特許第6498546号(P6498546)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498546
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法、および、熔解槽
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/43 20060101AFI20190401BHJP
   C03B 5/03 20060101ALI20190401BHJP
   C03B 5/425 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C03B5/43
   C03B5/03
   C03B5/425
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-131876(P2015-131876)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-14055(P2017-14055A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 諒
(72)【発明者】
【氏名】守本 将
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−224002(JP,A)
【文献】 特開2005−008454(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0138048(US,A1)
【文献】 特表2002−515396(JP,A)
【文献】 特開平02−180719(JP,A)
【文献】 特公昭55−010548(JP,B1)
【文献】 実開昭63−046438(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B1/00−5/44
C03B8/00−8/04
C03B19/12−20/00
C03B18/00−18/22
C03B7/00−7/22
C03B9/00−17/06
C03B19/00−19/10
C03B21/00−21/06
F27D1/00−1/18
F27D7/00−15/02
F27B11/00−15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔解槽において、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスを通電加熱により作る工程を含むガラス板の製造方法であって、
前記熔解槽は、前記熔解槽の底部の保温を抑制する保温抑制構造を有し、
前記底部は、複数の耐火物が積層された構造を有し、
前記保温抑制構造は、前記熔解槽に貯留される前記熔融ガラスと接触し前記底部を構成する前記耐火物である第1耐火物が、前記第1耐火物と接し前記底部を構成する前記耐火物と比較して、より低い熱伝導率、および、前記熔融ガラスに対するより高い耐食性を有し、かつ、前記第1耐火物の厚みが85mm以下である構造である、
ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記第1耐火物は、ジルコニア系電鋳耐火物であり、
前記第1耐火物の下面と接触し前記底部を構成する前記耐火物である第2耐火物は、デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物である、
請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記第2耐火物の下面と接触し前記底部を構成する前記耐火物は、前記第2耐火物と比較して、より高い熱伝導率を有する、
請求項2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記第1耐火物は、前記第2耐火物と比較して、より低い電気抵抗率を有する、
請求項2または3に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記熔解槽は、前記底部の上方において、前記熔融ガラスを通電加熱するための電極を保持する壁部を有し、
前記壁部は、前記第1耐火物よりも高い電気抵抗率を有する耐火性の物質で成形されている、
請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
熔融ガラスを通電加熱により作るための熔解槽であって、
1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスを貯留する熔解槽本体と、
前記熔解槽本体に貯留される前記熔融ガラスを通電加熱するための電極と、
を備え、
前記熔解槽本体は、前記熔解槽本体の底部の保温を抑制する保温抑制構造を有し、
前記底部は、複数の耐火物が積層された構造を有し、
前記保温抑制構造は、前記熔解槽本体に貯留される前記熔融ガラスと接触し前記底部を構成する前記耐火物である第1耐火物が、前記第1耐火物と接し前記底部を構成する前記耐火物と比較して、より低い熱伝導率、および、前記熔融ガラスに対するより高い耐食性を有し、かつ、前記第1耐火物の厚みが85mm以下である構造である、
熔解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法、および、この方法に用いられる熔解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイパネルの分野では、画質の向上のために画素の高精細化が進んでいる。この高精細化の進展に伴って、ディスプレイパネルに用いられるガラス基板にも高品質であることが望まれている。例えば、ディスプレイパネルの製造工程中に、高温に熱処理されたガラス基板の寸法変化が生じにくいように、熱収縮の小さいガラス板が求められている。
【0003】
一般に、ガラス板の熱収縮は、ガラスの歪点が高いほど、また、ガラス板の製造工程中の徐冷速度を小さくするほど、小さくなることが知られている。そのため、同じガラス組成であっても、徐冷速度を十分に小さくすることによって、求められるレベルまで熱収縮を低減することは可能である。特に、熔融ガラスからフロート法でガラス板を製造する場合、徐冷炉を長くして徐冷速度を小さくすることは比較的容易にできる。しかし、ダウンドロー法を用いてガラス板を製造する場合、徐冷炉を長くすることは設備上あるいは操業操作上の点から難しい。このため、ダウンドロー法で熱収縮に対する要求を満たすガラス板を製造するためには、従来のガラス組成に比べて歪点の高いガラス組成のガラスを利用する、言い換えれば、高温粘性の高いガラス組成のガラスを利用しなければならない。このようなガラス組成を持つガラスは、一般的に、熔融ガラス時の電気抵抗率も大きくなる傾向にある。
【0004】
