特許第6498092号(P6498092)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498092
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】インピーダンス整合装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/38 20060101AFI20190401BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20190401BHJP
   H03H 7/40 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   H03H7/38 B
   H05H1/46 R
   H03H7/40
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-194526(P2015-194526)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-69823(P2017-69823A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森井 龍哉
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−142285(JP,A)
【文献】 特表2000−512460(JP,A)
【文献】 特表2014−505983(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/046753(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 7/38
H03H 7/40
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置において、
第1ないし第n(nは2以上の整数)のキャパシタにそれぞれ半導体素子からなる第1ないし第nのスイッチ素子を直列に接続して構成した第1ないし第nのキャパシタンス要素を互いに並列に接続した構造を有する可変キャパシタを備えて、前記高周波電源と負荷との間に配置された整合回路と、
前記高周波電源から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータを設定されたサンプル周期でサンプリングして、前記パラメータをサンプリングする毎に前記高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために前記可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める整合演算を行う整合演算部と、
前記第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれの状態を前記整合演算部が求めた目標スイッチ状態に更新する更新処理を行なうスイッチ状態更新手段とを備え、
前記スイッチ状態更新手段は、前記サンプル周期により決まる更新周期で前記更新処理をa回(aは2以上の整数)行なう過程と、設定された中断期間の間更新処理を中断する過程とからなる更新過程を繰り返すように構成されていることを特徴とするインピーダンス整合装置。
【請求項2】
nビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ前記第1ないし第nのキャパシタが対応させられ、前記第1のキャパシタの静電容量をCmin としたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタの静電容量Ckが、Ck=Cmin ・2k−1の値をとるように、前記第1ないし第nのキャパシタのそれぞれの静電容量が設定されていること、
を特徴とする請求項1または2に記載のインピーダンス整合装置。
【請求項3】
高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置において、
第1ないし第n(nは2以上の整数)のキャパシタにそれぞれ半導体素子からなる第1ないし第nのスイッチ素子を直列に接続して構成した第1ないし第nのキャパシタンス要素を互いに並列に接続した構造を有する可変キャパシタを備えて、前記高周波電源と負荷との間に配置された整合回路と、
前記高周波電源から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータを設定されたサンプル周期でサンプリングして、前記パラメータをサンプリングする毎に前記高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために前記可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める整合演算を行う整合演算部と、
前記第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれの状態を前記整合演算部が求めた目標スイッチ状態に更新する更新処理を行なうスイッチ状態更新手段とを備え、
nビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ前記第1ないし第nのキャパシタが対応させられ、
前記第1のキャパシタの静電容量をCmin としたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタの静電容量Ckが、Ck=Cmin ・2k−1の値をとるように、前記第1ないし第nのキャパシタのそれぞれの静電容量が設定され、
