(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498512
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ALC半硬化体切断用のワイヤー搬送機構
(51)【国際特許分類】
B28B 11/14 20060101AFI20190401BHJP
B26D 1/46 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
B28B11/14
B26D1/46 501G
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-92431(P2015-92431)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-210003(P2016-210003A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】梶原 信
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−131191(JP,A)
【文献】
特開2011−057426(JP,A)
【文献】
特開2005−288642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 11/14
B24B 27/06
B26D 1/46
B65H 54/02−54/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転可能な回転駆動軸に同軸状に取り付けられ、切断用のワイヤーをロールツーロールで往復走行自在に搬送する1対のボビンと、該ワイヤーの搬送経路を画定する少なくとも1つのローラと、該1対のボビンの近傍にそれぞれ並列して設けられた2個のガイドロールとからなるワイヤー搬送機構であって、
各ガイドロールは、対応するボビンからワイヤーが巻き出される時にはワイヤーから離間し、対応するボビンにワイヤーが巻き取られる時にはワイヤーに当接してガイドしながら整列巻きとなるように回転軸方向に往復動し、
前記2個のガイドロールの各々においてワイヤーが巻き取られる巻取り部は、その軸方向中央部に向かうに従って細くなるように縮径しており、且つ該軸方向中央部に全周に亘って、ワイヤーがちょうど嵌まり込んで該軸方向中央部に位置決めされる大きさの断面略U字状の1本のガイド溝が設けられていることを特徴とするワイヤー搬送機構。
【請求項2】
請求項1のワイヤー搬送機構を備えたことを特徴とする、半硬化状態のALCブロックの切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軽量気泡コンクリートパネルの製造工程で生成される半硬化体をワイヤーでパネル状に切断加工する際に使用するワイヤー搬送機構に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(以下、ALCとも称する)パネルは内部に製造段階の発泡で形成された多数の気泡を有するため軽量である上、耐火性、断熱性、及び施工性に優れているため、建築物の壁、屋根、床などを構成する建築材料として広く使用されている。
【0003】
このALCパネルの製造方法としては、先ず珪石等の珪酸質原料とセメントや生石灰等の石灰質原料とを主原料とする微粉末に、石こう、アルミニウム粉末等の副原料を水と共に加えて原料スラリーを調製し、これを予め補強用鉄筋が並べられた型枠内に流し込む。そして、該原料スラリーを40〜50℃程度に温度調整してアルミニウム粉末の反応により発泡させ、更に石灰質原料の反応により半硬化状態のALC(以下、半硬化体とも称する)を生成する。
【0004】
次に型枠を外すことでブロック状の半硬化体を取り出し、ピアノ線等のワイヤーによってパネル状に切断する。これをオートクレーブに装入して高温高圧の水蒸気養生を行うことでトバモライトを生成させる。これにより、最終硬化されたALCパネルを得ることができる。ところで、上記した半硬化体の切断では、従来、上下方向に離間して設けられた2つの支持部に緊張状態にワイヤーを架け渡し、このワイヤーに半硬化状態のALCブロックを押し当てることでパネル状にスライスする方法が用いられてきた。しかし、この方法では半硬化体の切断面にケバ立ちが生じることがあった。
【0005】
切断面のケバ立ちは、水蒸気養生後においてもALCパネル表面に残存してパネル自体の美観を損ねるだけでなく、パネルの保管時や移動時などの際に風が当たったりケバ立ち面が擦れたりした時、あるいはパネルに振動が加わるなどした時に粉塵となって飛散することがあり、パネル置き場や施工現場などにおいて作業環境上の問題になることがあった。また、ケバ立った状態のままALCパネル表面に通常の塗装仕上げをすると、ケバ立ち部は塗装後のALCパネル表面に凹凸部となって残るため、多量の塗料を塗布してALCパネル表面の美観が損なわれないようにする必要があった。
【0006】
そこで、近年はこのようなケバ立ちを抑えて切断面を滑らかにするため、1対のボビンを用いてロールツーロール方式でワイヤーを一方向に走行させたり、ワイヤーを往復走行させたりすることで半硬化体を切断する方法が提案されている。例えば特許文献1及び2には、切断時の半硬化体が通過する領域を挟んで対向する位置に巻出しボビン及び巻取りボビンをそれぞれ設け、これら1対のボビンによってロールツーロールで搬送されるワイヤーに半硬化体を押し当てることでパネル状にスライスする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−33295号公報
