(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1〜3はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る移動体に組み込まれた無線通信装置(移動型の基地局)を含む通信システムの一例を示す説明図である。本実施形態のシステムは、セルラー方式の移動通信網10に接続された固定基地局20と、移動体である自動車(乗用車、トラック、バスなど)40に搭載される無線通信装置としての移動型の基地局(以下「ムービングセル基地局」という。)30と、ムービングセル基地局30を管理する管理装置60とを備える。なお、本実施形態では、移動体が自動車40である場合について説明するが、本実施形態における移動体は、自動車のほか、線路上を走行する鉄道車両、航空機又は船舶であってもよい。また、
図1の通信システムは、固定基地局20がマクロセル基地局の例であるが、固定基地局20はスモールセル基地局などであってもよい。管理装置60は、単一のサーバなどのコンピュータ装置で構成してもよいし、複数のサーバなどのコンピュータ装置が互いに連携して処理するように構成してもよい。
【0010】
図1の通信システムにおいて、ムービングセル基地局30は、自動車40の少なくとも外側の周辺エリアおよび自動車40の車内をカバーする移動型のセル(以下「ムービングセル」という。)30Aを形成し、そのムービングセル30A内に位置する移動局としてのユーザ装置50と、固定基地局20、固定基地局20がエリアカバーするセル20Aに在圏するユーザ装置又は他の移動体に設置された他の基地局との間の通信を中継する。ムービングセル30Aは、自動車40の外側の周辺エリアと、自動車40の内側エリアとを含んでもよい。ムービングセル30Aのセル径は例えば100mであり、20m以下〜50m以下であってもよい。
【0011】
ムービングセル基地局30は、基地局装置300と、固定基地局20又は他の移動体に設置された他のムービングセル基地局30との間で無線通信を行うための複数の第1アンテナ311、312と、基地局装置300が形成するムービングセル30Aにおいて移動通信の一般ユーザが使用するユーザ装置50と無線通信を行う第2アンテナ315とを備える。第1アンテナ311,312及び第2アンテナ315は、自動車40の本体、例えばフロントグリル、ボディ背面部、バンパー部、屋根の平面部分、他の用途のアンテナが組み込まれた屋根後部のシャークアンテナ部、又はピラー部分に設けられている。第1アンテナ311,312及び第2アンテナ315は、共用のアンテナでもよい。
【0012】
第1アンテナ311,312は、自動車40が主に移動する主移動方向を基準にして互いに異なる複数の方向に単指向性を有する複数の指向性アンテナである。図示の例において、複数の第1アンテナ311,312のうち、一方の第1アンテナ311は、自動車40の主移動方向である前方向Fに向いた指向性を有する前方指向性アンテナであり、他方の第1アンテナ312は、自動車40の主移動方向とは逆方向である後方向Bに向いた指向性を有する後方指向性アンテナである。第1アンテナ311,312はそれぞれ、例えばパッチアンテナやマイクロストリップアンテナ等の平面アンテナで構成してもよい。
【0013】
また、第1アンテナ311、312は、複数のアンテナエレメントを用いたビームフォーミング機能を有してもよい。また、本実施形態では、第2アンテナ315としてオムニアンテナを用いているが、第2アンテナ315は、第1アンテナと同様に前方指向性アンテナと後方指向性アンテナとで構成してもよい。この場合、第2アンテナ315は、アンテナビームの数及び方向を制御可能なビームフォーミング機能を有するものであってもよい。
【0014】
図1において、基地局装置300は例えば自動車40のトランクの中、ダッシュボードの内部、シートの下側などに設置される。基地局装置300は、自装置内に電源(バッテリー)を備えてもよいが、自動車40側のバッテリーから電力の供給を受けてもよい。自動車40側のバッテリーから電力の供給を受ける場合、バッテリーから基地局装置300への電力の供給は、バッテリーへの充電が停止される自動車40の駆動停止(OFF)から所定時間(例えば1時間)が経過したときに自動停止されるようにしてもよい。
【0015】
また、
図1の通信システムにおいて、ムービングセル基地局30は、固定基地局20の無線中継局として機能するリピーター機能を有するものであってもよい。また、ムービングセル基地局30は、他の基地局と識別可能な基地局識別情報(セルID)が割り当てられ、固定基地局20を介して移動通信網10のバックホール回線に接続することができる機能を有してもよい。
【0016】
図2は、自動車40に搭載されたムービングセル基地局30が、衛星局(人工衛星)20を介して地上と通信を行う固定基地局としての衛星基地局22と、ユーザ装置50との通信を中継する通信システムの構成例である。
【0017】
また、
図3は、自動車40に搭載されたムービングセル基地局30が、係留気球23に設けた係留気球中継局(無線中継局)24を介して地上と通信を行う固定基地局25と、ユーザ装置50との通信を中継する通信システムの構成例である。
【0018】
図4〜
図6はそれぞれ、本実施形態に係るムービングセル基地局30の基地局装置300の構成例を示すブロック図である。
図4において、ムービングセル基地局30の基地局装置300は、自動車40に設置可能に構成され、第1アンテナ311,312を介して固定基地局20又は他の移動体に設置された他の基地局装置との間で無線通信を行う第1無線通信部302と、第2アンテナ315を介してユーザ装置50との間で無線通信を行う第2無線通信部304と、中継制御部306とを備える。中継制御部306は、自動車40の少なくとも外側の周辺エリアにムービングセル30Aを形成し、ムービングセル30A内に位置するユーザ装置50と固定基地局20又は他の移動体に設置された他の基地局装置との間の通信を中継するように、第1無線通信部302及び第2無線通信部304を制御する。
【0019】
基地局装置300は、自装置内に電源(バッテリー)を備えてもよいが、
図5に示すように自動車40側のバッテリー41から電力の供給を受けてもよい。この場合、バッテリー41から自基地局装置への電力の供給は、バッテリー41の充電残容量が所定容量以下にならないように、バッテリー41への充電が停止される自動車40のキーOFF(駆動停止)から所定時間(例えば1時間)が経過したときに自動停止するように制御してもよい。この自動停止するまでの時間は、バッテリー41の充電残容量などに基づいて設定してもよい。
