(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
植物の生育においてカルシウムは重要な栄養素であり、植物に供給されるカルシウムが不足すると、細胞の崩壊や壊死が生じ、特に葉物の場合には、葉先が焼けたように黒く変色するチップバーンという現象が起こることが知られている。
【0003】
図15はチップバーンが発生しているサンチュの様子を示すものである。
図15(a)に示すものが、チップバーンの発生していない正常なサンチュである。
図15(b)に示すものが、葉先の先端部分に褐色が見られる軽度のチップバーンが発生したサンチュである。
図15(c)に示すものが、葉先の先端部分に褐色が見られることに加えて葉先が丸くなっている中度のチップバーンが発生したサンチュである。
図15(d)に示すものが、葉先の先端部分が黒く詰まっている重度のチップバーンが発生したサンチュである。
【0004】
上述したチップバーンが発生した植物のうち、商品として許容されるのは軽度のチップバーンのものに限られ、中度及び重度のチップバーンが発生している植物は廃棄の対象となる。そのため、チップバーンが発生すると、生産効率が低下してしまう。
【0005】
そこでチップバーンを防止するため、例えば特許文献1では、植物にカルシウム剤を補給するカルシウム補給装置が開示されている。このカルシウム補給装置は、空気中の水分を装置内のカルシウム塩が吸収して少量ずつ潮解し、この潮解液を植物に供給するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の装置では、植物に不足しているカルシウム量に比べて、カルシウム補給装置から供給されるカルシウム塩の潮解液が少ない場合には、チップバーンの発生を防ぐことができない。また、カルシウム補給装置の設置場所等によっては潮解液がうまく植物に供給されない場合もあり、この場合もチップバーンの発生を防ぐことができない。そのため、特許文献1記載の装置では、確実にチップバーンの発生を抑制することができないという問題がある。
【0008】
そこで、確実にチップバーンの発生を抑制するために、本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
図16は培養液に含まれる成分濃度を示すグラフであるが、
図16に示すように、酸化カリウム濃度(カリウム濃度)と酸化カルシウム濃度(カルシウム濃度)が多く含まれており、これらに着目すると、
図17及び
図18に示すように、栽培日数を重ねるに連れて、カルシウム濃度が増加するとともにカリウム濃度が減少することが分かった。このことから、栽培中の植物において、カリウムの吸収が促進されてカルシウムの吸収が抑制されてしまうと、チップバーンが発生しやすくなるという知見を得た。
【0009】
本発明は上記知見に基づいて成されたものであって、確実にチップバーンの発生を抑制することができる培養液及びこの培養液を用いた水耕栽培装置を提供することをその主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る培養液は、水耕栽培に用いられ、植物の根部が浸漬される培養液であって、カリウム濃度が、20mg/l以上100mg/l以下であり、カルシウム濃度が、150mg/l以上380mg/l以下であることを特徴とする。
【0011】
上述の構成によれば、カリウム濃度を従来の培養液の1/8倍〜1/4倍程度となる20mg/l以上100mg/l以下に抑えるとともに、カルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度となる150mg/l以上380mg/l以下にするので、栽培中の植物のカリウムの吸収を抑制するとともにカルシウムの吸収を促進させることができ、チップバーンの発生を抑えることができる。そのため、植物の生産効率を向上させることができる。
ここで、カリウム濃度を20mg/l以上100mg/l以下にする理由は、カリウム濃度を20mg/l以下にしてしまうと、カリウムが欠乏することによって葉色が薄く変色するカリウム欠乏症状が生じてしまい、また、カリウム濃度を100mg/l以上にするとチップバーンを抑制することができなくなるからである。
また、効果的にチップバーンを抑制しながら、カリウム欠乏症の発生を抑制できる好ましいカリウム濃度としては、カリウム濃度を従来の培養液の1/6倍程度となる25mg/l以上65mg/l以下にすることが挙げられる。
【0012】
