(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記供給工程は、前記第2管区分において、前記供給管の温度と、前記供給管の断面の中心を流れる前記熔融ガラスの温度との差が前記流れ方向に沿って小さくなるように前記熔融ガラスを流す、
請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)ガラス板の製造方法の概要
本発明に係るガラス板の製造方法、および、ガラス板の製造装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態のガラス板の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0017】
ガラス板の製造方法は、
図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程S2と、攪拌工程S3と、供給工程S4と、成形工程S5と、徐冷工程S6と、切断工程S7とを備える。
【0018】
熔解工程S1では、ガラス原料が熔解槽に投入されて加熱されることで熔融ガラスが得られる。熔融ガラスは、熔解槽の底部に形成された流出口から、清澄工程S2に向かって流出する。熔解槽における熔融ガラスの加熱は、熔融ガラスに電気を流して直接的に熔融ガラスを加熱する方法、および、熔融ガラスの液面の上方空間をバーナーの炎で加熱して間接的に熔融ガラスを加熱する方法により行われる。ガラス原料には、清澄剤が添加される。清澄剤は、例えば、SnO
2、As
2O
3およびSb
2O
3である。環境負荷低減の観点からは、清澄剤として、SnO
2が用いられる。
【0019】
清澄工程S2では、熔解槽から延びる配管を流れた熔融ガラスが清澄槽内で加熱されることで、熔融ガラス中に含まれるCO
2、N
2、SO
2等を含む泡が、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を吸収する。酸素を吸収して成長した泡は、熔融ガラスの液面に浮上して消滅する。清澄工程S2では、さらに、熔融ガラスの温度を低下させることで、還元された清澄剤が酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガスが熔融ガラスに吸収される。清澄剤の還元反応および酸化反応は、清澄槽内の熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄工程S2では、減圧雰囲気の空間を清澄槽内に形成し、熔融ガラス中の泡を減圧雰囲気下で成長させて除去する減圧脱泡方式が用いられてもよい。
【0020】
攪拌工程S3では、清澄槽から延びる配管を流れた熔融ガラスが、攪拌槽内で攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、脈理の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。
【0021】
供給工程S4では、攪拌槽で攪拌された熔融ガラスが、配管を流れて成形装置に供給される。
【0022】
成形工程S5では、成形装置に供給された熔融ガラスから、オーバーフローダウンドロー法によりガラスリボンが連続的に成形される。
【0023】
徐冷工程S6では、成形されたガラスリボンが所望の厚みを有し、かつ、歪みおよび反りが生じないように、ガラスリボンが徐々に冷却される。
【0024】
切断工程S7では、冷却されたガラスリボンが所定の長さに切断されて、ガラス素板が得られる。ガラス素板は、さらに、所定の寸法に切断されて、製品サイズのガラス板が得られる。その後、ガラス板端面の研削および研磨、並びに、ガラス板の洗浄が行われる。さらに、気泡、脈理およびキズ等の欠陥の有無が検査され、検査に合格したガラス板が梱包されて製品として出荷される。ガラス板の幅方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。ガラス板の長さ方向の寸法は、例えば、500mm〜3500mmである。
【0025】
このガラス板の製造方法で用いられるガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製されている。ガラスの組成の一例として、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として好適な無アルカリガラスは、SiO
2:50質量%〜70質量%、Al
2O
3:0質量%〜25質量%、B
2O
3:1質量%〜15質量%、MgO:0質量%〜10質量%、CaO:0質量%〜20質量%、SrO:0質量%〜20質量%、BaO:0質量%〜10質量%を含有する。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0026】
また、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として、アルカリ金属を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’
