特許第6498300号(P6498300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6498300-電気化学素子用電極 図000004
  • 特許6498300-電気化学素子用電極 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498300
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】電気化学素子用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20190401BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20190401BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190401BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20190401BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20190401BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20190401BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M10/052
   H01G11/38
   H01M4/02 Z
   H01M4/13
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-535290(P2017-535290)
(86)(22)【出願日】2016年7月7日
(86)【国際出願番号】JP2016070079
(87)【国際公開番号】WO2017029902
(87)【国際公開日】20170223
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-160108(P2015-160108)
(32)【優先日】2015年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】三井 寛明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 僚治
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−073921(JP,A)
【文献】 特開2013−182765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 − 4/62
H01G 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質及びバインダを含有する電極活物質層を備える電気化学素子用電極であって、
前記バインダの少なくとも一部が粒子形状を有し、該粒子の真円度が0.50〜0.85であ
前記バインダの含有量が、前記電極活物質100質量部に対して、乾燥質量基準で0.1〜10質量部であり、
断面観察によって計測された、前記バインダ粒子の平均粒子長径が50〜1000nmであり、
前記バインダのゲル含有率が90〜100%であり、
前記電極活物質層の密度が0.30〜2.0g/cm3である、電気化学素子用電極。
【請求項2】
前記バインダが、二重結合を含む単独重合体、又は二重結合を含む共重合体である、請求項1に記載の電気化学素子用電極。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電気化学素子用電極、セパレータ、及び電解液を含む、リチウムイオン電池。
【請求項5】
請求項記載のリチウムイオン電池を備える、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、繰り返し充放電が可能なリチウムイオン二次電池などの電気化学素子は、環境対応からも今後の需要の拡大が見込まれている。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が大きく携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの分野で利用されている。また、電気化学素子は、用途の拡大や発展に伴い、低抵抗化、大容量化等、より一層の性能向上が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、コアシェル構造を有し、特定のゲル含有率であるバインダを用いて電極を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−182765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、電気化学素子の充電時間を可能な限り短くすることへの要求が高まっており、充電時の抵抗を小さくすることによる急速充電がますます求められている。
しかしながら、上述した特許文献1の技術で得られる電気化学素子用電極は、繰り返し充放電を行った際にも充放電効率が低下することを防止することができ、さらに電極密度が高い為高容量であるが、このような電気化学素子用電極を用いた場合においても、急速充電をした際の内部抵抗の上昇やサイクル特性に、更なる課題を有していた。
【0006】
本発明は、電池に組み入れた場合に、内部抵抗が低く、またサイクル特性、ピール強度とのバランスに優れた電気化学素子用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、電気化学素子用電極中のバインダを特定の形状とすることにより、急速充電した際のリチウムの拡散性に優れ、これにより、電池に組み入れた場合において内部抵抗が低く、またサイクル特性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]電極活物質及びバインダを含有する電極活物質層を備える電気化学素子用電極であって、
前記バインダの少なくとも一部が粒子形状を有し、該粒子の真円度が0.50〜0.85である、電気化学素子用電極。
[2]断面観察によって計測された、前記バインダ粒子の平均粒子長径が100〜400nmである、[1]に記載の電気化学素子用電極。
[3]前記バインダが、二重結合を含む(共)重合体である、[1]または[2]に記載の電気化学素子用電極。
[4]前記バインダのゲル含有率が90〜100%である、[1]〜[3]のいずれかに記載の電気化学素子用電極。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
