(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ロッド(4)の外周面には雄ねじ(3)を形成していて、そのロッド(4)の雄ねじ(3)を前記テーパー部材(7)の中心軸に沿って形成している雌ねじ(6)に螺合することで、前記ロッド(4)と前記テーパー部材(7)とを連結していることを特徴とする請求項1記載のアンカーボルト(40)。
一のテーパー部材(57a)の傾斜面(60)に臨む前記当接部(62)と、その一のテーパー部材(57a)に隣接する別のテーパー部材(57b)の傾斜面(60)に臨む前記当接部(62)とが、前記アンカーボルト(50)の先端側から見て、前記テーパー部材(57a・57b)の周方向にずれるように配置していることを特徴とする請求項3記載のアンカーボルト(50)。
前記テーパー部材(57a・57b)の前記傾斜面(60)と、それに臨ませて配置している前記当接部(62)とをそれぞれ前記テーパー部材(57a・57b)ごとに三個または五個ずつ設けており、
前記各テーパー部材(57a・57b)の前記傾斜面(60)と、それに臨ませて配置している前記当接部(62)とを前記テーパー部材(57a・57b)の周方向に等間隔で配置しており、
前記アンカーボルト(50)の先端側から見て、一のテーパー部材(57a)の傾斜面(60)に臨む各当接部(62)の間に、その一のテーパー部材(57a)に隣接する別のテーパー部材(57b)の傾斜面(60)に臨む各当接部(62)をそれぞれ位置させていることを特徴とする請求項4記載のアンカーボルト(50)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1のアンカーボルトでは、前記テーパー部材が横断面で正六角形(特許文献1の
図6参照)になるように前記各傾斜面を形成していて、そのテーパー部材の正六角形の各辺の部分に各当接部をそれぞれ配置している。そのため、各当接部は二個ごとに向かい合い、その向かい合った各当接部が取付孔の内周面をベクトル的に正反対の方向に直線状に押すことになる。
【0007】
つまり、前記取付孔には、前記向かい合った当接部によって押し広げられるように力が加わる。しかも、その力はベクトル的に直線状になっているために、取付孔の内周面にまともに加わる。その結果、前記取付孔を設けたコンクリート壁などにひび割れなどが生じて、前記取付孔に対するアンカーボルトの固着力が低下する虞がある。
【0008】
また、前記特許文献1のアンカーボルトでは、前記六個の当接部を同一高さ位置(特許文献1の
図3参照)に配置しているために、各当接部が取付孔の内周面を押す力が、当該取付孔での狭い範囲(取付孔の長さ方向での範囲)に集中することになる。その結果、前記取付孔を設けたコンクリート壁などにひび割れなどが生じて、前記取付孔に対するアンカーボルトの固着力(固定力)が低下する虞がある。
【0009】
本発明は、かかる不都合を解決することを目的として提供されたものであり、取付孔を設けたコンクリート壁などのひび割れなどを抑えて、前記コンクリート壁などに確実に固定できるアンカーボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は、かかる不都合を解決するために、壁面1に設けた取付孔2に差し込んで固定するアンカーボルト40であって、ロッド4と、ロッド4に連結しているテーパー部材7と、テーパー部材7に外嵌する三個または五個の当接部12とを有しており、テーパー部材7は、その中心軸に直交する横断面が正三角形または正五角形になるように形成していて、その正三角形または正五角形の各辺の箇所に、基端側に向かうに従ってテーパー部材7の中心軸に近づくように傾斜している三個または五個の傾斜面10をそれぞれ形成しており、当接部12は、テーパー部材7の傾斜面10と同数だけ設けているとともに、基端側に向かうに従ってテーパー部材7の中心軸に近づくように傾斜していてテーパー部材7の傾斜面10に当接可能な内面11を有しており、テーパー部材7と当接部12とを先端側から取付孔2に差し込んだ状態で、テーパー部材7のみを取付孔2の開口側に移動させることにより、テーパー部材7の傾斜面10によって当接部12が取付孔2の内周面2a側に押されて、当接部12の外周面15が取付孔2の内周面2aに押し付けられて、当接部12が取付孔2に固定されることを特徴とする。
【0011】
ここでの壁面1には、岩壁やトンネルなどの土木構造物や建築物の天井および側壁などの壁面が含まれる。ここでのロッド4とテーパー部材7との連結には、ロッド4をテーパー部材7に溶接する場合などが含まれる。テーパー部材7の横断面が正三角形であるか正五角形であるかに合わせてテーパー部材7の傾斜面10と当接部12との個数が設定される。ここでは、例えば当接部12どうしをつなぐ架橋部13の弾性力で当接部12が取付孔2の内周面2aに押し付けられて保持されて、テーパー部材7のみが取付孔2の開口側に移動する場合や、当接部12が取付孔2の内周面2aに引っ掛かることなどで保持されて、テーパー部材7のみが取付孔2の開口側に移動する場合などが含まれる。