2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’
2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。なお、R’
2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。
【0027】
また、ガラスの組成は、上記成分に加えて、SnO
2:0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe
2O
3:0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、ガラスの組成は、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3およびPbOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0028】
なお、フラットパネルディスプレイ用のガラス板は、高温時における粘度が高い。例えば、10
2.5ポアズの粘度を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。
【0029】
図2は、熔解工程S1から切断工程S7までを行うガラス板製造装置100の構成の一例を示す模式図である。ガラス板製造装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、成形装置104と、第1供給管105aと、第2供給管105bと、第3供給管105cとを備える。第1供給管105aは、熔解槽101と清澄槽102とを接続する。第2供給管105bは、清澄槽102と攪拌槽103とを接続する。第3供給管105cは、攪拌槽103と成形装置104とを接続する。
【0030】
熔解工程S1において、ガラス原料は、スクリューフィーダー等を用いて熔解槽101に投入される。ガラス原料は、熔解槽101内で加熱されて熔解し、熔融ガラスが得られる。熔解槽101では、例えば、1500℃〜1600℃の熔融ガラスが得られる。熔解槽101内の熔融ガラスは、第1供給管105aを流れて、清澄槽102に供給される。
【0031】
清澄工程S2では、清澄槽102において熔融ガラスが清澄される。清澄槽102では、熔融ガラスの温度が調整されて、熔融ガラス中に含まれるガス成分が除去される。清澄槽102では、熔融ガラスは、例えば、1500℃〜1700℃まで昇温させられる。清澄された熔融ガラスは、第2供給管105bを流れて、攪拌槽103に供給される。
【0032】
攪拌工程S3では、攪拌槽103において熔融ガラスが攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。攪拌槽103に供給される熔融ガラスの温度は、所定の範囲内になるように調整されている。攪拌槽103内の熔融ガラスの温度は、例えば、1250℃〜1450℃である。攪拌槽103内の熔融ガラスの粘度は、例えば、500ポアズ〜1300ポアズである。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスは、第3供給管105cに流入する。
【0033】
供給工程S4では、熔融ガラスは、第3供給管105cの中を流れながら、次の成形工程S5におけるガラスリボンの成形に適した温度まで冷却される。例えば、熔融ガラスは、第3供給管105cの中を流れる過程で、1200℃付近まで冷却される。供給工程S4において、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスは、温度が制御されながら冷却される。供給工程S4における熔融ガラスの温度制御については後述する。第3供給管105cで冷却された熔融ガラスは、成形装置104に供給される。
【0034】
成形工程S5では、成形装置104において、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスからガラスリボンが連続的に成形される。
【0035】
徐冷工程S6では、成形装置104において、成形工程S5において成形されたガラスリボンが室温付近まで徐冷される。
【0036】
切断工程S7では、徐冷されたガラスリボンが、切断装置(図示せず)によって所定の寸法に切断され、ガラス板が製造される。
【0037】
(2)供給工程の概要
次に、供給工程S4について詳細に説明する。上述したように、供給工程S4は、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスを、成形工程S5に適した温度まで冷却する工程である。例えば、供給工程S4では、熔融ガラスの温度は、少なくとも150℃低下することが好ましい。供給工程S4で冷却された熔融ガラスの温度は、少なくともガラスの失透温度より高い。ガラスの失透温度は、約1200℃である。攪拌工程S3において実現された熔融ガラスの均質性を保つために、供給工程S4における熔融ガラスの冷却は、所定の速度で行われる。そのため、第3供給管105cは、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度を細かく制御するための機構を有していることが好ましい。また、第3供給管105cは、高温の熔融ガラスと接触するため、耐火金属で成形されていることが好ましい。具体的には、第3供給管105cは、白金または白金合金から成形されていることがより好ましい。