ここで、特許文献1(特開2012−517398号公報)に開示されているように、ガラス原料から熔融ガラスをつくる場合、熔解槽内の気相空間において、バーナー加熱により気相空間の温度を高温化して熔解槽の壁の温度を高くし、この壁からの輻射熱により投入したガラス原料を熔解させるとともに、熔解してできる熔融ガラスを、上記輻射熱により加熱する。さらに、熔解槽本体に設けられた電極対を介して通電加熱を行うことにより、熔融ガラスの温度および粘度を調整する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような熔融ガラスの通電加熱を行う熔解工程において、熔融ガラスの電気抵抗率が高い場合、加熱するための電流を多量に流さなければならない。しかし、熔融ガラスの電気抵抗率が高い場合、加熱するための電流は、熔融ガラスのみならず熔解槽を構成する耐火レンガにも流れる場合がある。熔融ガラスの電気抵抗率が高くなればなるほど、耐火レンガに流れる電流は増える。このような耐火レンガとして、熔融ガラスに対する耐食性に優れている電鋳耐火物レンガが用いられる。
【0006】
電鋳耐火物レンガの材料として、アルミナ(Al23)、AZS(アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)およびシリカ(SiO2)の混合物)、および、ジルコニア(ZrO2)がよく知られている。この中でも、特に、ジルコニア系の電鋳耐火物は、熔融ガラスに対する耐食性が高く、無アルカリガラスの熔解に好適である。しかし、ジルコニアは、アルミナおよびAZSと比較して熱伝導率が小さく、通電加熱時に熱ごもりが発生しないように慎重に電鋳耐火物を設計して操業する必要がある。熱ごもりとは、耐火物の内部の温度が、耐火物の表面の温度よりも高くなる状態である。熱ごもりのない望ましい状態とは、熔融ガラスに近い側の表面が最高温度となり、かつ、熔融ガラスに近い側の反対側の表面が最低温度となるように、一方向の温度勾配が形成されている状態である。
【0007】
このように、熔解槽を構成する耐火レンガとして電鋳耐火物レンガを用いる場合、ガラス板の熱収縮を小さくする目的で高温粘性および高電気抵抗率のガラス組成を用いると、通電加熱により耐火レンガに蓄積された熱は、外部に逃げにくく内部にこもりやすくなる。例えば、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスの場合、熔解槽の耐火レンガが通電加熱され、その熱が熔解槽の底部の耐火レンガに蓄積されて、周囲に比べて温度が局所的に高くなる熱ごもりの発生が無視できなくなる。1550℃における電気抵抗率が190Ω・cm以上である熔融ガラスの場合、熱ごもりは顕著になる。この熱ごもりにより、耐火レンガの強度が低下して耐火レンガが変形しやすくなり、場合によっては、耐火レンガが熔損するおそれがある。耐火レンガが熔損すると、熔融ガラス、ひいてはガラス板の生産が継続できないだけでなく、場合によっては重大な設備破損につながる。このように、熱収縮の小さいガラス板の要請に応じて熔融ガラスを高粘性化させてガラス板を改良するとき、従来の熔解槽では破損するおそれがある。
【0008】
本発明は、熔解槽において1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上となる熔融ガラスをつくる場合、熔解槽の底部の熱ごもりを抑え、熔損の発生を抑えることができるガラス板の製造方法、および、この方法に用いられる熔解槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガラス板の製造方法は、熔解槽において、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスを通電加熱により作る工程を含む。熔解槽は、熔解槽の底部の保温を抑制する保温抑制構造を有する。熔解槽の底部は、複数の耐火物が積層された構造を有する。保温抑制構造は、第1耐火物が、第1耐火物と接し底部を構成する耐火物と比較して、より低い熱伝導率、および、熔融ガラスに対するより高い耐食性を有し、かつ、第1耐火物の厚みが85mm以下である構造である。第1耐火物は、熔解槽に貯留される熔融ガラスと接触し底部を構成する耐火物である。
【0010】
このガラス板の製造方法では、熔解槽の底部の最上層は、高温の熔融ガラスと接触する第1耐火物から形成されている。第1耐火物は、熔融ガラスに対する耐食性が高いので、長期間の使用による熔解槽の劣化が抑制される。また、第1耐火物のように、熔融ガラスに対する耐食性が高い耐火物は、熱伝導率が低く保温性が高いことがある。また、通電加熱された熔融ガラスは有効熱伝導率(輻射を含む)が高く、熔融ガラス内で自然対流が起きるので、熔融ガラスが局所的に高温になる熱ごもりは起こりにくい。一方、熱伝導率が熔融ガラスよりも低い第1耐火物では、通電加熱により熱ごもりが発生することによる溶損のリスクがある。しかし、第1耐火物の厚みは所定の値以下に制限されているので、第1耐火物の内部に熱がこもることが抑制される。そのため、第1耐火物の強度が低下して第1耐火物が変形し易くなることによる熔解槽の熔損が抑制される。従って、このガラス板の製造方法は、熔解槽の底部の熱ごもりを抑え、熔損の発生を抑えることができる。
【0011】
第1耐火物は、ジルコニア系電鋳耐火物であり、第2耐火物は、デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物であることが好ましい。第2耐火物は、第1耐火物の下面と接触し底部を構成する耐火物である。
【0012】
デンスジルコン耐火物は、1400℃における電気抵抗率が10Ω・mを超えるほど高く、通電加熱されにくいため、熱ごもりを抑制する観点では優れている。しかし、デンスジルコン耐火物は、熔融ガラスとの接触による侵食には耐えられない。一方、ジルコニア電鋳耐火物は、熔融ガラスとの接触による侵食に十分耐えられるが、電気抵抗率が小さいため、通電加熱されやすい。このように、高電気抵抗と高耐食性とは、通常両立しない。そこで、熔融ガラスと接触する第1耐火物としてジルコニア電鋳耐火物を用い、熔融ガラスと接触しない第2耐火物としてデンスジルコン耐火物を用いることが好ましい。これは、ジルコニア電鋳耐火物は、熱ごもりを抑制する観点では不利だが、熔融ガラスに対する耐食性の観点では有利であるためである。
【0013】
第2耐火物の下面と接触し底部を構成する耐火物は、第2耐火物と比較して、より高い熱伝導率を有することが好ましい。
【0014】
第1耐火物は、第2耐火物と比較して、より低い電気抵抗率を有することが好ましい。
【0015】
熔解槽は、底部の上方において、熔融ガラスを通電加熱するための電極を保持する壁部を有することが好ましい。壁部は、第1耐火物よりも高い電気抵抗率を有する耐火性の物質で成形されている。
【0016】