【0012】
詳しくは、ロッド4の外周面に雄ねじ3を形成していて、そのロッド4の雄ねじ3をテーパー部材7の中心軸に沿って形成している雌ねじ6に螺合することで、ロッド4とテーパー部材7とを連結しているものとすることができる。
【0013】
本発明の第2の側面は、かかる不都合を解決するために、壁面51に設けた取付孔52に先端側から差し込んで固定するアンカーボルト50であって、互いに近接している状態でロッド54に連結している少なくとも二個のテーパー部材57a・57bと、それらのテーパー部材57a・57bを一体として外嵌している拡開部材58とを有しており、各テーパー部材57a・57bの外周面には、基端側に向かうに従ってテーパー部材57a・57bの中心軸に近づくように傾斜している傾斜面60をそれぞれ形成しており、拡開部材58は、テーパー部材57a・57bの傾斜面60に面接触可能な内面61を形成している複数個の当接部62と、それらの当接部62をつないでいる架橋部63とを有しており、架橋部63は、テーパー部材57a・57bよりもアンカーボルト50の先端側に位置している本体部位63aと、その本体部位63aの周縁から各当接部62へ向けてそれぞれ延びていて、その自由端部に各当接部62の先端側をそれぞれつないでいる複数個の接続部位63b・63cとを有しており、各テーパー部材57a・57bと拡開部材58とを取付孔2に差し込んだ状態で、各テーパー部材57a・57bを取付孔2の開口側に移動させることにより、各テーパー部材57a・57bの傾斜面60によって各当接部62が取付孔2の内周面2a側に押されて、各当接部62の外周面65が取付孔2の内周面2aに押し付けられて、当接部62が取付孔2に固定されることを特徴とする。
【0014】
ここでの壁面51には、岩壁やトンネルなどの土木構造物や建築物のコンクリート製の天井および側壁などの壁面が含まれる。テーパー部材57a・57bの個数は多くてもよいが、その個数が多いほど、アンカーボルト50の製作の手間などがかかるために、テーパー部材57a・57bの個数は二個が好ましい。
【0015】
ここでのロッド54と各テーパー部材57a・57bとの連結には、ロッド54とテーパー部材57a・57bとを溶接で連結する場合や、各テーパー部材57a・57bに雌ねじ65を設けるとともにロッド54の外周面に雄ねじ53を設け、各テーパー部材57a・57bの雌ねじ56にロッド54の雄ねじ53を螺合させて連結する場合などが含まれる。
【0016】
ここでのテーパー部材57a・57bどうしの近接には、テーパー部材57a・57bどうしが接している場合や、テーパー部材57a・57bどうしの間に若干の間隔を有する場合が含まれる。ここでは、ロッド54を取付孔52の開口側に移動させることで、そのロッド54と共にテーパー部材57a・57bが取付孔52の開口側に移動する場合や、例えば、前述のように各テーパー部材57a・57bの雌ねじ56にロッド54の雄ねじ53を螺合させて当該ロッド54を回すことで、テーパー部材57a・57bのみが取付孔52の開口側に移動する場合が含まれる。
【0017】
詳しくは、一のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む当接部62と、その一のテーパー部材57aに隣接する別のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む当接部62とが、アンカーボルト50の先端側から見て、テーパー部材57a・57bの周方向にずれるように配置している。
【0018】
より詳しくは、テーパー部材57a・57bの傾斜面60と、それに臨ませて配置している当接部62とをそれぞれテーパー部材57a・57bごとに三個または五個ずつ設けており、各テーパー部材57a・57bの傾斜面60と、当接部62とをテーパー部材57a・57bの周方向に等間隔で配置しており、アンカーボルト50の先端側から見て、一のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む各当接部62の間に、その一のテーパー部材57aに隣接する別のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む各当接部62をそれぞれ位置させている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の側面によるアンカーボルト40は、テーパー部材7のみを取付孔2の開口側に移動させたときには、テーパー部材7の傾斜面10が、当接部12の内面11に当接した状態でその当接部12を取付孔2の内周面2a側にしっかりと押すので、そのテーパー部材7の傾斜面10によって当接部12の外周面15が取付孔2の内周面2aに的確に押し付けられて、当接部12が取付孔2に確実に固定される。
