特許第6498076号(P6498076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498076
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】作業車のベルト式伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/18 20060101AFI20190401BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20190401BHJP
   F16H 7/20 20060101ALI20190401BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20190401BHJP
   F16H 55/49 20060101ALI20190401BHJP
   A01F 12/56 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   F16H7/18 A
   F16H7/02 Z
   F16H7/20
   F16G5/06 A
   F16H55/49
   A01F12/56 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-163071(P2015-163071)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-40319(P2017-40319A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】永翁 和明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】高木 雅志
(72)【発明者】
【氏名】濱砂 大吾
(72)【発明者】
【氏名】光原 昌希
(72)【発明者】
【氏名】村山 賢多
(72)【発明者】
【氏名】奥平 淳人
(72)【発明者】
【氏名】小谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】中田 昌義
(72)【発明者】
【氏名】池田 太
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲治
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−179150(JP,U)
【文献】 特開2009−287696(JP,A)
【文献】 実開昭63−190654(JP,U)
【文献】 実開平03−091558(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/18
A01F 12/56
F16G 5/06
F16H 7/02
F16H 7/20
F16H 55/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル状に巻かれた心線がベルト断面においてベルト幅方向に並ぶように構成された無端のVベルトと、前記Vベルトが巻き掛けられ、前記Vベルトの背面に案内作用する背面プーリとを備え、
前記Vベルトの回動に伴って前記心線により生じ、前記Vベルトに対して作用するベルト幅方向一方側への片寄り力に抗するように、前記背面プーリにおける案内作用位置の案内面にて、ベルト幅方向一端側の前記Vベルトの巻き掛け経路長と、ベルト幅方向他端側の前記Vベルトの巻き掛け経路長とを異ならせている作業車のベルト式伝動装置。
【請求項2】
前記背面プーリは、前記ベルト幅方向他端側ほど大径になるテーパプーリである請求項1に記載の作業車のベルト式伝動装置。
【請求項3】
前記背面プーリは平プーリであり、
前記平プーリの回動軸心は、前記Vベルトの進行方向と直交する方向に対して交差するように傾斜している請求項1に記載の作業車のベルト式伝動装置。
【請求項4】
ベルト回動方向において前記背面プーリと連続する位置に、前記Vベルトが巻き掛けられるVプーリを備え、
