特許第6498027号(P6498027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6498027コンクリートスラッジ微粉末を結合材とする水硬化性硬化体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498027
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】コンクリートスラッジ微粉末を結合材とする水硬化性硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20190401BHJP
   C04B 7/24 20060101ALI20190401BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20190401BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20190401BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C04B28/02ZAB
   C04B7/24
   C04B22/14 B
   B09B5/00 F
   B09B3/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-98698(P2015-98698)
(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公開番号】特開2016-216267(P2016-216267A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】509042389
【氏名又は名称】三和石産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 晴基
(72)【発明者】
【氏名】閑田 徹志
(72)【発明者】
【氏名】石関 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】巴 史郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 真一
(72)【発明者】
【氏名】大川 憲
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−88278(JP,A)
【文献】 特開2004−345885(JP,A)
【文献】 特開平10−114556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00−32/02
C04B40/00−40/06
C04B103/00−111/94
C02F11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜされて得られる水硬化性硬化体であって、
前記結合材は石膏と、残コンクリート、戻りコンクリート等から回収されたセメント分を含む微粉末であるコンクリートスラッジ微粉末とを含むと共に、普通ポルトランドセメントは含有しない、もしくは前記コンクリートスラッジ微粉末より少量だけ含有し、
前記石膏は前記コンクリートスラッジ微粉末の質量に対して無水物換算で4.0%以上含まれていることを特徴とする水硬化性硬化体。
【請求項2】
請求項1に記載の水硬化性硬化体において、前記結合材は、前記コンクリートスラッジ微粉末を質量比で40%以上含んでいることを特徴とする水硬化性硬化体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水硬化性硬化体において、前記結合材は、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ、あるいはその両方を含んでいることを特徴とする水硬化性硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬化性硬化体の結合材に、残コンクリートや戻りコンクリートから回収されたセメント分を含むコンクリートスラッジ微粉末を含む水硬化性硬化体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設現場等において打設されるコンクリート、モルタル等は、レディミクストコンクリート工場において製造され、アジテータトラックによって搬送される。建設現場においてはコンクリートは若干の余裕を持って発注されることがあり、この場合コンクリートの一部は打設されないで残る。また建設現場において受入検査で不合格になるコンクリートもある。このようなコンクリートは、いわゆる残コンクリート、あるいは戻りコンクリートとしてアジテータトラックで搬送されて工場に戻されるが、その割合は、工場において製造されるコンクリート全体の2〜3%に達すると報告されている。従来これらは産業廃棄物として処理されてきたが、コストが嵩むし環境負荷にもなるので、有効利用が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4472776号公報
