【文献】
The Journal of Biological Chemistry,2005年,Vol.280, No.22,p.21539-21544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被験者由来の試料における前記SCYL2遺伝子の発現レベルが、正常対照のSCYL2遺伝子の発現レベルと比較して、増加していることにより、被験者が成人T細胞白血病に罹患していることまたは成人T細胞白血病発症のリスクを有することが示される、請求項1記載の成人T細胞白血病の診断補助方法。
前記SCYL2遺伝子の発現レベルの決定が、SCYL2遺伝子転写産物またはSCYL2タンパク質の発現レベルを決定することである、請求項1または2記載の診断補助方法。
前記SCYL2遺伝子に特異的に結合する核酸が、配列表の配列番号3番および配列表の配列番号4番に示す配列の核酸の組み合わせである、請求項6記載の成人T細胞白血病の診断用キット。
前記SCYL2遺伝子の阻害性核酸が、SCYL2遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、miRNA、shRNA又はsiRNAである請求項8に記載の成人T細胞白血病(ATL)の予防薬、進展抑制薬又は治療薬。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明においては、ATL(成人T細胞白血病)の診断方法、および成人T細胞白血病の予防薬、進展抑制薬、または治療薬のスクリーニング方法が提供される。
【0028】
ATL(成人T細胞白血病:Adult T-cell leukemia)は、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV−1)がT細胞に感染することにより引き起こされるウイルス性白血病をいい、HTLV−1感染T細胞が腫瘍化した疾患である。50歳から60歳代に発症のピークがあり、亜急性から慢性に経過し末期に急激に進行し予後は不良であり、腫瘍細胞の起源はT細胞で、末梢血中に切れ込みや分葉核を有する白血病細胞(花弁状細胞;flower like cell)が出現し、リンパ節腫大、肝腫大、脾腫大を認める頻度が高く、しばしば皮膚病変を有す、という特徴的な臨床所見を持つ。
【0029】
ここで、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、ヒトレトロウィルスで、宿主であるヒトのT細胞内では核内に移行し、RNAからcDNAを逆転写により生成し、cDNAは宿主ゲノムDNAへインテグレーションする。
【0030】
本発明において、PTENのリン酸化に、SCYL2遺伝子またはその遺伝子産物が関与していることが新たに見出された。上記新たな診断方法および新たな治療薬のスクリーニング方法は、このような新規な発見に基づいて構成されるものである。
【0031】
本明細書でいうPTENは、PTEN遺伝子またはそれによってコードされるタンパク質を指す。遺伝子は、生体内では、染色体上の10q23.3に位置し、腫瘍抑制因子として同定されている。PTENタンパク質は、この遺伝子によってコードされるタンパク質をいい、フォスファティジルイノシトール-3,4,5-トリフォスフェイト(PIP3)の脱リン酸化反応を触媒する酵素として知られている。また、本明細書においては、特に明示がない場合に、単に「PTEN」という場合には、このようなPTEN遺伝子がコードする全長タンパク質およびPTENタンパク質のペプチド断片のいずれも指す。
【0032】
「PTENタンパク質のリン酸化部位」とは、特に限定はされないが、本発明との関連においては、PTENのタンパク質を構成するアミノ酸中、少なくとも第380番目のセリン残基(本明細書では、S380ともいう)、第382番目のスレオニン残基(本明細書では、T382ともいう)および第383番目のスレオニン残基(本明細書では、T383ともいう)を指し、これらのアミノ酸部位からなる群より選択される1箇所あるいは2箇所以上においてリン酸化されることを「PTENがリン酸化する」あるいは「PTENタンパク質がリン酸化する」という。「脱リン酸化」とは、特にこれらの残基で一旦リン酸化された部位の1箇所か2箇所、またはすべての箇所のリン酸化がリン酸化されていない状態になることを指す。このような機能は、リン酸化されたPTENタンパク質、あるいはリン酸化部位を含む該タンパク質のペプチド断片に対する脱リン酸化あるいはリン酸化阻害作用の有無を検出することで、調べることができる。
【0033】
本明細書において、SCYL2(SCY1-like 2)は、 CVAK104 (Coated vesicle-associated kinase of 104 kDa)としても知られており、929 アミノ酸を有するタンパク質である(NCBI Reference Sequence: NP_060458.3、配列表の配列番号1)。1つの HEATリピートおよび1つのキナーゼドメインを有する。細胞内の様々な箇所に存在している。例えば、細胞質の核周囲の領域、トランスゴルジ網膜およびクラスリン被覆小胞で、AP2含有クラスリン被覆構造の成分として存在する。Ser/Thr タンパク質キナーゼとして機能すると考えられている。
【0034】
本発明におけるSCYL2遺伝子は、上記SCYL2タンパク質をコードする塩基配列を有する。代表的には、アクセッション番号、NM_017988.4で示される配列である(配列表の配列番号2)が、これに限定はされない。
【0035】
本発明において、「SCYL2」という表記は、SCYL2をコードする遺伝子もしくはmRNA(GenBank登録番号NM_017988.4)を表す記号を含み、タンパク質、遺伝子、mRNAのいずれに対しても互換可能に使用する。さらに、SCYL2ゲノム領域の塩基置換を解析した結果では、ATL症例中変異も認められる。これらの遺伝子、タンパク質、その他に見いだされ得る塩基又はアミノ酸の変異を含む遺伝子、タンパク質、それらの断片も、本発明におけるSCYL2の定義に含まれる。
【0036】