前記Vベルトにおける前記背面プーリと前記Vプーリとの間の直線経路に、前記背面プーリにおける前記Vベルトのベルト幅方向の片寄りを阻止する補助Vプーリを備えている請求項1〜3の何れか一項に記載の作業車のベルト式伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラル状に巻かれた心線がベルト断面においてベルト幅方向に並ぶように構成された無端のVベルトと、前記Vベルトが巻き掛けられ、前記Vベルトの背面に案内作用する背面プーリとを備えた作業車のベルト式伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例であるコンバインに備えるベルト式伝動装置としては、例えば、ベルト(Vベルト)を、処理胴と一体回転する可変径プーリと、扱胴と一体回転するプーリと、扱胴駆動用プーリとにわたって伝動可能に巻き掛け、背面プーリを、扱胴駆動用プーリとプーリとの間に配備して、扱胴駆動用プーリ及びプーリに対するベルトの播き掛け角度を大きくしているものがある(例えば、特許文献1の段落番号0013、図3参照)。又、ベルトを、伝動プーリと、圧風ファンと一体回転するプーリと、一番スクリュコンベヤと一体回転するプーリと、二番スクリュコンベヤと一体回転するプーリと、揺動選別体駆動用のプーリとにわたって伝動可能に巻き掛け、背面プーリを、プーリと伝動プーリとの間に配備して、プーリ及び伝動プーリに対するベルトの播き掛け角度を大きくしているものがある(例えば、特許文献1の段落番号0009、図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−98622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなベルト式伝動装置においては、背面プーリとして平プーリを採用している。又、Vベルトとして、複数の線材を撚り合わせて1本にした心線を、ゴムを主材とするベルト本体の内部に、ベルト幅方向に並ぶスパイラル状に巻いた状態で備える高負荷用のものを採用している。これにより、Vベルトは、伝動時に発生する高い側圧に耐え得る高い強度を有している。その反面、伝動時にVベルトに作用する張力が大きくなり過ぎた場合には、Vベルトを所定のベルトラインからベルト幅方向の一方側に片寄らせる片寄り力がVベルトの内部において発生し、この片寄り力により、背面プーリによるベルト案内箇所において、Vベルトが背面プーリに対して背面プーリの幅方向一端側に片寄る、Vベルトの片寄り、が発生する。このようなVベルトの片寄りが発生すると、Vベルトが片寄る側のVベルトの側圧が大きくなることなどに起因して、Vベルトが片寄る側に位置する心線部分に伸び(撚り合わせた複数の線材の一部が破断した状態)が生じて、Vベルトの張力バランスがベルト幅方向で崩れる虞がある。このような張力バランスの崩れが生じると、Vベルトがうねりだして反転又は脱線する不都合を招くことになる。
【0005】
つまり、背面プーリに対するVベルトの片寄りに起因したVベルトの反転及び脱線を防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段として、本発明に係る作業車のベルト式伝動装置は、
スパイラル状に巻かれた心線がベルト断面においてベルト幅方向に並ぶように構成された無端のVベルトと、前記Vベルトが巻き掛けられ、前記Vベルトの背面に案内作用する背面プーリとを備え、
前記Vベルトの回動に伴って前記心線により生じ、前記Vベルトに対して作用するベルト幅方向一方側への片寄り力に抗するように、前記背面プーリにおける案内作用位置の案内面にて、ベルト幅方向一端側の前記Vベルトの巻き掛け経路長と、ベルト幅方向他端側の前記Vベルトの巻き掛け経路長とを異ならせている。
【0007】
この手段によると、Vベルトに対する背面プーリの案内作用位置において、Vベルトにおけるベルト幅方向一端側での巻き掛け経路長(周長)とベルト幅方向他端側での巻き掛け経路長(周長)とに差を生じさせることができ、この差から得られる前記案内作用位置におけるVベルトのベルト幅方向での張力バランスの変化などにより、前記片寄り力を相殺することが可能な抗力を得ることができる。
【0008】
これにより、背面プーリに対するVベルトの片寄りに起因して、Vベルトが片寄る側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルトが反転又は脱線する虞を回避することができ、結果、Vベルトの耐久性を向上させることができる。
【0009】
課題をより好適に解決するための手段の一つとして、
前記背面プーリは、前記ベルト幅方向他端側ほど大径になるテーパプーリである。
【0010】
