(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を用いて形成された反応硬化物であり、ハードセグメントおよびソフトセグメントを含む発泡ウレタンを有し、
前記発泡ウレタンが、H1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下である第1の領域と、
H1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下である第2の領域であって、前記第1の領域と隣り合って存在する第2の領域と、
を有する座席用クッション材。
前記第1の領域におけるアスカーF硬度が20以上50未満であり、前記第2の領域におけるアスカーF硬度が50以上70以下である請求項1に記載の座席用クッション材。
前記第1の領域におけるアスカーF硬度をF1、および前記第2の領域におけるアスカーF硬度をF2としたとき、前記F1と前記F2と差の絶対値が10以上50以下である請求項2に記載の座席用クッション材。
前記イソシアネート成分が、モノメリックジフェニルメタンジイソシアネートとポリメリックジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物と、ポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートを含む請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の座席用クッション材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の座席用クッション材の一例である実施形態について説明する。
【0011】
<座席用クッション材>
本開示の座席用クッション材は、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を用いて形成された反応硬化物であり、ハードセグメントおよびソフトセグメントを含む発泡ウレタンを有している。
そして、発泡ウレタンは、H
1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下である第1の領域を有する。
また、H
1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下である前記第1の領域と隣り合う第2の領域を有する。
なお、本開示の座席用クッション材は、第1の領域が着座した乗員側に配置され、第2の領域が着座した乗員側から離れた側に配置されて使用される。
【0012】
ここで、本開示の座席用クッション材の一例について、図を参照して説明する。
図1は、本開示の座席用クッション材の一例を示す断面図である。座席用クッション材100は、発泡ウレタンで形成されている。そして、発泡ウレタンは、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を用いて形成された反応硬化物であり、ハードセグメントおよびソフトセグメントを含んでいる。また、座席用クッション材100は、第1の領域102と、第1の領域102に隣り合って、第2の領域104が形成されている。座席用クッション材100において、第1の領域102および第2の領域104の境界は明確に形成されていない。第1の領域は、着座面側に配置される領域である。また、第2の領域は、着座面から離れた側に配置される領域である。
なお、本明細書中において、着座面とは、乗員が座席に着座したときに、臀部を支持する側の面、並びに、背部および腰部を支持する側の面を表す。
【0013】
また、第1の領域102および第2の領域104は、H
1固体パルスNMR測定において、下記特性を示す。
第1の領域は、H
1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下である。
第2の領域は、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下である。
【0014】
なお、座席用クッション材100は、第1の領域102および第2の領域104の境界は曖昧であるが、これに限定されるものではない。第1の領域102および第2の領域104の境界は曖昧であってもよく、明確に形成されていてもよい。また、座席用クッション材100の断面形状は、
図1に示す形状に限られず、目的に応じた形状に形成されていればよい。以下の説明において、符号は省略する。
【0015】
従来、発泡ウレタンは、車両などの乗り物用の座席用クッション材にも適用されている。乗り物用の座席用クッション材として用いる発泡ウレタンには、適切な発泡倍率(およそ60kg/m
3前後)で、柔軟なクッション性を保持しながら、乗り心地を向上させることが要求される。この要求に応えるために、発泡ウレタンは、発泡ウレタン中のハードセグメントの存在比を高めている。
ハードセグメントは、高い融点、または高いガラス転移温度を有する。このため、ハードセグメントは、高モジュラス、および高強度に寄与する。ハードセグメントは、特に発泡ウレタンの強度等を発現させる部分である。
【0016】
一方で、ソフトセグメントは、室温(例えば、25℃)より低いガラス転移温度を有する。このため、ソフトセグメントは、高伸長および弾性回復に寄与する。ソフトセグメントは、発泡ウレタンの柔軟性を発現させる部分である。
【0017】
ここで、従来の発泡ウレタンは、発泡ウレタンの気泡樹脂(骨格および膜を形成する部分)中のハードセグメント(例えば、尿素結合が密集した大きな凝集体構造の形態)の存在する割合が多いと考えられる。
従来の発泡ウレタンを、25±1℃、真空中でのH
1パルスNMR測定を行った場合、25±1℃、真空中でのH
1パルスNMR(核磁気共鳴)測定によって得られるハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)は、全体にわたって、30μsec未満である。したがって、従来の発泡ウレタンでは、全体にわたって、尿素結合が密集した大きな凝集体構造(例えば、直径10nm以上の尿素結合の凝集体構造)を形成していると考えられる。また、ハードセグメントの容積存在比率が大きくなるにしたがい、尿素結合の凝集体構造の存在割合が多い構造と考えられる。つまり、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec未満であり、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が大きい場合、尿素結合が密集した大きな凝集体構造の数が多い構造を形成していると推測される。
なお、測定温度である25±1℃は、25℃を基準として、±1℃の範囲まで誤差が許容されることを表す。以下、「±」の意味は同様の意味(つまり、±の左側に記載される数値を基準として、右側に記載される数値までの誤差が許容される)を表す。
【0018】
また、従来の発泡ウレタンを用いた座席用クッション材では、座席用クッション材全体としての硬度が高い。これは、尿素結合が密集した大きな凝集体構造が多数存在することに起因していると考えられる。そのため、この発泡ウレタンを用いた座席用クッション材を乗り物用の座席用クッション材として適用した場合、乗員が着座したときの荷重が分散し難い。その結果、この座席用クッション材では、柔軟な感触、体圧分散性(フィット感)が低く、さらに、底突き感、異物感が生じやすくなる。また、この座席用クッション材は、振動が分散しにくく、振動吸収性が低い。そのため、従来の発泡ウレタンを用いた座席用クッション材は、乗り心地に劣っていた。
【0019】