【0020】
ムービングセル基地局30において、固定基地局20との間の無線通信に用いる周波数帯と、ユーザ装置50との間の無線通信に用いる周波数帯とは互いに異なってもよい。例えば、固定基地局20との間の無線通信に用いる周波数帯として、第5世代の移動通信システムで用いられる28GHz帯、5GHz帯又は4.2GHz帯を用い、ユーザ装置50との間の無線通信に用いる周波数帯として2.6GHz帯、700MHz帯又は2GHz帯を用いてもよい。このように互いに異なる周波数帯を用いることにより、ムービングセル基地局30は、固定基地局20との無線通信とユーザ装置50との無線通信との間の干渉を回避しながら各無線通信を確実に行うことができる。
【0021】
また、ムービングセル基地局30の基地局装置300は、第1無線通信部302の固定基地局20に対する送信電力及び受信感度がユーザ装置50の固定基地局20に対する送信電力及び受信感度よりも高くなるように構成してもよい。この場合、ユーザ装置50が通信可能な固定基地局20のセル20Aのセル境界のエリアやその近傍の圏外エリアにおいて、ムービングセル基地局30は、固定基地局20との間でより高い通信品質で通信することができ、そのエリアにムービングセル30Aを形成することができる。従って、固定基地局20のセル20Aにおいて局所的なトラフィックのオフロードを確実に行うことができるともに、固定基地局20の数を増やすことなく移動通信のエリアを実質的に拡張できる。また、ムービングセル基地局30は、複数の固定基地局20と同時に接続し、複数の回線を設定し、ムービングセル基地局30と固定基地局20の間の回線の容量を大きくしてもよい(複数固定基地局サイトによる回線アグリゲーションによる固定基地局群とムービングセル基地局との間の回線容量の増大)。
【0022】
また、固定基地局20からの電波強度が弱い登山道や登山口の駐車場においても、その登山道を走行している自動車40や登山口の駐車場に駐車している自動車40に搭載されているムービングセル基地局30により、その自動車40の周辺にムービングセル30Aを形成できる。従って、登山道沿いにいるユーザや登山口の駐車場及びその周辺にいるユーザは、ムービングセル基地局30を介して移動通信サービスを利用することができる。
【0023】
中継制御部306は、基地局装置300が無線中継局(リピーター)として機能するように制御するものであってもよい。また、中継制御部306は、他の基地局と識別可能な基地局識別情報(セルID)が割り当てられ、固定基地局20を介して移動通信網10のバックホール回線に接続するように制御するものであってもよい。
【0024】
また、中継制御部306は、次のように固定基地局20に対する自局30の移動に伴う第1ハンドオーバ処理と、自局30とユーザ装置50との間の相対移動に伴う第2ハンドオーバ処理とを同時並列処理可能に構成してもよい。例えば、中継制御部306は、複数の固定基地局20のセル20Aをまたがって自局30が移動するときに自局30による移動通信網10との接続を継続するハンドオーバー処理を行い、自局30に対してユーザ装置50が相対的に移動するときにユーザ装置50による移動通信網10との接続を継続するハンドオーバー処理を行うように制御してもよい。このようなダブルハンドオーバ処理により、自局30の移動に伴ってムービングセル30Aが形成される場合でも、ムービングセル30Aに在圏するユーザ装置50の移動通信網10への接続が切断されるのを回避できる。
【0025】
また、中継制御部306は、自局30によるムービングセル形成のON/OFF又はムービングセル形成時の送信電力を制御してもよい。この制御は、例えば、自局30の位置情報、自局30の姿勢情報、自局30の移動速度、自局30の周辺に位置する自動車40に設けられた他の基地局装置で形成される周辺セルの状況及び外部からの制御情報の少なくとも一つに基づいて行ってもよい。例えば、中継制御部306は、移動通信網10を介して管理装置60から受信した制御情報に基づいて、ムービングセル形成のON/OFF又はムービングセル形成時の送信電力を制御してもよい。ここで、自局30の位置情報、自局30の姿勢情報、自局30の移動速度などは、自局30の基地局装置300や自動車40の本体に設けられたGPS受信装置や方位センサの出力に基づいて判断したり、自局30の位置登録情報に基づいて判断したりすることができる。
【0026】
また、本実施形態に通信システムにおいて、固定基地局20の配置などに基づいて、自動車40の移動経路(例えば道路)上に、ユーザ装置50との無線通信で用いる周波数として同一周波数が隣り合わないように複数のゾーンを設定しておいてもよい。各ゾーンのサイズは、例えば複数のムービングセルが互いに重複しないように配置可能な程度のサイズに設定される。また、各ゾーンの長さは例えば50m〜1kmである。そして、このような複数のゾーンが設定された状態で、中継制御部306は、複数のゾーンごとに、自局30が位置するゾーンに設定されている周波数を用いてユーザ装置50と無線通信を行うように制御してもよい。例えば、中継制御部306は、上記複数のゾーンのいずれかのゾーン内に自動車40に入ったときに、自動車40が入ったゾーンに設定されている所定の周波数を用いてユーザ装置50と無線通信を行うように制御する。このようにゾーンごとに所定の周波数を用いてユーザ装置50と無線通信を行うことにより、各ゾーンを準静的なセルとみなすことができ、ユーザ装置50によるハンドオーバー処理の頻度を低減して負担を抑制できる。
【0027】
また、ムービングセル基地局30の第2アンテナ370にビームフォーミング機能を持たせ、中継制御部306は、第2アンテナ370で形成されるビームの方向及び数の少なくとも一方を制御してもよい。このビームの方向などの制御は、例えば、自局30の位置情報、自局30の姿勢情報、自局30の移動速度、自局30の周辺に位置する自動車などの移動体に設けられた他の基地局装置で形成される周辺セルの状況及び外部からの制御情報の少なくとも一つに基づいて行うことができる。ここで、自局30の位置情報、自局30の姿勢情報、自局30の移動速度などは、自局30の基地局装置300や自動車40の本体に設けられたGPS受信装置や方位センサの出力に基づいて判断したり、自局30の位置登録情報に基づいて判断したりすることができる。特に、中継制御部306は、駐車場などで自局30と周辺の他の自動車に搭載された他のムービングセル基地局との間で連携して互いに異なる方向にビームを形成することにより、自局30と他のムービングセル基地局とで一つのセルを形成するように制御してもよい。この複数のムービングセル基地局による連携制御は、例えば、ムービングセル基地局を管理する管理装置60から移動通信網10を介して受信した制御情報に基づいて行うことができる。この制御情報は、例えば各ムービングセル基地局の位置情報や姿勢情報に基づいて決定される。