[6][1]〜[4]のいずれかに記載の電気化学素子用電極、セパレータ、及び電解液を含む、リチウムイオン電池。
[7][6]記載のリチウムイオン電池を備える、自動車。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、電池に組み入れた場合における内部抵抗が低く、またサイクル特性、ピール強度とのバランスに優れた電気化学素子用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電極活物質層の断面写真の一例である。
図2図1の断面写真においてバインダ粒子の輪郭をトレースした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
本実施形態は、電極活物質及びバインダを含有する電極活物質層を備える電気化学素子用電極であって、前記バインダの少なくとも一部が粒子形状を有し、該粒子の真円度が0.50〜0.85である、電気化学素子用電極である。
本実施形態の電気化学素子用電極は、電気化学素子に用いられる電極であればよく、電気化学素子に特に限定されないが、たとえば、リチウムイオン二次電池や、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ(リチウムイオンキャパシタなど)などの各種電気化学素子用の電極が挙げられる。
本実施形態において、電気化学素子用電極を構成する電極活物質層は、少なくとも電極活物質と、バインダとを含有してなる。以下、電極活物質層を構成する電極活物質及びバインダについて説明する。
【0012】
(電極活物質)
本実施形態において、電極活物質は、電気化学素子の種類によって適宜選択される。たとえば、電気化学素子用電極を、リチウムイオン二次電池用の負極として用いる場合には、負極活物質としては、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、活性炭、熱分解炭素などの低結晶性炭素(非晶質炭素)、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、あるいはこれら物理的性質の異なる炭素の複合化炭素材料、錫やケイ素等の合金系材料、ケイ素酸化物、錫酸化物、バナジウム酸化物、チタン酸リチウム等の酸化物、ポリアセン等が挙げられる。
なお、上記に例示した電極活物質は適宜用途に応じて単独で使用してもよく、複数種混合して使用してもよい。
【0013】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましく、粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質の体積平均粒子径は、通常0.1〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは0.8〜20μmである。さらに、リチウムイオン二次電池用の負極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、負極で0.6g/cm以上のものが好適に用いられる。
【0014】
(バインダ)
本発明で用いるバインダとしては、上述した電極活物質を相互に結着させることができる化合物であれば特に制限はないが、二重結合を有する(共)重合体であることが好ましい。二重結合を有する(共)重合体としては、共役ジエンを含む単量体を重合した(共)重合体であることが好ましく、さらに単量体としてエチレン性不飽和カルボン酸を含むことがより好ましい。
バインダが共役ジエンを含む単量体を重合した(共)重合体である場合、共役ジエン、及び、必要に応じて含まれるエチレン性不飽和カルボン酸のほかに、これらと共重合可能なその他の単量体、例えばビニル化合物、を含んでいてもよい。
また、電極製造時におけるバインダの供給形態は、特に限定されないが、例えば、バインダ粒子が水に分散した、共重合体ラテックスの形態のものを原料として用いることが好ましい。
【0015】
バインダが共役ジエンを単量体として含む(共)重合体である場合、共役ジエンとしては例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−クロロ−1,3−ブタジエン、クロロプレン等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、接着性の観点から1,3−ブタジエンが好ましい。
【0016】
上記共重合体がエチレン性不飽和カルボン酸を単量体として含む場合、エチレン性不飽和カルボン酸としては例えば、フマール酸、イタコン酸、アクリル酸、メタアクリル酸等を挙げることができ、1種単独または2種以上を組み合わせてもちいることができる。これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からイタコン酸とアクリル酸が望ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸の使用量は、全単量体の合計を100質量部としたときに、好ましくは0.01以上20質量部以下であり、より好ましくは0.01以上15質量部以下、更に好ましくは0.01以上10質量部以下である。
【0017】
共重合可能なその他のビニル化合物として、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、シアン化ビニル系化合物などが挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からスチレンが好ましい。
芳香族ビニル化合物の使用量は30〜70質量部が好ましく、より好ましくは35〜65質量部であり、更に好ましくは35〜60質量部である。
【0018】
(メタ)アクリレート化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート等を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、重合した共重合体ラテックスの安定性の観点からメチルメタアクリレートが望ましい。
(メタ)アクリレート化合物の使用量は0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜25質量部であり、更に好ましくは0.1〜20質量部である。
【0019】
シアン化ビニル系化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル等を挙げることができ、これらの単量体を1種単独または2種以上を組み合わせてもちうることができ、これらの中では、アクリロニトリルが重合した共重合体ラテックスの安定性の観点から望ましい。
