ウェビング14が引かれることで、スプール40が引出方向へ回転されると、スプール40の引出方向への回転により、ラチェットギヤ86が引出方向へ回転される。クラッチ機構82では、ラチェットギヤ86の引出方向への回転に対して、クラッチギヤ84の内部のロックバーがラチェット歯86Aと非係合状態となることで、クラッチギヤ84とラチェットギヤ86とが相対回転する。これにより、スプール40の引出方向への回転がクラッチギヤ84を介して、駆動力伝達機構60等へ伝達されるのが防止される。
【0048】
さらに、クラッチ機構82は、モータ48の出力軸48Aが逆転回転されることで、クラッチギヤ84が引出方向へ回転され、クラッチギヤ84の内部のロックバーとラチェット歯86Aとの係合状態が確実に解除される。これにより、クラッチ機構82を設けたウェビング巻取装置16では、プリテンショナ46等が作動されて、スプール40が巻取方向へ強制的に回転された後、モータ48の出力軸48Aを逆転回転させることで、ウェビング14の引き出しが可能となるようにしている。
【0049】
(第2の伝達手段の構成の一例)
一方、ウェビング巻取装置16には、ギヤハウジング50の脚板38と反対側に、ギヤハウジング90が取り付けられている。ラチェットギヤ86は、回転軸86Bが、ギヤハウジング50の上凹部の底壁に形成された貫通孔50Aから、脚板38と反対側へ突出される。また、オーバーロード開放機構72のリングホルダ76には、軸心部に貫通孔76Aが形成されており、この貫通孔76Aにシャフトなどを挿入することで、ロータ78と一体に回転するように連結される。なお、以下の説明においては、ラチェットギヤ86(スプール40)の軸線をCL
1として示し、ロータ78の軸線をCL
2として示す。また、ギヤハウジング50とギヤハウジング90との間には、例えば、図示しないシートが介在されても良い。
【0050】
図3には、ギヤハウジング90内に収容される駆動力伝達機構100の一例を示している。本実施の形態において駆動力伝達機構100は、伝達手段の一例として機能し、また、第2の伝達手段の一例として機能する。なお、
図3では、ギヤハウジング90をギヤハウジング50側から見た状態を示しており、
図3紙面手前右側がギヤハウジング50及び脚板38側(
図3では、何れも図示を省略)となっており、
図3の説明では、この方向をギヤハウジング50側又は脚板38側として説明する。
【0051】
ギヤハウジング90には、ギヤハウジング50側の面に第4凹部102、第5凹部104、及び第6凹部106が形成されている。第4凹部102は、ギヤハウジング90の上部側に略円筒状に形成され、第5凹部104は、ギヤハウジング90の下部側に、上部側が第4凹部102に重なる略円筒状に形成されて、第4凹部102と連続されている。また、第6凹部106は、ギヤハウジング90の下部側に、一部が第5凹部104に重なる略円筒状に形成されて、第5凹部104と連続されている。ギヤハウジング90は、第4凹部102の軸心が軸線CL
1に同軸的とされ、第6凹部106の軸心が軸線CL
2に同軸的とされるようにギヤハウジング50に取り付けられる。
【0052】
ギヤハウジング90には、第4凹部102の底壁に第4凹部102と同軸的にかつ底壁と一体的に支持シャフト108が形成されている。第4凹部102には、スプールギヤ110が収容される。スプールギヤ110は、有底円筒状に形成され、開口側が第4凹部102の底壁側へ向けられて、支持シャフト108に回転自在に支持されている。
【0053】
スプールギヤ110は、外歯の平歯が形成されている。また、スプールギヤ110には、内部に渦巻きばねなどを用いた巻取ばね112が配置されている。巻取ばね112は、付勢部材の一例として機能する。巻取ばね112は、一端がスプールギヤ110の内周面に係止され、他端が、例えば第4凹部102の支持シャフト108に回転可能に支持された図示しないアダプタに係止され、このアダプタに対してスプールギヤ110を巻取方向(
図3の矢印A方向)へ付勢する。このアダプタは、例えば巻取ばね112の付勢力では、支持シャフト108に対して相対回転が阻止されるが、巻取ばね112の付勢力より強い回転力が付与されることで、支持シャフト108に対して巻取方向及び引出方向へ相対回転可能となる。
【0054】
スプールギヤ110には、軸心部に回転軸114が一体的に形成されている。回転軸114は、スプールギヤ110からギヤハウジング50へ向けて突出されている。スプールギヤ110は、回転軸114が、ラチェットギヤ86の回転軸86B(
図2参照)に連結される。これにより、スプールギヤ110は、巻取ばね112の付勢力により、ラチェットギヤ86及びスプール40と一体で巻取方向へ回転される。
【0055】
ここで、巻取ばね112の付勢力は、乗員がウェビング14を装着したときに、ウェビング14に弛みが生じない程度の弱い付勢力とされている。すなわち、乗員がウェビング14を装着した状態で、ウェビング14に弛みを生じさせず、かつ、乗員に締め付け感を生じさせない程度の非圧迫性が得られる付勢力とされている。このような巻取ばね112の付勢力は、例えば、シートベルト装置10を装着した人の官能的評価に基づいて定められている。
【0056】
ギヤハウジング90には、第6凹部106の底壁に、第6凹部106と同軸的にかつ底壁と一体的に支持シャフト116が形成されている。第6凹部106には、外歯の平歯車とされたアイドルギヤ118が収容される。アイドルギヤ118は、第6凹部106の支持シャフト116に回転自在に支持されている。アイドルギヤ118には、軸心部に回転軸120が一体的に設けられ、この回転軸120が、リングホルダ76の貫通孔76Aに挿入され、ロータ78(何れも
図3参照)と一体回転するように連結される。これにより、アイドルギヤ118は、モータ48が作動して正転回転(
図2の矢印C方向回転)することで、矢印F方向へ回転され、モータ48が作動して逆転回転(
図2の矢印D方向回転)することで、矢印E方向へ回転される。
【0057】
一方、駆動力伝達機構100は、クラッチ機構122を備える。ギヤハウジング90には、第5凹部104内にクラッチ機構122が収容される。クラッチ機構122は、クラッチ手段の一例として機能する。クラッチ機構122は、ベース部124、ロータ126、クラッチギヤ128、及びクラッチスプリング130を備え、遠心滑りクラッチとして機能する。
【0058】
ギヤハウジング90には、第5凹部104の底壁に支持シャフト132が設けられている。支持シャフト132は、第5凹部104の軸心部からギヤハウジング50(
図2参照)へ向けて一体的に突設されている。
【0059】