本発明の成人T細胞白血病の診断方法では、被験者由来の試料において、SCYL2遺伝子の発現レベルを決定することが含まれる。ここで、SCYL2遺伝子の発現レベルを決定することは、限定はされないが、SCYL2遺伝子転写産物またはSCYL2タンパク質の発現レベルを決定することであることが好ましい。さらに、このような発現レベルを、正常対照のSCYL2遺伝子の発現レベルと比較することで、被験者における発現レベルが正常対照よりも増加している場合、被験者が成人T細胞白血病に罹患している、またはそのような発症のリスクを有する、と判断することができる。
【0037】
ここで、被験者由来の試料とは、限定はされないが、被験者の血液や採取細胞であり、特に血液由来の白血球、特には、T細胞であることが好ましい。
【0038】
このような増加は、正常対照レベルを少なくとも10%、好ましくは20%程度上回る。
【0039】
被験者由来の試料中からの遺伝子転写産物(mRNA)又はタンパク質の抽出および精製は常法に従い行うことができる。
【0040】
SCYL2遺伝子の発現レベルを決定する際に、遺伝子転写産物の発現レベルを決定する方法としては、mRNAを定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、DNAチップ法、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR法等が挙げられる。ここでのmRNAを検出する方法は、mRNAに対応するcDNAを検出することも含む。
【0041】
SCYL2タンパク質の発現レベルを決定する方法としては、タンパク質を定量できる方法であれば特に限定されないが、例えば、SCYL2タンパク質に対する抗体を用いるELISA法、ウェスタンブロッティング法の他、プロテインチップによる解析法等が挙げられる。
【0042】
本発明はまた、SCYL2遺伝子の阻害またはその遺伝子の発現の阻害を指標とする、成人T細胞白血病の予防薬、進展抑制薬、または治療薬のスクリーニング方法に関する。特には、SCYL2遺伝子の転写産物またはSCYL2タンパク質の発現の阻害を指標とすることができる。
【0043】
ここで、好ましくは、このようなスクリーニング方法は、
a.被験化合物存在下において、細胞のSCYL2遺伝子、SCYL2遺伝子転写産物またはSCYL2タンパク質の量を測定すること、および
b.aで測定したSCYL2遺伝子、SCYL2遺伝子転写産物またはSCYL2タンパク質の量と、被験化合物非存在下における細胞のSCYL2遺伝子、SCYL2遺伝子転写産物またはSCYL2タンパク質の量を比較することを含む。
【0044】
このようなスクリーニングに用いられる細胞は、限定はされないが、株化細胞を用いることができる。好ましくは、T細胞由来の株化細胞を用いる。このような細胞には、例えば、HD-Mar2細胞、HPB-ALL細胞、Jurkat細胞、MOLT-4F細胞、SKW-3細胞、TALL-1細胞、TCL-Kan細胞、ILT-Mat細胞、TL-Mor細胞、およびMOLT-17細胞などが挙げられる。特に、ATL細胞株を用いることが望ましい。
【0045】
あるいは、スクリーニング方法には、被験者から得られる血液由来の細胞などを用いることも可能である。
【0046】
スクリーニング方法の被験化合物としては、限定はされないが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、生体高分子(タンパク質、核酸、多糖類等)等が挙げられ、このような化合物を含む種々の化合物ライブラリーを使用することができる。
【0047】
被験化合物を細胞に接触させた場合の遺伝子の発現レベルを、候補となる被験化合物の非存在下におけるSCYL2遺伝子の発現レベルと比較して、遺伝子の発現レベルが低下した場合には、被験化合物を、成人T細胞白血病の予防薬、進展抑制薬、または治療薬として有効であると判断することができる。このような発現レベルの差異は、被験化合物非存在下を基準として、10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは75%以上低下していることを指標にすることができる。
【0048】
本発明の成人T細胞白血病の予防薬、進展抑制薬、または治療薬のスクリーニング方法としては、以下の工程を含む方法も提供される。
a.被験化合物とSCYL2タンパク質とを接触させる工程、
b.該タンパク質と該化合物の結合活性を検出する工程、及び
c.該タンパク質に結合する化合物を選択する工程。
【0049】
上記方法により選択される、SCYL2タンパク質に結合する化合物は、当該タンパク質の活性を阻害することができ、成人T細胞白血病の治療及び予防に有効であり得る。
【0050】
被験化合物とSCYL2タンパク質との結合活性を検出する方法としては、物質間の結合活性を解析できる方法であれば特に限定されず、例えば、SCYL2抗体を用いたウエスタンブロッティング法、表面プラズモン分析(SPR)法やファージディスプレイが挙げられる。
【0051】
被験化合物の選択は、結合定数等を基準として結合活性が高い化合物を成人T細胞白血病の治療及び予防に有効なものとして選択することにより行うことができる。
【0052】
本発明はまた、SCYL2遺伝子、SCYL2タンパク質あるいはそのペプチド断片に結合する核酸またはタンパク質を含む、成人T細胞白血病の診断用キットに関する。特には、遺伝子のいずれかに結合する核酸、またはSCYL2あるいはそのペプチド断片に対する抗体などが好ましく用いられるが、これらに限定されない。
【0053】
SCYL2遺伝子に結合する核酸とは、この遺伝子にハイブリダイズできるポリヌクレオチドのことであり、DNAチップ法、ノーザンブロット法、リアルタイムPCR法等に使用することでmRNAを検出し、遺伝子の発現レベルを検出することができる。
【0054】
このようなSCYL2遺伝子に結合する核酸は、限定はされないが、検出用プライマーであり得る。検出用プライマーは、配列表の配列番号3および配列番号4の組み合わせであることが好ましいが、これに限定されない。すなわち、配列表の配列番号2に記載の塩基配列またはそれに相補的な配列を用いることができる。
【0055】
本発明においては、PTENがリン酸化されるのを阻害する作用のある物質および/または一旦リン酸化されたPTENを脱リン酸化する作用のある物質の好ましい例として、SCYL2の機能を阻害する物質が挙げられる。SCYL2の機能を阻害する物質としては、SCYL2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体、またはSCYL2遺伝子の阻害性核酸が挙げられるが、これに限定されない。例えば、SCYL2遺伝子あるいはSCYL2タンパク質に作用する核酸アプタマーやペプチドアプタマー医薬も含まれる。