シアン化ビニル系化合物の使用量は0.1〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは0.1〜15質量部である。
【0020】
共重合可能なビニル化合物としては、上記以外に2−ヒドロキシエチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有の単量体;アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、などのアミノアルキルエステル類;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのピリジン類;アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルなどのグリシジルエステル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのアミド類;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;ジビニルベンゼン、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能ビニル系単量体が挙げられる。
これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。通常配合量は0.1〜30質量部である。
得られる共重合体ラテックスの安定性の観点からは、共重合可能なその他の単量体としてヒドロキシル基含有単量体を配合することが好ましく、この中でも2−ヒドロキシエチルアクリレートを配合することがより好ましい。
【0021】
分子量調整剤としてはクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;n−ヘキシメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン類;ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマー、など通常の乳化重合で使用可能なものを全て使用できる。
分子量調整剤の使用量は全単量体100質量部に対して外数で0以上5質量部以下であることが好ましく、α−メチルスチレンダイマー、t−ドデシルメルカプタンが好ましく使用される。
【0022】
バインダの原料として(共)重合体ラテックスを用いた場合における該(共)重合ラテックス中のバインダ原料粒子の平均粒子径は、好ましくは100〜400nm、より好ましくは200〜350nmである。本粒径は、動的光散乱法により測定される体積平均粒径である。
バインダ原料粒子の平均粒子径を上記範囲とすることにより、電極活物質層を製造するためのスラリー状の電極用組成物を調製した際における安定性を良好なものとしながら、得られる電気化学素子用電極中のバインダ粒子径を好適な範囲に調整することができ、電気化学素子用電極の強度及び柔軟性がより良好となる。
【0023】
本実施形態において、バインダのゲル含有率は、好ましくは90〜100%、より好ましくは95〜100%である。
なお、バインダのゲル含有率とは、バインダの原料として(共)重合体ラテックスを用いた場合における該(共)重合ラテックス中のバインダ粒子の分子量や架橋度を表す値であり、実施例に記載の方法で測定できる。
ゲル含有率が高い程、電極活物質層中でバインダ粒子の融着を防止できる、すなわちバインダが粒子形状を維持しやすくなり、さらにバインダ粒子の真円度を高くすることができる。また、バインダ粒子を構成する共重合体の耐溶剤性が維持され、電池内部で電解液による膨潤することがないため、集電体−電極活物質間および電極活物質−電極活物質間の接着力の低下が抑えられる。
【0024】
(共)重合体ラテックスは、上記単量体を乳化重合することで得ることができる。重合時には適当なシード粒子を用いることができ、シード粒子も通常の乳化重合により得ることができる。また、乳化重合に際しては公知の方法を採用することができ、水性媒体中で乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、PH調整剤等を適宜用いて製造することができる。
【0025】
ここで乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などが単独で、あるいは2種以上を併用して使用できる。
【0026】
アニオン界面活性剤としては例えば高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸塩エステルなどが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としてはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。
【0028】
両性界面活性剤としてはラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン類、ラウリル−β−アラニン、ステアリル−β−アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプのものなどが用いられる。
【0029】
反応性界面活性剤としては例えばポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレンなどが挙げられる。
【0030】
乳化剤の使用量は全単量体100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜8質量部さらに好ましくは0.1〜6質量部である。
【0031】
重合開始剤としては過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤、還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤などが、単独であるいは組み合わせて使用できる。
重合開始剤の使用量は全単量体100質量部に対して0.1〜3質量部が好ましい。
【0032】
電気化学素子用電極の電極活物質層中における、バインダの含有量は、電極活物質100質量部に対して、乾燥質量基準で0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.3〜8質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部である。バインダの含有量がこの範囲にあると、電極活物質層と集電体との密着性が充分に確保でき、かつ、内部抵抗を低くすることができる。