ベース部124には、円盤状のベース板134が設けられている。ベース板134は、ギヤハウジング90の第5凹部104に形成された支持シャフト132に回転自在に支持される。ベース板134には、軸心部に支軸136が形成され、支軸136と同軸的に略C字形状の側壁138が形成されている。ベース板134は、支軸136及び側壁138が、ギヤハウジング90と反対方向へ向けて突設されている。更に、ベース板134には、周縁部から径方向の外方へ向けて突出されて矩形形状の延設部140が対で形成されている。延設部140は、先端部がベース板134と同軸的に円弧状とされ、この先端部からギヤハウジング90へ向けて突起部140Aが突出されて形成されている。
【0060】
ロータ126は、有底円筒状に形成されて、開口側がベース板134へ向けられ、ベース板134と同軸的に配置される。ロータ126は、ベース板134に向けられた開口内にベース板134の側壁138が嵌め込まれてベース板134と一体的に回転可能となっている。ロータ126は、軸方向の一端側が外歯の平歯が形成されたギヤ142とされ、他端側が非ギヤ部144とされ、非ギヤ部144がベース板134側となるように配置される。このロータ126は、ギヤ142がアイドルギヤ118に歯合され、モータ48(
図2参照)が作動することで、モータ48の回転力により回転される。
【0061】
クラッチギヤ128は、円筒状に形成され、外周部に外歯の平歯が形成されている。クラッチギヤ128は、内径がロータ126の非ギヤ部144の外径よりも大径とされ、内周面が非ギヤ部144に対向されて、ロータ126と同軸的に、かつ相対回転可能に配置されている。
【0062】
クラッチギヤ128は、スプールギヤ110に噛み合わせられる。また、クラッチギヤ128は、内径がロータ126の非ギヤ部144の外径より大径とされることで、ロータ126との間に空隙が形成され、この空隙内に、例えば、捩りコイルばねなどを用いたクラッチスプリング130が配置されている。クラッチスプリング130は、非伸縮状態である自然状態では、外径がクラッチギヤ128の内径より小径とされ、通常状態では、クラッチギヤ128に対して相対回転可能となっている。
【0063】
ベース部124には、ベース板134とロータ126との間に、レバー146及びリターンスプリング148が設けられている。レバー146は、円筒状の軸受部150、軸受部150の外周部から径方向の外方へ突出された連結部152、154が対で形成されている。また、連結部152、154の各々には、同一方向へ向けて突出された連結突起156が形成されている。レバー146は、連結部152、154の連結突起156がベース板134に向けられた状態で、軸受部150に、ベース板134の支軸136が挿入され、ベース板134に対して相対回転可能に支持される。
【0064】
ベース板134には、レバー146の連結部152、154の各々の連結突起156に対応して、一対の長孔158が形成されている。一対の長孔158は、支軸136を挟んで対で設けられ、各々の長軸が支軸136を中心とする円弧状とされ、ベース板134に貫通孔として形成されている。レバー146は、連結部152、154の連結突起156の各々が、ベース板134の長孔158に挿入され、ベース板134に対する相対回転可能な範囲が制限されている。
【0065】
リターンスプリング148は、例えばコイルばねなどが用いられ、一端がレバー146の連結部152に係止されている。また、リターンスプリング148は、他端がベース板134に形成されている側壁138に係止されている。これにより、リターンスプリング148は、ベース板134に対してレバー146を、矢印H方向へ付勢する。これにより、レバー146は、リターンスプリング148の付勢力により連結突起156が長孔158の一端側となるようにベース板134に保持される。
【0066】
また、レバー146には、連結部154に、係合凹部154Aが形成されている。前記したクラッチスプリング130は、両端が径方向の内方側へ向けられて折り曲げられており、一端が、レバー146の連結部154に形成された係合凹部154Aに係止され、他端がロータ126の非ギヤ部144に形成された図示しない係合凹部に係止されている。
【0067】
これにより、クラッチスプリング130は、レバー146が、リターンスプリング148の付勢力に抗して、ベース板134に対して矢印G方向へ回動することで拡径される。クラッチスプリング130は、拡径することでクラッチギヤ128の内周面に圧接して、クラッチギヤ128の内周面との間に生じる摩擦力により連結して一体回転する。
【0068】
ロータ126は、クラッチスプリング130が摩擦力によりクラッチギヤ128と一体的に連結して、クラッチギヤ128と一体回転可能となる。また、ロータ126及びクラッチギヤ128は、クラッチスプリング130とクラッチギヤ128との間の摩擦力を超える回転力が付与されることで相対回転が生じる。さらに、ロータ126は、クラッチスプリング130が、縮径することで、クラッチギヤ128に対して相対回転可能となる。
【0069】
一方、クラッチ機構122は、ギヤハウジング90とベース板134との間に、円形のスペーサ160が配置され、スペーサ160とベース板134との間に、一対のウエイト162が配置されている。スペーサ160には、軸心部に円筒状の軸部160Aが形成され、軸部160Aに、支持シャフト132が挿通されている。また、スペーサ160には、軸部160Aの周囲に、ベース板134に形成された一対の長孔158の各々に対応する有底の逃がし溝160Bが対で形成されている。逃がし溝160Bの各々は、ベース板134の長孔158と同径の円弧状に形成され、ベース板134の長孔158から突出するレバー146の連結突起156の先端部が入り込む。レバー146及びスペーサ160は、逃がし溝160Bに連結突起156の先端部が入り込むことで、互いに緩衝するのが防止される。
【0070】
ウエイト162の各々は、外形が太幅の帯板状で長手方向が略円弧状とされ、同等の重量となるように形成されて、スペーサ160の軸部160Aを囲うように配置される。また、ウエイト162各々には、長手方向の一端側に軸受孔164が形成されている。ベース板134には、ギヤハウジング90側の面に、軸心部を挟んで対となる外周部近傍の所定位置に図示しない支軸が形成されている。ウエイト162の各々は、軸受孔164Bにベース板134の支軸が挿入されることで、ベース板134に、軸受孔164を軸にして回動可能に支持される。
【0071】
また、ウエイト162の各々には、長手方向の他端側に、略U字形状に形成された係合爪166が形成されている。ウエイト162の各々は、係合爪166の各々に、ベース板134の長孔158から突出するレバー146の連結突起156が、略U字形状の内部に挿入された状態で係合される。