本発明に係る熔解槽は、熔融ガラスを通電加熱により作るための熔解槽である。熔解槽は、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスを貯留する熔解槽本体と、熔解槽本体に貯留される熔融ガラスを通電加熱するための電極とを備える。熔解槽本体は、熔解槽本体の底部の保温を抑制する保温抑制構造を有する。熔解槽本体の底部は、複数の耐火物が積層された構造を有する。保温抑制構造は、第1耐火物が、第1耐火物と接し底部を構成する耐火物と比較して、より低い熱伝導率、および、熔融ガラスに対するより高い耐食性を有し、かつ、第1耐火物の厚みが85mm以下である構造である。第1耐火物は、熔解槽本体に貯留される熔融ガラスと接触し底部を構成する耐火物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るガラス板の製造方法、および、この方法に用いられる熔解槽は、熔解槽において1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上となる熔融ガラスをつくる場合、熔解槽の底部の熱ごもりを抑え、熔損の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るガラス板の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係るガラス板製造装置の構成を示す模式図である。
図3】熔解槽の熔解槽本体とその周辺構造の概略的な斜視図である。
図4】熔解槽の長手方向に直交する方向の断面図である。
図5】変形例Bにおける、熔解槽の熔解槽本体とその周辺構造の概略的な斜視図である。
図6】カメラ用レンガの外観図である。
図7】カメラ用レンガの正面図である。
図8図7のVIII−VIII線で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)ガラス板の製造方法の概要
本発明に係るガラス板の製造方法、および、この方法に用いられる熔解槽の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0020】
ガラス板の製造方法は、図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程S2と、攪拌工程S3と、供給工程S4と、成形工程S5と、徐冷工程S6と、切断工程S7とを備える。
【0021】
熔解工程S1では、ガラス原料が熔解槽に投入されて加熱されることで熔融ガラスが得られる。熔融ガラスは、熔解槽の側壁の底部に形成された流出口から、清澄工程S2に向かって流出する。熔解槽における熔融ガラスの加熱は、熔解槽の側壁に設けられた電極対を用いて熔融ガラスに電気を流して直接的に熔融ガラスを加熱する方法、および、熔融ガラスの液面の上方空間をバーナーの炎で加熱して間接的に熔融ガラスを加熱する方法により行われる。ガラス原料には、清澄剤が添加される。清澄剤は、例えば、SnO2、As23およびSb23である。環境負荷低減の観点からは、清澄剤として、SnO2が用いられる。
【0022】
清澄工程S2では、熔解槽から延びる配管を流れた熔融ガラスが清澄槽内で加熱されることで、熔融ガラス中に含まれるCO2、N2、SO2等を含む泡が、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上して消滅する。清澄工程S2では、さらに、熔融ガラスの温度を低下させることで、還元された清澄剤が酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガスが熔融ガラスに吸収される。清澄剤の還元反応および酸化反応は、清澄槽内の熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程S2では、減圧雰囲気の空間を清澄槽内に形成し、熔融ガラス中の泡を減圧雰囲気下で成長させて除去する減圧脱泡方式が用いられてもよい。
【0023】
攪拌工程S3では、清澄槽から延びる配管を流れた熔融ガラスが、攪拌槽内で攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、脈理の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。
【0024】
供給工程S4では、攪拌槽で攪拌された熔融ガラスが、配管を流れて成形装置に供給される。
【0025】
成形工程S5では、成形装置に供給された熔融ガラスから、オーバーフローダウンドロー法によりガラスリボンが連続的に成形される。
【0026】
徐冷工程S6では、成形されたガラスリボンが所望の厚みを有し、かつ、歪みおよび反りが生じないように、ガラスリボンが徐々に冷却される。
【0027】
切断工程S7では、冷却されたガラスリボンが所定の長さに切断されて、ガラス素板が得られる。ガラス素板は、さらに、所定の寸法に切断されて、製品サイズのガラス板が得られる。その後、ガラス板端面の研削および研磨、並びに、ガラス板の洗浄が行われる。さらに、気泡、脈理およびキズ等の欠陥の有無が検査され、検査に合格したガラス板が梱包されて製品として出荷される。ガラス板の幅方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。ガラス板の長さ方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。
【0028】
このガラス板の製造方法で用いられるガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製されている。ガラスの組成の一例として、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として好適な無アルカリガラスは、SiO2:50質量%〜70質量%、Al23:0質量%〜25質量%、B23:1質量%〜15質量%、MgO:0質量%〜10質量%、CaO:0質量%〜20質量%、SrO:0質量%〜20質量%、BaO:0質量%〜10質量%を含有する。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0029】
また、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として、アルカリ金属を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。なお、R’2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。
【0030】
また、ガラスの組成は、上記成分に加えて、SnO2:0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe23:0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、ガラスの組成は、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0031】
なお、フラットパネルディスプレイ用のガラス板は、高温時における粘度が高い。例えば、102.5ポアズの粘度を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。
【0032】
図2は、熔解工程S1から切断工程S7までを行うガラス板製造装置100の構成の一例を示す模式図である。ガラス板製造装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、成形装置104と、第1供給管105aと、第2供給管105bと、第3供給管105cとを備える。第1供給管105aは、熔解槽101と清澄槽102とを接続する。第2供給管105bは、清澄槽102と攪拌槽103とを接続する。第3供給管105cは、攪拌槽103と成形装置104とを接続する。
