(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フェーズドアレイ探触子の送受信信号から、管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した受信信号をカットして、前記中空管の内部を可視化する可視化装置を備える、請求項1に記載の管溶接部探傷装置。
可視化装置により、前記超音波ビームの送受信信号から、管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した受信信号をカットして、前記中空管の内部を可視化する、請求項4に記載の管溶接部探傷方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した小口径管の溶接部は、例えば小口径管をスリーブに溶接した隅肉溶接部であり、中空管の表面近傍に存在する。しかし、溶接部のビード表面には凹凸があるため、探触子がうまく接触しない。そのため表面側からの超音波探傷検査は困難である。
【0007】
そこで、火力プラントにおける小口径配管の溶接部の超音波探傷検査は、固定角の超音波探触子を用いて手動で実施するのが一般的である。この場合、超音波は小口径管の内面で1回又は複数回反射して溶接部に達する。しかし、超音波の入射角度が固定されているため、1回の反射で超音波が到達する範囲が狭く、溶接部に対して探触子を前後に移動させて超音波が溶接部に達するように調整する必要がある。その結果、検出信号には複数回の反射信号や軸方向位置の異なる信号がノイズと共に混在するため、表面近傍の溶接部全体を正確に検査することが困難である。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、中空管(すなわち小口径配管)の表面近傍に存在する溶接部を内面側から正確に検査して、中空管全周の溶接部近傍に存在する欠陥を可視化し、その位置を正確に把握することができる管溶接部探傷装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、中空管の表面近傍に存在する溶接部を超音波探傷検査する管溶接部探傷装置であって、
前記中空管の外周面に同軸かつ着脱可能に固定可能な中空円筒形のガイドレールと、
セクタスキャンにより超音波ビームの方向を前記中空管の軸方向に放射状に変化させて送受信するフェーズドアレイ探触子と、
前記超音波ビームが前記外周面から前記軸方向に傾斜して入射するように前記フェーズドアレイ探触子を保持し、かつ前記ガイドレールに倣って前記外周面に沿って周方向に移動可能な探触子案内装置と、を備え
、
前記探触子案内装置は、前記フェーズドアレイ探触子を固定する探触子ホルダと、
前記探触子ホルダを前記外周面に接触させて保持し前記外周面に沿って周方向に移動可能な保持リングと、を有し、
前記探触子ホルダは、前記中空管の前記外周面と接触する接触面と、前記接触面に対し前記軸方向に傾斜し前記フェーズドアレイ探触子を固定する固定面と、前記ガイドレールに倣って前記探触子ホルダを前記外周面に沿って周方向に移動可能に案内する案内溝と、計測側端面に複数設けられ前記超音波ビームを散乱させる溝と、を有する一体部品であり、
前記保持リングは、前記探触子ホルダを前記外周面に接触させて保持する保持部と、
前記保持部に着脱可能に連結され、前記探触子ホルダとの間に前記中空管を把持する半円形リングと、
前記保持部と前記半円形リングの境界部に設けられ、前記探触子ホルダを前記外周面に向けて付勢するマグネットと、を有する、管溶接部探傷装置が提供される。
【0010】
前記中空管に対する前記フェーズドアレイ探触子の周方向回転角を検出する角度検出器を備える。
【0011】
前記フェーズドアレイ探触子の送受信信号から、管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した受信信号をカットして、前記中空管の内部を可視化する可視化装置を備える。
【0014】
また、本発明によれば、
上記の管溶接部探傷装置を用いて、前記中空管の表面近傍に存在する
前記溶接部を超音波探傷検査する管溶接部探傷方法であって、
中空円筒形の
前記ガイドレールを前記中空管の外周面に同軸かつ着脱可能に固定し、
前記フェーズドアレイ探触子を固定した
前記探触子案内装置を、前記ガイドレールに倣って前記外周面に沿って周方向に移動可能に取り付け、
前記フェーズドアレイ探触子のセクタスキャンにより、