この手段によると、Vベルトの巻き掛け経路長(周長)を、Vベルトに対するテーパプーリの案内作用位置において、前述した片寄り力によってVベルトがテーパプーリに対して片寄る側とは反対側に位置するVベルトのベルト幅方向他端側ほど、Vベルトのベルト幅方向一端側よりも、テーパプーリに対するVベルトの巻き掛け長さの差分だけ長くすることができる。
【0011】
これにより、Vベルトに対するテーパプーリの案内作用位置でのVベルトの周速を、Vベルトにおけるベルト幅方向の他端側ほど一端側よりも速くすることができる。そして、この速度差により、Vベルトをベルト幅方向他方側に寄せるクラウン効果を得ることができ、このクラウン効果により前述した片寄り力を相殺することが可能になる。そして、この相殺により、片寄り力によるテーパプーリに対するVベルトの片寄りを防止することができる。
【0012】
その結果、背面プーリに対するVベルトの片寄りに起因して、Vベルトが片寄る側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルトが反転又は脱線する虞を回避することができる。
【0013】
つまり、背面プーリとしてテーパプーリを採用するだけの簡単な構成で、Vベルトの耐久性を向上させることができる。
【0014】
課題をより好適に解決するための手段の一つとして、
前記背面プーリは平プーリであり、
前記平プーリの回動軸心は、前記Vベルトの進行方向と直交する方向に対して交差するように傾斜している。
【0015】
この手段によると、Vベルトに対する平プーリの案内作用位置において、Vベルトの巻き掛け経路長(周長)が、前述した片寄り力によってVベルトが平プーリに対して片寄る側に位置するVベルトにおけるベルト幅方向の一端側ほど他端側よりも長くなるように、平プーリの回動軸心を傾斜させるようにすれば、平プーリを、平プーリに対するVベルトのベルト幅方向一方側からベルト幅方向他方側への滑りを許容する傾斜姿勢で装備することができる。又、Vベルトに対する平プーリの案内作用位置において得られるVベルトの弾性によるベルト巻き掛け方向の復元力を、Vベルトにおけるベルト幅方向の一端側ほど他端側よりも大きくすることができる。
【0016】
これらにより、Vベルトに対する平プーリの案内作用位置において、Vベルトを平プーリに対してベルト幅方向の一方側から他方側に滑らせる滑り力を得ることができ、この滑り力により前述した片寄り力を相殺することが可能になる。そして、この相殺により、片寄り力による平プーリに対するVベルトの片寄りを防止することができる。
【0017】
その結果、背面プーリに対するVベルトの片寄りに起因して、Vベルトが片寄る側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルトが反転又は脱線する虞を回避することができる。
【0018】
つまり、背面プーリとして安価な平プーリを採用しながら、Vベルトの耐久性を向上させることができる。
【0019】
課題をより好適に解決するための手段の一つとして、
ベルト回動方向において前記背面プーリと連続する位置に、前記Vベルトが巻き掛けられるVプーリを備え、
前記Vベルトにおける前記背面プーリと前記Vプーリとの間の直線経路に、前記背面プーリにおける前記Vベルトのベルト幅方向の片寄りを阻止する補助Vプーリを備えている。
【0020】
この手段によると、背面プーリに対するVベルトの片寄りをより確実に阻止することができる。これにより、背面プーリに対するVベルトの片寄りに起因して、Vベルトが片寄る側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルトが反転又は脱線する虞をより確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】自脱形コンバインの左側面図である。
図2】自脱形コンバインにおける伝動系統の概略図である。
図3】脱穀装置の縦断左側面図である。
図4】第七ベルト式伝動装置などの構成を示す脱穀装置の要部の左側面図である。
図5】背面プーリに平プーリを採用した第七ベルト式伝動装置の要部の縦断背面図である。
図6】付勢機構の構成を示す脱穀装置の要部の左側面図である。
図7】扱胴前端部の支持構造を示す脱穀装置の要部の縦断左側面図である。
図8】背面プーリにテーパプーリを採用した別実施形態での第七ベルト式伝動装置の要部の縦断背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車のベルト式伝動装置を、作業車の一例である自脱形コンバインに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
