特許第6498497号(P6498497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

特許6498497シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置
<>
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000002
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000003
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000004
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000005
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000006
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000007
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000008
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000009
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000010
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000011
  • 特許6498497-シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498497
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20190401BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20190401BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   G01N27/62 F
   G01N27/447 331E
   H01J49/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-75494(P2015-75494)
(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公開番号】特開2016-194492(P2016-194492A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年2月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))の研究領域「疾患における代謝産物の解析および代謝制御に基づく革新的医療基盤技術の創出」における、研究課題「代謝産物解析拠点の創成とがんの代謝に立脚した医療基盤技術開発」に関する、研究題目「代謝解析技術の高性能化および抗がん剤候補、PETプローブ候補の探索」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】曽我 朋義
(72)【発明者】
【氏名】平山 明由
(72)【発明者】
【氏名】阿部 弘
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/197072(WO,A1)
【文献】 米国特許第5993633(US,A)
【文献】 Shi LH.,A sheathless CE/ESI-MS interface with an ionophore membrane-packed electro-conduction channel,Electrophoresis,2009年,30,1661-1669
【文献】 Faserl K.,Optimization and Evaluation of a Sheathless Capillary Electrophoresis-Electrospray Ionization Mass Spectrometry Platform forPeptide Analysis: Comparison to Liquid Chromatography-Electrospray Ionization Mass Spectrometry,Anal. Chem.,2011年,83,7297-7305
【文献】 Wang J.,Enhanced Neuropeptide Profiling via Capillary Electrophoresis Off-Line Coupled with MALDI FTMS,Anal. Chem.,2008年,80,6168-6177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/447
H01J 49/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャピラリーの先端を鋭角に加工するステップと、
可撓性を有する絶縁板に、泳動液が通過可能な泳動液通過孔を開けるステップと、
前記泳動液通過孔を覆うように電気透析膜を接着するステップと、
該電気透析膜の上側の前記泳動液通過孔以外の部分の絶縁板に、キャピラリーを隙間のないように接着固定するステップと、
前記泳動液通過孔以外の部分が絶縁板に完全に固定されたキャピラリーの前記泳動液通過孔の部分にクラックを形成するステップと、
キャピラリーを絶縁板に完全に接着固定するステップと、
絶縁板のキャピラリー非固定側面に、泳動液を入れるためのリザーバーを設置するステップと、
該リザーバーの上部に、電極を挿入するための電極挿入孔を開けるステップと、
前記電極挿入孔に電極を挿入して固定するステップと、
を有することを特徴とするシースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法。
【請求項2】
前記クラックを形成するステップが、
キャピラリーの前記泳動液通過孔の部分の表面にカッターで傷を付けるステップと、
絶縁板を撓ませることによりキャピラリーを曲げて、前記泳動液通過孔の部分にクラックを形成するステップと、
を有することを特徴とする請求項1に記載のシースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法。
【請求項3】
先端が鋭角に加工され、中間部にクラックが形成されたキャピラリーと、
該キャピラリーが接着固定される、前記クラックが形成された部分に、泳動液が通過可能な泳動液通過孔が形成された絶縁板と、
該絶縁板の泳動液通過孔上に接着された電気透析膜と、
前記絶縁板のキャピラリー非固定側面に設置された、泳動液を入れるためのリザーバーと、
該リザーバーの上部に挿入・固定された電極と、
を備えたことを特徴とするシースレスCE−MS用スプレーデバイス。
【請求項4】