【0038】
図3は、第3供給管105cの一例の模式図である。
図3の下の矢印は、熔融ガラスの流れ方向を表す。
図3に示されるように、第3供給管105cは、複数の給電端子111を有している。各給電端子111は、第3供給管105cの外周面に取り付けられるフランジと、フランジから延びる電極とから構成される。複数の給電端子111は、第3供給管105cの長手方向に沿って、互いに間隔を空けて取り付けられている。隣り合う2つの給電端子111は、1つの通電加熱装置112を構成する。隣り合う2つの通電加熱装置112は、1つの給電端子111を共有する。すなわち、n+1個の給電端子111は、n個の通電加熱装置112を構成する。この場合、第3供給管105cは、n+1個の給電端子111を境界として、第3供給管105cの長手方向に沿って、n個のセクションに区画される。例えば、第3供給管105cが10個の給電端子111を有する場合、第3供給管105cは、9つのセクションに区画される。各通電加熱装置112は、各セクションの両端に位置する2つの給電端子111から構成される。そのため、各セクションには、1つの通電加熱装置112が備えられている。
【0039】
以下において、第3供給管105cは、10個の給電端子111によって9つのセクションSC1〜SC9に区画されているとする。9つのセクションSC1〜SC9は、第3供給管105cの上流側から下流側に向かって、第1セクションSC1、第2セクションSC2、・・・、第9セクションSC9と呼ばれる。上流側は、第3供給管105cに熔融ガラスが流入する側である。下流側は、第3供給管105cから熔融ガラスが流出する側である。
【0040】
また、第3供給管105cは、上流側から下流側に向かって、第1管区分PP1、第2管区分PP2および第3管区分PP3の3つの領域に分けられる。管区分PP1〜PP3は、セクションSC1〜SC9とは異なる区画である。第1管区分PP1は、第1セクションSC1から第5セクションSC5までの領域に相当し、その長さは約6000mmである。第2管区分PP2は、第6セクションSC6から第7セクションSC7までの領域に相当し、その長さは約2000mmである。第3管区分PP3は、第8セクションSC8から第9セクションSC9までの領域に相当し、その長さは約2000mmである。各管区分PP1〜PP3は、少なくとも1つのセクションから構成されていることが好ましい。各管区分PP1〜PP3を構成するセクションの数は、任意であるが、多いほど好ましい。なぜなら、セクションの数が多いほど、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度をより細かく制御することができるからである。また、各セクションSC1〜SC9の長さは、任意に設定できる。例えば、セクションSC1〜SC9の長さは、全て同じであってもよく、上流側から下流側に向かって徐々に短くなってもよい。第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度をより細かく制御したい領域では、セクションの長さをより短くすることが好ましい。
【0041】
第3供給管105cの各セクションSC1〜SC9では、1つの通電加熱装置112を構成する2つの給電端子111が、当該セクションに電気を流し、当該セクションをジュール熱によって発熱させる。これにより、第3供給管105c内の熔融ガラスが加熱される。各通電加熱装置112は、電流および電圧を個別に制御可能である。これにより、第3供給管105cのセクションSC1〜SC9ごとに、その内部を流れる熔融ガラスの温度を制御できる。従って、供給工程S4では、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度を細かく制御することができる。
【0042】
また、
図3に示されるように、第3供給管105cの各セクションSC1〜SC9には、測定装置113が取り付けられている。測定装置113は、第3供給管105cの各セクションSC1〜SC9の中を通過する熔融ガラスの温度および粘度を測定する。測定装置113は、例えば、細管式粘度計、回転式粘度計および温度計等から構成される。細管式粘度計は、測定対象の流体試料を細管に通し、試料が細管を通過する時間(流量)と、細管の両端の圧力差とから、試料の粘度を測定する。回転式粘度計は、回転体から流体試料が受ける抵抗である粘性抵抗を、回転体の回転トルク等から読み取ることによって、試料の粘度を測定する。
【0043】
図4は、第3供給管105cの長手方向に沿って第3供給管105cを切断した場合の断面図である。
図4の下の矢印は、熔融ガラスの流れ方向を表す。