【0072】
ここで、クラッチ機構122では、ロータ126が矢印G方向へ回転されると、ベース板134が矢印G方向へ回転される。ベース板134には、図示しない支軸を介してウエイト162の各々が支持されており、ウエイト162の各々は、ベース板134の回転に追従して回転する。このとき、ウエイト162の各々は、長手方向の一端側の軸受孔164Bで支持されていることで、遠心力により係合爪166側がベース板134の径方向の外方へ拡径するように回動する。このとき、ウエイト162の各々は、周縁部がベース板134の延設部140に形成されている突起部140Aに当接されて拡径が制限される。
【0073】
ウエイト162の各々は、係合爪166にレバー146の連結突起156が係合されており、ウエイト162が拡径するように回動することで、レバー146は、ウエイト162の拡径に追従して、ベース板134に対して矢印G方向へ回動する。レバー146には、クラッチスプリング130の一端側が係止されており、クラッチスプリング130は、レバー146の矢印G方向の回動に伴って、レバー146の連結部154に係止されている端部が矢印G方向へ回動されて拡径する。これにより、クラッチ機構122は、クラッチスプリング130がクラッチギヤ128の内周面に当接し、クラッチギヤ128がベース板134と一体的に矢印G方向へ回転する。
【0074】
クラッチギヤ128には、スプールギヤ110が歯合されており、クラッチギヤ128が矢印G方向へ回転することで、スプールギヤ110は、巻取ばね112の付勢力の不足が補われて、ウェビング14の巻取方向である矢印A方向へ回転する。すなわち、駆動力伝達機構100では、モータ48の出力軸48Aが逆転回転(
図2の矢印D方向)されることで、この回転力がスプールギヤ110に伝達されスプールギヤ110が巻取方向へ回転される。これにより、スプール40は、巻取方向へ回転してウェビング14を巻き取る(
図2参照。)。
【0075】
ここで、クラッチスプリング130は、クラッチギヤ128の内周面に接している状態で、スプール40の巻取トルクが予め設定したトルクに達することで、摩擦力に抗してクラッチギヤ128と相対回転する。従って、クラッチ機構122は、スプール40の巻取トルクを、クラッチギヤ128とクラッチスプリング130との間に生じる摩擦力により制限する。
【0076】
また、クラッチ機構122は、モータ48が停止してロータ126の回転が停止すると、ベース板134の回転が停止される。これにより、レバー146は、リターンスプリング148の付勢力により矢印H方向へ回動されて、このレバー146の回動に伴って、ウエイト162の各々が回動されて縮径される。
【0077】
クラッチスプリング130は、レバー146がリターンスプリング148の付勢力により矢印H方向へ回動することで、レバー146の連結部154に係止されている一端側が矢印H方向へ回動して縮径する。クラッチスプリング130は、縮径することで、クラッチギヤ128の内周面から離間する。これにより、クラッチ機構122は、ロータ126とクラッチギヤ128との係合状態が解除され、クラッチギヤ128がベース板134に対して相対回転可能となる。なお、クラッチ機構122は、ロータ126が矢印H方向へ回転されている場合、レバー146がリターンスプリング148により矢印H方向へ付勢された状態で保持されることで、クラッチギヤ128がベース板134に対して相対回転可能な状態に保持される。
【0078】
(制御部の構成の一例)
図4には、ウェビング巻取装置16に設けられる制御部170の概略構成を示している。制御部170は、モータ48の動作を制御する。制御部170は、マイコン、A/D変換回路、D/A変換回路、及びパワー回路(ドライブ回路)などの各種の機能回路が含まれるECU(Electronic Control Unit)172を備える。本実施の形態においてECU172は、制御手段の一例として機能する。なお、シートベルト装置10は、車両12の運転席、助手席、及び後席の各々に設けられ、また、後席には着座可能な乗員分が設けられているが、ECU172は、複数のシートベルト装置10の各々に設けられても良く、また、一つのECU172が複数のシートベルト装置10のウェビング14の巻き取りを制御するものであっても良い。
【0079】
ECU172には、制御対象とするモータ48が接続されている。ECU172には、車両12に設けられる図示しないバッテリから電力が供給され、バッテリから供給される電力により動作し、また、バッテリから供給される電力によりモータ48を作動させる。ECU172は、モータ48を作動させる駆動電圧及び駆動電圧の極性を制御することで、モータ48の出力軸48Aの回転速度及び回転方向(正転回転又は逆転回転)を制御する。ウェビング巻取装置16では、モータ48の回転速度が制御されることでスプール40の回転速度、即ち、スプール40へのウェビング14の巻取速度が制御される。また、ECU172は、モータ48を作動させる際の電流を制限することで出力トルクを制御する。ウェビング巻取装置16では、モータ48の出力トルクに応じてスプール40の巻取トルクが得られる。また、ウェビング巻取装置16では、スプール40の巻取トルクに応じた張力がウェビング14に生じ、巻取トルクが制限されることでウェビング14を装着した乗員の肩部などにかかる荷重が制限される。
【0080】
図1に示すように、シートベルト装置10には、バックル装置26にバックルスイッチ174が設けられている。また、車両12には、例えば、ドア176の開閉を検知するドアスイッチ178、及び座席28のシート28Aに乗員が着座しているか否かを検知するシートスイッチ180などが設けられる。本実施の形態において、バックルスイッチ174は着脱検出手段の一例として機能し、ドアスイッチ178は開閉検出手段の一例として機能し、シートスイッチ180は着座検出手段の一例として機能する。
【0081】
シートベルト装置10は、座席28のシート28Aに着座した乗員がウェビング14を装着する場合、ウェビング巻取装置16からウェビング14を引き出し、タング24をバックル30に係合させる。また、シートベルト装置10は、バックル30に設けている図示しないリリースボタンが操作されることで、タング24とバックル30との係合が解除される。バックルスイッチ174は、タング24とバックル30との係合状態に応じた信号を出力する。例えば、バックルスイッチ174は、タング24をバックル30に係合させることでオン信号を出力し、係合が解除されることでオフ信号を出力する。
【0082】