ここで、例えば、特許文献1〜特許文献3に開示されるクッション材は、異なる原料を用いて、硬度の異なる部位を有する異硬度クッション材とすることで、乗り心地の改善を図っている。しかしながら、特許文献1〜3に開示される異硬度クッション材は、乗り物用の座席用クッション材として適用した場合、要求される乗り心地特性を十分に満足するものではなく、さらなる改善の余地があった。また、特許文献1〜3に開示される異硬度クッション材は、異なる原料を用いて製造するため、設備の点および手間の点で、コスト的に不利であった。
【0020】
これに対し、本開示の座席用クッション材は、特定の発泡ウレタンを有するものである。そして、発泡ウレタンは、第1の領域、および第1の領域と隣り合う第2の領域を有する。それぞれの領域は、25±1℃、真空中でのH
1固体パルスNMR測定において、前述の特性を有する。
【0021】
本開示の座席用クッション材は、上記特性を有するため、従来の座席用クッション材と比べ、全体として、粘性が支配的と考えられる。また、第1の領域では、上記特性を有するため、尿素結合が密集した凝集体構造が形成され難い状態であり、尿素結合が単体で存在していると考えられる。そのため、第1の領域は、粘性が支配的になっていると考えられる。また、第2の領域では、上記特性を有するため、第1の領域よりも、尿素結合が密集した凝集体構造が形成され易い状態である。その一方で、尿素結合凝集体は小さい状態で存在していると考えられる。そのため、第2の領域は、第1の領域よりも弾性が支配的になっていると考えられる。
【0022】
発泡ウレタンにおける第1の領域は、乗員が着座したとき、着座面側(乗員に近い側)に配置される領域となる。また、発泡ウレタンにおける第2の領域は、着座面側と反対側(乗員から離れた側)に配置される領域となる。
したがって、第1の領域では、上記特性を有することにより、乗員が着座したときの荷重によって、発泡ウレタンが押し広げられ、圧力が分散するようにはたらく。また、第2の領域では、上記特性を有することにより、着座した乗員の姿勢を保持するようにはたらく。そのため、本開示の座席用クッション材は、柔軟な感触、体圧分散性、振動吸収性に優れ、底突き感、及び異物感が抑えられたものとなる。その結果、本開示の座席用クッション材に着座した乗員は、乗り心地に優れていると感じるようになると考えられる。
以上から、本開示の座席用クッション材は、乗り心地に優れたものであると推測される。
【0023】
ここで、第1の領域および第2の領域を含む発泡ウレタンの中央部を厚み方向に切断したとき、この切断面のうち、発泡ウレタンの有する第1の領域および第2の領域の厚みの割合は、例えば、以下に示す範囲であることがよい。
発泡ウレタンの全厚み(h0)に対する第1の領域の厚み(h1)の割合(h1/h0):5%以上35%以下
発泡ウレタンの全厚み(h0)に対する第2の領域の厚み(h2)の割合(h2/h0):65%以上95%以下
【0024】
なお、本開示において、第1の領域および第2の領域は、以下のようにして、便宜上切り分ける。
第1の領域および第2の領域を含む発泡ウレタンの中央部から、厚み方向に測定用サンプルを採取する。採取した試験片を、下記に示すH
1固体パルスNMR測定にしたがって、スピン−スピン緩和時間(T2)を測定する。そして、厚み方向に採取した測定用サンプルのうち、スピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上となる領域を第1の領域とする。また、スピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec未満となる領域を第2の領域とする。
【0025】
ここで、
図6を参照して、発泡ウレタンの厚さ方向の各位置におけるハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)の関係について説明する。
図6は、2軸グラフとして表されている。
図6は、後述の実施例2および実施例4における発泡ウレタンの表面からの厚みとスピン−スピン緩和時間(T2)との関係、及び発泡ウレタンの表面からの厚みとアスカーF硬度との関係を表すグラフである。
図6に示す第1の縦軸(左側の縦軸)は、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)であり、横軸は、発泡ウレタンの厚み方向の深さ(「表層からの厚み」と表記)である。また、第2の縦軸(右側の縦軸)は、アスカーF硬度(「F硬度」と表記)である。
【0026】
なお、
図6に示すように、後述の実施例2および実施例4における発泡ウレタンの全厚みは100mmである。また、スピン−スピン緩和時間(T2)、及びアスカーF硬度の測定方法は、後述の方法で測定している。ただし、
図6に示すグラフでは、厚み方向に5mm毎にスライス切除して採取した全て試験片の測定値を示している。
【0027】
図6に示すグラフから、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上となる領域および30μsec未満となる領域のそれぞれの範囲がわかる。つまり、第1の領域および第2の領域の範囲がわかる。
図6に示すように、第1の領域は、実施例2の発泡ウレタンでは、およそ10mm以下の範囲であり、実施例4の発泡ウレタンでは、およそ25mm以下の範囲であることがわかる。同様に、第2の領域は、実施例2の発泡ウレタンでは、およそ10mm超の範囲であり、実施例4の発泡ウレタンでは、およそ25mm超の範囲であることがわかる。
したがって、第1の領域の厚み(h1)は、全厚み(h0)に対して、5%以上35%以下の範囲、および第2の領域の厚み(h2)は、全厚み(h0)に対して、65%以上95%以下の範囲となっていることがわかる。
また、
図6から、実施例2および実施例4ともに、第1の領域では、表面から発泡ウレタンの厚み方向に向かって、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が徐々に変化していく。一方で、第2の領域では、発泡ウレタンの厚み方向で、スピン−スピン緩和時間(T2)の変化が少ないことがわかる。
なお、本開示において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間は、
図6に示すものに限定されるものではない。
【0028】
(H
1固体パルスNMR測定)
ここで、H
1固体パルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)測定おけるスピン−スピン緩和時間(T2)および容積存在比率について説明する。
【0029】
まず、H
1固体パルスNMR測定について説明する。本明細書中において、H
1固体パルスNMR測定は、測定対象となる座席用クッション材を一昼夜室温で真空乾燥させ、真空封管したものを試験片とし、25±1℃、真空中で測定したものである。具体的な測定条件を以下に示す。
【0030】
−測定条件−
測定装置:日本電子(JEOL)社製、JNM−MU25(共鳴周波数25MHz)
測定手法:Solid echo 法
測定温度:25±1℃
パルス幅:90°pulse、2.3μs
繰り返し時間:4sec
積算回数:32回(発泡サンプル)
なお、解析結果(ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)および容積存在比率)は、Variance分散の数値が25以下を前提とする。Variance分散は、データの散らばりの度合いを示し、偏差の2乗の平均で表される。
【0031】
なお、第1の領域を測定するための試験片は、座席用クッション材の第1の領域に相当する外表面(例えば、型底側の表面)を含む部位から5mm毎スライス切除して採取する。そして、採取した試験片のうち、座席用クッション材の外表面側の表面を測定する。
