(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498405
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/02 20060101AFI20190401BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20190401BHJP
F04B 39/06 20060101ALI20190401BHJP
F16J 15/18 20060101ALI20190401BHJP
F16N 31/00 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
F04B39/02 V
F04B39/00 104A
F04B39/06 M
F16J15/18 C
F16N31/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-193228(P2014-193228)
(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公開番号】特開2016-65459(P2016-65459A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇根 勝孝
【審査官】
原田 愛子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−194932(JP,A)
【文献】
特開2010−013962(JP,A)
【文献】
米国特許第04236878(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
F04B 39/00
F04B 39/06
F16J 15/18
F16N 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク室を画成するハウジングと、
前記クランク室を貫通して前記ハウジングにラジアル軸受を介して回転自在に支持され、一端部が前記ハウジングから突出する駆動軸と、
前記駆動軸の前記ラジアル軸受よりも一端部側に配置され、前記駆動軸と前記ハウジングとの間を封止する軸封部材と、
前記ハウジングに形成され、一端が前記クランク室に連通し、他端が前記ラジアル軸受と前記軸封部材との間に形成されたシール空間に連通するオイル供給通路と、
一端が前記シール空間に連通し、他端が前記クランク室に連通するオイル排出通路と、
を備えた圧縮機において、
前記ハウジングが前記駆動軸の軸心を水平にして配置される場合に、前記オイル排出通路の前記シール空間に開口する流入口は、前記駆動軸の前記軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、前記駆動軸の軸心を含む水平面と同位置かそれよりも下側の位置に開口していることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記シール空間は、前記ラジアル軸受と、前記軸封部材と、前記ハウジングの内面と、前記駆動軸の周面とによって囲まれて画成され、
前記シール空間を画成する前記ハウジングの内面は、前記軸封部材に向かって内径が大きくなる円錐面を有することを特徴とする請求項1記載の圧縮機。
【請求項3】
前記オイル供給通路の他端は、前記円錐面の部分で前記シール空間に接続されていることを特徴とする請求項2記載の圧縮機。
【請求項4】
前記オイル供給通路の他端は、前記軸封部材に導入オイルが直接当たらない位置に開口されていることを特徴とする請求項3記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置などに用いられる圧縮機に関し、駆動軸の周囲に設けられてハウジングとの間を封止する軸封部材に供給される潤滑油の経路構造を改善した圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク室を貫通してハウジングに回転自在に支持された駆動軸と、クランク室に配されて前記駆動軸の回転に同期して回転し、スラスト軸受を介してハウジングの内壁面に回転可能に支持された動力伝達部材と、動力伝達部材の回転に伴い、ハウジングに形成されたシリンダボア内でピストンを往復摺動させる駆動手段とを具備する圧縮機にあっては、ハウジングと駆動軸との間に、駆動軸を受けるラジアル軸受やクランク室内の流体漏洩を防止する軸封部材が配置されており、中でも駆動軸と軸封部材との摺接部分は、焼き付きを防止するために良好な潤滑が要請されている。