前記超音波ビームの方向を前記中空管の軸方向に放射状に変化させて送受信し、かつ前記ガイドレールに倣って前記探触子案内装置を前記外周面に沿って周方向に移動する、管溶接部探傷方法が提供される。
【0015】
角度検出器により前記中空管に対する前記フェーズドアレイ探触子の周方向回転角を検出する。
【0016】
可視化装置により、前記超音波ビームの送受信信号から、管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した受信信号をカットして、前記中空管の内部を可視化する。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の装置と方法によれば、中空管の表面近傍に存在する溶接部から検査に最適な距離だけ離れた中空管の外周面に、中空円筒形のガイドレールを同軸かつ着脱可能に固定する。
また、探触子案内装置により、超音波ビームが外周面から軸方向に傾斜して入射するようにフェーズドアレイ探触子を保持する。
【0018】
従って、ガイドレールと探触子案内装置により、フェーズドアレイ探触子を溶接部から検査に最適な位置に位置決めし、フェーズドアレイ探触子のセクタスキャンにより超音波ビームの方向を中空管の軸方向に放射状に変化させて送受信することができる。これにより超音波ビームは中空管の内面で1回反射して溶接部近傍に到達し、その反射波も中空管の内面で1回反射して受信され、超音波ビームの角度と送受信の時間差から、中空管の表面近傍に存在する溶接部を内面側から正確に検査することができる。
【0019】
また、探触子案内装置により、フェーズドアレイ探触子をガイドレールに倣って外周面に沿って周方向に移動させることができる。これにより、中空管全周にわたり、中空管の表面近傍に存在する溶接部を内面側から正確に検査することができる。
【0020】
従って、中空管全周の溶接部近傍に存在する欠陥を可視化し、その位置を正確に把握することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明が対象とする中空管1の模式図であり、(A)は軸線Z−Zに直交する断面図、(B)は側面断面図である。
中空管1は外径が100mm以下の小口径管であるのが好ましいが、それ以上の大径管であってもよい。中空管1の肉厚は、3mm以上、15mm以下であるのが好ましいが、それ以上であってもよい。
中空管1の材質は、鋼管又はステンレス管であるのが好ましい。しかし、その他の金属、例えばアルミニウムやチタン、その他の合金であってもよい。
【0024】
図1(A)に示すように、中空管1の断面形状(軸線Z−Zに直交する断面形状)は、外径および内径が同心の円管であり、肉厚が一定であるのが好ましい。しかし、その一部が真円でなく、或いは肉厚が部分的に変化してもよい。
【0025】
図1(B)に示すように、この例で中空管1の一部がスリーブ2に挿入され、その端面と中空管1の間が隅肉溶接されている。スリーブ2の内径は中空管1の外径より大きく、その間に間隙3が存在する。溶接部4(隅肉溶接部)は、間隙3を埋めるように全周に形成されている。溶接部4の欠陥は、
図1にC(破線の楕円)で示すように、溶接部4又はその近傍に通常存在する。
【0026】
なお、この例において、溶接部4は、中空管1の軸線Z−Zに直交する円形形状である。しかし本発明はこれに限定されず、溶接部4が中空管1の軸線Z−Zに傾斜していても、或いは軸方向に湾曲していてもよい。
溶接部4の材質は、中空管1と同一又は類似の金属、又はその他の合金であるのがよい。
【0027】
図2は、本発明による第1実施形態の管溶接部探傷装置10の全体構成図である。また、
図3は、
図2のA−A矢視図(A)とB−B線における断面図(B)である。
【0028】
図2、
図3において、本発明の管溶接部探傷装置10は、中空管1の表面近傍に存在する溶接部4を超音波探傷検査する装置であり、ガイドレール12、フェーズドアレイ探触子14、及び探触子案内装置16を備える。
【0029】
ガイドレール12は、中空円筒形であり、中空管1の外周面1aに同軸かつ着脱可能に固定可能に構成されている。この例において、ガイドレール12は、軸線Z−Zに直交する平面内で外周面1aを囲む円環形状である。しかし、溶接部4が中空管1の軸線Z−Zに傾斜又は軸方向に湾曲している場合には、同様に傾斜又は湾曲してもよい。
【0030】
図3(A)に示すように、ガイドレール12は、この例において、半円形リング12a,12b、回転軸12c、及び固定ボルト12dを有する。
【0031】
2つの半円形リング12a,12bは、内径が中空管1の外径と同一又はほぼ同一の半円形の円弧部材である。また半円形リング12a,12bの断面形状はこの例では矩形であるが、矩形以外であってもよい。