【0056】
本発明においては、SCYL2の機能を阻害することで、PTENがリン酸化されるのを阻害および/または、一旦リン酸化されたPTENを脱リン酸化することが可能である。従って、SCYL2の機能を阻害する物質を有効成分とする、PTENのリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤を提供することができる。このような作用のある物質は、PI3K/AKT情報伝達系の活性化を病因の1つとする疾患の予防薬、進展抑制薬、または治療薬として有効である。
【0057】
PI3K/AKT情報伝達系の活性化を病因の1つとする疾患には、自閉症または癌などが含まれるが、これに限定されない。
【0058】
自閉症は、対人相互反応の質的な障害、意思伝達の著しい異常またはその発達の障害、活動と興味の範囲の著しい限局性などにより特徴付けられる病態である。
【0059】
癌には、皮膚癌、悪性リンパ腫、前立腺癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌、頭頸部扁平上皮癌、食道癌、胆管癌、前立腺癌、褐色細胞腫、陰茎癌、骨肉腫、および精巣癌からなる群より選択される1種が含まれる。さらに、ATLが含まれる。
【0060】
本発明はまた、PTENのリン酸化剤にも関し、そのような薬剤は、PI3K/AKT情報伝達系の不活性化を病因の1つとする疾病の予防、進展抑制、または治療薬として有効である。
SCYL2遺伝子またはSCYL2タンパク質自体がこのようなPTENのリン酸化剤として有用である。
【0061】
このような疾病には、糖尿病が含まれる。糖尿病は、糖代謝の異常によって起こり、血糖値が病的に上昇するという病態を示す。さらに、血糖値の上昇は、様々な合併症を引き起こす。PTEN の遺伝子多型は日本人における2型糖尿病患者に多く認められ、PTEN の発現が亢進することでインスリンシグナルが低下してインスリン抵抗性を惹起し、2型糖尿病の発症に関与する可能性などが示唆されている。
【0062】
PTENリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤、及び治療剤の範囲
本発明で提供するPTENのリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤、及びこれを有効成分とするPI3K/AKT情報伝達経路の活性化を病因のひとつとする予防薬、進展抑制薬、または治療薬には、SCYL2 の機能を阻害する物質が含まれる。このような機能を阻害する物質としては、SCYL2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体、またはSCYL2遺伝子の阻害性核酸が含まれる。ここで、SCYL2遺伝子阻害性核酸には、SCYL2遺伝子に対するアンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA、またはsiRNAが含まれる。
【0063】
なお、本発明において、「治療」とは、完全治癒に加えて、症状を改善させることも含む。
【0065】
SCYL2のアンチセンス核酸は、SCYL2遺伝子のmRNA(センス)又はDNA(アンチセンス)配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも約5ヌクレオチドであり、好ましくは約5〜100、より好ましくは9〜50ヌクレオチドである。SCYL2遺伝子のアンチセンス核酸は、この遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、転写又は翻訳を抑制する。
【0066】
アンチセンス核酸は、公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。
【0067】
アンチセンス核酸は、例えば、各種DNAトランスフェクション又はエレクトロポレーション等の遺伝子導入方法により、あるいはウイルスベクターを用いることにより、細胞に導入することができる。
【0068】
本発明において、デコイ核酸は、DNAでもRNAでもよく、またはその核酸内に修飾された核酸を含んでいてもよい。本発明のデコイ核酸は、SCYL2遺伝子の転写因子に結合し、プロモーター活性を抑制することができる。本発明のデコイ核酸は、転写因子の結合部位を含む短い核酸を意味し、この核酸を細胞内に導入し、転写因子がこの核酸に結合することにより、転写因子の本来のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その転写因子の発現が抑制される。具体的には、デコイ核酸は、標的結合配列に結合しうる核酸又はその類似体である。
【0069】
本発明の好ましいデコイ核酸の例は、SCYL2遺伝子のプロモーターに結合する転写因子と結合し得る核酸などが挙げられる。デコイ核酸は、SCYL2遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖として設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、少なくとも15塩基、60塩基程度まで、好ましくは20〜30塩基の核酸である。
【0070】
デコイ核酸は、1本鎖又は2本鎖であってもよく、また環状でも線状でもよい。
【0071】
本発明で用いられるデコイ核酸は、公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、核酸合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。
また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。
【0072】
デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ、ウェスタンブロッティング法、FACS解析法、または、RT-PCR等を採用することができる。これらのアッセイを行なうための市販のキットも使用することが可能である。
【0073】
本発明においては、阻害性核酸は、細胞においてRNA干渉(RNAi)により遺伝子発現を調節しうる合成小核酸分子であり得る。このような、核酸分子は、例えばsiRNA、マイクロRNA(miRNA)及びshRNA分子である。
