【実施例】
【0019】
<実施例1>
図1に、実施例の横編機における弾性糸の糸送り装置を示す。横編機の左側から給糸する実施例を示すが、上方あるいは右側から給糸しても良い。図において2は横編機本体で、4は糸送り装置である。実施例では糸送り装置4と横編機2とは一体であるが、糸送り装置4を横編機本体2から独立させても良い。以下、横編機本体2を単に横編機2と呼ぶ。横編機2は、キャリジ6と、例えば前後一対のニードルベッド8を備え、キャリアレール10に沿って移動可能な給糸部材であるキャリア12を、例えばキャリッジ6により連行し、ニードルベッド8の編針に対して弾性糸14を給糸する。
【0020】
キャリッジ6は選針装置16によりニードルベッド8のどの編針を駆動するかを選択し、カム18により選択された編針を駆動して編成を行う。20は編成データで、図示しないLANあるいはUSBメモリなどから横編機2に供給される。編成データ20にはニット製品の柄データやキャリッジ6などの制御データなども含まれる。編成コントローラ22は、編成データ20からキャリッジ6の走行モータ24の制御データや、編針の選針データや度目値、キャリア12の連行データなどを取り出し、横編機2を制御し、ニット編成を行う。
【0021】
糸送り装置4は、横編機2の上部に配置されたコーン26から弾性糸14を取り出し、サーボモータ28により駆動ローラ30を駆動し、駆動ローラ30と従動ローラ32で挟んで弾性糸14を繰り出し及び巻き戻しを行う。サーボモータ28、駆動ローラ30、従動ローラ32により送り出し機構34を構成する。
サーボモータ28の制御は制御手段36により行う。38はトルク発生器で所望のトルクを発生させることが可能で制御手段36により制御を行う。駆動ローラ30及び従動ローラ32により繰り出された弾性糸14が編成時において所望の張力(以下、編成張力と呼ぶ)となるように制御手段36によりトルク発生器38の制御を行う。
【0022】
40はバッファアームで、先端部に糸ガイド42を設け、駆動ローラ30及び従動ローラ32間から供給される弾性糸14は供給経路から引き出される。バッファアーム40はトルク発生器38からのトルクにより揺動する。バッファアーム40の角度変位はトルク発生器38の出力軸などに設けた角度センサ44で検出することができる。
46は張力センサで、弾性糸14の糸経路において送り出し機構34の駆動ローラ30と従動ローラ32の上流側に設け、弾性糸14の張力を計測する。本実施例では、計測した張力を入り張力と呼ぶ。48は補正量決定手段で、張力センサ46により計測された入り張力と、バッファアーム40のトルク発生器38による編成張力との大きさを比較して、キャリア12に供給される弾性糸14の糸量が理論値に近づくように送り出し機構34により弾性糸14の送り量を決定する。
50は補正パラメータで、使用する弾性糸14の糸特性に基づき、補正量を記憶させている。補正パラメータ50には、縮みパラメータ52と伸びパラメータ54の2種類のパラメータを用意する。
【0023】
ここで弾性糸14の糸特性について説明を行う。
本発明では、供給される弾性糸14の糸量を理論値に近づけるために、適切な補正量(補正パラメータ)を決定し送り出し機構34の制御を行うが、この補正パラメータ50を求めるためには使用する弾性糸14の糸特性が必要である。弾性糸14の糸特性は、使用する弾性糸14の種類により異なる。同じ種類の弾性糸14であってもロットや色の違いなどによっても糸特性は異なる。供給される弾性糸14の糸量を理論値に近づけるためには、まず実際に使用する弾性糸の糸特性を取得することが好ましい。
弾性糸14の糸特性を求める手法としては、糸の自動引張試験機などを使用して糸特性を計測する。ここで必要な糸特性とは伸び特性であり、所定長(例えば10cmや20cmなど)の弾性糸14を張力が0の状態から所定の引き張力まで徐々に弾性糸14を引っ張った後、引き張力が0になるまで弾性糸14にかかる引き張力を緩めていき、弾性糸14の伸びと縮みの双方に対する張力とその時の弾性糸14の長さの関係を求める。