【0028】
また、
図6に示すように、基地局装置300は、ユーザ装置50、固定基地局20又は周辺の移動体の基地局装置との間で送受信するデータを処理するデータ処理部310を備え、データ処理部310を各種用途に用いて、ムービングセル基地局30を移動可能なローカルデータセンターとして機能させてもよい。
【0029】
例えば、データ処理部310は、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の自動車などの移動体の基地局装置に提供する提供情報、自局30を備える自動車40が位置するエリアに関するエリア情報のデータ、そのエリアの地図情報のデータ、エリアのナビゲーション用データ、エリアでの自動車40の移動体の自動運転用データ、自動車40で撮影された静止画又は動画の画像データ、周辺の自動車等の移動体で撮影された静止画又は動画の画像データ、周辺の自動車等の移動体に設けられた基地局装置で撮影された静止画又は動画の画像データ、及び自局30に接続しているユーザ装置50で撮影された静止画又は動画の画像データの少なくとも一つのデータを生成、記憶部308へ保存又は記憶部308から読み出してもよい。この場合、中継制御部306は、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の移動体の基地局装置からの要求に応じて又は自律的に前記少なくとも一つのデータを、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の自動車などの移動体の基地局装置との間で送信又は受信するように制御する。
【0030】
このように構成されたデータ処理部310及び中継制御部306を有することにより、ムービングセル基地局30は、例えば、移動通信網10側のサーバからダウンロードしたエリア情報をムービングセル30Aに在圏するユーザ装置50に送信したり、ユーザ装置50や自動車40本体が独自に取得したエリア情報を受信して自局30内に保存したり移動通信網10側のサーバへアップロードしたりしてもよい。また、ムービングセル基地局30は、移動通信網10側のサーバからダウンロードした周辺のエリアの詳しいナビゲーション用データや自動運転用データを、ムービングセル30Aに在圏するユーザ装置50として機能する自動車40本体のナビゲーションシステムや自動運転システムに送信してもよい。また、ムービングセル基地局30は、ユーザ装置50や自動車40本体が独自に取得したナビゲーション用データや自動運転用データのための周辺道路などの情報を受信して自局30内に保存したり、その受信した情報に基づいてナビゲーション用データや自動運転用データを生成したり、前記受信した情報または前記生成したナビゲーション用データや自動運転用データを移動通信網10側のサーバへアップロードしたりしてもよい。
【0031】
また、前記データは、自局30を備えた自動車40の移動を介して運搬される運搬対象のデータ(例えば、緊急性を要しないインターネットなどで購入した大容量の書籍や映画のデータ)であってもよい。この場合、データ処理部310は、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の自動車などの移動体の基地局装置との間で送受信する運搬対象のデータの記憶部308に対する保存及び読み出しを行う。また、中継制御部306は、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の移動体の基地局装置からの要求に応じて又は自律的に運搬対象のデータを、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の移動体の基地局装置から受信し、自局30を備える自動車40が所定の位置まで移動した後、ユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の移動体の基地局装置からの要求に応じて又は自律的に、運搬対象のデータをユーザ装置50、固定基地局20若しくは周辺の移動体の基地局装置に送信するように制御する。以上の制御により、移動通信網10を介さずに例えば緊急性を有しない大容量の書籍や映画のデータを所定の運搬先に運搬することができるため、移動通信網10の負荷を抑制することができる。
【0032】
なお、上記データの運搬は、ムービングセル基地局30を搭載した一台の自動車40で行ってもよいし、ムービングセル基地局30を搭載した複数の自動車40が連携して順次運搬を転送しながら行うようにしてもよい。複数の自動車40間のデータの転送は、複数の自動車40それぞれに搭載されたムービングセル基地局30間の直接通信で行ってもよいし、固定基地局20を介した通信で行ってもよい。
【0033】
また、
図4〜
図6のムービングセル基地局30の基地局装置300において、第1無線通信部302は固定基地局20と対をなす端末装置(制御装置及びデータ変復調装置を含む)で構成し、第2無線通信部304は、固定基地局20の基地局装置と同様な基地局装置で構成してもよい。
【0034】
次に、上記構成の通信システムにおける自動車40に搭載したムービングセル基地局30のドップラーダイバーシチ機能について説明する。
【0035】
図7(a)は比較例に係る移動中の自動車40に組み込まれた無線通信装置に到来している固定基地局からの電波の分布(到来波分布)を模式的に示した説明図である。また
図7(b)及び(c)はそれぞれ、同無線通信装置が組み込まれた自動車の停止中及び移動中にオムニアンテナ(オムニアンテナ)319によって受信される受信信号の周波数分布の一例を示す説明図である。
