【実施例】
【0038】
以下、本発明の対価組成物の実施例を挙げて具体的に説明する。
【0039】
〔高純度クォーツ粉末の調製〕
400kgの天然の白珪砂をボールミル(アルミナ製)で粉砕して、無作為に2kgを採取した。これを篩にかけて、粒径110μm以下の白珪砂の粉末を得た。
【0040】
粉砕して篩にかける前の白珪砂をpH1の塩酸溶液に24時間浸漬して白珪砂中の不純物を溶解させ、浸漬後に濾過によって珪砂と塩酸溶液を分離した珪砂を200℃程度に加熱して乾燥させた。これを篩にかけて粒径110μm以下の精製クォーツの粉末を得た。
【0041】
〔溶融石英粉粒体及びクリストバライトの調整〕
上記と同様に白珪砂を破砕したものと粉砕したものとを混合して広範な粒度分布を有する白珪砂を得た。これを上記と同様の方法で酸処理して精製クォーツの粉粒体を得た。この粉粒体を半径約50cmの円を底面とする高さ約2mの円筒形の金属容器に充填し、円筒の中央に配されたSiC発熱体に通電して、精製クォーツを約2000℃に加熱した。加熱終了後に円筒形の金属容器ごと水冷し、金属容器を解体して金属容器の中心付近の透明な溶融石英を採取した。金属容器の内壁には不透明な珪石層が形成されていた、これを溶融石英とは分けて採取した。この不透明な珪石層は、クリストバライト相のシリカである。採取した溶融石英を篩にかけて、粒径が10μm〜5mmの溶融石英粉粒体を得た。別に採取したクリストバライトについても篩にかけて、粒径110μm以下のクリストバライトの粉末を得た。
【0042】
〔その他の成分の調整〕
400kgの天然のろう石を同様にボールミルで粉砕して、粉砕されたろう石を篩にかけて粒径110μm以下のろう石粉末を得た。天然の珪石についても、同様に粉砕、篩分けして粒径110μm以下の珪石粉末を得た。熱風炉の炉壁として長年使用された珪石れんがを同様に破砕、篩分けして粒径110μm以下の使用済み珪石れんがの粉末を得た。
【0043】
上記の白珪砂、精製クォーツ、溶融石英粉粒体、ろう石、珪石、使用済珪石れんが、及び不透明珪石層について、JIS-R2216耐火物の蛍光X線分析法によって化学成分を分析した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
〔X線回折〕
上記の白珪砂、精製クォーツ、溶融石英粉粒体、ろう石、珪石、使用済珪石れんが、及び不透明珪石層の粉末について、X線回折による回折強度を測定し、測定結果についてリートベルト法を用いた定量分析を行った。分析結果を表2に示す。表2に記載した結晶化度は以下により、算出した。表2の数値は、各結晶相の存在比率を示す。
【数1】
【0046】
【表2】
【0047】
〔実施例1ないし3及び比較例1及び2〕
上記の方法で調整した溶融石英粉粒体及び精製クォーツと、減水剤、結晶化安定化剤、及びポルトランドセメントとを表4に記載の割合で混合して実施例1ないし3並びに比較例1及び2に係る粉末耐火組成物を得た。比較例1では、溶融石英粉粒体の配合量が規定量を上回る。比較例2では、溶融石英粉粒体の配合量が規定量を下回る。減水剤は、市販のポリカルボン酸系AE減水剤(ポリエチレングリコールモノアリルエーテルと不飽和ジカルボン酸との共重合体)を使用した。結晶化安定化剤は、Na
2Oを使用した。シリカ質超微粉末としてシリカ含量99.74質量%、アルミナ含量0.08質量%、アルカリ成分含量0.01質量%、カルシア含量0.02質量%、粒径1μm以下の市販の真球状の溶融石英の超微粉末を使用した。ポルトランドセメントとして市販の普通ポルトランドセメント(アルミナ含量4.10質量%)を使用した。
【0048】
上記の耐火組成物100重量部に対して、長さ5mm、20dtexのポリエチレン繊維を0.1重量部配合し、水を6.0重量部配合して、よく混錬し、試験片作成用の型枠に流し込んで、各物性評価用の試験片を複数個作製した。
【0049】
