(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記生体適合性樹脂は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の不織布シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。
本発明の不織布シートは、厚さ方向に貫通した複数の貫通孔を備えた不織布シートであって、熱可塑性樹脂からなるシート状物にレーザ光を照射して上記シート状物の端部を加熱溶融させるとともに、上記シート状物の加熱溶融した部分と捕集部材との間に電位差を設け、繊維を上記捕集部材の方向に飛翔させ、上記捕集部材上に積層させることにより製造された不織布シートであり、上記捕集部材は、複数の貫通孔を有する捕集部材であることを特徴とする。ここで、複数の貫通孔を有する捕集部材の代わりに、マスキングを捕集部材上に設置すること、捕集部材を局所的に加熱すること、または、剣山のような凹凸物を有する捕集部材を使用することによっても、不織布上に複数の貫通孔を設けることができる。
【0022】
図1は、本発明の不織布シートの一例を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、本発明の不織布シート1は、厚さ方向に貫通した複数の貫通孔2を備えている。
【0023】
上記不織布シートでは、上記貫通孔の壁面において、繊維同士が融着していないことが好ましい。上記不織布シートが歯周組織再生医療で使用される不織布シート等、細胞培養足場材である場合に求められる一つの重要な特性として多孔質性がある。多孔質性は組織を再生させるのに必要な細胞への十分な酸素および栄養を補給し、二酸化炭素や老廃物を速やかに排出する意味において重要である。繊維同士が融着した場合、貫通孔の壁面において融着面の繊維同士が接着して、水掻き状やフィルム状になり、多孔質性が失われてしまうからである。もう一つの重要な特性として、細胞接着性が挙げられる。本発明の不織布シートは、レーザ溶融静電紡糸法により製造された平均繊維径が好ましくは20μm以下の繊維で形成されており、比表面積が大きく細胞接着性が高い。また、繊維の任意の横断面は異形であり、円横断面繊維の比面積よりさらに増大しており、細胞が繊維表面に接着する十分な面積をとることができる。繊維同士が融着した場合、貫通孔の壁面において融着面の繊維同士が接着して水掻き状やフィルム状になることで比表面積が小さくなり、その細胞接着性が低くなる。なお、本発明の不織布シートは、後述する方法により製造されたものであるため、通常、上記貫通孔の壁面において、繊維同士が融着していない不織布シートとなる。
【0024】
上記不織布シートが有する貫通孔の好ましい開口径は、好ましくは5μm〜2.0mm、より好ましくは20μm〜1.5mm、とくに好ましくは50μm〜1.0mmである。特に、上記不織布シートが歯周組織再生医療で使用される不織布シート等、細胞培養足場材である場合には、上記貫通孔の開口径は、50μm〜1.0mmが好ましい。培養細胞への栄養と空気(酸素)の供給、および培養細胞からの代謝老廃物の回収を高い効率で行うことができれば、優れた細胞培養足場材になると期待され、この機能を発揮するには血液成分の通過が可能な開孔径が必須である。血液成分である赤血球は、7〜8μm、白血球は、6〜50μmであることから、血液成分の通過させには50μm以上を確保し、かつ外部からの異物進入を防ぐ機能を併せ持たせるには1.0mm以下の細孔径を確保することが必要条件となるからである。
【0025】
上記貫通孔同士の間隔も特には限定されないが、好ましくは10μm〜1.0mm、より好ましくは30〜500μm、とくに好ましくは50〜300μmである。貫通孔同士の間隔が10μmより狭いと機械強度が低く、歯周組織再生手術などで負荷がかかった際、破損してしまい細胞培養足場材として好ましくない。なお、上記不織布シートにおいて、貫通孔の数は特に限定されない。
【0026】
上記不織布シートを構成する繊維は、繊維径の小さい繊維であることが望ましく、平均繊維径は好ましくは20μm以下、より好ましくは0.3〜10μm、とくに好ましくは0.5〜5.0μmである。また、このような平均繊維径を有する不織布シートには、例えば、50〜1000nm程度の繊維径を有する極細繊維や、10μm以上の繊維が含まれていてもよい。さらに、上記繊維は、相対的に繊維径の大きい繊維と相対的に繊維径の小さい繊維とが混在していてもよい。さらに、繊維の任意の横断面が円横断面ではない異形断面繊維は、細胞接着性が高く好ましい。
【0027】