図7(a)中の破線に示す円900は、固定基地局から送信された電波が自動車40の無線通信装置に到達する無線伝搬を古典的な移動通信伝搬理論のJakesモデルで近似するときの散乱リングである。また、散乱リング900上に分布している黒丸909は、自動車40の無線通信装置のオムニアンテナ319で受信される電波を発している散乱点である。オムニアンテナ319は、水平面内において当該アンテナを中心とした円形の無指向特性319Aを有しているため、散乱リング900上のすべての散乱点909から到来する電波を受信する。しかも、散乱リング900上の全方位の各散乱点909から到来する電波の強度はほぼ一様になる。このJakesモデルに近似できる到来波分布のように全方位から到来する電波の強度がほぼ一様になる現象は、電波を反射・散乱するビル等の建物が多い市街地だけでなく郊外でも確認されている。
【0036】
従来、自動車電話などの車載アンテナにおいては、スリーブアンテナなどのオムニアンテナが多用されている。これは、無線通信装置が搭載された自動車などの移動体を中心とした到来波分布が前述のようにJakesモデルに基づく全方向からほぼ一様となることに起因している。また、同様な理由により、マクロセル基地局のような固定配置の基地局の場合と比較して短い距離で通信品質向上のための空間ダイバーシチが可能となる。このため、従来の自動車などの移動体に搭載される車載アンテナではオムニアンテナを素子アンテナとして複数設けた空間ダイバーシチ構成が主流である。しかしながら、次に示すように、オムニアンテナを用いると、ドップラー効果による周波数のシフト(以下、「ドップラー周波数シフト」という。)による周波数の広がりΔfDが最大ドップラー周波数シフトfDの2倍となり、無線通信のスループットが低下したり、受信回路及び受信信号の演算が複雑になったりするおそれがあるという課題がある。
【0037】
例えば、自動車40が停止しているときは、固定基地局から送信された電波が各散乱点909を介してオムニアンテナ319に到達して受信された受信信号910の周波数は、
図7(b)に示すように固定基地局から送信された電波の中心周波数fCになる。また、自動車40が前方向Fに移動している移動中は、
図7(c)に示すように、ドップラー効果により、自動車40の移動方向である前方向Fに位置する散乱点から自動車40に向かう電波の受信信号の周波数は+fDだけシフトし、自動車40の移動方向とは逆方向である後方向に位置する散乱点から自動車40に向かう電波の受信信号の周波数は−fDだけシフトする。その結果、オムニアンテナ319で受信される受信信号919のドップラー周波数シフトによる周波数fCの広がりΔfDが最大ドップラー周波数シフトfDの2倍(2fD)となる。
【0038】
また、上記Jakesモデルの散乱リング900上の各散乱点909における散乱は互いに異なる散乱プロセスであるために、複数の散乱点909で散乱された電波を個別に受信する
。
【0039】
そこで、本実施形態では、上記課題を解決するために、上記Jakesモデルの散乱リング900上の各散乱点909における散乱は互いに異なる散乱プロセスである点に着目し、互いに異なる複数の散乱点で散乱された電波のドップラー周波数シフトごとに単指向性アンテナを割り当てた複数の個別受信系(以下「ダイバーシチブランチ」という。)を持つ構成にすることにより、ドップラー周波数シフトによる周波数fCの広がりΔfDによるスループットの低下を抑制しつつ、回路規模が小さく効果的なダイバーシチ効果を得ている。特に、本実施形態では、各ダイバーシチブランチで受信する受信信号のドップラー周波数シフトが、固定基地局から送信された電波の中心周波数fCから一方向(プラス方向又はマイナス方向)にシフトしたドップラー周波数シフトになるように各ダイバーシチブランチを構成しているので、ダイバーシチ効果に加えて、受信信号の復調処理が容易であり、受信回路規模が小さく高い復調性能が得られるという効果も得られる。
【0040】
図8(a)は本実施形態に係る移動中の自動車に組み込まれたムービングセル基地局30に到来している固定基地局20からの電波の分布(到来波分布)を模式的に示した説明図である。また、
図8(b)は同ムービングセル基地局30の移動中に前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312によって受信される受信信号の911、912の周波数分布の一例を示す説明図である。
【0041】
図8の実施形態において、前述のJakesモデルによると、前進するムービングセル基地局30を搭載した自動車40の前方向Fから到来する到来波の受信信号は、ドップラー効果により周波数が高い方にシフトする。逆に自動車40の後方向から到来する到来波の受信信号は、ドップラー効果により周波数が低い方にシフトする。これらの前方向及び後方向からの到来波それぞれを専用に受信する空間フィルタである単指向性アンテナ311,312を自動車40の前後にそれぞれ設置してダイバーシチブランチとしている。各ダイバーシチブランチで受信される到来波のドップラー周波数シフトfDによる周波数広がりΔfDは、
図8(b)に示すように前述の比較例に比べると狭いため、受信信号の復調処理が容易であり、受信回路規模が小さく高い復調性能が得られ、受信特性が改善する。
【0042】
なお、
図8の例では、固定基地局20からの電波を受信する場合について示しているが、アンテナ311、312は送受信の相関性があるため、固定基地局20へ電波を送信する場合についても同様の効果がある。
【0043】
図9は、本実施形態に係るドップラーダイバーシチ機能を有するムービングセル基地局30の基地局装置300における第1無線通信部302の一構成例を示すブロック図である。
図9において、第1無線通信部302は、前方指向性アンテナ311に接続された第1の高周波信号処理部320Aと、後方指向性アンテナ312にされた第2の高周波信号処理部320Bと、ベースバンド処理部326とを備えている。第1の高周波信号処理部320A及び第2の高周波信号処理部320Bはそれぞれ、送受共用器(DUP:Duplexer)321A,Bと、受信電力増幅器322A,Bと、周波数シフト検出部323A,Bと、送信電力増幅器324A,Bと、周波数変換部325A,Bとを備える。
【0044】
周波数シフト検出部323A,Bはそれぞれ、自動車40の移動時に前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312に対応するドップラー周波数シフトfDを検出する。このドップラー周波数シフトfDの検出は、固定基地局20から受信したセル参照信号の受信結果に基づいて行ってもよい。
【0045】