【0003】
このため、従来においては、ハウジングの内壁面のスラスト軸受の軸受面にクランク室の潤滑油を導入する潤滑油導入溝を設け、この潤滑油導入溝を伝って導入される潤滑油を軸封部材等の回転軸との摺動部分へ潤滑油供給孔を介して導くようにした構成や(特許文献1参照) 、ラジアル軸受と軸封部材(リップシールからなるシール部)との間に区画形成されたシール空間を、ハウジングに設けた潤滑オイル通路を介してクランク室に連通させると共に、駆動軸に設けた平面部と滑り軸受との間の隙間を介してクランク室に連通させ、一方を介してクランク室内の潤滑油をシール空間へ導入し、他方を介してシール空間内の潤滑油をクランク室へ戻すようにした構成(特許文献2参照)などが考えられている。
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の構成においては、シール空間への潤滑油の供給は確保される構成であるが、シール空間に導入された潤滑油を積極的に逃すような構成を有していないので、シール空間において潤滑油の流動がなくなり、軸封部材の温度が上昇して潤滑油が炭化してスラッジが発生し、このスラッジが軸封部材の摺動部に堆積して軸封機能が低下し、軸封部材と駆動軸との間から潤滑油が漏れるなどの不都合が懸念される。
【0005】
また、後者の構成によれば、駆動軸の外周部に平面部が設けられているので、この平面部と滑り軸受との隙間とを介して潤滑油がクランク室へ戻されることになるが、このような構成においても、平面部と滑り軸受けとの隙間は、所定位置に固定されていないので(駆動軸の回転に伴って回転するので)、シール空間の下部に必要以上の潤滑油が溜まることが予想され、前者と同様、軸封部材の温度が上昇し、軸封機能の低下に伴い潤滑油漏れを起す不具合が懸念される。
【0006】
そこで、駆動軸より上方に位置するハウジングの内壁面からラジアル軸受と軸封部材との間で駆動軸の周囲に形成されたシール空間へオイルを供給するオイル供給用の通路を設け、また、ラジアル軸受を受ける軸受面とラジアル軸受との間に設けられ、一端がシール空間に連通し、他端がクランク室に連通するオイル排出用の通路とを設け、軸封部材やラジアル軸受に対して積極的に潤滑油を供給して良好な潤滑を確保すると共に、軸封部材に供給される潤滑油の入れ替わりを促進させて、軸封部材の温度上昇によるオイル漏れを低減するようにした構成(特許文献3参照)が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−284820号公報
【特許文献2】特開2002−310067号公報
【特許文献3】特開2005−23849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した特許文献3においては、ラジアル軸受を受ける軸受面とラジアル軸受との間にシール空間のオイルをクランク室へ排出するオイル排出用の通路が設けられているので、潤沢なオイルがオイル供給通路から導入されない場合には、オイルの排出量が導入量よりも相対的に多くなり、シール空間にオイルが十分に保留されず、駆動軸と軸封部材との摺接部分に焼き付きが生じる不都合が懸念される。
【0009】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、シール空間のオイルを適正量に保持してオイル不足を回避して良好な潤滑を確保すると共に、軸封部材に供給される潤滑油の入れ替わりを促進することで、軸封部材の温度上昇による軸封機能の低下(オイル漏れ)を抑制することが可能な圧縮機を提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、この発明にかかる圧縮機は、クランク室を画成するハウジングと、前記クランク室を貫通して前記ハウジングにラジアル軸受を介して回転自在に支持され、一端部が前記ハウジングから突出する駆動軸と、前記駆動軸の前記ラジアル軸受よりも一端部側に配置され、前記駆動軸と前記ハウジングとの間を封止する軸封部材と、前記ハウジングに形成され、一端が前記クランク室に連通し、他端が前記ラジアル軸受と前記軸封部材との間に形成されたシール空間に連通するオイル供給通路と、一端が前記シール空間に連通し、他端が前記クランク室に連通するオイル排出通路と、を備えた圧縮機であって、