また、上記不織布シートでは、不織布シートを構成する各繊維が、貫通孔非形成部において均質に分散し、かつ、三次元にランダムに配向していることが好ましい。不織布シートが歯周組織再生医療で使用される不織布シート等、細胞培養足場材である場合は、三次元的な細胞培養が可能で、培養細胞への栄養や空気(酸素)の供給および培養細胞からの代謝老廃物の除去を高い効率で行うことができるからである。繊維を配向させたシートや細胞培養ディッシュやプレートを用いた通常の培養では、配向した繊維方向のみに沿った一次元的な細胞培養や細胞培養ディッシュやプレート上での平面に沿った二次元的な細胞培養しか行えないのに対し、本発明の不織布シートは、繊維が三次元にランダムに配向しているため、培養細胞が該不織布シートの内部にまで入り込んで三次元的に付着増殖できるからである。また、生体内に移植して組織や骨などに対して形状追従性を付与するためには繊維がランダムに配向することが好ましく、形状の安定性を向上させるため、細胞培養時や歯周組織再生手術の操作性を向上させるには繊維が三次元にランダムに配向した不織布シートとすることが好ましい。
【0028】
上記不織布シートの厚さは特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよいが、複数の均一な貫通孔が形成され、均質な不織布シートとすることが容易な点から0.01〜2.0mmが好ましく、0.05〜1.5mmがより好ましく、0.1〜1.0mmがとくに好ましい。
【0029】
さらに、上記不織布シートの目付(貫通孔非形成部分の目付)も、用途に応じて選択でき、通常、10〜500g/m
2であり、好ましくは50〜400g/m
2、さらに好ましくは100〜300g/m
2である。
【0030】
このような形状を有する本発明の不織布シートは、熱可塑性樹脂からなるシート状物にレーザ光を照射して上記シート状物の端部を加熱溶融させるとともに、上記シート状物の加熱溶融した部分と捕集部材との間に電位差を設け、繊維を上記捕集部材の方向に飛翔させ、上記捕集部材上に積層させることにより製造されたものである。このとき、捕集部材として、複数の貫通孔を有する捕集部材を用いることが重要であり、このような捕集部材を用いることにより、不織布シートを成形すると同時に多数の貫通孔を備えた不織布シートとすることができる。
【0031】
このような方法で製造された不織布シートは、溶媒型の静電紡糸法と異なり溶媒を使用しなくても得ることができ、また、レーザ光以外を熱源とする溶融型の静電紡糸法と異なり、紡糸時に熱可塑性樹脂の熱劣化がなく、クリーンで不純物の混入のない製造環境の構築が容易であるため、高品質な不織布シートとなる。
【0032】
以下、本発明の不織布シートが製造される方法を説明する。なお、このような製造方法自体も本発明の1つである。
図2(a)は、本発明の不織布シートを製造する方法を模式的に示す概略図である。上記不織布シートを製造する場合には、
図2(a)に示すように、レーザ光源11から出射したレーザ光12を、レーザ光走査手段15を介して保持部材18に保持された熱可塑性樹脂からなるシート状物17の端部17aを走査するように照射するとともに、電源20により電圧を印加し、端部17aと、シート状物17の端部17aに対向配置された捕集部材19との間に電位差を生じさせる。その結果、
図2(b)に示すように、レーザ光12の照射により、シート状物17の端部17aが加熱溶融されるとともに、この加熱溶融した部分に電荷が付与されることとなる。そして、電荷が付与された加熱溶融部には、その表面に電荷が集まり反発することによって、次第に複数の針状突出部(以下、テーラーコーンともいう)117が形成され、電荷の反発力が表面張力を超えると、溶融した熱可塑性樹脂は、テーラーコーン117先端から静電引力により捕集部材19に向かって繊維として吐出され、捕集部材19方向に飛翔する。その結果、伸長した繊維は捕集部材19上に堆積し、捕集される。
【0033】
捕集部材19は、複数の貫通孔を有する。このような捕集部材の具体例としては、金属メッシュや、パンチングメタル等、導電性を有し、複数の貫通孔を有する捕集部材が挙げられる。両者のうちではパンチングメタルの方が好ましい。金属メッシュでは金属ワイヤが編み込まれているため、捕集面に凹凸(うねり)が存在することとなるが、パンチングメタルであれば捕集面が平坦であり、厚さや開口径の均一な不織布シートを作製するのにより適しているからである。金属メッシュやパンチングメタルの材質としては、鉄、ステンレス、真鍮、アルミニウム、銅、チタンなど、及びメッキ、表面処理、塗装などの前記金属板、前記金属の合金などが挙げられる。パンチングメタルの貫通孔に非導電性材料を埋め込んでも良い。飛翔した繊維が、非導電材料を避けて、導電性のパンチングメタル表面に捕集され、厚さや開口径の均一な不織布シートを作製するのにより適しているからである。