【0020】
そのうえで、各当接部12がテーパー部材7の横断面での正三角形または正五角形の各辺の箇所に配置されるので、各当接部12が取付孔2の内周面2aを押す力(以下、単に「押す力」という。)21は、どの一つの押す力21をとっても他の押す力21とはベクトル的に直線状にはならない(
図5参照)。その結果、一の当接部12と他の当接部12とが取付孔2の内周面2aを直線的に正反対方向に押し合うことがなく、それによって取付孔2の内周面2aを過度に押し広げて、その取付孔2を設けたコンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることが抑えられる。その結果、前記ひび割れなどによって取付孔2に対するアンカーボルトの固着力が低下することを確実に防止することができる。当接部12が広がった状態における各当接部12と取付孔2の内周面2aとの接触面積は、当接部12が三個であるときが、五個であるときよりも大きく、当接部12が五個であるときが、七個であるときよりも大きい。それに伴い、一個の当接部12が取付孔12の内周面12aを押す力は、当接部12が三個であるときが、五個であるときよりも大きく、当接部12が五個であるときが、七個であるときよりも大きい。
【0021】
ロッド4の雄ねじ3をテーパー部材7の雌ねじ6に螺合することで、ロッド4とテーパー部材7とを連結していると、ロッド4を回すだけの簡単な操作で、ねじ作用でテーパー部材7を取付孔2の開口側に移動させることができる。
【0022】
テーパー部材7の傾斜面10と当接部12とをそれぞれ五個ずつ設けていると、各当接部12の取付孔2の内周面2aを押す力21が取付孔2の周方向に適正に分散して、取付孔2を設けたコンクリート壁などのひび割れなどの発生を確実に抑えながら、各当接部12を取付孔2に確実に固定することができる。
【0023】
本発明の第2の側面によるアンカーボルト50は、各テーパー部材57a・57bを取付孔2の開口側に移動させることで、それらのテーパー部材57a・57bによって各当接部62が取付孔52の内周面52aに押し付けられて、各当接部62が取付孔2にしっかりと固定されるので、その各当接部62によってアンカーボルト50が壁面1の取付孔2に強固に固定される。
【0024】
そのうえで、複数個の当接部62が各テーパー部材57a・57bにそれぞれ分かれて(ロッド54の長さ方向に分かれて)配置されているので、それに伴って各当接部62が取付孔52の内周面52aを押す力(以下、単に押す力という。)が取付孔52の長さ方向に分散することになる。その分だけ、取付孔52の狭い範囲(取付孔52の長さ方向の狭い範囲)に前記押す力が集中して、その取付孔52を設けたコンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることが抑えられ、前記ひび割れなどによって取付孔52に対するアンカーボルト50の固着力が低下することを防止することができる。
【0025】
前記近接するテーパー部材57a・57bに外嵌している拡開部材58の各当接部62を架橋部63でつないでいるので、それらの当接部62を一体として取り扱うことができる。それにより、例えば、各当接部62を別々に構成して、それらの当接部62を各テーパー部材57a・57bの傾斜面60に臨ませるよりも、アンカーボルト50の作製の手間などを軽減することができる。
【0026】
一のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む当接部62と、その一のテーパー部材57aに隣接する別のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む当接部62とがテーパー部材57a・57bの周方向にずれていると、各当接部62の押す力が取付孔52の周方向にも分散して、コンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることがより抑えられる。
【0027】
各テーパー部材57a・57bの傾斜面60と、それに臨ませて配置している当接部62とをそれぞれ三個または五個ずつ等間隔に設けていると、各テーパー部材57a・57bの傾斜面60に臨む各当接部62がそれぞれ取付孔52の内周面52aを押す力は、どの一つの押す力をとっても他の押す力とはベクトル的に直線状にはならない。その結果、各テーパー部材57a・57bでの一の当接部62と他の当接部62とが取付孔52の内周面52aを直線的に正反対方向に押し合うことがなく、それによっても取付孔52の内周面52aを過度に押し広げて、コンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることがより確実に抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の第1の側面に係るアンカーボルトの一実施例を