また、周波数変換部325A,Bはそれぞれ、ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、そのドップラー周波数シフトfDを補償するように、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312それぞれを介した受信信号及び送信信号を処理する信号処理部として機能する。例えば、周波数変換部325A,Bはそれぞれ、前記ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、そのドップラー周波数シフトfDを補償するように受信信号及び送信信号の周波数を変換する。
【0046】
本例において、周波数変換部325Aは、ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、前方指向性アンテナ311で受信され受信電力増幅器322Aで増幅された受信信号の周波数fR(=fC+fD)を元の周波数fCにシフト変換し、更に、高周波の周波数fCのアナログの受信信号を、所定の中間周波数のデジタルの受信信号Rに変換してベースバンド処理部326に出力する。また、周波数変換部325Aは、ベースバンド処理部326から受けた中間周波数のデジタルの送信信号Tを高周波の周波数fCのアナログの送信信号に変換し、更に、ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、送信信号の周波数fCを周波数fT(=fC−fD)にシフト変換して送信電力増幅器324Aに出力する。
【0047】
また、本例において、周波数変換部325Bは、ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、後方指向性アンテナ312で受信され受信電力増幅器322Bで増幅された受信信号の周波数fR(=fC−fD)を元の周波数fCにシフト変換し、更に、高周波の周波数fCのアナログの受信信号を、所定の中間周波数のデジタルの受信信号Rに変換してベースバンド処理部326に出力する。また、周波数変換部325Bは、ベースバンド処理部326から受けた中間周波数のデジタルの送信信号Tを高周波の周波数fCのアナログの送信信号に変換し、更に、ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づいて、送信信号の周波数fCを周波数fT(=fC+fD)にシフト変換して送信電力増幅器324Bに出力する。
【0048】
なお、上記ドップラー周波数シフトfDの検出結果に基づく周波数変換は、受信信号及び送信信号のいずれか一方について行ってもよい。
【0049】
ベースバンド処理部326は、第1の高周波信号処理部320A及び第2の高周波信号処理部320Bから受信したデジタルの受信信号Rから受信対象のデータを生成したり、送信対象御データから第1の高周波信号処理部320A及び第2の高周波信号処理部320Bに送信するデジタルの送信信号Tを生成したりするための各種処理を行う。例えば、ベースバンド処理部326は、直並列変換部(S/P)、並直列変換部(P/S)、デジタル変調部、デジタル復調部等を備える。また、直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)で送受信する場合は、ベースバンド処理部326は、更に、ガード期間(GI)除去部、デジタルフーリエ変換(DFT)部、ガード期間(GI)挿入部、デジタル逆フーリエ変換(IDFT)部などを備える。ここで、ベースバンド処理部326における変調方式及び復調方式は特定のものに限定されない。
【0050】
また、第1無線通信部302による伝送方式はマルチキャリア伝送方式でもよいし、シングルキャリア伝送方式でもよい。
【0051】
図10は、本実施形態に係るドップラーダイバーシチ機能を有するムービングセル基地局30の基地局装置300における第2無線通信部304の一構成例を示すブロック図である。
図10において、第2無線通信部304は、第2アンテナ315に接続された高周波信号処理部340とベースバンド処理部346とを備えている。高周波信号処理部340は、DUP(Duplexer:送受共用器)341と、受信電力増幅器342と、送信電力増幅器344と、周波数変換部345を備える。
【0052】
なお、
図10の第2無線通信部304の例では、ドップラー周波数シフトfDを検出する周波数シフト検出部を備えていないが、第2アンテナ315として前方指向性アンテナ及び後方指向性アンテナを備え、前述の第1無線通信部302と同様に各アンテナに対応させてドップラー周波数シフトfDを検出する周波数シフト検出部と周波数変換部を備え、ドップラー周波数シフトfDを補償するように、前方指向性アンテナ及び後方指向性アンテナそれぞれを介した受信信号及び送信信号を処理してもよい。
【0053】
以上、本実施形態によれば、自動車に搭載したムービングセル基地局30において、低価格化を図ることができるとともに、無線通信のスループット低下を抑制しつつドップラーダイバーシチを利用して通信品質を向上させることができる。
【0054】
図11(a)は他の実施形態に係る移動中の自動車40に組み込まれたムービングセル基地局30に到来している固定基地局からの電波の分布(到来波分布)を模式的に示した説明図である。また、
図11(b)は同ムービングセル基地局30の移動中に側方指向性アンテナ313、314によって受信される受信信号の周波数分布の一例を示す説明図である。
【0055】
図11の実施形態において、前述のようにJakesモデルによると、前進するムービングセル基地局30を搭載した自動車40の前方向Fから到来する到来波の受信信号は、ドップラー効果により周波数が高い方にシフトする。逆に自動車40の後方向から到来する到来波の受信信号は、ドップラー効果により周波数が低い方にシフトする。本実施形態では、これらの前方向及び後方向と交差する左右方向からの到来波それぞれを専用に受信する空間フィルタである単指向性の側方指向性アンテナ313,314を自動車40にそれぞれ設置してダイバーシチブランチとしている。各ダイバーシチブランチで受信される到来波のドップラー周波数シフトfDによる周波数広がりΔfDは、
図11(b)に示すように前述の比較例に比べると狭いため、受信信号の復調処理が容易であり、受信回路規模が小さく高い復調性能が得られ、受信特性が改善する。ここで、自動車の走行方向Fに対して右側の側方指向性アンテナ313が第1の側方指向性アンテナに相当し、左側の側方指向性アンテナ314が第2の側方指向性アンテナに相当する。