尚、図1に記載した符号Fの矢印が指し示す方向が自脱形コンバインの前側であり、符号Uの矢印が指し示す方向が自脱形コンバインの上側である。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態で例示する自脱形コンバインは、車体の骨組みを形成する車体フレーム1、車体フレーム1の下部に取り付けた左右のクローラ走行装置2、作業走行時に植立穀稈を刈り取って後方に搬送する刈取搬送装置3、刈取搬送装置3からの刈取穀稈に脱穀・選別処理を施す脱穀装置4、脱穀装置4からの穀粒を貯留する穀粒タンク5、穀粒タンク内の穀粒を機外に排出するスクリュ搬送式の穀粒排出装置6、搭乗運転用の操縦部7、操縦部7の後下部に位置するエンジン8、及び、エンジン8からの動力を変速する変速ユニット9、などを備えている。
【0025】
図1〜3に示すように、脱穀装置4は、刈取穀稈を後方に搬送する挟持搬送機構10、挟持搬送機構10が搬送する刈取穀稈の穂先側に脱穀処理を施す扱胴11、脱穀処理で得られた選別対象物を後方に移送しながら篩い選別する揺動選別機構12、揺動選別機構12の後上部に備えた複数の篩線12Aに堆積する選別対象物に解し作用を施す拡散胴13、選別対象物に選別風を供給する唐箕14、唐箕14からの選別風により後上方に風力搬送された稈屑などを吸引して機外に排出する排塵ファン15、選別処理で得られた単粒化穀粒を右方に搬送する一番スクリュ16、選別処理で得られた枝梗附着粒や二又粒などを右方に搬送する二番スクリュ17、一番スクリュ16からの単粒化穀粒を揚送して穀粒タンク5に供給する揚送コンベヤ18、及び、二番スクリュ17からの枝梗附着粒や二又粒などに扱き処理を施して揺動選別機構12に還元する二番還元機構19、及び、脱穀処理後の刈取穀稈を細断する細断機構20、などを備えている。
【0026】
図2に示すように、自脱形コンバインは、ベルト式伝動装置として、エンジン8から変速ユニット9に伝動する第一ベルト式伝動装置A1、変速ユニット9から刈取搬送装置3に伝動する第二ベルト式伝動装置A2、エンジン8からカウンタ軸21に伝動する第三ベルト式伝動装置A3、カウンタ軸21と一対のベベルギア22を介して連動する伝動軸23から扱胴11に伝動する第四ベルト式伝動装置A4、カウンタ軸21から唐箕14に伝動する第五ベルト式伝動装置A5、カウンタ軸21から一番スクリュ16に伝動する第六ベルト式伝動装置A6、一番スクリュ16から二番スクリュ17と拡散胴13とギア式伝動装置24の入力軸24Aとに伝動する第七ベルト式伝動装置A7、第七ベルト式伝動装置A7から揺動選別機構12に伝動する第八ベルト式伝動装置A8、及び、ギア式伝動装置24の入力軸24Aから細断機構20に伝動する第九ベルト式伝動装置A9、などを備えている。
【0027】
図2及び図4に示すように、自脱形コンバインは、第五〜第九の各ベルト式伝動装置A5〜A9を、車体の左側端に位置する脱穀装置4の左側壁4Aに、左側壁4Aの外側面に沿って配備している。これにより、第五〜第九の各ベルト式伝動装置A5〜A9に対するメンテナンスを、車体の左外方から容易に行うことができる。
【0028】
第七ベルト式伝動装置A7は、一番スクリュ16と一体回転する第一Vプーリ25、二番スクリュ17と一体回転する第二Vプーリ26、ギア式伝動装置24の入力軸24Aと一体回転する第三Vプーリ27、拡散胴13と一体回転する第四Vプーリ28、各Vプーリ25〜28に伝動可能に巻き掛けた無端のVベルト29、V溝を有する第一ガイドプーリ30と第二ガイドプーリ31、Vベルト29の背面に案内作用する第一背面プーリ32と第二背面プーリ33、及び、Vベルト29を緊張状態に維持するテンションプーリ34、などを備えている。
【0029】
第一Vプーリ25は、Vベルト29を車体の左側面視で左回りに回動させる駆動プーリである。そして、第一Vプーリ25は、脱穀装置4における下部の前後中間位置に位置している。第二Vプーリ26は、第一Vプーリ25の後方に位置している。第三Vプーリ27は、第二Vプーリ26よりも車体後側で、第二Vプーリ26よりも車体上側に位置している。第四Vプーリ28は、第二Vプーリ26よりも車体前側で、第二Vプーリ26よりも車体上側に位置している。
【0030】