【0034】
上記捕集部材が樹脂等の非導電性材料からなる場合には、上記捕集部材の捕集面と反対側の面には金属部材を配設する。シート状物の端部と捕集面との間に電位差を設ける必要があるからである。この場合、金属部材の形状は、捕集部材と同一の平面形状を有するものとする。なお、捕集部材と金属部材とは一体化していてもよい。また、捕集部材(又は金属部材)は接地(アース)されていることが好ましい。製造された不織布シートの取り扱い性が向上するからである。
【0035】
本発明では、このような多数の貫通孔を有する捕集部材が用いられるため、シート状物の端部(テーラーコーン)から飛翔した繊維は捕集部材の貫通孔が形成されていない領域に積層されることとなる。そのため、上述した多数の貫通孔を備えた捕集部材を用いることにより、得られた不織布シートは、厚さ方向に貫通した複数の貫通孔を備えた不織布シートとなる。
【0036】
上記捕集部材が有する貫通孔について、その形状は、得られる不織布シートが備える貫通孔の形状とほぼ同一である。従って、上記捕集部材の貫通孔の開口径は特に限定されず不織布シートが有する貫通孔の形状に応じて適宜設定すればよい。
【0037】
レーザ光走査手段15は、シート状物17の端部17aを走査するようにレーザ光を照射するための光学部品の集合体であり、反射ミラー13とポリゴンミラー14とで構成されている。レーザ光源11から出射したレーザ光を、反射ミラー13を介して高速で回転するポリゴンミラー14に導入することにより、ポリゴンミラー14を介して、シート状物17の端部17aを走査するように均一にレーザ光を照射することができる。
【0038】
また、
図2(a)に示した例では、ポリゴンミラー14を介してシート状物の端部全体にレーザ光を照射しているが、シート状物の端部全体にレーザ光を照射することができれば、他の方法でレーザ光をシート状物の端部に照射してもよく、例えば、ポリゴンミラー14に代えて、ガルバノミラーを使用してレーザ光を照射してもよい。また、
図2(a)に示した例では、シート状物17を保持する保持部材18が電極としての機能を兼ねており、高電圧発生装置20により、保持部材18に電圧が印加されると、シート状物17の端部17aに電荷が付与されることとなる。
【0039】
また、保持部材18では、シート状物17の端部17aから繊維が吐出されるにしたがって、シート状物17を捕集部材19側に連続的に送り出す。上記シート状物を連続的に送り出す場合、その供給速度は特に限定されないが、通常、0.01〜150.0mm/分であり、好ましくは0.05〜100.0mm/分、さらに好ましくは0.1〜60.0mm/分である。速度を速くすれば生産性が高まるが、速すぎると、レーザ光照射部近傍での熱可塑性樹脂が充分溶融しないので繊維が紡糸されにくい。一方、速度が遅いと、熱可塑性樹脂が分解したり、生産性が低くなったりすることがある。
【0040】
また、保持部材18は、捕集部材19と対向する側面に並列に配置された複数のN
2ガス吐出口18bを備えるとともに、N
2ガス吐出口18bを備える面と直交する側面に配置されたN
2ガス供給口18aとを備えている。そして、N
2ガス吐出口18bとN
2ガス供給口18aとは内部の配管(図示せず)を通じて連結されており、製造時にはN
2ガス供給口18aよりN
2ガスを導入し、シート状物の端部にN
2ガスを供給することにより、熱可塑性樹脂の酸化分解を防止することができる。酸化分解を防止するガスは、N
2ガスに限定されることはなく、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、二酸化炭素などの非酸化性ガスであればいかなるガスであっても良い。なお、上記不織布シートを製造する際に、N
2ガスは必ずしも供給しなくてもよい。
【0041】
また、
図2(a)に示した製造方法では、繊維の飛翔空間に加熱空気を供給するための加熱空気供給装置22を使用している。このように、繊維の飛翔空間に加熱空気を供給することにより、飛翔させる繊維の繊維径を小さくすることができる。即ち、紡糸空間を加熱することにより、形成されつつある繊維の急激な温度低下を抑制することができ、これにより、繊維の伸長又は延伸を促進し、より極細な繊維からなる不織布シートとすることができるのである。なお、上記不織布シートを製造する際に、乾燥空気は必ずしも繊維の飛翔空間に供給しなくてもよい。
【0042】