【0056】
なお、
図11の例では、固定基地局20からの電波を受信する場合について示しているが、アンテナ313、314は送受信の相関性があるため、固定基地局20へ電波を送信する場合についても同様の効果がある。
【0057】
図12(a)は更に他の実施形態に係る移動中の自動車40に組み込まれたムービングセル基地局30に到来している固定基地局からの電波の分布(到来波分布)を模式的に示した説明図である。また、
図12(b)は同ムービングセル基地局30の移動中に前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312及び側方指向性アンテナ313,314によって受信される受信信号の周波数分布の一例を示す説明図である。
【0058】
図12の実施形態では、前方向、後方向及び左右方向からの到来波それぞれを専用に受信する空間フィルタである単指向性アンテナ313,314を自動車40にそれぞれ設置してダイバーシチブランチとしている。各ダイバーシチブランチで受信される到来波のドップラー周波数シフトfDによる周波数広がりΔfDは、
図12(b)に示すように前述の比較例に比べると狭いため、受信信号の復調処理が容易であり、受信回路規模が小さく高い復調性能が得られ、受信特性が改善する。
【0059】
なお、
図12の例では、固定基地局20からの電波を受信する場合について示しているが、アンテナ313、314は送受信の相関性があるため、固定基地局20へ電波を送信する場合についても同様の効果がある。
【0060】
図13は、
図12の実施形態に係る移動中の自動車40に組み込まれたムービングセル基地局30の基地局装置300の一構成例を示すブロック図である。なお、
図13において、
図4〜6を用いて説明した基地局装置300と同様の構成については、適宜説明を省略する。
【0061】
図13において、基地局装置300の第1無線通信部302には、前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312、右側方指向性アンテナ313及び左側方指向性アンテナ314の4本の指向性アンテナが接続されている。また、第1無線通信部302は、前方指向性アンテナ311に接続された第1の高周波信号処理部320Aと、後方指向性アンテナ312に接続された第2の高周波信号処理部320Bとに加え、右側方指向性アンテナ313に接続された第3の高周波信号処理部と、左側方指向性アンテナ314に接続された第4の高周波信号処理部とを備える(
図9参照)。
【0062】
図14(a)及び(b)はそれぞれ
図12の実施形態に係るムービングセル基地局30が組み込まれた自動車(トラック)40におけるアンテナ311〜314の一配置例を示す側面図及び斜視図である。
図14(a)及び(b)において、自動車(トラック)40のコンテナの外面部である前面43、後面44及び左側面46にはそれぞれ、薄型形状の前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312、側方指向性アンテナ314が設置されている。また、コンテナの右側面45には、薄型の側方指向性アンテナ313が設置されている。これらの前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312及び側方指向性アンテナ313,314の高さは、ほぼ同じ高さとなるように設置されている。このように配置したアンテナ311〜314は主平面に垂直な指向性を有しており、
図14(b)に示すように自動車40の周囲の前方、後方、右側方及び左側方にそれぞれ、ほぼ同じ高さの指向性のビーム311A,312A,313A,314Aが形成される。また、自動車(トラック)40のコンテナの外面に配置したアンテナ311〜314は薄型形状であるため、自動車40のデザインや車幅及び車長への影響が小さい。
【0063】
自動車40に配置する指向性アンテナ311〜314は例えばパッチアンテナであってもよい。パッチアンテナは、誘電体を両側から金属板で挟み込んだ薄型形状の構造を有し、主平面に垂直な方向に指向性を有する高利得なアンテナであり、ドップラーダイバーシチに適する。
【0064】
図15(a)及び(b)はそれぞれ
図12の実施形態に係るムービングセル基地局30が組み込まれた自動車40におけるアンテナ311〜314の他の配置例を示す側面図及び斜視図である。
図15(a)及び(b)の配置例では、自動車(トラック)40のコンテナ屋根のルーフトップなどの上面42に前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312、右側方指向性アンテナ313及び左側方指向性アンテナ314が配置されている。このようにコンテナ屋根のルーフトップの上面42にアンテナ311〜314を配置することにより、各指向性アンテナの高さを合わせやすい。また、このように配置したアンテナ311〜314は端面から側方方向(横方向、水平方向)に向かう指向性を有しており、
図15(b)に示すように自動車40の前方、後方、右側方及び左側方にそれぞれ同じ高さの指向性のビーム311A,312A,313A,314Aが形成される。また、アンテナ311〜314は薄型形状であるため、自動車40のデザインや車高への影響が小さい。
【0065】
図16(a)は
図12の実施形態に係るムービングセル基地局30が組み込まれた自動車40におけるアンテナ311〜314の更に他の配置例を示す斜視図であり、
図16(b)は自動車40のフロントガラスに配置したアンテナ316の拡大図である。
【0066】
図16(a)において、自動車40の周囲の外面部である前面43のフロントガラスにはフィルム型アレーアンテナからなる前面アンテナ316が貼られ、左側面46の左窓ガラスにはフィルム型アレーアンテナからなる左側面アンテナ319が貼られている。また、自動車40の後面のリアガラス及び右窓ガラスそれぞれに、フィルム型アレーアンテナからなる後面アンテナ317及び右側面アンテナ318が貼られている。
【0067】
アンテナ316〜319に用いられるフィルム型アレーアンテナは、2つの側端面それぞれから側方方向(横方向、水平方向)に向かう指向性を有する。従って、
