【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用前輪切れ角表示器の外観斜視図である。
図2は、
図1の自動車用前輪切れ角表示器の分解斜視図である。
図3は、
図1の自動車用前輪切れ角表示器の断面図である。
【0029】
本実施例の自動車用前輪切れ角表示器1は、自動車のハンドルのエアバックカバーに付設又は埋着され、ハンドルの回転角に対応する自動車の前輪の切れ角を表示する器具である。通常の自動車では、ハンドルを右又は左方向に1.6〜1.7回転させると、前輪の切れ角が右又は左方向45度回転するように設計されている。
【0030】
図1乃至
図3に示すように、自動車用前輪切れ角表示器1は、ケーシング2、透明カバー3、外周ベアリング4、目盛板5、重錘5a、駆動歯車固定軸6a、駆動歯車6、大歯車7a及び小歯車7bからなる二段歯車7、二段歯車回転軸7c、二段歯車ベアリング7d、扇形歯車8、出力軸8a、扇形歯車ベアリング8b、指針9を備えている。
【0031】
ケーシング2は、裏端側が閉塞された扁平円筒状に形成されている。ケーシング2は、中心が自動車のハンドルの回転軸と一致乃至略一致するようにハンドルカバーに対し固定設置される。また、ケーシング2の表端側の開口部には、該開口部を閉塞するように、透明円板状の透明カバー3が嵌着されている。さらに、ケーシング2の内側面には、全周に亘る凹溝が形成されており、当該凹溝に円環状の外周ベアリング4が嵌着されている。
【0032】
目盛板5は、ケーシング2筒内径と略同径の円板状に形成され、ケーシング2の筒内に、外周ベアリング4によって回転自在に枢支されている。目盛板5の裏面には、一側に偏倚して、外周に沿った弓形柱状の段差突起が形成され(
図4参照)、この段差突起が重錘5aとなっている。また、目盛板5の表面には、前輪切れ角を示す目盛図形5bが付されている。
【0033】
図4に、実施例1の自動車用前輪切れ角表示器の歯車機構及び目盛板5を裏面側から視た斜視図を示す。
図4は、扇形歯車8が表側から見て左方向に最大角まで回転した状態を表している。尚、見易くするため、駆動歯車6及び二段歯車7の大歯車7aは透過色としている。重錘5aを含む目盛板5の重心点を目盛板5の表面に射影した点を射影重心点G(
図5参照)、目盛板5の表面の中心点Oと射影重心点とを通る直線を主中心線(
図5のy軸)、目盛板5において重錘5aが設けられた側を下側(
図5のy<0の側)、その反対側を上側(
図5のy>0の側)とする。このとき、重錘5aの段差面5cは主中心線(
図5のy軸)に対し垂直である。また、目盛板5の板面には、主中心線上の中心点Oより上側に軸孔5dが貫設され、主中心線上の中心点Oより下側であって重錘5aの段差面5cと同位置に軸孔5eが貫設されている。また、例えば
図4のように、扇形歯車8が左右何れかに最大角まで回転した状態において、扇形歯車8の弧端点E
1,E
2(
図5参照)が段差面5cに接触するように構成されている。これにより、扇形歯車8の回動範囲を、扇形歯車8と二段歯車7の小歯車7bとの噛合が解除されない範囲内に規制するストッパ構造が構成されている。
【0034】
ケーシング2の底面(裏端側の閉塞面)の中央には、円形開孔が貫通形成されており、この円形開孔に、ケーシング2の筒内側に突出するように駆動歯車固定軸6aが嵌着されている。そして、円形外歯歯車である駆動歯車6は、この駆動歯車固定軸6aに嵌着され、ケーシング2に対して固定されている。
【0035】
二段歯車7は、目盛板の裏面側に回転自在に軸枢されている。二段歯車7は、大歯車7aと、大歯車7aと同軸で該大歯車7aの表側に配され且つ該大歯車7aよりも小径の小歯車7bにより構成された減速歯車である。また、大歯車7aは、駆動歯車6に噛合し且つ該駆動歯車6より大径に構成されている。大歯車7aと小歯車7bの共通の回転軸である二段歯車回転軸7cは、目盛板5の軸孔5dに嵌合された二段歯車ベアリング7dによって、軸孔5dに回転自在に軸枢されている。
【0036】
扇形歯車8は、目盛板の裏面側に回転自在に軸枢されている。扇形歯車8は、二段歯車7の小歯車7bに噛合し且つ該小歯車7bより大径の扇形状に形成されている。扇形歯車8の回転軸である出力軸8aは、目盛板5の軸孔5eに嵌合された扇形歯車ベアリング8bによって、軸孔5eに回転自在に軸枢されている。また、出力軸8aの先端は、軸孔5eを貫通して目盛板5の表側に突出している。
【0037】
指針9は、目盛板5の表側に配設されており、その基端が出力軸8aの先端部に軸着されている。これにより、指針9は、扇形歯車8に連動して回動する。
