特許第6498421号(P6498421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6498421複数の麦芽に由来する香気を共存させた発酵飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498421
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】複数の麦芽に由来する香気を共存させた発酵飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 11/00 20060101AFI20190401BHJP
   C12C 1/18 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C12C11/04
   C12C1/18
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-240465(P2014-240465)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-101103(P2016-101103A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年4月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】311002447
【氏名又は名称】キリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】森 本 宗 徳
(72)【発明者】
【氏名】塚 原 多恵子
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−245606(JP,A)
【文献】 ビール醸造技術,1999年12月28日,第471頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含み、前記麦汁静置工程で麦汁に黒麦芽およびピート麦芽が添加される方法により得られる発酵麦芽飲料であって、
黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部としたものであり、
前記ピート麦芽の量が、麦芽原料全量の0.0025質量%以上5質量%未満であり、
前記黒麦芽の量が、麦芽原料全量の0.05質量%以上10質量%未満である、発酵麦芽飲料。
【請求項2】
前記黒麦芽とピート麦芽との質量比率(黒麦芽/ピート麦芽)が2以上である、請求項1に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項3】
前記黒麦芽が穀皮分離焙煎麦芽である、請求項1または2のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項4】
色度が10EBC以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項5】
前記麦芽原料が、淡色麦芽およびカラメル麦芽含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
【請求項6】
黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部として用い、
前記ピート麦芽の量が、麦芽原料全量の0.0025質量%以上5質量%未満であり、
前記黒麦芽の量が、麦芽原料全量の0.05質量%以上10質量%未満であることを特徴とする、発酵麦芽飲料を製造する方法であって、
麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含み、前記麦汁静置工程で黒麦芽およびピート麦芽が麦汁に添加される、方法。
【請求項7】
前記麦汁が淡色麦芽およびカラメル麦芽を含んでなる麦芽原料から調製されたものである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の麦芽に由来する香気を共存させた発酵飲料およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
高い色度の発泡性麦芽発酵飲料を得るためには、原料として、カラメル麦芽、黒麦芽をはじめとする濃色麦芽が使用される(非特許文献1)。これらの濃色麦芽は、淡色麦芽の通常の製麦方法に高温の焙煎工程を加え、色度を高めることで製造される。濃色麦芽を使用したビールの製造では、一般的に、仕込み工程において濃色麦芽と焙煎していない淡色麦芽とを混合して糖化する。得られたビールには、色の付与と同時に、焙煎で生成される香りも付与されるが、嗜好によっては、醤油様、コゲ様の、甘く重いネガティブな香りと捉えられ、必ずしも望ましいとはいえない。
【0003】