前記ハウジングが前記駆動軸の軸心を水平にして配置される場合に、前記オイル排出通路の前記シール空間に開口する流入口は、前記駆動軸の前記軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、前記駆動軸の軸心を含む水平面と同位置かそれよりも下側の位置に開口していることを特徴としている。
【0011】
なお、圧縮機の設置状態によって、ハウジングが駆動軸の軸心を中心として傾けられて取り付けられるが、そのような場合でも、その設置状態を基準として、オイル排出通路のシール空間に開口する流入口は、駆動軸の軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸の軸心を含む水平面と同位置かそれよりも下側の位置に開口されていればよい。
【0012】
したがって、オイル排出通路のシール空間に開口する流入口は、駆動軸の軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側に開口しているので、シール空間内のオイルは、液位がオイル排出通路に達しないうちはシール空間から排出されず、オイル供給通路から導入されるオイルが少ない場合でも、駆動軸と軸封部材の接触位置は、蓄積したオイルに浸漬することとなり、摺動箇所の潤滑不足を回避することが可能となる。また、シール空間に溜まるオイルがオイル排出通路の流入口に達すると、余分なオイルは、オイル排出通路を介してクランク室へ排出されるので、シール空間のオイルが淀む不都合はなく、オイルの入れ替わりを促進させて、軸封部材の温度上昇を避けることが可能となる。
【0013】
ここで、前記シール空間を、前記ラジアル軸受と、前記軸封部材と、前記ハウジングの内面と、前記駆動軸の周面とによって囲まれて画成し、前記シール空間を画成する前記ハウジングの内面を、前記軸封部材に向かって内径が大きくなる円錐面を有するようにするとよい。
このような構成によれば、シール空間にオイル供給通路を介して導かれたオイルが重力により円錐面下部の傾斜面を伝って軸封部材の方向へ導かれ易くなり、また、シール空間の容積を必要以上に大きくすることなく、オイルの淀みを一層抑えることが可能となる。
【0014】
また、前記オイル供給通路の他端は、前記円錐面の部分で前記シール空間に接続されていることが望ましい。
このような構成によれば、オイル供給通路を穿設するにあたり、シール空間の円錐面の内側から外側に向かってドリルで穿孔するような場合、オイル供給通路の円錐面に対するドリルの入射角を大きくすることが可能となり、穿孔周縁にバリが発生する不都合を低減することが可能となる。
【0015】
なお、オイル供給通路の他端は、軸封部材に導入オイルが直接当たらない位置に開口することが好ましい。
オイル供給通路から軸封部材に流入するオイルが直接軸封部材に当たると、長年の使用により、軸封部材が変形し、シール機能が損なわれる不都合があるが、上述のような構成とすることで、軸封部材の変形を抑え、軸封部材の寿命を長くすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、一端がクランク室に連通し、他端がラジアル軸受と軸封部材との間に形成されたシール空間に連通するオイル供給通路と、一端がシール空間に連通し、他端がクランク室に連通するオイル排出通路と、をハウジングに備えた圧縮機において、オイル排出通路のシール空間に開口する流入口を、駆動軸の軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸の軸心を含む水平面と同位置かそれよりも下側の位置に開口するようにしたので、シール空間のオイルを適正量に保持してオイル不足を回避して良好な潤滑を確保することができ、また、軸封部材に供給される潤滑油の入れ替わりを促進することで、軸封部材の温度上昇による軸封機能の低下(オイル漏れ)を抑制することが可能となる。
【0017】
また、シール空間を画成するハウジングの内面を、軸封部材に向かって内径が大きくなる円錐面を有することで、シール空間にオイル供給通路を介して導かれたオイルが重力により円錐面下方の傾斜面を伝って軸封部材へ導かれ易くなり、また、シール空間の周面を円錐面とすることによってシール空間の容積が必要以上に大きくならず、オイルの淀みを抑えることが可能となる。
【0018】
さらに、オイル供給通路の他端を円錐面の部分でシール空間に接続するようにすることで、オイル供給通路を穿設するにあたり、穿孔周縁にバリが発生する不都合を低減することが可能となる。