実施例1ないし3及び比較例1及び2の試験片について、0.2MPa荷重下での線熱膨張率をJIS-R-2658のクリープ変形率に準じて測定及び算出した。クリープ変形率は、圧縮、等温化における耐火物の経時変化であるが、ここでは常温から1500℃の範囲で温度を変化させて、試験片の温度変化と膨張率の関係を調べた。すなわち、品川リフラクトリーズ株式会社の熱間クリープ試験炉(SRC-15型)を使用して、試験片の高さ方向に0.2MPaの圧力をかけた状態で加熱速度5℃/分で試験片を常温(この例では23℃)から1500℃に至るまで加熱する。各温度における試験片の高さ(L
1)から常温での試験片の高さ(L
0)を引いて高さの変化(δL)を求め、δLを常温での試験片の高さ(L
0)で除して、算出された数値に100を掛けて0.2MPa荷重下での線熱膨張率とした(δL/L
0×100)。さらに上記試験片についてJIS-R-2658のクリープ変形率に基づいて、1500℃で50時間保持したときのクリープ変形率を求めた。
【0050】
実施例1ないし3及び比較例1及び2の試験片について、JIS-R-2207-1の線熱膨張率に基づいて無拘束状態における線熱膨張率を測定及び算出した。温度を常温(この例では23℃)から1350℃に変化させて、各温度における試験片の長さ(L
1)から常温における試験片の長さ(L
0)を引いて長さの変化(L
1−L
0=δL)を求め、δLを常温における試験片の長さ(L
0)で除して、算出された数値に100を掛けて線熱膨張率とした(δL/L
0×100)。これにより線熱膨張率曲線が描かれる。
【0051】
実施例1ないし3及び比較例1及び2の試験片について、JIS-R-2657に準じて、1200℃の加熱を30分して空冷を30分行う工程を1サイクルとして、当該サイクルを200回繰り返した後に、試験片に亀裂が生じているかどうかを目視で確認して、スポーリングの発生の有無を確かめた。
【0052】
実施例1ないし3及び比較例1及び2の試験片について、見かけ気孔率、熱伝導率、冷間曲げ強度、熱間曲げ強度、圧縮強度(350℃乾燥後)、及び圧縮強度(1000℃焼成後)を以下の方法で調べた。見かけ気孔率については、1000℃まで3℃/分で昇温して1000℃で3時間焼成した後に室温まで徐冷した試験片についてJIS-R-2205に基づいて見かけ気孔率を求めた。熱伝導率は1000℃の熱間においてJIS2251-1に基づいて求めた。冷間曲げ強度については、JIS-R-2553に準拠して試験片の乾燥工程を350℃、24時間にして、当該乾燥後に試験片を室温まで徐冷して冷間曲げ強度を求めた。この曲げ試験によって2つに折れた試験片の内の半切れを用いてJIS-R-2553の圧縮試験を行い、350℃、24h乾燥後の試験片について冷間における圧縮強度を求めた(これを表においては350℃乾燥後とする)。熱間曲げ強度については、JIS-R-2553に準拠して、試験片の乾燥工程を350℃、24時間乾燥後、1000℃まで5℃/分で昇温して1000℃で1時間保持した後に曲げ強度を求めた。1000℃焼成後の圧縮強度は、1000℃まで3℃/分で昇温して1000℃で3時間焼成した後に室温まで徐冷した試験片について、曲げ試験を行い2つに折れた試験片の内の半切れを用いてJIS-R-2553の圧縮試験を行って、1000℃、3h焼成後の試験片について冷間における圧縮強度を求めた(これを表においては1000℃焼成後とする)。
【0053】
実施例1から3並びに比較例1及び2の粉末組成物の配合と、上記のようにして解析した各物性を表4にまとめる。表4において、丸印を付したものは、各物性について表3の範囲内に該当するものである。一方、バツ印を付したものは、下部物性について、表3の範囲を逸脱したものである(表5から10についても同様である。)。そして、0.2MPa荷重下での線熱膨張率については1200℃における値を一例として示し、無拘束状態における線熱膨張率については1000℃における値を一例として示した(表5から10についても同様である。)。
