(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記開環反応における構成成分(A)の無水物基の、構成成分(B)のヒドロキシル基に対するモル比が、0.7以上1.0未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載のエステル化合物。
前記ポリエステル(B1)が、前記ポリエステル(B1)の製造に使用される前記モノマーの総量に対して60〜90モル%の少なくとも1種のモノマー(B1)を使用して製造される、請求項1から9のいずれか一項に記載のエステル化合物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
無水物(A)
本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体は、以下の式(I)
【化3】
(式中、R
1がH、C
1〜C
48アルキル、またはC
2〜C
48アルケニル、好ましくはC
6〜C
48アルキル、またはC
6〜C
48アルケニル、より好ましくはC
6〜C
48アルケニル、非常に好ましくはC
6〜C
24アルケニルである)
を有する少なくとも1種の無水物(A)を使用して製造される。
【0017】
したがって、無水物(A)は、コハク酸無水物または適宜にアルキルおよび/またはアルケニルにより置換されるコハク酸無水物誘導体、好ましくはアルケニル置換されたコハク酸誘導体を含む。アルキルおよびアルキレン基は、直鎖状または分岐状であり得る。アルキレン基中の炭素間二重結合の位置は、本質的に任意である。
【0018】
コハク酸無水物誘導体は、好ましくはマレイン酸無水物とアルファ−オレフィンとの反応により製造される。この反応の初期生成物は、相当するアルケニル修飾されたコハク酸無水物誘導体であり、続いて、これはまた、本発明の意味合いで使用することができる。次に、無水物環からみてベータ−ガンマ位置で、この種の誘導体は、炭素間二重結合を含有する。例は、2−オクテニルコハク酸無水物であり、これはさらに、本発明においては、特に好ましく使用される。根本的な反応メカニズム(エン反応)は、当業者に公知であり、相当する反応条件は、容易に選択および適応させることができる。相当する化合物はまた、商業的に入手することができる。
【0019】
また、例えば、2−オクテニルコハク酸無水物などのこの種のコハク酸誘導体は、エン反応を介して、1−オクテンなどの反応溶液中に存在する他のアルファ−オレフィンとさらに反応させることが可能であり、そのようにして、アルファ−オレフィンのさらなる分子の結合によりアルケニル鎖へ分岐を組み込むことが可能である。コハク酸無水物誘導体の得られる混合物は同様に、商業的に入手することができ、同様に本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体を製造するのに使用することができる。しかしながら、好ましくは、分子的に一様な誘導体が使用される。かかる一様な誘導体もまた、すでに上述したように、商業的に入手され得る。
【0020】
構成成分(B)
開環反応に使用される構成成分(B)は、ヒドロキシ官能性である。このことが、以下で詳細に後述するように、エステル結合および遊離カルボキシ基の形成を伴う無水物との開環反応において成功へと導く。
【0021】
ポリエステル誘導体は、構成成分(B)として、線状ヒドロキシ官能性ポリエステル(B1)を使用して製造される。
【0022】
一般的に述べると、ポリエステルは、多価有機アルコールおよび多塩基性有機カルボン酸を使用して製造される高分子有機化合物である。これらのアルコールおよびカルボン酸は、エステル化により、換言すると縮合反応により互いに連結される。したがって、ポリエステルは、一般的には重縮合樹脂の群に分類される。また、ポリエステルの製造に関して、相当する有機カルボン酸に代わって、または相当する有機カルボン酸に加えて、カルボン酸の無水物、特にジカルボン酸の無水物を使用することが可能であることは公知である。したがって、本発明との関連において、「無水物」という表示は、カルボン酸無水物を指す。同様に、ヒドロキシカルボン酸または分子内エステル化によりヒドロキシカルボン酸から生じるラクトンの使用による製造が可能である。
【0023】
本発明による使用のためのポリエステル(B1)などの線状生成物は、特に二官能性出発構成成分(ジオール、ジカルボン酸)を使用した場合に得られる。したがって、本発明においては、「線状ポリエステル」という表現は、ポリマー骨格、換言すると個々のポリエステル構成要素間の連結を構成するエステル結合の配列が、線状性を有することを意味する。したがって、製造に使用される個々の化合物(モノマー)は、いずれの場合も、エステル結合が可能な2つの官能基、換言すると、より詳細にはヒドロキシル基、カルボキシル基および/または無水物基を有する。続いて、連結が、ポリエステル鎖または線状ポリエステルを生じる。したがって、この手段により、分岐がポリマー分子に挿入され得るため、ごく少量(ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して5モル%未満、好ましくは2モル%未満)のエステル結合が可能な2つよりも多い官能基を有するモノマーを使用することが好ましい。非常に好ましくは、エステル結合が可能な2つよりも多い官能基を有するモノマーは使用されない。
【0024】
ポリエステル(B1)を製造するのに使用されるモノマーは、本発明においては、これらのポリエステル(B1)の製造で使用され、かつ基本構造がポリエステルへ組み込まれる全ての個々の出発化合物である。これらは、例えば1,6−ヘキサンジオールなどの、例えば2つの相当する官能基を有する典型的なモノマー化合物である。しかしながら、ポリエステルを製造するための出発化合物として、それ自体が2つまたはそれ以上の個々の分子の連結によりすでに製造されている化合物を使用することが可能であることもまた公知であり、かかる連結は、多種多様な方法のいずれかで可能である。例えば、以下に記載する二量体脂肪酸について言及され得る。しかしながら、これらの化合物さえもが出発化合物と確認され、これらは、相当する重合反応によってポリエステルへ組み込まれ、続いて、ポリエステルの非依存的構成成分を構成する。したがって、これらの出発化合物は、モノマーとも呼ばれる。
【0025】
本発明のポリエステル誘導体を製造するのに使用されるポリエステル(B1)は、ポリエステル(B1)を製造するのに使用されるモノマーに対して、7〜95モル%の、官能基間に12〜70個の炭素原子を有する脂肪族基を有する少なくとも1種の二官能性モノマー(b1)を使用して製造されるポリエステルである。