第一ガイドプーリ30は、離間距離の長い第一Vプーリ25と第四Vプーリ28との間に位置している。又、第一ガイドプーリ30は、脱穀装置4の左側壁4Aにおける第一Vプーリ25と第四Vプーリ28との間に備えた点検口4B、及び、この点検口4Bを開閉可能に塞ぐカバー4Cよりも車体上側で、第一Vプーリ25と第四Vプーリ28との中間位置の近くに位置している。これにより、点検口4Bからの脱穀装置内の揺動選別機構12などに対するメンテナンスに支障を来すことなく、Vベルト29における第一Vプーリ25と第四Vプーリ28との間の長いベルト部分を、第一ガイドプーリ30にて適切に案内支持することができる。その結果、Vベルト29の回動時に、離間距離の長い第一Vプーリ25と第四Vプーリ28との間において生じる虞のあるVベルト29のうねりを抑制することができ、このうねりに起因したVベルト29の反転などを防止することができる。
【0031】
第二ガイドプーリ31は、第一Vプーリ25と第二Vプーリ26との間に位置している。第一背面プーリ32は、第三Vプーリ27と第四Vプーリ28との間に位置して、第三Vプーリ27及び第四Vプーリ28に対するVベルト29の巻き掛け角を大きくしている。第二背面プーリ33は、第二Vプーリ26と第二ガイドプーリ31との間に位置して、第二Vプーリ26及び第二ガイドプーリ31に対するVベルト29の巻き掛け角を大きくしている。テンションプーリ34は、第一Vプーリ25と第二ガイドプーリ31との間に位置して、第一Vプーリ25及び第二ガイドプーリ31に対するVベルト29の巻き掛け角を大きくしながら、Vベルト29を緊張状態に維持している。
【0032】
図5に示すように、Vベルト29は、ゴムを主材とするベルト本体29Aの内部に、複数の線材を撚り合わせて1本にした心線29Bを、ベルト幅方向に並ぶスパイラル状に巻いた状態で備えることにより、伝動時に発生する高い側圧に耐え得る高い強度を有している。その反面、伝動時にVベルト29に作用する張力が大きくなり過ぎた場合には、Vベルト29を所定のベルトラインからベルト幅方向の一方側(この実施形態では車体左側)に片寄らせる片寄り力F1がVベルト29の内部において発生し、この片寄り力F1により、第一背面プーリ32によるベルト案内箇所において、Vベルト29が第一背面プーリ32に対して第一背面プーリ32の幅方向一端側(左端側)に片寄る、Vベルト29の片寄り、が発生する。このようなVベルト29の片寄りが発生すると、Vベルト29が片寄る左側のVベルト29の側圧が大きくなることなどに起因して、Vベルト29の左側に位置する心線部分に伸び(撚り合わせた複数の線材の一部が破断した状態)が生じて、Vベルト29の張力バランスがベルト幅方向で崩れる虞がある。このような張力バランスの崩れが生じると、Vベルト29がうねりだして反転又は脱線する不都合を招くことになる。
【0033】
そこで、第七ベルト式伝動装置A7においては、第一背面プーリ32として平プーリ32Aを採用し、この平プーリ32Aの回動軸心Xを、Vベルト29の進行方向と直交する方向に対して交差するように傾斜させることにより、平プーリ32Aにおける案内作用位置の案内面32aにて、ベルト幅方向一端側のVベルト29の巻き掛け経路長と、ベルト幅方向他端側のVベルト29の巻き掛け経路長とを異ならせている。
【0034】
具体的には、平プーリ32Aは、その下半部にVベルト29の背面が巻き掛けられるように、第三Vプーリ27と第四Vプーリ28との間に位置している。そして、平プーリ32Aを相対回転可能に支持する支軸35を、脱穀装置4の左側壁4Aから水平姿勢で左方に延出させている。支軸35は、平プーリ32Aの回動軸心Xを所定角度で左下がりに傾斜させるカラー35Aを固定装備している。
これにより、平プーリ32Aを、Vベルト29に対する平プーリ32Aの案内作用位置となる平プーリ32Aの下部側において、平プーリ32Aに対するVベルト29の左方側から右方側への滑りを許容する左傾倒姿勢で、脱穀装置4の左側壁4Aに備えることができる。
又、Vベルト29の巻き掛け経路長(周長)を、平プーリ32Aにおける案内作用位置の案内面32aにて、片寄り力F1によってVベルト29が平プーリ32Aに対して片寄る側(左側)に位置するVベルト29のベルト幅方向一端側(左端側)ほどベルト幅方向他端側(右端側)よりも長くすることができる。これにより、Vベルト29に対する平プーリ32Aの案内作用位置において得られるVベルト29の弾性による巻き掛け方向の復元力を、Vベルト29の左端側ほど右端側よりも大きくすることができる。