上記飛翔空間の温度は、シート状物の種類にも依存し特に限定はされないが、好ましくは20〜300℃、より好ましくは100〜250℃、とくに好ましくは150〜200℃である。繊維が飛翔する空間の温度が高くなれば、溶融された熱可塑性樹脂が飛翔空間内で溶融状態を保ちつつエレクトロスピニングできるので、目的の繊維径とすることが容易である。20℃未満では、シート状物から飛翔した繊維が静電引力による伸長又は延伸によって細くなる前に固化してしまう場合があり、逆に300℃を超えると、シート状物から飛翔した繊維が熱分解したり、溶融したまま捕集部材に到達して、フィルム状となり、多孔質性を有した不織布シートとならないことがある。
【0043】
上記加熱空気供給装置における加熱手段としては、例えば、ヒーター(ハロゲンヒーター等)等が挙げられる。また、加熱空気の温度は、熱可塑性樹脂の融点に応じて、例えば、50℃以上の温度から熱可塑性樹脂の発火点未満までの温度範囲から選択できるが、紡糸性の点から、熱可塑性樹脂の融点未満の温度が好ましい。
【0044】
上記飛翔空間の湿度は特に限定されないが、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、とくに好ましくは70%以上である。湿度が高くなれば、繊維表面に水分子が吸着して表面に薄い水の層が形成され、沿面イオン伝道効果により表面抵抗が急速に小さくなる。沿面イオン伝道効果により、本来表面抵抗が高い熱可塑性樹脂であってもエレクトロスピニングが容易となると共に、捕集部に捕集された繊維表面の表面抵抗が低くなり、捕集部材の形状を反映した、複数の貫通孔を有する多数の微細な開孔を備えた、不織布シートとすることが容易になる。沿面イオン伝道効果の概念については、「株式会社朝倉書店発行「静電気工学シリーズ1静電気の基礎、P139−2.2沿面イオン伝道」に詳細が記載されている。一方、50%未満では、沿面イオン伝道効果が非常に小さいため、表面抵抗が高い熱可塑性樹脂は、エレクトロスピニングが起こりにくくなり、且つ捕集部に捕集された繊維によって捕集部表面の表面抵抗が高くなり、捕集部材の形状を反映した貫通孔が形成できなくなる。
【0045】
加湿の方法は特に特に限定されないが、ナノバブル水で加湿することが好ましい。ナノバブル水とは、超微細気泡を含む水であって、超微細気泡は、最頻粒子径が500nm以下、好ましくは300nm以下、最も好ましくは150nm以下であり、1ml当たり10万個以上、好ましくは30万個以上、より好ましくは50万個以上、最も好ましくは100万個以上存在する。超微細気泡内は空気、窒素、酸素、およびオゾンから選択される気体である。なお、本明細書中で言及される超微細気泡の数は、ナノ粒子解析システム ナノサイトシリーズ(NanoSight社製)により測定されたものである。
【0046】
上述した方法で製造される不織布シートを連続的に製造する場合には、捕集部材をシート状物の端部に対して相対的かつ経時的に移動させればよい。このとき、捕集部材をシート状物の端部に対して移動させても良いし、シート状物の端部の位置を捕集部材に対して移動させても良く、両者を同時に移動させても良い。このとき、捕集部材やシート状物の端部の移動は連続的に行っても良いし、断続的に行っても良い。また、捕集部材をシート状物の端部に対して相対的させる態様としては、テーラーコーンから捕集部材に向かって飛翔中の繊維に、力学的、磁力的又は電気的な力を作用させることで捕集位置を移動させる態様、例えば、飛翔中の繊維にエアーを吹き付ける、捕集部の方向に吸引するなどの態様を採用することもできる。もちろん、これらの捕集部材をシート状物の端部に対して相対的に移動させる態様は、組合せて使用してもよい。
【0047】
上記捕集部材等の移動速度は特に限定されず、製造する繊維シートの目付等を考慮して適宜決定すればよい。例えば、目付100g/m
2のシート状物の供給速度が0.5mm/分である場合、捕集部材の移動速度を100mm/分程度に設定することにより、目付0.5g/m
2程度の不織布シートを連続的に製造することができる。
【0048】
次に、電荷が付与されたシート状物の加熱溶融部にテーラーコーンが形成され、繊維が吐出される工程についてもう少し詳しく説明する。
図2(b)は、
図2(a)の加熱溶融部に形成されたテーラーコーンの拡大上面図である。
図2(a)、(b)に示すように、電圧を印加した状態のシート状物17の端部17aを走査するようにレーザ光12を照射すると、シート状物17の端部17aに線状の加熱溶融部が形成され、さらに、加熱溶融部の先端に波状の摂動(メニスカス不安定現象)が発生し、この摂動(メニスカス)が発達してテーラーコーン117が形成され、電荷の反発力が表面張力を超えると、テーラーコーン117から捕集部材19側(
図2(b)中、右側)に向かって繊維が吐出される。
