(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498406
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】離型剤組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 33/64 20060101AFI20190401BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20190401BHJP
C08L 83/08 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
B29C33/64
C08L83/04
C08L83/08
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-196434(P2014-196434)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-68261(P2016-68261A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】宮田 公二
【審査官】
辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−529998(JP,A)
【文献】
特開昭60−145815(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/008443(WO,A2)
【文献】
特開平03−073318(JP,A)
【文献】
特開2013−107327(JP,A)
【文献】
特開昭63−006093(JP,A)
【文献】
特開2003−231142(JP,A)
【文献】
特開平09−040712(JP,A)
【文献】
特開2010−052151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリシラザンとポリシロキサンを含有する離型剤組成物において、有機ポリシラザンとポリシロキサンの合計を100重量部としたとき有機ポリシラザンの配合量が60〜90重量部であり、有機ポリシラザンとポリシロキサンが反応しないものである離型剤組成物(但し、シランは含まない)。
【請求項2】
有機ポリシラザンが一般式(1)で表される繰返し単位を有する請求項1に記載の離型剤組成物。
【化1】
(式中、R
1、R
2は互いに同一または相異なって、水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示す(炭化水素基の隣接する2つの炭化水素原子間の結合は、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−または−O−CO−)、アミド結合(−NHCO−または−CONH−)、スルホン酸エステル結合(−SO
2−O−または−O−SO
2−)で介在されていてもよい。)。少なくともR
1、R
2のいずれか一方は炭化水素基である。nは2以上の整数である。)
【請求項3】
ポリシロキサンが一般式(2)で表される請求項1または2に記載の離型剤組成物。
【化2】
(R
3は、互いに同一または相異なってフェニル基又はアルキル基を表す。mは1以上の整数である。)
【請求項4】
ポリシロキサンがジメチルポリシロキサンである請求項1〜3のいずれかに記載の離型剤組成物。
【請求項5】
ポリシロキサンの動粘度が25℃において1000cSt以上である請求項1〜4のいずれかに記載の離型剤組成物。
【請求項6】
離型剤組成物100重量部に対して、有機ポリシラザンとポリシロキサンの配合量が0.25〜10重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の離型剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離型剤組成物に関し、特に外部金型離型剤に適した離型剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム製品を成形する際に、金型からの剥離を容易にすることを目的として、離型剤が使用される。
【0003】
離型剤組成物として、一般的にシリコーン、ワックス、界面活性剤またはフッ素成分を主成分とする、もしくはこれらを混合した離型剤が使用される。しかしながら、従来の離型剤は、成形毎あるいは成形数回程度で離型性能の低下が生じる。そのため、成形毎あるいは数回成形毎に離型剤を塗布する必要があり、生産効率が悪いことが問題とされており、従来より離型剤を簡便に塗布することにより連続して成形を可能とする方法が検討されてきた。
【0004】
簡便に塗布することにより多脱型可能な離型性能を有する離型剤として、ポリオルガノシロキサンをベースとする硬化型シリコーンゴムを離型剤組成物中に含有し、離型膜を焼き付け硬化させる方法(特許文献1)や皮膜形成シリコーンを金型表面をシリコーンアクリル系プライマーで下地処理し、反応性シリコーンオイルを積層し、離型膜を焼き付け硬化させる方法(特許文献2)が提案されている。しかしながら、前者の方法では、金型表面との密着性が不足しており、その離型性能は十分ではない。また、後者は、複数の塗布工程が必要になるといった問題がある。特許文献3は、シロキサンとシランを含みシラザンを含んでいてもよいシリコンベースのコーティング組成物を開示し、実施例では、ポリシラザン+ポリシロキサン+ポリシランの組成物、ポリシロキサン+ポリシランの組成物、ポリシラザン+ポリシランの組成物が開示されているが、ポリシラザンとポリシロキサンから構成される組成物は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-20029
【特許文献2】特開2010-52151
【特許文献3】WO2014/008443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、金型との密着性が良好で1回塗布で多脱型可能な焼き付け型離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は下記項1〜項6の離型剤組成物を提供するものである。