【0074】
siRNA(small interfering RNA)分子を用いる場合は、標的遺伝子に対応する種々のRNAを標的とすることができる。そのようなRNAとしては、mRNA、標的遺伝子の選択的スプライシングにより得られる変異体、標的遺伝子の転写後修飾RNA等が挙げられる。選択的スプライシングによって適当なエクソンの使用により区別される転写産物のファミリーが生ずる場合、siRNA分子を用いてエクソン部分又は保存配列の発現を阻害することができる。
【0075】
mRNA上の標的配列は、mRNAに対応するcDNA配列から選択することができ、好ましくは開始コドンから50〜100ヌクレオチド下流領域である。但し、標的配列は、5’若しくは3’非翻訳領域、又は開始コドン付近の領域に位置していてもよい。
【0076】
siRNA分子は、公知の方法により設計することができる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA、TA、GA又はCAで始まる連続する15〜30塩基、好ましくは19〜25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30〜70%、好ましくは35〜55%である。
【0077】
siRNAは、二本鎖部分を生成するために自身の核酸上で折り畳む一本鎖ヘアピンRNA分子として生成することができる。siRNA分子は、通常の化学合成により得ることができる。または、siRNA分子は、センス及びアンチセンスsiRNA配列を含有する発現ベクターを用いて生物学的に生成することも可能である。siRNAを細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本鎖RNAをアニールする方法などを採用することができる。
【0078】
本発明では、RNA干渉をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
【0079】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計できる。一本鎖RNAで部分的に回文状の塩基配列を含むことにより、分子内で二本鎖構造をとり、ヘアピン構造となる約20塩基対以上の分子とできる。そのようなshRNAは、細胞内に導入された後、細胞内で約20塩基の長さに分解され、siRNA と同様にRNA干渉を引き起こす。本発明におけるshRNAは、RNAiを引き起こし、SCYL2の機能を阻害することができるものであれば特に限定されない。
【0080】
miRNAも、RNA干渉に基づく阻害性核酸であり、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
【0081】
PTENの活性を制御し得る物質として、これらの核酸を有効成分とするPTENのリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤、及びこのリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤を有効成分とする疾病治療薬(以下「遺伝子薬剤」という)を調製することができる。これらの核酸はそのまま、あるいは細胞内に導入可能な形態として提供される。細胞内に導入可能な形態とするには、慣用的な方法を採用できる。例えば、核酸を直接導入したり(米国特許第5,580,859号参照)、あるいは組換えウイルスベクターの形態で製剤化して導入したりすることもできる。
【0082】
細胞導入に好適なウイルスベクターとしては、例えば、バキュロイルス科、パルボウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポックスウイルス科、アデノウイルス科、パラミクソウイルス科またはピコルナウイルス科から選ばれるウイルスのゲノム由来のものを使用する。各々の親ベクターの都合のよい長所を利用したキメラベクターもまた用いることができる。このようなウイルスゲノムは、複製欠損性か、条件により複製するか、または複製コンピテントへ改変され得る。より具体的には、ベクターがアデノウイルスの場合は、例えば、ヒトアデノウイルスゲノムに由来する複製非コンピテントベクター(米国特許第6,096,718号;6,110,458号;6,113,913号;5,631,236号参照)、アデノ随伴ウイルスなどが使用できる。レトロウイルスゲノムに由来するベクターの場合、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びそれらの組合せを主成分とするものが含まれる(例えば、米国特許第6,117,681号;6,107,478号; 5,658,775号; 5,449,614号;Buchscher(1992)J. Virol.
66:2731-2739; Johann(1992)J. Virol. 66:1635-1640参照)。また、パラミクソウイルス科に含まれるセンダイウイルス(HVJ)なども好適に使用できる。この場合、生体より取り出した組織あるいは細胞にポリヌクレオチド発現ベクターを導入した後に、生体に戻すようにしてもよい(ex vivo法)。例えば、ポリヌクレオチドを組込んだ発現ベクターを、マイクロインジェクション法やエレクトロポーレーション法等の慣用的なトランスフェクション法により細胞内に導入する。
【0083】
<SCYL2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体>
【0084】
本発明ではまた、SCYL2タンパク質またはそのペプチド断片に対する抗体を有効成分とするPTENのリン酸化剤を有効成分とする治療薬(以下「抗体薬剤」という)を調製することもできる。この調製には、周知の方法を用いることができる。ここにおいて、SCYL2タンパク質またはそのペプチドに対する抗体とは、免疫反応において、SCYL2の抗原の刺激により生体内に作られ、SCYL2タンパク質と特異的に結合するタンパク質またはその改変体をいう。ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でも使用し得るが、特にモノクローナル抗体が好適である。さらに、ヒト抗体、ヒト化抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、および抗イディオタイプ抗体、ならびにそれらの断片、例えばF(ab’)2およびFab断片、ならびにその他の組換えにより生産された結合体を含む。さらにこのような抗体を、酵素、例えばアルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、αガラクトシダーゼなどに共有結合させ、又は組換えにより融合させたものであってもよい。