前記第1ないし第nのスイッチ素子は、第1ないし第m(mは2以上n未満の整数)のスイッチ素子からなる下位グループのスイッチ素子と、第m+1ないし第nのスイッチ素子からなる上位グループのスイッチ素子とに分けられ、
前記サンプル周期に等しい第1の更新周期t1 と前記サンプル周期の整数倍の長さを有する第2の更新周期t2 とが設定され、
前記スイッチ状態更新手段は、前記下位グループのスイッチ素子の状態を前記第2の更新周期t2 で更新する第1の更新手段と、前記第2の更新周期t2 が開始される毎に前記上位グループのスイッチ素子の状態の更新を前記第1の更新周期で設定された更新回数a(aは2以上の整数)だけ行なう過程と該更新回数aの更新が終了した時点から次に第2の更新周期t2 が開始されるまでの間上位グループのスイッチ素子の状態の更新を中断する過程とからなる更新過程を繰り返す第2の更新手段とを備え、
前記第1の更新周期t1 、第2の更新周期t2 及び更新回数aは、a×t1<t2の関係が成立するように設定されていること、
を特徴とするインピーダンス整合装置。
【請求項4】
前記整合演算部は、スイッチ素子の状態の更新を中断している間も、目標スイッチ状態を求めて、目標スイッチ状態を随時更新するように構成されている請求項1、2または3に記載のインピーダンス整合装置。
【請求項5】
前記第1ないし第nのスイッチ素子の温度が反映された温度を検出する温度センサと、
前記温度センサにより検出された温度が高い場合ほど前記更新回数aを少なくするように、前記温度センサにより検出された温度に応じて前記更新回数aを決定する更新回数決定手段とが設けられ、
前記スイッチ状態更新手段は、前記更新回数決定手段が決定した更新回数aを用いてスイッチ状態の更新を行うことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一つに記載のインピーダンス整合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電源からプラズマ負荷等の負荷に電力を供給する場合には、負荷からの電力の反射をなくして負荷に効率良く電力を供給するために、高周波電源と負荷との間にインピーダンス整合装置を設けて、高周波電源の出力インピーダンスと、高周波電源から負荷側を見たインピーダンスとを整合させる(両インピーダンスの間に共役関係を持たせる)ようにしている。
【0003】
従来から広く用いられているこの種のインピーダンス整合装置は、特許文献1にも示されているように、静電容量を調整する操作軸を備えた機械操作式の可変キャパシタと、可変キャパシタとともに整合回路を構成するインダクタと、可変キャパシタの操作軸を操作するモータと、可変キャパシタの操作軸の位置を目標位置に一致させるようにモータを制御する制御部とを備えて、可変キャパシタの操作軸の位置を、インピーダンスの整合を図るために必要な位置に一致させるようにモータを制御することによりインピーダンスの整合を図るように構成されている。
【0004】
しかしながら、機械操作式の可変キャパシタを用いた場合には、整合速度を速くする上で限界があるため、プラズマ負荷のようにインピーダンスが常に変化する負荷に高周波電力を供給する場合に、整合動作の追従性が悪くなって、反射電力が増え、負荷への電力の供給を効率よく行うことができなくなるという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献2に示されているように、機械操作式の可変キャパシタの代わりに、キャパシタと該キャパシタに直列に接続した半導体スイッチ素子とからなるキャパシタンス要素を複数個並列に接続した構造を有する可変キャパシタを用いて、負荷のインピーダンスの変化が検出される毎に可変キャパシタを構成する複数のスイッチ素子のオンオフの状態を更新することにより、インピーダンスの整合動作を速やかに行なわせることができるようにした電子制御式のインピーダンス整合装置が提案された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−198524号公報
【特許文献2】特開2012−142285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に示された構成によれば、負荷のインピーダンスが変化したときに、可変キャパシタに設けられている複数のスイッチ素子の状態(オン状態またはオフ状態)を更新して、可変キャパシタの静電容量をインピーダンスの整合を図るために必要な値に調整することにより、インピーダンスの整合を図ることができる。半導体スイッチ素子は高速度でオンオフさせることができるため、特許文献2に示されたインピーダンス整合装置によれば、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を速やかに行なわせることができる。
【0008】
しかしながら、プラズマ負荷のように、インピーダンスが常に変動している負荷に高周波電力を供給する場合に、負荷インピーダンスの変化に追従して可変キャパシタの静電容量を決定するスイッチ素子の状態を更新し続けると、スイッチ素子の高速でのオンオフ動作が常に行なわれることになるため、スイッチ素子で生じるスイッチングロスが増大して、スイッチ素子が熱破壊するおそれがある。
【0009】
上記の問題を回避するため、スイッチ素子の状態を更新する周期を長くすることが考えられるが、スイッチ素子の状態を更新する周期を長くすると、負荷インピーダンスが常に変化している場合に、インピーダンスの整合を速やかに行なうことができない。
【0010】
本発明の目的は、半導体スイッチ素子のオンオフにより静電容量を調整する電子制御式の可変キャパシタを採用した整合回路を用いて、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置において、負荷のインピーダンスが常に変化している場合に、半導体スイッチ素子の温度上昇を抑制して、該スイッチ素子の保護を適確に図り、かつインピーダンスの整合の精度を大きく低下させることなく、インピーダンスの整合を速やかに行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願明細書においては、上記の課題を解決するために、少なくとも下記の第1ないし第5の発明が開示される。