【0033】
熔解工程S1において、ガラス原料は、バケット101dを用いて熔解槽101に投入される。ガラス原料は、熔解槽101内で加熱されて熔解し、熔融ガラスMGが得られる。熔解槽101では、例えば、1500℃〜1600℃の熔融ガラスMGが得られる。熔解槽101内の熔融ガラスMGは、第1供給管105aを流れて、清澄槽102に供給される。
【0034】
バケット101dを用いるガラス原料の投入方法は、熔融ガラスMGの液面のうち第1供給管105aの反対側の液面に投入する前方投入方式と、熔融ガラスMGの液面全体に均等に投入する全面投入方式とを含む。本実施形態では、図2に示されるように、前方投入方式によってガラス原料が熔解槽101に投入される。なお、ガラス原料は、バケット101dを用いる以外の方法で熔解槽101に投入されてもよい。例えば、ガラス原料は、スクリューフィーダを用いて熔解槽101に投入されてもよい。
【0035】
清澄工程S2では、清澄槽102において熔融ガラスMGが清澄される。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度が調整されて、熔融ガラスMG中に含まれるガス成分が除去される。清澄槽102では、熔融ガラスMGは、例えば、1500℃〜1700℃まで昇温させられる。清澄された熔融ガラスMGは、第2供給管105bを流れて、攪拌槽103に供給される。
【0036】
攪拌工程S3では、攪拌槽103において熔融ガラスMGが攪拌されて、熔融ガラスMGの成分が均質化される。攪拌槽103に供給される熔融ガラスMGの温度は、所定の範囲内になるように調整されている。攪拌槽103内の熔融ガラスMGの温度は、例えば、1250℃〜1450℃である。攪拌槽103内の熔融ガラスMGの粘度は、例えば、500ポアズ〜1300ポアズである。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスMGは、第3供給管105cに流入する。
【0037】
供給工程S4では、熔融ガラスMGは、第3供給管105cの中を流れながら、次の成形工程S5におけるガラスリボンの成形に適した温度まで冷却される。例えば、熔融ガラスMGは、第3供給管105cの中を流れる過程で、1200℃付近まで冷却される。供給工程S4において、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスMGは、温度が制御されながら冷却される。第3供給管105cで冷却された熔融ガラスMGは、成形装置104に供給される。
【0038】
成形工程S5では、成形装置104において、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスMGからガラスリボンが連続的に成形される。
【0039】
徐冷工程S6では、成形装置104において、成形工程S5において成形されたガラスリボンが室温付近まで徐冷される。
【0040】
切断工程S7では、徐冷されたガラスリボンが、切断装置(図示せず)によって所定の寸法に切断され、ガラス板が製造される。
【0041】
本実施形態のガラス板の製造方法において、熱収縮の小さいガラス板を作るために高温粘性の高いガラスを用いる場合、熔解工程S1において、高温粘性の低いガラスに比べてより多量の電流を流して熔融ガラスを通電加熱する必要がある。しかし、熔融ガラスの高温粘性が高いほど、熔融ガラスの電気抵抗率は大きくなる傾向にある。その結果、熔融ガラスの電気抵抗率は、熔解槽101の側壁および底壁を構成する耐火レンガの電気抵抗率と同等になる場合がある。このため、熔解槽101の側壁に設けられた電極対を用いて熔融ガラスに電流を流す際に、本来熔融ガラスに流れるべき電流の一部が、熔解槽101の側壁および底壁に流れ、熔解槽101が加熱される場合がある。特に、熔解槽101の底壁が、耐熱性および保温性に優れた耐火レンガから構成されている場合、耐火レンガに熱が蓄積されて高温状態が維持される熱ごもりが発生する。このような熱ごもりは、熔解槽101の底壁を構成する耐火レンガの機械的強度を低下させて熱クリープを発生させるおそれがあり、また、耐火レンガの一部が熔損して熔解槽101に貯留される熔融ガラスが外部に漏れ出るおそれがある。
【0042】
本実施形態では、高温粘性の高い熔融ガラス、具体的には、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスを作るための熔解槽101は、熔解槽101の底壁の保温を抑制する保温抑制構造を有する。保温抑制構造は、上述の熱ごもりの発生を抑え、熔解槽101の熔損を抑えるための構造である。
【0043】
(2)熔解槽の詳細な構成
次に、熔解槽101の詳細な構成について説明する。図3は、熔解槽101の熔解槽本体とその周辺構造の概略的な斜視図である。図4は、熔解槽101の長手方向に直交する方向の断面図である。熔解槽101の長手方向は、バケット101dの原料投入口から第1供給管105aへ向かう方向であり、図3において複数の電極対114の並び方向である。熔解槽101は、主として、熔解槽本体110と、バーナー112と、電極対114と、迫部118とを備える。
【0044】
熔解槽本体110は、熔融ガラスMGが貯留される容器である。熔解槽本体110は、高温の熔融ガラスに対して耐熱性を有する素材で成形されている。熔解槽本体110の内部空間の上部は、熔融ガラスMGの液面より上方の気相空間110cである。熔解槽本体110の内部空間の下部は、熔融ガラスMGが貯留される貯留空間110dである。熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGは、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である。
【0045】
熔解槽本体110は、主として、底壁110aと、側壁110bと、気相空間仕切り壁116とから構成される。側壁110bは、底壁110aの上面の外縁から上方に向かって突出している壁である。気相空間仕切り壁116は、側壁110bの上端と接続されている壁である。気相空間110cは、主に、熔解槽本体110の一部である気相空間仕切り壁116によって四方を囲まれている。
【0046】
バーナー112は、気相空間仕切り壁116に取り付けられている。バーナー112は、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスの燃焼により生じる火炎を気相空間110cに放出する。バーナー112は、気相空間110cを加熱することで、熔解槽本体110に貯留されている熔融ガラスMGを間接的に加熱する。図3,4に示されるように、気相空間仕切り壁116の互いに対向する一対の壁に、それぞれ3基のバーナー112が取り付けられている。図3では、熔解槽本体110の奥側の壁に取り付けられているバーナー112のみが示されている。バーナー112は、互いに対向する位置に設けられておらず、互い違いの位置に設けられている。すなわち、図4では、2基のバーナー112が互いに対向する位置に設けられるように見えるが、この2基のバーナー112は、図4の紙面に対して垂直方向の異なる位置に設けられている。なお、バーナー112は、互いに対向する一対の壁の一方のみに設けられてもよい。