図2に示した表は、弾性糸14の糸特性の一例である。引き張力が20gfから30gfの箇所を抜き出して記載しているが、実際は広い範囲で測定を行っている。弾性糸14はヒステリシスの影響で一度伸ばされた弾性糸14は元の長さに戻らない特性がある。したがって
図2からも分かるように、同じ引き張力であっても弾性糸14が伸びる場合と縮む場合とでは、伸び率と縮み率に差がある。
なお、糸特性の取得は自動引張試験機を使用せずに手動で行っても構わないし、あるいは
図1において、張力センサ46の上流に弾性糸14を固定する治具を設けて弾性糸14を固定し、その状態で送り出し機構34の駆動ローラ30を駆動させ、弾性糸14を繰り出しながら張力を測定、その後、弾性糸14を巻き戻しながら張力を測定することで、編機上で糸特性を取得することも可能である。
【0024】
次に補正パラメータ50における縮みパラメータ52と伸びパラメータ54について説明を行う。
図3(1)は、縮みパラメータ52の一例を示した表である。これは
図2に示した弾性糸14の糸特性から弾性糸14が縮む際の縮み率を考慮して、入り張力の範囲毎に送り出し機構34の補正量を求めたものである。この縮みパラメータ52は、張力センサ46が検出する弾性糸14の入り張力がバッファアーム40による編成張力よりも大きい場合に使用する。つまり弾性糸14が送り出し機構34により送り出された後、弾性糸14にかかる張力が小さくなり縮むので、弾性糸14の糸量を理論値に近づけるためには、縮みパラメータ52を使用して、送り出し機構34がプラス側に働くように補正を行い、弾性糸14の送り出す量を増やす。例えば、針ピッチにおける弾性糸14の理論値が8mmで、補正量が+2%と決定された場合、送り出し機構34は8.16mmの弾性糸14を送り出すように制御される。
【0025】
図3(2)は、伸びパラメータ54の一例を示した表である。これは
図2に示した弾性糸14の糸特性から弾性糸14が伸びる際の伸び率を考慮して、入り張力の範囲毎に送り出し機構34の補正量を求めたものである。この伸びパラメータ54は、張力センサ46が検出する弾性糸14の入り張力がバッファアーム40による編成張力よりも小さい場合に使用する。つまり弾性糸14が送り出し機構34により送り出された後、弾性糸14にかかる張力が大きくなり伸びるので、弾性糸14の糸量を理論値に近づけるためには、伸びパラメータ54を使用して、送り出し機構34がマイナス側に働くように補正を行い、弾性糸14を送り出す量を減らす。例えば、針ピッチにおける弾性糸14の理論値が8mmで、補正量が−2%と決定された場合、送り出し機構34は7.84mmの弾性糸14を送り出すように制御される。
【0026】
編成時における弾性糸14の糸送り処理について
図4のフローチャートで説明を行う。
まずステップS1で処理を開始する。ステップS2では、張力センサ46を用いて、弾性糸14が送り出し機構34に入る前の入り張力を計測する。張力センサ46は編成コースの所定区間において、例えば1ms毎に弾性糸14の張力を計測する。所定区間における張力の計測が完了すれば、その区間における平均の張力を計算する。これにより精度の高い入り張力を得ることができる。
【0027】
なお編成コースの所定区間は1コースでも構わないが、編成コースの編入り区間と編出区間では弾性糸14の張力が安定しないため、例えば、編入り区間と編出区間を除いた箇所を所定区間とすることが好ましい。またこのような所定区間で求めた張力の平均値を、例えば2〜3コース毎に求めて、これらの張力値を平均するとより安定した編成が可能となる。