【0026】
脂肪族化合物は、芳香族ではない非環状もしくは環状の飽和または不飽和炭化水素化合物であることが公知である。したがって、「脂肪族化合物」という用語は、非環状および環状の脂肪族化合物を包含し、本発明の状況でも同様に、相当する総称であると解釈される。非環状脂肪族化合物は、直鎖状または分岐状であり得る。直鎖状は、このような関連において、公知であるように、当該化合物が、炭素鎖に関して分岐を有さず、その代わりに、炭素原子は、鎖中に専ら直鎖状の配列で配置されることを意味する。したがって、分岐状または非直鎖状は、本発明との関連において、検討中の化合物がいずれの場合も、炭素鎖中に分岐を有し、換言すると、直鎖状化合物に関する場合と対比して、当該化合物中の少なくとも1つの炭素原子が、第3級または第4級炭素原子であることを意味する。環状脂肪族化合物または脂環式化合物は、存在する炭素原子の少なくとも幾つかが分子に連結されて、1つまたは複数の環を形成するような化合物である。当然のことながら、1つまたは複数の環の他に、脂環式化合物中に存在するさらなる非環状直鎖状または分岐状脂肪族基が存在してもよい。
【0027】
したがって、脂肪族基は、脂肪族化合物に関して上述した要件を満たすが、分子のほんの一部である基である。脂肪族基の他に、当該分子はまた、例えば官能基などの他の基を含有する。官能基は、本発明においては、酸素、硫黄および/または窒素などのヘテロ原子を含有する末端基であり、その例は、ヒドロキシル基またはカルボキシル基である。当然のことながら、架橋ヘテロ原子またはヘテロ原子を含有する架橋基もまた存在してもよい。エーテル結合が例として言及され得る。
【0028】
官能基間に脂肪族基を有するモノマーは、相当する官能基に加えて、官能基間に配置される脂肪族基を有するモノマーに関して適宜に使用される用語である。したがって、モノマーは、相当する官能基および脂肪族基で構成され、したがって(末端)官能基および脂肪族基のみを含有する。
【0029】
二官能性モノマー(b1)の官能基は明らかに、エステル結合を形成することが可能な基、換言すると、より詳細にはヒドロキシル基および/またはカルボン酸基、およびさらには無水物基である。したがって、モノマー(b1)は、好ましくはジオール、ジカルボン酸および/またはヒドロキシカルボン酸、およびさらには無水物、より好ましくはジオールおよび/またはジカルボン酸である。
【0030】
モノマー(b1)の脂肪族基は、12〜70個、好ましくは13〜50個、より好ましくは14〜40個の炭素原子を有する。
【0031】
ポリエステル(B1)は、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して7〜95モル%、好ましくは9〜90モル%、より好ましくは10〜85モル%のモノマー(b1)を使用して製造される。
【0032】
本発明の1つの特に好ましい実施形態では、ポリエステル(B1)は、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して50〜95モル%、好ましくは60〜90モル%、より好ましくは70〜85モル%のモノマー(b1)を使用して製造される。
【0033】
好ましいモノマー(b1)は、例えば完全に水添されたビスフェノールであり、例は、完全に水添されたビスフェノールAである。二量体脂肪族脂肪アルコールおよび/または二量体脂肪族脂肪酸は、同様に好ましく、その中でも二量体脂肪族脂肪酸が好ましい。さらに好ましい実施形態では、二量体脂肪族脂肪酸および二量体脂肪族脂肪アルコールの両方が、モノマー(b1)として、ともに使用される。
【0034】
さらなる特に好ましい実施形態では、本発明は、モノマー(b1)として、24〜40個の炭素原子を有する二量体脂肪族脂肪酸、およびさらには完全に水添されたビスフェノールAを使用する。
【0035】
二量体脂肪族脂肪酸は、不飽和植物由来脂肪酸の触媒的二量化により製造可能であり、18個の炭素原子を含有する不飽和脂肪酸が、より詳細には製造で用いられ、したがって生成物は、36個の炭素原子を有する。連結は、主にディールスアルダー型およびエン反応に従って進行し、メカニズムおよび/または任意の続く水添に応じて、飽和または不飽和であり得る、例えば脂環式および直鎖状脂肪族二量体脂肪酸の混合物を生じる。脂肪族付加体(b1)と同様に、これらの混合物は通常、ある特定の割合の芳香族および/または混合脂肪族芳香族基も含む。
【0036】
したがって、モノマー(b1)のうち二量体脂肪族脂肪酸が使用される場合、ポリエステル(B1)は好ましくは、これらのモノマー(b1)だけでなく、好ましくは、官能基間に12〜70個の炭素原子、好ましくは13〜50個の炭素原子、より好ましくは14〜40個の炭素原子を同様に含有するが、単に脂肪族ではなく、その代わりに同様に、少なくとも比例的に芳香族である二官能性モノマー(b2)も使用して製造される。したがって、これらの基は、好ましくは混合脂肪族−芳香族基であり、即ち12〜70個の炭素原子を有する基は、脂肪族部分および芳香族部分を含有する。
【0037】
記載される二量体脂肪酸またはモノマー(b1)は、市販品としてモノマー(b2)との相当する混合物で得られてもよい。例としては、UnichemaからのPripol(登録商標)シリーズの二量体脂肪族脂肪酸が挙げられる。
【0038】
これらの市販品中での二量体脂肪族脂肪酸(b1)対モノマー(b2)のモル比は、好ましくは2〜6、より詳細には好ましくは3〜5である。その理由は、かかる比率が、規則的に脂肪酸の上述の触媒的二量化をもたらすためである。
【0039】
したがって、1つの好ましい実施形態では、モノマー(b2)とともにモノマー(b1)として使用するための二量体脂肪族脂肪酸の混合物が使用される。これらの混合物のモル比は、好ましくは2〜6、より好ましくは3〜5である。
【0040】
したがって、ポリエステル(b1)を製造する際に使用されるモノマーの総量に対して、モノマー(b1)として使用される二量体脂肪族脂肪酸の所望量に応じて、モノマー(b2)は、ポリエステル(B1)を製造する際に、例えば1〜10モル%、好ましくは2〜5モル%の割合で使用される。したがって、上記に従って、モノマー(b2)の割合は、どの割合で二量体脂肪酸、したがって記載される市販品がモノマー(b1)として使用されるかどうかに依存し、またそうだとしたら、その割合で二量体脂肪酸、したがって記載される市販品がモノマー(b1)として使用される。例えば、水添されたビスフェノールおよび/または二量体脂肪族脂肪アルコール(これらは一般に、二量体脂肪族脂肪酸の水添により得られ、その場合では、同様に一般的に存在するモノマー(b2)も水添されて、したがってモノマー(b1)、即ち二量体脂肪族脂肪アルコールへと還元される)が、モノマー(b1)として、専らまたは主に使用される場合、モノマー(b2)の割合は、それに応じてより低い。二量体脂肪族脂肪酸が、専らまたは主に使用される場合には、したがってモノマー(b2)の割合は、明らかに一般的により高い。