なお、バインダの含有量が、電極活物質100質量部に対して10質量部を超えると、バインダ粒子同士が融着したり、粒子形状を有したバインダ粒子の真円度が著しく下がりやすくなる傾向がある。
【0033】
(電極用組成物)
本実施態様において、電極活物質層を構成する電極用組成物は、上述のバインダ及び上述の電極活物質に加え、必要に応じて他の成分を含有していてもよい。
かかるその他の成分としては導電材、分散剤、共重合体ラテックスの安定剤としてのノニオン性またはアニオン性界面活性剤、消泡剤などの添加物などが挙げられる。
【0034】
導電材としては、導電性を有する粒子状の材料であればよく、特に限定されないが、たとえば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、及びケッチェンブラック等の導電性カーボンブラック;天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相法炭素繊維等の炭素繊維;が挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが好ましい。導電材の平均粒子径は、特に限定されないが、電極活物質の平均粒子径よりも小さいものが好ましく、通常、0.001〜10μm、より好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.01〜1μmの範囲である。導電材の平均粒子径が上記範囲にあると、より少ない使用量で十分な導電性を発現させることができる。導電材を添加する場合における、導電材の使用量は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.5〜15質量部、さらに好ましくは1〜10質量部である。導電材の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる電気化学素子の容量を高く保ちながら、内部抵抗を十分に低減することが可能となる。
【0035】
分散剤は、電極活物質、及びバインダ、ならびに必要に応じて添加される任意成分を、溶媒に分散又は溶解させてスラリー化する際に、各成分を溶媒中に均一に分散させる作用を有する成分である。分散剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ならびにこれらのアンモニウム塩又はアルカリ金属塩、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸エステル、ならびにアルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸塩、ポリアクリル酸、及びポリアクリル酸(又はメタクリル酸)ナトリウムなどのポリアクリル酸(又はメタクリル酸)塩、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。また、カルボキシル基、スルホン酸基、フッ素含有基、水酸基及びリン酸基などの基を、1種以上、好ましくは2種以上含む水溶性のポリマー(特定基含有水溶性ポリマー)も分散剤として用いることができる。
これらの分散剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。中でも、セルロース系ポリマーが好ましく、カルボキシメチルセルロース又はそのアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩が特に好ましい。
分散剤を添加する場合における、分散剤の含有割合は、本発明の効果を損ねない範囲であれば格別な限定はないが、電極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、より好ましくは0.8〜2質量部の範囲である。
【0036】
バインダの原料として共重合体ラテックスを用いた場合、共重合体ラテックスの分散媒としては水を用いることができ、前述のようにバインダ粒子を乳化重合して得る場合には、重合時に使用した水分散媒をそのまま用いたり、あるいはこれを濃縮したりして使用することができる。また、分散媒は必要に応じて活物質に最適な有機系溶媒に置換して用いることができる。かかる有機系分散媒については特に限定されず、置換の方法も特に限定されないが、例えば乳化重合して得られる共重合体ラテックスに有機分散媒を添加し、減圧蒸留で水を揮発させる方法、前記共重合体ラテックスより水を揮発させ、得られる固形分を有機分散媒に再分散させる方法等が挙げられる。
【0037】
(電極の製造方法)
次いで、本実施形態の電気化学素子用電極の製造方法について説明する。
リチウムイオン電池用電極の場合には、まず、スラリー状の電極用組成物を形成し、該電極用組成物を銅箔等の集電体上に塗布し、乾燥し、加圧成形して電極活物質層を形成することによって得られる。
電極活物質層は、集電体上に設けられるが、その形成方法は制限されない。
また、スラリー状の電極用組成物は、電極活物質、導電材及びバインダの必須成分、並びにその他の分散剤および添加剤を、水またはN−メチル−2−ピロリドンやテトラヒドロフランなどの有機溶媒中で混練することにより製造することができる。
【0038】
電極用組成物を得るために用いる溶媒は、特に限定されないが、上記の分散剤を用いる場合には、分散剤を溶解可能な溶媒が好適に用いられる。具体的には、通常水が用いられるが、有機溶媒を用いることもできるし、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルキルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のアルキルケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等のイオウ系溶剤;等が挙げられる。この中でも有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。スラリーは、スラリーの乾燥の容易さと環境への負荷に優れる点から水を分散媒とした水系スラリーが好ましい。水と、水よりも沸点の低い有機溶媒とを併用すると、噴霧乾燥時に、乾燥速度を速くすることができる。また、水と併用する有機溶媒の量または種類によって、バインダの分散性または分散剤の溶解性が変わる。これにより、スラリーの粘度や流動性を調整することができ、生産効率を向上させることができる。
【0039】
電極用組成物を調製するときに使用する溶媒の量は、その固形分濃度が、通常1〜90質量%、好ましくは5〜85質量%、より好ましくは10〜80質量%の範囲となる量である。固形分濃度がこの範囲にあるときに、各成分が均一に分散するため好適である。