【特許文献2】特開2014−88279号公報
【特許文献3】特開2014−88278号公報
【0004】
特許文献1には、残コンクリートや戻りコンクリートから、セメント分を含んだ微粉末、いわゆるコンクリートスラッジ微粉末を製造する方法が記載されている。この方法においては、残コンクリートや戻りコンクリートに所定の水を加えてスラリー状被処理物を得る。そしてスラリー状被処理物から砂利、砂等を分離してスラッジ水を得、さらに湿式サイクロンによってスラッジ水を処理して微砂分を除去し、濃縮スラッジ水を得る。この濃縮スラッジ水をフィルタプレスにかけて脱水ケーキを得、横型の回転ドラムの一方の端部から脱水ケーキを連続的に供給し、回転ドラムには同時に熱風を供給して、脱水ケーキの破砕と乾燥とを実質的に同時に実施し、そして他方の端部から連続的にコンクリートスラッジ微粉末を得るようになっている。従って、均一で高品質のコンクリートスラッジ微粉末を回収することができる。
【0005】
特許文献2、3にはこのようにして回収されたコンクリートスラッジ微粉末を結合材として使用する水硬化性硬化体が記載されている。特許文献2に記載の水硬化性硬化体は、コンクリートスラッジ微粉末を結合材として使用し、必要によりコンクリートスラッジ微粉末より少量の普通ポルトランドセメントも結合材として使用する。そしてこのような結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜて水硬化性硬化体を得る。一方、特許文献3に記載の水硬化性硬化体は、コンクリートスラッジ微粉末だけでなく、フライアッシュ、高炉スラグ等の産業副産物も結合材として使用する。そして同様に結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜて水硬化性硬化体を得る。特許文献2、3によると、水硬化性硬化体の硬化時の強度を保証するために、結合材として使用するコンクリートスラッジ微粉末は、比表面積が8000cm/g以下のものが条件になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、従来産業廃棄物として処理されていた戻りコンクリートや残コンクリートからセメント分をコンクリートスラッジ微粉末として回収するようにすれば、資源を再利用できるだけでなく、廃棄に要するコストを削減できる。このような回収されたコンクリートスラッジ微粉末には、水和反応が進行していないセメント分が十分残っていて利用価値が高く優れている。そこでこのようなコンクリートスラッジ微粉末を、特許文献2、3に記載のように、水硬化性硬化体の結合材として使用するようにすると、資源の再利用の点で好ましい。
【0007】
しかしながら解決すべき問題も見受けられる。具体的にはコンクリートスラッジ微粉末を結合材として含む水硬化性硬化体は、水硬化性硬化体としての性能に問題が見受けられる。このような結合材としてコンクリートスラッジ微粉末を含んだ水硬化性硬化体は、普通ポルトランドセメントのみを結合材とするコンクリートに比して、凝結時間が早まる傾向が見受けられる。そうすると始発時間が十分に長いコンクリートに比して、水硬化性硬化体の取り扱いは難しく、コンクリートを代替することが難しい。硬化時の収縮の問題もある。コンクリートスラッジ微粉末を結合材として含む水硬化性硬化体は、普通ポルトランドセメントを結合材とするコンクリートに比して、硬化時における収縮量が大きい。そうするとひび割れし易いという問題がある。
【0008】
本発明は上記したような問題点を解決する、水硬化性硬化体を提供することを目的としている。つまり、コンクリートスラッジ微粉末を結合材として含んでおり、資源の再利用の点で有利でありながら、凝結に要する時間が比較的長く、それによって取り扱いが容易であり、そして硬化時の収縮量が小さく、従ってひび割れし難い、水硬化性硬化体を提供することを目的としている。そして、普通ポルトランドセメントを結合材とするコンクリートの代替品として技術者が安心して利用することができる水硬化性硬化体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を解決するために、結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜされて得られる水硬化性硬化体であって、結合材は、残コンクリート、戻りコンクリート等から回収されたセメント分を含む微粉末であるコンクリートスラッジ微粉末を含むようにする。結合材には高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ、あるいはその両方を含むようにしてよい。そして本発明による水硬化性硬化体は、結合材として石膏も含むようにする。石膏はコンクリートスラッジ微粉末の質量に対して無水物換算で4.0%以上含まれるように構成する。