【0041】
ポリエステル(B1)の製造に使用され得るさらなる構成単位は、好ましくは下記モノマーである:
−(b3)特にエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールおよび/または1,4−ジメチロールシクロヘキサン、好ましくは1,4−ブタンジオールおよび/または1,6−ヘキサンジオールなどの2〜11個の炭素原子を有する直鎖状脂肪族および/または脂環式ジオール(これらのジオールは、ポリエステル(B1)を製造する際、好ましくは、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して例えば0〜40モル%、好ましくは0〜35モル%の割合で使用される)、
−(b4)特にネオペンチルグリコール、2−メチル−2−プロピルプロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,5−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、好ましくはネオペンチルグリコールなどの4〜11個の炭素原子を有する分岐状脂肪族ジオール(これらのジオールは、ポリエステル(B1)の製造に、好ましくは、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して例えば0〜45モル%、好ましくは0〜40モル%の割合で使用される)、
−(b5)特にシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,4−シクロヘキサン二酸および/またはそれらの無水物、好ましくはヘキサヒドロフタル酸などの4〜12個の炭素原子を有する直鎖状脂肪族、脂環式および/または芳香族ジカルボン酸(これらのジカルボン酸は、ポリエステル(B1)の製造に、好ましくは、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して例えば5〜30モル%、好ましくは10〜25モル%の割合で使用される)、
−任意に、ポリエステル(B1)の製造に使用されるモノマーの総量に対して例えば0〜10モル%の割合の、例えば12〜70個の炭素原子を有し、かつ架橋ヘテロ原子および/またはヘテロ原子を含有する架橋基を含むさらなるモノマー(b6)。
【0042】
ポリエステル(B1)を製造するのに使用されるモノマーは、好ましくは、ヒドロキシル基対カルボン酸基のモル比が、1.5を上回り、より詳細には1.5〜3、非常に好ましくは1.7〜2.7、1つの特に好ましい実施形態では、1.8〜2.5であるような割合で使用される。このモル比の算出は、カルボン酸基側の無水物モノマーの2つの潜在的なカルボン酸基を含む。これらの好ましい比率の選択によって、ポリエステル(B1)のヒドロキシ官能性を生成する際に、より詳細には続く無水物(A)との開環反応のための2つの末端ヒドロキシル基を生成する際に、特に良好な成功が達成される。かかるポリエステル(B1)を使用して製造され、かつポリエステル(B1)が両側で無水物で官能化された系またはポリエステル誘導体は、液晶性に関して特に良好な特性を有し、したがって特に好ましい。記載されるモル比は、用いられる出発化合物(モノマー)の各々の官能性および分子量から算出される比として理解される。
【0043】
ポリエステル(B1)は、ヒドロキシ官能性である。好ましくは、それは、1分子当たりちょうど2つの末端ヒドロキシル基を有し、したがって線状ポリエステル鎖が、ヒドロキシル基により両側で閉鎖されていることを意味する。
【0044】
ポリエステル(B1)は好ましくは、80〜200、より好ましくは100〜190、非常に好ましくは120〜180mg KOH/gのOH価を有する。OH価は、本発明においては、DIN 53240に従って決定される。ポリエステル(B1)の酸価は、好ましくは低く、より好ましくは、0〜50、好ましくは2〜30、非常に好ましくは5〜20mg KOH/gの範囲で存在する。したがって、好ましくは、ポリエステル(B1)は、ほんの少量のカルボキシル基を、例えば単に合成の結果として、不完全変換の結果として残留する残留カルボキシル基を含有する。酸価は、本発明においては、DIN EN ISO 3682に従って測定される。本発明においては、ポリマーに関するOH価または酸価の報告は、相当する不揮発性画分に関連して常に理解されるべきである。構成成分の、例えばポリエステルなどのポリマーの分散液の不揮発性画分(固形分)は、本発明においては、DIN EN ISO 3251に従って、各々の構成成分1.0gの初期質量を用いて、試験持続時間60分および温度125℃にわたって決定される。
【0045】
ポリエステル(B1)の数平均分子量は、好ましくは400〜2000、より好ましくは600〜1500g/mol、非常に好ましくは700〜1200g/molの範囲である一方で、質量平均分子量は、好ましくは1200〜3000g/mol、より好ましくは1500〜2500g/molの範囲である。本発明においては、分子量は、スチレン−ジビニルベンゼンカラムの組合せにおける、溶離液(1ml/分)としてTHF(+0.1%酢酸)を使用したGPC分析によって決定される。較正は、ポリスチレン標準物質を使用して実施される。
【0046】
ポリエステル(B1)の製造、したがってモノマーの反応は、ポリエステル化学の広く知られている方法に従って行われ、当業者はさらに、例えば、OH価および酸価などの上述の好ましい特性を得るために、どのように条件を選択しなくてはならないかを認識している。反応は、例えば、バルク中で、または典型的な有機溶媒を用いた溶液中で、例えば50℃〜300℃、好ましくは100℃〜290℃、より詳細には140℃〜280℃の温度で行われてもよい。特に、140℃を上回る反応温度によって、無水物および遊離カルボン酸の同時使用により、遊離カルボン酸の有効な反応、換言するとポリエステルスカフォールドへの相当するモノマーの有効な組み込みも確実にすることが可能である。硫酸、スルホン酸および/またはチタン酸テトラアルキル、亜鉛アルコキシレートおよび/または錫アルコキシレート、酸化ジアルキル錫、または酸化ジアルキル錫の有機塩などの典型的な触媒を用いることもできることが理解されよう。
【0047】