【0038】
以上のように構成された本実施例に係る自動車用前輪切れ角表示器について、以下その動作を説明する。ケーシング2はハンドルカバーに固定され、駆動歯車6はケーシング2に固定されているので、ハンドルの回転と連動して駆動歯車6は回転する。一方、目盛板5はケーシング2の筒内に回転自在に枢支されており、目盛板5には重錘5aが偏倚して設けられているので、ケーシング2が回転しても、目盛板5は重錘5aを下向きにして、主中心線(y軸)が常に上下方向を向いた状態に維持される。従って、中心Oに対する二段歯車回転軸7c及び出力軸8aの位置関係は常に維持され、二段歯車回転軸7cは中心Oより上側、出力軸8aは中心Oより下側の状態が維持される。そのため、駆動歯車6が回転すると、それにより二段歯車7及び扇形歯車8が回転駆動され、減速比に応じて出力軸8a及び指針9が回転する。
【0039】
図5は、実施例1の自動車用前輪切れ角表示器の歯車機構を表す模式図である。
図5(a)は表側から見た平面図、
図5(b)は主中心線(y軸)を含む垂直面で切断し右側から視た断面図である。尚、
図5は、角歯車の回転角が0度の状態を表している。また、
図5において、駆動歯車6,大歯車7a,小歯車7b,扇形歯車8は、それぞれ記号G
1,G
2,G
3,G
4で表し、駆動歯車固定軸6a,二段歯車回転軸7c,出力軸8aは、それぞれ記号AX
1,AX
2,AX
3で表し、ケーシング2の底面を記号"Base"で表し、目盛板5を記号"Scale Plate"で表し、指針9を記号"IND"で表している。また、駆動歯車固定軸AX
1の中心点を原点O、二段歯車回転軸AX
2の中心点を点P、原点O及び点Pを通る軸をy軸(点Pの側を正)、原点Oを通りy軸に垂直な軸をx軸(表側から視て右手系とする)、出力軸AX
3の中心点を点S、射影重心点を点G、大歯車G
2のピッチ円とy軸とが交叉する点のうち原点Oから遠い側の点を点Q、歯車G
1,G
2,G
3,G
4のピッチ円半径をそれぞれr
1,r
2,r
3,r
4、点Oから点Pまでの距離をd
2、点Oから点Sまでの距離をd
4、目盛板5の半径をr
out、点Oから点Sまでの距離をr
mと記す。また、歯車G
1,G
2,G
3,G
4の回転角を、それぞれθ
1,θ
2,θ
3,θ
4と記す。
【0040】
歯車G
1,G
2,G
3,G
4のピッチ長はピッチ円の円周長に対して十分に小さいとし、歯車G
1,G
2のピッチ長が等しく且つ歯車G
3,G
4のピッチ長が等しいとすると、各歯車G
1,G
2,G
3,G
4の回転角θ
1,θ
2,θ
3,θ
4の間には、次の関係が成り立つ。
【0041】
【数2】
【0042】
従って、θ
1に対するθ
4の比であるこの歯車機構の減速比R
0は、次式で表される。
【0043】
【数3】
【0044】
通常の自動車では、ハンドル1.6〜1.7回転に対して前輪の回転角が45度となるように設計されているので、R
0=0.125/1.7〜0.125/1.6程度に設定される。また、
図5より、次の関係がある。
【0045】
【数4】
【0046】
図5の歯車機構に於いて、変数はr
1,r
2,r
3,r
4,d
4であるが、r
1を定数(基準値)とし、束縛条件式(3),(4b)を考慮すると、この歯車機構の自由度は2であることが分かる。そこで、独立変数をr
4,d
4とする。このとき、r
2,r
3は次式で表される。
【0047】
【数5】
【0048】
r
4=r
1/R
0のとき式(5b)の分母が0となりr
3は発散するのでr
4<r
1/R
0である。また、r
3>0なので式(5b)よりr
4>r
1+d
4である。従って、r
4の採り得る値は次式の範囲に制限される。
【0049】
【数6】
【0050】
式(5b)により計算されるr
3のグラフを
図6に示す。
図6より、r
3はr
4に対して式(6)のr
4の定義域内で単調増加関数であることが分かる。これは実際、式(5b)をr
4で偏微分することにより確かめられる。
【0051】
実際には、歯車の半径は無限に小さくすることはできず、歯車を小さくすると該歯車の歯幅が小さくなり、歯が耐えうる円周力の許容値が低下するため、強度的に許容される最小歯車半径r
0を考慮する必要がある。まず、歯車機構全体のサイズを最小化するには、基準値であるr
1を最小歯車半径r
0に設定しなければならない。即ち、r
1=r
0である。また、歯車G
2,G
3の半径r
2,r
3は最小歯車半径r
0以上でなければならない。即ち、以下の条件を満たさなければならない。
【0052】
【数7】
【0053】