また、第2の領域を測定するための試験片は、座席用クッション材の第2の領域に相当する外表面から第1の領域に向かって15mmの部位(例えば、型上側から型底側に向かって5mm毎にスライス切除し、15mmの部位)を含む試験片を採取する。そして、採取した試験片のうち、座席用クッション材の第2の領域に相当する外表面から第1の領域に向かって15mmの位置を測定する。
【0032】
H
1固体パルスNMR測定は、緩和時間の違いを利用して、測定対象物の成分の量を評価することができる。
測定対象物を、H
1固体パルスNMR測定を行うと、パルスに対する応答として、FID信号(free inductiondecay;自由誘導減衰信号)が得られる。FID信号の初期値は測定試料中のプロトンの数に比例している。測定対象物に、例えば、ハードセグメント、ソフトセグメントなどの複数の成分がある場合、FID信号は各成分の応答信号の和となる。成分によって運動性に差があると、スピン−スピン緩和時間(T2)が異なる。そのため、スピン−スピン緩和時間(T2)を分離することで、各成分の緩和時間と、各成分の割合(容積存在比率)を求めることができる。成分の運動性が小さくなるほどスピン−スピン緩和時間(T2)が短くなり、運動性が大きくなるほどスピン−スピン緩和時間(T2)が長くなる。つまり、固い成分ほどスピン−スピン緩和時間(T2)が短く、柔らかい成分ほどスピン−スピン緩和時間(T2)が長くなる。
【0033】
ハードセグメントおよびソフトセグメントを有する発泡ウレタンを測定した場合、H
1固体パルスNMR測定では、ハードセグメントとソフトセグメントとは、運動性に差があるため、両者のスピン−スピン緩和時間(T2)が異なる。ハードセグメントはスピン−スピン緩和時間(T2)が短くなり、ソフトセグメントはスピン−スピン緩和時間(T2)が長くなる。つまり、尿素結合の凝集体構造を形成しているほどスピン−スピン緩和時間(T2)が短くなり、尿素結合の凝集体構造の形成が抑制されているほどスピン−スピン緩和時間(T2)が長くなる。
また、ハードセグメントの容積存在比率が大きくなるほど(つまり、尿素結合の凝集体構造を形成しているほど)、スピン−スピン緩和時間(T2)が短い。
【0034】
以上のことから、25±1℃、真空中でのH
1固体パルスNMR測定において、第1の領域および第2の領域のハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が上記範囲であることは、発泡ウレタン中の尿素結合の凝集体構造内の尿素結合間水素結合が少ない(つまり、尿素結合が密集した大きな凝集体構造が少ない)ことを意味すると考えられる。
【0035】
特に、第1の領域において、スピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下であることは、単分散に近い状態の尿素結合が存在していると考えられる。また、第2の領域において、スピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満であることは、小さい尿素結合凝集体が存在していると考えられる。
【0036】
第1の領域のハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下、および第2の領域のハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下の範囲であることは、尿素結合の凝集体構造内の尿素結合間水素結合の存在割合が少ない(つまり、尿素結合が密集した凝集体構造の数が少ない)構造に抑えられていると考えられる。
【0037】
(諸物性)
本開示の座席用クッション材が有する発泡ウレタンは、優れた乗り心地を有する座席用クッション材とする点で、下記の諸物性を有することがよい。
【0038】
−アスカーF硬度−
発泡ウレタンは、第1の領域におけるアスカーF硬度をF1、第2の領域におけるアスカーF硬度をF2としたとき、F1とF2との差の絶対値(|F1−F2|)が10以上50以下であることがよい。F1とF2との差の絶対値は、10以上45以下であってもよく、10以上40以下であってもよい。
また、第1の領域および第2の領域におけるアスカーF硬度は特に限定されるものではない。例えば、以下の範囲であることがよい。
第1の領域におけるアスカーF硬度は20以上50未満であることがよい。第1の領域におけるアスカーF硬度の下限は、25以上であってもよい。また、第1の領域におけるアスカーF硬度の上限は、45以下でもよく、40以下でもよい。
第2の領域におけるアスカーF硬度が50以上70以下であることがよい。第2の領域におけるアスカーF硬度の上限は、65以下であってもよく、60以下であってもよい。
各領域のアスカーF硬度の差の絶対値、および各領域におけるアスカーF硬度が、上記範囲であると、乗り心地に優れたものとなる。なお、第1の領域および第2の領域におけるアスカーF硬度は、例えば、尿素結合凝集体の大きさ、および尿素結合凝集体の量に起因していると考えられる。
【0039】
アスカー硬度の測定方法は、ASKER硬度計 F型を用い、測定対象となる座席用クッション材の表面硬度を21±2℃の温度条件で測定する。
なお、アスカーF硬度は、測定対象となる座席用クッション材の第1の領域および第2の領域における部位について、以下に示す位置の表面にアスカー硬度計 F型を設置し、20sec経過後の値を読みとって測定する。
第1の領域:座席用クッション材の第1の領域に相当する外表面を測定する。
第2の領域:座席用クッション材の第2の領域に相当する外表面から第1の領域に向かって15mmの位置(一例で、5mm毎のスライス切除による表面)を測定する。
【0040】
ここで、
図6を再び参照する。
図6から、実施例2および実施例4の発泡ポリウレタンは、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が大きいほど、アスカー硬度が小さくなることがわかる。そして、第1の領域におけるアスカーF硬度は、第2の領域におけるアスカーF硬度よりも低くなっていることが分かる。すなわち、アスカーF硬度は、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)と相関していることが分かる。さらに、実施例2および実施例4の発泡ポリウレタンのいずれも、第1の領域におけるアスカーF硬度(F1:
図6に示す表層からの厚み0mmの位置におけるF硬度)と、第2の領域におけるアスカーF硬度(F2:
図6に示す表層からの厚み85mm付近の位置におけるF硬度))との差の絶対値が、10以上50以下の範囲であることが分かる。なお、本開示において、アスカーF硬度は、
図6に示すものに限定されるものではない。
【0041】
−ヒステリシスロス−
発泡ウレタンのヒステリシスロスは、座席用クッション材の体圧分散性、底突き感、及び異物感の指標となる。ヒステリシスロスの範囲は特に限定されず、例えば、8%以上20%以下であることがよい。
【0042】
ヒステリシスロスは、圧縮撓み試験により得られる値である。ヒステリシスロスは、JIS K6400−2(2012)に準拠し、定荷重圧縮法による圧縮−撓み測定曲線から算出される。
具体的には、測定対象となる座席用クッション材から、縦380mm×横380mm(厚みは製品厚)の試験片を切り出して測定サンプルとする。次に、室温(21±2℃;以下の測定での室温は21±2℃)にて、加圧板(鉄研板:
図4(A)および
図4(B)参照)により、垂直方向に10mm/分で荷重をかけ4.9Nで加圧したときの厚さを初期厚さとする。初期厚みを決定した後、圧縮速度150mm/分で、最大荷重980Nになるまで圧縮して撓ませる。次に、同じ速度で加圧板を初期厚みまで戻して1分間放置を行い予備圧縮とする。1分後、再び、加圧板を150mm/分の圧縮速度で、最大荷重980Nまで圧縮して撓ませる。その後、同じ速さで加圧板を初期厚みまで戻して、測定の履歴をグラフに表す(
図5参照)。
【0043】