上記の他にも、発泡性麦芽発酵飲料の製造においては、様々な香気を有する麦芽が原料として利用されている。例えば、穀皮を分離した後に焙煎処理を行うことにより得られる穀皮分離焙煎麦芽は、コーヒー様、チョコレート様の特有の香気を有することが報告されている(非特許文献2)。また、ピート麦芽は、スモーク香(燻製香)を特徴とすることが広く知られている(非特許文献3)。
【0004】
しかし、複数の麦芽由来の香気の相互作用、さらに具体的には、濃色麦芽使用ビールにおいて、コーヒー様、チョコレート様の香気と、スモーク香とを共存させた場合の相互作用について、これまでに知見は何ら得られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ビール醸造技術(宮地秀雄 食品産業新聞社 1999年12月28日発行)、p190−196
【非特許文献2】http://www.weyermann.de/eng/produkte.asp?idkat=19&umenue=yes&idmenue=0&sprache=2
【非特許文献3】ビール醸造技術(宮地秀雄 食品産業新聞社 1999年12月28日 特殊麦芽p471)
【発明の概要】
【0006】
本発明は、濃色麦芽に由来するネガティブ香気が低減するとともに、より嗜好性の高い好ましい香気を有する発酵麦芽飲料を提供することを目的とし、より具体的には、コーヒー様、チョコレート様の香気と、スモーク香とを共存させた、より嗜好性の向上した発酵麦芽飲料を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、発酵麦芽飲料の製造において特定の麦芽を組合せることにより、濃色麦芽に由来するネガティブ香気が低減するとともに、コーヒー様、チョコレート様の香気と、スモーク香とを共存させた、嗜好性の高い好ましい香気を有する発酵麦芽飲料提供しうることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部としたものである、発酵麦芽飲料。
(2)ピート麦芽の量が、麦芽原料全量の0.0025質量%以上である、(1)に記載の製造方法。
(3)黒麦芽の量が、麦芽原料全量の0.05質量%以上である、(1)または(2)に記載の発酵麦芽飲料。
(4)ピート麦芽と黒麦芽との質量比率(黒麦芽/ピート麦芽)が2以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の発酵麦芽飲料。
(5)黒麦芽が穀皮分離焙煎麦芽である、(1)〜(4)のいずれかに記載の発酵麦芽飲料。
(6)色度が10EBC以上である、(1)〜(5)のいずれかに記載の発酵麦芽飲料。
(7)麦芽原料が、淡色麦芽、カラメル麦芽のうち少なくとも一つを含んでなる、(1)〜(6)のいずれか一項に記載の発酵麦芽飲料。
(8)黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部として用いることを特徴とする、発酵麦芽飲料を製造する方法。
(9)麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含み、黒麦芽およびピート麦芽が麦汁静置工程で添加される、(8)に記載の方法。
(10)麦汁が、淡色麦芽およびカラメル麦芽のうち少なくとも一つを含んでなる麦芽原料から調製されたものである、(9)に記載の方法。
【0009】
本発明によれば、濃色麦芽に由来するネガティブ香気が低減するとともに、より嗜好性の高い好ましい香気を有する発酵麦芽飲料を提供することができる。より具体的には、コーヒー様、チョコレート様の香気と、スモーク香とを共存し、複雑さが増すと同時に余韻のキレも増した、嗜好性の著しく向上した発酵麦芽飲料を提供することができる。後記実施例に示されるように、このような発酵麦芽飲料はこれまでに知られておらず、市販品にも見出されないことから、本発明は需要者から求められる新しいタイプの発酵麦芽飲料を提供できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本明細書において「色度」とは、EBC(European Brewery Convention)法によって測定される色度を意味し、単位は「EBC」である。
【0011】
本明細書において「濃色麦芽」とは、麦から麦芽を製造する際の焙煎を比較的高い温度(例えば約120℃)で行い、焦がして濃い褐色にした麦芽を意味する。これに対し、「淡色麦芽」とは、麦から麦芽を製造する際の焙煎を80℃程度の温度上昇に抑えて焦がさないように製造された淡い色の麦芽を意味する。
【0012】
本明細書において「黒麦芽」とは、「濃色麦芽」のうち、色度が800〜1800EBC程度であるものを意味する。黒麦芽は、淡色麦芽を湿らせ60〜80℃程度の温度で加熱し、最終的には180〜220℃程度まで加熱して得ることができる。その際、希望する色度を得るために30〜180分間の保持を行ってもよい。この時メラノイジンが形成され、各種のヘテロサイクリック化合物(複素環式化合物)、例えばフルフラール、フルフリルメルカプタン、その他、マルトール、イソマルトール、ピラジンが増大するが、それに伴い、焦げ臭い苦み物質も形成される。