<第1の発明>
第1の発明は、高周波電源とその負荷との間に設けられて高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置を対象としたもので、本発明においては、第1ないし第n(nは2以上の整数)のキャパシタにそれぞれ半導体素子からなる第1ないし第nのスイッチ素子を直列に接続して構成した第1ないし第nのキャパシタンス要素を互いに並列に接続した構造を有する可変キャパシタを備えて、前記高周波電源と負荷との間に配置された整合回路と、高周波電源から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータを設定されたサンプル周期でサンプリングして、該パラメータをサンプリングする毎に高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める整合演算を行う整合演算部と、第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれの状態を目標スイッチ状態決定手段が決定した最新の目標スイッチ状態に更新する更新処理を行なうスイッチ状態更新手段とを設ける。スイッチ状態更新手段は、サンプル周期により決まる更新周期で更新処理をa回(aは2以上の整数)行なう過程と、設定された中断期間の間更新処理を中断する過程とからなる更新過程を繰り返すように構成される。
【0012】
上記のように、可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子の状態の更新をa回行う毎に、設定された中断期間の間スイッチ素子の状態の更新を中断するようにすると、第1ないし第nのスイッチ素子の状態の更新をa回繰り返している間に発生したスイッチングロスによりスイッチ素子のジャンクション(接合部)に蓄積された熱を、中断期間の間に放散させることができるため、スイッチ素子の状態の更新を中断することなく連続的に行なわせた場合に比べて、スイッチ素子のジャンクション温度の上昇を抑制することができる。また中断期間以外の期間はスイッチ素子の状態の更新を行う毎にインピーダンスの整合を速やかにかつ高精度で行うことができるため、スイッチ素子の状態の更新回数aを適当な値に設定しておくことにより、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合精度を大きく低下させることなく、インピーダンスの整合を速やかに行うことができる。
【0013】
上記高周波電源から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータとしては、高周波電源から負荷に供給される高周波電圧及び高周波電流とこれらの間の位相差とを用いてもよく、また高周波電源の出力端で検出した進行波電力及び反射波電力を用いてもよい。
【0014】
<第2の発明>
第2の発明は、第1の発明に適用されるもので、本発明においては、nビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ第1ないし第nのキャパシタが対応させられる。そして、第1のキャパシタ(C1)の静電容量をCminとしたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタの静電容量Ckが、Ck=Cmin ・2k−1の値をとるように、第1ないし第nのキャパシタのそれぞれの静電容量が設定される。
【0015】
このように構成しておくと、二進数の各ビットの各桁の0及び1をそれぞれ各桁に対応するスイッチ素子のオフ状態及びオン状態に対応させることにより、二進数の値の増大に伴って可変キャパシタの静電容量(C1〜Cnの合成静電容量)を一定の静電容量Cmin ずつ(例えば1[pF]ずつ)変化させることができるため、スイッチ素子の状態と可変キャパシタの静電容量との対応関係を分りやすくすることができる。
【0016】
<第3の発明>
第3の発明は、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るインピーダンス整合装置を対象としたもので、本発明においても、第1ないし第n(nは2以上の整数)のキャパシタにそれぞれ半導体素子からなる第1ないし第nのスイッチ素子を直列に接続して構成した第1ないし第nのキャパシタンス要素を互いに並列に接続した構造を有する可変キャパシタを備えて高周波電源と負荷との間に配置された整合回路と、高周波電源から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータを設定されたサンプル周期でサンプリングしてパラメータをサンプリングする毎に高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める整合演算を行う整合演算部と、第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれの状態を整合演算部が求めた目標スイッチ状態に更新する更新処理を行なうスイッチ状態更新手段とが設けられる。
【0017】
またnビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ第1ないし第nのキャパシタが対応させられ、第1のキャパシタの静電容量をCminとしたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタの静電容量Ckが、Ck=Cmin ・2k−1の値をとるように、第1ないし第nのキャパシタのそれぞれの静電容量が設定され、第1ないし第nのスイッチ素子が、第1ないし第m(mは2以上n未満の整数)のスイッチ素子からなる下位グループのスイッチ素子と、第m+1ないし第nのスイッチ素子からなる上位グループのスイッチ素子とに分けられる。