【0047】
電極対114は、熔解槽本体110の長手方向の側壁110bに取り付けられている。電極対114は、長手方向の3箇所の異なる位置に、熔融ガラスMGを挟んで互いに対向するように設けられている。図3では、熔解槽本体110の手前側の側壁110bに取り付けられている電極のみが示されている。電極対114は、その間に存在する熔融ガラスMGに電流を流して、熔融ガラスMGを通電加熱する。電極対114は、例えば、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料から成形される。電極対114は、制御ユニット(図示せず)に接続され、制御ユニットから電流の供給を受ける。制御ユニットは、コンピュータ(図示せず)に接続される。コンピュータは、電極対114に流れる電流を制御するための制御信号を制御ユニットに送る。コンピュータは、熔解槽101に貯留される熔融ガラスMGの温度および粘度が所定の範囲内になるように制御信号を生成する。
【0048】
気相空間仕切り壁116は、熔解槽本体110の一部であり、主に、貯留空間110dの上方の気相空間110cを囲む壁である。気相空間仕切り壁116には、開閉自在な原料投入口101fが設けられている。図2に示されるバケット101dは、原料投入口101fを出入りすることができる。ガラス原料を積んだバケット101dにより、ガラス原料は、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGの液面に投入される。熔解槽本体110の、原料投入口101fと対向する側壁110bの底部近傍には、流出口115が設けられている。流出口115には、第1供給管105aが接続されている。熔解槽101は、流出口115を介して後工程に熔融ガラスMGを供給する。なお、バケット101dの代わりにスクリューフィーダを用いて、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGの液面にガラス原料が投入されてもよい。
【0049】
迫部118は、熔解槽101の気相空間110cを覆う天井壁である。図4には、迫部118の詳細が示されている。迫部118の頂部には、温度センサ118aが取り付けられている。温度センサ118aは、気相空間110cの温度を測定する。迫部118は、高温の熔融ガラスMGに対して耐熱性を有する素材で成形されている。なお、気相空間仕切り壁116および迫部118は、例えば、Al23、ZrO2及びSiO2を含むAZS系電鋳耐火レンガから構成される。
【0050】
次に、熔解槽本体110の詳細な構成について説明する。熔解槽本体110の底壁110aは、複数種類の耐火物が鉛直方向に積層された構造を有している。図4に示されるように、底壁110aは、少なくとも3種類の耐火物が積層された構造を有している。本実施形態では、底壁110aは、第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123が、鉛直方向上方から下方に向かって積層している構造を有している。第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123は、耐熱耐火レンガ等である。第1耐火物121は、底壁110aの最上層を構成し、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGと接触する。側壁110bは、第1耐火物121と接続されている。第2耐火物122は、第1耐火物121の下面と接触する。第3耐火物123は、第2耐火物122の下面と接触する。
【0051】
第1耐火物121は、ジルコニア系電鋳耐火物である。ジルコニア系電鋳耐火物は、ジルコニア(ZrO2)の含有量が90質量%以上である耐火物である。第2耐火物122は、デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物である。デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物は、ジルコン(ZrSiO4)の含有量が90質量%以上であり、かつ、圧縮後の焼成によって成形される耐火物である。第3耐火物123は、第1耐火物121および第2耐火物122より安価であり、かつ、後述の条件を満たす任意の耐火物である。第1耐火物121は、例えば、AGCセラミックス株式会社製のジルコニア系電鋳耐火物(ZB−X9510)が用いられる。第2耐火物122は、第1耐火物121と比べて、電気抵抗率および熱伝導率がより高く、かつ、より安価なデンスジルコン耐火物が用いられる。第2耐火物は、例えば、コルハート社製のデンスジルコン耐火物(ZS1300)が用いられる。第3耐火物123は、例えば、ヨータイ社製の電融ムライト耐火物(ML−FMS)が用いられる。なお、耐火物の熱伝導率が低いほど、その耐火物の断熱性および保温性が高い。すなわち、耐火物の熱伝導率が低いほど、耐火物から外部に熱が逃げにくく、内部に熱がこもりやすい。また、ジルコニア系電鋳耐火物である第1耐火物121は、ジルコニア系焼成耐火物である第2耐火物122と比べて、熔融ガラスMGに対する耐食性がより高い。そのため、第1耐火物121は、熔融ガラスMGと接触する耐火物として用いられる。
【0052】
底壁110aを構成する第1耐火物121および第2耐火物122の物性値は、次の大小関係を満たす。電気抵抗率の大小関係は、第2耐火物122>第1耐火物121である。熱伝導率の大小関係は、第2耐火物122>第1耐火物121である。熔融ガラスMGに対する耐食性の大小関係は、第1耐火物121>第2耐火物122である。なお、第1耐火物121および第2耐火物122の熱伝導率は、温度に依存する。例えば、400℃から1200℃までの温度範囲において、熱伝導率の大小関係は、第2耐火物122>第1耐火物121となる。
【0053】
第3耐火物123は、耐熱性を有する任意の耐火物であればよい。そのため、第3耐火物123の電気抵抗率、熱伝導率、および、熔融ガラスMGに対する耐食性は、第1耐火物121および第2耐火物122と比べて高くても低くてもよい。
【0054】
次に、第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123の、1400℃のときにおける電気抵抗率および熱伝導率の数値範囲について説明する。第1耐火物121の電気抵抗率は、0.5Ω・m〜10Ω・mである。第2耐火物122の電気抵抗率は、10Ω・m〜100Ω・mである。第1耐火物121の熱伝導率は、0.8W/m・K〜4.0W/m・Kである。第2耐火物122の熱伝導率は、2.0W/m・K〜5.0W/m・Kである。
【0055】
次に、第1耐火物121および第2耐火物122の、熔融ガラスMGに対する耐食性について説明する。ここでは、耐食性を表すパラメータとして、腐食度mdd(mg/dm2・day)を用いる。腐食度mddが小さいほど、耐食性が高い。第1耐火物121の腐食度は、2000mdd〜20000mddである。第2耐火物122の腐食度は、10000mdd〜100000mddである。第1耐火物121の腐食度は、第2耐火物122の腐食度より小さければ、任意である。