その結果、Vベルト29に対する平プーリ32Aの案内作用位置において、Vベルト29を平プーリ32Aに対して右方向に滑らせる滑り力F2を得ることができ、この滑り力F2により片寄り力F1を相殺することが可能になる。そして、この相殺により、片寄り力F1による平プーリ32Aに対するVベルト29の片寄りを防止することができ、この片寄りに起因して、Vベルト29の左側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルト29が反転又は脱線する虞を回避することができる。
【0035】
図4及び図5に示すように、平プーリ32Aは、その支軸35の延出端を、脱穀装置4の左側壁4Aに固定した支持部材4Gにて支持することにより、脱穀装置4の左側壁4Aに安定した支持状態で備えることができる。
【0036】
図4に示すように、第七ベルト式伝動装置A7は、Vベルト29における第一背面プーリ32と第三Vプーリ27との間の直線経路に、第一背面プーリ32におけるVベルト29のベルト幅方向の片寄りを阻止する第一補助Vプーリ36を備えている。又、第七ベルト式伝動装置A7は、Vベルト29における第一背面プーリ32と第四Vプーリ28との間の直線経路に、第一背面プーリ32におけるVベルト29のベルト幅方向の片寄りを阻止する第二補助Vプーリ37を備えている。
これらにより、第一背面プーリ32に対するVベルト29の片寄りをより確実に阻止することができる。その結果、第一背面プーリ32に対するVベルト29の片寄りに起因して、Vベルト29が片寄る左側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルト29が反転又は脱線する虞をより確実に回避することができる。
【0037】
第七ベルト式伝動装置A7は、第一Vプーリ25に対するベルト回動方向上手側の隣接箇所に、第一Vプーリ25に対するVベルト29の姿勢を、Vベルト29の内周部が第一Vプーリ25のV溝に入り込む適正姿勢に保持するリテーナ38を備えている。
これにより、第一Vプーリ25に対するベルト回動方向上手側の隣接箇所でのVベルト29のうねりを阻止することができ、この箇所でのうねりに起因したVベルト29の反転及び脱線を防止することができる。その結果、第一Vプーリ25によるVベルト29の駆動を良好に行うことができる。
【0038】
リテーナ38は、脱穀装置4の左側壁4Aに備えた第一支持部4Dに取り付けている。リテーナ38には、L字形に屈曲した丸棒鋼材を採用している。そして、リテーナ38は、第一支持部4Dから左方に延出する延出部38Aが第一Vプーリ25の背面に作用することにより、Vベルト29を第一Vプーリ25に対する適正姿勢に保持している。
【0039】
尚、リテーナ38として、第一Vプーリ25の背面に作用するローラ又は平プーリなどを採用してもよい。
【0040】
図4及び図6に示すように、第七ベルト式伝動装置A7は、一番スクリュ16の支軸16Aを支点にして揺動する揺動アーム39を備えている。そして、テンションプーリ34を、その揺動アーム39の遊端部に備えている。
【0041】
第七ベルト式伝動装置A7は、テンションプーリ34を、Vベルト29を緊張状態に維持する方向に揺動付勢する付勢機構40を備えている。付勢機構40は、脱穀装置4の左側壁4Aに備えた第二支持部4Eに受け止め支持される雌ネジ部材41、雌ネジ部材41にねじ込み可能な雄ネジ部42Aを有する調節ボルト42、及び、調節ボルト42の一端部と揺動アーム39の遊端部とにわたる引っ張りバネ43、などを備えている。
これにより、付勢機構40は、雌ネジ部材41を操作して、脱穀装置4の第二支持部4Eに受け止められた雌ネジ部材41からの調節ボルト42の延出量を調節することにより、Vベルト29のテンションを調節することができる。
【0042】
調節ボルト42は、その一端部を幅広の板状に形成して穴あけ加工を施すことにより、その一端部に、引っ張りバネ43の一端部を引っ掛けることが可能な引掛部42Bを備えている。揺動アーム39は、その遊端部に穴あけ加工を施すことにより、その遊端部に、引っ張りバネ43の他端部を引っ掛けることが可能な引掛部39Aを備えている。
【0043】
付勢機構40は、雌ネジ部材41の操作による引っ張りバネ43の張り過ぎを防止する規制具44を備えている。規制具44は、その一端部に、調節ボルト42における雄ネジ部42Aの挿通を許容し、かつ、引掛部42Bを受け止めるリング部44Aを備えている。又、規制具44は、その他端部に、揺動アーム39の引掛部39Aに引っ掛けることが可能なフック部44Bを備えている。