ジエステル誘導体を製造するための構成成分(B)として、ジヒドロキシ官能性構成成分(B2)が用いられ、構成成分(B2)は、ヒドロキシル基間に12〜70個の炭素原子を有する脂肪族基を有する。脂肪族基および相当する定義が関係する限りは、構成成分(B2)は、モノマー(b1)に関してすでに上述したのと同じ説明に付される。したがって、構成成分(B2)は、12〜70個の炭素原子およびヒドロキシル基を有する脂肪族基で構成される。構成成分(B2)は好ましくは、13〜50個、より好ましくは14〜40個の炭素原子を有する。構成成分(B2)としては、ヒドロキシル基が第2級であるジヒドロキシ官能性構成成分を使用することが好ましい。この手段により、特に、水性媒質中での本発明のジエステル誘導体の加水分解安定性、したがって、換言すると、特に、構成成分(B2)のヒドロキシル基と無水物(A)との、以下で後述する開環反応の結果として発生するエステル結合の加水分解安定性を改善することができることが浮かび上がってくる。
【0048】
したがって、好ましい構成成分(B2)は、例えば、完全に水添されたビスフェノールである。完全に水添されたビスフェノールAが特に好ましい。
【0049】
しかしながら、本発明のある特定の実施形態では、二量体脂肪族脂肪アルコール、または完全に水添されたビスフェノール、より詳細には完全に水添されたビスフェノールAおよび二量体脂肪族脂肪アルコールの組合せの使用が有利であり得る。
【0050】
本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体を製造するための開環反応
本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体は、上述のように、上記で図示および解明された式(I)を有する無水物(A)と、ヒドロキシ官能性構成成分(B)との開環反応により製造される。
【0051】
当業者が認識しているように、無水物とヒドロキシル基との間のこの種の反応は、エステル結合およびカルボキシル基の形成を伴って起きる。したがって、ヒドロキシ官能性構成成分(B)、即ちひいては特定の線状ヒドロキシ官能性ポリエステル(B1)、好ましくはジヒドロキシ官能性ポリエステル(B1)、または特定のジヒドロキシ官能性構成成分(B2)は、エステル結合の形成を伴って、相当するカルボキシ末端基で修飾されて、本発明のポリエステルまたはジエステル誘導体を形成する。
【0052】
したがって、本発明との関連において、「開環反応」という表現は、具体的にこの開環反応とは別に、さらなる反応は起きない、即ち、より詳細には、反応混合物中に依然として存在するさらなる分子とのヒドロキシ官能性構成成分(B)の開環反応により形成されるカルボン酸基のさらなる反応は起きないことを意味すると理解されよう。当業者が認識しているように、さらなるエステル結合の形成を伴う、この種の縮合反応は、原則として可能である。しかしながら、任意のかかるさらなる反応は、適切に適応される反応レジメンによって、同様に当業者に公知の方法で、容易に防止され得る。公知であるように、無水物は、環張力およびヒドロキシル基との反応に関する、結果として生じるより高いエネルギー放出のため、遊離カルボン酸基よりも高い反応性を有する。したがって、例えば、開環反応を可能にするが、任意のさらなる縮合反応は可能にしない反応温度で操作することが可能である。さらに、触媒(その例は、典型的な酸触媒またはラウリン酸ジブチル錫である)の意図的な使用または意図的な省略、より詳細には省略によって、所望の反応レジメンを確実にすることができる。さらに、例えば、水の添加もしくは省略、または水分離器の使用は、水が、カルボン酸とアルコールとの間の典型的な縮合反応で放出される一方で、このことは、無水物およびアルコールの反応には当てはまらないため、種々の反応に対して影響を及ぼすことが知られている。したがって、当業者は、どのようにこれらの状態を適応させるかがわかっている。
【0053】
したがって、本発明の開環反応は、カルボン酸基、またはさらなるカルボン酸基を含むポリエステルまたはジエステル誘導体を生じる。本発明のポリエステルまたはジエステル誘導体は好ましくは、両末端にかかるカルボキシ官能基を有する。したがって、このことは、反応の過程で、好ましくは、構成成分(B)、および/または構成成分(B)のヒドロキシル基に使用される無水物のモル比は、本発明のポリエステルまたはジエステル誘導体が、両末端に相当するカルボキシ官能基を有するように選択されることを意味する。本発明のポリエステルまたはジエステル誘導体は好ましくは、1分子当たりちょうど2つのカルボン酸基を有する。
【0054】
したがって、本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体において、構成成分(B)に由来する分子単位が、コア中に、または本発明のポリエステルもしくはジエステル誘導体の中心に位置することが好ましい一方で、無水物に由来する分子単位は、側鎖基および/または末端基の形態で存在する。特に好ましくは、本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体は、無水物に由来するちょうど2つの末端基を有する。したがって、これは特に、構成成分(B1)が好ましくは、2つの末端ヒドロキシル基を有することを意味する。続いて、これらの基はともに、無水物(A)と反応し得る。したがって、同様に構成成分(B2)に関しても、好ましくは存在する2つのヒドロキシル基の完全な反応が存在する。上述したように、構成成分(B)は、少なくとも12個の炭素原子を有する特定の脂肪族基を含む。続いて、構成成分(B)の結果として生じる疎水性は、両側で末端に結合された無水物分子による、または親水性に関与する2つの相当する遊離カルボキシル基による特定の両親媒性に寄与する。より多くの疎水性単位が分子の中心に位置するのに対して、反対側の末端基は両方とも親水性である。これらの特定のポリエステルおよびジエステル誘導体は、それらの液晶挙動に関して特に有利な特性を有する。
【0055】
反応では、まさに1種の無水物(A)とまさに1種のヒドロキシ官能性構成成分(B)とを使用することが好ましい。
【0056】
当業者が認識しているように、上述の反応および反応レジメンは、単に統計学的理由のため、記載される理想的な構造を有さない生成物もまた生じる。一般に、例えば、得られるポリエステルおよびジエステル誘導体と、依然として存在する構成成分(B)の分子とのまたは両側の官能化が好ましいにもかかわらず片側のみが官能化された生成物とのさらなる反応によって、副生成物が形成される能性が高い。同様に、例えば、操作が、完全に水を含まないわけではない場合、または反応中の大気条件(大気中の水分)を除外しない場合に、無水物(A)と水または大気中の水分との副次反応が可能である。反応混合物中に未反応の出発構成成分も存在する。これにもかかわらず、記載される反応レジメンは、主生成物として同様に記載されるポリエステルおよびジエステル誘導体を得ることを容易に可能とする。これらの誘導体はまた、さらなる精製を伴わずに使用され得る。