【0040】
電極活物質、導電材、バインダ、その他の分散剤や添加剤を溶媒に分散または溶解する方法または手順は特に限定されず、例えば、溶媒に電極活物質、導電材、バインダおよびその他の分散剤や添加剤を添加し混合する方法;溶媒に分散剤を溶解した後、溶媒に分散させたバインダを添加して混合し、最後に電極活物質および導電材を添加して混合する方法;溶媒に分散させたバインダに電極活物質および導電材を添加して混合し、この混合物に溶媒に溶解させた分散剤を添加して混合する方法等が挙げられる。混合の手段としては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機器が挙げられる。混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行う。
【0041】
電極用組成物の粘度は、室温において、通常10〜100,000mPa・s、好ましくは30〜50,000mPa・s、より好ましくは50〜20,000mPa・sの範囲である。電極用組成物の粘度がこの範囲にあると、生産性を上げることができる。
【0042】
電極用組成物の集電体上への塗布方法は特に制限されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。電極用組成物の塗布厚は、目的とする電極活物質層の厚みに応じて適宜に設定される。
【0043】
乾燥方法としては例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。中でも、遠赤外線の照射による乾燥法が好ましい。乾燥温度と乾燥時間は、集電体に塗布した電極用組成物中の溶媒を完全に除去できる温度と時間が好ましく、乾燥温度としては50〜300℃、好ましくは50〜250℃、である。乾燥時間としては、通常3時間〜100時間程度であり、好ましくは5時間〜50時間、より好ましくは10時間〜30時間である。
【0044】
加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧などの成形法を挙げることができる。加圧成形するときの圧力は1〜10t/cmが好ましく、加圧成形時の温度や時間を適宜設定することで電極活物質層の密度を更に調整することができる。
電極活物質層の密度(電極密度)は、バインダが粒子形状を有し、粒子の真円度を本発明に規定する範囲に調整する観点から、0.30〜2.0g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.35〜1.9g/cm、さらに好ましくは0.40〜1.8g/cmである。電極密度が2.0g/cm以下であることで、バインダ同士が融着すること、及び真円度が著しく低下し、本発明に規定した範囲外となることを防止できる。また、電極の電極密度が高くなるほど体積あたりの電池容量が通常大きくなるが、電極密度を高くしすぎるとサイクル特性が低下する傾向にある。
また、電極活物質層の厚みは、特に制限されないが、通常は5〜1000μm、好ましくは20〜500μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0045】
(電気化学素子用電極の構造)
次いで、本実施形態の電気化学素子用電極の構造について、説明する。本実施形態において、電気化学素子用電極は、少なくとも電極活物質物層を有し、該電極活物質物層は例えば銅箔等の集電体上に形成されていてもよい。
【0046】
本実施形態において、電極活物質物層は、電極活物質及びバインダを含んでなり、バインダの少なくとも一部は、電極活物質物層中でもその粒子形状を有する形で存在している。そして、当該粒子の真円度が0.50〜0.85である。
【0047】
バインダが、電極活物質層中で、粒子形状を有していることにより、互いに近接するバインダ同士に空隙部が確保されている。そのため、このような電気化学素子用電極を用いて電気化学素子を得た場合には、リチウムイオンがこの空隙部を通ることで電極活物質層内に容易に拡散することができ、内部抵抗を低減することができる。
電極活物質層の断面写真においてバインダ粒子の輪郭をトレースした時のバインダの面積比で70%以上が粒子形状を有していることが好ましく、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
具体的には、後述する真円度の測定と同様にして、SEMにより電極活物質層の断面写真を撮影し、バインダと判断される部位を、粒子形状を有していると認められる部分と粒子形状を有していないと判断される部分とに分け、両者の面積に基づいて算出する。
【0048】
さらに、電極活物質層中の粒子形状を有したバインダ粒子の真円度をコントロールすることで、活物質または集電体とバインダの接着面積及び前記空隙部を確保することにより、内部抵抗を低減することができるとともに、ピール強度やサイクル特性の向上を可能とすることができる。
電極活物質層中で粒子形状を有したバインダ粒子の真円度は好ましくは0.55〜0.80であり、より好ましくは0.70〜0.80である。
電極活物質層中で粒子形状を有したバインダ粒子の真円度は、前記空隙部の確保という点では高い方が好ましいが、一方で、サイクル特性やピール強度の観点からは高すぎない方が好ましい。真円度が高すぎると、活物質の膨張収縮に対応できずバインダが剥がれるなどしてサイクル特性が低下したり、集電体−電極活物質間や電極活物質−電極活物質間を接着する際、点接触となって接着面積が小さくなりすぎたりしてピール強度が下がると考えられるが、機序はこれによらない。
【0049】
電極活物質層中のバインダ粒子の真円度は、例えば、バインダの原料である(共)重合体ラテックス中のバインダ粒子の平均粒子径、ゲル含有率、電極活物質層中のバインダの含有量、及び、電極活物質層の密度によって調整することができる。
具体的には、平均粒子径が小さい程加圧成形時の圧力により潰され難く真円度を高くすることができ、平均粒子径が大きい程加圧成形時の圧力により潰され易く真円度を低くすることができる。そして、ゲル含有率が高い程、電極活物質層中のバインダ粒子形状の真円度を高くすることができる。また、バインダの含有量が多い程、真円度を低くすることができ、特に10質量部を超えるとバインダ同士が融着する、又は真円度が著しく低下する。さらに電極活物質層の密度を高くする程、真円度を低くすることができ、特に2.0g/cmを超えるとバインダ同士が融着する、又は真円度が著しく低下し、本発明に規定した範囲とすることが困難となる。
【0050】
なお、電極活物質層中のバインダ粒子の真円度は、以下の方法によって計算したものを示す。