これにより、調節ボルト42の雄ネジ部42Aを規制具44のリング部44Aに挿通し、かつ、規制具44のフック部44Bを揺動アーム39の引掛部39Aに引っ掛けた状態で、雌ネジ部材41の操作により、雌ネジ部材41からの調節ボルト42の延出量を短くするバネ張り操作を行うと、この操作によって引っ張りバネ43の張り量が適正量に達した段階で、調節ボルト42の引掛部42Bが規制具44のリング部44Aに接触することにより、雌ネジ部材41によるバネ張り操作が阻止される。その結果、雌ネジ部材41の操作による引っ張りバネ43の張り過ぎを確実に防止することができる。
又、長期の使用により、Vベルト29に伸びが生じた場合には、その伸び量に応じて引っ張りバネ43が収縮することにより、Vベルト29の伸び量が大きいほど、規制具44のリング部44Aが調節ボルト42の引掛部42Bから離れることから、Vベルト29の伸びを容易に視認することができる。そして、Vベルト29の伸びを視認した場合には、雌ネジ部材41によるバネ張り操作を行うことにより、Vベルト29の伸びに応じた適正なVベルト29のテンション調整を容易に行うことができる。
【0044】
図3及び図7に示すように、扱胴11は、その回転支軸11Aの前端部に小径部11aを有している。そして、扱胴11は、その小径部11aに、第四ベルト式伝動装置A4の出力プーリ45を一体回転可能に備えている。又、扱胴11は、その小径部11aが、脱穀装置4の縦壁4Fに備えた支持ユニット46により支持されている。
【0045】
図7に示すように、支持ユニット46は、脱穀装置4の縦壁4Fにボルト連結するホルダ47、ホルダ47に内嵌するベアリング48、及び、ホルダ47とベアリング48との間に介在するカラー49、などを備えている。
【0046】
カラー49は、回転支軸11Aの小径部11aと大径部11bとにわたる前後長さを有している。そして、カラー49は、その前端部の外径を大きくすることにより、カラー49の前面49Aとベアリング48の背面48Aとの接触面積を大きくしている。又、カラー49は、回転支軸11Aの大径部11bに対する嵌合長さを長くすることにより、カラー49の内周面49Bと大径部11bの周面との接触面積を大きくしている。
これにより、扱胴11の軽量化を図るために、回転支軸11Aの大径部11bを小径にすることにより、回転支軸11Aにおける小径部11aと大径部11bとの段差が小さくなったとしても、カラー49の作用により、回転支軸11Aをベアリング48に安定性良く支持させることができる。
その結果、扱胴11の軽量化を図りながらも、回転支軸11Aにおける小径部11aと大径部11bとの段差が小さくなることに起因して扱胴11の回転駆動時に招く虞のある、回転支軸11Aとベアリング48との間でのフレッティングを防止することができ、フレッティングによる回転支軸11A又はベアリング48の摩耗を防止することができる。
【0047】
〔別実施形態〕
本発明は、上記の実施形態で例示した構成に限定されるものではなく、以下、本発明の代表的な別実施形態を例示する。
【0048】
〔1〕本発明に係る作業車のベルト式伝動装置は、例えば、Vベルト29の巻き掛け径の変更を可能にする割りプーリを備えたベルト式無段変速装置、などであってもよい。
【0049】
〔2〕第七ベルト式伝動装置A7においては、第一背面プーリ32として採用した平プーリ32Aの回動軸心Xを所定角度で左下がりに傾斜させるために、平プーリ32Aを相対回転可能に支持する支軸35を、脱穀装置4の左側壁4Aから左下がり姿勢で左方に延出させるようにしてもよい。
このようにすると、平プーリ32Aの回動軸心Xを所定角度で左下がりに傾斜させるカラー35Aを不要にすることができる。
【0050】
〔3〕図8に示すように、第七ベルト式伝動装置A7においては、第一背面プーリ32として、ベルト幅方向右端側ほど大径になるテーパプーリ32Bを採用してもよい。
この構成によると、Vベルト29の巻き掛け経路長(周長)を、Vベルト29に対するテーパプーリ32Bの案内作用位置において、前述した片寄り力F1によってVベルト29がテーパプーリ32Bに対して片寄る側とは反対側に位置するVベルト29のベルト幅方向右端側ほど、Vベルト29のベルト幅方向左端側よりも、テーパプーリ32Bに対するVベルト29の巻き掛け長さの差分だけ長くすることができる。
これにより、Vベルト29に対するテーパプーリ32Bの案内作用位置でのVベルト29の周速を、Vベルト29におけるベルト幅方向の右端側ほど左端側よりも速くすることができる。そして、この速度差により、Vベルト29をベルト幅方向他方側である右側に寄せるクラウン効果を得ることができ、このクラウン効果により、前述した片寄り力F1を相殺することが可能な抗力F2を得ることができる。そして、この相殺により、片寄り力F1によるテーパプーリ32Bに対するVベルト29の片寄りを防止することができる。