ドアスイッチ178は、乗員によるドア176の開閉状態に応じた信号を出力する。例えば、ドアスイッチ178は、ドア176が閉じされることでオフ信号を出力し、ドア176が開かれることでオン信号を出力する。また、シートスイッチ180は、座席28のシート28Aへの乗員の着座に応じた信号を出力する。例えば、シートスイッチ180は、座席28に乗員が着座して所定以上の圧力で押圧されることでオン信号を出力し、乗員が離席し押圧力が所定未満となることでオフ信号を出力する。
【0083】
図4に示すように、ECU172には、バックルスイッチ174、ドアスイッチ178、及びシートスイッチ180が接続されている。また、ECU172には、車両12の走行速度に応じた信号を出力する車速センサ182、及び車両12の図示しないシフトレバーの操作状態(シフト位置)に応じた信号を出力するシフトポジションセンサ184が接続されている。本実施の形態において、車速センサ182は、車速検出手段の一例として機能し、シフトポジションセンサ184は、シフト位置検出手段の一例として機能する。
【0084】
ECU172は、バックルスイッチ174、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184等の各種の検出手段から入力される信号に基づき、モータ48の作動を制御してウェビング14の巻き取りを行う。なお、本実施の形態では、一例としてバックルスイッチ174、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184等の各種の検出手段を設けているが、検出手段の構成は、これに限るものではない。検出手段としては、少なくともバックルスイッチ174が備えられれば良い。また、検出手段としては、バックルスイッチ174の他に、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184の少なくとも1つを備える構成であっても良い。さらに、バックル装置26がリフトアップ機構を備える場合、バックル30の格納位置に移動されたことを検出する検出手段を更に含むことが好ましい。
【0085】
また、制御部170には、モータ48を駆動する電流を検出する電流センサ186が設けられている。本実施の形態において電流センサ186は、電流検出手段の一例として機能する。ECU172には、電流センサ186が接続され、電流センサ186により検出されるモータ48の駆動電流を読み取り、予め設定された電流値を超えないように出力電力(例えば、出力電圧)を制御することで、モータ48の出力トルクを制御する。ウェビング巻取装置16では、モータ48の出力トルクが制限されることで、スプール40の巻取トルクが制限される。なお、本実施の形態では、一例としてECU172とは別に電流センサ186を設けているが、これに限らず、ECU172が電流センサ186の機能を含む構成であっても良い。
【0086】
ここで、ECU172は、バックルスイッチ174により乗員がウェビング14を装着した状態となっているか否かを確認する。また、ECU172は、ドアスイッチ178及びシートスイッチ180を用いて、乗員が座席に着座しているか及び乗員が体を動かすことが予測されるか否かを確認する。さらに、ECU172は、車速センサ182及びシフトポジションセンサ184を用いて、車両12が前進走行を開始したか又は前進走行を開始する状態に至っているか否かを確認する。ECU172は、例えば、乗員が座席に着座し体を動かす可能性が低くなった状態であることを確認すると、バックルスイッチ174によりウェビング14を乗員に密接可能か否かを確認する。また、ECU172は、例えば、タング24をバックル30へ係合させている状態で、車両12が前進走行を開始可能な状態に至るか又は車両12が前進走行を開始すると、ウェビング14を乗員に密接させるためのウェビング14の巻き取りを行う。以下の説明においては、モータ48によりウェビング14を乗員に密接させるための巻き取りをフィッティングアシストと称する。
【0087】
また、ECU172は、車両12が停止し、降車のために乗員がタング24とバックル30との係合が解除されたことをバックルスイッチ174により確認すると、スプール40にウェビング14を巻き取って格納する。ECU172は、モータ48を作動させることでスプール40を巻取方向へ回転させて、スプール40から引き出されていたウェビング14をスプール40に巻き取る。以下の説明においては、モータ48によりウェビング14の格納のためのスプール40への巻き取りを格納アシストと称する。
【0088】
上述したように、ウェビング巻取装置16は、モータ48が正転回転することで、モータ48の回転力をスプール40に伝達してスプール40を巻取方向へ回転させる駆動力伝達機構60を備える。また、ウェビング巻取装置16は、モータ48が逆転回転することで、モータ48の回転力をスプール40に伝達してスプール40を巻取方向へ回転させる駆動力伝達機構100が設けられている。ウェビング巻取装置16では、フィッティングアシストが実行される場合に、駆動力伝達機構60が用いられる。また、ウェビング巻取装置16は、格納アシストが実行される場合に、一例としてスプール40の巻取トルクが制限される駆動力伝達機構100を用い、この後、スプール40の巻取トルクの制御が可能な駆動力伝達機構60を用いる。
【0089】
ウェビング巻取装置16のECU172は、フィッティングアシストを実行する場合に、モータ48を正転駆動することで、駆動力伝達機構60を介してスプール40を巻取方向へ回転させる。このとき、ECU172は、モータ48の駆動電流を制限することでモータ48の出力トルクを制限して、スプール40の巻取トルクを制限する。
【0090】
本実施の形態に係るシートベルト装置10では、乗員にウェビング14を密接させるときに乗員がウェビング14から受ける荷重が設定され、設定された荷重に基づいてスプール40の巻取トルクを制限している。即ち、ウェビング14による高い乗員拘束性を得るためには、所謂スラックが生じないようにウェビング14を強く引っ張るために、スプール40には、大きい巻取トルクが必要となる。しかし、スプール40の巻取トルクが大きすぎると、乗員が大きい荷重を受けることになり、乗員に不快感を生じさせる。
【0091】
ここから、シートベルト装置10では、例えば、ウェビング14を乗員に密接させるフィッティングアシストを行うときに、乗員拘束性と官能的評価に基づいて、ウェビング14が乗員に与える荷重(例えば荷重の上限)が設定される。ウェビング巻取装置16では、設定された荷重に基づいてスプール40の巻取トルクの上限を定め、定めた巻取トルクの上限に基づいてモータ48の出力トルクが設定されている。ウェビング巻取装置16のECU172には、スプール40の巻取トルクに応じたモータ48の出力トルクに基づいて、フィッティングアシストを実行するときのモータ48の駆動電圧Vに対する駆動電流Iの制限値(制限電流I