【0032】
回転軸12cは、2つの半円形リング12a,12bの一端部(
図3で左端部)を、中空管1の軸線Z−Zに平行な軸を中心に互いに旋回可能に連結する。また、固定ボルト12dは、2つの半円形リング12a,12bの他端部(
図3で右端部)を、中空管1の軸線Z−Zに直交する方向に連結する。
【0033】
半円形リング12a,12bの材質は、中空管1に傷を付けないように、中空管1より柔らかいプラスチック(例えばジュラコン)であるのがよい。なお、本発明はこれに限定されず、アクリル、アルミニウム、その他の金属であってもよい。
【0034】
上述した構成により、固定ボルト12dを外し、回転軸12cを中心に2つの半円形リング12a,12bを互いに反対方向に旋回させることで、ガイドレール12を中空管1の外周面1aから容易に取り外すことができる。
【0035】
また、ガイドレール12の取付け時には、逆に回転軸12cを中心に2つの半円形リング12a,12bを互いに同方向に旋回させて、中空管1の外周面1aに半円形リング12a,12bの内面を密着させる。次いで、固定ボルト12dで半円形リング12a,12bの他端部を連結し、中空管1の軸線Z−Zに直交する方向に圧縮することで、ガイドレール12を中空管1の外周面1aに強固に固定することができる。
【0036】
なお、半円形リング12a,12bの内径が中空管1の外径より大きくその間に隙間が生じる場合には、その隙間に相当する部材(平板又は円弧板)をその間に挟持してもよい。
【0037】
フェーズドアレイ探触子14は、セクタスキャンにより超音波ビームS(
図4参照)の方向を中空管1の軸方向に放射状に変化させて送受信する。超音波ビームSは、好ましくは横波である。
「中空管1の軸方向に放射状に変化させる」とは、中空管1の軸線Z−Zを含む平面内において、超音波ビームSが中空管1の外周面1aに入射する入射角度を変化させることを意味する。
フェーズドアレイ探触子14は、複数(多数)の振動子を内蔵し、個々の振動子が超音波ビームSを送受信するタイミングを独立に制御し、合成した超音波波面を形成することで超音波ビームSの入射方向を変化させるようになっている。
【0038】
この例において、フェーズドアレイ探触子14の各振動子は、送信と受信を兼用する。なお本発明はこの構成に限定されず。送信用と受信用の振動子を別箇に備えてもよい。
【0039】
図2、
図3において、フェーズドアレイ探触子14の外形形状は、直方体であり、その下面から超音波を放射状に送受信する。また上面には制御ケーブル14aが固定されており、制御ケーブル14aを介して制御信号を入出力する。
なお、外形形状は直方体に限定されず性能を保持できる形状であればよい。
【0040】
探触子案内装置16は、超音波ビームS(
図4参照)が外周面1aから傾斜して入射するようにフェーズドアレイ探触子14を保持し、かつガイドレール12に倣って外周面1aに沿って周方向に移動可能に構成されている。
【0041】
図2、
図3において、探触子案内装置16は、探触子ホルダ17と保持リング18を有する。
【0042】
フェーズドアレイ探触子14は、探触子ホルダ17に固定される。
探触子ホルダ17は、この例では、接触面17a、固定面17b、及び案内溝17cを有する。探触子ホルダ17の材質は、中空管1に傷を付けず、超音波ビームSの伝搬に適したアクリル、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどのプラスチック樹脂からなるのがよい。
【0043】
接触面17aは、中空管1の外周面1aと接触する。
図3(B)に示すように、この例において、接触面17aは、中空管1の外径と同一又はほぼ同一の円弧面であり、外周面1aに密着するようになっている。
【0044】
固定面17bは、接触面17aに対し軸方向に傾斜し、フェーズドアレイ探触子14を固定する。固定面17bの傾斜角は、この例では中空管1の軸線Z−Zに対して約47°(好ましくは、47.1°)に設定されている。この理由は後述する。
【0045】
また、この例において、探触子ホルダ17は、その一部にフェーズドアレイ探触子14を収容する矩形孔17dを有する。固定面17bは、矩形孔17dの底面に相当する。矩形孔17dに収容した探触子ホルダ17は、固定ネジ24aにより接触面17aに密着した状態で固定されている。
【0046】
案内溝17cは、ガイドレール12に倣って探触子ホルダ17を外周面1aに沿って周方向に移動可能に案内する。案内溝17cの内面形状は、半円形リング12a,12bの断面形状と同一であることが好ましく、この例では矩形形状である。