【0018】
本発明においてはまた、サンプル周期に等しい第1の更新周期t1 とサンプル周期の整数倍の長さを有する第2の更新周期t2 とが設定される。この場合、スイッチ状態更新手段は、下位グループのスイッチ素子の状態を第2の更新周期t2 で更新する第1の更新手段と、第2の更新周期t2 が開始される毎に上位グループのスイッチ素子の状態の更新を第1の更新周期で設定された更新回数a(aは2以上の整数)だけ行なう過程と該更新回数aの更新が終了した時点から次に第2の更新周期t2 が開始されるまでの間上位グループのスイッチ素子の状態の更新を中断する過程とからなる更新過程を繰り返す第2の更新手段とを備えた構成とする。上記第1の更新周期t1 、第2の更新周期t2 及び更新回数aは、a×t1<t2の関係が成立するように設定される。
【0019】
プラズマ負荷のように、常にインピーダンスが微小な変動を示す負荷に高周波電力を供給する場合、インピーダンスを整合させるために必要な可変キャパシタの静電容量を定めるスイッチ素子のうち、高い周波数で細かくオンオフするのは主として静電容量の下位の桁を定める下位グループのスイッチ素子であり、静電容量の上位の桁を定める上位グループのスイッチ素子は比較的低い周波数でオンオフする。そのため、下位グループのスイッチ素子で特に大きなスイッチング損失が生じるが、上位グループのスイッチ素子で生じるスイッチング損失は、下位グループのスイッチ素子で生じるスイッチング損失ほど大きくはならない。
【0020】
上記第3の発明のように構成した場合には、多くのスイッチング損失が生じる下位グループのスイッチ素子の状態の更新を行う頻度を低くして、下位グループのスイッチ素子で生じるスイッチング損失の低減を図ることができる。また変動するとインピーダンス整合の精度に大きな影響を及ぼす静電容量の上位の桁を決める上位グループのスイッチ素子の状態の更新を、下位グループのスイッチ素子の状態の更新よりも高い頻度で行うため、インピーダンスの整合精度を大きく低下させることなく、スイッチ素子の保護を図ることができる。
【0021】
<第4の発明>
第4の発明は、第1の発明ないし第3の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、スイッチ状態決定手段が、スイッチ素子の状態の更新を中断している間も、目標スイッチ状態を決定する過程を行って、目標スイッチ状態を随時(前記サンプル周期で)更新するように構成される。
【0022】
上記のように構成しておくと、中断期間を経た後スイッチ素子の状態の更新を再開する際の目標スイッチ状態を最新の値とすることができるため、インピーダンス整合の誤差を少なくすることができる。
【0023】
<第5の発明>
第5の発明は、第1の発明ないし第4の発明の何れかに適用されるもので、本発明においては、第1ないし第nのスイッチ素子の温度が反映された温度を検出する温度センサと、温度センサにより検出された温度が高い場合ほど更新回数aを少なくするように、温度センサにより検出された温度に応じて更新回数aを決定する更新回数決定手段とが設けられ、スイッチ状態更新手段は、更新回数決定手段が決定した更新回数aを用いてスイッチ状態の更新を行うように構成されている。
【0024】
第1ないし第nのスイッチ素子の温度が反映された温度は、例えば第1ないし第nのスイッチ素子が実装された基板や、スイッチ素子からの放熱を図るヒートシンクなどの温度である。上記のように構成しておくと、スイッチ状態の更新を中断する期間をスイッチ素子の保護を図る上で必要最小限の長さに設定することが可能になるので、インピーダンス整合精度の低下を抑えることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、第1ないし第nのスイッチ素子のオンオフにより静電容量を調整する電子制御式の可変キャパシタを採用した整合回路を用いて、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図る場合に、可変キャパシタのスイッチ素子の状態の更新をa回行う毎に、設定された中断期間の間スイッチ素子の状態の更新を中断するようにしたので、スイッチ素子の状態の更新を繰り返している間に発生したスイッチングロスによりスイッチ素子のジャンクションに蓄積された熱を、中断期間の間に放散させることができる。従って、本発明によれば、スイッチ素子のジャンクション温度の上昇を抑制して、スイッチ素子の保護を図りつつ、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図ることができる。またスイッチ素子の状態の更新回数aを適当な値に設定しておくことにより、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合精度を大きく低下させることなく、インピーダンスの整合を速やかに行うことができる。
【0026】
また請求項3に記載された発明によれば、可変キャパシタの静電容量を決定する第1ないし第nのスイッチ素子を、可変キャパシタンスの静電容量の上位の桁を決定する上位グループのスイッチ素子と静電容量の下位の桁を決定する下位グループのスイッチ素子とに分けて、更新されないとインピーダンスの整合精度に大きな影響を及ぼす静電容量の値の上位の桁を決定する上位のグループのスイッチ素子の状態の更新を、変化してもインピーダンスの整合精度に与える影響が少ない静電容量の下位の桁を決定する下位グループのスイッチ素子の状態の更新よりも高い頻度で行うようにしたので、インピーダンス整合の精度を大きく低下させることなく、スイッチ素子の保護を適確に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るインピーダンス整合装置の一実施形態の回路構成を示した回路図である。