【0049】
本発明の不織布シートにおいて、原料となるシート状物の厚さは特に限定されないが、通常0.01〜10mmであり、好ましくは、0.03〜5.0mmである。そして、上記シート状物の厚さを適宜変更することにより、テーラーコーンの数(テーラーコーンの間隔(
図2(b)中、W))を調整することができる。具体的には、シート状物の厚さが厚いほど、テーラーコーンの数が少なく(テーラーコーンの間隔が大きく)なる傾向にある。この理由は定かではないが、シート状物の厚さが厚くなると、シート状物の端部における溶融体の体積が増加することとなり、その結果、テーラーコーンがよく発達し、各テーラーコーン間の静電反発が大きくなるため、テーラーコーンの間隔が大きくなると考えられる。なお、テーラーコーンが発達するとは、テーラーコーンの高さ(
図2(b)中、H)が大きくなることを意味する。
【0050】
上記シート状物は、熱可塑性樹脂からなるものであり、熱可塑性樹脂製の繊維からなる繊維集合体(不織布、織物、編み物等)であってもよいし、熱可塑性樹脂を予め混練した後、成形して作製したシートであってもよい。また、その形状は、特に限定されず、例えば、フィルム、プレート、ボード等が挙げられる。
【0051】
上記熱可塑性樹脂としては、生体適合性、または生体吸収性が高い樹脂であれば限定されず、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリDL−乳酸)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリトリメチレンカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、およびこれらの共重合体、N−メチルピロリドン、炭酸トリメチレン、パラジオキサノン、1,5−ジオキセパン−2−オンなどのホモポリマー、コポリマー又はこれらポリマーの混合物からなる群より選択される少なくとも一種である。好ましくは主として脂肪族ポリエステルからなる。脂肪族ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、およびこれらの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、生体適合性、及び生体吸収性に優れるポリDL−乳酸(PDLLA)含む熱可塑性樹脂が好ましい。
【0052】
上記熱可塑性樹脂のなかでは、ナノ繊維等の極細繊維を形成し易い点からは、低粘度の熱可塑性樹脂が好ましい。また、電荷による電気的牽引力が発生しやすく、テーラーコーンを形成し易い点からは、極性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。更に、歯周組織再生医療用途等で細胞培養足場材として使用する場合には、ポリ乳酸(PLA)、特にポリDL−乳酸(PDLLA)が好ましい。細胞培養足場として好適だけではなく、力学特性と吸収特性の面で、歯周組織再生用膜にとって望ましい特性(程よい柔らかさとガラス転移点、吸収期間等)を持たせるためである。
【0053】
なお、シート状物は、熱可塑性樹脂のみからなるものに限定されず、繊維に用いられる各種の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、帯電防止剤、充填剤、滑剤、湿潤剤、可塑剤、増粘剤、分散剤、発泡剤、界面活性剤等を含有した熱可塑性樹脂組成物からなるものであってもよい。また、細胞の培養、組織の再生などに有効なタンパク質を添加剤として使用してもよい。例えば、サイトカイン、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、グリコサミノグリカン(ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸など)、ヘパリン、キチン、コラーゲン、ポリリジン、ポリアルギニン、セリシン、セルロース、デキストラン、及びプルランなどがあげられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて含有することができる。さらに、本発明では、熱可塑性樹脂に加え、骨や生体組織の成長因子、ミノサイクリン、ドキシサイクリン等のテトラサイクリン系、クラリスロマイシン、アジスロマイシン等のマクロライド系、レボフロキサシン等のニューキノロン系、テリスロマイシン等のケトライド系などの抗菌性物質、フルルビプロフェン等の非ステロイド系、デキサメタゾン等のステロイド系等の抗炎症剤、アズレン等の天然由来物、ビスフォスホネート等の骨吸収阻害剤等の薬剤を適宜配合することができる。
【0054】