【0019】
また、オイル供給通路の他端を、軸封部材に導入オイルが直接当たらない位置に開口することで、軸封部材の変形を抑え、軸封部材の寿命を長くすると共にシール機能が損なわれる不都合を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1 は、本願発明の実施の形態に係る圧縮機の断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1 の圧縮機のフロントヘッドの一部を拡大した断面図であり、(b)は、(a)のA−A線で切断した断面図であり、(c)は、(b)のB−B線で切断した断面図である。
【
図3】
図3は、シール空間へのオイルの流れ、オイルの貯留状態を説明する図であり、(a)は、
図1の圧縮機のフロントヘッドの一部を拡大した断面図、(b)は、(a)のA−A線で切断した断面図、である。
【
図4】
図4は、オイル排出通路の他の例を示す圧縮機のフロントヘッドの一部を拡大した断面図である。
【
図5】
図5は、オイル排出通路のさらに他の例を示す圧縮機のフロントヘッドの一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の態様を図面に基づいて説明する。
図1において、圧縮機の一例として冷凍サイクルに用いられる可変容量型斜板式圧縮機が示されている。この圧縮機は、シリンダブロック1と、このシリンダブロック1のリア側(図中、右側)にバルブプレート2を介して組み付けられたリアヘッド3と、シリンダブロック1のフロント側(図中、左側)を閉塞するように組み付けられたフロントヘッド4とを有して構成されている。これらフロントヘッド4、シリンダブロック1、バルブプレート2、及び、リアヘッド3は、締結ボルト5により軸方向に締結されており、圧縮機全体のハウジングを構成している。
【0022】
フロントヘッド4とシリンダブロック1とによって画設されるクランク室6には、一端がフロントヘッド4から突出する駆動軸7が収容されている。この駆動軸7のフロントヘッド4から突出した部分には、車両のエンジンにベルトを介して連結される図示しない駆動プーリが固定される。また、この駆動軸7の一端側は、フロントヘッド4との間に設けられた軸封部材10を介してフロントヘッド4との間が気密よく封じられ、駆動軸7に沿った冷媒漏洩を防止するようにしている。そして、駆動軸7の一端側は、フロントヘッド4の軸封部材10よりもクランク室側に収容されたラジアル軸受11にて回転自在に支持され、駆動軸7の他端側は、シリンダブロック1に収容されたラジアル軸受12にて回転自在に支持されている。
【0023】
シリンダブロック1には、前記ラジアル軸受12が収容される支持孔13と、この支持孔13を中心とする円周上に等間隔に配された複数のシリンダボア15とが形成されており、それぞれのシリンダボア15には、片頭ピストン16が往復摺動可能に挿入されている。この片頭ピストン16は、シリンダボア15内に挿入される頭部16aと、クランク室6に突出する係合部16bとを軸方向に接合して形成されている。
【0024】
前記駆動軸7には、クランク室6内において、該駆動軸7と一体に回転するスラストフランジ17が固定されている。このスラストフランジ17は、駆動軸7に対して略垂直に形成されたフロントヘッド4の内壁面4aに対してスラスト軸受18を介して回転自在に支持されている。このスラストフランジ17によって
動力伝達部材が構成されており、このスラストフランジ17は、リンク機構19を介して斜板20が連結されている。
【0025】
斜板20は、駆動軸7上に摺動自在に設けられたヒンジボール21を中心に傾動可能に取り付けられているもので、リンク機構19を介してスラストフランジ17の回転に同期して一体に回転するようになっている。そして、斜板20の周縁部には、前後に配された一対のシュー22を介して片頭ピストン16の前記係合部16bが係留されている。
【0026】
したがって、駆動軸7が回転すると、これに伴って斜板20が回転し、この斜板20の回転運動がシュー22を介して片頭ピストン16の往復直線運動に変換され、シリンダボア内において片頭ピストン16とバルブプレート2との間に形成される圧縮室23の容積が変更されるようになっている。
【0027】