図5は、圧縮−撓み曲線の一例を模式的に示すグラフである。ヒステリシスロスは、
図5に示すグラフの原点0−曲線A−点B−点E−原点0で囲まれた領域の面積0ABE0に対する原点0−曲線A−点B−曲線C−点Dで囲まれた領域の面積0ABCDの百分率(パーセント(%))で表され、下記式により求められる。
(式)ヒステリシスロスAf=((面積0ABCD/面積0ABE0)×100)
なお、
図5において、横軸DR(%)は撓み率(%)、縦軸L(N)は荷重を表す。
【0044】
−弾性反発−
発泡ウレタンの弾性反発率は、座席用クッション材のフィット感の指標となる。弾性反発は特に限定されず、例えば、35%以上50%以下であることがよい。
弾性反発率は、JIS K6400−3(2011)に準拠して測定されるものである。具体的には、対象となる座席用クッション材から、50mm×100mm×100mm以上の試験片を切り出し、室温にて試験片の上面より500mmの高さから直径16mm、質量16gの鋼球を落下させ、跳ね返った最高の高さを落下高さ(500mm)の百分率(パーセント(%))で表す。
【0045】
−対数減衰率−
発泡ウレタンの対数減衰率は、座席用クッション材の振動吸収性の指標となる。対数減衰率は、本来、材料の減衰性を評価するためのパラメータであり、この値が大きいほど、高い制振性能を持つことを示す。
対数減衰率とは、JIS K6394(2007)に準拠して測定されるものである。具体的には、対数減衰率は、室温にて、加振試験によって得られる応答側の減衰振動波形において、対数減衰率(Λ)を2πで除したものである。対数減衰率(Λ)は、隣り合う振幅の高さAnの比(An/An+1)の自然対数をとることによって決定される。
また、一般的に、減衰率の値は、周波数の小さい方から順に第1固有モード、第2固有モードなどと呼ばれる固有振動モードごとに異なった値を持つ。
そのため、対数減衰率は、対象となる座席用クッション材を、下記のようにして測定する。本開示の座席用クッション材では、0Hz以上500Hz以下の周波数域に現れる複数の固有モードの減衰率の平均値から減衰率平均値を算出し、制振性能を示す代表値とする。また、減衰率の決定方法は以下のとおりである。まず、加振試験結果より、伝達関数(入力である加振力と出力である応答の比)を求める。そして、求めた関数値を、曲線適合の手法で演算処理して、各モードごとの減衰率を算出する。この演算処理により、各モードごとの固有振動数も、併せて算出することができる。
【0046】
なお、上記のヒステリシスロス、弾性反発率、及び対数減衰率について、測定対象となる座席用クッション材の測定位置は、以下のとおりである。
第1の領域の測定は、試験片(400mm×400mm×100mm厚み)の第1の領域を含み、第1の領域の外表面から第2の領域に向かって試験片の厚み中央(第1の領域の外表面50mm)の厚みとなるように、測定用サンプルを切り出す。そして、第1の領域の外表面に対して、負荷をかける(各試験を行う)ことで、ヒステリシスロス、弾性反発率、及び対数減衰率の測定を行う。
第2の領域の測定は、試験片の厚み中央(第1の領域の外表面から50mm)に対して、厚み方向に、第1の領域の外表面に向かって25mm、第2の領域の外表面に向かって25mmで、合計厚みが50mmになるように、測定用サンプルを切り出す。この測定用サンプルは、第2の領域に該当する範囲となるように切り出す。そして、測定用サンプルの第1の領域側のカット表面に対して、負荷をかける(各試験を行う)ことで、ヒステリシスロス、弾性反発率、及び対数減衰率の測定を行う。
【0047】
(湿熱圧縮永久歪)
次に、湿熱圧縮永久歪について説明する。湿熱圧縮永久歪は、温度50℃±2℃、相対湿度95%の条件下で、50%圧縮を22時間行った後の圧縮永久歪を測定したものである。
具体的には、測定対象となる座席用クッション材を、厚さ40mm±1mmに切り出し試験片とする。この試験片の厚さ(t0)を測定し、試験片の厚さの50%まで圧縮して固定し、50℃±2℃、相対湿度95%の高湿恒温槽に22時間放置する。その後、固定した状態の試験片を取り出し、30分後の試験片の厚さ(t1)を測定する。その後、下記式で求めた値を湿熱圧縮永久歪の値とする。
(式) 湿熱圧縮永久歪(%)={(t0−t1)/t0}×100
【0048】
湿熱圧縮永久歪(温度50℃±2℃、相対湿度95%の条件下で、50%圧縮を22時間行った後の圧縮永久歪)は、例えば、乗り物用の座席の現実的な使用環境を反映し、圧縮荷重と同時に、湿熱を負荷した条件下の経時に対する信頼性試験として知られている。湿熱圧縮永久歪は、最終的な座席用クッション材の厚み変化(永久歪)を測定することで、振動吸収性、反発弾性、底突き感等の変化が予想できる。すなわち、湿熱圧縮永久歪は、座席用クッション材を、乗り物用の座席に適用した場合の経時での乗り心地に与える影響を知ることができる指標となる。
【0049】
座席用クッション材の経時での乗り心地を表す指標としては、湿熱圧縮永久歪が小さいことが望ましい。
【0050】
本開示の座席用クッション材が有する発泡ウレタンは、温度50℃±2℃、相対湿度95%の条件下で、50%圧縮を22時間行った後の圧縮永久歪が1%以下であることがよい。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下である。
湿熱圧縮永久歪が1%以下であるということは、湿熱条件下での経時での圧縮永久歪が低く抑えられていることを意味する。したがって、本開示の座席用クッション材を、例えば、乗り物用の座席用クッション材に適用した場合に、経時に対し、より安定した優れた乗り心地が得られることを示している。
なお、湿熱圧縮永久歪が小さいほど、経時での乗り心地に優れるため、湿熱圧縮永久歪の下限値は0%であることが好ましいが、下限値は特に限定されるものではない。
【0051】
以下、本開示の座席用クッション材の材料である発泡ウレタンについて説明する。発泡ウレタンは、連続気泡を有するウレタン発泡体である。
【0052】
本開示の座席用クッション材は、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を用いて形成された発泡ウレタンを有する。発泡ウレタンは、具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分と、ポリオール成分と、触媒と、発泡剤との混合原料を反応硬化させた反応硬化物である。
発泡ウレタンは、特に、座席用クッション材の乗り心地を優れたものとする点で、モノメリックジフェニルメタンジイソシアネートとポリメリックジフェニルメタンジイソシアネートとの混合物を、予めポリオールの一部と反応させたポリイソシアネート成分を用いて形成された反応硬化物であることが好ましい。
【0053】
以下、発泡ウレタンを形成するための各成分について説明する。
【0054】
(イソシアネート成分)
まず、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分について説明する。以下、ジフェニルメタンジイソシアネートを「MDI」と称する場合がある。
MDI系化合物は、特に限定されるものではない。例えば、純粋な(ピュア)ジフェニルメタンジイソシアネート(モノメリックMDI)、ポリメリックMDI、モノメリックMDIとポリメリックMDIとを含む混合物、ポリメリックMDIのイソシアネート末端変性ポリイソシアネート、及びモノメリックMDIとポリメリックMDIとを含むイソシアネート末端変性ポリイソシアネートが挙げられる。
【0055】