図1ないし
図5に基づいて説明する。前記アンカーボルト40は、例えばコンクリート製の天井の壁面(コンクリート壁)1に上向き設けた(空けた)取付孔2に差し込んで固定(固着)するようになっている(
図5の状態)。
【0030】
前記アンカーボルト40は、
図1に示すように、外周面に雄ねじ3を形成している円柱形状のロッド4と、アンカーボルト40を前記取付孔2の円柱面形状の内周面2a(
図4参照)に固定するための拡開機構5とを有している。その拡開機構5は、ロッド4の先端部分(
図4では上端部分)と、ロッド4の長さ方向(
図4では上下方向)の中間の少なくとも一箇所(
図4では一箇所)とに配置している。
【0031】
前記拡開機構5には、
図2および
図3に示すように、基端側(
図2では左側)に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している平面形状の傾斜面10を外周面に形成しているテーパー部材7と、そのテーパー部材7に外嵌している拡開部材8(
図3)とを有している。テーパー部材7は、その中心軸に沿って前記ロッド4の雄ねじ3が螺合する雌ねじ6を貫通状に設けていて、そのロッド4の雄ねじ3をテーパー部材7の雌ねじ6に螺合することで、ロッド4とテーパー部材7とを連結している。
【0032】
テーパー部材7の外周面は円柱面形状になっていて、そのテーパー部材7の外周面の五箇所に前記傾斜面10を形成している。それらの傾斜面10は、テーパー部材7の周方向に等間隔で配置しており、それによってテーパー部材7は、その中心軸に直交する横断面がほぼ正五角形(正奇数角形)になっている。なお、テーパー部材7の傾斜面10は、テーパー部材7の先端(
図2では右側)までは形成しておらず、テーパー部材7の傾斜面10よりも先端側は直立面形状に形成している。
【0033】
前記拡開部材8は、
図1および
図4に示すように、テーパー部材7の各傾斜面10に当接(面接触)可能な傾斜面形状の内面11をそれぞれ有している五個の当接部12と、それらの当接部12の先端部(
図1では右端)をつないでいる弾性変形可能な架橋部13とを有している。つまり、当接部12は、テーパー部材7の傾斜面10と同数だけ設けている。また、各当接部12は、前記テーパー部材7の正五角形の各辺に対応して配置されていて、テーパー部材7に外嵌している。
【0034】
各当接部12の内面11は、テーパー部材7の各傾斜面10に面接触している状態(
図4の状態)で、アンカーボルト40の基端側(
図4では下端側)に向かうに従ってアンカーボルト40(テーパー部材7)の中心軸に近づくように傾斜している。各当接部12の内面11の傾斜角度は、前記テーパー部材7の各傾斜面10の傾斜角度にほぼ等しくなっている。
【0035】
前記架橋部13は、
図1および
図3に示すように、ロッド4の先端側に配置している薄平板状の本体部位13aと、その本体部位13aの縁から架橋部13の外方へ斜め下方向に延びたのち、長さ方向の中間で架橋部13の内方へ屈曲して、その自由端部(
図1では左側)に当接部12の先端部をつないでいる五枚の薄平板状の接続部位13bとを有している。前記接続部位13bは、その自由端部にかしめや溶接などによって前記当接部12の先端部をつないでいる。
【0036】
架橋部13の本体部位13aは、その周方向の五箇所に前記接続部位13bをそれぞれ連設している。そして、アンカーボルト40を取付孔2内に押し込む際には、
図3に示すように、接続部位13bの中間部が、取付孔2の開口の縁や取付孔2の内周面2aに当接して、架橋部13の内方(ロッド4側)へ押されて接続部位13bが弾性変形し、その際の弾性復元力で接続部位13bの中間部や当接部12が取付孔2の内周面2aに押し付けられる(
図4の状態)。それによって拡開部材8は、取付孔2から容易には抜けない程度に取付孔2の内周面2aに保持(仮固定)される。ロッド4の長さ方向の中間に配置する拡開機構5の架橋部13の本体部位13aの中央部には、ロッド4が挿通可能な円形形状の挿通孔14(
図4参照)を形成している。
【0037】
各当接部12の外周面15は、取付孔2の内周面2aと同様の円柱面形状に形成しており、それによって各当接部12の外周面15が取付孔2の内周面2aに面接触可能になっている。当接部12の内面11は、当該当接部12の先端(
図3では上端)や基端(
図3では下端)までは傾斜状に形成していなくてもよい。
【0038】
前記ロッド4には、不図示の設備機器や配管などが取り付けられる。ロッド4およびテーパー部材7は、ステンレススチールなどで形成してある。拡開部材8の各当接部12は、アルミニウム合金などで形成してあり、前記架橋部13は、ステンレススチールなどで形成してある。
【0039】