また、本発明の培養液を用いた水耕栽培装置は、植物を水耕栽培する水耕栽培装置であって、植物の根部が浸漬される請求項1記載の培養液と、植物に向かって光を射出するLED光源とを具備することを特徴とする。
【0013】
図14は蛍光灯及びLED光源を用いて栽培した植物の生体重を表すものである。
図14に示すように、LED光源を用いて栽培した植物の生体重は、蛍光灯を用いて栽培した植物の生体重よりも増加していることが分かる。そのため、本発明の水耕栽培装置は、LED光源を用いて植物の生育を促進しながら、上述の培養液でチップバーンの発生を抑制することができるので、植物の生産効率をより向上させることができる。
【0014】
上述した本発明の水耕栽培装置の別の具体的な一態様としては、前記植物に風を送風する送風機構をさらに有し、前記送風機構は、定植時に、植物の新芽周辺及び株上部に風速1.0m/s以上の風を送風して、収穫時に、植物の新芽周辺に風速0.1m/s以上の風を送風するとともに植物の株上部に風速0.4m/s以上の風を送風するものを挙げることができる。
【0015】
このように構成すれば、苗は葉から水分を蒸発させること(蒸散)によって根から培養液を吸い上げるので、定植時に、植物の新芽周辺及び株上部に風速1.0m/s以上の風を送風して、収穫時に、植物の新芽周辺に風速0.1m/s以上の風を送風するとともに植物の株上部に風速0.4m/s以上の風を送風すると葉から水分が蒸発し易くなって、根から培養液を吸い上げ易くなるので、チップバーンの発生を効果的に抑えることができる。
ここで、定植時に植物の新芽周辺及び株上部に風速1.0m/s以下の風や、収穫時に植物の新芽周辺に風速0.1m/s以下の風や植物の株上部に風速0.4m/s以下の風を送風しても、葉から蒸散する水分が十分ではなく、チップバーンの発生を抑えることができなくなるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、確実にチップバーンの発生を抑制することができる培養液及びこの培養液を用いた水耕栽培装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】比較培養液を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗との生体重を示すグラフ。
【
図3】比較培養液を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗とのチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図4】本実施形態にかかる培養液1を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗との生体重を示すグラフ。
【
図5】本実施形態にかかる培養液1を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗とのチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図6】本実施形態にかかる培養液2を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗との生体重を示すグラフ。
【
図7】本実施形態にかかる培養液2を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗とのチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図8】本実施形態にかかる培養液3を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗とのチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図9】本実施形態にかかる培養液3を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗とのチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図10】本実施形態にかかる水耕栽培装置の上面図。
【
図11】本実施形態にかかる培養液2を用いた場合において、第1領域のチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図12】本実施形態にかかる培養液2を用いた場合において、第2領域のチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図13】本実施形態にかかる培養液2を用いた場合において、第3領域のチップバーンの発生率を示すグラフ。