具体的には、例えば、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’−MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)、およびこれらの混合物のモノメリックMDI;ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートのポリメリックMDI;モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物;モノメリックMDIをポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネート;ポリメリックMDIをポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネート;モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネート;モノメリックMDIをポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートと、ポリメリックMDIをポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートとの混合物;モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートに、モノメリックMDIおよびポリメリックMDIの少なくとも一方を含有させた混合物;などが挙げられる。これらのジフェニルメタンジイソシアネート系化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
これらのなかでも、MDI系化合物は、座席用クッション材の乗り心地を優れたものとする点で、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネート(つまり、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたプレポリマー)を含むことが好ましい。また、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートであることがより好ましい。このイソシアネート末端変性ポリイソシアネートを用いると、尿素結合の凝集体構造の形成を抑制し易くなる。
【0057】
モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートにおいて、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合比(質量比)は、ポリメリックMDIの質量に対するモノメリックMDIの質量の比(モノメリックMDI/ポリメリックMDI)として、30/70以上90/10以下の範囲が好ましい。より好ましくは32/68以上80/20以下の範囲である。モノメリックMDIとポリメリックMDIのMDI混合比(質量比)が、30/70以上90/10以下の範囲内であると、座席用クッション材としての特性から逸脱したフォームとなることが抑えられる。さらに、成形性の低下が抑制される。
【0058】
また、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートは、NCO含有量(質量%)で、最終的に10以上30以下になるよう調整することが好ましい。
【0059】
(ポリオール成分)
ポリオール成分としては、特に限定されるものではない。本開示の座席用クッション材が、乗り物用シート(特に車両用シート)用に適用される場合がある点で、ポリオール成分としては、加水分解を起こし難い(耐加水分解性に優れる)、エーテル系ポリオールが好ましい。エーテル系のポリオールとしては、例えば、具体的には、PPG系(ポリオキシプロピレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール)、PTMG(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、PEG(ポリエチレングリコール)等の−O−結合(エーテル結合)を有するものが好ましい。
【0060】
ポリオール成分の平均分子量は、重量平均分子量で200以上10000以下(好ましくは600以上9000以下)の範囲であることがよい。また、活性水素基(OH基)の官能基数当たりの重量平均分子量が200以上4000以下(好ましくは300以上3000以下)の範囲であることがよい。
【0061】
(触媒)
触媒としては、特に限定されず、座席用クッション材として用いられる発泡ウレタンの分野において公知である各種のウレタン化触媒を使用できる。例えば、トリエチルアミン、トリエチルジアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルモリホリン、N−エチルモリホリン、ジメチルベンジルアミン、N,N,N´,N´−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N´,N´,N´´−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス−(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,2−ジメチルイミダゾール、ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチル−N−ヘキサノールアミン等のアミン化合物のアミン系触媒;これらアミン化合物の有機酸塩;スタナスオクトエート;ナフテン酸亜鉛などの有機金属化合物が挙げられる。また、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン;などの活性水素を有するアミン系触媒も挙げられる。これら触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
触媒の添加量は、ポリオール成分に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましい。0.01質量%以上であると、キュアー不足が抑制されやすく、10質量%以下であると、成形性の低下が抑制される。
【0063】
(発泡剤)
発泡剤としては、水を含む発泡剤であることがよく、水単独であることが好ましい。
発泡剤として用いる水の量としては、ポリオール成分100質量部に対し、目的とする発泡倍率によって設定すればよい。
発泡剤は、水と併用する場合、水以外の発泡剤としては、例えば、塩化メチレン、ハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFC−123等)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC−245fa等)、ブタン、ペンタン(シクロペンタン、イソペンタン、ノルマルペンタン)等の低沸点有機化合物;ギ酸等の有機酸;などが挙げられる。
また、発泡剤として、水を含む発泡剤に加えて、発泡ウレタンを得るための混合原料に対し、空気、窒素ガス、液化二酸化炭素等を混入溶解させてもよい。水以外の発泡剤の量は、目的とする発泡倍率によって設定すればよい。
【0064】
(その他成分)
その他成分は、必要に応じて添加される成分(添加剤)である。その他成分としては、例えば、架橋剤、着色剤、充填剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、整泡剤等が挙げられる。その他成分を使用する場合には、これらを1種単独、又は2種以上を必要に応じて選択して用いればよい。
【0065】
(混合原料におけるイソシアネート基と活性水素基とのモル比)