【0085】
抗体は、通常、SCYL2タンパク質あるいは抗原を含むそのペプチド断片を、適切な動物に投与して免疫することによって生成される。モノクローナル 抗体には、全免疫グロブリン分子ならびにFab分子、F(ab’)2フラグメント、Fvフラグメント、およびもとのモノクローナル 及び抗体分子の免疫学的結合特性を示す他の分子を含む。ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を作製する方法は、周知の方法によることができる。
【0086】
例えば、ポリクローナル抗体は、SCYL2タンパク質を構成するポリペプチドの全長または部分断片精製標品、タンパク質の一部のアミノ酸配列を有するペプチドなどを抗原として用い、動物に投与して作製する。抗体を生産する場合、投与する動物として、ウサギ、ヤギ、ラット、マウス、ハムスター等を用いることができる。SCYL2タンパク質の断片であるペプチドを用いる場合には、スカシガイヘモシアニンまたはウシチログロブリン等のキャリアタンパク質に共有結合させたものを抗原とすることもできる。その抗原の投与は、1回目の投与の後1〜2週間おきに2〜10回行う。各投与後、3〜7日目に採血し、その血清が免疫に用いた抗原と反応することを酵素免疫測定法等で確認する。血清が充分な抗体価を示した非ヒト哺乳動物より血清を取得し、その血清を用い周知の方法でポリクローナル抗体を分離、精製することができる。
【0087】
一方、モノクローナル抗体の調製は、例えば、まずSCYL2タンパク質またはその断片ポリペプチドに対し、その血清が十分な抗体価を示したラットを抗体産生細胞の供給源として使用し、骨髄腫細胞との融合により、ハイブリドーマの作製を行う。その後、酵素免疫測定法になどによって、SCYL2タンパク質またはその断片ポリペプチドに特異的に反応するハイブリドーマを選択する。得られたハイブリドーマから、所望の性質のモノクローナル抗体を得て、抗体薬剤とすることができる。
【0088】
本発明のPTENのリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤、またはPTENのリン酸化剤は、非経口あるいは経口剤として、提供される。非経口の場合には、遺伝子導入法等が有効に使用され得るが、これに限定はされない。
【0089】
本発明のSCYL2の機能を阻害する物質を有効成分とする疾病の予防薬、進展抑制薬、又は治療薬は、非経口あるいは経口剤として提供される。非経口の場合には、遺伝子導入法等が有効に使用され得るが、これに限定はされない。
【0090】
非経口の場合には、適切な賦形剤、アジュバント、および/または薬学的に受容可能なキャリアーと混合して、単独で、あるいは他の薬剤と組み合わせて患者に投与され得る。特に好ましく用いられ得るキャリアーには、限定はされないが、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、および水等が含まれる。本発明の一実施形態において、薬学的に受容可能なキャリアーは薬学的に不活性である。
【0091】
非経口投与の場合、動脈内(例えば、頚動脈を介する)、筋肉内、皮下、髄内、クモ膜下腔内、脳室内、静脈内、腹腔内、または鼻孔内へなされうる。
【0092】
経口の為の製剤は、散剤 、顆粒剤 、細粒剤 、ドライシロップ剤 、錠剤 、カプセル剤 、注射剤 、液剤などのいずれの形態にもなり得る。また、その剤型に応じ、製剤学的に公知の手法により、適切な賦形剤 ;崩壊剤;結合剤;滑沢剤;希
釈剤;リン酸、クエン酸、コハク酸、酢酸、および他の有機酸またはそれらの塩のような緩衝剤緩衝剤;等張化剤;防腐剤;湿潤剤;乳化剤;分散剤;安定化剤;溶解補助剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、またはアルギニン);単糖、二糖および他の炭水化物(セルロースまたはその誘導体、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポロキサマー)、などの医薬品添加物と適宜混合または希釈・溶解することにより調剤することができる。等張性および化学的安定性を増強するこのような物質は、使用された投薬量および濃度においてレシピエントに対して非毒性である。
【0093】
処方および投与のための技術は、例えば、日本薬局方の最新版および最新追補、「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES」(Maack Publishing Co.,Easton,PA)の最終版に記載されている。
【0094】
本発明のリン酸化阻害および/または脱リン酸化剤または疾病の予防薬、進展抑制薬、または治療薬は、目的の薬剤が意図する目的を達成するのに有効な量で含有される薬剤であり、「治療的有効量」または「薬理学的有効量」は当業者に十分に認識され、薬理学的結果を生じるために有効な薬剤の量をいう。治療的有効用量の決定は十分に当業者に知られている。
【0095】
治療的有効量とは、投与により疾患の状態を軽減する薬剤の量をいう。このような化合物の治療効果および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定され得る。用量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全くともなわないED
50を含む循環濃度の範囲内にある。この用量は、使用される投与形態、患者の感受性、および投与経路に依存してこの範囲内で変化する。一例として、複合体の投与量は、年齢その他の患者の条件、疾患の種類、使用する複合体の種類等により適宜選択される。
【0096】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。しかしながら、本実施例は、本発明の具体例を示すのみで、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0097】