【0057】
無水物(A)と構成成分(B)の開環反応は、当業者に公知の種々の方法によって、得られるポリエステルまたはジエステル誘導体とヒドロキシ官能性構成成分(B)の分子とのさらなる反応の上述の防止を遵守して行われ得る。反応は、例えば、バルク中で、または溶液中で、好ましくは4−メチル−2−ペンタノンまたは他の標準的な溶媒などの有機溶媒を用いた溶液中で、例えば50℃〜150℃、好ましくは60℃〜125℃、より詳細には65℃〜100℃の温度で行われ得る。特に、100℃以下の反応温度によって、ポリエステルまたはジエステル誘導体と、ヒドロキシ官能性構成成分(B)の分子とのさらなる反応を有効に防止することが可能である。当然のことながら、硫酸またはラウリン酸ジブチル錫などの典型的な触媒を使用することも可能であるが、上述のさらなる反応を防止するためには、かかる触媒の省略が有利である。ポリエステルおよびジエステル誘導体は、例えば、有機溶媒との反応混合物として、または固体樹脂として、または油状物質として、任意に用いられる有機溶媒の蒸留後に得られ得る。
【0058】
開環反応、またはポリエステルおよびジエステル誘導体の製造において、構成成分(A)は、好ましくは、構成成分(A)の無水物基対構成成分(B)のヒドロキシル基のモル比が、0.6を上回り、より好ましくは0.7〜2.0であるような様式で、構成成分(B)と反応させる。本発明の1つの特に有利な実施形態では、操作は、構成成分(A)の無水物基が、構成成分(B)のヒドロキシル基に関してモル欠損で存在するように実施される。この場合では、0.7〜1.0未満、より詳細には0.8〜0.95の構成成分(A)の無水物基対構成成分(B)のヒドロキシル基のモル比が好ましい。このようにして、無水物の完全な変換がみられ、したがって事実上無水物分子は、反応後に反応混合物中には残存しない。記載されるモル比は、使用される出発化合物の各々の官能性から算出される比率と理解されるべきである。したがって、構成成分(B1)の場合、用いられる質量に加えて、測定されるOH価が、算出の基礎として用いられる。単量体出発化合物(構成成分(B2)、無水物(A))の場合、官能基のモル量は、分子量と用いられる質量の積である。
【0059】
ポリエステル誘導体は好ましくは、0〜50、より好ましくは2〜30、非常に好ましくは5〜25mg KOH/gのOH価を有する。したがって、特に好ましくは、この誘導体は、例えば単に合成の結果である非定量的変換に起因して、ほんの少量のヒドロキシル基のみを含有する。ポリエステル誘導体の酸価は、無水物から生じるカルボキシル基の結果として、好ましくはより高く、より好ましくは、50〜200mg KOH/g、好ましくは70〜140mg KOH/gの範囲に存在する。
【0060】
ポリエステル誘導体の数平均分子量は、好ましくは、600〜3000g/mol、より好ましくは900〜2000g/molの範囲である一方で、質量平均分子量は、好ましくは、1600〜3600g/mol、より好ましくは2000〜3000g/molの範囲である。
【0061】
上記から、ジエステル誘導体は、好ましくはジカルボキシ官能性であり、即ち2つのカルボキシル基を有することになる。したがって、例えば、構成成分(B2)の不完全反応の結果として残存するジエステル誘導体中の好ましくはほんの数個のヒドロキシル基が存在する。OH価は、好ましくは0〜50、より好ましくは2〜30、非常に好ましくは5〜25mg KOH/gである。このほんのわずかなヒドロキシル基は、当然のことながら、1分子当たり、平均していくらか少ない数のカルボキシル基、換言すると、特に1分子当たり、平均して2個よりもわずかに少ない数のカルボキシル基と同義である。同様にジエステル誘導体に関して、酸価は、上述のように決定されてもよく、好ましくは100〜250mg KOH/g、より好ましくは125〜225mg KOH/g、非常に好ましくは150〜200mg KOH/gである。
【0062】
水性組成物
本発明の水性組成物は、本発明の少なくとも1種のポリエステルおよび/またはジエステル誘導体と、水とを含む。水性組成物は好ましくは、少なくとも80wt%、好ましくは少なくとも90wt%の程度の本発明の少なくとも1種のポリエステルおよび/またはジエステル誘導体と、水とで構成される。さらに、例えば、中和剤、より詳細には以下で後述する中和剤がそこに存在してもよい。
【0063】
本発明との関連において、水性は、例えばポリエステルおよびジエステル誘導体の製造で使用され、また場合によっては蒸留により完全に除去することができなかった有機溶媒の残留画分によって、例えば単なる残留画分または不純物として、有機溶媒が取り込まれることを意味する。水性は、より詳細には、有機溶媒の画分が、いずれの場合でも水性組成物の総質量に対して、5wt%未満、好ましくは2wt%未満であることを意味する。非常に特に好ましくは、水性組成物は、有機溶媒を含まない。「水性」という表現は、好ましくは、特に、製造が、少なくとも30wt%の水、好ましくは少なくとも35wt%の水、より詳細には35〜80wt%の水、非常に好ましくは45〜75wt%の水を含むことを意味すると理解すべきである。
【0064】
構成成分(B)に由来する疎水性基にもかかわらず、ポリエステルおよびジエステル誘導体は、構成成分(A)に由来するそれらのカルボキシル基に基づいて、また陰イオンを形成するための結果として生じる適合性に基づいて、水へ導入させることができる。かかるプロセスは、公知であるように、陰イオンを形成することが可能な基、特にカルボキシル基の意図的な中和により、より有効にさせることができる。したがって、ポリエステルおよびジエステル誘導体のカルボン酸基は、好ましくは、水の添加前または水の添加中に、好ましくは水の添加前に、相当する中和剤で中和される。カルボキシル基の中和に関して、アンモニア、アミンおよび/またはアミノアルコールを用いることが好ましい。好ましくは、ジおよびトリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジイソプロパノールアミン、モルホリンおよび/またはN−アルキルモルホリンが用いられる。
【0065】