SEMによって撮影した電極活物質層の断面写真(図1)のバインダと判断される部位において、暗コントラストを呈し、線状かつ連続的につながりを示す部位を粒子の境界(輪郭)と判断し、フリーハンドにてバインダ粒子の輪郭をトレースする(図2)。このトレース図から、無作為に粒子形状を有しているバインダ粒子100個を選択する。この際、輪郭が不明瞭な粒子は選択しない(真円度の計算には用いない)。また、観察像において明瞭な暗コントラストを有さない場合については、粒子形状を有していないと判断する。
選択した各粒子の輪郭像を画像解析ソフト(A像くん、imageJ等)にて処理を行い、輪郭で囲まれた領域の面積と周長から下記の式で真円度を計算し、その算術平均を真円度とする。一つの視野でバインダ粒子100個の輪郭が抽出できない場合は、複数視野にて100個の輪郭を抽出し、真円度を計算する。
真円度=4π×面積/(周長
【0051】
電極活物質層中のバインダ粒子の粒径は、断面観察によって計測された平均粒子長径として50〜1000nmであることが好ましい。当該平均粒子長径がこの範囲にあることで、電気化学素子用電極の強度及び柔軟性がより良好となる。
当該平均粒子長径は、より好ましくは100〜900nmであり、さらに好ましくは200〜800nmである。
当該平均粒子長径は、上記のSEMによって撮影した電極活物質層の断面写真のトレース図(図2)から、バインダ粒子の真円度の計算と同様に、無作為に粒子形状を有しているバインダ粒子100個を選択し、選択した各粒子の輪郭像を画像解析ソフト(A像くん、imageJ等)にて処理を行い、輪郭で囲まれた領域の長径の算術平均を平均粒子長径とする。
【0052】
(電気化学素子)
本実施形態の電気化学素子用電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、ナトリウム電池、マグネシウム電池などの電気化学素子において電極として使用することができ、特にリチウムイオン二次電池において好適に使用でき、とりわけリチウムイオン二次電池の負極に好適に使用できる。
たとえばリチウムイオン二次電池は、本電気化学素子用電極、セパレータおよび電解液で構成される。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、電気化学素子用電極の間を絶縁でき、陽イオンおよび陰イオンを通過させることができるものであれば特に限定されない。具体的には、(a)気孔部を有する多孔性セパレータ、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレータまたは(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレータが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレータ、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレータ、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレータなどを用いることができる。セパレータは、電極活物質層が対向するように配置された一対の電気化学素子用電極の間に配置され、素子が得られる。セパレータの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常は1〜100μm、好ましくは10〜80μm、より好ましくは20〜60μmである。
【0054】
(電解液)
電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF、LiClO、CFSOLiは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0055】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。また、添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0056】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、Li3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0057】
二次電池は、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口して得られる。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
本実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、例えば、携帯電話、携帯用コンピュータ、スマートフォン、タブレットPC、スマートパッド、ネットブック、LEV(Light Electronic Vehicle)、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)、自動車、及び電力貯蔵装置等に好適に利用できる。自動車としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車等が例として挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
【0059】
<バインダ粒子の粒子径>
バインダ粒子(ラテックス)の粒子径については、マイクロトラック超微粒子粒度分析計(W)UPA−150(日機装社製)を用いて、動的光散乱法によって体積平均粒径を測定することにより求めた。
【0060】
<バインダのゲル含有率>
共重合体ラテックスをガラス板上に0.5mm厚で塗布し、130℃、30分加熱で乾燥し得られた塗膜(浸漬前の共重合体の乾燥塗膜)から、0.5gを秤量した後トルエン40mlに浸漬して3時間振とうした。震とう後の共重合体塗膜を325メッシュのステンレス金網でろ過し130℃、1時間乾燥させて浸漬後の共重合体の乾燥塗膜を得、これを秤量した。浸漬前・後の塗膜(乾燥塗膜)の質量から下記の式でゲル含有率を計算した。
【数1】
【0061】
<電極活物質層の密度(電極密度)>
実施例及び比較例で得られた負極の電極活物質層(負極活物質層)について、その面積C(cm)、厚さD(μm)と、集電体の質量A(g)、作製された電気化学素子用電極の質量B(g)から、密度を下記の式で算出した。

電極活物質層の密度(電極密度)(g/cm
=(B(g)−A(g))/(C(cm)×D(μm)×10−4
【0062】
<バインダ粒子の真円度>