(健常人由来CD4陽性細胞及び患者検体)
HTLV−1に感染していない健常人、もしくは、ATL患者ヘパリン加末梢血をHistopaque(シグマアルドリッチ)による比重遠心法を用いて単核球を遠心分離した。急性型ATL患者では、末梢血ATL分画が90%異常の検体を解析に用いた。また健常人のCD4陽性細胞はCD4+T細胞アイソレーションキットII(Miltenyi Biotec)によりCD4
+T細胞以外の細胞をCD8、CD14、CD 16、CD19、CD36、CD56、CD123、TCRγ/σ、Glycophorin Aに対するビオチン標識抗体カクテルによりAuto MACS (Miltenyi Biotec)を用いて分離した。
【0098】
(細胞株)
実験に用いた細胞株は次の通りである。HTLV−1非感染T細胞リンパ性白血病(T−ALL)細胞株としてJurkat、MOLT4、MKB1、KAWAI、HTLV−1感染細胞株としてHUT102、MT2、IL2非依存性ATL細胞株Su9T-01、S1T、IL2依存性ATL細胞株KOB、KK1、SO4を、それぞれIL−2 (50 U/ml)添加もしくは無添加のfetal bovine serum (FBS)を10%添加したRPMI1640培養液で37℃、5%二酸化炭素下で培養した。
【0099】
(cDNA)
まず、細胞1 x 10
7個からトリアゾール溶解液 (インビトロジェン)を用いてtotal RNAを抽出し、total RNA 1 μgを用いてRNA PCR Kit ver3.1 AMV-RT (タカラバイオ)により逆転写反応を行い、cDNAを作製した。(MgCl
2、10xRT buffer、dNTP mixture、RNase inhibitor、)AMV Reverse Transcriptase およびOligo dT-Adaptor primerとtotal RNAを混合し、1回反応サイクル(42℃、30分、95℃、5分)を行った。
【実施例2】
【0100】
[SCYL2遺伝子発現解析]
【0101】
1.定量的real time RT-PCRの方法
SCYL2特異的プライマー(フォワード5’-AAGCGTGTCATTGTGCAGAG-3’(配列表の配列番号3)、リバース 5’-CCTGGATCTGAATGGAAGGA-3’(配列表の配列番号4))、β-actin特異的プライマー(フォワード 5’-GACAGGATGCAGAAGGAGATTACT-3’(配列表の配列番号5)、
リバース5’-TGATCCACATCTGCTGGAAGGT-3’(配列表の配列番号6))、SYBR GREEN(R) PCR Master Mix(Applied biosystems)、鋳型cDNAを混合し、ABI PRISM(R) 7000 Sequence Detection SystemでPCR反応40サイクル(95度、10秒間、60度 60秒間)を行った。データは増幅曲線と閾値の交点からCt(Threshold Cycle)値を求めるCrossing Point法を用いて解析した。得られたCt値と標準サンプル(Jurkat細胞由来のcDNA)の段階希釈液を用いて作成した検量線に基づいてSCYL2 mRNAとβ-actin mRNAの発現量を算出し、それぞれの検体で、SCYL2遺伝子の発現量/β-actin遺伝子の発現量を算出し、基準となる検体の値で割る事で補正した。
【0102】
2.SCYL2抗体および他の抗体
【0103】
ウザキ抗ヒトSCYL2抗体は、SCYL2ペプチド3種(アミノ酸残基 TDNTKRNLTNGLNA 762-775(配列表の配列番号7)、QLSQQKPNQWLNQFV 855-869(配列表の配列番号8)、およびCTTMTNSSSASNDLKDLFG 912-929(配列表の配列番号9))を合成し、ウサギに免疫し、血清を用いた。その他の抗体としてマウス抗β-actin(AC-74)モノクローナル抗体(A5316)、ウサギ抗Phospho-PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)ポリクローナル抗体(#9554)、ウサギ抗PTENポリクローナル抗体(#9559)、ウサギ抗phospho-AKT(Ser473) ポリクローナル抗体(#9271)、ウサギ抗AKTポリクローナル抗体(#9272)(Cell Signaling TECHNOLOGY)を使用した。また、二次抗体として西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体(NA931V)(GE Healthcare)、HRP標識抗IgG抗体(P0399)(Dako Cytomation)を使用した。
【0104】
3.ウェスタンブロッティング法
細胞1 x 10
6個を回収後、リン酸緩衝生理食塩水 (10 mM リン酸緩衝液、 120 mM NaCl、 2.7 mM KCl、 pH 7.6 )(PBS)緩衝液で洗浄し、150μlの1x SDS サンプル緩衝液(62.5 mM Tris-HCl (pH 6.8)、 2% SDS、 10% グリセロール、 50 mM DTT、 0.01% ブロモフェノールブルー)を加え細胞を溶解した。95 度で5分間煮沸後、サンプルを10%ポリアクリルアミドゲル(アクリルアミド:ビスアクリルアミド=36.5:1)電気泳動に供した。ミニプロテアン3セル (Bio-Rad)により定電圧100 V・2時間時間泳動した。ゲルはミニトランスブロットセル(Bio-Rad) (400 mA・3時間)を用いてPVDF 膜 (Millipore)に転写し、転写膜は1%ウシ血清アルブミン (BSA)添加トリス緩衝生理食塩水/Tween 20(TBS/T)緩衝液(150 mM NaCl、10 mM Tris-HCl (pH 7.4)、0.1% Tween20)により室温、2 時間ブロッキング反応を行なった。 Can Get signal(R) Solution1(TOYOBO)で2000倍希釈後の一次抗体液を用いて4度で一晩反応させ、TBS/T 緩衝液にて5分×3回洗浄した。さらに Can Get signal(R)