式(7)の第2式に式(5b)を代入することにより、r
4の範囲として次式の条件が得られる。
【0054】
【数8】
【0055】
式(7)の第1式に式(5b),(5a)を代入することにより、r
4の範囲として次式の条件が得られる。
【0056】
【数9】
【0057】
ここで、r
4の下限値r
4min(0),r
4min(2),r
4min(3)を下式(10)のようにおくと、各下限値はd
4に対して
図7のように変化し、r
4min(0)<r
4min(2)<r
4min(3)であることが分かる。
【0058】
【数10】
【0059】
従って、最小歯車半径r
0を考慮した場合に許容されるr
4の範囲は次式の範囲となる。
【0060】
【数11】
【0061】
次に、
図5の歯車機構のケーシングの外輪半径r
outの最小化について考察する。まず、
図5より、外輪半径r
outはr
m=r
1+2r
2よりも大きくなければならないことが分かる。一方、
図8に示したように、扇形歯車G
4が最大角まで回転した状態(扇形歯車G
4の弧端点E
1(又はE
2)が段差面5cに接触した状態)における切れ角(指針INDがy軸と成す角)をθ
4max、扇形歯車G
4の中心角∠(E
1SE
2)をφ
4とし、θ
4e=θ
4max+φ
4/2とする。角θ
4eは、最大切れ角θ
4maxにおいて扇形歯車G
4の中心点Sと扇形歯車G
4の外側の弧端点E
1とを結ぶ直線SE
1が、扇形歯車G
4の中心点Sと駆動歯車G
1の中心点Oとを結ぶ直線SO(即ちy軸)と成す角∠(OSE
1)である。このとき、原点Oから弧端点E
1までの距離をr
4eとする。
図8より、外輪半径r
outはr
4eよりも大きくなければならないことが分かる。従って、外輪半径r
outは次式の条件を満たす必要がある。
【0062】
【数12】
【0063】
式(12)で定義されるr
nを「外輪規定半径」と呼ぶ。
図5の歯車機構のケーシングの外輪半径r
outの最小化をするためには、目的関数を外輪規定半径r
nに設定し、r
nを最小化すればよい。r
4e,r
mは次式(13a),(13b)により表される。
【0064】
【数13】
【0065】
r
3はr
4に対して単調増加するので、式(13b)よりr
mもr
4に対して単調増加する。従って、r
4=r
4min(3)のときにr
mは最小値をとる。このとき、r
3,r
2,r
mは次式のように表される。
【0066】
【数14】
【0067】
式(14c)のr
mをd
4で微分すると、dr
m/dd
4<0となり、r
mはd
4に対して単調減少することが分かる。
【0068】
一方、式(13a)より、∂r
4e2/∂r
4>0となるので、r
4eはr
4に対して単調増加する関数であることが分かる。従って、r
4=r
4min(3)のときにr
4eは最小値をとる。このとき、r
4eは次式のように表される。
【0069】
【数15】
【0070】
d
4に対するr
m,r
4eの変化は
図9のようになる。
図9より、r
4eはd
4に対して増加することが分かる。故に、式(12)の外輪規定半径r
nを最小化する条件は、r
4e=r
mであることが分かる。即ち、外輪規定半径r
nを最小化するには、r
1=r
3=r
0とし、d
4を
図9のr
m,r
4eの曲線の交点、即ち、次式により決定すればよいことが分かる。
【0071】
【数16】
【0072】
これにより、d
4が決定されれば、r
4,r
2,r
mは、其々、式(10)の第2式,式(14b),式(14c)により定まり、外輪規定半径r
nはr
n=r
mにより定められる。
【0073】
以上の結果から、本実施例の自動車用前輪切れ角表示器1において、ケーシング2を最小化するには、
(1)駆動歯車6のピッチ円半径r
1と二段歯車7の小歯車7bのピッチ円半径r
3とを等しくし、
(2)扇形歯車8が最大角θ
4maxまで回動したときに、当該扇形歯車8の2つの弧端点E
1,E
2のうち駆動歯車6の中心軸Oから遠い方の弧端点E
i(i=1又は2)と駆動歯車6の中心軸Oとの距離r
4eが、駆動歯車6のピッチ円半径r
1に二段歯車7の大歯車7aのピッチ円直径2r
2を加えた長さに等しくする
ことにより、実現できることが分かる。
【0074】
また、このとき、
図9より、d
4=0の場合(このとき、扇形歯車G
4を円形歯車に置き換えると、特許文献4の自動車用前輪切れ角表示器の場合(
図10(b)参照)と同じになる。)と比較して、ケーシング2の径を約0.86〜0.88倍程度にまで小さくすることが可能であることが分かる。