これらの添加剤のなかでは、界面活性剤を用いることが好ましい。シート状物に高電圧を印加して電荷を注入する際、熱可塑性樹脂からなるシート状物は電気絶縁性が高く、電気抵抗の低くなる熱溶融部までに電荷を注入しにくくなるが、熱可塑性樹脂の繊維からなる繊維集合体は、電気絶縁性の大きい繊維の表面に界面活性剤などを付与することでシート状物の電気抵抗が低下し、熱溶融部まで十分に電荷を注入できるからである。
【0055】
これらの添加剤は、それぞれ、熱可塑性樹脂100質量部に対して、50質量部以下の割合で使用でき、好ましくは0.01〜30質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0056】
上記レーザ光源としては、例えば、YAGレーザ、炭酸ガス(CO
2)レーザ、アルゴンレーザ、エキシマレーザ、ヘリウム−カドミウムレーザ等が挙げられる。これらのなかでは、電源効率が高く、熱可塑性樹脂の溶融性が高い点から、炭酸ガスレーザが好ましい。また、レーザ光の波長は、例えば、200nm〜20μm、好ましくは500nm〜18μm、さらに好ましくは5〜15μm程度である。
【0057】
また、上記レーザ光の出力は、加熱溶融部の温度が熱可塑性樹脂の融点以上となり、かつ、熱可塑性樹脂の発火点以下の温度となる範囲に制御すればよいが、吐出させる繊維の繊維径を小さくする観点からは高い方が好ましい。具体的なレーザ光の出力は、用いる熱可塑性樹脂の物性値(融点、LOI値(限界酸素指数))や形状、熱可塑性樹脂の供給速度等に応じて適宜選択できる。また、加熱溶融部の温度は、熱可塑性樹脂の融点以上で、発火点以下の温度であれば特に限定されないが、通常100〜600℃程度であり、好ましくは200〜400℃である。
【0058】
また、レーザ光の走査速度は、30m/s以上が望ましい。走査速度が30m/s未満では、シート状物の端部全体を同時に加熱溶融することができないことがあるからである。
【0059】
このような不織布シートの製造方法において、上記シート状物の端部と上記捕集部材との間に発生させる電位差は放電しない範囲で高電圧であるのが好ましく、要求される繊維径、電極と捕集部材との距離、レーザ光の照射量等に応じて適宜選択できるが、通常0.1〜30kV/cm程度であり、好ましくは0.5〜20kV/cm、より好ましくは1〜10kV/cmである。
【0060】
熱可塑性樹脂の溶融部に電圧を印加する方法は、レーザ光の照射部(熱可塑性樹脂の加熱溶融部)と電荷を付与するための電極部とを一致させる直接印加方法であってもよいが、簡便に装置を作製できる点、レーザ光を有効に熱エネルギーに変換できる点、レーザ光の反射方向を容易に制御でき、安全性が高い点等から、レーザ光の照射部と電荷を付与するための電極部(
図2(a)の例では、保持部材18が電極部に相当)とを別個の位置に設ける間接印加方法(特に、熱可塑性樹脂の供給方向における下流側にレーザ光の照射部を設ける方法)が好ましい。特に、上述した不織布シートの製造方法では、電極部よりも下流側で熱可塑性樹脂にレーザ光を照射するとともに、電極部とレーザ光照射部との距離を特定の範囲(例えば、10mm以下程度)に調整するのが好ましい。この距離は、熱可塑性樹脂の導電率、熱伝導率、ガラス転移点、レーザ光の照射量等に応じて選択でき、例えば、0.5〜10mm、好ましくは1〜8mm、さらに好ましくは1.5〜7mm、特に好ましくは2〜5mm程度である。両者の距離がこの範囲にあると、レーザ光照射部近傍での熱可塑性樹脂の分子運動性が高まり、溶融状態の熱可塑性樹脂に充分な電荷を付与できるため、生産性を向上できる。
【0061】
また、上記シート状物の端部と上記捕集部材との距離は特に限定されず、通常、5mm以上であればよいが、効率良く不織布シートを製造するためには、好ましくは10〜300mm、より好ましくは15〜200mm、さらに好ましくは50〜150mm、特に好ましくは80〜120mm程度である。
【0062】
ここまで、
図2を参照しながら説明した不織布シートの製造方法では、レーザ光は一方向のみからシート状物の端部に照射しているが、例えば反射ミラーを介してレーザ光を2方向からシート状物の端部に照射してもよい。シート状物の厚さが厚くても、その端部をより均一に溶融させることができるからである。また、複数枚の上記シート状物を平行に並べ、それを上記捕集部材の移動方向に沿って設置し、各シート状物の端部から繊維を同時に飛翔させてもよい。この場合、不織布シートの製造速度を複数倍に向上させることができる。
【0063】