Solution2(TOYOBO)にて3000倍希釈後の二次抗体液にて室温で1時間反応させ、その後TBS/T緩衝液にて5分×3回洗浄した。洗浄後Lumi lightPLUS Western Blotting kit (Roche Applied Science)にて化学発光させ、ルミノイメージアナライザーLAS-3000 (Fujifilm)で画像解析を行った。
【0105】
4.SCYL2遺伝子発現解析
SCYL2 mRNA発現を定量的real time RT-PCR法により、健常人由来CD4陽性T細胞、及び急性型ATL患者由来T細胞、T-ALL細胞株4株(Jurkat、MOLT4、MKB-1、KAWAI)、HTLV-1+細胞株(HUT102、MT2)およびATL細胞株(ED-40515(-)、Su9T-01、S1T、KOB、KK1、SO4)を用いて定量した。同様に、SCYL2タンパク質発現を、同じ細胞について、ウェスタンブロッティング法で定量した。その結果、対照である健常人由来CD4陽性T細胞と比較して、急性型ATL患者由来T細胞において、SCYL2 mRNA発現増加(
図1)およびSCYL2タンパク質発現の増加(
図2)が認められた。さらに、T-ALL細胞株4株と比較してATL細胞株では発現量がやや増加傾向にあった(SCYL2mRNA発現につき
図3およびSCYL2タンパク質発現につき
図4)。なお、図中、p-PTEN(STT)は、p-PTEN (Ser380/Thr382/Thr383)を表わす。
【実施例3】
【0106】
[SCYL2発現とAKT/PTENリン酸化状態の解析]
【0107】
1.抗体
【0108】
実施例2と同じ抗体を用いた。
【0109】
2.AKTおよびPTENのリン酸化
実施例1と同様の方法で、健常人由来CD4陽性T細胞、急性型ATL患者由来ATL細胞、およびATL細胞株を用いてウエスタンブロット法によりPTEN、AKTタンパク質発現を解析した。対照である健常人由来CD4陽性T細胞と比較して、急性型ATL患者由来ATL細胞において、AKTおよびPTENタンパク質の発現の変化は認められなかったが、リン酸化AKT(Ser473)およびリン酸化PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)の亢進が認められた(
図2)。
【0110】
T-ALL細胞株4株と比較してATL細胞株8株ではAKTおよびPTENタンパク質発現の変化は認められなかったが、それぞれリン酸化の亢進が見られた(
図5)。このことから、SCYL2高発現によるAKTおよびPTENリン酸化亢進が示唆された。
【実施例4】
【0111】
[SCYL2遺伝子発現低下実験]
【0112】
1.抗体
【0113】
実施例2と同じ抗体を用いた。
【0114】
2.SCYL2遺伝子発現改変ベクターの作成
SCYL2コード領域を増幅する為にフォワードプライマーとして、( EcoRI-SCYL2 5’-GGAATTCGATGGAGTCCATGCTTAATAAATTGAAG-3’)(配列表の配列番号10)、リバースプライマーとして、(XbaI-SCYL2 5’-GCTCTAGATCACCCAAAAAGATCTTTTAAATCATTG-3’)(配列表の配列番号11)を用いた。増幅はPrime star MAX DNA polymerase kit (TaKaRa)を使用しPCR40反応サイクル(98℃、10秒、60℃、10秒、72℃、2分)を行った。得られたPCR産物をpCMV26 (SIGMA)のEcoRIおよびXbaI部位に挿入しSCYL2遺伝子発現増加ベクターを作製した(pCMV26-SCYL2)。
【0115】
次に、sh-SCYL2-sence(5’-gatccGCCCGTTAATACAAACCAGTTCAAGAGACTGGTTTGTATTAACGGGCTTTTTTT-3’)(配列表の配列番号12)およびsh-SCYL2-antisence(5’-aattAAAAAAAGCCCGTTAATACAAACCAGTCTCTTGAACTGGTTTGTATTAACGGGCg-3’)(配列表の配列番号13)とknockoutTM RNAi system (Clontech)を用いてSCYL2発現低下ベクターを作製した(sh-SCYL2)。
【0116】
3.遺伝子導入
293T細胞6ウェルプレートに対して2μgの発現ベクターを遺伝子導入試薬HilyMax(DOJINDO)で導入し2日間培養した。ATL細胞株KK1細胞2x10
6細胞数に対して2μgの発現ベクターをAmaxa Nucleofector(Amaxa)で導入し2日間培養した。
【0117】
4.細胞増殖実験
96well plateで2x10
3細胞数を培養し、所定時間にcell counting kit-8(DOJINDO)を添加し、490nmの吸光度を測定し細胞増殖能の解析を行った。
【0118】
上記の方法により、SCYL2遺伝子が高発現しphospho-AKT(Ser473) およびPhospho-PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)の亢進が認められているATL細胞株KK1のSCYL2遺伝子をsh-SCYL2を用いて発現低下させ、その時のAKT/PTENリン酸化状態および細胞増殖能を検討した。
【0119】
Amaxa Nucleofector(Amaxa)でsh-SCYL2を導入し2日間培養した後、AKTおよびPTENリン酸化状態の変化をウエスタンブロット法で確認し、細胞増殖能をcell counting kit-8(DOJINDO)を添加し、490nmの吸光度を測定し解析を行った。
sh-SCYL2によりSCYL2発現が顕著に低下し、AKTおよびPTENタンパク質発現の変化は認められなかったが、phospho-AKT(Ser473) およびPhospho-PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)の抑制が認められた(
図6)。さらに、細胞増殖能の低下も認められた(
図7)。
【0120】
以上のことから、SCYL2の発現を抑制することにより、AKT及びPTENリン酸化の抑制を介した、ATL細胞の増殖抑制が示された。
【実施例5】
【0121】
[SCYL2-PTENまたはSCYL2-AKT結合実験]
1.免疫沈降法