【0056】
次に、第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123の寸法について説明する。第1耐火物121の厚みは、30mm〜85mmである。第2耐火物122の厚みは、60mm〜200mmである。第3耐火物123の厚みは、50mm〜500mmである。
【0057】
熔解槽本体110の側壁110bは、耐火物から構成されている。例えば、側壁110bは、耐熱耐火レンガが積層された構造を有している。側壁110bを構成する耐火物は、第1耐火物121よりも高い電気抵抗率を有する任意の耐火物である。また、側壁110bは、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGと接触するので、熔融ガラスMGに対する耐食性が比較的高い耐火物で構成されていることが好ましい。この観点からは、側壁110bを構成する耐火物は、底壁110aを構成する第2耐火物122と同じ耐火物であることが好ましい。
【0058】
なお、側壁110bは、底壁110aを構成する第1耐火物121と同様に熔融ガラスMGと接触する。そのため、側壁110bは、熔融ガラスMGに対する耐食性に優れた第1耐火物121と同じ耐火物で構成されてもよい。
【0059】
(3)特徴
熔解槽101は、熔解槽101の底壁110aの保温を抑制する保温抑制構造を有する。保温抑制構造は、上述した熱ごもりの発生を抑え、熔解槽101の熔損を抑えるための構造である。保温抑制構造は、底壁110aを構成する第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123から構成される。
【0060】
保温抑制構造の主な特徴は、第1耐火物121が、第2耐火物122および第3耐火物123と比較して、熔融ガラスMGに対する耐食性がより高いこと、および、第1耐火物121の厚みが85mm以下に制限されていることである。熔解槽101の底壁110aの最上層を構成する第1耐火物121は、熔解槽本体110に貯留される高温の熔融ガラスMGと接触する。第1耐火物121は、高温の熔融ガラスMGに対する耐食性が高いので、熔解槽101の継続的な使用により第1耐火物121が熔融ガラスMGに長期間曝されていても、第1耐火物121の機械的強度が低下して第1耐火物121の熱クリープが発生することが抑制される。
【0061】
また、第1耐火物121のように、熔融ガラスMGに対する耐食性が高い耐火物は、一般的に、熱伝導率が低く保温性が高い傾向がある。すなわち、第1耐火物121は、第2耐火物122および第3耐火物123と比較して、内部の熱が外部に逃げにくい性質を有する。しかし、本実施形態の熔解槽101では、第1耐火物121の厚みは、85mm以下に制限されている。第1耐火物121の厚みが大きいほど、第1耐火物121の保温性が高くなるので、第1耐火物121から第2耐火物122および側壁110bに熱が逃げにくくなり、第1耐火物121の内部に熱がこもりやすくなる。そのため、第1耐火物121の厚みの上限を設定することで、第1耐火物121の内部に熱がこもりにくくなる。これにより、第1耐火物121の機械的強度が低下して第1耐火物121の熱クリープが発生することが抑制される。
【0062】
なお、第1耐火物121の厚みの上限は、底壁110aの最上層に通常用いられる耐火物の厚みよりも低い85mmに設定されている。第1耐火物121の保温性を抑えて第1耐火物121から熱を逃げやすくする観点からは、第1耐火物121の厚みの上限は、低いほど好ましい。しかし、第1耐火物121の厚みが小さすぎる場合には、第1耐火物121の機械的強度が十分でなくなるおそれがある。そのため、第1耐火物121の厚みは、少なくとも30mmであることが好ましい。
【0063】
以上より、本実施形態のガラス板の製造方法に用いられる熔解槽101は、熔解槽101の底壁110aの熱ごもりを抑えて、底壁110aの熔損の発生を抑えることができる。これにより、熔解槽101が破損し、熔解槽101に貯留されている熔融ガラスMGが外部に漏れ出すことによる重大な設備破損の発生が抑制される。
【0064】
また、本実施形態の熔解槽101では、第3耐火物123は、第2耐火物122と比較して、より高い熱伝導率を有する。これにより、第2耐火物122の熱は、第3耐火物123に逃げやすいので、結果的に、第1耐火物121の熱は、第2耐火物122を介して第3耐火物123に逃げやすくなる。従って、第3耐火物123を用いることで、第1耐火物121の内部に熱がこもることが効果的に抑制される。
【0065】
また、本実施形態の熔解槽101では、第1耐火物121は、第2耐火物122と比較して、より低い電気抵抗率を有することがある。第1耐火物121は、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGと接触する。そのため、第1耐火物121の電気抵抗率が低いほど、電極対114によって熔融ガラスMGに流される電流の一部が、第1耐火物121にも流れやすくなる。しかし、上述したように、第1耐火物121の厚みの上限を設定して第1耐火物121の厚みを抑えることで、底壁110a全体の電気抵抗の低下が抑制される。これにより、第1耐火物121を流れる電流が低減されるので、第1耐火物121の通電加熱が抑制される。従って、第1耐火物121の厚みの上限を設定することで、第1耐火物121の内部に熱がこもることが効果的に抑制される。
【0066】
また、本実施形態の熔解槽101では、電極対114を保持する側壁110bは、第1耐火物121よりも高い電気抵抗率を有する耐火物、例えば、第2耐火物122で成形されている。側壁110bを構成する耐火物の電気抵抗率が低いほど、側壁110bの一部であって、電極対114と第1耐火物121との間の耐火物に電流が流れやすくなる。その結果、第1耐火物121にも電流が流れやすくなる。そのため、側壁110bを構成する耐火物の電気抵抗率が高いほど、第1耐火物121に流れる電流が低減されるので、第1耐火物121の通電加熱が抑制される。従って、側壁110bを構成する耐火物として第2耐火物122等を用いることで、第1耐火物121の内部に熱がこもることが効果的に抑制される。
【0067】
なお、熔解槽101では、特に、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である高温粘性の高い熔融ガラスMGを作る場合に、上述した底壁110aの熱ごもりが発生しやすい。このために、熔解槽101の底壁110aは、保温抑制構造を備えている。熱ごもりが発生する部分は、電極対114の位置、電極対114が熔融ガラスMGに与える電流の大きさ、および、熔解槽本体110の形状等に応じて変化するが、熔解槽本体110の長手方向の中心と、流出口115との間に位置することが多い。
【0068】
また、熔解槽101は、酸化スズを含有し、粘度が102.5ポアズであるときの温度が1580℃以上である熔融ガラスMGを作る場合においても、熔解槽本体110の熱クリープの発生を抑え、熔解槽101の熔損を抑えることができる。また、熔解槽101は、1550℃における電気抵抗率が190Ω・cm以上である熔融ガラスMGを作ることにも適している。