入り張力の測定や、補正量決定手段48による補正量の決定などは、実際のニット製品の編成時に行われるが、実編成前に度山合わせのために行うループ長ルーチンの実行時にも、入り張力の測定や補正量決定手段48による補正量の決定などを行っておくことで、実編成時の1コース目から送り量補正を行うことが可能である。
【0028】
次にステップS3で編成張力を取得する。編成張力はトルク発生器38によりバッファアーム40にかかるトルクにより決まる。本実施例では、編成張力が例えば20gfや25gfで固定となるようにバッファアーム40にかかるトルクを設定している。編成張力は使用する弾性糸14の特性や編成を行うニット製品に合わせて決めれば良い。また編成張力は固定でなく、編入りや編出、編成箇所などに合わせて可変にしても構わない。
【0029】
ステップS4では、ステップS2での入り張力とステップS3での編成張力との大きさを比較する。ステップS5で入り張力が編成張力よりも大きければステップS6に進む。
ステップS6では、弾性糸14は送り出し機構34を過ぎると張力が小さくなり縮むため、補正量決定手段48は補正パラメータ50の縮みパラメータ52を使用し、入り張力に合った送り出し機構34の補正量を決定する。そしてステップS7に進み、制御手段36は決定した補正量で送り出し機構34の制御を行う。
【0030】
ステップS9で、入り張力が編成張力よりも小さければステップS10に進む。ステップS10では、弾性糸14は送り出し機構34を過ぎると張力が大きくなり伸びるため、補正量決定手段48は補正パラメータ50の伸びパラメータ54を使用し、入り張力に合った送り出し機構34の補正量を決定する。そしてステップS7に進み、制御手段36は決定した補正量で送り出し機構34の制御を行う。
【0031】
ステップS11は、入り張力と編成張力が同じ場合であり、特に補正パラメータ50を使用する必要がない。そしてステップS7に進み、補正なしで送り出し機構34の制御を行う。最後にステップS8に進み処理は終了する。
【0032】
バッファアーム40の角度変位は、角度センサ44で検出することが可能である。1コース編成前のバッファアーム40の角度と、1コース編成後のバッファアーム40の角度との差から、1コースに使用する弾性糸14の糸量の理論値と実際に使用した弾性糸14の糸量との誤差を求めることができる。1コース編成前のバッファアーム40の角度は、送り出し機構34による弾性糸14の繰り出しや巻き戻しにより所定の角度に合わすことができる。
1コース編成後、理論値との糸量の誤差を計算し、次コースではその誤差を吸収できるように度目補正を行うようにする。これにより弾性糸14の糸長を更に理論値に近づけることができる。
【0033】
<実施例2>
本実施例では、入り張力と編成張力の大きさに差があった場合、バッファアーム40のトルク制御と送り出し機構34の制御の両方を行うことについて説明する。
まず補正量決定手段48は、張力センサ46が計測した弾性糸14の入り張力と、バッファアーム40による編成張力とを比較し、その差が小さくなるようにバッファアーム40のトルク制御の補正量を求める。この補正量に従い制御手段36は、トルク発生器38を制御しバッファアーム40のトルクを制御する。ただしバッファアーム40のトルクを大きく変化させると編成張力がコース毎に変化することになるため、バッファアーム40のトルクを大きく変更することは好ましくない。そこでバッファアーム40のトルク制御だけでなく、更に実施例1のように、補正量決定手段48は入り張力と編成張力との大きさを比較して、送り出し機構34の制御のための補正量を決定する。この場合、バッファアーム40のトルク制御と送り出し機構34の送り制御のそれぞれの補正量を小さくすることができる。
【0034】
なお上記実施例では、実際に使用する弾性糸14で糸特性を求めることが好ましいと説明を行ったが、弾性糸14のロットが同じ場合や、あるいは糸量に多少のばらつきが発生しても許容されるような場合などは、既に取得した弾性糸14の糸特性を使い回しても構わない。