図16(a)に示すように、前面アンテナ316及び後面アンテナ317により、自動車40の主移動方向(前方)Fを基準にして右側方及び左側方それぞれに指向性ビーム316A,317Aが形成され、右側面アンテナ318及び左側面アンテナ319により、自動車40の前方及び後方それぞれに指向性ビーム318A,319Aが形成される。
【0068】
また、アンテナ316〜319に用いられるフィルム型アレーアンテナは透明に形成されているため、車のデザインへの影響が小さく車のデザインを保つことができる。また、フィルム型アレーアンテナからなるアンテナ316〜319の設置高さは、ほぼ同じ高さとなるように貼り付けられている。また、フィルム型アレーアンテナは狭ビームアンテナであるため、ドップラーダイバーシチに用いる車載用アンテナとして適する。
【0069】
また、
図16(b)に示すように自動車40の前方Fのフロントガラスの右側にフィルム型アレーアンテナからなる前面アンテナ316が貼られているが、上述したようにフィルム型アレーアンテナは透明であるため、ドライバーの視界を妨げない。なお、フィルム型アレーアンテナの前面アンテナ316を貼る位置は自動車40の走行方向Fに対してフロントガラスの右側に限らず、フロントガラスの左側、上方又は下方の任意の位置であってもよい。
【0070】
図17は、
図16のアンテナ316〜319として用いることができるフィルム型アレーアンテナ330の一例を示す説明図である。
図17において、フィルム型アレーアンテナ330は面上に互いに平行に一列に並べて配置された複数のアンテナ素子331で構成され、隣り合うアンテナ素子331の間隔はそれぞれλ/2(λ:アンテナで送受信する無線電波の波長)となっている。例えば、無線電波の周波数が28[GHz]の場合、λ=1[cm]で、各アンテナ素子331の間隔は5[mm]である。
【0071】
なお、フィルム型アレーアンテナ330の各アンテナ素子331は平衡給電型のアンテナであってもよい。例えば、各アンテナ素子331はダイポールアンテナでもよいしループアンテナであってもよい。
【0072】
図18は、
図12の実施形態に係る移動中の自動車に組み込まれたムービングセル基地局の基地局装置の他の構成例を示すブロック図である。
図18の構成例のムービングセル基地局の基地局装置は、アンテナの受信強度に基づいて前後方向の指向性アンテナで形成されるビームと、左右方向の指向性アンテナで形成されるビームとをスイッチで切り替えるように構成されている。
【0073】
図18において、基地局装置300には、切替手段としてのアンテナ切替部309が設けられている。前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312、右側方指向性アンテナ313及び左側方指向性アンテナ314は、アンテナ切替部309を介して第1無線通信部302と接続されている。アンテナ切替部309は、アンテナの受信強度に基づいて、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312、又は、側方指向性アンテナ313,314のうちいずれか一方を第1無線通信部302に接続するようにスイッチを切り替えるようになっている。これにより、単指向性アンテナを用い、前後方向の指向性アンテナで形成されるビームと、左右方向の指向性アンテナで形成されるビームとをスイッチで切り替えることによって、最も受信強度が高い基地局を選択することができる。
【0074】
図18の構成例では、右側方指向性アンテナ313はアンテナ切替部309を介して第1の高周波信号処理部320Aの送受共用器321Aに接続され、左側方指向性アンテナ314はアンテナ切替部309を介して第2の高周波信号処理部320Bの送受共用器321Bに接続されている(
図9参照)。なお、第1無線通信部302は、前方指向性アンテナ311に接続された第1の高周波信号処理部320Aと、後方指向性アンテナ312に接続された第2の高周波信号処理部320Bとに加え、右側方指向性アンテナ313に接続された第3の高周波信号処理部と、左側方指向性アンテナ314に接続された第4の高周波信号処理部とを備えてもよい。
【0075】
上記アンテナ切替部309は、前方指向性アンテナ311、後方指向性アンテナ312及び側方指向性アンテナ313,314で受信した信号を第1無線通信部302に送信する。その信号を受信した第1無線通信部302では、
図9を用いて説明した処理を行い、受信信号Rを中継制御部306に送信する。中継制御部306は受信信号Rをデータ処理部310に送信する。データ処理部310では、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312で受信された信号の受信信号Rと、側方指向性アンテナ313,314で受信された信号の受信信号Rとを比較する。
【0076】
データ処理部310は、側方指向性アンテナ313,314の受信信号Rの強度に比べて、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312の受信信号Rの強度が高い場合、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312を第1無線通信部302に接続するように切り替える制御信号をアンテナ切替部309に送信する。この制御信号に基づいて、アンテナ切替部309は、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312を第1無線通信部302に接続するように切り替える。これにより、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312で自動車40の走行方向Fに対して前後にビームが形成されるように切り替えられ、最も受信強度が高い基地局を選択することができる。
【0077】
一方、データ処理部310は、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312の受信信号Rに比べて側方指向性アンテナ313,314の受信信号Rの強度が高い場合、側方指向性アンテナ313,314を第1無線通信部302に接続するように切り替える制御信号をアンテナ切替部309に送信する。この制御信号に基づいて、アンテナ切替部309は、側方指向性アンテナ313,314を第1無線通信部302に接続するように切り替える。これにより、側方指向性アンテナ313,314で自動車40の走行方向Fに対して左右にビームが形成されるように切り替えられ、最も受信強度が高い基地局を選択することができる。