請求項3に記載のスプレーデバイスを備えたことを特徴とするシースレスCE−MS装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シースレスCE(キャピラリー電気泳動)−MS(質量分析)用スプレーデバイスの作成方法、シースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、シースレスCE−MS装置に係り、特に、化合物を高感度に測定することが可能なシースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法、例えば該作成方法によって作成されたシースレスCE−MS用スプレーデバイス、及び、これを備えたシースレスCE−MS装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタボローム測定法の一つである、キャピラリー電気泳動−質量分析(CE−MS)法は、様々な生体試料中のイオン性代謝物の測定に非常に有効であり、ガスクロマトグラフィー−質量分析(GC−MS)法や、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)法とは大部分の測定対象が重複しないため、非常に特異性の高い分析法である。
【0003】
通常、CE−MSにおいては、図1に示す如く、ネブライザーと呼ばれるエレクトロスプレーインターフェース(ESI)スプレー(以下、単にスプレーと称する)10に内蔵された、例えばステンレス製のニードル12の先端で、キャピラリー14の中から出てくる緩衝泳動液(以下、単に泳動液又はバッファと称する)16にシース液18と呼ばれる有機溶媒を含む溶液を混合し、更にその外側より、細かい液滴を生成してイオン化を促進するための、例えば窒素ガスでなるネブライザーガスを噴霧することによって、電気泳動のための電圧印加と泳動液16中の代謝物のイオン化を行っている(特許文献1〜3参照)。このシース液18によって安定した測定が可能になった。
【0004】
しかしながら、現在のシース液18を用いたCE−MS法の大きな問題点は、他のメタボローム解析手法と比べて濃度感度(同じ濃度のサンプルを測定した際の検出感度)が劣ることである。CE−MS法で感度が低下する原因は、前述したネブライザー(10)の先端でキャピラリー14中から出てくる泳動液16が、シース液18と混合することによって、試料中の測定対象物が希釈されてしまうためである。例えば、発明者らが通常行っている測定条件において、その希釈率を計算したところ、泳動液16の流速は50nL/minであるのに対し、シース液18の流速は10μL/minであることから、約200倍希釈されていることがわかった。
【0005】
従って、ネブライザー(10)先端でのシース液18による代謝物の希釈を低減させる、もしくは、シース液18を使わないシースレス測定法が可能になれば、CE−MSでの濃度感度が最大で200倍に上昇することが期待できる。
【0006】
シースレス法はキャピラリー14出口での希釈が無いために感度の上昇が見込める一方、シース液18が無いために安定的なCE−MS測定を行うことが難しい。これまでに大きく分けると次の3つのシースレスCE−MS法が報告されている。
(1)図2に示す如く、キャピラリー14に微小な穴を開けてキャピラリー14に電極22を直接埋め込み、接着剤24で固定して電気泳動を行う方法(非特許文献1)。
(2)図3に示す如く、キャピラリー14の出口に導電性金属(例えば金など)26を蒸着させて電気泳動を行う方法(非特許文献2)。
(3)キャピラリーの途中に泳動液リザーバーを設けて通常の電気泳動を行いながら、泳動液中の化合物を電気浸透流(電圧を印加した際に自然発生する液流)EOFを利用してオフラインで泳動させる方法(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−83119号公報
【特許文献2】特許第3341765号公報
【特許文献3】特許第4385171号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cao, P and Moini M,“A Novel Sheathless Interface for Capillary Electrophoresis / Electrospray Ionization Mass Spectrometry Using an In-capillary Electrode”, J. Am. Soc. Mass Spectrom. 8, 561-564, 1997.
【非特許文献2】Kele Z., Ferenc G., Klement E., Toth GK., Janaky T.,“Design and performance of a sheathless capillary electrophoresis/mass spectrometry interface by combining fused-silica capillaries with gold-coated nanoelectrospray tips”, Rapid Commun. Mass Spectrom. 19, 881-885, 2005.
【非特許文献3】Shi LH., Jin YX., Moon DC., Kim SK. and Park SR.“A sheathless CE/ESI-MS interface with an ionophore membrane-packed electro-conduction channel”, Electrophoresis 30, 1661-1669, 2009.
【非特許文献4】Faserl K., Sarg B., Kremser L. and Lindner H.“Optimization and Evaluation of a Sheathless Capillary Electrophoresis-Electrospray Ionization Mass Spectrometry Platform for Peptide Analysis: Comparison to Liquid Chromatography-Electrospray Ionization Mass Spectrometry”, Anal. Chem. 83, 7297-7305, 2011.
【非特許文献5】Whang C-W and Chen I-C. Cellulose acetate-coated porous polymer joint for capillary zone electrophoresis. Anal. Chem., 64 (1992), 2461-2464.
【非特許文献6】Soga, T., Ohashi, Y., Ueno, Y., Naraoka, H., Tomita, M., and Nishioka, T.,“Quantitative Metabolome Analysis Using Capillary Electrophoresis Mass Spectrometry”, J. Proteome Res. 2, 488-494, 2003.