中和剤から中和が可能な基、より詳細には第一、第二および第三アミノ基対カルボン酸基のモル比は、好ましくは0.7を上回り、より好ましくは0.75〜1.5、より詳細には0.8〜1.3、非常に好ましくは0.85〜1.2である。このようにして、かなりの割合のカルボン酸基を中和することができるか、またはそうでなければ、およそ1の中和度を達成することができる。
【0066】
組成物の総量に対する、水性組成物中のポリエステルおよび/またはジエステル誘導体の割合は、例えば20〜65wt%、好ましくは25〜55wt%の範囲にある。ポリエステルまたはジエステル誘導体の割合は、固形分によって決定される(決定方法に関しては、上記を参照)。
【0067】
本発明のポリエステルおよびジエステル誘導体は、水とともに液晶相を形成する。
【0068】
水性組成物中の液晶相は、自発的に、換言すると、水へのポリエステルおよび/またはジエステル誘導体の添加により生じる可能性があり、液晶相が形成されて、そのようにして、液晶相を含む水性組成物が生成される。また、液晶相が、水中でのポリエステルおよびジエステル誘導体の意図的な希釈により、換言すると、水中でのポリエステルまたはジエステル誘導体の規定の割合の、より詳細には上述の割合範囲での特定の確立により形成されることが可能である。
【0069】
液晶相を製造するための好ましいプロセスを以下に記載する。
【0070】
例えば、固体樹脂の形態で、またはそうでなければ有機溶媒との混合物での、それらの製造後に存在するポリエステルまたはジエステル誘導体は、中和剤と混合される。続いて、存在する場合には、有機溶媒は、蒸留により除去されて、水が添加される。添加される水は室温であってもよく、換言すると、18〜25℃の温度を有し得るか、またはそうでなければ、例えば50〜70℃にわずかに加熱され得る。水の温度は、好ましくは18〜70℃に設定される。この水は、好ましくは滴加され、その結果、ポリエステルまたはジエステル誘導体は、水で徐々に希釈される。次に、ポリエステルまたはジエステル誘導体の所望の濃度に調節され、より詳細には、上述の好ましい量または割合が確立される。
【0071】
中和剤の添加後の代替的な選択は、初期量の水のみが最初に添加されて、続いて存在する場合には有機溶媒が、蒸留により除去されることである。水の初期量は、好ましくは、水の添加および存在する任意の有機溶媒の蒸留的除去後に、ポリエステルまたはジエステル誘導体の得られる割合が、70〜85wt%であるように選択される。同様に、この水は、好ましくは、18〜70℃の温度を有する。その後、のポリエステルまたはジエステル誘導体の所望の割合(固形分または不揮発性画分)への緩やかな希釈が再び行われる。
【0072】
20〜65wt%、特に、好ましくは25〜55wt%のポリエステルまたはジエステル誘導体含有量を用いた場合に、水性組成物は、特に顕著な液晶特性を有し、換言すると、水性組成物は、その場合では、顕著な液晶相を含む。
【0073】
本発明の別の特定の実施形態では、水性組成物はさらに、層状ヒドロキシド、より詳細には層状二重ヒドロキシドを含む。これらの層状ヒドロキシドの量は、例えば2〜20wt%、非常に好ましくは3〜10wt%である。
【0074】
層状ヒドロキシド、より詳細には二重ヒドロキシド(層状二重ヒドロキシド、LDH)およびそれらの製造は、当業者に公知であり、例えば国際公開第2013056846 A1号に記載されている。
【0075】
本発明との関連において有利に使用されるLDHは、式(II)
[M
2+(1−x)M
3+x(OH)
2][A
y−(x/y)]・nH
2O (II)
[式中、
M
2+は、二価金属陽イオンを表し、M
2+は、好ましくはZn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、Cd
2+、Pb
2+、Sr
2+、およびそれらの混合物、好ましくはZn
2+、Mg
2+、Ca
2+、およびそれらの混合物、非常に好ましくはZn
2+および/またはMg
2+、より詳細にはZn
2+からなる群から選択され、
M
3+は、三価金属陽イオンを表し、M
3+は、好ましくはAl
3+、Bi
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+、Ni
3+、Co
3+、Mn
3+、V
3+、Ce
3+、La
3+、およびそれらの混合物、好ましくはAl
3+、Bi
3+および/またはFe
3+、より詳細にはAl
3+からなる群から選択され、
A
y−は、有機および無機陰イオンを表し、A
y−は、好ましくは炭酸塩、塩化物、硝酸塩、ヒドロキシド、臭化物、モリブデン酸塩、クロム酸塩、サリチル酸塩、シュウ酸塩、2,4−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールおよびその誘導体、EDTA、ベンゾトリアゾラート、アミノ酸の有機陰イオン、より詳細には、アルファ−アミノ酸、好ましくはアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、セレノシステイン、ピロリシン、およびセレノメチオニン、およびさらには下記式(III)
【化4】
(式中、
R
1がCOO
−またはSO
3−であり、
R
2/R
3がNH
2、OHまたはHであり、好ましくはR
2=R
3=Hは除外され、
xは、0.05〜0.5、より詳細には0.15〜0.4、非常に好ましくは0.25〜0.35の値を有し、
nは、0〜10の値を有する)
を有する有機陰イオンからなる群から選択される]
により記載される。
【0076】
特に好ましい陰イオンは、有機陰イオン、より詳細にはアルファ−アミノ酸の有機陰イオン、および式(III)を有するものである。
【0077】
それらの液晶性、および異方性と流動度の間の付随するバランスのために、また同様に良好な配合品質と併せて、これらの特徴(その例は、水性系の顔料配向性およびレオロジーに対する効果である)と相関させることができるさらなる性能特性のために、液晶相は、様々な用途に関する非常に有望な基盤を成す。
【0078】
潜在的使用の例としては、水性自動車用および工業用コーティングが挙げられ、これらは多くの場合、視野角に非常に依存している輝度および/または色彩効果を有すると意図され、ここでは液体塗料材料は、高い不揮発性画分を有するべきであるが、同時に、高い放出率で噴霧されるべきである。これに関連して、特に、液晶性の結果としての顔料配向性および同時に良好な配合特性に対する効果が、特に有益である。他の用途としては、金属基板用の有機耐腐食コーティングが挙げられ、これらは、酸素および水分用の高拡散バリアを、穿通性投射物の事象(例えば、車両の場合にはストーンチッピング)におけるエネルギーの有効な消散と組み合わせると意図される。異方性液体の幾つかは、数ナノメートルの範囲の規定の孔径を有する広範な多孔質ラメラで構成され得るため、それらはまた、分離膜用の容易に利用可能な出発配合物として考えることができる。