【
図14】従来の培養液を用いた場合において、蛍光灯を用いた苗とLED光源を用いた苗との生体重を示すグラフ。
【
図15】(a)正常なサンチュを示す撮像図。(b)軽度のチップバーンが発生したサンチュを示す撮像図。(c)中度のチップバーンが発生したサンチュを示す撮像図。(d)重度のチップバーンが発生したサンチュを示す撮像図。
【
図16】従来の培養液に含まれる各成分濃度を示すグラフ。
【
図17】従来の培養液を用いた場合におけるカルシウム濃度の変化を示すグラフ。
【
図18】従来の培養液を用いた場合におけるカリウム濃度の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る水耕栽培装置の一実施形態について以下に説明する。
【0019】
本実施形態にかかる水耕栽培装置1は、例えば植物工場等の室内で植物を栽培するためのものであって、
図1に示すように、植物が植え込まれる容器2と、容器2に貯留される培養液3と、植物に向かって光を照射するLED光源4と、培養液3の液温を調整する液温調整部6と、培養液3のpH及び電気伝導度を調整する培養液調整部5と、液温調整部6及び培養液調整部5を収容するタンク12と、LED光源4、容器2、液温調整部6及び培養液調整部5等が収容された栽培室7と、栽培室7内に風を起こす送風機構8と、栽培室7の温度・湿度等の空気を調整する図示しない空気調整部と、LED光源4、液温調整部6、培養液調整部5、送風機構8及び空気調整部を制御する制御部9とを具備するものである。
【0020】
容器2は、上方が開口する筐体で構成されたものであり、該開口内には培養液3が貯留されて、この培養液3には、複数の植物(苗)の根部が浸漬するように植え付けられている。また、容器2には配管10が接続されており、この配管10は、容器2内の培養液3が一端から流出するとともに、他端から培養液3が容器2内に流入するように、両端が容器2に接続されている。そして、配管10の下流側には、配管10内の培養液3を容器2内に流入させるためのポンプ11が設けられている。また、本実施形態では、容器2に植え込まれる植物として、例えばレタス、サンチュ等の葉物を用いることができる。
【0021】
培養液3は、EC値が1.2mS/cm以上3.0mS/cm以下となる場合において、カリウム濃度が、従来の培養液のカリウム濃度の1/8〜1/4程度となる20mg/l以上100mg/l以下となるものを用いるとともに、カルシウム濃度が、従来の培養液のカルシウム濃度の2倍程度となる150mg/l以上380mg/l以下のものを用いた。より具体的には、以下、表2に示す値のものを用いた。
【0022】
ここで、表1は、電気伝導度(以下、EC値と記す)が2.5mS/cmにおける従来の培養液の酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度の値を示すものである。下記の表1から、EC値が2.5mS/cmにおけるカリウム濃度は323mg/l、カルシウム濃度は158mg/lである。
【0024】
表2は、本実施形態における培養液3において、EC値が2.5mS/cmのときの酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度の値である。下記の表2から、EC値が2.5mS/cmにおけるカリウム濃度は54mg/l、カルシウム濃度は316mg/lであり、従来のカリウム濃度に比べると約1/6、従来のカルシウム濃度に比べると約2倍になっていることが分かる。なお、そのほかの成分濃度に関しては、例えば市販の培養液等と同じものを用いることができる。
【0025】
【表2】
本実施形態では、従来の培養液のカリウム濃度の1/6程度となる25mg/l以上65mg/l以下の範囲のものを用いたが、この他にも、従来の培養液のカリウム濃度の1/4程度となる40mg/l以上100mg/l以下の範囲のものを用いることもできるし、従来の培養液のカリウム濃度の1/8程度となる20mg/l以上50mg/l以下の範囲のものを用いることもできる。
【0026】
LED光源4は、平板状の基板の一方の面に複数のLED素子を多数敷設したもので、LED素子から照射される光が苗の方を向くように設置してある。このLED素子としては例えば表面実装型のものや砲弾型のものを使用することができる。
【0027】