また、上記不織布シートの製造方法において、上記シート状物の端部と上記捕集部材との間の空間(繊維の飛翔空間)は、不活性ガス雰囲気であってもよい。飛翔空間を不活性ガス雰囲気とすることにより、繊維が発火することを抑制できるため、レーザ光の出力を高めることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガス等が挙げられる。これらのうち、通常、窒素ガスを使用する。これらの不活性ガスは加熱されていてもよい。また、上記不活性ガスの使用により、加熱溶融部における酸化反応を抑制することができる。
【0064】
このような方法により製造される本発明の不織布シートは、溶媒等の不純物が残留していない、材料樹脂のみからなる不織布シートとすることができる。そのため、歯周組織再生医療等で使用される細胞培養足場材として好適に使用することができる。上記不織布シートは、貫通孔非形成部分が不織布であるため、樹脂フィルムに比べ、多孔質性があり、組織を再生させるのに必要な細胞への十分な酸素および栄養を補給し、二酸化炭素や老廃物を速やかに排出できる。また、平均繊維径が20μm以下の繊維で形成されていれば、比表面積が大きく細胞接着性が高くなる。繊維の任意の横断面は異形であり、円横断面繊維の比面積よりさらに増大しており、細胞が繊維表面に接着する十分な面積をとることができる。本発明の不織布シートは、細胞培養足場材として好適である。本発明の不織布シートからなる細胞培養足場材もまた本発明の1つである。
【0065】
また、上記不織布シートは、他の不織布(例えば、スパンボンド不織布等)や織編物、フィルム、ボードと積層一体化されたものであってもよい。
【0066】
本発明の不織布シートは、皮膚や歯周組織、顎骨などの組織再生・修復用の足場やテンプレートとしての細胞足場材料の成型体の一部あるいは全部、血管、軟骨、皮膚、角膜、腎臓、肝臓、筋肉、腱などの組織再生及び移植用組織形成に使用する足場材料用の成型体の一部あるいは全部、歯科材料、眼内レンズなどの生体内埋め込み用医療成型体の一部あるいは全部、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、骨折接合材、カテーテル、シリンジ、輸液・血液バッグ、血液フィルター、体外循環用材料などの医療行為に使用する成型体の一部あるいは全部として使用することができる。実際の医療行為以外にも医療につながる研究を目的とした用途にも使用することができる。例えば細胞培養、組織培養用のフラスコ、シャーレ、ウェル、プレート、多穴ウェル、多穴プレート、スライド、フィルム、バック、カラム、タンク、ボトル、中空糸、不織布など細胞培養用器具として使用される形状の基材上に本発明で得られる繊維の集合体を形成して使用することも可能である。また、セパレータや高性能フィルター産業用資材(油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材等)、生活関連資材(ワイパー、印刷物基材、包装・袋物資材、収納材、等)、衣料用材、内装材用(断熱材、吸音材等)、等の分野で利用できる。
【0067】
特に、再生医療で使用される細胞足場材料、生体内埋め込み用医療成型体、細胞培養足場材や等、クリーンで均質であることが求められる生体適合性シートとして好適である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例を掲げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
(シート状物の作製)
PDLLA(ポリDL−乳酸)のペレットを140℃で熱プレスし、厚さ0.3mm、幅80mmのPDLLAシートを作製し、シート状物とした。
【0070】
(実施例1)
上記シート状物を使用し、
図2に示した構成を備えた製造装置を用いて不織布シートを作製した。ここで、各部材としては以下のものを使用した。
レーザ光源:CO
2レーザ(Universal Laser Systems社製、ULCR−120、波長10.6μm、出力定格120W、空冷型、ビーム径54mm)
レーザ光走査手段:AuコートCuミラー(住友電工ハードメタル社製、TRD50−5A、直径50mm、厚み5mm)、ビームエキスパンダー(住友電工ハードメタル社製、BX3.81−25.4−2.0、倍率0.4倍)、及び、ポリゴンミラー(レーザックス社製、15面体、外接円径40mm)。電源:高圧電源(松定プレシジョン社製、HARb−80P1.25、最大電圧80kV、最大電流1.25mA)。加熱空気供給装置:超音波加湿器;(良品計画社製、TPK−MJU100、加湿量約100ml/h)。捕集部材:アルミニウム製パンチングメタル(開口径1.0mm、開口間隔0.5mm)。
【0071】