図2】本発明の実施形態で用いる制御部の構成例を示したブロック図である。
図3】本発明の実施形態で用いる制御部の他の構成例を示したブロック図である。
図4】本発明の実施形態で用いる制御部を図2に示したように構成した場合の動作を説明するタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態で用いる制御部を図3に示したように構成した場合の動作を説明するタイムチャートである
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下図面を参照して本発明に係るインピーダンス整合装置の一実施形態を説明する。図1は、本発明に係るインピーダンス整合装置の一実施形態の回路構成を示したもので、同図において1は高周波電力を出力する高周波電源、2は高周波電源1から高周波電力が供給される負荷、3は高周波電源1と負荷2との間に設けられて、高周波電源1から負荷側を見たインピーダンス(負荷側インピーダンス)を高周波電源1の出力インピーダンスに整合させる(負荷側インピーダンスと高周波電源の出力インピーダンスとを共役関係にする)動作を行うインピーダンス整合装置、4は高周波電源1から負荷側を見たインピーダンスを演算するために用いるパラメータを検出する高周波検出部である。
【0029】
本実施形態では、負荷2が半導体処理装置等に用いられるプラズマ負荷であるとする。プラズマ負荷は、例えば、被処理物が収容されるチャンバと、該チャンバ内に配置されたプラズマ発生用電極とを備えていて、プラズマ発生用電極に高周波電力が供給された際に、チャンバ内のガスをイオン化してプラズマを発生させる。プラズマ負荷は常時インピーダンスが変動するため、インピーダンス整合装置3には、インピーダンス整合動作を高速で行うことが要求される。
【0030】
インピーダンス整合装置3は、高周波電源1と負荷2との間に設けられた整合回路31と、整合回路31を制御する制御部32とからなっている。整合回路31は種々の形態をとり得るが、本実施形態では、高周波電源1の非接地側出力端子に高周波検出部4を通して一端が接続されるとともに他端が接地された第1の可変キャパシタVC1と、第1の可変キャパシタVC1の一端に一端が接続された第2の可変キャパシタVC2と、第2の可変キャパシタVC2の他端と負荷2との間に接続されたインダクタL1とにより整合回路31が構成されている。
【0031】
本実施形態で用いる可変キャパシタVC1及びVC2のそれぞれは、第1ないし第n(nは2以上の整数)のキャパシタC1〜Cnにそれぞれ半導体素子からなる第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snを直列に接続して構成した第1ないし第nのキャパシタンス要素Ce1〜Cenを互いに並列に接続した構造を有する。このように可変キャパシタVC1及びVC2を構成した場合、各可変キャパシタの静電容量は、オン状態にあるスイッチ素子に直列に接続されているキャパシタの静電容量の合計値に等しくなる。例えば、第1のスイッチ素子S1と第3のスイッチ素子S3とがオン状態にあり、他のスイッチ素子がオフ状態にあるときの可変キャパシタの静電容量は、キャパシタC1の静電容量とキャパシタC3の静電容量との合計値に等しくなる。
【0032】
本実施形態では、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snが、高速でオンオフ制御を行うことができるPINダイオードからなっている。各PINダイオードは、図示しないドライバ回路からそのアノード・カソード間に逆方向の直流電圧が印加されることによりオフ状態にされ、アノード・カソード間に一定の順方向の直流電圧が印加されることによりオン状態にされる。PINダイオードは、順方向に一定のDC電流が流れているときに低インピーダンスを示す状態(オン状態)になる。PINダイオードがオン状態にあるときには、該ダイオードを通して高周波電流を双方向に流すことができる。
【0033】
図示のように可変キャパシタを構成すると、第1ないし第nのキャパシタC1〜Cnの静電容量を異ならせておいて、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snのそれぞれの状態(オン状態またはオフ状態)を適宜に選択することにより、可変キャパシタVC1及びVC2の静電容量を2のn乗ステップで調整することができる。
【0034】
本実施形態では、nビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ第1ないし第nのキャパシタC1〜Cnを対応させ、第1ないし第nのキャパシタC1〜Cnの静電容量のうちの最小の静電容量である第1のキャパシタC1の静電容量をCmin としたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタ(二進数の最下位の桁からk桁目に対応させたキャパシタ)の静電容量Ckが、下記の(1)式により決まる値をとるように、第1ないし第nのキャパシタC1〜Cnのそれぞれの静電容量を設定する。
Ck=Cmin ・2k−1 (1)
【0035】
上記の式において、k−1は、k番目のキャパシタが対応する二進数の最下位の桁からk桁目のビットのビット位置を示すビット番号である。上記のように第1ないし第nのキャパシタの静電容量を定めておくと、第1のスイッチ素子S1〜Snの状態(オン状態またはオフ状態)の組み合わせを変えることにより、Cmin ずつ値が異なる2通りの静電容量(C1 〜Cn の合成キャパシタ容量)を得ることができる。
【0036】