ところで、結合材として使用されるコンクリートスラッジ微粉末はどのように製造してもいいが、好ましくは残コンクリートまたは戻りコンクリートに水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、該スラリーから砂利、砂、微砂分を除去してスラッジ水を得る分離工程と、該スラッジ水を脱水して脱水ケーキを得る脱水工程と、該脱水ケーキを破砕・乾燥する破砕・乾燥工程とからなる回収工程から製造する。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜされて得られる水硬化性硬化体であって、前記結合材は石膏と、残コンクリート、戻りコンクリート等から回収されたセメント分を含む微粉末であるコンクリートスラッジ微粉末とを含むと共に、普通ポルトランドセメントは含有しない、もしくは前記コンクリートスラッジ微粉末より少量だけ含有し、前記石膏は前記コンクリートスラッジ微粉末の質量に対して無水物換算で4.0%以上含まれていることを特徴とする水硬化性硬化体として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水硬化性硬化体において、前記結合材は、前記コンクリートスラッジ微粉末を質量比で40%以上含んでいることを特徴とする水硬化性硬化体として構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の水硬化性硬化体において、前記結合材は、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ、あるいはその両方を含んでいることを特徴とする水硬化性硬化体として構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は、結合材と、骨材と、必要に応じて添加される混和剤とから練混ぜされて得られる水硬化性硬化体であって、結合材は石膏と、残コンクリート、戻りコンクリート等から回収されたセメント分を含む微粉末であるコンクリートスラッジ微粉末とを含むと共に、普通ポルトランドセメントは含有しない、もしくは前記コンクリートスラッジ微粉末より少量だけ含有する。つまり回収されたコンクリートスラッジ微粉末を利用するので資源の再利用の点で優れている。そして本発明によると、石膏はコンクリートスラッジ微粉末の質量に対して無水物換算で4.0%以上含まれている。コンクリートスラッジ微粉末を結合材として使用する水硬化性硬化体は、凝結時間が早く、硬化時の収縮量も大きいという問題があるが、本発明の水硬化性硬化体は所定の割合の石膏を含んでいるので、後で詳しく説明するように凝結時間を遅らせることができ、硬化時の収縮量も少ない。これによって普通ポルトランドセメントを結合材とするコンクリートを十分に代替できることになる。他の発明によると、結合材は、コンクリートスラッジ微粉末を質量比で40%以上含んでいる。つまり大量のコンクリートスラッジ微粉末を利用できる。従って資源の再利用の点で好ましい。また他の発明によると結合材は、高炉スラグ微粉末またはフライアッシュ、あるいはその両方を含んでいる。高炉スラグ微粉末もフライアッシュも産業廃棄物であるがこれらも結合材として利用するので、資源の再利用が促進され、水硬化性硬化体のコストは小さい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体に使用されるコンクリートスラッジ微粉末の回収工程を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体について実施した、実験の結果を示す表である。
図3】石膏を色々な割合で混合した本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体について、所望の性能が得られたものと得られなかったもののそれぞれについてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る水硬化性硬化体は、結合材として、いわゆるコンクリートスラッジ微粉末を含み、さらに石膏を含む点に特徴がある。コンクリートスラッジ微粉末は、残コンクリートまたは戻りコンクリートから回収したセメント分を多く含む微粉末である。まず、コンクリートスラッジ微粉末の回収方法、つまり製造方法を説明する。
【0014】
コンクリートを打設する建設現場では、必要なコンクリートをレディミクストコンクリート工場に発注する。レディミクストコンクリート工場において、普通ポルトランドセメントと、砂利、砂等の骨材と、水と、混和剤とを強制練りミキサによって練混ぜてコンクリートを製造する。製造されたコンクリートはアジテータトラックによって建設現場に搬送する。このように搬送されたコンクリートは、使用されないで一部が残ったり、受け入れ検査で不合格になったりする場合がある。このようなコンクリートは、残コンクリートあるいは戻りコンクリートとして、アジテータトラックによってレディミクストコンクリート工場に戻され、あるいは他の処理設備に送られる。残コンクリートまたは戻りコンクリートは、所定の回収設備によって、図1に示されているように、所定の回収工程によって処理される。