発泡ウレタンを得るための混合原料において、イソシアネート基と活性水素基とのモル比(NCO基/活性水素基)で表されるイソシアネートインデックス(NCO INDEX)は、特に限定されるものではない。優れた乗り心地を得る点で、イソシアネートインデックスは、例えば、90以上120以下であることがよい。イソシアネートインデックスの下限は、95以上であってもよく、100以上であってもよい。イソシアネートインデックスの上限は、115以下であってもよく、110以下であってもよい。ここで、イソシアネートインデックスは、イソシアネート成分におけるイソシアネート基のモル数を、イソシアネート基と反応しうる活性水素基の合計モル数(ポリオール成分の水酸基、発泡剤としての水など)で除した値の百分率で求められる。
なお、本明細書中において、イソシアネートインデックスは、イソシアネート成分およびイソシアネート成分と反応しうる成分を含む、発泡ウレタンを得るための混合原料を反応硬化させる場合の値を表す。したがって、イソシアネート末端変性ポリイソシアネートのイソシアネート成分を得る場合のイソシアネートインデックスを表すものではない。
【0066】
つぎに、本開示の座席用クッション材に用いる発泡ウレタンの製造方法について説明する。
【0067】
(発泡ウレタンの製造方法)
発泡ウレタンの製造方法としては、特に限定されず、スラブストック法および型内で成形するモールド法における公知の方法が適用できる。
発泡ウレタンの好ましい製造方法の一例としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を準備する第1の工程と、前記のイソシアネート成分とポリオール成分と発泡剤とを混合した原料を成形する第2の工程とを有する方法が挙げられる。
【0068】
第1の工程としては、例えば、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物を、予めポリオールの一部と混合調製させたポリイソシアネート成分(つまり、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネート)を準備することがよい。モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物は、モノメリックMDI/ポリメリックMDIの混合比として、30/70以上90/10以下(質量比)とすることがよい。また、イソシアネート基(NCO基)が、NCO含有量(質量%)で、最終的に10以上30以下になるよう調整することが好ましい。なお、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートに限定されず、前述のイソシアネート成分と同様のイソシアネート成分を用いてもよい。
【0069】
第2の工程としては、第1の工程で準備したイソシアネート成分とポリオール成分と発泡剤とを含む混合原料を成形する工程である。
以下、第1の工程のジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分として、モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合物をポリオール成分の一部と反応させたイソシアネート末端変性ポリイソシアネートを準備した場合について説明する。また、第2の工程として、型内で成形するモールド法により成形する場合について説明する。
【0070】
第2の工程では、上記の混合原料を金型内に注入し、モールド金型内で、予め定められた温度で発泡させることで、発泡ウレタンの反応硬化物が得られる。
一般的に、型内に原料注入後、反応が始まる直前までの間、比較的分子量の大きなものほど、型底方向に移動しやすく、分子量が小さく、分子運動の活発なものほど、型底から離れた型上面側に移行しながら、反応が進行しやすいという傾向がある。
上記のイソシアネート末端変性ポリイソシアネートを用いた混合原料を金型内に注入した場合、型底側の領域では、ポリメリックMDIを主に含むイソシアネート末端変性ポリイソシアネートの存在割合が高い領域が形成されると考えられる。一方で、型上面側の領域では、モノメリックMDIを主に含むイソシアネート末端変性ポリイソシアネートの存在割合が高い領域が形成されると考えられる。
【0071】
ポリメリックMDIを主に含むイソシアネート末端変性ポリイソシアネートは、分子運動が鈍く、運動距離も短いため、反応性が乏しい。その結果、型底側の領域では、小さな尿素結合凝集体が形成され難く、尿素結合が単体で存在しやすくなると考えられる。
一方で、モノメリックMDIを主に含むイソシアネート末端変性ポリイソシアネートは、分子運動が活発で、運動距離が長いため、反応性が高い。その結果、型上面側の領域では、型底側の領域に比べ、小さな尿素結合凝集体が形成され易いと考えられる。
【0072】
発泡させるときのモールド金型の温度は、30℃以上50℃以下(好ましい下限は35℃以上、好ましい上限は45℃以下)の範囲であることが好ましい。モールド金型の温度がこの範囲であると、型底側の領域では、分子運動が鈍く、水との反応性も乏しい。そのため、尿素結合の生成速度が遅い。また、尿素結合が生成されても尿素結合凝集体が形成され難い。そして、尿素結合は、単分散になりやすい傾向となる。
一方で、型上側の領域では、水との発熱反応を伴いながら反応する。そのため、型底側の領域に比べ、反応性が活発になり、小さな尿素結合凝集体が形成され易い。
【0073】
その結果、得られた発泡ウレタンの反応硬化物において、型底側の領域では、25±1℃でのH
1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下の範囲に制御しやすくなる。また、型上面側の領域では、25±1℃でのH
1固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下の範囲に制御しやすくなる。つまり、型底側の領域は、第1の領域となり、第1の領域と隣り合う型上面側の領域は、第2の領域となる。
このように、上記の好ましい製造方法によれば、単独の原料で、異なる特性を示す領域を有する発泡ウレタンが得られるので、乗り心地に優れた座席用クッション材が得られる。さらに、コスト面での改善が期待される。
【0074】
なお、発泡成形時のモールド金型の温度が50℃を超える(例えば、60℃以上)の場合は、金型内で金型と接する発泡ウレタンの表面に、尿素結合の凝集体構造を含むスキン層が形成されやすくなる。そのため、乗り心地が低下しやすくなる。なお、30℃未満では、発泡ウレタンの製造が難しくなる。
【0075】
また、第2の工程において、混合原料を調製する順序としては、ポリオール成分に対し、予め触媒と発泡剤とを混合した後(プレミックス)、第1の工程で準備したイソシアネート成分と混合してもよい。また、第1の工程で準備したイソシアネート成分と、触媒と発泡剤とポリオール成分とを、それぞれ混合してもよい。
【0076】
また、発泡ウレタンの製造方法では、上記の第1の工程および第2の工程の全工程において、発泡ウレタンの製造環境に水分が存在すると、ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分と水分とが反応して尿素結合が生じやすくなる。そのため、発泡ウレタンの製造過程の全工程において、窒素パージ雰囲気下で製造することが好ましい。窒素パージ雰囲気下であると、尿素結合の凝集体構造の生成が抑制されやすくなる。
【0077】
本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されるのであれば、本用語に含まれる。
【0078】
(用途)
本開示の座席用クッション材は、乗り心地に優れるため、乗り物(船舶、航空機、車両、バーチャルリアリティ機器など)用のクッション材として好適である。中でも、車両用の座席用クッション材に適用されることがより好適である。車両用の座席の例としては、各車両の座席が挙げられ、例えば、自動車、鉄道の座席が挙げられる。この他にも、耕運機、トラクター、パワーショベル、油圧式クレーン、掘削機、自転車等の車両の座席が挙げられる。特に、自動車用の座席(シート)に適用されることが好適である。この他、劇場、映画館等の施設に用いられる座席用のクッション材に適用されてもよい。