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
0.2MPa荷重下における線熱膨張率はブロックのクリープ変形の生じやすさ等に影響し、無拘束状態における線熱膨張率はスポーリングの生じやすさに影響を与えるところ、実施例1ないし3の試験片では、各膨張率が目標とした数値の範囲内となった。表4に示したようにスポーリングも発生せず、クリープ値も−0.1%以上であり優れていた。一方、比較例1の試験片では、荷重下における線熱膨張率が下限を越えてしまい、クリープ値がマイナス側に大きくなってしまった。比較例2の試験片では、無拘束状態おける線熱膨張率が上限を越えてしまいスポーリングの発生が認められた。
【0057】
熱伝導率は炉温の制御のしやすさ、炉の昇温速度に影響を与える。冷間の曲げ強度及び圧縮強度(350℃乾燥後)は耐火コンクリートブロックを使用して構造物を構築する際のブロックの破損の有無や破損の程度に影響を与える。熱間の曲げ強度及び圧縮強度(1000℃焼成後)は耐火コンクリートブロックを使用して炉の構造物を構築したときにおいて炉の操業中の構造物の破損の有無又は破損の程度に影響を与える。見かけ気孔率は、耐火コンクリートブロックが浸炭などの化学変化を受ける程度に影響を与える。実施例1から3の試験片では、表4に示したように、これらのいずれの物性においても満足できるものであった。
【0058】
〔実施例4ないし14並びに比較例3ないし12〕
上記の方法で調整した溶融石英粉粒体及び精製クォーツと、減水剤、結晶化安定化剤、及びポルトランドセメントとを表5ないし表9に記載の割合で混合して実施例4ないし14並びに比較例3ないし12に係る粉末耐火組成物を得た。原則として溶融石英粉粒体、精製クォーツ、減水剤、結晶化安定剤及びポルトランドセメントは実施例1と同じものを使用した。ただし、実施例1の精製クォーツに替えて実施例5では粒径210μm〜300μmの精製クォーツを使用し、実施例1の精製クォーツに替えて実施例7では粒径417μm〜495μmの精製クォーツを使用し、実施例1の結晶化安定化剤に替えて実施例8では結晶化安定剤として珪酸カリウムを使用し、実施例1のシリカ質超微粉末に替えて実施例10ではシリカ質超微粉末としてシリカ含量が97.80質量%、アルミナ含量が0.20質量%、カルシア含量が0.20質量%、アルカリ成分含量が0.29質量%、粒径4μm以下である市販のシリカフラワーと、実施例1で使用したのと同じ真球状の溶融石英の超微粉末との混合物(混合比は容積比で、真球状溶融石英の超微粉末:シリカフラワー=4:1)を使用し、実施例1の減水剤に替えて実施例12では減水剤としてナフタリン系のナフタリンスルホン酸塩を使用した。なお、爆裂防止材も実施例1と同じものを使用し、水添量と爆裂防止材の配合量も実施例1と同じにした。実施例4ないし14並びに比較例3ないし12の粉末組成物の配合と、上記の実施例1と同様の方法で解析した各物性を表5ないし表9にまとめる。表5に示したように、比較例3では、精製クォーツの配合量が規定量を下回る。比較例4では、精製クォーツの配合量が規定量を上回る。表6に示したように、比較例5では、シリカ質超微粉末の配合量が規定量を下回る。比較例6では、シリカ質超微粉末の配合量が規定量を上回る。表7に示したように、比較例7では、減水剤の配合量が規定量を下回る。比較例8では、減水剤の配合量が規定量を上回る。表8に示したように、比較例9では、結晶化安定剤の配合量が規定量を下回る。比較例10では、結晶化安定剤の配合量が規定量を上回る。表9に示したように、比較例11では、ポルトランドセメントの配合量が規定量を下回る。比較例12では、ポルトランドセメントの配合量が規定量を上回る。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