【0015】
回収工程は、スラリー化工程、分離工程、脱水工程、破砕・乾燥工程からなるが、これらについて説明する。
(1)スラリー化工程
残コンクリートまたは戻りコンクリートに水を加えてスラリー化し、セメント分が加えられた水に十分に溶け込むようにする。このようなスラリーには、アジテータトラックのミキサを洗浄した洗浄排水や、レディミクストコンクリート工場における洗浄排水が含まれていてもよい。
(2)分離工程
分離工程は、スラリー化工程で得られたスラリーから骨材等の固形分を除去する工程である。本実施の形態においては、分離工程は骨材分離工程と、微砂分除去工程とからなる。分離工程は、メッシュの大きさの異なる複数の振動篩によって実施され、スラリー化工程で得られたスラリーを順次処理して砂利、砂等の骨材を分離する。回収された骨材は、再利用に供するために粒径に応じて所定のビンに送られる。骨材が分離されて残った篩下は、セメント分が含まれているスラッジ水になっている。微砂分除去工程は、本実施の形態においては湿式サイクロンによって実施され、スラッジ水から微細な砂、つまり微砂分を除去する工程である。この工程によって微砂分が除去されたスラッジ水は、次の脱水工程で処理されてもよいし、あるいはスラリー化工程において他の残コンクリートや戻りコンクリートをスラリー化する水として再利用されてもよい。後者のようにするとスラッジ水はセメント分が濃縮される。すなわち濃縮スラッジ水になる。スラッジ水、あるいは濃縮スラッジ水は、本実施の形態においては含砂率が10質量%以下になるように、砂利、砂、微砂分が除去され、次の脱水工程に送られる。
(3)脱水工程
スラッジ水あるいは濃縮スラッジ水をフィルタプレスによって処理して脱水し、脱水ケーキを得る。本実施の形態においては脱水ケーキの含水率は、25〜45質量%になるようにする。
(4)破砕・乾燥工程
本実施の形態においては、この工程において所定のドラムを使用する。ドラムは、内部において高速に回転する破砕攪拌翼が設けられていると共に熱風が吹き込まれるようになっている。従って脱水ケーキをドラム内に入れてドラムを閉鎖する。破砕攪拌翼を回転させると共に熱風を吹き込むと破砕攪拌翼によって破砕され、熱風によって乾燥される。つまり破砕と乾燥が実質的に同時に実施される。これによって脱水ケーキは細分化されて表面積が大きくなって速やかに乾燥することができ、セメント分の水和反応が進行しないうちにセメント分を含んだ微粉末、つまりコンクリートスラッジ微粉末を製造することができる。なお、この破砕・乾燥工程はバッチ的に実施してもよいが、連続的に実施してもよい。すなわち特許文献1(特許第4472776号公報)に記載されている回転ドラムのような、一方の端部に脱水ケーキの投入部が、他方の端部にコンクリートスラッジ微粉末の回収部が設けられている、横型の回転ドラムを使用してもよい。回転ドラムは内周面にリフターが設けられている。従って回転ドラムが回転すると内部の脱水ケーキが所定の高さまで持ち上げられて落下するようになっている。このようにして落下する脱水ケーキが、回転ドラム内に設けられて高速で回転するようになっている破砕攪拌翼によって破砕され、そして供給される熱風によって乾燥されるようになっている。この横型の回転ドラムにおいて投入部から連続的に脱水ケーキを投入し、回転ドラム内で脱水ケーキの破砕と乾燥とを同時に実施すると、他方の端部からコンクリートスラッジ微粉末を連続的に回収できる。
【0016】
本発明においては、このように製造されたコンクリートスラッジ微粉末を結合材として使用し、この結合材と、骨材と、混練水と、必要に応じて添加される混和剤とから混練して水硬化性硬化体を得る。本発明において結合材には、コンクリートスラッジ微粉末の量を超えない程度の普通ポルトランドセメントを含むようにしてもいいし、高炉スラグ微粉末やフライアッシュを含むようにしてもよい。結合材中におけるコンクリートスラッジ微粉末の含有割合について格別に限定はしないが、コンクリートスラッジ微粉末は結合材の主たる材料とし、好ましくは質量比で40%以上、より好ましくは50%以上とする。本発明の目的の一つに資源の再利用の促進があり、結合材におけるコンクリートスラッジ微粉末の含有割合が大きいほど好ましいからである。
【0017】