図4に示されるように、第3供給管105cは、耐火物106a〜106cによって囲まれている。耐火物106a〜106cは、第3供給管105cの外周面と接触するように取り付けられる。第3供給管105cにおいて、第1管区分PP1には、第1耐火物106aが取り付けられ、第2管区分PP2には、第2耐火物106bが取り付けられ、第3管区分PP3には、第3耐火物106cが取り付けられる。なお、
図3では、耐火物106a〜106cが省略されている。
【0044】
第1耐火物106aおよび第2耐火物106bは、電鋳耐火物から成形される。この電鋳耐火物は、例えば、サンゴバン・ティーエム社製のSCIMOS−Mである。この電鋳耐火物の熱伝導率は、400℃で3.0W/m・Kである。第3耐火物106cは、高アルミナ質の耐火耐熱レンガから成形される。この耐火耐熱レンガは、例えば、イソライト工業株式会社製のLAP−165である。この耐火耐熱レンガの熱伝導率は、400℃で0.37W/m・Kである。第1耐火物106aおよび第2耐火物106bの厚みは、25mmである。第3耐火物106cの厚みは、65mmである。第1耐火物106aおよび第2耐火物106bは、最小限の熱抵抗で熔融ガラスの放熱を促進するための耐火物であるのに対し、第3耐火物106cは、熔融ガラスを保温するための耐火物である。なお、第3耐火物106cの断熱性能が、第1耐火物106aおよび第2耐火物106bより優れているのであれば、耐火物106a〜106cの材質および寸法は、任意に設定されてもよい。この場合、第2耐火物106bの材質および厚みは、第1耐火物106aと異なっていてもよい。耐火物106a〜106cの断熱性能が優れているほど、当該耐火物が取り付けられているセクションの中を流れる熔融ガラスの温度を維持する保温力が高い。
【0045】
耐火物106a〜106cは、主に、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度の低下を抑制する効果を有する。耐火金属製の第3供給管105cは、熱伝導率が高いため、耐火物106a〜106cが第3供給管105cに取り付けられていない場合、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの熱は、第3供給管105cを介して、第3供給管105cの周囲の空間に放出されやすい。第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスが放熱されやすいと、熔融ガラスの温度および粘度の制御が困難となる。従って、耐火物106a〜106cは、供給工程S4において第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度を細かく制御するために必要である。
【0046】
また、
図4に示されるように、第3供給管105cの内径は、上流側から下流側に向かって、d1からd3まで変化する。第3供給管105cの内径は、第3供給管105cの中の熔融ガラスが流れる空間を、第3供給管105cの断面方向に切断した場合における、切断面である円の直径である。第1セクションSC1の上流側において、第3供給管105cの内径は、d1(130mm)からd2(200mm)まで連続的に増加する。第1セクションSC1において、内径がd1である上流側の部分は、攪拌工程S3において攪拌槽103から供給される熔融ガラスが流れる管と接続される部分である。第1セクションSC1の下流側、および、第2セクションSC2から第6セクションSC6までの部分では、内径はd2である。第7セクションSC7では、内径はd2からd3(145mm)まで連続的に減少する。第8セクションSC8および第9セクションSC9では、内径はd3である。なお、第3供給管105cの内径d1,d2,d3は、熔融ガラスの所望の流量における摩擦損失ヘッドが第3供給管105c前後での熔融ガラスの液面の高低差と一致するように、または、第3供給管105c前後での熔融ガラスの温度差に相当する放熱量が得られるように、設定される。
【0047】
第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度は、各セクションSC1〜SC9によって異なる。また、同一のセクションにおいても、第3供給管105cの上面側付近と底面側付近とでは、熔融ガラスの温度および粘度が異なる。ここで、第3供給管105cの上面側は、第3供給管105cの径方向中心より上方の部分であり、第3供給管105cの底面側は、第3供給管105cの径方向中心より下方の部分である。
【0048】
第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度の違いは、熔融ガラスの脈理の原因となる。供給工程S4では、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度は低下し、粘度は上昇する。そのため、第3供給管105c内に熔融ガラスの流速が周囲より小さい部分が存在すると、その部分に上流側から持ち込まれる熔融ガラスの顕熱が低下するので、熔融ガラスの温度が低下する。その結果、熔融ガラスの粘度が上昇するので、熔融ガラスの流速がさらに低下する。この悪循環を防ぐためには、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度および粘度を制御して、周囲よりも流速が小さいよどみを発生させないことが重要である。第3供給管105c内に熔融ガラスのよどみが発生すると、異質な熔融ガラスが生じる。異質な熔融ガラスが成形工程S5で成形されるガラスリボンに入り込むと、最終製品であるガラス板に形成される脈理等の欠陥の原因となる。ガラス板の脈理は、所定の幅においてガラス板の厚みが変動する歪みの一種である。脈理は、成形工程S5におけるガラスリボンの搬送方向に沿って筋状に連続的に発生する。