液温調整部6は、培養液3の液温を調整するものであって、タンク12に収容されるとともに、配管10の周囲に設けられた図示しない加熱機構や冷却機構等から構成される。そして、これらの機構によって配管10を加熱又は冷却して、配管10内を流れる培養液3を加熱又は冷却することで培養液3の液温を調整するものである。
【0028】
培養液調整部5は、培養液3の濃度やpH値を調整するものであって、タンク12に収容されるとともに、配管10を流れる培養液3に所定量の水を加えるための図示しない第1接続配管、及び、配管10を流れる培養液3に培養液3の原液(濃縮培養液)や不足している所定成分の溶液を加えるための図示しない第2接続配管を具備する。この第1接続配管と第2接続配管は下流側の一端が配管10に接続されるとともに、第1接続配管又は第2接続配管と配管10との接続を切り換える図示しないバルブを具備し、バルブを切り換えることで、配管10に第1接続配管又は第2接続配管を介して水又は濃縮培養液や所定成分の溶液が供給されるものである。
【0029】
送風機構8は、栽培室7内に風を起こすためのものであって、例えば中心部分が固定されるとともに円形状に設置された複数のブレードが一定方向に回転することで風を起こすものを用いることができる。本実施形態の送風機構8は、植物を容器2に植え込む定植時において、全ての植物に風速1.0m/sの風が当たるようにするとともに、植物を収穫する収穫時において、全ての植物に風速0.1〜0.4m/sの風が当たるようにするものである。
【0030】
空気調整部は、栽培室7内の空気を所定温度または所定湿度に保つものであって、例えば栽培室7内に設置された空気調和機等から構成されている。
【0031】
制御部9は、植物の生育環境を制御するためのものであって、LED光源4、液温調整部6、培養液調整部5、空気調整部等を制御するものである。構造的には、CPU、内部メモリ、I/Oバッファ回路、ADコンバータ等を有した所謂コンピュータ回路であって、内部メモリの所定領域に格納したプログラムに従って動作することで情報処理を行うものである。
【0032】
以下に、培養液3を調整する動作を説明する。
【0033】
容器2内の培養液3の液温、EC値、pH値、水位は全て図示しないセンサによって一定時間間隔で測定されて、該測定データが制御部9に送信されている。
制御部9は、該測定データと予め定めた設定データとの偏差を算出して、この偏差に微分処理等の演算を施して制御データを生成し、この制御データを液温調整部6又は培養液調整部5に入力する。なお、本実施形態では、設定データのEC値としては2.5dS/m、設定データのpH値としては6.0〜6.5が用いられる。
【0034】
液温調整部6が制御データを受信すると、該制御データに従って配管10を加熱又は冷却することで、培養液3の液温を調整する。また、培養液調整部5が制御データを受信すると、該制御データに従ってバルブを切り換えて、培養液3に水又は原液/溶液を加えることで培養液3のpH値、EC値又は水位を調整する。
【0035】
なお、空気調整部を制御する方法も同様であって、栽培室7内の温度や湿度を測定する図示しないセンサが測定した測定データと、予め定めた設定データとの偏差を算出して、この偏差に微分処理等の演算を施して制御データを生成し、この制御データに従って空気調整部が栽培室7内の空気を調整する。
【0036】
上述したように構成した本実施形態の培養液3及び該培養液3を用いた水耕栽培装置1は、以下のような格別な効果を有する。
【0037】
つまり、1.2mS/cm以上3.0mS/cm以下となる電気伝導度のもとで、カリウム濃度を従来の培養液3の1/8倍〜1/4倍程度となる20mg/l以上100mg/l以下に抑えるとともに、カルシウム濃度を従来の培養液3の2倍程度となる150mg/l以上380mg/l以下にするので、栽培中の植物のカリウムの吸収を抑制するとともにカルシウムの吸収を促進させることができ、チップバーンの発生を抑えることができる。そのため、植物の生産効率を向上させることができる。
【0038】
また、効果的にチップバーンを抑制しながら、カリウム欠乏症の発生を抑制できる好ましいカリウム濃度としては、20mg/l以上100mg/l以下、さらに好ましくは、カリウム濃度を従来の培養液3の1/6倍程度となる25mg/l以上65mg/l以下にすることが挙げられる。
【0039】
本発明の培養液3を用いた水耕栽培装置1は、LED光源4を用いて植物の生育を促進しながら、カリウム濃度を従来の培養液3の1/8倍〜1/4倍程度となる20mg/l以上100mg/l以下に抑えるとともに、カルシウム濃度を従来の培養液3の2倍程度となる150mg/l以上380mg/l以下にした培養液3でチップバーンの発生を抑制することができるので、植物の生産効率をより向上させることができる。