本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体は、石膏も結合材に所定の割合含まれている点に特徴がある。コンクリートスラッジ微粉末を結合材とする水硬化性硬化体は凝結時間が早く、硬化時の収縮量が大きい問題があるが、本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体は石膏を所定の割合で含んでいるので、凝結時間を遅らせることができ、そして硬化時の収縮量も小さい。石膏は二水石膏であっても半水石膏であっても、あるいは無水物である硬石膏であっても利用できるが、本発明においては、石膏は無水物換算で混合割合を規定している。すなわち本発明において、結合材に含まれているコンクリートスラッジ微粉末の質量に対して石膏は無水物換算で4.0%以上になるように混合する。このような混合割合とすることが適切であることは、次に説明する実験から本願発明者等が明らかにしたが、この割合で石膏を混合することによって、本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体は、凝結時間と硬化時の収縮量において、結合材が普通ポルトランドセメントのみからなるコンクリートとほぼ同等の性能が得られることになる。つまり、本発明の水硬化性硬化体においては結合材の質量比で40%以上、あるいは50%以上コンクリートスラッジ微粉末を含有させることが好ましいと説明したが、石膏を所定の割合で混合することによって、コンクリートスラッジ微粉末を高い割合で含有させる場合に生じる性能上の問題を解決できることが保証されている。
【実施例1】
【0018】
結合材にコンクリートスラッジ微粉末を含む水硬化性硬化体において、石膏も結合材として含有させることによって凝結時間を遅くすることができ、そして硬化時における収縮量を小さくできることを確認するため実験を行った。
水硬化性硬化体の製造:
図2の表において、No.A、B1、C1、…b3、c3として示されているように、色々な種類の結合材と骨材と石膏とを混練して、水硬化性硬化体を得た。具体的には、No.A、aは、それぞれ普通ポルトランドセメントのみを結合材とするモルタルとコンクリートである。またNo.B1、B2、…b1、…b3の水硬化性硬化体は、結合材にコンクリートスラッジ微粉末を含むが、石膏は含まない水硬化性硬化体である。これに対してNo.C1、C2、…c1、…c3の水硬化性硬化体は、結合材にコンクリートスラッジ微粉末と石膏とを含む水硬化性硬化体である。つまり本発明の実施の形態に係る水硬化性硬化体である。
凝結時間の試験:
No.A、B1、C1、…b3、c3のそれぞれの水硬化性硬化体について、JISA1147「コンクリートの凝結時間試験方法」に準拠して始発時間を測定し、図2の表に示されている結果を得た。No.Aはいわゆるモルタルであり、この始発時間4.1時間を基準とし、始発時間が基準の0.9倍より長い場合には合格、短い場合には不合格として、No.B1、C1、…C4のそれぞれの水硬化性硬化体について合否判定した。同様にNo.aのコンクリートの始発時間6.5時間を基準とし、始発時間がその0.9倍より長い場合には合格、短い場合には不合格として、No.b1、c1、…c3のそれぞれの水硬化性硬化体について合否判定した。得られた合否判定が図2の表に示されている。
硬化時の収縮量の試験:
No.A、B1、C1、…b3、c3のそれぞれの水硬化性硬化体について
直径100mm、高さ200mmの円柱状の試験体の型枠に打設し、試験体には埋込みひずみ計を埋設した。それぞれの試験体は材齢7日まで20℃封かん養生を、そして材齢7日から以降は20℃、相対湿度60%の気乾養生を実施した。No.A、B1、C1、…c3のそれぞれの試験体について乾燥材齢182日における自由ひずみを測定し、図2の表のように得た。No.Aの水硬化性硬化体すなわちモルタルの自由ひずみ992μmを基準とし、自由ひずみが基準の1.1倍以下であれば合格、それ以上であれば不合格として、No.B1、C1、…C4のそれぞれの水硬化性硬化体について合否判定した。同様にNo.aの水硬化性硬化体すなわちコンクリートの自由ひずみ49μmを基準とし、自由ひずみが基準の1.1倍以下であれば合格、それ以上であれば不合格として、No.b1、c1、…c3のそれぞれの水硬化性硬化体について合否判定した。得られた合否判定が図2の表に示されている。
グラフについて:
No.A、B1、…b3、c3のそれぞれの水硬化性硬化体について、合否判定が不合格となったものについては「×」印で、合格となったものについては「○」印でそれぞれプロットしたグラフを図3に示す。
【0019】
考察:
結合材としてコンクリートスラッジ微粉末を含むが石膏を含まないNo.B1、B2、b1、b2、b3の水硬化性硬化体については、いずれも普通ポルトランドセメントのみを結合材とするNo.A、aのモルタルやコンクリートに比して、始発時間は早く、自由ひずみが大きいことが分かる。つまり凝結時間が早く、硬化時の収縮量は大きい。これに対して、結合材としてコンクリートスラッジ微粉末と石膏とを含むNo.C1、C2、C3、C4、c1、c2、c3の水硬化性硬化体については、始発時間が比較的遅く、自由ひずみも小さい。つまり石膏を結合材に含有させることによって、凝結時間を遅らせると共に硬化時の収縮量を抑制できることが確認できた。なお、石膏の混合割合がコンクリートスラッジ微粉末に対して2.9%のNo.C1の水硬化性硬化体は、始発時間も自由ひずみも共に不合格になったが、これは合否判定の判断基準によって不合格になっただけであり、No.C1の水硬化性硬化体も、石膏を含まないNo.B1の水硬化性硬化体に比して、始発時間は遅くなり、自由ひずみも小さくなっていることが確認できた。
図1
図2
図3