なお、案内溝17cはこの例に限定されず、探触子ホルダ17の姿勢を保持したままで、ガイドレール12に倣って探触子ホルダ17を外周面1aに沿って周方向にガタなく移動できる限りで、その他の構造(例えば軸受を用いた案内構造)であってもよい。
【0047】
保持リング18は、
図3(B)において、1対の保持部18a、半円形リング18b、及び複数のマグネット18cを有する。
【0048】
1対の保持部18aは、ボルト18dにより探触子ホルダ17の両側面にそれぞれ強固に固定され、探触子ホルダ17を外周面1aに接触させて保持する。
半円形リング18bは、マグネット18cにより、1対の保持部18aに着脱可能に連結され、探触子ホルダ17との間に中空管1を把持する。
【0049】
保持部18a及び半円形リング18bの材質は、中空管1に傷を付けず、かつ中空管1の外周面1aに沿って円滑に摺動するプラスチック(例えばジュラコン)であるのがよい。なお、本発明はこれに限定されず、アクリル、アルミニウム、その他の金属であってもよい。
【0050】
複数(この例では12)のマグネット18cは、保持部18aと半円形リング18bの境界部にそれぞれ複数(この例では3つずつ)設けられ、探触子ホルダ17を外周面1aに向けて付勢する。マグネット18cは、この例では円筒形の永久磁石であり、保持部18aと半円形リング18bに設けられた嵌合穴に収容され摩擦で固定されている。
なお、本発明はマグネット18cに限定されず、探触子ホルダ17を外周面1aに向けて付勢できる限りで、他の手段(例えばスプリング)を用いてもよい。
【0051】
図2、
図3において、本発明の管溶接部探傷装置10は、さらに、角度検出器20と可視化装置22を備える。
【0052】
角度検出器20は、中空管1に対するフェーズドアレイ探触子14の周方向回転角を検出する。
角度検出器20は、この例では、探触子ホルダ17に固定されたロータリーエンコーダであり、検出車輪20aが中空管1の外周面1aに接触して回転し、中空管1に対するフェーズドアレイ探触子14の周方向回転角を検出し、検出信号を出力する。
なお、角度検出器20の構成はこの例に限定されず、その他の周知のセンサーであってもよく、或は別の構造であってもよい。
【0053】
可視化装置22は、フェーズドアレイ探触子14の送受信信号から管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した受信信号をカットして、中空管1の内部を可視化する。可視化装置22は、この例では、制御装置22aと画像処理装置22bを有する。
【0054】
制御装置22aは、フェーズドアレイ探触子14を制御する。すなわち、制御装置22aは、制御ケーブル14aを介してフェーズドアレイ探触子14に制御信号を入力し、フェーズドアレイ探触子14の受信信号を受信する。制御装置22aは、並行して角度検出器20の検出信号を受信する。
【0055】
画像処理装置22bは、制御装置22aからフェーズドアレイ探触子14の送受信信号を受信し、これから中空管1の溶接部4を可視化して出力する。また、画像処理装置22bは、並行して角度検出器20の検出信号を受信し、中空管全周にわたり、中空管1の内部(特に溶接部4近傍)を可視化して出力するのがよい。
【0056】
図4は、本発明の原理図である。
この図において、フェーズドアレイ探触子14から送信される超音波ビームSの中心線を、符号a→b→c→dで示す。フェーズドアレイ探触子14は、超音波ビームSの方向を中空管1の軸方向に符号a→eから符号a→fの範囲で放射状に変化させて送受信する。
【0057】
この例において、中空管1の材質は一般鋼、探触子ホルダ17の材質はアクリルである。アクリル中の音速C1は約2730m/s、一般鋼中の音速C2は約3230m/sである。この場合、アクリルからの入射角度をα、鋼中での屈折角度をθとすると、スネルの法則から以下の式(1)が成り立つ。
C1/sinα=C2/sinθ・・・(1)
ここで、入射角度αは、図中のα1,αa,αbであり、屈折角度θは、図中のθ1,θa,θbである。
【0058】
超音波ビームSの中心線a→b→c→dにおいて、屈折角度θ1はこの例では60°に設定されている。この場合、入射角度α1は、約47.1°であり、フェーズドアレイ探触子14を固定する固定面17bの傾斜角はこの角度に設定されている。なお、管内面の反射は鏡対称となるので、屈折角度θ1と同じとなる。
【0059】