【0049】
熔融ガラスに含まれる成分の中で、SiO
2は軽い成分であり、ZrO
2は重い成分である。そのため、SiO
2は、第3供給管105cの上面側に留まりやすく、ZrO
2は、第3供給管105cの底面側に留まりやすい。このように、第3供給管105cの内部で、熔融ガラスの成分が不均一に分散すると、脈理の原因となる。
【0050】
また、第3供給管105cの中を熔融ガラスが流れる際に、熔融ガラスから第3供給管105cに熱伝達が起こるので、熔融ガラスの温度が低下する。この場合、第3供給管105cの断面方向において、第3供給管105cの内周面に近い熔融ガラスほど、第3供給管105cとの熱交換が起こりやすいので、温度が下がりやすい。一方、第3供給管105cの断面方向において、第3供給管105cの内周面から遠い熔融ガラスほど、第3供給管105cとの熱交換が起こりにくいので、温度が下がりにくい。すなわち、第3供給管105cの内周面からの距離が遠いところを流れる熔融ガラスほど、温度が低下しにくい。
【0051】
その結果、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度は、第3供給管105cの内周面において第3供給管105cの温度に最も近くなる。また、第3供給管105cの内周面から第3供給管105cの断面中心に向かうに従って、熔融ガラスの温度と第3供給管105cの温度との差が大きくなる。
図5は、第3供給管105cの断面方向における、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度変化を表すグラフである。
図5において、横軸は、第3供給管105cの断面中心からの距離を表し、縦軸は、熔融ガラスの温度を表す。
図5に示されるように、第3供給管105cの断面中心から内周面に向かうに従って、熔融ガラスの温度が連続的に低下する。そのため、熔融ガラスの温度は、第3供給管105cの断面方向において均一ではない。第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度の不均一性は、脈理の原因となる。なぜなら、第3供給管105cの断面方向において温度が不均一である熔融ガラスが成形工程S5に供給されると、均質なガラスリボンの成形が妨げられるからである。そのため、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度は、第3供給管105cの断面方向において、できるだけ均一であることが好ましい。特に、第3供給管105cの下流側の第3管区分PP3において、熔融ガラスの温度が均一であることが好ましい。具体的には、第2管区分PP2と第3管区分PP3との境界において、第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度差は、50℃以下であることが好ましい。
【0052】
第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度差を小さくする方法には、第3供給管105cに大電流を流して発熱量を大きくして放熱を打ち消す方法と、耐火物106a〜106cの熱抵抗を大きくして放熱を小さくする方法とがある。大電流を流す方法では、熔融ガラスの流量を制御する性能に優れるが、電極の位置によって熔融ガラスの温度分布が不均一になる場合がある。一方、耐火物106a〜106cの熱抵抗を大きくする方法では、熔融ガラスの温度の均一性および省エネルギーに優れる。そのため、本実施形態では、第2管区分PP2で大電流を流して温度差を小さくすると同時に、第3供給管105c全体の流量制御性能を向上させ、特に高い精度の温度制御が要求される第3管区分PP3において第3耐火物106cの熱抵抗を大きくする方法が採られている。
【0053】
供給工程S4では、上述の原因による脈理を防止するために、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度が制御される。具体的には、第3供給管105cを通電加熱して、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスを加熱し、かつ、第3供給管105cを耐火物106a〜106cで囲むことで、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの放熱を抑制する。供給工程S4では、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度が、上流側から下流側に向かって徐々に低下するように、熔融ガラスの温度が制御される。