【0069】
(4)変形例
以上、実施形態のガラス板の製造方法、および、この方法に用いられる熔解槽について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種種の変更が行われてもよい。例えば、本発明は、以下に説明する変更が適用されてもよい。
【0070】
(4−1)変形例A
実施形態の熔解槽101では、熔解槽101の底壁110aの熱ごもりを抑えて熔損の発生を抑えるために、底壁110aを構成し熔融ガラスMGと接触する第1耐火物121として、熔融ガラスMGに対する耐食性が高いジルコニア系電鋳耐火物が用いられている。また、第1耐火物121の保温性を抑えて、第1耐火物121の熱を第2耐火物122等に逃げやすくするために、第1耐火物121の厚みが制限されている。
【0071】
ここで、熔解槽101を用いて熔融ガラスMGを作る前に、基準とする熔解槽モデルを用いて熔融ガラスMGを作るシミュレーション計算を行って、熔解槽101の底壁110aの温度分布を予測計算し、予測計算で得られた温度分布に基づいて、第1耐火物121の物性および厚みを設定してもよい。第1耐火物121の物性は、第1耐火物121の電気抵抗率および熱伝導率等である。
【0072】
例えば、1550℃における電気抵抗率が160Ω・cm以上である熔融ガラスMGを通電加熱によりつくる熔解槽101は、以下の方法によって設計することができる。
【0073】
最初に、基準となる熔解槽モデルを設定する。熔解槽モデルは、熔解槽101に関する様々なパラメータを有する。パラメータは、例えば、熔解槽101の寸法、熔融ガラスMGの温度および粘度、および、熔解槽101を構成する耐火物の物性等である。
【0074】
次に、熔解槽モデルを用いて熔解槽101を用いた熔融ガラスMGの熱伝導のシミュレーション計算を行い、熔解槽101の底壁110aの温度分布の時間変化を求める。そして、求めた温度分布の時間変化を分析することで、第1耐火物121の保温性、および、第1耐火物121の熱の逃げやすさ等を評価する。そして、評価結果に応じて、第1耐火物121に関する種種のパラメータ(電気抵抗率、熱伝導率および厚み等)を修正し、以上の一連の工程を繰り返すことにより、熔解槽101の最適な保温抑制構造を実現できるパラメータを決定する。
【0075】
(4−2)変形例B
実施形態の熔解槽101は、気相空間110cを加熱するための複数のバーナー112を備えている。バーナー112は、気相空間110cに火炎を放出することで、熔解槽本体110に貯留されている熔融ガラスMGに浮いているガラス原料、および、熔融ガラスMGを間接的に加熱する。ガラス原料および熔融ガラスMGを均一に加熱するためには、バーナー112によって気相空間110cが均一に加熱される必要がある。そのため、バーナー112から放出される火炎の状態は、気相空間110cが均一に加熱されているか否かを判断するための有益な情報である。ここで、火炎の状態は、バーナー112のノズルから放出される火炎の方向、火炎の大きさ、および、火炎の色等である。火炎の方向および大きさが、各バーナー112によって異なっていると、気相空間110cが均一に加熱されないおそれがある。火炎の色は、火炎の燃焼状態を判定するために用いることができる。火炎が不完全燃焼の状態である場合、気相空間110cが均一に加熱されないおそれがある。
【0076】
しかし、バーナー112から気相空間110cに放出される火炎の状態を目視で確認することは、気相空間110cが熔解槽101によって囲まれているため困難である。そのため、気相空間110cを撮像するための監視カメラ(図示せず)を用いて、監視カメラが取得した映像を分析して、バーナー112から放出される火炎の状態を取得することが好ましい。この場合、監視カメラは、バーナー112から放出される火炎の状態だけではなく、熔解槽本体110の状態、熔解槽本体110に貯留されている熔融ガラスMGの液面の状態、および、熔融ガラスMGの液面に浮いているガラス原料の状態をさらに取得することが好ましい。
【0077】
熔解槽101の管理者は、監視カメラが取得した映像を分析することで、種種の情報を取得することができる。例えば、管理者は、バーナー112から放出される火炎の状態を取得して、気相空間110cが均一に加熱されているか否かを判断することができる。また、管理者は、バーナー112のノズルの状態、および、バーナー112を支持する耐火物の状態を取得して、これらが破損しているか否かを判定することができる。また、管理者は、熔融ガラスMGの液面の状態、および、熔融ガラスMGの液面に浮いているガラス原料の状態に基づいて、熔融ガラスMGの対流を予測して熔融ガラスMGの温度分布を算出することができる。また、この算出結果に基づいて、熔融ガラスMGの温度を調整したり、熔融ガラスMGの温度分布のシミュレーション結果を検証したりすることができる。なお、以上の作業は、全て、コンピュータに記憶されたプログラムによって自動的に行われてもよい。
【0078】
本変形において、気相空間110cを撮像する監視カメラは、熔解槽本体110の近傍に設置されているカメラ用架台に取り付けられている。監視カメラは、熔解槽本体110に設けられたカメラ孔を通して、熔解槽本体110の外部空間から、熔解槽本体110内部の気相空間110cを撮像する。気相空間110c全体を撮像する観点からは、カメラ孔は、熔解槽本体110の流出口115の上方の壁に形成されていることが好ましい。図5は、本変形例における、熔解槽101の熔解槽本体110とその周辺構造の概略的な斜視図である。図5には、カメラ孔を有する耐火レンガであるカメラ用レンガ117の位置が示されている。図6は、カメラ用レンガ117の外観図である。カメラ用レンガ117の材質は、例えば、実施形態の第2耐火物122である。図7は、カメラ用レンガ117の正面図である。図8は、図7のVIII−VIII線で切断した断面図である。図8には、カメラ用レンガ117と監視カメラ120との位置関係が示されている。
【0079】
カメラ用レンガ117は、監視カメラ120の視野を確保するためのカメラ孔119を有する。カメラ用レンガ117の上面117aは、カメラ用レンガ117の上方に位置する耐火レンガの重量を受ける面である。カメラ用レンガ117の両側面117bおよび底面117cは、隣接する耐火レンガによって支持される面である。両側面117bは、カメラ孔119の両側の側面である。カメラ孔119は、カメラ孔入口119aおよびカメラ孔出口119bの両端を有する。カメラ孔入口119aは、熔解槽101の外部空間に接し、カメラ孔出口119bは、熔解槽101内部の気相空間110cに接する。
【0080】