【0013】
本明細書において「カラメル麦芽」とは、「濃色麦芽」のうち、色度が50〜450EBC程度であるものを意味する。カラメル麦芽は、麦芽を水に浸漬して水分を含ませた後、60〜75℃で保持し、最終的に120〜180℃まで加熱して得ることができる。その際、希望する色度を得るために1〜2時間の保持を行ってもよい。この時メラノイジンが形成され、次いでカラメル物質が形成される。
【0014】
本明細書において「ピート麦芽」とは、麦芽を乾燥するときに、泥炭(ピート)で燻蒸したときに発生する煙を吸着させて得られる麦芽を意味する。ピート麦芽におけるスモーク香は、例えば、キルニング(kilning)中に吹き込む煙の量を調節することができる。スモーク香の強さはピート麦芽におけるフェノール値を指標として数値化することができる。ピート麦芽におけるフェノール値は、好ましくは2〜50ppm(mg/kg)、より好ましくは25〜50ppm(mg/kg)である。かかるピート麦芽におけるフェノール値は、麦芽を水蒸気蒸留して得られる留出液中の全てのフェノール成分の量をガスクロマトグラフ法により測定し、それらの量を合計することにより算出することができる。上記フェノール成分としては、フェノール、クレゾール、グアイアコールおよびエチルフェノールが挙げられる。
【0015】
発酵麦芽飲料
本発明の発酵麦芽飲料は、黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部としたことを特徴とする。
【0016】
本発明の効果は、後述の実施例においても実証されているように、ピート麦芽の量が麦芽原料全量の0.0025質量%以上であるサンプルにおいて広く認められている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、ピート麦芽の量は、麦芽原料全量の0.0025質量%以上である。また、ピート麦芽の量の範囲は特に制限されるものではないが、好ましくは麦芽原料全量の0.0025〜5質量%、より好ましくは0.005〜1質量%とされる。
【0017】
また、本発明の効果は、後述の実施例においても実証されているように、黒麦芽の量が麦芽原料全量の0.05質量%以上であるサンプルにおいて広く認められている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、黒麦芽の量は、麦芽原料全量の0.05質量%以上である。また、黒麦芽の量の範囲は特に制限されるものではないが、好ましくは麦芽原料全量の0.05〜10質量%、より好ましくは0.05〜5質量%とされる。
【0018】
また、本発明における黒麦芽は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、穀皮分離焙煎麦芽が好ましい。穀皮分離焙煎麦芽は、麦芽を公知の搗精機を用いて処理し、核部分にあたる胚乳画分と、穀皮部分含むいわゆる糠(ぬか)とに分離することにより得ることができる。搗精の歩留まりは、胚乳画分と糠との分離が的確に行われるように、供する麦芽の品質を考慮して、適宜調整することができる。本発明においては、搗精の歩留まりの程度は80〜99%が好ましいものであり、特に85〜95%程度が望ましい。
【0019】
また、本発明の効果は、後述の実施例においても実証されているように、黒麦芽とピート麦芽との質量比率(黒麦芽/ピート麦芽)が2以上のサンプルにおいて広く認められている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、黒麦芽とピート麦芽との質量比率は2以上である。黒麦芽とピート麦芽との質量比率の上限値は特に制限されるものではないが、好ましくは10、より好ましくは44とされる。
【0020】
また、本発明の効果は、後述の実施例においても実証されているように、麦芽原料が淡色麦芽、カラメル麦芽を含んでなるサンプルにおいて広く認められている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、麦芽原料は、淡色麦芽およびカラメル麦芽のうち少なくとも一つをさらに含んでなり、特に淡色麦芽およびカラメル麦芽の両者を含んでなることが好ましい。
【0021】
また、本発明の好ましい実施態様によれば、黒麦芽およびピート麦芽は、淡色麦芽およびカラメル麦芽を原料として予め調製された麦汁に添加されるものである。
【0022】
また、本発明における淡色麦芽およびカラメル麦芽の合計量と、黒麦芽およびピート麦芽の合計量との質量比率(「淡色麦芽およびカラメル麦芽」/「黒麦芽およびピート麦芽」)は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、好ましくは4〜1990であり、より好ましくは5〜1820である。