【0079】
<座席>
次に、本開示の座席用クッション材を適用した座席の一例である実施形態について説明する。
【0080】
本開示の座席は、着座した乗員の臀部を支持する座部と、着座した乗員の背部及び腰部を支持する背もたれ部と、を備える。そして、座部および背もたれ部の少なくとも一方は、本開示の座席用クッション材を有する。なお、本開示の座席用クッション材において、発泡ウレタンの第1の領域は着座面(つまり、着座した乗員側)に配置されている。
【0081】
ここで、本開示の座席用クッション材は、座部および背もたれ部の両方に適用されてもよく、座部および背もたれ部のいずれか一方に適用されてもよい。本開示の座席用クッション材は、少なくとも座部に適用されることが好ましい。そして、本開示の座席用クッション材は、座部の一部に適用されてもよい。
【0082】
以下、本開示の座席の一例について、図面を参照して説明する。
図2は、本開示の座席の一例を示す斜視図である。
図2に示す座席200は、自動車の座席の一例として表している。
図2に示すように、座席200は、車両の最前列に用いられる座席である。座席200は、着座した乗員の臀部を支持する座部202と、着座した乗員の背部及び腰部を支持する背もたれ部204とを備える。座部202の表面は、クッション表皮18を有しており、背もたれ部204の表面は、バック表皮20を有する。また、座席200(以下、「シート200」と称する)は、乗員の頭部を支持するヘッドレスト22を備える。
【0083】
図3は、本開示の座席の一例を示す分解図である。
図3は、
図2に示すシート200の分解図を示している。
図3に示すように、このシート200は、支持体であるフレーム12と、フレーム12に取り付けられるシートクッション14と、フレーム12に取り付けられるシートバック16と、フレーム12に取り付けられるヘッドレスト22と、を備えている。さらに、シート200は、シートクッション14を覆う表皮の一例としてのクッション表皮18と、シートバック16を覆う表皮の一例としてのバック表皮20と、を備えている。
【0084】
フレーム12は、シートクッション14を支持するクッションフレーム30と、シートバック16を支持するバックフレーム32と、ヘッドレスト22を支持する一対のヘッドブラケット34と、を備えている。
【0085】
さらに、クッションフレーム30のシート前後方向の後端側と、バックフレーム32の鉛直方向の下端側とは、シート幅方向に延びる軸部材36を介して連結されている。そして、この軸部材36を回転中心として、バックフレーム32は、揺動するようになっている。
【0086】
ヘッドブラケット34は、バックフレーム32の上端側に取り付けられ、シート幅方向に間隔をあけて2個備えられている。ヘッドブラケット34は、上下方向に延びる筒状とされ、ヘッドレスト22に備えられた一対の支持棒22Aが挿入されている。これにより、ヘッドレスト22が、フレーム12(ヘッドブラケット34)に支持されるようになっている。
【0087】
シートクッション14は、発泡ウレタンにより成形された座席用クッション材で形成されている。そして、シートクッション14は、本開示の座席用クッション材が適用される。本開示の座席用クッション材が有する、発泡ウレタンにおける第1の領域は着座した乗員側となるように配置されている。また、シートクッション14は、着座した乗員がシート幅方向に滑るのを抑制する一対のサイドサポート部40を備えている。サイドサポート部40は、シートクッション14のシート幅方向の両端部に形成され、シート前後方向に延び、他の部位に比して上方に突出している。
【0088】
また、シートクッション14は、一対のサイドサポート部40の間に配置されるメイン部42と、メイン部42に対してシート前後方向の前方に配置されるメイン前部44と、メイン部42に対してシート前後方向の後方に配置されるメイン後部46とを備えている。そして、メイン部42が、着座した乗員の臀部を支持するようになっており、メイン前部44が、着座した乗員の大腿部を支持するようになっている。
【0089】
メイン前部44、メイン部42及びメイン後部46と、一対のサイドサポート部40との間には、シート前後方向に延びる溝部48が形成され、溝部48の内部には、クッション表皮18を固定するのに用いられるワイヤ(不図示)が配置されている。
【0090】
さらに、メイン前部44とメイン部42との間、及びメイン部42とメイン後部46との間には、シート幅方向に延びる溝部50が形成されている。溝部50の内部には、クッション表皮18を固定するのに用いられる図示せぬワイヤが配置されている。
【0091】
シートバック16は、発泡ウレタンにより成形された座席用クッション材で形成されている。そして、シートバック16は、本開示の座席用クッション材が適用され、第1の領域が乗員側となるように配置されている。シートバック16は、着座した乗員の上半身がシート幅方向に滑るのを抑制する一対のサイドサポート部56を備えている。サイドサポート部56は、シートバック16のシート幅方向の両端部に形成され、上下に延び、他の部位に比して前方に突出している。
【0092】
さらに、シートバック16は、一対のサイドサポート部56の間に配置されるメイン部58と、メイン部58に対して上方に配置されるメイン上部60と、メイン部58に対して下方に配置されるメイン下部62と、を備えている。そして、メイン部58が、着座した乗員の腰部を支持するようになっている。また、メイン上部60が、着座した乗員の背部を支持するようになっている。
【0093】
メイン上部60、メイン部58及びメイン下部62と、一対のサイドサポート部56との間には、上下に延びる溝部64が形成されている。溝部64の内部には、バック表皮20を固定するのに用いられるワイヤ(不図示)が配置されている。
【0094】
さらに、メイン上部60とメイン部58との間、及びメイン部58とメイン下部62との間には、シート幅方向に延びる溝部66が形成されている。溝部66の内部には、バック表皮20を固定するのに用いられるワイヤ(不図示)が配置されている。
【0095】
クッション表皮18は、
図3に示されるように、一対のサイド表皮部材70と、前部表皮部材72と、メイン表皮部材74と、後部表皮部材76と、を備えている。そして、サイド表皮部材70は、サイドサポート部40を覆う一対の表皮部材である。前部表皮部材72は、メイン前部44を覆う表皮部材である。メイン表皮部材74は、メイン部42を覆う表皮部材である。後部表皮部材76は、メイン後部46を覆う表皮部材である。
【0096】
また、バック表皮20は、
図3に示されるように、一対のサイド表皮部材80と、上部表皮部材82と、メイン表皮部材84と、下部表皮部材86と、を備えている。そして、サイドサポート部56を覆う一対のサイド表皮部材80は、サイドサポート部56を覆う一対の表皮部材である。上部表皮部材82は、メイン上部60を覆う表皮部材である。メイン表皮部材84は、メイン部58を覆う表皮部材である。下部表皮部材86は、メイン下部62を覆う表皮部材である。なお、クッション表皮18およびバック表皮20に用いられる表皮部材は、特に限定されるものではなく、目的に応じた素材を用いればよい。
【0097】
なお、クッション表皮18およびバック表皮20について、それぞれの表皮部材は、互いに端側で表面同士が合わされて縫製等を施されることで連結されている。
【0098】
以上、
図2および
図3を参照して、本開示の座席を説明したが、本開示の座席は、車両の最前列に用いられるシートだけではなく、車両の二列目又は三列目に用いられるシートに適用されてもよい。
【0099】
以上、本開示の座席用クッション材および座席について詳細に説明したが、本開示の座席用クッション材および座席は、これらに限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0100】