そして、走査幅250mm、走査速度191m/sで、ビーム径1.6mmのレーザ光(出力137W)を保持部材で保持したシート状物の端部に照射した。このとき、シート状物の端部と捕集部材の捕集面との距離は10cmとし、保持部材(電極)と捕集部材との間の電位差は4kV/cmとした。また、シート状物の供給速度は、0.5mm/分とした。さらに、飛翔空間の温度は200℃とし、湿度は水での加湿により60%とした。また、保持部材からはN2ガスを供給した。なお、捕集部材は固定して不織布シートを製造した。
【0072】
このような方法により、厚さ0.3mmで、平均開口径1.0mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)210g/m
2の不織布シートを得た。ここで、上記PDLLA繊維は、平均繊維径は3.5μmであった。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図3に示す。
【0073】
(実施例2)
捕集部材として、アルミニウム製パンチングメタル(開口径0.5mm、開口間隔0.5mm)を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて、厚さ0.2mmで、平均開口径0.5mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)205g/m
2の不織布シートを得た。ここで、PDLLA繊維は、平均繊維径3.5μmであった。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図4に示す。
【0074】
(実施例3)
捕集部材として、真鍮製の金属メッシュ(20メッシュ/メッシュ間隔1.0mm)を使用した以外は、実施例1と同様の方法を用いて、厚さ0.8mmで、平均開口径1.0mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)200g/m
2の不織布シートを得た。ここで、上記PDLLA繊維は、平均繊維径3.4μmであった。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図5に示す。
【0075】
(比較例1)
飛翔空間の温度を350℃とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて紡糸した。厚さ0.2mmで、平均開口径1.0mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)210g/m
2の不織布シートを得た。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図6に示す。貫通孔の壁面において、繊維同士が融着した構造となっている。
【0076】
(比較例2)
捕集部材をアルミニウム製プレートとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて紡糸した。厚さ0.8mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)190g/m
2の不織布シートを得た。このシートをレーザで切断加工した。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図7に示す。切断面において、繊維の切断面が露出すると共に繊維同士が融着した構造となっている。
【0077】
(比較例3)
捕集部材をアルミニウム製プレートとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて紡糸した。厚さ0.8mmのPDLLA繊維からなる目付(貫通孔非形成部分の目付)195g/m
2の不織布シートを得た。このシートをトムソン刃で切断加工した。得られた不織布シートの顕微鏡拡大写真(50倍像)を
図8に示す。貫通孔の壁面において、切断面において繊維がカットされており、繊維が脱落しやすい構造となっている。
【0078】
(平均繊維径の測定)
不織布の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、電子顕微鏡写真中の任意の2050本のナノファイバー表面の幅を計測し、その平均を平均直径とした。観察倍率は500倍〜5万倍とした。また、繊維径は、画像解析ソフトを用いて行った。
【0079】
(開口径の測定)
不織布の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、電子顕微鏡写真中の任意の20個の開口の幅を計測し、その平均を開口径とした。観察倍率は50倍〜500倍とした。