尚、24は、リアヘッド3に形成された吸入室25と圧縮室23とを図示しない吸入弁を介して連通するバルブプレート2に形成された吸入孔であり、26は、リアヘッド3に形成された吐出室27と圧縮室23とを図示しない吐出弁を介して連通するバルブプレート2に形成された吐出孔である。また、28は、吐出室27とクランク室6との連通状態を制御し、クランク室圧を調整して斜板20の傾動角度を調節する圧力制御弁である。
【0028】
ところで、
図2にも示されるように、前記軸封部材10とラジアル軸受11は軸方向に間隔を開けて配設され、フロントヘッド4の内面と駆動軸7の周面との間で軸封部材10とラジアル軸受11とによって区画形成された環状のシール空間30が形成されている。
すなわち、シール空間30は、ラジアル軸受11と、軸封部材10と、フロントヘッド4のボス部41の内面と、駆動軸7の周面とによって囲まれて画成されているもので、この例では、シール空間30を画成するフロントヘッド4のボス部41の内面は、ラジアル軸受11から軸封部材10に向かって徐々に内径が大きくなる円錐面30aとこれに連なる円筒面30bに形成されている。
【0029】
また、フロントヘッド4には、駆動軸7の上方に位置する内壁面4aのスラスト軸受18を受ける軸受面、より具体的には、図示するようにスラスト軸受18をニードルローラ18aとこれを保持するスラストレース18bとによって構成する場合には、フロントヘッド4のスラストレース18bを受ける部分に潤滑油を導く案内溝31が下方に向って延設されている。
【0030】
そして、案内溝31とシール空間30とは、駆動軸7の軸線に対して所定の角度でフロントヘッド4に穿設されたオイル供給通路32によって接続されており、このオイル供給通路32を介して、案内溝31に導入された潤滑油をシール空間30に供給するようにしている。ここで、オイル供給通路32は、案内溝31を伝って降下する潤滑油を受け止めることができるよう、案内溝31の直下に開口されており、案内溝31を伝って降下する潤滑油の大部分を導入できるようにしている。
【0031】
また、オイル供給通路32の他端は、前記円錐面30aの部分のみでシール空間30に接続されており、また、軸封部材10に導入オイルが直接当たらない位置に開口されている。すなわち、円錐面30aは、軸封部材10とは軸方向で重なり合う位置にはなく、軸封部材10よりも所定寸法だけラジアル軸受11寄りの部位にずらして形成され、この円錐面の形成位置を調整することで、オイル供給通路32からシール空間へ供給されるオイルの導入位置を軸封部材10よりもラジアル軸受側に寄った所定位置としている。
【0032】
なお、この例では、円錐面30aと駆動軸7の軸線とのなす角度がおよそ25度に設定され、オイル供給通路32と駆動軸7の軸線とのなす角度が30〜35度に設定され、したがって、円錐面30aとオイル供給通路32とのなす角度は、55〜60度に設定されている。
【0033】
したがって、オイル供給通路32が円錐面30aの部分のみでシール空間30に接続されているので、オイル供給通路32を穿設するにあたり、シール空間30の円錐面30aの内側から外側に向かってドリルで穿孔するような場合でも、オイル供給通路32の円錐面30aに対するドリルの入射角を大きくすることが可能となり、穿孔周縁にバリが発生する不都合を低減することが可能となる。
【0034】
フロントヘッド4には、一端がシール空間30に連通し、他端がクランク室6に連通するオイル排出通路34がさらに形成されている。この例において、オイル排出通路34は、駆動軸7と略平行に形成され、シール空間30に開口する流入口34a(オイル排出通路34の一端)は、一部又は全部が前記円錐面30aにかかるように開口しており、また、
ハウジングが駆動軸7の軸心Oを水平にして配置される場合に、駆動軸7の軸封部材と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸7の軸心Oを含む水平面上、又は、これよりも下側となる位置(
図2(b)のαで示す範囲)に開口している。
【0035】
また、オイル排出通路34の他端は、スラスト軸受18よりも内側(駆動軸側)においてフロントヘッド4の内壁面4aに開口しており、このオイル排出通路34から流出した潤滑油をスラスト軸受18の隙間を通過させてクランク室6に戻すようにしている。
【0036】
以上の構成において、フロントヘッド4の内壁面に付着された潤滑油が第1の案内溝31を伝って下方へ流下すると、その殆ど全部がオイル供給通路32に導入され、このオイル供給通路32を伝ってシール空間30に導かれる。
シール空間30の内周面は、軸封部材10に向かって拡がる円錐面30aに形成されているので、シール空間30に導かれたオイルは、軸封部材10の手前において、