【非特許文献7】Soga, T., Baran, R., Suematsu M., Ueno, Y., Ikeda, S., Sakurakawa T., Kakazu, Y., Ishikawa, T., Robert, M., Nishioka, T., Tomita, M.,“Differential Metabolomics Reveals Ophthalmic Acid As An Oxidative Stress Biomarker Indicating Hepatic Glutathione Consumption”, J. Biol. Chem. 281, 16768-16776, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、(1)や(2)の方法は、電極における電気分解により発生する酸素や水素によってスプレーが安定せず、うまく測定が行うことができない。
【0010】
一方、(3)の方法については、エービーサイエックス社でCESI−MSという製品名称で市販されているものが存在する。
【0011】
このインターフェイスは、図4に示す如く、内径30μm、外径150μmのキャピラリー14の先端約3cmをフッ酸により化学処理し、ガラス厚を約5μmまで薄くすることにより多孔質の先端15として、泳動液16中のイオンの透過を可能とし、電気泳動を達成している。図4において、20は導電性液体でなる泳動液供給用の泳動液キャピラリーである。多孔質の先端15を透過できるのは水素イオンや水酸化物イオンに限定され、試料中の代謝物イオンなどは透過せずにそのままキャピラリー14出口まで運ばれ検出される。これによって、シースレスCE−MSを可能にしている(非特許文献4)。
【0012】
しかしながら、この装置は非常に高価であり、また使用できるキャピラリーのラインアップも現在のところは内径30μmのみであるという問題点を有していた。
【0013】
一方、非特許文献5には、CZE(キャピラリー電気泳動)用キャピラリーにクラックを作成して、CEにおける電気化学検出を行うことが記載されているが、CE−MSへの適用は考えられていなかった。
【0014】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、より安価且つ簡便な手順で作成でき、様々な内径のキャピラリーに対応可能なスプレーデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、シースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法において、キャピラリーの先端を鋭角に加工するステップと、可撓性を有する絶縁板に、泳動液が通過可能な泳動液通過孔を開けるステップと、前記泳動液通過孔を覆うように電気透析膜を接着するステップと、該電気透析膜の上側の前記泳動液通過孔以外の部分の絶縁板に、キャピラリーを隙間のないように接着固定するステップと、前記泳動液通過孔以外の部分が絶縁板に完全に固定されたキャピラリーの前記泳動液通過孔の部分にクラックを形成するステップと、キャピラリーを絶縁板に完全に接着固定するステップと、絶縁板のキャピラリー非固定側面に、泳動液を入れるためのリザーバーを設置するステップと、該リザーバーの上部に、電極を挿入するための電極挿入孔を開けるステップと、前記電極挿入孔に電極を挿入して固定するステップと、を有することにより、前記課題を解決したものである。
【0016】
ここで、前記クラックを形成するステップは、キャピラリーの前記泳動液通過孔の部分の表面にカッターで傷を付けるステップと、絶縁板を撓ませることによりキャピラリーを曲げて、前記泳動液通過孔の部分にクラックを形成するステップと、を有することができる。
【0017】
本発明は、又、先端が鋭角に加工され、中間部にクラックが形成されたキャピラリーと、該キャピラリーが接着固定される、前記クラックが形成された部分に、泳動液が通過可能な泳動液通過孔が形成された絶縁板と、該絶縁板の泳動液通過孔上に接着された電気透析膜と、前記絶縁板のキャピラリー非固定側面に設置された、泳動液を入れるためのリザーバーと、該リザーバーの上部に挿入・固定された電極と、を備えたことを特徴とするシースレスCE−MS用スプレーデバイスを提供するものである。
【0018】
本発明は、又、前記のスプレーデバイスを備えたことを特徴とするシースレスCE−MS装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の特徴は、キャピラリーの微細孔作成技術と電気透析膜を組み合わせた新規なシースレスCE−MS用スプレーデバイスの作成方法にある。基本原理は、[背景技術](3)のキャピラリーの途中に泳動液リザーバーを設けて通常の電気泳動を行いながら、泳動液中の化合物を電気浸透流EOFを利用してオフラインで泳動させる方法を応用したものである。