例えば、n=4、Cmax=1pFとして、4桁の二進数の第1の桁〜第4の桁にそれぞれ第1のスイッチ素子S1〜第4のスイッチ素子S4を対応させ、(1)式に従って、キャパシタC1ないしC4の静電容量をそれぞれ1、2、4、8[pF]とすると、下記の表1に示すように、静電容量がCmin[pF](本例では1[pF])ずつ異なる2 通り(本例では16通り)の値(本例では0〜15[pF])をとり得る可変キャパシタを得ることができる。
【表1】
【0037】
また例えば、ギャパシタを10個設けて(n=10として)、第1のキャパシタC1の静電容量を1「pF」とし、キャパシタC1,C2,…の静電容量を1pF,2pF,4pF,8pF,…のように順次2倍にして10番目のキャパシタの静電容量を512pFとした場合には、0pFから1023pFまで、1pF単位で可変キャパシタの静電容量を調整することができる。
【0038】
図1に示された高周波検出部4は、高周波電源1より負荷2側を見たインピーダンスである負荷側インピーダンスを演算するために用いるパラメータを検出する部分である。本実施形態では、高周波電源1から負荷2に与えられる高周波電圧及び高周波電流と、これらの位相差とを負荷側インピーダンスが反映されたパラメータとして高周波検出部4から検出する。
【0039】
図2を参照すると、本実施形態で用いる制御部32の構成例が示されている。図2に示した制御部32は、整合演算部32Aと、スイッチ状態更新手段32Bとにより構成されている。整合演算部32Aは、高周波電源1から負荷側を見たインピーダンスが反映されたパラメータを設定されたサンプル周期でサンプリングして、パラメータをサンプリングする毎に高周波電源1と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子のそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める整合演算を行うように構成される。
【0040】
またスイッチ状態更新手段32Bは、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snのそれぞれの状態を整合演算部32Aが求めた目標スイッチ状態に更新する更新処理を行なう手段で,本発明においては、このスイッチ状態更新手段32Bが、パラメータのサンプル周期により決まる更新周期で更新処理をa回(aは2以上の整数)行なう過程と、設定された中断期間の間更新処理を中断する過程とからなる更新過程を繰り返すように構成される。
【0041】
本実施形態では、整合演算部32A及び目標スイッチ状態決定手段32Bを所定のタイミングで動作させるために、図4(B)に示すようにサンプル周期t1 でサンプルパルスPsを発生するパルス発生器と、サンプルパルスPsと同期させて、図4(A)に示すように、サンプル周期t1よりも十分に長く、かつサンプル周期t1の整数倍の周期t2でサンプル制御パルスPcを発生するパルス発生器とが制御部32に設けられている。
【0042】
図2に示された整合演算部32Aは、静電容量演算手段32A1と、目標スイッチ状態決定手段32A2とにより構成されている。静電容量演算手段32A1は、例えば、高周波検出部4により検出されるパラメータを一定のサンプル周期t1 で(サンプルパルスPsが発生する毎に)サンプリングして、パラメータをサンプリングする毎に負荷側インピーダンスを演算する負荷側インピーダンス演算手段と、この演算手段により演算された負荷側インピーダンスを高周波電源の出力インピーダンスに整合させるために必要な可変キャパシタVC1,VC2の静電容量を目標静電容量として演算する目標静電容量演算手段とにより構成することができる。
【0043】
また目標スイッチ状態決定手段32A2は、静電容量演算手段32A1により目標静電容量が演算される毎に、可変キャパシタVC1,VC2の静電容量を演算された目標静電容量とする(目標静電容量に等しくするか、またはできるだけ近づける)ために、可変キャパシタVC1,VC2に設けられている第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snのそれぞれがとるべき状態(オン状態またはオフ状態)を目標スイッチ状態として求める。目標スイッチ状態決定手段32A2は、静電容量演算手段32A1 が演算した目標静電容量に対して、スイッチ状態決定用マップ(目標静電容量とスイッチ状態との関係を与えるマップ)を検索することにより目標スイッチ状態を決定するように構成すことができる。
【0044】
本実施形態で用いる整合演算部32Aは、サンプルパルスPsが発生する毎に目標スイッチ状態を求める整合演算を行って、図4(C)に示すように、サンプルパルスPsが発生する毎に目標スイッチ状態を更新する。
【0045】
スイッチ状態更新手段32Bは、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snのそれぞれの状態を整合演算部32Aが決定した最新の目標スイッチ状態に更新する更新処理をパラメータのサンプリング動作に同期して行なうように構成される。本実施形態においては、スイッチ状態更新手段32Bが、図4(D)に示すように、パラメータのサンプリングに同期して、設定された更新期間a×t1の間、サンプル周期t1 により決まる更新周期で更新処理をa回(aは2以上の整数)行なう過程と、設定された中断期間tintの間更新処理を中断してスイッチS1〜Snの状態を中断直前の状態に維持する過程とからなる更新過程を繰り返すように構成されている。
【0046】
図4(D)に示した例では、各サンプル制御パルスPcが発生する毎にスイッチ状態の更新を開始して、サンプリング動作に同期して更新処理をa回行った後(a×t1の更新期間が経過した後)、次のサンプル制御パルスPcが発生するまでの期間を中断期間tintとして、この中断期間の間更新処理を中断するようにしている。