F)が設定される。
【0092】
ECU172は、駆動電圧Vを予め設定された電圧V
F(例えばV
F=12v)に設定し、モータ48が正転回転するように駆動電圧Vを供給して、フィッティングアシストを開始する。また、ECU172は、例えば、電流センサ186によりモータ48の駆動電流Iを検出し、検出した駆動電流Iが制限電流I
Fに達する(I≧I
F)と、モータ48の作動を停止してフィッティングアシストを終了する。なお、ECU172は、所定の駆動電圧V(V=V
F)でモータ48を正転回転させて所定時間作動させるものとし、モータ48の作動中の駆動電流Iが制限電流I
F以下(I≦I
F)となるように駆動電圧Vを制御するようにしても良い。
【0093】
また、フィッティングアシストが終了した状態で、乗員が装着したウェビング14に弛みが生じないように大きな付勢力を付与していると、乗員に圧迫感などの不快感を生じさせる可能性がある。ここから、シートベルト装置10では、官能的評価に基づき、装着した乗員に非圧迫感が得られる(圧迫感などの不快感を生じさせない)ウェビング14の張力が設定され、設定された張力に応じた付勢力が得られるように、ウェビング巻取装置16の巻取ばね112の付勢力が定められている。
【0094】
従って、ウェビング巻取装置16は、スプール40の巻取トルクが制限され、ウェビング14を装着した乗員に不快感を生じさせる荷重を与えてしまうことが無く、高い乗員拘束性が得られる。また、ウェビング巻取装置16は、フィッティングアシストが終了した後は、乗員に非圧迫感を与える状態で、乗員の拘束状態を維持することができる。
【0095】
一方、ECU172は、格納アシストを実行する場合に、先ず、モータ48を所定時間作動させてスプール40にウェビング14を巻き取る主トライを実行する。また、ECU172は、主トライを終了すると、予め設定された時間間隔で、モータ48を作動させて、スプール40に巻き取り残したウェビング14の巻き取りと、スプール40へのウェビング14の巻き取りが終了したか否かを確認するための動作を繰り返すリトライを実行する。本実施の形態においては、一例として格納アシストに、主トライ、リトライ及び終了判定が含まれる。本実施の形態において主トライは、事前動作の一例として機能し、r値トライは、確認動作の一例として機能する。
【0096】
ECU172は、主トライを実行する場合、駆動電圧Vを予め設定されている電圧V
Tに設定し、設定した駆動電圧V(電圧V
T)で予め定められた時間Tmの間、モータ48を逆転回転する。これにより、スプール40は、モータ48の回転が駆動力伝達機構100を介して伝達されることで、クラッチ機構122により巻取トルクが制限されて巻取方向へ回転される。また、スプール40の回転速度、即ち、主トライ時におけるウェビング14の移動速度は、モータ48の駆動電圧V(電圧V
T)により定まる。
【0097】
ECU172は、リトライを実行する場合、駆動電圧Vを予め設定された電圧Vrに設定して、モータ48を正転回転することで、駆動力伝達機構60を介してスプール40を巻取方向へ回転させる。また、ECU172は、駆動電流Iが予め設定されている制限値Irに達することで、1回のリトライを終了する。これにより、リトライ時におけるスプール40の巻取トルク、即ち、ウェビング14に生じる張力は、駆動電流Iの制限値Irにより制限される。本実施の形態において制限値Irは、確認動作における駆動電流の制限値の一例として機能する。
【0098】
また、ECU172は、リトライを実行するごとに、モータ48の作動を開始してから駆動電流Iが制限値Irに達するまでの時間を計測し、計測時間T及び予め設定されている判定時間Tsに基づいて、ウェビング14の巻き取りが終了したか否かを判定する。ECU172は、計測時間Tと判定時間Tsに基づいてウェビング14の巻き取りが終了したと判定されない場合、リトライを繰り返し、巻取が終了したと判定されることで、格納アシストを終了する。
【0099】
ここで、装着が解除されたウェビング14がスプール40に巻き取られる速度(ウェビング14の巻取速度)は、速すぎたり遅すぎたりすることは好ましく無く、このウェビング14の巻取速度が巻取時間に影響する。また、装着が解除されたウェビング14を巻き取る際は、ウェビング14に付与される張力が大きいと、ウェビング14やタング24を必要以上に大きな張力で引っ張ることになるので好ましくはなく、ウェビング14を乗員に密接するための張力と比較して十分に低い張力となることが好ましい。
【0100】
ここから、シートベルト装置10では、主トライ時において、ウェビング14を円滑にかつスムーズに格納し得るウェビング14の巻取速度、巻取時間、及び張力が試験等により予め設定される。この際、張力は、ウェビング14を乗員に密接するための張力と比較して十分に低い張力に設定される。
【0101】
ECU172には、シートベルト装置10で設定された巻取時間に基づいて、主トライ時におけるモータ48の作動時間Tmが設定されると共に、巻取速度に基づいてモータの48の駆動電圧Vの電圧V
Tが設定される。この電圧V
Tは、電圧V
Fよりも低く設定される。また、ウェビング巻取装置16は、設定されたウェビング14の張力に基づいてスプール40の巻取トルクが設定され、設定された巻取トルクが得られるように駆動力伝達機構100に設けたクラッチ機構122のクラッチギヤ128とクラッチスプリング130との間の摩擦力、即ち、クラッチスプリング130の外径及び付勢力が設定される。本実施の形態において、主トライ時に設定されるスプール40の巻取トルクは、第1のトルクの一例として機能する。
【0102】
ウェビング14をスプール40に巻き取って格納する際、例えば、乗員がウェビング14を踏みつけている、ウェビング14やウェビング14に設けているタング24が座席28などの車室内の内装部品等に引っかかっている、座席28と乗員との間にウェビング14が挟まれている、及びウェビング14がドアに挟まっている、などの状態、即ち、ウェビング14の巻き取りを阻害する外力が作用した状態が生じることがある。これらの場合、ウェビング14に巻き取り残しが生じることがある。
【0103】
ウェビング巻取装置16では、格納アシストのリトライが行われることで、巻き取り残りがあった場合のウェビング14の巻き取りが行われる。リトライに対して、ECU172には、スプール40の巻取トルクが、主トライ時よりも高くなるように駆動電流Iの制限値Irが設定される。ECU172は、モータ48の駆動電流Iが制限値Irに達するまで、モータ48を正転駆動させることを、予め設定された回数だけ繰り返す。