【0040】
加えて、本実施形態における水耕栽培装置は、定植時に、植物の新芽周辺及び株上部に風速1.0m/s以上の風を送風して、収穫時に、植物の新芽周辺に風速0.1m/s以上の風を送風するとともに植物の株上部に風速0.4m/s以上の風を送風するので、葉から水分が蒸発し易くなって、根から培養液を吸い上げ易くなるので、チップバーンの発生を効果的に抑えることができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限られたものではなく、その趣旨に反しない範囲で様々な変形が可能である。
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
本発明に係る培養液との比較として、カリウム濃度を従来の培養液の2/3倍程度である216mg/l(酸化カリウム濃度:260mg/l)とするとともに、カルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度である316mg/l(酸化カルシウム濃度:442mg/l)とした比較培養液を用いて生体重及びチップバーンの発生率を実験した結果を
図2及び
図3に示す。
【0044】
<実験条件>
品目:サンチュ
栽培期間:30日
比較培養液:以下の表3に示す酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度のものを用いた。この酸化カリウム濃度をカリウム濃度に換算すると、216mg/l、酸化カルシウム濃度をカルシウム濃度に換算すると、316mg/lとなる。なお、そのほかの成分濃度に関しては、例えば市販の培養液と同じものを用いている。
【0045】
【表3】
培養液の電気伝導度(EC値):2.5
培養液のpH値:6.0〜6.5
培養液の液温:25℃
生育方法:ウレタンスポンジに播種し4日間発芽させて、高出力蛍光灯下で12日間育苗した。その後、育苗した苗を培養液が貯留された容器に移植して、蛍光灯、LED光源1及びLED光源2を用いて14日間栽培を行った。ここで、LED光源として、光源1は赤色/青色の光を射出するもの、光源2は赤色/青色の光に加えて近赤外の光を射出するものを用いた。
【0046】
<実験結果>
・生体重について
図2に示すように、LED光源を用いた植物の方が蛍光灯を用いた植物に比べて生体重が増加していた。また、LED光源ではLED光源2を用いた植物の方がLED光源1を用いた植物よりも生体重が増加していた。そのため、LED光源を用いた方が蛍光灯を用いるよりも植物の生育が促進されることが分かる。また、LED光源でも、近赤外の光を用いると、より生育を促進することができることが分かる。
・チップバーンの発生について
図3に示すように、全ての光源を用いた苗において、チップバーンが発生しており、LED光源を用いた植物の方が蛍光灯を用いた植物に比べてチップバーンの発生率が高くなっている。特に、LED光源1を用いた植物では、約60%の植物にチップバーンが発生しており、商品として許容されうる軽度のチップバーンを除くと、約30%の植物が廃棄対象になってしまうことが分かる。
【実施例2】
【0047】
次に、本発明に係る培養液として、カリウム濃度を従来の培養液の1/4倍程度である81mg/l(酸化カリウム濃度:97mg/l)とするとともに、カルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度である316mg/l(酸化カルシウム濃度:442mg/l)とした培養液1を用いて生体重及びチップバーンの発生率を実験した結果を
図4及び
図5に示す。
<実験条件>
培養液1:以下の表4に示す酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度のものを用いた。この酸化カリウム濃度をカリウム濃度に換算すると、81mg/l、酸化カルシウム濃度をカルシウム濃度に換算すると、316mg/lとなる。なお、そのほかの成分濃度に関しては、例えば市販の培養液と同じものを用いている。
【0048】
【表4】
なお、培養液1以外の実験条件については実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
<実験結果>
・生体重について