前記拡開部材8の各当接部12の外周面15の下部(自由端側)には、
図1に示すように、複数本(本実施例では二本)の溝16を当該当接部12の長さ方向(
図1では左右方向)に並べて形成しており、その溝16は、各当接部12の外周面15の周方向へ延びている。
【0040】
次いで、アンカーボルト40を取付孔2に固定する手順の一例を説明すると、まず、アンカーボルト40を、ロッド4の先端側を上にした姿勢(
図3の姿勢)で前記壁面1の取付孔2に差し込む。その際には、
図3示すように、ロッド4の先端に配置した拡開機構5における架橋部13の接続部位13bの中間部が取付孔2の開口の縁に当接するが、そのアンカーボルト40を取付孔2内に強制的に押し込むことで、前記接続部位13bが弾性変形して拡開機構5およびロッド4が取付孔2内に入り込む。同様にロッド4の中間位置に配置している拡開機構5を取付孔2に差し込むときにも、当該拡開機構5における架橋部13の接続部位13bの中間部が取付孔2の開口の縁に当接するが、アンカーボルト40を取付孔2内に強制的に押し込むことで当該拡開機構5がロッド4と共に取付孔2内に入り込む。
【0041】
そして、ロッド4の先端の拡開機構5の拡開部材8が取付孔2の上面(奥面)に当接するまでアンカーボルト40を押し込む(
図4の状態)。その際には、各拡開機構5の接続部位13bの弾性復元力によって、当該接続部位13bの中間部や当接部12が取付孔2の内周面2aに押し付けられていて、各拡開機構5の拡開部材8が摩擦などによって取付孔2の内周面2aに、移動および回転不能に仮固定される。その結果、各拡開機構5の拡開部材8の上下移動や周方向への回転が抑えられる。
【0042】
それにより、例えばロッド4をその中心軸まわりに回転させた際に、そのロッド4の回転に各拡開機構5のテーパー部材7が連れ立って回転しようとしても、前記仮固定されている各拡開機構5の拡開部材8の当接部12の内面11にテーパー部材7の傾斜面10が面当たりして(当接して)テーパー部材7の回転が抑えられ、テーパー部材7は上下移動のみが許容される。それによってロッド4を所定方向(テーパー部材7が取付孔2の開口側へ移動する方向)へ回転させたときには、テーパー部材7のみが、回転することなく、ねじ作用で取付孔2の開口側へ下降(移動)する。
【0043】
また、前述のように当接部12が取付孔2の内周面2aに押し付けられたときには、その当接部12の溝16の上下の縁が取付孔2の内周面2aに引っ掛かり、前記仮固定と相まって拡開部材8が上下方向へ移動することがより抑えられる。
【0044】
前記テーパー部材7の下降により、テーパー部材7の各傾斜面10が拡開部材8の各当接部12の内面11をそれぞれ押して、各当接部12を取付孔2の内周面2a側へ移動させ(各当接部12を取付孔2の内周面2a側へ押し)、各当接部12の外周面15を取付孔2の内周面2aにしっかりと押し付ける。その結果、各当接部12の外周面15と取付孔2の内周面2aとの面どうしの摩擦などによって、アンカーボルト40を取付孔2に確実に固定(固着)することができる。
【0045】
そのアンカーボルト40のロッド4の雄ねじ3に、不図示の設備機器や配管などを固定するためのブラケット18(
図4)を装着し、そのブラケット18の下側にナット19(
図4)を螺着する。そして、レンチ(スパナ)などの工具でナット19を締め付けて、ブラケット18をアンカーボルト40に取り付ける(
図4の状態)。
【0046】
そのナット19を締め付けた際には、ロッド4が下方へ引っ張られ、そのロッド4およびテーパー部材7が更に下降する。それにより、テーパー部材7の各傾斜面10によって各当接部12の内面11が取付孔2の内周面2a側へ更に押され、各当接部12の外周面15が取付孔2の内周面2aに強く押し付けられて、アンカーボルト40が取付孔2によりしっかりと固定される。なお、前記ブラケット18を省略して座金(不図示)などをナット19の上側に装着してもよい。
【0047】
その取付孔2に固定されたアンカーボルト40のロッド4が、前記設備機器などの重量によって下方に引っ張られても、それに伴ってテーパー部材7の各傾斜面10が各当接部12の内面11を強く押すので、各当接部12の外周面15が取付孔2の内周面2aに強く押し付けられる。それによって、アンカーボルト40が取付孔2から抜け出ることを確実に防止することができる。
【0048】
本発明のアンカーボルト40では、
図5に示すように、各当接部12が取付孔2の内周面2aを押す力(以下、単に押す力という。)21は、どの一つの押す力21をとっても他の押す力21とはベクトル的に直線状に並んでおらず、それらの押す力21は取付孔2の周方向に分散している。それにより、取付孔2の内周面2aに対して、一の当接部12の押す力21と他の当接部12の押す力21とが直線的に正反対方向に押し合って取付孔2を設けたコンクリート壁などにひび割れなどが生じることが抑えられる。その結果、前記ひび割れなどによって取付孔2に対するアンカーボルト40の固着力が低下することが防がれる。