【0104】
また、リトライ時おいてウェビング14を確実に巻き取るためには、スプール40の巻取トルクが主トライ時の巻取トルクより大きく、かつスプール40の回転速度が主トライ時の回転速度より高いことが好ましい。しかし、スプール40の巻取トルクが大きすぎた場合、及びスプール40の回転速度が高すぎた場合、などではウェビング14を強く引くことになり、例えば、ウェビング14が乗員に絡まったり、車室内の部品に引っかかっていたりしている可能性を考慮すると、ウェビング14を強く、かつ速く引き過ぎることは好ましくない。ここから、ウェビング巻取装置16では、リトライ時のスプール40の巻取トルク及び回転速度について、各種のウェビング14の巻き残り状態を考慮した試験等を行い、乗員に不快感を生じさせること無く、かつ、車室内の部品に影響を及ぼすことがない範囲で設定されている。
【0105】
ECU172には、リトライ時のスプール40に設定された巻取トルクを生じさせるモータ48の駆動電流Iの電流値が制限値Irとして設定され、回転速度(ウェビング14の移動速度)に基づいて電圧Vrが設定されている。本実施の形態においてリトライ時にスプール40に設定される巻取トルクは、第2のトルクの一例として機能する。また、判定時間Tsは、例えば、スプール40から引き出されているウェビング14に余長が無くなるまで巻き取って格納した巻取終了状態において、リトライを実行した際、駆動電流Iが制限値Irに達するまでの時間に基づいて設定される。本実施の形態において判定時間Tsは、判定時間の一例として機能する。
【0106】
以下に、ウェビング巻取装置16によるモータ48を用いたウェビング14の巻き取りを説明する。なお、車両12には、助手席や後席に幼児用補助装置である所謂チャイルドシートが装着される場合があり、この場合、以下に説明するフィッティングアシスト及び格納アシストを省略し、バックルスイッチ174の検出状態に基づいた一般的な巻取制御を行うものであっても良い。チャイルドシートが装着されたか否かは、ウェビング巻取装置16に選択スイッチを設けるなどして、選択されるようにすれば良い。
【0107】
図5には、ウェビング巻取装置16におけるウェビング14の巻取制御の概略を示している。このフローチャートでは、ステップ200においてドア176の開閉状態を確認し、ステップ202において座席28に乗員が着座したか否かを確認する。車両12に乗員が乗車する際、ドア176が開かれた後に、ドア176が閉じられ、このドア176の開閉動作に応じた出力信号がドアスイッチ178から出力される。また、乗車した乗員が座席28に着座することで、シートスイッチ180の出力信号がオンする。
【0108】
ドア176が閉じられることでステップ200において肯定判定され、乗員が座席28に着座することでステップ202において肯定判定されると、ステップ204へ移行する。ステップ204では、バックルスイッチ174がオンされているか否かを確認する。乗員がウェビング14を装着してタング24をバックル30に係合させることで、ステップ204で肯定判定されて、ステップ206へ移行し、フィッティングアシスト制御を実行する。
【0109】
ここで、バックルスイッチ174がオンしていても、ドア176が開いている状態では、乗員がドア176を閉じるために、ウェビング14を引き出す必要がある。また、バックルスイッチ174がオンしていても、乗員が座席28のシート28Aから腰を浮かせるなどして、適正な着座姿勢となっていない場合が想定される。ここから、ウェビング巻取装置16では、ドアスイッチ178及びシートスイッチ180を用いて、乗員が適正に着座しているか否かを予測し、適正に着座していると予測される場合に、タング24がバックル30に係合されたか否かを判断し、乗員の意図に反して、ウェビング14の巻き取り(フィッティングアシスト)が開始されてしまうのを防止する。
【0110】
なお、本実施の形態では、車両12にドアスイッチ178及びシートスイッチ180を設け、これらがECU172に接続されている例を説明しているが、ドアスイッチ178及びシートスイッチ180の一方又は両方を設けていない構成であっても良く、この場合、対応するステップの処理を省略すれば良い。即ち、ドアスイッチ178を設けていない場合、ステップ200の処理を省略し、シートスイッチ180を設けていない場合、ステップ222の処理を省略し、ドアスイッチ178及びシートスイッチ180を設けていない場合、ステップ220及びステップ222の処理を省略すれば良い。
【0111】
図6には、ステップ206で実行されるフィッティングアシスト制御の一例を示している。フィッティングアシストは、ステップ220で、車速センサ182から出力される車速vを読み込み、車速vが予め設定された速度vsを超えているか否かを確認する。この速度vsとしては、vs=0(km/h)、vs=5(km/h)又はvs=10(km/h)などの予め設定された速度(例えば、vs=10(km/h))が適用される。
【0112】
また、ステップ222では、シフトポジションセンサ184により検出されるシフトギヤのポジションを読み込み、シフトギヤのポジションが、車両12を前進走行させるDレンジ又はDレンジに相当するポジションか否かを確認する。オートマチックトランスミッションを備える車両12では、「Pレンジ」、「Nレンジ」、又は「Rレンジ」などの非前進走行に対応する場合(マニュアルトランスミッションの場合、「Nポジション」及び「Rポジション」の場合。)、ステップ222では否定判定される。
【0113】
車両12が前進して、車速vが速度vsを超えると(v>vs)、ステップ220で肯定判定されてステップ224へ移行する。また、車両12のシフトポジションが、「Dレンジ」などの車両12の前進走行に対応するポジションであると、ステップ222で肯定判定されてステップ224へ移行する。
【0114】
ECU172は、ステップ224へ移行すると、モータ48を正転回転することでフィッティングアシストを実行する。フィッティングアシストでは、駆動電圧Vを電圧V
Fに設定し、設定した駆動電圧Vでモータ48を正転回転で動作させる。これにより、モータ48の出力軸48Aの回転力が駆動力伝達機構60を介してスプール40に伝達され、スプール40が巻取方向へ回転され、スプール40へのウェビング14の巻き取り(フィッティングアシスト)が開始される。
【0115】
この後、ステップ226では、電流センサ186により検出するモータ48の駆動電流Iが予め設定した制限電流I
Fに達したか否かを確認する。駆動電流Iが制限電流I