図4に示すように、LED光源を用いた植物の方が、蛍光灯を用いた植物に比べて生体重が増加していた。また、LED光源を用いた植物ではLED光源2を用いた植物の方がLED光源1を用いた植物よりも生体重が増加していた。そのため、実施例1と同様にLED光源を用いた方が蛍光灯を用いるよりも植物の生育が促進されることが分かる。また、LED光源でも、近赤外の光を用いると、より生育を促進することができることが分かる。
・チップバーンの発生について
図5に示すように、どの光源を用いた植物においても、チップバーンが発生していることが分かる。しかし、比較培養液を用いた実施例1に比べると、重度のチップバーンの発生は見られず、商品として許容されうる軽度のチップバーンを除くと、全ての光源を用いた植物においてチップバーンの発生率を10%以下に抑えることができた。
そのため、カリウム濃度を従来の培養液の1/4倍程度にするとともにカルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度にした培養液を用いると、チップバーンの発生を抑えることができる。
【実施例3】
【0050】
次に、本発明に係る培養液として、カリウム濃度を従来の培養液の1/6倍程度である54mg/l(酸化カリウム濃度:65mg/l)とするとともに、カルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度である316mg/l(酸化カルシウム濃度:442mg/l)とした培養液2を用いて生体重及びチップバーンの発生率を実験した結果を
図6及び
図7に示す。
<実験条件>
培養液2:以下の表5に示す酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度のものを用いた。この酸化カリウム濃度をカリウム濃度に換算すると、54mg/l、酸化カルシウム濃度をカルシウム濃度に換算すると、316mg/lとなる。なお、そのほかの成分濃度に関しては、例えば市販の培養液と同じものを用いている。
【0051】
【表5】
なお、培養液2以外の実験条件については実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
<実験結果>
・生体重について
図6に示すように、LED光源を用いた植物の方が、蛍光灯を用いた植物に比べて生体重が増加していた。また、LED光源ではLED光源2を用いた植物の方がLED光源1を用いた植物よりも生体重が増加していた。しかし、
図14に示す従来の培養液を用いた植物の生体重や、
図2及び4に示す培養液1、2を用いた植物の生体重に比べると、本実施例にかかる植物の生体重は減少していることが分かる。
・チップバーンの発生について
図7に示すように、LED光源1を用いた植物にチップバーンが発生したが、蛍光灯及びLED光源2を用いた植物についてはチップバーンの発生は見られなかった。また、チップバーンが発生したLED光源1を用いた植物においても軽度のチップバーンを除いたチップバーンの発生率は、14%程度に抑えられている。
【実施例4】
【0053】
次に、本発明に係る培養液として、カリウム濃度を従来の培養液の1/8倍程度である40mg/l(酸化カリウム濃度:49mg/l)とするとともに、カルシウム濃度を従来の培養液の2倍程度である316mg/l(酸化カルシウム濃度:442mg/l)とした培養液3を用いて生体重及びチップバーンの発生率を実験した結果を
図8及び
図9に示す。
<実験条件>
培養液3:以下の表6に示す酸化カリウム濃度及び酸化カルシウム濃度のものを用いた。この酸化カリウム濃度をカリウム濃度に換算すると、40mg/l、酸化カルシウム濃度をカルシウム濃度に換算すると、316mg/lとなる。なお、そのほかの成分濃度に関しては、例えば市販の培養液と同じものを用いている。
【0054】
【表6】
なお、培養液3以外の実験条件については実施例1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0055】
<実験結果>
・生体重について
図8に示すように、LED光源を用いた植物の方が、蛍光灯を用いた植物に比べて生体重が増加していたものの、
図14に示す従来の培養液を用いた植物の生体重や、
図2、4に示す培養液1、2を用いた植物の生体重に比べると、本実施例の植物の生体重は減少していることが分かる。
・チップバーンの発生について
図9に示すように、LED光源1及びLED光源2を用いた植物において数%のチップバーンの発生があったものの、実施例1及び実施例2に比べると、チップバーンの発生を抑えることができる。
・その他
葉先の色が薄くなって黄色に変色するカリウム欠乏症の症状が見られた。
【0056】