実施例及び比較例で得られた負極の電極活物質層(負極活物質層)の断面について、走査型電子顕微鏡(製品名「S4700」、日立ハイテク社製)を用いて、撮影倍率5万倍、加速電圧5.0kV、検出器:反射電子の設定で断面写真を撮影し、以下の方法にて、負極活物質層中のバインダ粒子の真円度を測定した。
なお、負極活物質層の断面の作製は、まずArグローブボックス内で積層型ラミネートセル形状のリチウム二次電池を解体し回収した負極をジメチルカーボネートで洗浄後、大気中で乾燥させた。次に乾燥後の負極を2mm四方に切り出し、OsO4染色処理を行った後、クロスセクションポリッシャ(製品名「SM−09010」、日本電子社製)を用いて、電極面に垂直に断面を作製した。
上記方法よって撮影した断面写真を用い、無作為にバインダ粒子100個を選択し、バインダと判断される部位から、観察像において暗コントラストを呈し、線状かつ連続的につながりを示す部位を粒子の境界(輪郭)と判断し、フリーハンドにてバインダ粒子の輪郭をトレースした。輪郭が不明瞭な粒子に関しては、真円度の計算に用いなかった。また、観察像において明瞭な暗コントラストを有さない場合、粒子形状を有していないと判断し、「測定不可」とした。得られた輪郭像を画像解析ソフト(imageJ)にて処理を行い、輪郭で囲まれた領域の面積と周長から下記の式で真円度を計算し、その算術平均を真円度とした。一つの視野でバインダ粒子100個の輪郭が抽出できない場合は、複数視野にて100個の輪郭を抽出し、真円度を計算した。
真円度=4π×面積/(周長
【0063】
<バインダ粒子の平均粒子長径>
上記<バインダ粒子の真円度>で得られた100個の輪郭像を画像解析ソフト(imageJ)にて処理を行い、輪郭で囲まれた領域の長径の算術平均を平均粒子長径とした。
【0064】
<ピール強度>
実施例及び比較例で得られた負極を、それぞれ、幅1cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、負極活物質層面を上にして固定し、負極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。そして、この測定を10回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、下記基準にて判定を行った。なお、ピール強度が大きいほど、負極活物質層内における密着強度、及び負極活物質層と集電体との間の密着強度が高いと判断できる。
A:ピール強度が8N/m以上
B:ピール強度が6N/m以上、8N/m未満
C:ピール強度が4N/m以上、6N/m未満
D:ピール強度が2N/m以上、4N/m未満
E:ピール強度が2N/m未満
【0065】
<内部抵抗>
実施例及び比較例で得られた積層型ラミネートセル形状のリチウム二次電池について、25℃にて、充電レート2Cとした定電流法により、4.2Vになるまで定電流で充電を行ない、次いで、定格電圧にて定電圧で充電を行なった。その後、放電レートを2Cとし3.0Vまで放電した。放電開始10秒後の電圧降下量をΔVとした。そして、放電レートを2C〜10Cまで変化させて、同様にして、電圧降下量ΔVの測定を行い、放電電流値I(A)と電圧降下量ΔV(V)をプロットし、その直線の傾きを内部抵抗とし、下記の基準で判定した。
A:内部抵抗が3.0Ω未満
B:内部抵抗が3.0Ω以上、3.5Ω未満
C:内部抵抗が3.5Ω以上、4.0Ω未満
D:内部抵抗が4.0Ω以上、4.5Ω未満
E:内部抵抗が4.5Ω以上
【0066】
<充放電サイクル特性>
実施例及び比較例で得られた積層型ラミネートセル形状のリチウム二次電池について、60℃で2Cの定電流定電圧充電法にて、4.2Vになるまで定電流で充電し、その後、定電圧で充電し、次いで、2Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験は100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記の基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
A:容量維持率が90%以上
B:容量維持率が80%以上、90%未満
C:容量維持率が70%以上、80%未満
D:容量維持率が60%以上、70%未満
E:容量維持率が60%未満
【0067】
(実施例1)
<負極用バインダの製造>
反応器に初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへ配合単量体(1,3−ブタジエン40質量部、スチレン49質量部、メチルメタアクリレート3.0質量部、アクリロニトリル3.0質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、アクリル酸1.0質量部、α−メチルスチレンダイマー0.1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部)を6.5時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水24質量部、過硫酸ソーダ1.2質量部、苛性ソーダ0.3質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.15質量部)を追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。
得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は98%であった。
【0068】
<正極の作製>
正極の電極活物質として、体積平均粒子径が8μmのコバルト酸リチウムを100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウムの1.5%水溶液(DN−800Hlダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状:電気化学工業社製)を5部、電極用組成物用バインダとしてガラス転移温度が−28℃で、数平均粒子径が0.28μmのアクリレート系重合体の40%水分散体を固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるようにプラネタリーミキサーにより混合し、正極の電極用組成物を調製した。
【0069】
厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に前記正極用組成物を20m/分の電極成形速度で集電体の表裏両面に塗布し、120℃で5分間乾燥した後、5cm正方に打ち抜いて、片面厚さ100μmの電極活物質層を有する正極を得た。
【0070】
<負極の作製>