項1. 有機ポリシラザンとポリシロキサンを含有する離型剤組成物において、有機ポリシラザンとポリシロキサンの合計を100重量部としたとき有機ポリシラザンの配合量が60〜90重量部であり、有機ポリシラザンとポリシロキサンが反応しないものである離型剤組成物
(但し、シランは含まない)。
項2. 有機ポリシラザンが一般式(1)で表される繰返し単位を有する項1に記載の離型剤組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R
1、R
2は互いに同一または相異なって、水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示す(炭化水素基の隣接する2つの炭素原子間の結合は、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−または-O−CO−)、アミド結合(−NHCO−または-CONH−)、スルホン酸エステル結合(−SO
2−O−または−O−SO
2−)で介在されていてもよい。)。少なくともR
1、R
2のいずれか一方は炭化水素基である。nは2以上の整数である。)
項3. ポリシロキサンが一般式(2)で表される項1または2に記載の離型剤組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
(R
3は、互いに同一または相異なってフェニル基又はアルキル基を表す。mは1以上の整数である。)
項4. ポリシロキサンがジメチルポリシロキサンである項1〜3のいずれかに記載の離型剤組成物。
項5. ポリシロキサンの動粘度が25℃において1000cSt以上である項1〜4のいずれかに記載の離型剤組成物。
項6. 離型剤組成物100重量部に対して、有機ポリシラザンとポリシロキサンの配合量が0.25〜10重量部である項1〜5に記載の離型剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の離型剤組成物によれば、金型との密着性が良好であるため簡便な塗布方法によりゴム製品を多数回脱型することができる。また、本発明の離型剤組成物は金型との密着性に優れる一方、洗浄剤で剥離することができるため、金型洗浄が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の詳細を実施形態に基づいて更に詳しく説明する。
【0014】
本発明の離型剤組成物に含有される有機ポリシラザンは、下記一般式(1)により表される繰返し単位を有する。
【0016】
(式中、R
1、R
2は互いに同一または相異なって、水素原子または置換されていてもよい炭化水素基を示す(炭化水素基の隣接する2つの炭素原子間の結合は、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−または-O−CO−)、アミド結合(−NHCO−または-CONH−)、スルホン酸エステル結合(−SO
2−O−または−O−SO
2−)で介在されていてもよい。)。少なくともR
1、R
2のいずれか一方は炭化水素基である。nは2以上の整数である。)
有機ポリシラザンの粘度は通常5〜50mPa・sであり、好ましくは10〜35mPa・sである。
【0017】
R
1、R
2において、炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐を有するアルキル基、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜4のアルケニル基、シクロへキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基を挙げることができる。
【0018】
R
1、R
2の置換基としては、ハロゲン原子やトリアルコキシシリル基(-Si(OR)
3)(Rはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル又はtert−ブチルである)、トリクロロシリル基(−SiCl
3)等が挙げられる。好ましい置換された炭化水素基は、下記の基を挙げることができる。
―CH
2CH
2Si(OMe)
3、―CH
2CH
2Si(OEt)
3、
―CH
2CH
2CH
2Si(OEt)
3、―CH
2CH
2CH
2Si(OMe)
3。
【0019】
R
1、R
2で表される炭化水素基の隣接する2つの炭素原子間の結合は、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−または-O−CO−)、アミド結合(−NHCO−または-CONH−)、スルホン酸エステル結合(−SO
2−O−または−O−SO
2−)等の結合で介在されていてもよい。具体的には、隣接する2つの炭素原子間の結合(−
C−
C−結合)は、−
C−O−
C-、−
C−COO−
C-、−
C−O−CO−
C-、−
C−NHCO−
C-、−
C−CONH−
C-、−
C−SO
2−O−
C-、−
C−O−SO
2−
C−のいずれかであってもよい。
【0020】
有機ポリシラザンは単一の繰返し単位から構成されていてもよく、複数の繰返し単位を有していてもよい。複数の繰返し単位を有する有機ポリシラザンとしては例えば下記式で表されるポリシラザンを挙げることができる。
【0022】
(式中、p、qは、1以上の整数である。)
有機ポリシラザンの側鎖の置換されていてもよい炭化水素基(さらにエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホン酸エステル結合で炭素−炭素結合が介在されていてもよい)の割合は、R
1、R
2およびSiに結合したメチル基をあわせた全ての側鎖の中、通常40〜100%であり、好ましくは50〜80%である。この場合の全ての側鎖の中の水素原子の割合は、通常60〜0%であり、好ましくは50〜20%である。
【0023】
有機ポリシラザンの市販品としては、AZエレクトロマテリアルズ社のKiON ML33、KiON HTA1500 slow cure、KiON HTA1500 rapid cureを挙げることができる。
【0024】
ポリシロキサンは側鎖が非反応性基から構成されるポリシロキサンであり、下記一般式(2)により表される。
【0026】
R