以上、実施例1、2、3、4を比較すると、カリウム濃度を減らすにつれて、生体重が減少するものの、チップバーンの発生を抑えることができる。しかし、実施例4までカリウム濃度を減らしてしまうと、チップバーンの発生は抑えられるものの、カリウム欠乏症の症状が出てしまう。そのため、チップバーンの発生を抑えることができるとともに、カリウム欠乏症等が生じないようにするには、カリウム濃度が従来の培養液の1/6倍程度である54mg/lの培養液2を用いることが一番好ましいと考えられる。
【実施例5】
【0057】
次に、風速がチップバーンに与える影響を調べるために以下の実験を行った。
【0058】
<実験条件>
品目:サンチュ
栽培期間:30日
培養液:1/6K
培養液の電気伝導度(EC値):2.5
培養液のpH値:6.0〜6.5
培養液の液温:25℃
生育方法:ウレタンスポンジに播種し4日間発芽させて、高出力蛍光灯下で12日間育苗した。その後、育苗した苗を容器に並べて移植して、LED光源2を用いて14日間栽培を行った。
このとき、
図10に示すように、送風機構8の位置から50cm以上175cm以下の領域を第1領域、175cm以上300cm以下の領域を第2領域、300cm以上の領域を第3領域とする。
そして、定植時に、第1領域、第2領域、第3領域における植物の新芽周辺及び株上部の風速を測定したものが以下の表7であり、収穫時に、第1領域、第2領域、第3領域における植物の新芽周辺及び株上部の風速を測定したものが以下の表8である。
ここで、具体的に新芽周辺の風速は、苗の略中心にある新芽先端から1〜2cm離したところに配置した風速センサで測定したものであり、株上部の風速は、高さ方向に一番伸びている葉から5cm程度上方に配置したセンサで測定したものである。
なお、株上部と新芽周辺の風速を測定した理由は以下の通りである。まず、株上部の風速を測定したのは、植物が生長するに連れて、葉が多く展開し、株が大きくなると植物の周辺を流れる風速が低下してくるので、株全体に対する風速を評価する必要があるからである。また、新芽周辺の風速を測定したのは、チップバーンの発生部位が新芽周辺となるため、株全体の風速評価だけではチップバーンの発生と風速との関係性に対する評価が不十分となるおそれがある。そこで、新芽周辺の風速を測定したものである。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
<実験結果>
・第1領域
図11に示すように、第1領域では、蛍光灯光源を用いた植物及びLED光源2を用いた植物においてチップバーンの発生は見られなかった。LED光源1を用いた植物においては、約40%程度のチップバーンの発生が見られたが、軽度のチップバーンを除くとその発生率は20%以下に抑えることができた。
・第2領域
図12に示すように、第2領域では、蛍光灯光源を用いた植物ではチップバーンの発生は見られなかったが、LED光源を用いた植物ではチップバーンの発生が見られ、LED光源1を用いた苗では約50%、LED光源2を用いた植物では約25%程度のチップバーンが発生していた。そのため、第1領域と比較すると、第2領域の方がチップバーンの発生率が増加していることが分かる。
・第3領域
図13に示すように、第3領域では、全ての光源を用いた植物でチップバーンが発生していることが分かる。特にLED光源1及びLED光源2を用いた植物では、約80%以上にチップバーンが発生していることが分かる。そのため、第1領域及び第2領域と比較すると、第3領域では一番チップバーンが発生し易いことが分かる。
【0062】
実施例5の実験結果より、定植時の植物では、新芽周辺及び株上部において1.0m/s以上、収穫時の植物では、新芽周辺で0.1.m/s以上、株上部では、0.4m/s以上の風が当たると、チップバーンの発生の抑制できることが分かる。これは、苗は葉から水分を蒸発させること(蒸散)によって根から培養液を吸い上げるので、葉に風が当たることで葉から水分が蒸発し易くなって、根から培養液を吸い上げることができたため、チップバーンの発生を抑えることができたためであると考えられる。
ここで、株全体の風速が強すぎると、外葉の蒸散により外側の葉にはカルシウムが供給され易くなるが、新芽周辺では水分吸収が抑制されてカルシウムが供給されにくくなると考えられる。
そこで、定植時には、新芽周辺及び株上部に1.0m/s以上の風速を送るとともに、収穫時に、新芽周辺で0.1.m/s以上、株上部では、0.4m/s以上の風速を送ることで、新芽の水分蒸発を促進させながら、外葉の余分な水分蒸発を防ぐことができるので、チップバーンを効果的に抑制することができる。