【特許文献2】特開2004−358597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように1対のボビンによってロールツーロール方式で搬送されるワイヤーで半硬化体を切断する場合は、1対のボビンのうち第1のボビンに巻かれていたワイヤーがほぼすべて巻き出されて第2のボビンに巻き取られた後は、これら1対のボビンの回転方向を逆回転させ、当該巻き取りを行った第2のボビンからワイヤーを巻き出して第1のボビンに巻き取ることが行われる。この動作を繰り返して所定の搬送経路に沿ってワイヤーを往復走行させることで、複数の半硬化体を連続して効率よくパネル状に切断することができる。
【0009】
しかし、巻き取られるボビンにおいてワイヤーにいわゆる乱巻きが生じると、該ボビンに次々に巻き取られるワイヤーは乱巻き状態で巻かれているワイヤーの上に斜め方向に乗り上げたりキンクが生じたりするため、これら斜め方向に乗り上げりキンクが生じた箇所ではワイヤー自身に塑性変形した跡が残るおそれがあった。このように変形跡が残ったワイヤーで半硬化体を切断すると、切断面にワイヤーの変形跡が擦過した筋がつき、品質上の問題が生じることがあった。従って、巻き取られるボビンでは乱巻きにならずにいわゆる整列巻になることが望まれている。
【0010】
巻取りボビンでワイヤーを整列巻きするため、従来は強制的に巻取りボビンをその軸方向に往復動させたり、フリートアングルを確保すべく巻取りボビンにワイヤーをガイドする最終プーリーを巻取りボビンから十分に距離をとって配置することで自然に整列巻され易くしたりする工夫がなされてきた。しかし、自然に整列されるフリートアングル確保のためには、巻取りボビン幅の20倍以上の距離を巻き取りボビンと最終接触するガイドプーリとの間に確保する必要があるため、設備をコンパクトにすることが困難であり、巻き取りボビンのごく近傍に、ワイヤーを強制的に整列させるためのガイドプーリを設置することが必要となっていた。
【0011】
本発明は上記した従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、ALCパネルの製造工程で生成される半硬化体に対して、1対のボビンを用いてロールツーロール方式でワイヤーを往復走行させながら押し当てることでパネル状に切断加工する際に、ワイヤーの巻き取りが行われるボビンにおいて良好に整列巻きを行うことが可能なワイヤー搬送機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明のワイヤー搬送機構は、正逆回転可能な回転駆動軸に同軸状に取り付けられ、切断用のワイヤーをロールツーロールで往復走行自在に搬送する1対のボビンと、該ワイヤーの搬送経路を画定する少なくとも1つのローラと、該1対のボビンの近傍にそれぞれ並列して設けられた2個のガイドロールとからなるワイヤー搬送機構であって、各ガイドロールは、対応するボビンからワイヤーが巻き出される時にはワイヤーから離間し、対応するボビンにワイヤーが巻き取られる時にはワイヤーに当接してガイドしながら整列巻きとなるように回転軸方向に往復動
し、前記2個のガイドロールの各々においてワイヤーが巻き取られる巻取り部は、その軸方向中央部に向かうに従って細くなるように縮径しており、且つ該軸方向中央部に全周に亘って、ワイヤーがちょうど嵌まり込んで該軸方向中央部に位置決めされる大きさの断面略U字状の1本のガイド溝が設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1対のボビンを用いてロールツーロールでワイヤーを走行させながら半硬化状態のALCブロックを切断するに際して、巻き取りが行われるボビンにおいて常にワイヤーの整列巻きを行うことができる。これにより、1対のボビンの回転方向の反転を繰り返しても、ワイヤーにキンクの跡やワイヤーが斜めに重なった跡が生じなくなるので、半硬化状態のALCブロックのワイヤー切断面をフラットにでき、よって外観品質に優れたALCパネルを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のワイヤー搬送機構の一実施形態を示す平面図である。
【
図2】
図1のワイヤー搬送機構が有するガイドロールの平面図である。
【
図3】本発明のワイヤー搬送機構の一具体例を用いて搬送したワイヤーが巻取りボビンで整列巻きされている状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明によるワイヤー搬送機構の一実施形態について、
図1を参照しながら説明する。この
図1に示すワイヤー搬送機構は、正逆回転可能な回転駆動軸1に同軸状に取り付けられ、切断用のピアノ線等のワイヤーWをロールツーロールで往復走行自在に搬送する1対のボビン2、3と、該ワイヤーWの搬送経路を画定する少なくとも1つのローラ(図示せず)と、該1対のボビン2、3にそれぞれ並列して設けられた2個のガイドロール4、5とを有している。そして、これらガイドロール4、5の各々は、対応するボビンからワイヤーが巻き出される時にはワイヤーから離間し、対応するボビンにワイヤーが巻き取られる時にはワイヤーに当接してガイドしながら整列巻きとなるように回転軸方向に往復動する。
【0016】
具体的に説明すると、例えば