【0079】
本発明は、実施例を使用して以下で説明される。
【実施例】
【0080】
別記しない限り、実施例で報告される測定データは全て、説明の全体的な部分で明記されている測定の方法に従って得られた。
【0081】
1.本発明のポリエステル誘導体およびジエステル誘導体の製造
1.1 ポリエステル(B1)の製造
ポリエステル(B1)は、下記の通りに製造される:アンカー型攪拌機、窒素入口ならびにオーバーヘッド温度測定手段および還流冷却器を伴う最上部に取り付けられたパックカラムを有する水分離器を有する反応器に、完全に水添されたビスフェノールA 44.40g、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物 7.07g、二量体脂肪酸(Pripol(登録商標)1012、Unichemaから、不飽和C18脂肪酸誘導体に基づく、また少なくとも97wt%の二量体含有量、多くても1wt%の三量体含有量、および多くても微量のモノマー含有量を有する)23.41gを入れる。窒素雰囲気下で、かつ攪拌しながら、反応混合物が酸価8〜12mg KOH/gに達するまで、反応器の内容物を190℃で加熱する。オーバーヘッド温度は、100℃を超えるべきではない。9日後、酸価11.4mg KOH/gに達し、反応混合物を冷却する。水1.7mlが、縮合反応から収集される。収量は、固体樹脂72.7gである。樹脂は、OH価143mg KOH/g、質量平均分子量1884g/molおよび数平均分子量753g/molを有する。
【0082】
1.2 本発明のポリエステル誘導体EP1の製造
本発明のポリエステル誘導体EP1は、下記の通りに製造される:実施例1.1で得られるポリエステル(B1)の樹脂溶融体を、2−ブタノン 27gと混合して、アンカー型攪拌機、窒素入口および還流冷却器を有する反応器中で攪拌しながら溶解させて、2−オクテニルコハク酸無水物35.7g(用いられるポリエステル(B1)中のヒドロキシル基のモル量に関して0.9当量)が添加される。窒素雰囲気下で、混合物を95℃へ加熱して、還流下で18時間、この温度で攪拌する。このようにして得られる無色透明溶液は、68.4wt%の不揮発性画分(ポリエステル誘導体EP1の画分)を有する。酸価は、97mg KOH/gである。樹脂は、OH価18mg KOH/g、質量平均分子量2218g/mol、および数平均分子量1181g/molを有する。
【0083】
1.3 本発明のジエステル誘導体ED1の製造
本発明のジエステル誘導体ED1は、下記の通りに製造される:完全に水添されたビスフェノールA(構成成分(B2))12.6gを、アンカー型攪拌機、窒素入口および還流冷却器を有する反応器中で2−ブタノン 23g中に溶解させて、n−オクテニルコハク酸無水物20.4g(水添されたビスフェノールA中のヒドロキシル基のモル量に関して0.9当量)が添加される。窒素雰囲気下で、混合物を95℃へ加熱して、還流下で22時間、この温度で攪拌する。このようにして得られる無色透明溶液は、70.1wt%の不揮発性画分(ジエステル誘導体ED1の画分)を有する。酸価は、175mg KOH/gである。樹脂は、OH価27mg KOH/g、質量平均分子量841g/mol、および数平均分子量701g/molを有する。
【0084】
2.本発明ではないポリエステル誘導体VP1の製造
ポリエステル誘導体VP1は、下記の通りに製造される:実施例1.1で得られるポリエステル(B1)の樹脂溶融体を、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物8.35gと混合する。反応器は、水分離器および還流冷却器とともに、充填カラムを用いずに作動させる。混合物を160℃へ加熱して、その温度で25時間攪拌する。収量は、固体樹脂79.02gである。酸価は、32.5mg KOH/gである。縮合反応の結果として水0.6mlを収集することが可能である。樹脂は、OH価68mg KOH/g、質量平均分子量7188g/mol、および数平均分子量2171g/molを有する。
【0085】
3.水性組成物および液晶相の製造
3.1 EP1を含む本発明の水性組成物の製造
アンカー型攪拌機、窒素入口、還流冷却器および蒸留橋を有する反応器中で、実施例1.2で得られる溶液(EP1を含有)を、窒素下で、かつ攪拌しながら80℃へ加熱して、酸価によって決定されるポリエステル誘導体のカルボキシル基の0.95の中和度に相当するN,N−ジメチルアミノ−2−エタノール10.19gと滴下しながら混合する。さらに10分の攪拌後、残存するポリエステル誘導体の2−ブタノン含有量が0.5wt%未満に達するまで(ガスクロマトグラフィ分析によって決定される)、2−ブタノンを、80℃での真空蒸留で除去する。
【0086】
室温に状態調節された脱イオン水を、この樹脂溶融体に滴加する。ポリエステル誘導体EP1を、最初は1分につき2gの質量流量で、(およそ)100wt%から42wt%の不揮発性画分まで希釈する。この後、20分間攪拌して、相当する水性組成物の試料を、セクション4で記載する研究用に取り出す(水性組成物E1)。続いて、残存分散液を、室温で状態調節された脱イオン水の滴加により、1分につき2gの質量流量で、33wt%の不揮発性画分まで順次希釈する(水性組成物E2)。水性組成物を室温に冷却して、さらなる特性化(セクション4)用に3日間取っておく。
【0087】
3.2 ED1を含む本発明の水性組成物の製造
アンカー型攪拌機、窒素入口、還流冷却器および蒸留橋を有する反応器中で、実施例1.3で得られる溶液(EP1を含有)を、窒素下で、かつ攪拌しながら80℃へ加熱して、酸価によって決定されるジエステル誘導体のカルボキシル基の0.95の中和度に相当するN,N−ジメチルアミノ−2−エタノール12.4gと滴下しながら混合する。次に、水24.3gを攪拌しながら添加する。残存するジエステル誘導体の2−ブタノン含有量が0.5wt%未満に達するまで(ガスクロマトグラフィ分析によって決定される)、2−ブタノンを、80℃での真空蒸留で除去する。
【0088】
この分散液は、76wt%の不揮発性画分を有し、滴加により、1分につき2gの質量流量で、60℃で、40wt%の不揮発性画分まで水で希釈する(水性組成物E3)。水性組成物を室温に冷却して、さらなる特性化(セクション4)用に3日間取っておく。
【0089】
3.3 VP1を含有する本発明ではない水性組成物の製造