【0047】
上記のように、可変キャパシタの第1ないし第nのスイッチ素子の状態の更新をa回行う毎に、設定された中断期間の間スイッチ素子の状態の更新を中断するようにすると、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snの状態の更新をa回繰り返している間に発生したスイッチングロスによりスイッチ素子のジャンクション(接合部)に蓄積された熱を、中断期間tintの間に放散させることができるため、スイッチ素子の状態の更新を中断することなく連続的に行なわせた場合に比べて、スイッチ素子のジャンクション温度の上昇を抑制して、スイッチ素子の保護を図ることができる。またスイッチ素子の状態の更新回数aを適当な値に設定しておくことにより、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合精度が大きく悪化するのを防ぐことができる。なおインピーダンスの整合精度は、例えば、高周波電源の出力インピーダンスと実際の負荷側インピーダンスとの差を高周波電源の出力インピーダンスで除した値を用いて評価することができる。
【0048】
上記更新回数aは、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snのうち、スイッチ状態(オン状態またはオフ状態)の更新の頻度が高く、頻繁にオンオフさせられるために、スイッチングロスが多く発生し、ジャンクション温度の上昇が特に問題になるスイッチ素子のジャンクション温度を許容範囲に収めること、インピーダンスの整合誤差を、負荷の動作を保証する上で必要な範囲に収めること、反射電力を許容範囲に収めること等を配慮して、実験に基づいて適正な値に設定する。スイッチ素子のジャンクション温度は、例えばスイッチ素子の表面温度を検出することにより推定すことができる。
【0049】
スイッ状態の更新の頻度が高く頻繁にオンオフさせられるために、ジャンクション温度の上昇が特に問題になるスイッチ素子は、一般には、可変キャパシタの目標静電容量の下位の桁の数値を決定するスイッチ素子である。
【0050】
上記更新回数aは、固定値としてもよいが、更新回数aをスイッチ素子の発熱の状況に応じて変えるようにしてもよい。例えば、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snの温度が反映された温度を検出する温度センサと、この温度センサにより検出された温度が高い場合ほど更新回数aを少なくするように、温度センサにより検出された温度に応じて更新回数aを決定する更新回数決定手段とを設けて、更新回数決定手段が決定した更新回数aを用いてスイッチ状態の更新を行うように、スイッチ状態更新手段を構成することもできる。
【0051】
第1ないし第nのスイッチ素子の温度が反映された温度は、例えば第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snが実装された基板や、スイッチ素子からの放熱を図るヒートシンクなどの温度とすることができる。上記のように構成しておくと、スイッチ状態の更新を中断する期間をスイッチ素子の保護を図る上で必要最小限の長さに設定することが可能になるため、インピーダンス整合精度の低下を抑えることができる。
【0052】
プラズマ負荷のように、インピーダンスが常に微小な変動を示す負荷2に高周波電力を供給する場合、インピーダンスを整合させるために必要な可変キャパシタの静電容量を定めるスイッチ素子のうち、目標スイッチ状態が頻繁に変更されて高い周波数で頻繁にオンオフさせられるのは主として静電容量の下位の桁の値を定めるスイッチ素子であり、静電容量の上位の桁の値を定めるスイッチ素子の状態の更新は、殆ど行われないか、または行われたとしても比較的低い頻度で行われる。
【0053】
例えば表1に示した例において、スイッチ素子S4の状態の更新は殆ど行われないが、スイッチ素子S1〜S3の状態の更新は頻繁に行われる。従って、静電容量の下位の桁の値を定めるスイッチ素子で特に大きなスイッチング損失が生じるが、静電容量の上位の桁の値を定めるスイッチ素子で生じるスイッチング損失は、静電容量の下位の桁の値を定めるスイッチ素子で生じるスイッチング損失ほど大きくはならない。
【0054】
また、可変キャパシタの静電容量の下位の桁の値の変動(目標値からのずれ)は、インピーダンスの整合精度にそれほど大きな影響を与えないが、可変キャパシタの上位の桁の値の変動はインピーダンスの整合精度に大きな影響を及ぼす。
【0055】
そこで、可変キャパシタに設けられる第1ないし第nのスイッチ素子の状態の更新を一律に制限するのではなく、多くのスイッチング損失が生じるスイッチ素子の状態の更新を十分に制限し、発生するスイッチング損失が比較的少ないスイッチ素子の状態の更新は余り制限しないようにすることが考えられる。このように、発生する可能性があるスイッチング損失の大小に応じて、スイッチ素子の状態の更新の仕方を異ならせるようにした実施形態の構成を、図3に示し、その動作を示すタイムチャートを図5に示した。
【0056】
図3に示した実施形態においては、サンプル周期に等しい第1の更新周期t1 と、サンプル周期の整数倍の長さを有する第2の更新周期t2 とが設定される。本実施形態では、サンプルパルスPsの発生周期が第1の更新周期t1 として用いられ、サンプル制御パルスPcの発生周期が第2の更新周期t2 として用いられる。
【0057】