図7は、カメラ孔119の長手方向に沿って、カメラ孔出口119bからカメラ孔入口119aに向かってカメラ用レンガ117を見た図である。カメラ孔119は、カメラ用レンガ117の4つの面に囲まれた空間である。カメラ孔119は、カメラ孔入口119aからカメラ孔出口119bに向かって断面積が徐々に大きくなっている形状を有している。図8に示されるように、監視カメラ120は、カメラ孔入口119aの近傍に設置されている。監視カメラ120のレンズは、カメラ孔入口119aからカメラ孔出口119bに向かう方向に向けられている。監視カメラ120は、カメラ孔119を通して、熔解槽101内部の気相空間110cを撮像する。カメラ孔119は、監視カメラ120の視野を確保するために、カメラ孔入口119aからカメラ孔出口119bに向かって広がっている。
【0081】
カメラ孔119は、図7に示されるように、4つの角部119cを有している。角部119cは、カメラ孔119を形成する2つの面が接続される箇所である。4つの角部119cの少なくとも1つは、R面取り加工されている。R面取り加工されている角部119cでは、2つの面が滑らかに接続されている。
【0082】
R面取り加工されている角部119cは、以下の理由により、カメラ用レンガ117の破損を抑制する効果を有する。カメラ用レンガ117は、その周囲が支持されている状態で加熱されるために応力が発生する。この応力は、角部119cに集中しやすい。また、この応力は、カメラ用レンガ117の変形を引き起こし、カメラ用レンガ117の破損の原因となる。角部119cをR面取り加工することで、角部119cに発生する応力が低減される。従って、角部119cをR面取り加工することで、カメラ用レンガ117の破損が抑制される。
【0083】
本変形例は、熔解槽において熔融ガラスを通電加熱により作る工程を含むガラス板の製造方法に関する。熔解槽は、熔解槽の内部の気相空間を撮像する監視カメラと、監視カメラの視野を確保するためのカメラ用レンガとを備える。気相空間は、熔解槽の内部の空間であって、熔解槽に貯留されている熔融ガラスの液面の上方の空間である。カメラ用レンガは、熔解槽の外部空間に設置された監視カメラで気相空間を撮像するために用いられる孔であるカメラ孔を有する。カメラ孔は、気相空間と熔解槽の外部空間とを連通する。カメラ孔は、R面取り加工された角部を有する。角部は、カメラ孔を形成する2つの面が接続される部分である。
【0084】
(4−3)変形例C
実施形態の熔解槽101では、図4に示されるように、底壁110aは、3種類の耐火物が積層された構造を有している。しかし、底壁110aは、4種類以上の耐火物が積層された構造を有していてもよい。この場合、底壁110aの最上層の保温を抑制する観点からは、底壁110aを構成する各層の耐火物の熱伝導率は、最上層から最下層に向かって高くなることが好ましい。これにより、第1耐火物121の熱は、第1耐火物121の下方の耐火物に逃げやすくなるので、第1耐火物121の内部に熱がこもることが効果的に抑制される。
【0085】
また、底壁110aは、2種類の耐火物が積層された構造を有していてもよい。例えば、実施形態の熔解槽101において、底壁110aの第3耐火物123は、第2耐火物122と同じ耐火物であってもよい。
【0086】
(4−4)変形例D
実施形態のガラス板の製造方法では、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として好適な無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスの製造のために調合されたガラス原料が用いられる。
【0087】
しかし、近年、フラットパネルディスプレイのさらなる高精細化を実現するために、従来のa−Si(アモルファスシリコン)・TFTではなく、p−Si(低温ポリシリコン)・TFTまたは酸化物半導体を用いたディスプレイが求められている。p−Si・TFTおよび酸化物半導体の形成工程では、a−Si・TFTの形成工程よりも高温の熱処理工程が存在する。そのため、p−Si・TFTおよび酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さい特性が求められている。ガラス板の熱収縮率を小さくするためには、ガラスの歪点を高くすることが好ましい。しかし、歪点が高いガラスは、液相温度が高く、かつ、液相粘度が低くなる傾向がある。すなわち、歪点が高いガラスの液相粘度は、成形工程S5における熔融ガラスの適正な粘度に近付く。そのため、ガラスの失透を抑制するために、成形装置104に熔融ガラスを供給する第3供給管105cにおいて、その断面方向における熔融ガラスの温度をできるだけ均一にすることがより強く求められている。
【0088】
実施形態のガラス板の製造方法は、温度が均一な熔融ガラスを成形装置104に供給できるので、例えば、歪点が665℃以上のガラスを用いるガラス板の製造方法にも適用できる。特に、p−Si・TFTおよび酸化物半導体に好適な、歪点が655℃以上、680℃以上または690℃以上のガラスを用いるガラス板の製造方法に、実施形態のガラス板の製造方法を適用することができる。また、液相粘度が6000Pa・s以下、5000Pa・s以下または4500Pa・s以下のガラスを用いるガラス板の製造方法にも、実施形態のガラス板の製造方法を適用することができる。
【0089】
歪点が665℃以上または液相粘度が4500Pa・s以下のガラスの組成は、例えば、SiO2:52質量%〜78質量%、Al23:3質量%〜25質量%、B23:3質量%〜15質量%、RO(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaの少なくとも1種):3質量%〜20質量%を含有する。質量比(SiO2+Al23)/B23は、7〜20であることが好ましい。また、歪点をより上昇させるために、質量比(SiO2+Al23)/ROは、7.5以上であることが好ましい。歪点をさらに上昇させるために、β―OH値は、0.1mm-1〜0.3mm-1であることが好ましい。また、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を抑制するために、質量比CaO/ROは0.65であることが好ましい。
【0090】
また、ガラスの様々な特性を調節するために、ガラスの組成は、上述の成分に加えて、他の酸化物を含有してもよい。酸化物は、例えば、SnO2、TiO2、MnO、ZnO、Nb25、MoO3、Ta25、WO3、Y23およびLa23である。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、ガラス板の中の泡欠陥に対する要求基準が特に厳しい。その場合、ガラスの組成は、上記酸化物の中で清澄効果が特に大きいSnO2を少なくとも含有することが好ましい。
【0091】
また、上記のROとして、硝酸塩や炭酸塩が用いられてもよい。熔融ガラスの酸化性を向上させるためには、適切な割合の硝酸塩を含む酸化物をROとして用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0092】
101 熔解槽
110 熔解槽本体
110a 底壁(底部)
110b 側壁(壁部)
114 電極対(電極)
121 第1耐火物
122 第2耐火物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開2012−517398号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8