その結果、第一背面プーリ32に対するVベルト29の片寄りに起因して、Vベルト29が片寄る側に位置する心線部分に伸びが生じてVベルト29が反転又は脱線する虞を回避することができる。
【0051】
〔4〕第七ベルト式伝動装置A7において、伝動時にVベルト29に作用する張力が大きくなり過ぎることに起因して、Vベルト29を所定のベルトラインからベルト幅方向の右側に片寄らせる片寄り力F1がVベルト29の内部において発生し、この片寄り力F1により、第一背面プーリ32によるベルト案内箇所において、Vベルト29が第一背面プーリ32に対して第一背面プーリ32の右端側に片寄る、Vベルト29の片寄り、が発生する場合には、例えば、第一背面プーリ32として平プーリ32Aを採用し、この平プーリ32Aの回動軸心Xを、所定角度で右下がりに傾斜させるようにしてもよい。又、例えば、第一背面プーリ32として、ベルト幅方向左端側ほど大径になるテーパプーリ32Bを採用してもよい。
【0052】
〔5〕第二背面プーリ33によるベルト案内箇所(第二背面プーリ33の上半部)において、前述した片寄り力F1により、Vベルト29が第二背面プーリ33に対して第二背面プーリ33の幅方向一端側(左端側)に片寄る、Vベルト29の片寄り、が発生する場合には、例えば、第二背面プーリ33として平プーリを採用し、この平プーリの回動軸心を、Vベルト29の進行方向と直交する方向に対して交差するように傾斜させる(所定角度で右下がりに傾斜させる)ことにより、平プーリを、Vベルト29に対する平プーリの案内作用位置となる平プーリの上部側において、平プーリに対するVベルト29の左方側から右方側への滑りを許容する右傾倒姿勢で、脱穀装置4の左側壁4Aに備えるようにしてもよい。又、例えば、第二背面プーリ33して、ベルト幅方向右端側ほど大径になるテーパプーリを採用してもよい。
【0053】
〔6〕第一ベルト式伝動装置A1〜第六ベルト式伝動装置A6、第七ベルト式伝動装置A7、及び、第八ベルト式伝動装置A8のいずれかが、スパイラル状に巻かれた心線がベルト幅方向に並ぶように内部に備えられた無端のVベルトと、Vベルトの背面に案内作用する背面プーリとを備えており、これにより、伝動時にVベルトに作用する張力が大きくなり過ぎることに起因して、Vベルトを所定のベルトラインからベルト幅方向一方側に片寄らせる片寄り力F1がVベルトの内部において発生し、この片寄り力F1により、背面プーリによるベルト案内箇所において、Vベルトが背面プーリに対して背面プーリのベルト幅方向一端側に片寄る、Vベルトの片寄り、が発生する場合には、例えば、そのベルト式伝動装置の背面プーリとして平プーリを採用し、この平プーリの回動軸心を、Vベルトに対する平プーリの案内作用位置において片寄り力F1に対する適正な滑り力F2を得ることができる所定角度で傾斜させるようにしてもよい。又、例えば、そのベルト式伝動装置の背面プーリとして、Vベルトに対するテーパプーリの案内作用位置において片寄り力F1に対する適正な抗力F2を得られるようにベルト幅方向他端側ほど大径にしたテーパプーリを採用してもよい。
【0054】
〔7〕第七ベルト式伝動装置A7は、第一ガイドプーリ30、第一補助Vプーリ36、第二補助Vプーリ37、及び、リテーナ38の全てを備えていない構成であってもよく、又、それらのうちの少なくともいずれか一つを備える構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、心線を内部に備えた無端のVベルトと、Vベルトの背面に案内作用する背面プーリとを備えたベルト式伝動装置を有する、自脱形コンバイン、普通形(全稈投入形)コンバイン、トウモロコシ収穫機、ニンジン収穫機、トラクタ、田植機、などの作業車に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
27 Vプーリ(第三Vプーリ)
28 Vプーリ(第四Vプーリ)
29 Vベルト
29B 心線
32 背面プーリ(第一背面プーリ)
32A 平プーリ
32B テーパプーリ
32a 案内面
36 補助Vプーリ(第一補助Vプーリ)
37 補助Vプーリ(第二補助Vプーリ)
F1 片寄り力
X 回動軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8