以下に実施例について説明するが、本開示の座席用クッション材はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0101】
<実施例1〜5、比較例1〜5>
表1に示す材料を、(NCO基/活性水素基)のモル比(NCO INDEX)が表1に示す値となるように、表1に示す割合で配合して混合原料を調製した。その後、混合原料を、金型に注入し、表1に示す金型温度で成形を行い、発泡ウレタンの反応硬化物を得た。なお、各原料の調製工程において、窒素パージ雰囲気下で行った。
【0102】
表1に示す材料は以下に示すとおりである。
・PPG(A):活性水素基(OH基)の3官能基数を有する重量平均分子量が6000のポリエーテルポリオール。
・触媒(a): トリエチレンジアミン。
・触媒(b): ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル。
・MDI(E):モノメリックMDI単独とPPG(A)一部との変性MDI系イソシアネート。
・MDI(B): モノメリックMDIとポリメリックMDIとが予めPPG(A)の一部と反応させた変性MDI系イソシアネート。モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合比は80/20(モノメリックMDI/ポリメリックMDI:質量比)。
・MDI(F): モノメリックMDIとポリメリックMDIとが予めPPG(A)の一部と反応させた変性MDI系イソシアネート。モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合比は40/60(モノメリックMDI/ポリメリックMDI:質量比)。
・MDI(G): モノメリックMDIとポリメリックMDIとが予めPPG(A)の一部と反応させた変性MDI系イソシアネート。モノメリックMDIとポリメリックMDIとの混合比は35/65(モノメリックMDI/ポリメリックMDI:質量比)。
・MDI(C): モノメリックMDIとポリメリックMDIが予め混合比60/40(モノメリックMDI/ポリメリックMDI:質量比)でブレンド調製されたMDI系ポリイソシアネート。
・TDI(D): トリレンジイソシアネート(TDI)
【0103】
(評価)
−パルスNMR測定−
各例で得られた発泡ウレタンについて、一昼夜室温で真空乾燥させ、真空封管したものを試験片とした。これら試験片を既述の方法にしたがって、25±1℃、真空中で測定し、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)およびハードセグメントの容積存在比率を求めた。なお、表1中のT2は、スピン−スピン緩和時間(T2)を表す。
【0104】
−密度−
各例で得られた発泡ウレタンの密度を、JIS K 7222(2005)に準じて測定した。
【0105】
−アスカーF硬度−
各例で得られた発泡ウレタンのアスカーF硬度を、ASKER硬度計 F型を用いて、既述の方法により、表面硬度を測定した。
【0106】
−反発弾性−
各例で得られた発泡ウレタンから50mm×100mm×100mmの試験片を切り出した。そして、JIS K6400−3(2011)に準拠して、既述の方法により測定した。
【0107】
−ヒステリシスロス−
各例で得られた発泡ウレタンのヒステリシスロスは、既述の方法により測定し、JIS K6400−2(2012)に準拠して算出した。なお、測定には、
図4(A)および
図4(B)に示すような鉄研板(寸法;W1:300mm、W2:250mm、R1:125mm、R2:30mm、H:50mm)を用いた。
【0108】
−対数減衰率−
各例で得られた発泡ウレタンの対数減衰率は、JIS K6900(1994)に準拠し、既述の方法により測定した。
【0109】
−永久圧縮歪−
各例で得られた発泡ウレタンの永久圧縮歪について、湿熱圧縮永久歪は、温度50℃±2℃、相対湿度95%の条件下で、50%圧縮を22時間行った後の圧縮永久歪を測定し、既述の方法にしたがって、永久圧縮歪を算出した。
【0110】
【表1】
【0111】
比較例1〜5で得られた発泡ウレタンは、真空下におけるH
1パルスNMR測定によるハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が、第1の領域では、30μsec未満であり、第2の領域では、20μsec未満である。また、ハードセグメントの容積存在比率が、第1の領域では、全て27%以上であり、第2の領域では、全て25%を超えており、比較的多くなっている。
そのため、比較例1〜5で得られた発泡ウレタンは、尿素結合の凝集体構造が大きく発達した緻密な構造と予測される。その結果として、比較例1〜5で得られた発泡ウレタンは、第1の領域および第2の領域ともに、アスカーF硬度が高いと考えられる。また、反発弾性が高く、ヒステリシスロスおよび圧縮永久歪が高いと考えられる。さらに、対数減衰率が低くなっていると考えられる。
したがって、比較例1〜5で得られた発泡ウレタンは、乗り物用の座席用クッション材(特に車両用の座席用クッション材)として用いた場合、柔軟な感触、体圧分散性(フィット感)、及び振動吸収性が劣る。また、底突き感および異物感が生じやすい。
このため、各比較例で得られた発泡ウレタンを用いた座席用クッション材は、乗り心地に劣る。
【0112】
これに対し、実施例1〜5で得られた発泡ウレタンは、25±1℃、真空下におけるH
1パルスNMR測定によるハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が、第1の領域で、30μsec以上40μsec以下であり、第2の領域で、20μsec以上30μsec未満の範囲である。また、第1の領域、および第2の領域でのハードセグメントの容積存在比率は、いずれも40%以下である。
そのため、実施例1〜5で得られた発泡ウレタンは、尿素結合の凝集体構造が少量に抑制された構造になっていると予測される。その結果として、実施例1〜5で得られた発泡ウレタンは、特に、乗員側に配置される第1の領域のアスカーF硬度が低く、第1の領域と第2の領域とのアスカーF硬度の差の絶対値が大きいと考えられる。また、各比較例よりも、反発弾性が低く、ヒステリシスロスおよび圧縮永久歪が低くなっていると考えられる。さらに、対数減衰率が各比較例よりも高いと考えられる。
したがって、各実施例で得られた発泡ウレタンは、乗り物用の座席用クッション材(特に車両用の座席用クッション材)として用いた場合、柔軟な感触、体圧分散性(フィット感)、及び振動吸収性が優れる。また、底突き感および異物感が抑えられている。
以上のとおり、各実施例で得られた発泡ウレタンを用いた座席用クッション材は、従来の座席用クッション材よりも、乗り心地性に優れる。
【解決手段】ジフェニルメタンジイソシアネート系化合物のイソシアネート成分を用いて形成された反応硬化物であり、ハードセグメントおよびソフトセグメントを含む発泡ウレタンを有し、前記発泡ウレタンが、H
固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が30μsec以上40μsec以下、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が10%以上40%以下である第1の領域であって、着座面側に配置されている第1の領域と、H
固体パルスNMR測定において、ハードセグメントのスピン−スピン緩和時間(T2)が20μsec以上30μsec未満、かつ、ハードセグメントの容積存在比率が5%以上40%以下である第2の領域であって、前記第1の領域と隣り合って存在し、着座面から離れた側に配置されている第2の領域と、を有する座席用クッション材。