図1ではボビン3から巻き出されたワイヤーが図示しない少なくとも1つのローラで画定される搬送経路を経てボビン2で巻き取られている状態が図示されており、ガイドロール5は、対応するボビン3からワイヤーが巻き出されているため、該ボビン3から巻き出された直後のワイヤーW1から離間している。一方、ガイドロール4は、対応するボビン2にワイヤーが巻き取られているため、該ボビン2に巻き取られる直前のワイヤーW2に当接して該ワイヤーW2が該ボビン2に巻き取られるのをガイドしている。更に、ガイドロール4はワイヤーW2に当接してガイドしながら白矢印A1で示すように回転軸方向に往復動している。これにより、ボビン2において整列巻きでワイヤーを巻き取ることが可能になる。
【0017】
ボビン3に巻かれているワイヤーがほぼすべて巻き出されてボビン2に巻き取られた後は、回転駆動軸1の回転方向が逆回転することで、ボビン2からワイヤーが巻き出されて上記の搬送経路を逆方向に走行した後、ボビン3で巻き取られる動作が開始する。その際、ガイドロール4は白矢印A2で示すようにその回転軸に垂直な方向に移動してワイヤーから離間し、一方、ガイドロール5はその回転軸に垂直な方向に移動してワイヤーに当接してガイドする。そして、ガイドロール5は当該当接状態を維持しながらその回転軸方向に往復動する。これにより、ボビン3において整列巻きでワイヤーを巻き取ることが可能になる。
【0018】
上記した動作を繰り返すことによって、所定の搬送経路に沿ってワイヤーを往復走行させることができ、その際、上記したワイヤーの搬送経路を横切るように半硬化状のALCブロックを移動させることで、パネル状に切断することができる。そして、巻き取りが行われるボビンでは常に整列巻きで巻き取りが行われるので、巻き取りが行われるボビンにおいてワイヤーの上に斜め方向に乗り上げたりキンクが生じたりするのを防ぐことができ、よって半硬化体のワイヤー切断面に当該キンクの跡やワイヤーが斜めに重なった跡のないフラットな仕上がりにすることができる。
【0019】
尚、半硬化体を切断する時のワイヤーの走行速度は、当該ワイヤーの搬送経路を横切る半硬化体の移動速度と同等以上で10倍以下程度とするのが望ましい。ワイヤーの走行速度が半硬化体の移動速度よりも遅くなると、切断面を平滑化する効果が少なくなるおそれがある。一方、半硬化体の移動速度の10倍よりも速くなると、必要となるワイヤーの長さが長くなりすぎて実用的でなくなる。
【0020】
各ガイドロールの上記した軸方向の往復動は、例えばボールねじ等の一般的な往復動手段を介してガイドロールの一端部を回転可能に支持することによって実現することができる。この場合の各ガイドロールの軸方向の往復動の速度やストロークの長さは、巻き取り時に良好な整列巻きが行われるように適宜調整すればよいが、一般的には巻取りボビンが一回転する毎に軸方向にワイヤー径と同じ距離だけ移動するようにして整列巻きさせることが好ましい。また、上記したワイヤーから離間する位置と当接する位置との間のガイドロールの移動は、例えば上記した往復動手段を支持する支持部をラックとピニオン等で移動させればよい。この場合の作動のタイミングは例えば回転駆動軸1の反転に合わせて作動するようにすればよい。
【0021】
各ガイドロールにおいてワイヤーが巻き取られる巻取り部は、その軸方向中央部に向かうに従って細くなるように縮径しており、且つ該軸方向中央部に全周に亘ってワイヤーが嵌まり込める大きさの1本のガイド溝が設けられているのが好ましい。これにより、回転駆動軸1が反転した時、巻き出しから巻き取りに切り替わるボビンに対応するガイドロールが軸方向の任意の位置で離間していても、当該ガイドロールが当接位置に向かって移動してワイヤーに押し付けられた時、
図2に示すように縮径部10に当接したワイヤーWは該縮径部10の斜面に沿って軸方向中央部に向かって滑り、ガイド溝11に落とし込まれる。これにより、ワイヤーは常にガイドロールの軸方向中央部に位置決めされるので、整列巻きの機能を確実に発揮させることができる。
【実施例】
【0022】
図1に示すような正逆回転可能な回転駆動軸1に同軸状に取り付けられた1対のボビン2、3と、これら1対のボビン2、3にそれぞれ並列して設けられた2個のガイドロール4、5とからなるワイヤー搬送機構を用意した。これら1対のボビン2、3に外径0.9mmのピアノ線の両端部をそれぞれ係止してから片方に巻き付けた。そして、回転駆動軸1を正逆回転させることで、図示しない反転ロールを経由する搬送経路に沿ってピアノ線をロールツーロールで走行速度24m/分で往復走行させた。その際、この搬送経路を横切るように半硬化状のALCブロックを移動させることで、該ALCブロックをスライス状に切断した。
【0023】
ガイドロール4、5の各々は、対応するボビンからピアノ線が巻き出される時にはピアノ線から離間させ、対応するボビンにピアノ線が巻き取られる時にはピアノ線に当接させながら白矢印A1で示すように回転軸方向に往復動させた。往復動の速度は、対応するボビンが1回転する毎に軸方向に0.9mmだけ移動するように調整した。その結果、
図3に示すようにピアノ線をボビンに良好に整列巻きすることができた。また、切断後のALCブロックの切断面を目視にて確認したところ、キンクの跡やピアノ線が斜めに重なった跡はなく、フラットに切断されていた。次に、ピアノ線の走行速度40m/分にして上記と同様にALCブロックをスライス状に切断したところ、この場合も上記と同等に問題なく切断することができた。
【符号の説明】
【0024】
1 回転駆動軸
2、3 1対のボビン
4、5 ガイドロール
W ワイヤー
W1 巻き出された直後のワイヤー
W2 巻き取られる直前のワイヤー
10 縮径部
11 ガイド溝