細胞を回収後、PBS緩衝液で洗浄し、1%NP-40緩衝液を加えて細胞を溶解させた。遠心後、100-200μgの細胞溶解液に1-2μgの抗体を加え4℃で一晩反応させた。50μlの50%slurry Protein G Sepharose TM4 fast flow(GE Healthcare)を加えて 4℃で2時間反応させた。Protein G Sepharose TM4 fast flowをPBSで3回洗浄しSDSサンプル緩衝液を加えて、95℃5分間煮沸し、ウエスタンブロット解析を行った。
【0122】
2.Flag融合タンパク質の精製
pCMV26(SIGMA) に当該遺伝子を挿入し作製した。ベクターを293T細胞株に遺伝子導入し、2日後、1%NP-40緩衝液を加えて細胞を溶解させた。50%slurry Anti-Flag M2 affinity Gel (SIGMA) を加えて 4℃で一晩反応させた。3xFlagペプチド(SIGMA)でFlag融合タンパク質の溶出を行った。
【0123】
SCYL2とPTENの結合を免疫沈降実験で解析した。
293T細胞およびKK1細胞の内因性PTENをPTEN抗体で免疫沈降し、SCYL2抗体でウエスタンブロット法を行った。
【0124】
この結果、両細胞に関してPTEN免疫沈降物にSCYL2が存在していることが認められた(
図8)。
さらに、Flag-SCYL2/293T安定発現株を用いてFlag抗体(マウス抗Flag M2モノクローナル抗体(F1804)(SIGMA ALDRICH))で免疫沈降し、AKTおよびPTEN抗体でウエスタンブロット法を行った。Flag(SCYL2)免疫沈降物にAKTおよびPTENの存在が認められた(
図8)。
以上のことから、SCYL2-PTENおよびAKTが細胞内で結合していることが明らかとなった。
【実施例6】
【0125】
[AKT-PTENリン酸化状態の検出]
PTENが欠損しているPC3細胞株にSCYL2を過剰発現させた時のAKTリン酸化状態および結合をウエスタンブロット法および免疫沈降法で解析した。
PC3細胞株にFlag-SCYL2を発現させるとAKTタンパク質発現の変化は認められず、phospho-AKT(Ser473)の変化も認められなかった(
図10)。一方、PTENを発現させるとphospho-AKT(Ser473)の低下が認められ、また、SCYL2およびPTENを同時に発現させるとPTEN単独に比べてphospho-AKT(Ser473)の亢進が認められた。さらに、PTENが存在しない時にはSCYL2はAKTと結合できないが、PTENが存在するとSCYL2はPTENおよびAKTと結合することが明らかとなった(
図9)。
このことから、SCYL2はPTENとの結合を介してAKTリン酸化を調節することが示唆された。
【実施例7】
【0126】
[インビトロにおけるSCYL2-PTEN結合実験]
1.GST(glutathione S-transferase)融合タンパク質の精製
pGEX-6P-1ベクターに当該遺伝子を挿入し作製した。ベクターを大腸菌BL21DE3に形質転換した後、37℃で培養した。30℃、3時間で1mM IPTGを添加することにより融合タンパク質を発現させた。大腸菌に1%NP-40緩衝液を加えて、超音波粉砕を行った。遠心後、上清を回収し50%slurry Glutathione Sepharose TM4 4B(GE Healthcare)を加えて 4℃で一晩反応させた。溶出緩衝液(20mM還元型グルタチオン、100nMTris-HCl (pH8.0)、120mM NaCl)でGST融合タンパク質の溶出を行った。
【0127】
SCYL2とPTENが直接結合しているかIn vitro結合試験で確認した。大腸菌から精製したGST-SCYL2と293T細胞溶解液を混合し4℃で一晩反応させた。50%slurry Glutathione Sepharose TM4 4B(GE Healthcare)を加えて 4℃で2時間反応させた後、PBSで3回洗浄しSDSサンプル緩衝液を加えて、95℃5分間煮沸し、PTEN抗体でウエスタンブロット解析を行った。この結果、GST-SCYL2とPTENが結合していることが明らかになった(
図11)。
【0128】
In vitro結合試験(Pull-down)
精製したGST-SCYL2タンパク質と293T細胞溶解液を混合し4℃で一晩反応させた。50%slurry Glutathione Sepharose TM4 4B(GE Healthcare)を加えて 4℃で2時間反応させた後、PBSで3回洗浄しSDSサンプル緩衝液を加えて、95℃5分間煮沸し、PTEN抗体でウエスタンブロット解析を行った。
【実施例8】
【0129】
[In vitro キナーゼ試験]
キナーゼ溶液(25mM Tris-HCl(Ph8.0)、25mM β-glycerophosphate、25mM MgCl
2)にGST-PTENタンパク質、Flag-SCYL2タンパク質および100μMのATPを添加し、37℃30分間反応させた。PTENリン酸化抗体でウエスタンブロットを行った。
【0130】
SCYL2によってPTENリン酸化が引き起こされるのかIn vitro キナーゼ試験で検討した。
【0131】
293T細胞株から精製したFlag-SCYL2と大腸菌から精製したGST-PTENをATP存在下で混合するとPhospho-PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)の亢進が認められた(
図12)。
【0132】
このことから、SCYL2がPTENを基質にキナーゼとして働くことが示唆された。
【実施例9】
【0133】
[固形癌細胞におけるAKTとPTENリン酸化状態の変化]
1.安定発現細胞株の作製
293T細胞株およびU2OS細胞株に遺伝子導入後、培養液にG418(GIBCO)を500μg/miの濃度で添加し薬剤選択を行い、安定発現細胞株を得た。
【0134】
Flag-SCYL2/U2OS安定発現株ではSCYL2発現の増加につれ、phospho-AKT(Ser473) およびPhospho-PTEN(Ser380/Thr382/Thr383)の亢進が認められた(
図13)。さらに細胞増殖能の亢進も認められた(
図14)。
【0135】
これらの実験の結果から、SCYL2はATL細胞で高発現していることが明らかとなった。また、PTENに直接結合しSer380/Thr382/Thr383部位をリン酸化するキナーゼとして働き、PTENをリン酸化させることによってAKTリン酸化および細胞増殖能を亢進させることが示された。以上のことから、SCYL2の治療標的としての可能性を見いだした。