【0020】
分析に用いるキャピラリーは内径が数十μmと非常に微細であり、これらを精度良く結合するには顕微鏡下で慎重に行う必要があり、非常に手間であったが、本発明ではキャピラリーを例えばプラスチックプレートでなる可撓性を有する絶縁板に固定した後、絶縁板を撓ませてクラック(きず)を入れることにより、特別な装置や工具を必要とすることなく、精度の高い結合を可能にしている。また、キャピラリー先端の形状もスプレーがしやすいように鋭角加工を施している。更に、分画分子量の非常に小さい(例えばカットオフ質量100Da)電気透析膜を用いることによって、測定対象物のクラックからの漏出を最小限に抑えている。この装置を用いることにより、電気分解をスプレーヤーの先端から手前で起こして、従来のシースレスCE−MSで問題となっていたガスの発生によるスプレーの乱れを防ぐことが可能になる。従って、本発明によれば、特に陽イオンのメタボローム測定において、従来法に比べ数倍〜数百倍の高感度測定が可能になる。
【0021】
更に、クラックより先では、対象化合物は電気浸透流のみによって移動しており、クラックからキャピラリー出口までの距離が長くなるほどピーク形状が広がる恐れがあるため、例えばクラックからキャピラリー出口までの距離を2cm以下にして、ピークの格差を最小限に抑えることが可能である。また、本発明のスプレーデバイスで用いるキャピラリーは、どのような内径のものにも適用可能であり、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来のシースフローCE−MS法で用いられているネブライザー(スプレー)の概略構成を示す断面図
図2】従来のシースレスインターフェイスの一例のキャピラリー先端を示す断面図
図3】同じく他の例のキャピラリー先端を示す断面図
図4】同じく更に他の例のキャピラリー先端周辺を示す断面図
図5】本発明の実施形態におけるスプレーデバイスの作成手順を示す流れ図
図6】同じくキャピラリー先端を鋭角加工している状態を示す斜視図
図7】同じく作成工程を示す斜視図
図8】完成したスプレーデバイスを示す(A)正面図、(B)底面図、(C)側面図
図9】本発明に係る実施形態が装着されたCE−MS装置の全体構成を示す概略図
図10】作成したシースレスCE−MSデバイスを飛行時間型質量分析計(TOFMS)に接続し、従来のシースフローTOFMSとの感度比較を行った結果を示す図
図11】同じく三連四重極型質量分析計(QqQMS)に接続し、従来のシースフローTOFMS及び図10に示したシースレスTOFMSとの感度比較を行った結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0024】
以下、本発明に係るスプレーデバイスの作成方法を、図5を用いて説明する。
【0025】
まず最初に、ステップ100で、キャピラリー14先端の例えばポリイミド被膜を、図6に例示する如く、例えばミニルーター(例えばPROXXON社製,MM30GC,砥石150番)等で鋭角に加工する。この工程は、スプレーを安定的に行うために必要である。ここで、キャピラリー14としては、一般的なフューズドシリカキャピラリーの他、例えば発明者が特許文献1で提案したコーティングキャピラリーなど、任意のキャピラリーを用いることができる。なお、キャピラリー先端を鋭角に加工する方法は、ミニルーターによる方法に限定されない。
【0026】
次いで、ステップ110で、可撓性を有する絶縁板(例えば厚さ約2mmのアクリル樹脂製のプラスチックプレート)40に、図7(A)に例示する如く、泳動液が通過可能な泳動液通過孔42を開ける。ここで、泳動液通過孔42の大きさは小さい方が好ましいが、小さすぎると表面張力で泳動液が入っていかなくなるので、直径2mm程度が望ましい。なお、ピペットで入れれば直径1mmでも可能である。
【0027】
前記絶縁板40の種類としては、アクリル樹脂製のプラスチックプレートの他、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET樹脂、AS樹脂、PVC(塩化ビニール)など、CE−MSで用いる泳動液によって変質せず、力を加えると僅かに曲がるプラスチックプレートや、超薄型フレキシブルガラス(例えばコーニング(登録商標)社のWillow Glass(登録商標))など曲げられるガラスプレートを用いることができる。
【0028】
次いで、ステップ120で、図7(B)に例示する如く、泳動液通過孔42を覆うように例えばイオン交換膜(例えばHARVARD apparatus製の酢酸セルロース膜,7427-CA100)でなる電気透析膜44を接着する。なお、電気透析膜44の種類はイオン交換膜に限定されない。
【0029】