本実施形態においても、nビットの二進数の最下位の桁及び最上位の桁をそれぞれ第1の桁及び第nの桁として、該二進数の第1の桁ないし第nの桁にそれぞれ第1ないし第nのキャパシタが対応させられ、第1のキャパシタの静電容量をCminとしたときに、k番目(k=1〜n)のキャパシタの静電容量Ckが、Ck=Cmin ・2k−1の値をとるように、第1ないし第nのキャパシタのそれぞれの静電容量が設定されている、そして、キャパシタC1〜Cnが、可変キャパシタの静電容量の下位の桁を定める下位グループのキャパシタC1〜Cm(mは2以上n未満の整数)と、可変キャパシタの静電容量の上位の桁を定める上位グループのキャパシタCm+1〜Cnとに分けられ、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snが、下位グループのキャパシタC1〜Cmにそれぞれ直列に接続された下位グループのスイッチ素子S1〜Smと、上位グループのキャパシタCm+1〜Cnにそれぞれ直列に接続された上位グループのスイッチ素子Sm+1〜Snとに分けられる。
【0058】
本実施形態で用いるスイッチ状態更新手段32Bは、図5(E)に示すように、下位グループのスイッチ素子S1〜Smの状態を第2の更新周期t2 で更新する第1の更新手段32B2と、図5(D)に示すように、第2の更新周期t2 が開始される毎に上位グループのスイッチ素子の状態の更新を第1の更新周期t1 で設定された更新回数a(aは2以上の整数)だけ(更新期間t1 ×aの間だけ)行なう過程と、該更新回数aの更新が終了した時点から次に第2の更新周期t2 が開始されるまでの中断期間tintの間上位グループのスイッチ素子の状態の更新を中断してそれぞれのスイッチ素子の状態を中断直前の状態に維持する過程とからなる更新過程を繰り返す第2の更新手段32B2 とにより構成される。上記第1の更新周期t1 、第2の更新周期t2 及び更新回数aは、a×t1<t2の関係が成立するように設定される。図3に示した実施形態のその他の構成は、図2に示した実施形態の対応部分の構成と同様である。
【0059】
本実施形態のように構成した場合には、負荷側インピーダンスの細かい変化に応じて頻繁にオンオフさせられるために多くのスイッチング損失が生じる下位グループのスイッチ素子S1〜Smの状態の更新を行う頻度を低くして、下位グループのスイッチ素子で生じるスイッチング損失の低減を図ることができる。また変動するとインピーダンス整合の精度に大きな影響を及ぼす静電容量の上位の桁を決める上位グループのスイッチ素子Sm+1 〜Snの状態の更新を、下位グループのスイッチ素子の状態の更新よりも高い頻度で行うため、インピーダンスの整合精度を大きく低下させることなく、スイッチ素子の保護を適確に図ることができる。
【0060】
可変キャパシタのスイッチ素子S1〜Snの最適なグループ分けは、負荷の定常運転時に生じるインピーダンスの変化から予測される各スイッチ素子の状態の更新の頻度や、スイッチ素子の温度の実測値等に基づいて、mの値を種々異ならせてグループ分けを行った複数のサンプルを用意して、これらのサンプルについて、スイッチ素子で生じる発熱の量を確認する実験を行うことにより決定することができる。
【0061】
上記の実施形態では、高周波電源と負荷との間のインピーダンスの整合を図るために可変キャパシタVC1及びVC2の静電容量がとるべき値を目標静電容量として演算して、可変キャパシタVC1及びVC2の静電容量を演算された目標静電容量とするために、それぞれの可変キャパシタのスイッチ素子S1〜Snがとるべき状態を目標スイッチ状態として求めるように整合演算部を構成したが、整合演算部は、最終的にスイッチ素子S1〜Snがとるべき状態を決定することができればよく、その構成は上記の実施形態で示した例に限定されない。
【0062】
例えば、負荷側インピーダンスと各可変キャパシタのスイッチ素子S1〜Snがとるべき目標スイッチ状態との間の関係を与えるマップを用意しておいて、負荷側インピーダンスに対してこのマップを検索することにより、目標スイッチ状態を求めるようにしてもよい。
【0063】
また上記の説明では、パラメータをサンプリングする毎に負荷側インピーダンスを演算して、演算した負荷側インピーダンスを高周波電源の出力インピーダンスに整合させるための可変キャパシタの静電容量を演算するとしたが、負荷側インピーダンスを高周波電源の出力インピーダンスに整合させるために必要な可変キャパシタの静電容量の決め方は、上記の実施形態で示した例に限定されない。
【0064】
例えば、高周波検出部4として、進行波電力検出信号と反射波電力検出信号とを出力するものを用いて、サンプリングした進行波電力検出信号と反射波電力検出信号とから演算される反射係数を零にするように可変キャパシタの静電容量を決定する方法をとる場合にも本発明を適用することができる。
【0065】
上記の説明では、可変キャパシタに設ける第1ないし第nのスイッチ素子S1〜SnとしてPINダイオードを用いたが、第1ないし第nのスイッチ素子S1〜Snは、高速でオンオフ動作を行わせることが可能なスイッチ素子であればよく、PINダイオードに代えて、例えばMOSFETを用いることもできる。
【0066】
上記の実施形態では、整合回路として、1個のインダクタと、2個の可変キャパシタとにより構成されたL型の回路を用いたが、本発明は、可変キャパシタの静電容量を調節することによりインピーダンスの整合を図る種々の整合回路を用いる場合に広く適用することができる。
【0067】
上記の説明では、負荷2がプラズマ負荷であるとしたが、本発明において、高周波電源1から高周波電力を供給する負荷2はプラズマ負荷に限定されない。
【符号の説明】
【0068】
1 高周波電源
2 負荷
3 インピーダンス整合装置
4 高周波検出部
31 整合回路
32 制御部
32A 整合演算部
32A1 静電容量演算手段
32A2 目標スイッチ状態決定手段
32B スイッチ状態更新手段
L1 インダクタ
VC1,VC2 可変キャパシタ
C1〜Cn 第1ないし第nのキャパシタ
C1〜Cm 下位グループのキャパシタ
Cm+1〜Cn 上位グループのキャパシタ
S1〜Sn 第1ないし第nのスイッチ素子
S1〜Sm 下位グループのスイッチ素子
Sm+1〜Sn 上位グループのスイッチ素子
図1
図2
図3
図4
図5