【0023】
さらに、本発明の効果は、後述の実施例においても実証されているように、10EBC以上の色度を有するサンプルにおいて広く認められている。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の発酵麦芽飲料の色度は10EBC以上とされる。また、色度の範囲は特に制限されるものではないが、好ましくは10〜250EBC、より好ましくは10〜100EBCとされる。
【0024】
本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明による発酵麦芽飲料は、好ましくは、原料として少なくとも水、ホップ、および麦芽(濃色麦芽を含む)を使用した発酵麦芽飲料とされる。
【0025】
発酵麦芽飲料の製造
本発明の発酵麦芽飲料は、黒麦芽およびピート麦芽を麦芽原料の一部として用いることにより製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、製造工程のいずれかにおいて、黒麦芽およびピート麦芽を添加する以外は、通常の発酵麦芽飲料の製造手順に従って実施することができる。具体的には、本発明の発酵麦芽飲料は、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより製造することができる。例えば、麦芽(淡色麦芽およびカラメル麦芽の混合物)等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に、ホップおよび発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、本発明の発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の方法は、麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含んでなる。これらの工程は、通常の発酵麦芽飲料の製造において典型的に用いられる工程である。
【0028】
上記製造手順において、麦汁の製造は常法に従って行うことができる。例えば、麦芽原料を含む醸造原料と水の混合物を糖化し、濾過して麦汁を得、その麦汁を煮沸し、煮沸した麦汁を冷却することにより麦汁を製造することができる。
【0029】
麦汁の製造に使用する麦芽の種類は特に制限されるものではなく、淡色麦芽、カラメル麦芽、黒麦芽、ピート麦芽等が挙げられるが、好ましくは淡色麦芽、カラメル麦芽であり、より好ましくは淡色麦芽およびカラメル麦芽の混合物である。
【0030】
また、上記製造手順において、黒麦芽およびピート麦芽の添加時期は、本発明の効果を妨げない限り特に制限されず、麦汁原料中に黒麦芽およびピート麦芽を使用してもよく、上記いずれかの工程において予め調製した麦汁に添加してもよいが、麦汁静置工程において添加することが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法においては、ホップの使用方法によってホップ香気の強弱を制御してもよい。通常ホップは、煮沸中の麦汁に添加するが、よりホップ香気を強調するために、煮沸工程終了直前、あるいは麦汁静置工程(ワーループールタンク静置中)に添加してもよく、発酵中の低温の若ビールにホップを添加してもよい。
【0032】
使用するホップとしては、特に制限されないが、例えば、ハラタウトラディッション種、ミレニアム種、ナゲット種、ヘルスブルッカー種、ペルレ種およびザーツ種が挙げられ、特に好ましくはハラタウトラディッション種とされる。
【0033】
また、本発明の製造方法では、所定の条件下で予め加熱処理されたホップを用いてもよい。予め加熱処理されたホップとしては、例えば、65℃以上90℃未満の温度で1分間以上60分間未満という条件下で予め加熱処理されたものが挙げられる。予め加熱処理されたホップは、好ましくは、麦汁冷却工程の後に添加され、より好ましくは、麦汁冷却工程の後、かつ、発酵工程の直前に添加され、さらに好ましくは原料混合物(発酵前液)への酵母添加の直前またはこれと同時に添加される。
【0034】
また、本発明による発酵麦芽飲料の製造方法では、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。得られた発酵麦芽飲料は、(i)減圧若しくは常圧で蒸留してアルコールおよび低沸点成分を除去するか、あるいは(ii)逆浸透(RO)膜にてアルコールおよび低分子成分を除去することによって、非アルコール発酵麦芽飲料とすることもできる。
【0035】
また、本発明によれば、本発明による製造方法によって製造された発酵麦芽飲料が提供される。従って、本発明の他の実施態様によれば、黒麦芽およびピート麦芽が予め調製された麦汁に添加されてなる、発酵麦芽飲料が提供される。
【実施例】