図3(a)にも示されるように、駆動軸7の周囲やフロントヘッド4のボス部41の内面を伝って駆動軸の下側に導かれ、その後、円錐面30aを伝って軸封部材10へ導かれる。
【0037】
したがって、オイル供給通路32を伝ってシール空間30に供給された潤滑油は、その殆どを軸封部材10へ供給することができるので、軸封部材10の良好な潤滑を保証することが可能となる。すなわち、オイル供給通路32を介してシール空間30に導かれるオイル量が少ない場合でも、シール空間30の内面は円錐面30aに形成されているので、シール空間30の容積は必要以上に大きくなっておらず、また、オイルを軸封部材10に向けて積極的に移動させることができるので、軸封部材10に対して効果的にオイルを供給することが可能となり、軸封部材10と駆動軸7との潤滑を確保することが可能になる。
【0038】
また、オイル排出通路34は、駆動軸7の軸封部材10と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸7の軸心Oを含む水平面上、又は、これよりも下側となる位置で円錐面30aに開口しているので、シール空間30に溜められたオイルの液位が軸封部材10に達しない場合には、シール空間30内のオイルは排出されることはなく、また、シール空間30に溜まるオイルの液位が軸封部材10に達した後は、
図3(b)に示されるように、シール空間30内のオイルがオイル排出通路34を介してクランク室6に排出されるので、シール空間30には、必要最小限度のオイルしか溜まらないことになり、軸封部材10に供給される潤滑油の入れ替わりを促進させることが可能となる。したがって、シール空間30に停留したオイルの撹拌や摺動発熱によるスラッジ化、及び、そのスラッジによる軸封部材10からのオイル漏れを防ぐことが可能となり、軸封部材10の寿命を延ばすことが可能となる。
【0039】
発明者らが、圧縮機耐久試験における実際のシール空間の温度を計測したところ、オイル排出通路34が設けられていない従来構成においては、高速断続運転時の温度が157℃、最小吐出容量高速連続運転時の温度も157℃であったのに対し、オイル排出通路34を設けた本発明の構成においては、高速断続運転時の温度が148℃、最小吐出容量高速連続運転時の温度は136℃となり、シール空間のオイルの淀みを改善することでシール空間の温度が低減することが実証された。
【0040】
なお、上述の構成例においては、オイル排出通路34を駆動軸7と平行に形成した例を示したが、
図4に示されるように、オイル排出通路34を、駆動軸7に対して斜めに形成し、シール空間30の開口端よりも下方となる位置でクランク室6に連通するようにしてもよい。
このような構成においても、オイル排出通路34のクランク室6への開口端は、オイル排出通路34から流出した潤滑油をスラスト軸受18の隙間を通過させてクランク室6に戻すような開口位置にするとよい。
このような構成においては、シール空間30の余剰オイルが背圧に加えて重力の作用によってオイル排出通路34を介してクランク室6へ導かれるので、シール空間30のオイルの液位を管理しやすいものとなる。
【0041】
また、上述の構成例においては、オイル排出通路34をフロントヘッド4に1つだけ設けた例を示したが、
図5に示されるように、複数のオイル排出通路34−1,34−2を設けるようにしてもよい。このような構成においても、各オイル排出通路34−1,34−2は、シール空間30に開口する流入口が、駆動軸7の軸封部材10と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸7の軸心Oを含む水平面と同位置かそれよりも下側の位置に開口している必要がある(この例では、一方のオイル排出通路34−1の流入口は、駆動軸7の軸心Oを含む水平面と同位置に開口し、他方のオイル排出通路34−2の流入口は、駆動軸7の軸封部材10と接触する最も低い位置よりも上側であり、且つ、駆動軸7の軸心を含む水平面よりも下側の位置に開口している)。また、それぞれのオイル排出通路34−1,34−2は、駆動軸7に対して平行であっても、クランク室側が下になるように傾斜させてもよい。
【符号の説明】
【0042】
4 フロントヘッド
6 クランク室
7 駆動軸
10 軸封部材
11,12 ラジアル軸受
30 シール空間
30a 円錐面
32 オイル供給通路
34 オイル排出通路
34−1,34−2 オイル排出通路