【0078】
なお、データ処理部310は、アンテナ切替部309が接続しているアンテナの受信信号Rの受信強度が所定の閾値を下回ったときに、他方のアンテナのビームに切り替えるような制御信号をアンテナ切替部309に送信してもよい。例えば、データ処理部310は、アンテナ切替部309が接続している前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312の受信信号Rの受信強度が所定の閾値を下回ったときに、側方指向性アンテナ313,314のビームに切り替えるような制御信号をアンテナ切替部309に送信する。
【0079】
図19(a)及び(b)はそれぞれ、
図18の移動中の自動車に組み込まれたムービングセル基地局の基地局装置で形成される指向性ビームの説明図である。
図19の例は、ムービングセル基地局の基地局装置のアンテナは自動車40の屋根(ルーフトップ)の上面42に配置されている例である。
図19(a)は、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312が第1無線通信部302に接続されてビームを形成する場合の図である。また、
図19(b)は側方指向性アンテナ313,314が第1無線通信部302に接続されてビームを形成する場合の図である。
【0080】
車載用アンテナには、高さ制限のある駐車場に駐車するためや、車のデザインを維持するために、低姿勢アンテナが求められる。また、指向性ダイバーシチを適用するために、FB比(Front Back ratio)の高い狭ビームアンテナが求められる。一方で、ビームが基地局の存在しない方向に向いていると、受信強度が劣化するおそれがある。このため、薄型の単指向性アンテナを用いて、ビームをスイッチで切り替えることによって、最も受信強度が高い基地局を選択することが望ましい。薄型の単指向性アンテナとしては、例えば、プリント型八木宇田アンテナや、テーパースロットアンテナなどを用いることができる。
【0081】
図19(a)において、自動車40のルーフトップの上面42には、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312、並びに、側方指向性アンテナ313,314が設置されている。そして、アンテナ切替部309は、側方指向性アンテナ313,314に比べて前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312の受信強度が高い場合、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312を第1無線通信部302に接続するように内部のスイッチを切り替える。これにより、自動車40の走行方向Fに対して前方と後方にそれぞれビーム311A、312Aが形成される。
【0082】
一方、
図19(b)において、アンテナ切替部309は、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312に比べて側方指向性アンテナ313,314の受信強度が高い場合、側方指向性アンテナ313,314が第1無線通信部302に接続するように内部のスイッチを切り替える。これにより、自動車40の走行方向Fに対して右側と左側にそれぞれビーム313A、314Aが形成される。
【0083】
上述したように、アンテナ切替部309のスイッチで前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312を第1無線通信部302に接続することにより、自動車40の走行方向Fに対して前方と後方にそれぞれビーム311A、312Aが形成される。一方、アンテナ切替部309のスイッチで側方指向性アンテナ313,314を第1無線通信部302に接続することにより、自動車40の走行方向Fに対して右側と左側にそれぞれビーム313A、314Aが形成される。このように薄型の単指向性アンテナを用いて、ビームをスイッチで切り替えることによって最も受信強度が高い基地局を選択することができる。
【0084】
また、ムービングセル基地局の基地局装置300で受信できる基地局が一つの場合には、前方指向性アンテナ311及び後方指向性アンテナ312、又は、側方指向性アンテナ313,314のうちいずれか一方にビームをスイッチで切り替えることによって、受信強度が高い方の指向性アンテナを選択して用いることができる。
【0085】
以上の実施形態では、自動車40に組み込まれた無線通信装置がムービングセル基地局30である場合について説明したが、自動車40に組み込まれる無線通信装置はムービングセル基地局30以外の装置であってもよい。例えば、本発明は、
図20に示すように、自動車40に組み込まれた無線通信装置が、自動車40に対して固定配置されたアンテナ511、512とユーザ装置本体500とを有するユーザ装置(移動局)50である場合について同様に適用することができ、同様な効果が得られるものである。
【0086】
また、本発明は、自動車40に組み込まれた無線通信装置が、自動車40に対して固定配置された放送受信アンテナと受信装置本体とを有する、放送送信局から送信された放送電波を受信する放送受信装置である場合について同様に適用することができ、同様な効果が得られるものである。
【0087】
また、本明細書で説明された処理工程並びに通信システム、無線通信装置、基地局装置及びユーザ装置(移動局装置、ユーザ端末装置、移動機)の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。例えば、本実施形態の無線通信装置(基地局装置)における処理は、後述のハードウェアに所定のプログラムが読み込まれて実行されたり、後述のハードウェアに予め組み込まれた所定のプログラムが実行されたりすることにより、実現される。
【0088】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、NodeB、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0089】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0090】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。