負極の電極活物質として、体積平均粒子径が3.7μmであるグラファイト(KS−6:ティムカル社製)を100部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースアンモニウムの1.5%水溶液(DN−800H:ダイセル化学工業社製)を固形分相当で2.0部、導電材としてアセチレンブラック(デンカブラック粉状:電気化学工業社製)を5部、電極用組成物用バインダとして上述の共重合体ラテックスを固形分相当で3.0部、およびイオン交換水を全固形分濃度が35%となるように混合し、スラリー状の負極用組成物を調製した。
【0071】
上記負極用組成物を、コンマコーターを用いて、厚さ18μmの銅箔からなる集電体の片面に乾燥後の膜厚が100μm程度になるように塗布し、60℃で20時間乾燥加熱処理して負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレスを用いて、プレス圧が電極に対して2t/cmとなるように圧延して厚さ50μmの負極を得た。
【0072】
<電池の製造>
前記正極、負極及び、セパレータとしてポリエチレン製微多孔膜(膜厚25μm)(旭化成イーマテリアルズ株式会社製ハイポア)を用いて、積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン電池を作製した。電解液としてはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネートを質量比で1:2とした混合溶媒に、LiPFを1.0mol/リットルの濃度で溶解させたものを用いた。
【0073】
(実施例2)
負極活物質層を形成する際において、乾燥温度を100℃、乾燥時間を14時間とした以外は、実施例1と同様にして、負極を得て、得られた負極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例3)
負極活物質層を形成する際において、乾燥温度を150℃、乾燥時間を10時間とした以外は、実施例1と同様にして、負極を得て、得られた負極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
ロールプレスを用いた圧延において、プレス圧を電極に対して6t/cmとした以外は、実施例1と同様にして、負極を得て、得られた負極を用いて、リチウムイオン二次電池を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
<負極用バインダの製造>
反応器に初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへ配合単量体(1,3−ブタジエン40質量部、スチレン49質量部、メチルメタアクリレート3.0質量部、アクリロニトリル3.0質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、アクリル酸1.0質量部、α−メチルスチレンダイマー0.1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.8質量部)を6.5時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水24質量部、過硫酸ソーダ1.2質量部、苛性ソーダ0.3質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.15質量部)を追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は75%であった。
【0077】
<負極の作製>
電極組成物用バインダとして上述の共重合体ラテックスを用いた以外は実施例1と同様にしてスラリー状の負極用組成物を調製し、得られた負極用組成物を用いて実施例1と同様にして負極を得た。
【0078】
<電池の製造>
負極として上記負極を用いた以外は実施例1と同様にして積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン電池を作製し、実施例1と同様に評価を行った。電極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡で撮影した写真を観察したところ、バインダは粒子形状を有していなかった。結果を表1に示す。
【0079】
(比較例3)
<負極用バインダの製造>
反応器に初期水(イオン交換水75質量部、イタコン酸3.0質量部、シード(粒子径35nmのポリスチレンラテックス)、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.3質量部)を仕込み、攪拌しながら80℃に昇温して保持した。ここへ配合単量体(ブタジエン40質量部、スチレン49質量部、メチルメタアクリレート3.0質量部、アクリロニトリル3.0質量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.0質量部、アクリル酸1.0質量部、α−メチルスチレンダイマー0.1質量部、t−ドデシルメルカプタン0.05質量部)を6.5時間かけて追添した。同時に触媒水(イオン交換水24質量部、過硫酸ソーダ1.2質量部、苛性ソーダ0.3質量部、乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)0.15質量部)を追添した。追添終了後温度を95℃に昇温して1時間反応させ重合を完結させた。得られた共重合体ラテックスは水蒸気蒸留して未反応単量体を除去した。得られた共重合体ラテックスを苛性カリウムでPH7.0±1.0に調整した時の体積平均粒子径は300nmであり、ゲル含有率は99%であった。
【0080】
<負極の作製>
電極組成物用バインダとして上述の共重合体ラテックスを用いた以外は実施例1と同様にして、スラリー状の負極用組成物を調製し、得られた負極用組成物を用いて実施例1と同様にして負極を得た。
【0081】
<電池の製造>
負極として上記負極を用いた以外は実施例1と同様にして積層型ラミネートセル形状のリチウムイオン電池を作製し、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の電気化学素子用電極は、各種の電気化学素子の電極(正極・負極)として用いることができ、とりわけ、リチウムイオン二次電池の負極として好適に用いることができる。
【0084】
本願は、2015年8月14日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2015−160108)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
図1
図2