表5ないし表9に示したように、実施例4ないし14の試験片では、各膨張率が目標とした数値の範囲内となり、スポーリングも発生せず、クリープ値も−0.1%以上であり優れていた。また、実施例4ないし14の試験片では、熱伝導率、冷間の曲げ強度及び圧縮強度(350℃乾燥後)、熱間の曲げ強度及び圧縮強度(1000℃焼成後)、並びに見かけ気孔率のいずれの物性においても満足できるものであった。
【0065】
一方、比較例3、比較例5、比較例7、比較例9、比較例11、及び比較例12の試験片では、荷重下における線熱膨張率が下限を越えてしまい、クリープ値がマイナス側に大きくなってしまった。比較例4の試験片では、無拘束状態おける線熱膨張率が上限を越えてしまいスポーリングの発生が認められた。比較例10の試験片については、無拘束状態及び荷重下における線熱膨張率が共に下限値を越えてしまい、クリープ値がマイナス側に大きくなり、スポーリングの発生も認められた。比較例6、及び比較例8の耐火組成物は、試験片に成形することが困難なため、各物性の評価を行うことができなかった。
【0066】
〔実施例15及び比較例13ないし16〕
上記の方法で調整した溶融石英粉粒体及び白珪砂と、減水剤、結晶化安定化剤及びポルトランドセメントとを表10に記載の割合で混合して実施例15に係る粉末耐火組成物を得た。比較例13ないし16では、実施例15で配合した白珪砂粉末に替えて、上記の方法で調整したろう石粉末、珪石粉末、使用済み珪石れんが粉末、不透明結晶層の粉末(クリストバライト)を表10に記載の割合で配合した。溶融石英粉粒体、減水剤、結晶化安定剤及びポルトランドセメントは実施例1と同じものを使用した。上記の実施例1と同様の方法で解析した各物性を表10にまとめる。表1に示したように、ろう石及び珪石はアルミナの含有量が規定量を上回る。使用済み珪石れんがは、アルミナ含量が規定量を上回り、トリジマイト相を有する。不透明結晶層の粉末は、表2に示したようにクリストバライト相を有する。
【0067】
【表10】
【0068】
実施例15の試験片は、表10に示したように、実施例1ないし14の試験片と同様に各物性において満足できるものであった。一方、比較例13及び14の試験片では、荷重下における線熱膨張率が下限を越えてしまい、クリープ値がマイナス側に大きくなってしまった。比較例15及び16の試験片では、無拘束状態おける線熱膨張率が上限を越えてしまいスポーリングの発生が認められた。
【0069】
上記の実施例1の耐火組成物100重量部に対して、長さ5mm、20dtexのポリエチレン繊維を0.1重量部配合し、水を6.0重量部配合して、よく混錬し、型枠に流し込んで自然乾燥させて、
図2の形状を有する耐火コンクリートブロックを製作した。この耐火コンクリートブロックは、側壁14と、正面側の壁面11と、背面側の壁面12と、壁面12及び13を繋ぐ梁13とを備える大型の中空耐火ブロック1である。大きさは、幅907mm、長さ1118mm、厚み390mmである。
【0070】
上記の耐火ブロックは、寸法が大きく複雑な形状であるが養生中のひび割れが生じるようなことはなかった。冷間における圧縮強度及び曲げ強度に優れておりクレーンで懸架して運搬する際にブロックが破損するようなこともなく、壁などの炉の構造物を熱間作業で速やかに構築することができた。熱間における曲げ強度と対クリープ性においても優れており、熱間における破損やクリープ変形は問題とならなかった。また、従来の珪石煉瓦と同等の熱伝導率を備えており、従来の耐火れんがに比較してより速やかに炉の温度を上昇させることができた。また、従来の耐火煉瓦に比較して見かけ気孔率が小さく、炉内のガスによってブロックが化学的な変化を受け難い。常温から1350℃までの耐熱スポーリング性に優れており、窯口周辺及び炉の中心部のいずれにも好適に使用することができた。