次いで、ステップ130で、図7(C)に例示する如く、絶縁板40の泳動液通過孔42以外の部分にキャピラリー14を隙間が無いように接着剤46で接着固定する。
【0030】
接着剤46が固化し、キャピラリー14が動かなくなるまで放置した後、ステップ140で、例えばセラミックカッターを用いてキャピラリー14の電気透析膜44の直上の泳動液通過孔42の所に傷をつける。そして、絶縁板40の両端を持ち、絶縁板40を僅かに撓ませることによって、キャピラリー14に、図7(D)に例示するようなクラック(ひび)48を形成する。
【0031】
次いで、ステップ150に進み、図7(E)に例示する如く、絶縁板40全体に接着剤46を塗り、キャピラリー14を完全に固定する。
【0032】
次いで、ステップ160に進み、図7(F)に例示する如く、絶縁板40を反転させ、絶縁板40の反対側(使用時の上側)に泳動液16を入れるためのリザーバー50を設置する。ここで、リザーバー50は、例えばポリプロピレンや他のプラスチック等、CE−MSで用いる泳動液で変質しない任意の絶縁体製とすることができる。又、泳動液16としては、ギ酸、酢酸、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの揮発性のあるものであれば何でも使用可能である。
【0033】
次いで、ステップ170に進み、図7(G)に例示する如く、リザーバー50の上部に、電極を挿入するための電極挿入孔52を開ける。電極挿入孔52の直径は、電極のサイズに合わせて、例えば1mm程度とすることができる。
【0034】
次いで、ステップ180に進み、図8に示す如く、電極挿入孔52に電極(例えば白金電極)60を挿入してスプレーデバイスを完成する。図において、54は、リザーバー50を絶縁板40に固定するための接着剤である。
【0035】
前記接着剤46、54としては、例えばシリル化ウレタン樹脂、シアノアクリレート樹脂、ウレタン樹脂など、CE−MSで用いる泳動液で変質しないものを用いることができる。
【0036】
完成したスプレーデバイスを、CE70とMS80の間に接続してシースレスCE−MS装置を構成した状態を図9に示す。図において、56はベースプレートである。
【0037】
図9に示したシースレスCE−MS装置を用いて測定を行った。陽イオン性代謝物質測定条件は、次のとおりである(非特許文献6、7参照)。
(i)キャピラリー電気泳動(CE)の分析条件
キャピラリー14には、様々な内径のフューズドシリカキャピラリー(例えば内径50μm、外径360μmなど)を用いることが可能である。緩衝液16には、10%(v/v)酢酸(pH約2.2)を用いた。印加電圧は、+30kV、キャピラリー温度は20℃で測定した。試料は、加圧法を用いて50mbarで15秒間注入した。
(ii)飛行時間型質量分析計(TOFMS)の分析条件
正イオンモードを用い、イオン化電圧は1.8kV、フラグメンター電圧は175V、スキマー電圧は50V、OctRF電圧は100Vに設定した。乾燥ガスには窒素を使用し、温度300℃に設定した。質量電荷比(m/z)50〜1,000までの化合物を対象に、スキャン速度1.5サイクル/秒で測定を行った。
(iii)三連四重極型質量分析計(QqQMS)の分析条件
正イオンモードを用い、イオン化電圧は2.4kV、フラグメンター電圧は90Vに設定した。乾燥ガスには窒素を使用し、温度300℃に設定した。多重反応モニタリング(MRM)法によって、各化合物名に最適化されたプレカーサーm/z、プロダクトm/z、コリジョンエネルギーにて測定を行った。
【0038】
作成したシースレスCE−MS装置をTOFMSに接続し、従来のシースフローTOFMSとの感度比較を行った結果を図10に示す。
【0039】
53種の陽イオン性代謝物質標準溶液を測定した結果、83%(45/54)の化合物で2倍以上の感度上昇が見られ、平均3.8倍の感度上昇が達成された。なお、ヒポキサンチンとスペルミジンについては感度が低下したが、これは、泳動液によりバックグランドノイズが増えたためと考えられる。従って、泳動液の種類を変えることで容易に対応できる。
【0040】
又、このシースレスCE−MS装置をQqQMSに接続し、従来のシースフローTOFMS及び図10に示したシースレスTOFMSとの感度比較を行った結果を図11に示す。この場合には、シースフローTOFMSに比べて全ての化合物で感度が上昇し、グルタミンで709倍、シスタチオニンで580倍、S−アデノシルメチオニンで561倍の高感度化が達成できた。
【符号の説明】
【0041】
10…スプレー
12…ニードル
14…キャピラリー
16…泳動(緩衝)液
40…絶縁板
42…泳動液通過孔
44…電気透析膜
46、54…接着剤
48…クラック
50…リザーバー
52…電極挿入孔
60…電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11