Fに達し(I≧I
F)、ステップ226で肯定判定されると、ステップ228へ移行して、モータ48を停止させてフィッティングアシストを終了する。
【0116】
このようにしてフィッティングアシストを行うことで、ウェビング14が乗員の体に高い乗員拘束性が得られるように密接して、乗員の確実な保護が可能となる。また、制限電流I
Fは、ウェビング14が乗員に不快感を生じさせることのない張力(スプール40の巻取トルク)に基づいて設定されているので、乗員に不快となる荷重をかけてしまうことがない。また、モータ48が停止することで、ウェビング14には、巻取ばね112による付勢力が付与されるので、ウェビング14を装着した乗員に圧迫感などを生じさせることがない。
【0117】
なお、本実施の形態では、車速センサ182及びシフトポジションセンサ184を用いたが、車速センサ182及びシフトポジションセンサ184の一方又は両方を備えない構成であっても良く、この場合、対応するステップの処理を省略すれば良い。また、車速センサ182又はシフトポジションセンサ184に換えて、パーキングブレーキスイッチなどを用いて車両12が走行可能な状態に至ったか否かを確認して、フィッティングアシストを行うようにしても良い。また、シートベルト装置10がリフトアップ機構を備えたバックル装置を備える場合、フィッティングアシストを開始する条件として、バックル30の格納位置への移動を含めれば良い。これにより、バックル30が格納位置へ移動する前にフィッティングアシストを実行してしまうことにより、バックル30が格納位置へ移動する際、ウェビング14により乗員を更に締め付けてしまうのを防止することができる。
【0118】
ところで、
図5に示すように、フィッティングアシスト制御が終了すると、ステップ208へ移行する。このステップ208では、乗員がウェビング14の装着状態を解除するために、タング24とバックル30との係合状態が解除されたか否かを確認する。ここで、タング24とバックル30との係合状態が解除されると、ステップ208で肯定判定されてステップ210へ移行し、格納アシストを実行する。
【0119】
図7には、本実施の形態に係る格納アシスト制御の一例を示す。格納アシスト制御は、
図6のステップ210へ移行することで実行される。また、
図8には、格納アシスト時における時間に対してECU172が検出するモータ48の駆動電流Iの変化の概略を示している。なお、
図8では、駆動電流Iの原点(駆動電流I=0)より下側が逆転回転における電流値を示し、原点よりも上側が正転回転における電流値を示している。
【0120】
図7に示すように、格納アシスト制御では、ステップ230において、車速センサ182により検出される車速を読み込み、車両12が停止しているか否かを確認し、ステップ232において、シフトレバーのポジションが、車両の駐車状態を示す「Pレンジ」であるか否かを確認する。また、ステップ234では、車両12のドア176が閉じられているか否かを確認する。車両12の車速vがv=0でない場合、車両が停止しておらず、乗員が、ウェビング14を再度装着する可能性がある。また、車両12のドア176が開かれていると、乗員が降車するために移動することが考えられ、乗員の移動中にウェビング14がスプール40へ巻き取られることで、ウェビング14が乗員の体に絡む可能性が生じる。さらに、シフトレバーのポジションが、「Dレンジ」などの車両の前進走行が可能なレンジである場合、「Rレンジ」及び「Nレンジ」などである場合、車両12の前進走行が開始される可能性があり、また、乗員が再度ウェビング14を装着する可能性がある。
【0121】
このように、乗員がウェビング14を再装着する可能性がある場合、及び乗員が降車するために体を動かす可能性がある場合などにおいて、ECU172は、ウェビング14の格納アシストを実行せず、待機する。なお、ECU172は、バックルスイッチ174の状態を監視し、タング24が再度バックル30に係合されると、このフローチャートの処理を終了し、フィッティングアシスト制御に移行する。
【0122】
ここで、例えば、車両12が停止状態で、シフトレバーが「Pレンジ」となり、かつ、開かれていたドア176が閉じられると、ステップ230、232、234の各々で肯定判定されると、格納アシストが実行される。
【0123】
格納アシストにおいては、ステップ236で主トライを実行する。格納アシストの主トライにおいては、モータ48の駆動電圧Vを予め設定されている電圧V
Tに設定し、設定した駆動電圧V(V=V
T)で、予め設定した時間Tm(例えば、Tm=2秒程度)の間、モータ48の出力軸48Aが逆転回転するように作動させる。これにより、モータ48の出力軸48Aの回転力が、駆動力伝達機構100を介してスプール40に伝達され、スプール40が巻取方向に回転してウェビング14を巻き取って格納する。
【0124】
駆動力伝達機構100には、クラッチ機構122が設けられており、スプール40に予め設定された以上の巻取トルクに達するとクラッチ機構122に滑りが生じる。これにより、スプール40は、巻取トルクが制限された状態でウェビング14を巻き取る。また、スプール40は、モータ48の駆動電圧Vに応じた回転速度で回転されるので、ウェビング14がスプール40に巻き取られるとき、ウェビング14及びタング24が滑らかに移動する。なお、主トライにおけるモータ48の作動時間Tmは、ウェビング14の全長、ウェビング14の巻取速度などに基づいて設定された時間が用いられる。
【0125】
図8に示すように、主トライにおいては、クラッチ機構122によりスプール40の巻取トルクが制限されることで、モータ48の駆動電流Iは、制限を受ける巻取トルクに対応する電流値を超えることがない。
【0126】
図7では、主トライが終了すると、ステップ238へ移行し、予め設定された時間T
I(数秒程度、例えば、T
I=5秒)の間隔でリトライが実行される。リトライは、駆動電圧Vを予め設定した電圧Vrに設定し、設定した駆動電圧V(V=Vr)に対応する駆動電流Iの制限値制Irが設定される(I=Ir)。電圧Vrとしは、電圧V
Tとしても良いが、本実施の形態では、一例として電圧V
Tより高くし(Vr>V
T)。
【0127】
ステップ238では、設定した駆動電圧V(V=Vr)で、モータ48の出力軸48Aを正転回転するように作動させ、時間計測を開始する。次のステップ240では、電流センサ186によりモータ48の駆動電流Iを検出し、検出した駆動電流Iが制限値Irに達したか否かを確認する。
【0128】
ここで、駆動電流Iが制限値Irに達すると、ステップ240で肯定判定してステップ242へ移行し、モータ48を一時停止し、1回分のリトライを終了する。