中空管1の肉厚(厚さ)をTとすると、中心線b→cの軸方向距離Lは、幾何学的に、tanθ1×T、θ1=60°・・・(2)で求められる。
また符号dの位置を中空管1の外周面1aとすると、中心線b→c→dの軸方向距離Lは2×tanθ1×T・・・(3)で求められる。この中心線c→dの範囲が、本発明による主要な計測範囲となる。
【0060】
中心線c→dの範囲で反射された超音波ビームSの一部は、中心線a→b→c→dを逆に戻りフェーズドアレイ探触子14により受信される。
従って、超音波ビームSの中心線a→b→c→dに位置する中空管1の内部、特に中心線c→dの範囲に位置する溶接部4の欠陥の位置を超音波ビームSの角度(入射角度α1と屈折角度θ1)と送受信の時間差から検出することができる。
【0061】
この例において、最小屈折角度θaは45°であり、この場合、最小入射角度αaは約36.7°である。超音波ビームSが中空管1の内面で1回反射して外周面1aに到達するまでの最小軸方向距離Laは、幾何学的に求めることができる。この例では、最小軸方向距離La=2×tanθa×Tである。
また、この例において、最大屈折角度θbは84°であり、この場合、最大入射角度αbは約57.2°である。超音波ビームSが中空管1の内面で1回反射して外周面1aに到達するまでの最大軸方向距離Lbも、幾何学的に求めることができる。
従って、最小入射角度αaから最大入射角度αbまでの範囲で、超音波ビームSが中空管1の内面で1回反射して外周面1aに到達するまでの軸方向距離を幾何学的に求めることができる。
【0062】
フェーズドアレイ探触子14による超音波ビームSの角度は、最小入射角度αaから最大入射角度αbまでの範囲で例えば約0.5°のピッチで変化する。
従って、この範囲内に位置する中空管1の内部の欠陥位置を超音波ビームSの角度と送受信の時間差から検出することができる。
【0063】
図5は、上述した管溶接部探傷装置10を用いた本発明による管溶接部探傷方法の説明図である。この図において、(A)は中空管1の軸線Z−Zを含む断面図、(B)は(A)のC−C矢視図である。
【0064】
図5(A)において、探触子ホルダ17の計測側端面17eは中空管1の軸線Z−Zに対して垂直に形成されている。計測側端面17eは、溶接部4に近接する側の端面である。なお、計測側端面17eは垂直でなくてもよい。
また、計測側端面17eの下端部には、内側に傾斜したテーパ部17fが設けられている。テーパ部17fは、溶接部4との干渉を避けるために設けられている。
【0065】
さらに、
図5(B)に示すように、計測側端面17eとテーパ部17fには、図で上下方向に延びる溝25が多数設けられている。溝25の断面形状は、この例では三角形であるが、その他の形状であってもよい。この溝25(好ましくは三角溝)により、計測側端面17e又はテーパ部17fにおいて超音波ビームSを散乱させて、フェーズドアレイ探触子14で受信する受信信号のノイズを低減することができる。
なお、溝25の外面に、探触子ホルダ17の材質に近い樹脂を接着又はコーティングし、超音波ビームSの反射をさらに低減することが好ましい。
【0066】
本発明による管溶接部探傷方法は、上述した中空管1の表面近傍に存在する溶接部4を超音波探傷検査する方法である。
【0067】
本発明の方法では、初めに、中空円筒形のガイドレール12を中空管1の外周面1aに同軸かつ着脱可能に固定する。この際、ガイドレール12の固定位置は、
図4の中心線b→c→dの軸方向距離Lが計測範囲の中心付近に位置し、最小軸方向距離Laと最大軸方向距離Lbの間に計測範囲が入るように設定する。
【0068】
次に、フェーズドアレイ探触子14を固定した探触子案内装置16を、ガイドレール12に倣って外周面1aに沿って周方向に移動可能に取り付ける。
【0069】
この際、フェーズドアレイ探触子14と固定面17bとの間、及び探触子ホルダ17と外周面1aとの間に、液状の接触媒体を塗布する。また、マグネット18cにより探触子ホルダ17を外周面1aに向けて付勢する。接触媒体とマグネット18cによる付勢により、フェーズドアレイ探触子14から探触子ホルダ17を介して中空管1の内部までの、超音波ビームSの伝搬効率を高めることができる。
【0070】
次いで、この状態で、フェーズドアレイ探触子14のセクタスキャンにより、超音波ビームSの方向を中空管1の軸方向に放射状に変化させて送受信し、かつガイドレール12に倣って探触子案内装置16を外周面1aに沿って周方向に移動する。
【0071】
また、角度検出器20により中空管1に対するフェーズドアレイ探触子14の周方向回転角を検出する。