アンカー型攪拌機、窒素入口、還流冷却器および蒸留橋を有する反応器中で、実施例2で得られる樹脂を、4−メチルペンタン−2−オン33.5gと混合させて、完全な溶解のために5日間にわたって静置させる。得られた混合物を、窒素雰囲気下で、かつ攪拌しながら90℃へ加熱して、酸価により決定されるポリエステル誘導体のカルボキシル基の0.95の中和度に相当するN,N−ジメチルアミノ−2−エタノール3.9gと10分かけて混合する。80℃へ冷却した後、水47.8gを、攪拌しながら120分かけて添加する。残存するポリエステル誘導体中の4−メチルペンタン−2−オンの量が0.5wt%未満に達するまで(ガスクロマトグラフィ分析によって決定される)、4−メチルペンタン−2−オンを、73℃での真空蒸留で除去する。
【0090】
この分散液は、61wt%の不揮発性画分を有し、滴加により、1分につき2gの質量流量で、73℃で、36wt%の不揮発性画分まで水で希釈する。温度73℃を4時間保持して、分散液を断続的な攪拌で均質化する(水性組成物V1)。水性組成物を室温に冷却して、さらなる特性化(セクション4)用に3日間取っておく。
【0091】
表1は、製造される水性組成物の概説を重ねて付与する。
【0092】
【表1】
【0093】
4.水性組成物の性能研究
セクション3で得られる水性組成物を下記の通りに研究した。
【0094】
4.1 交差偏光を有する光の下での光学顕微鏡法(OM)
OMを使用して、複屈折の従来の現象を検出することが可能である。結晶相などの複屈折相を用いて、例えば、交差偏光子配置(光源からの光の一次フィルターまたは直線偏光子、およびさらには一次フィルターに対して90°回転される二次フィルター、または分析器)の場合、光は、分析器に差し込み、したがって、相応して輝いている領域は、得られた顕微鏡画像で確認することができるのに対して、このことは、単に等方性の相には当てはまらない。したがって、後者の場合、完全な消光がみられ、画像は暗色または完全に黒色である。したがって、光領域が可視である場合、結晶性(異方性、秩序性)が結論付けられ得る。
【0095】
OMは、XC10デジタルカメラおよびUMプランFIレンズを用いてOlympus BX 51顕微鏡で記録した。各々の水性組成物(E1〜E3、V1)の試料を、スライドガラスとカバーガラスの間に準備した。試料は、スライドガラスおよびカバーガラスを一緒に押し付けることにより、およそ100μmの容量にして、このようにして、わずかにせん断された試料を弛緩させるために、少なくとも1分間静置する。測定は、90°で交差した偏光フィルターを用いて、室温にて透過光で行う。
【0096】
顕微鏡下で、試料E1〜E3(本発明の水性組成物)は、光が分析器を通って貫通する明確に表された領域を示す。本発明の層の複屈折は、異方性秩序構造が存在することを示し、その「油状線条」の質感はラメラ液晶相と合致する。同様に、比較用試料V1も、複屈折を示す。
【0097】
上述の特性はまた、
図1〜
図4からも理解され得る。
【0098】
したがって、4つ全ての水性組成物が、秩序異方性相を示す。
【0099】
4.2 水性組成物のレオロジー特性化
水性組成物E1〜E3およびV1を使用して、23℃での振幅スイープは、CP50/1を有するAnton Paar MCR501で実施され、0.2Pa(または0.5/2Pa)〜100Paのせん断応力範囲にわたって幾何学を測定し、その間の、各々の水性組成物の貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”が測定された。
【0100】
貯蔵弾性率G’が、試料の弾力性(即ち、換言すると、弾性、例えば試料のゲル状特性、したがって、エネルギーの導入後に起きる弾性変形を反映する)の表現である一方で、損失弾性率G”は、試料に導入されたエネルギーの消散的に放出または損失された粘性構成成分を反映し、したがって原則的に流体性の表現である。
【0101】
貯蔵弾性率G’が、損失弾性率G”よりも有意に大きい系は、流体性を事実上全く有さず、したがって、特に、流動性ではない。流体および流動性と対比して、かかる系は一般に、ゲル状の性質を示し、特に、はっきりと妨げられた配合特性および展開性(deployability)をもたらす。例えば、この種のゲル状系は、困難を伴わずに、他の構成成分と均質な混合物を形成することはできない。
【0102】
損失弾性率G”が、貯蔵弾性率G’よりも大きい系は一般に流動性の系であり、したがってそれらは、配合しやすい。損失弾性率G”および貯蔵弾性率G’が同様の規模である系にも同じことが当てはまる。同様に、粘弾性流体として公知であるこの種の系は、良好な配合品質に必須な流体性を有する。
【0103】
本発明の組成物は、広いせん断応力範囲(0.2〜100Pa)にわたってほぼ同規模の損失弾性率G”および貯蔵弾性率G’を有する。したがって、例えば、10Paのせん断応力での損失弾性率G”および貯蔵弾性率G’の量は、ほんの約442Pa(組成物E1)、434Pa(組成物E2)および34Pa(組成物E3)だけ異なり、損失弾性率G”は、いずれの場合も貯蔵弾性率G’よりも大きい。類似した条件はまた、より高い、またはより低いせん断応力で発生する。弾性率はそれぞれ、類似した規模で存在し、損失弾性率G”は、組成物E1およびE2に関しては範囲全体にわたって、貯蔵弾性率G’よりも大きく、貯蔵弾性率は、組成物E3に関しては、5Pa以下のせん断応力では損失弾性率よりもほんのわずかに大きい(
図5は、せん断応力の測定範囲全体にわたって、測定した試料に関する損失弾性率および貯蔵弾性率を示す)。
【0104】
これらのデータは、単に視覚的に検出され得る組成物の巨視的状態と非常に良好に合致する。3つの試料は全て、流体であり、したがって良好な配合品質を有する。それらはしたがって、結晶性、異方性および秩序状態を、顕著な流動度と、またそれらから得られる良好な配合特性と組み合わせる。したがって、それらは液晶である。
【0105】
対比して、本発明ではない試料V1の場合、損失弾性率G”よりもはるかに大きい貯蔵弾性率G’が、広いせん断応力範囲にわたって観察される。10Paのせん断応力では、貯蔵弾性率は、損失弾性率よりも約3700Pa大きい。続いて、ここでの差は、本発明の系の場合よりもかなり大きい。
【0106】
続いて、データは、単に視覚的手段により検出可能であるように、組成物の巨視的状態と非常に良好に合致する。組成物V1は、通例の研究室攪拌機では、またはそうでなければ溶解槽などのより大きな攪拌デバイスでは加工処理できない非流体ゲルであり、相当して、非常に乏しい配合特性を有する。
【0107】
したがって、本発明の組成物は、広範囲の機械的応力(せん断応力)にわたってそれらの液晶性を保存するのに対して、本発明ではない組成物は、ゲル状の性質を有することが見出される。