図8に示すように、リトライにおいて、モータ48の正転駆動が開始されると、スプール40がウェビング14から受ける負荷に応じてモータ48の駆動電流Iが増加する。このとき、主トライにおいて巻き取られずに残ったウェビング14がある場合、駆動電流Iは、そのウェビング14の巻き取りに必要な電流値となり、ウェビング14の巻き取りが進行することで、負荷が増加する。
【0129】
図7では、1回分のリトライが終了すると、ステップ244へ移行して、計測した作動時間Tが、予め設定している判定時間Ts以下となったか否かを確認する。ここで、作動時間Tが時間Tsを超えている(T>Ts)と、ステップ244で否定判定して、ステップ238へ戻る。これにより、計測時間Tが判定時間Tsに満たない場合、
図8の二点鎖線で示すように、リトライが繰り替えされる。なお、リトライは、予め設定した回数に達することで、終了しても良く、また、最初にリトライを開始してからの経過時間が予め設定した時間(例えば、数十秒から数分程度の範囲内で予め設定した時間)に達することで終了しても良い。
【0130】
一方、全量のウェビング14(巻取可能な全長さ)のウェビング14がスプール40に巻き取られている状態でリトライを実行すると、モータ48の駆動電流Iは、
図8示すように急激に増加し、短時間で制限値Iに達する。即ち、ウェビング14がスプール40に巻き取られた状態では、スプール40の負荷が増大し、スプール40の巻取トルクが急激に上昇し、これに伴いモータ46の駆動電流Iも急激に増加し、計測時間Tが短くなる。
【0131】
また、巻取途中のウェビング14が、例えばシフトレバーやサイドブレーキノブなどに引っかかっている場合、リトライが実行されてウェビング14が伸びきることで、スプール40の巻取トルクが急激に増加し、計測時間Tが判定時間Tsに達するか、判定時間Tsよりも短くなる。このような場合、リトライを繰り返してもウェビング14を巻き取ることが困難となるので、例えば、次に乗員がウェビング14を装着する前に、ウェビング14の引っかかりを乗員に解いてもらうなどすることが有効である。
【0132】
ここから、
図7のステップ244では、計測時間Tが判定時間Ts以下となると、ウェビング14の格納が終了したと判定(肯定判定)し、リトライを終了する共に、格納アシストを終了する(ステップ246)。
【0133】
従って、ウェビング巻取装置16では、全量のウェビング14が巻き取られた場合は勿論、ウェビング14の巻き取りが不能となっている状態を的確に判定して、格納アシストを終了することができる。これにより、例えば、ウェビング14の巻き取りのために、モータ48の間欠的動作が不必要に繰り返されることがなく、リトライ回数を低減させることができる。また、モータ48の間欠的動作が不必要に繰り返されることで、乗員に不快感や違和感などを生じさせることがあるが、リトライを的確なタイミングで終了することができるので、乗員等に不快感や違和感等を生じさせてしまうことがない。
【0134】
また、ウェビング巻取装置16では、例えば主トライを実行したときに、ウェビング14がドアに挟まっていても、リトライ中にドアへの挟み込みが解除されることで、巻き取り残っているウェビング14を巻き取って格納することができる。
【0135】
さらに、ウェビング巻取装置16のECU172は、リトライ時のモータ48の駆動電流Iが制限値Irに達するまでの時間を計測するため、例えば、時間経過に応じて駆動電流Iを検出し、時系列的に検出した駆動電流Iから変化率を演算するなどの処理を行う場合に比べ、簡単にかつ的確にウェビング14の巻取終了を判定することができる。
【0136】
なお、以上説明した本実施の形態は、一例を示すものであり、本発明の構成を限定するものではない。例えば、本実施の形態では、ドアスイッチ178、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184を用いて、ウェビング14の格納アシストが可能か否かを確認するようにしたが、更に、シートスイッチ180の検出結果を含めて良い。シートスイッチ180の検出結果を含める場合、例えば、ドアスイッチ178の検出結果と合わさることができる。即ち、乗員は、タング24とバックル30との係合を解除した後、降車してドア176を閉じる。ここから、バックルスイッチ174がオフした後、ドアスイッチ178の検出状態が、オン(ドア176の開)からオフ(ドア176の閉)に変化し、ドアスイッチ178がオフしている状態で、乗員が座席28に着座していないことが検出された場合(シートスイッチ180のオフ)に、ドアスイッチ178とシートスイッチ180における格納アシストの開始条件が満たされたと判定することができる。
【0137】
また、本実施の形態では、車速センサ182を用いたが、車速センサ182に換えて、パーキングブレーキの作動を検出するパーキングブレーキセンサを用い、パーキングブレーキセンサによりパーキングブレーキが作動されたときに、車両12が停止していると判定するようにしても良い。
【0138】
更に、本実施の形態では、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182(又はパーキングブレーキセンサ)、及びシフトポジションセンサ184の検出結果を用いて、格納アシストを開始するか否かを判定したが、これに限るものではない。例えば、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184の少なくとも1つを用いても良い。また、ドアスイッチ178、シートスイッチ180、車速センサ182、及びシフトポジションセンサ184の何れも用いないものであっても良い。これらの場合、使用しない検出手段に対応する処理を省略すれば良い。
【0139】
本実施の形態では、第1の伝達手段としてクラッチ機構82を備える駆動力伝達機構60を用い、第2の伝達手段としてクラッチ機構122を用いたが、第1及び第2の伝達手段の構成はこれらに限定されるものではない。第1の伝達手段は、駆動手段の出力軸が第1の方向へ回転されることで、出力軸の回転を、巻取軸が巻取方向へ回転されるように伝達する構成であれば、任意の構成を適用することができる。また、第2の伝達手段は、駆動手段の出力軸が第2の方向へ回転されることで、出力軸の回転を、巻取軸が巻取方向へ回転されるように伝達する際、巻取軸の巻取トルクが予め設定された第1のトルクに達しない範囲内で出力軸の回転を巻取軸に伝達する構成であれば、任意の構成が適用される。
【0140】
また、伝達手段は、第1の伝達手段及び第2の伝達手段に限らず、少なくもと出力軸の回転を巻取軸に伝達して、巻取軸を巻取方向へ回転させる構成であれば、任意の構成が適用される。