さらに、可視化装置22により、超音波ビームSの送受信信号から中空管1の内部を可視化する。
【0072】
図6は、本発明により得られる中空管内部の可視化画像の範囲を示す図である。
図4に示したように、管内面における超音波ビームSの反射は鏡対称となるので、管内面で1回反射して検出された中空管1、外周面1a、溶接部4、及びスリーブ2は、その鏡像の中空管1’、外周面1a’、溶接部4’、及びスリーブ2’として検出される。
また、管内面での反射回数を1回に限定し、2回以上反射した超音波ビームSの受信信号をカットすることで、中空管内部の可視化画像の範囲を
図6に示す斜線範囲とすることができる。
【0073】
図7は、本発明による第2実施形態の管溶接部探傷装置10の構成図である。
この図において、(A)はフェーズドアレイ探触子14の側面形状を示し、(B)はフェーズドアレイ探触子14を探触子ホルダ17に固定した状態を示している。
この例に示すように、フェーズドアレイ探触子14の外形形状は性能を保持できる形状であればよい。
第2実施形態のその他の構成は、上述した第1実施形態と同様である。
【実施例1】
【0074】
図8、
図9は、上述した第1実施形態の管溶接部探傷装置10を用いて得られた可視化画像の一例を示す図である。この例は、外径45mmの中空管1の試験結果である。
【0075】
図8は、軸方向断面の可視化画像であり、横軸は中空管1の軸方向距離、縦軸は外周面1aからの深さを示している。
この図において、直射範囲、1回反射範囲、管内面、管外面(外周面1a’)、溶接部4’、及び検出対象箇所(欠陥部)が、明確に可視化されており、欠陥部の軸方向位置と大きさを正確に把握することができる。
【0076】
図9は、周方向断面の可視化画像であり、横軸は中空管1の周方向角度、縦軸は外周面1aからの深さを示している。
この図において、周方向角度が0〜360°にわたり、直射範囲、1回反射範囲、管内面、管外面(外周面1a’)、溶接部4’、及び検出対象箇所(欠陥部)が、明確に可視化されており、欠陥部の周方向位置と大きさを正確に把握することができる。
【0077】
上述した本発明の装置と方法によれば、中空管1の表面近傍に存在する溶接部4から検査に最適な距離だけ離れた中空管1の外周面1aに、中空円筒形のガイドレール12を同軸かつ着脱可能に固定する。
また、探触子案内装置16により、超音波ビームSが外周面1aから軸方向に傾斜して入射するようにフェーズドアレイ探触子14を保持する。
【0078】
従って、ガイドレール12と探触子案内装置16により、フェーズドアレイ探触子14を溶接部4から検査に最適な位置に位置決めし、フェーズドアレイ探触子14のセクタスキャンにより超音波ビームSの方向を中空管1の軸方向に放射状に変化させて送受信することができる。これにより超音波ビームSは中空管1の内面で1回反射して溶接部近傍に到達し、その反射波も中空管1の内面で1回反射して受信される。以上の構成により、超音波ビームSの角度と送受信の時間差から、中空管1の表面近傍に存在する溶接部4を内面側から正確に検査することができる。
【0079】
また、探触子案内装置16により、フェーズドアレイ探触子14をガイドレール12に倣って外周面1aに沿って周方向に移動させることができる。これにより、中空管全周にわたり、中空管1の表面近傍に存在する溶接部4を内面側から正確に検査することができる。
【0080】
従って、中空管全周の溶接部近傍に存在する欠陥を可視化し、その位置を正確に把握することができる。
【0081】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
C1 アクリル中の音速、C2 一般鋼中の音速、
α,α1,αa,αb 入射角度、θ,θ1,θa,θb 屈折角度、
L,La,Lb 軸方向距離、S 超音波ビーム、T 中空管の肉厚(厚さ)、
Z 中空管の軸線、1 中空管(小口径管)、1a 外周面、2 スリーブ、
3 間隙、4 溶接部、10 管溶接部探傷装置、12 ガイドレール、
12a,12b 半円形リング、12c 回転軸、12d 固定ボルト、
14 フェーズドアレイ探触子、14a 制御ケーブル、
16 探触子案内装置、17 探触子ホルダ、17a 接触面、
17b 固定面、17c 案内溝、17d 矩形孔、17e 計測側端面、
17f テーパ部、18 保持リング、18a 保持部、
18b 半円形リング、18c マグネット、18d ボルト、
20 角度検出器(ロータリーエンコーダ)、20a 検出車輪、
22 可視化装置、22a 制御装置、22b 画像処理装置、
24a 固定ネジ、25 溝