【0036】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0037】
例1
本実施例では、黒麦芽(穀皮分離焙煎麦芽−商品名:カラファスペシャルIII、ドイツ・ワイヤーマン社製)とピート麦芽(商品名:ウイスキーモルトピーテッド、イギリス・クリスプ社製:フェノール値30〜40ppm(mg/kg))を、様々な比率で配合した麦芽を用いて製造した発酵麦芽飲料について官能評価を行った。
【0038】
(1)各種試飲サンプルの調製
淡色麦芽とカラメル麦芽を混合し、デコクション法による糖化を行い、麦汁糖度15度に調整した仕込麦汁を用意した。次に、仕込麦汁にホップを加え電気ヒーターで加温煮沸した。加温煮沸は、煮沸強度は一定でありかつ60分間で蒸発率が10%となるようにコントロールして行った。その後、得られた麦汁を90℃で60分静置した(ワールプール静置を想定)。この静置時に、麦汁に黒麦芽とピート麦芽をさらに加えた。得られた麦汁をろ紙でろ過した後、麦汁を氷水で冷却した。次に、得られた冷却麦汁にビール酵母を添加し、1週間主発酵を行い、その後さらに14日間後発酵を行なった。得られた発酵液を糖度12度になるように希釈水(炭酸ガスを含む)で希釈することにより、試験区1〜11の試飲サンプル(ビール)を得た。
【0039】
(2)各種試飲サンプルの官能評価
得られたビールのコーヒー香(コーヒー様、チョコレート様の香気)、スモーク香および総合評価について確認するために、試験区1〜11を対象として2名のパネルによる官能評価を行った。官能評価は表1および表2に示される評価基準により行った。
【0040】
総合評価の判定基準は表1の通りとした。
【表1】
【0041】
コーヒー香およびスモーク香の判定基準は表2の通りとした。
【表2】
【0042】
試験区1〜11の官能評価結果は表3の通りであった。
【表3】
【0043】
具体的な官能評価の内容は以下の通りである。
試験区1は、淡色麦芽およびカラメル麦芽のみを使用したサンプルであり、通常の発酵麦芽飲料である。試験区1は、コーヒー香およびスモーク香はともにスコア1「感じない」であり、総合評価も「調和していない」とされた。
試験区2は、淡色麦芽およびカラメル麦芽に加え、麦芽全体の0.05質量%の黒麦芽を使用したサンプルである。試験区2は、コーヒー香「2:やや感じる」、スモーク香「1:感じない」とされて特徴が弱く、総合評価は「調和していない」とされた。
試験区3は、淡色麦芽およびカラメル麦芽に加え、麦芽全体の0.005質量%のピート麦芽を使用したサンプルである。試験区3は、コーヒー様、チョコレート様香「1:感じない」、スモーク香「2:感じる」とされて特徴が弱く、総合評価は「調和していない」とされた。
試験区4は、淡色麦芽およびカラメル麦芽に加え、黒麦芽およびピート麦芽をそれぞれ麦芽全体の0.05質量%、0.005質量%使用したサンプルである。試験区4は、コーヒー香「3:感じる」、スモーク香「3:感じる」とされて特徴が明確となった。また、試験区4は、香味の複雑さが増すと同時に余韻のキレが増しており、総合評価は「より好ましい」とされた。
試験区5〜8は、淡色麦芽およびカラメル麦芽に加え、黒麦芽およびピート麦芽をそれぞれ麦芽全体の1.1質量%、0.0025〜0.025質量%の範囲で使用したサンプルである。試験区5〜8は、コーヒー香「4:やや強く感じる」、スモーク香「2:やや感じる」、「3:感じる」となり特徴が明確となった。また、試験区5〜8は、複雑さが増すと同時に余韻のキレが増しており、総合評価は「より好ましい」とされた。
試験区9〜10は、淡色麦芽、カラメル麦芽に加え、黒麦芽およびピート麦芽をそれぞれ麦芽全体の5.0〜7.0質量%、1.0〜3.0質量%使用したサンプルである。試験区9〜10は、コーヒー様、チョコレート様香「5:強く感じる」、スモーク香「4:やや強く感じる」となり特徴が明確となった。また、試験区9〜10は、スモーク香の特徴がやや目立ち、総合評価は「好ましい」とされた。
試験区11は、淡色麦芽、カラメル麦芽に加え、黒麦芽およびピート麦芽をそれぞれ麦芽全体の10.0質量%、5.0質量%使用したサンプルである。試験区11は、コーヒー様、チョコレート様香「5:強く感じる」、スモーク香「5:強く感じる」となり特徴が明確となった。また、試験区11は、スモーク香の特徴が突出し過ぎたものの、総合評価は「やや好ましい」とされた。
なお、試験区4〜11におけるサンプルの色度は、10〜250EBCであった。
【0044】
このように、黒麦芽の比率が麦芽全体の0.05質量%以上10.0質量%未満であり、ピート麦芽の比率が使用麦芽全体の0.0025質量%以上5.0質量%未満であり、ピート麦芽に対する黒麦芽の比率(黒麦芽/ピート麦芽)が2を超え440以下である場合(試験区4〜11)には、コーヒー香およびスモーク香の特徴が明確になった。また、試験区4〜11では複雑さが増すと同時に、余韻のキレが増し、嗜好性が著しく増加することが分かった。