3は、互いに同一または相異なってフェニル基、アルキル基等の非反応性基を表す。アルキル基は、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル又はtert−ブチル、好ましくはメチルである。好ましいポリシロキサンはR
3がすべてメチル基であるジメチルポリシロキサンである。ポリシロキサンの動粘度は25℃において通常1000cSt以上であり、好ましくは1000cSt〜800万cSt、より好ましく1000〜10000cStである。mは1以上の整数である。
【0027】
本発明において、一般式(1)で示される有機ポリシラザンの配合量は、有機ポリシラザン、及びポリシロキサンの合計100重量部に対して、60〜90重量部であり、好ましくは70〜90重量部である。60重量部よりも少ない場合は、求める離型性能が得られなくなる。また、90重量部よりも高い場合は、金型洗浄性が悪くなる。
【0028】
ポリシロキサンの配合量は、有機ポリシラザン、及びポリシロキサンの合計100重量部に対して、40〜10重量部であり、好ましくは30〜10重量部である。
【0029】
有機ポリシラザンとポリシロキサン混合物の配合量は、離型剤組成物100重量部に対して、通常0.25〜10重量部であり、好ましくは0.5〜5重量部である。0.25重量部よりも低い場合は、求める離型性能が得られなくなる。また、10重量部よりも高い場合は、金型洗浄性が悪く、また高価になり実用的でない。
【0030】
有機ポリシラザンとポリシロキサンの割合、及び離型剤組成物に対する有機ポリシラザンとポリシロキサン混合物の割合を上記範囲とすることによって、離型剤組成物が得られる。
【0031】
本発明の離型剤組成物の残部は溶剤である。溶媒は上記有機ポリシラザンとポリシロキサン混合物を溶解し、構造中にヒドロキシ基を含まないもの、例えばヘキサン、オクタン、ノナン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、ジメチルエーテル、LPG,ジエチルエーテル等が挙げられる。これらの有機溶剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0032】
本発明による離型剤組成物は、当該分野において常用されているゴム成形法における用法に従って使用することができ、該離型剤組成物を金型に塗布する方法としては、スプレー塗布、刷毛塗り、ディッピング等が挙げられる。
【0033】
また、本発明による離型剤組成物は、原液、及びメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤での希釈、あるいはLPG、DME等の噴射剤を混合したエアゾールでの使用も可能である。
【0034】
金型に付着させる離型剤の不揮発成分量は、1m
2当り0.1〜100g、好ましくは1〜30gである。上記の量を金型に塗布することによって離型持続性能が十分に得られる。
【0035】
通常は、約150〜200℃に設定した金型に上記の離型剤組成物を塗布し、該離型剤組成物中の揮発性成分を蒸発させることによって、該内壁表面上に皮膜を形成させる。この場合、金型に付着させる離型剤組成物中の不揮発成分の付着量は、1m
2当り0.1〜100g、好ましくは1〜30gである。上記の量を金型に塗布することによって離型持続性能が十分に得られる。
【0036】
上述のようにして内壁に離型剤皮膜が形成された金型内へ、ゴム材料を設置し、該樹脂組成物を加圧条件下で、加硫させ、成形品を離型させることによって、ゴム成形品が製造される。この場合、該成形品の離型性は実用上十分なものである。
【0037】
なお、対象となるゴム材料としては、当該分野において従来から使用されているものに対して使用でき、特に限定的ではないが、次のゴム種が挙げられる:天然ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
評価に使用した原料を表1に記載した。
【0040】
【表1】
【0041】
A1〜A2:有機ポリシラザン成分、B1〜B5:ポリシロキサン成分、及び炭化水素系溶剤を混合攪拌し、離型剤組成物を作製した。表2に各離型剤組成物の配合を示す。なお、A成分、B成分を除いた残部はメチルシクロヘキサンである。
【0042】
ゴム原料は、エチレンプロピレンゴム38重量部、充填剤としてカーボン38重量部、軟化剤として鉱油18重量部、架橋助剤2重量部、加硫剤4重量部を周知の練りロールで混練りし、未加硫のゴム生地を得たものを使用した。
【0043】
離型性評価
(1)試験用金型(鉄製、成型品サイズ:直径20mm×高さ20mmの円柱)に離型剤をスプレーガンで均一に約3g(溶剤を含む全量)塗布した。
(2)ゴム原料約8gを試験用金型に設置し、加熱・加圧条件下で硬化させた。
(3)試験用金型から成型品を剥離したときの荷重をプッシュプルスケールで測定した。
(4)上記(2)、(3)の工程を繰り返し、該成形工程を20回行った。尚、要した荷重が25N未満である場合を○、25N以上を×で表した。
【0044】
金型洗浄性評価
(1)鉄製テストピース(JIS G 3141)に離型剤を8g塗布し、170℃、8時間焼き付けた。(2)離型剤塗布後のテストピースを30wt%水酸化カリウム水溶液に、室温、12時間浸漬した。(3)テストピースを水で洗浄しFT−IRによりテストピース表面の離型剤成分の有無を確認した。
【0045】
(ケイ素−炭素結合:1250cm
‐1、窒素−水素結合1150cm
‐1、ケイ素−酸素結合:、ケイ素−窒素結合:700〜800cm
‐1)
試験結果は表2に示すとおりである。
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示されたように、有機ポリシラザンとポリシロキサンを特定の比率で配合した本発明の離型剤組成物は、金型洗浄性および離型性に優れることが示された。一方、ポリシロキサンを含有しないか含有量が少ない場合は、離型性には優れるが金型洗浄性に劣り、有機シラザンを含有しない場合は、離型性および金型洗浄性の両方において劣ることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の離型剤組成物は、特にゴム製品を成形する際の離形剤組成物として有用であり、塗布方法が簡便でゴム製品を多数回脱型することができる焼き付け型離型剤として使用することができる。