【0049】
本発明の第2の側面に係るアンカーボルトの一実施例を
図6ないし
図11に基づいて説明する。前記アンカーボルト50は、例えばコンクリート製の天井の壁面(コンクリート壁)51に上向き設けた(空けた)取付孔52に先端側から差し込んで固定(保持)するようになっている(
図11の状態)。
【0050】
前記アンカーボルトは50、
図6および
図10に示すように、外周面に雄ねじ53を形成している円柱形状のロッド54と、アンカーボルト50を前記取付孔52の円柱面形状の内周面52aに固定するための拡開機構55とを有している。その拡開機構55は、ロッド54の先端部(
図10では上端部)に配置している。
【0051】
前記拡開機構55には、
図6ないし
図8に示すように、基端側(
図8では左側)に向かうに従って中心軸に近づくように傾斜している平面形状の傾斜面60(
図10参照)を外周面に形成している上下(
図1では左右方向)一対のテーパー部材57a・57bと、それらのテーパー部材57a・57bを一体として外嵌している拡開部材58(
図7)とを有している。各テーパー部材57a・57bは、その中心軸に沿って前記ロッド54の雄ねじ53が螺合する雌ねじ56を貫通状に設けていて、そのロッド54の雄ねじ53を各テーパー部材57a・57bの雌ねじ56にそれぞれ螺合することで、ロッド54に各テーパー部材57a・57bを連結している。両テーパー部材57a・57bは、ロッド54の長さ方向(
図6では左右方向)に互いに近接した状態に位置している。
【0052】
各テーパー部材57a・57bの外周面は円柱面形状になっていて、各テーパー部材57a・57bの外周面の三箇所に前記傾斜面60をそれぞれ形成している。それらの傾斜面60は、テーパー部材57a・57bの周方向に等間隔で配置している。つまり、各テーパー部材57a・57bは、アンカーボルト50の基端側(
図8では左側)から見て、ほぼ正三角形の各辺となる位置に傾斜面60をそれぞれ設けている。なお、各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60は、当該テーパー部材57a・57bの先端(
図8では右側)までは形成しておらず、そのテーパー部材57a・57bの傾斜面60よりも先端側は直立面形状に形成している。
【0053】
前記拡開部材58は、
図6および
図7に示すように、複数個(本実施例では六個)の当接部62と、それらの当接部62をつないでいる弾性変形可能な架橋部63とを有している。各当接部62は、その内面61が各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60にそれぞれ面接触可能に構成しており、その面接触している状態(
図11の状態)で、アンカーボルト50の基端側(
図11では下端側)に向かうに従ってアンカーボルト50(テーパー部材57a・57b)の中心軸に近づくように傾斜している。各当接部62の内面61の傾斜角度は、前記テーパー部材57a・57bの各傾斜面60の傾斜角度にほぼ等しくなっている。
【0054】
前記架橋部63は、
図6および
図7に示すように、テーパー部材57a・57bよりもアンカーボルト50の先端側(
図6では右側)に位置している薄平板状の本体部位63aと、その本体部位63aの周縁から架橋部63の外方へ斜め下方向に延びたのち、長さ方向の中間で架橋部63の内方へ屈曲することで各当接部62へ向けて延び、その自由端部(
図6では左側)に各当接部62の先端側をそれぞれつないでいる長短六枚の薄平板状の接続部位63b・63cとを有している。
【0055】
詳しくは、それらの接続部位63b・63cのうち、短い方の三枚の接続部位63bに、アンカーボルト50の先端側(
図6では右側)に位置する一方のテーパー部材57aの各傾斜面60に臨んでいる各当接部62の先端側をそれぞれつないでいる。長い方の三枚の接続部位63cには、前記一方のテーパー部材57aよりもアンカーボルト50の基端側(
図6では左側)に位置する他方のテーパー部材57bの各傾斜面60に臨んでいる各当接部62の先端側をそれぞれつないでいる。なお、各当接部62は同一形状になっている。
【0056】
架橋部63の接続部位63b・63cは、
図9に示すように、短い方の接続部位63bと長い方の接続部位63cとがテーパー部材57a・57b(本体部位63a)の周方向へ等間隔で交互に配置してある。それによって、一方のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む当接部62と、その一方のテーパー部材57aに隣接する他方のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む当接部62とが、アンカーボルト50の先端側から見て、テーパー部材57a・57bの周方向にずれるように配置されている。
【0057】
詳しくは、アンカーボルト50の先端側から見て、一方のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む各当接部62の間に、他方のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む各当接部62がそれぞれ位置することになる(
図7参照)。それらの当接部62の配置に合わせて、アンカーボルト50の先端側から見て、一方のテーパー部材57aの各傾斜面60の間に、他方のテーパー部材57bの各傾斜面60がそれぞれ位置するようにテーパー部材57a・57bが配置されている。
【0058】
つまり、他方のテーパー部材57bは、一方のテーパー部材57aに対して回転方向(周方向)に60度だけずれた位置に配置されている。架橋部63は、短い方の三枚の接続部位63bの長さ寸法が互いに等しく、また長い方の三枚の接続部位63cの長さ寸法も互いに等しくなるように形成している。
【0059】
各テーパー部材57a・57bの外周面であって各傾斜面60の間には、
図8に示すように、前記接続部位63cとテーパー部材57aの外周面との干渉を防ぐために、テーパー部材57a・57bの長さ方向(
図8では左右方向)に直線状に延びる切欠き14をそれぞれ形成している。なお、一方のテーパー部材57aと他方のテーパー部材57bとを同一形状にするために、両テーパー部材57a・57bの外周面に切欠き64をそれぞれ形成している。各接続部位63b・63cは、その自由端部にかしめや溶接などによって各当接部62の先端部をつないでいる。
【0060】
アンカーボルト50を取付孔52内に押し込む際には、
図10に示すように、各接続部位63b・63cの中間部が、取付孔52の開口の縁や取付孔52の内周面52aに当接して、架橋部63の内方(ロッド54側)へ押されて各接続部位63b・63cが弾性変形し、その際の弾性復元力で各接続部位63b・63cの中間部や各当接部62が取付孔52の内周面52aに押し付けられる(
図11の状態)。それによって拡開部材58は、取付孔52から容易には抜けない程度に取付孔52の内周面52aに保持(仮固定)される。
【0061】
各当接部62の外周面65は、取付孔52の内周面52aと同様の円柱面形状に形成しており、それによって各当接部62の外周面65が取付孔52の内周面52aに面接触可能になっている。各当接部62の内面61は、当該当接部62の先端(
図10では上端)や基端(
図10では下端)までは傾斜状に形成していなくてもよい。
【0062】
前記ロッド54には、不図示の設備機器や配管などが取り付けられる。ロッド54およびテーパー部材57a・57bは、ステンレススチールなどで形成してある。拡開部材58の各当接部62は、アルミニウム合金などで形成してあり、前記架橋部63は、ステンレススチールなどで形成してある。
【0063】
前記拡開部材58の各当接部62の外周面65の下部(自由端側)には、複数本(本実施例では三本)の溝66を当該当接部62の長さ方向に並べて形成しており、その溝66は、各当接部62の外周面65の周方向へ延びている。
【0064】
次いで、アンカーボルト50を取付孔52に固定する手順を説明すると、まず、アンカーボルト50を、ロッド54の先端側を上にした姿勢(
図10の姿勢)で前記取付孔52に差し込む。その際には、
図10に示すように、拡開機構55の架橋部63の各接続部位63b・63cの中間部が取付孔52の開口の縁に当接するが、そのアンカーボルト50を取付孔52内に強制的に押し込むことで、前記各接続部位63b・63cが弾性変形して拡開機構55およびロッド54が取付孔52内に入り込む。
【0065】
そして、拡開機構55の拡開部材58が取付孔52の上面(奥面)に当接するまでアンカーボルト50を押し込む(
図11の状態)。その際には、拡開機構55の各接続部位63b・63cの弾性復元力によって、当該各接続部位63b・63cの中間部や各当接部62が取付孔52の内周面52aに押し付けられていて、拡開機構55の拡開部材58が摩擦などによって取付孔52の内周面52aに、移動および回転不能に仮固定される。その結果、拡開部材58の上下移動や周方向への回転が抑えられる。
【0066】
それにより、例えばロッド54をその中心軸まわりに回転させた際に、そのロッド54の回転に拡開機構55の各テーパー部材57a・57bが連れ立って回転しようとしても、前記仮固定されている拡開部材58の各当接部62の内面61に各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60が面当たりして(当接して)各テーパー部材57a・57bの回転が抑えられ、各テーパー部材57a・57bは上下移動のみが許容される。それによってロッド54を所定方向(各テーパー部材57a・57bが取付孔52の開口側へ移動する方向)へ回転させたときには、各テーパー部材57a・57bのみが、回転することなく、ねじ作用で取付孔52の開口側へ下降(移動)する。
【0067】
また、前述のように各当接部62が取付孔52の内周面52aに押し付けられたときには、それらの当接部62の溝66の上下の縁が取付孔52の内周面52aに引っ掛かり、前記仮固定と相まって拡開部材58が上下方向へ移動することがより抑えられる。
【0068】
前記各テーパー部材57a・57bの下降により、各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60が拡開部材58の各当接部62の内面61をそれぞれ押して、各当接部62を取付孔52の内周面52a側へ移動させ、各当接部62の外周面65を取付孔52の内周面52aにしっかりと押し付ける。その結果、各当接部62の外周面65と取付孔52の内周面52aとの面どうしの摩擦などによって、アンカーボルト50を取付孔52に確実に固定することができる。
【0069】
そのアンカーボルト50のロッド54の雄ねじ53に、不図示の設備機器や配管などを固定するためのブラケット68(
図11)を装着し、そのブラケット68の下側にナット69(
図11)を螺着する。そして、レンチ(スパナ)などの工具でナット69を締め付けて、ブラケット68をアンカーボルト50に取り付ける(
図11の状態)。
【0070】
そのナット69を締め付けた際には、ロッド54が下方へ引っ張られ、そのロッド54および各テーパー部材57a・57bが更に下降する。それにより、各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60によって各当接部62の内面61が取付孔52の内周面52a側へ更に押され、各当接部62の外周面65が取付孔52の内周面52aに強く押し付けられて、アンカーボルト50が取付孔52によりしっかりと固定される。なお、ブラケット68を省略して座金(不図示)をナット69の上側に装着してもよい。
【0071】
その取付孔52に固定されたアンカーボルト50のロッド54が、前記設備機器などの重量によって下方に引っ張られても、それに伴って各テーパー部材57a・57bの各傾斜面60が各当接部62の内面61を強く押すので、各当接部62の外周面65が取付孔52の内周面52aに強く押し付けられる。それによって、アンカーボルト50が取付孔52から抜け出ることを確実に防止することができる。
【0072】
本発明のアンカーボルト50では、拡開機構55が当接部62を取付孔52の内周面52a側へ押すテーパー部材57a・57bを二個設けていて、それらのテーパー部材57a・57bの傾斜面60にそれぞれ当接部62を臨ませて配置している。しかもテーパー部材57a・57bの傾斜面60と拡開部材58の当接部62とをテーパー部材57a・57bの周方向に等間隔で配置するとともに、一方のテーパー部材57aの傾斜面60に臨む当接部62と、他方のテーパー部材57bの傾斜面60に臨む当接部62とを、アンカーボルト50の先端側から見て、テーパー部材57a・57bの周方向にずらしているので、各当接部62が取付孔52の長さ方向および周方向に分散して、各当接部62によって取付孔52の内周面52aを押す力が取付孔52の狭い範囲に集中することが抑えられる。それにより、その取付孔52を設けたコンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることが抑えられる。
【0073】
前記近接するテーパー部材57a・57bに外嵌している各当接部62を架橋部63でつないでいるので、それらの当接部62を一体化することができて、前記各当接部62の位置関係を確実に合わせることなどができる。
【0074】
各テーパー部材57a・57bの傾斜面60と拡開部材58の当接部62とをそれぞれ三個ずつ設けているので、各テーパー部材57a・57bによって各当接部62を取付孔52の内周面52a側へ押す力は、どの一つの当接部62の押す力をとっても他の当接部62の押す力とはベクトル的に直線状にはならない。その結果、各テーパー部材57の傾斜面60に臨む一の当接部62と他の当接部62とが取付孔52の内周面52aを直線的に正反対方向に押し合って取付孔52の内周面52aを過度に押し広げ、コンクリート壁などにひび割れなどを生じさせることが抑えられる。
【0075】
ロッド54の長さ方向の中間にも前記拡開機構55を一個または複数個配置してもよい。その場合において前記ロッド54の中間位置での拡開機構55の架橋部63の本体部位63aには、ロッド54が挿通可能な挿通孔を形成することになる。また、拡開機構55には、テーパー部材57a・57bを三個以上配置してもよい。そのテーパー部材57a・57bの個数に合わせて拡開部材58の当接部62の個数や架橋部63の接続部位63b・63cの個数および長さが設定されることになる。