第3供給管105cの各セクションSC1〜SC9において、熔融ガラスの温度は個別に制御される。第3供給管105cの通電加熱装置112は、測定装置113の測定データに基づいて、熔融ガラスの温度が後述する変化を示すように、各セクションSC1〜SC9に流れる電流および電圧を制御する。第3供給管105cでは、第2管区分PP2(セクションSC6〜SC7)を流れる電流は、第1管区分PP1(セクションSC1〜SC5)を流れる電流よりも高い。具体的には、第2管区分PP2を流れる電流は、2000Aであり、第1管区分PP1を流れる電流は、1000Aである。なお、第3管区分PP3(セクションSC8〜SC9)を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流より低いことが好ましい。ここでは、第3管区分PP3を流れる電流は、1000Aである。管区分PP1〜PP3を流れる電流が高いほど、当該管区分が通電加熱されやすい。なお、適正な電流値は、第3供給管105cの内径および厚さに強く依存する。
【0054】
図6は、第3供給管105cの長手方向における、第3供給管105cの中を流れる熔融ガラスの温度変化を表すグラフである。
図6において、横軸は、第3供給管105cの上流側の端部からの距離を表し、縦軸は、熔融ガラスの温度を表す。
図6には、セクションSC1〜SC9および管区分PP1〜PP3の範囲が示されている。
図6において、実線L1は、第3供給管105cの内周面に接触する熔融ガラスの温度、すなわち、第3供給管105cの温度である「管温度」の変化を表し、点線L2は、第3供給管105cの断面中心の熔融ガラスの温度である「中心温度」の変化を表す。
図6において、鎖線L3は、単位断面積当たりの熔融ガラスの質量流量で重み付け平均したガラス平均温度を表す。
【0055】
次に、
図6に示される熔融ガラスの温度変化について説明する。第3供給管105cに流入する熔融ガラスは、攪拌工程S3において均質化された熔融ガラスであるので、第1管区分PP1(セクションSC1〜SC5)に流入する熔融ガラスの管温度と中心温度との差はゼロである。第1管区分PP1は、ガラスの失透温度を下回らない程度まで熔融ガラスを冷却するための領域である。第1管区分PP1では、管温度および中心温度が徐々に低下し、かつ、第3供給管105cからの放熱によって、管温度と中心温度との差が徐々に増加する傾向にある。第1管区分PP1と第2管区分PP2との境界において、管温度と中心温度との差は、100℃以下であることが好ましい。
図6において、第1管区分PP1では、ガラス平均温度は、1470℃から1260℃まで低下する。
【0056】
第2管区分PP2では、管温度の低下が抑制される。第2管区分PP2を流れる電流は、第1管区分PP1を流れる電流よりも高い。そのため、通電加熱によって第2管区分PP2に付与される熱量は、通電加熱によって第1管区分PP1に付与される熱量よりも大きい。そのため、第2管区分PP2では、第3供給管105cからの放熱が抑制され、第3供給管105cの温度がほぼ一定に維持される。このとき、第2管区分PP2内では、第3供給管105cの断面中心の熔融ガラスから、第3供給管105cの内周面に接触する熔融ガラスに向かって熱が移動するので、中心温度は徐々に低下する。その結果、第2管区分PP2では、管温度と中心温度との差が徐々に減少する傾向にある。第2管区分PP2と第3管区分PP3との境界において、管温度と中心温度との差は、50℃以下であることが好ましい。
図6において、第2管区分PP2では、ガラス平均温度は、1260℃から1250℃まで低下する。
【0057】
なお、第2管区分PP2の第7セクションSC7では、第3供給管105cの内径が減少する。そのため、第2管区分PP2では、第3供給管105cの外周面の面積が徐々に減少するので、第3供給管105cを介する熔融ガラスの放熱が抑制される。すなわち、第2管区分PP2では、高電流の付与と内径の減少との2つの要因によって、管温度と中心温度との差が徐々に減少する。
【0058】
第3管区分PP3では、熔融ガラスの温度が実質的に均一になる。第3管区分PP3を囲む第3耐火物106cの断熱性能は、第1耐火物106aおよび第2耐火物106bより優れている。そのため、第3管区分PP3では、第1管区分PP1および第2管区分PP2と比べて、第3供給管105cを介する熔融ガラスの放熱がより抑制される。また、第3管区分PP3を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流よりも低く、通電加熱によって第3管区分PP3に付与される熱量は、通電加熱によって第2管区分PP2に付与される熱量よりも小さい。そのため、第3管区分PP3の中を流れる熔融ガラスの温度の上昇が抑制される。これにより、第3管区分PP3では、ガラス平均温度がほぼ一定となる状態で、熔融ガラス内での熱移動によって管温度と中心温度との差がさらに減少する。
図6において、第3管区分PP3では、ガラス平均温度は、1250℃を維持している。
【0059】
次に、第3供給管105cを通過する熔融ガラスの温度の好ましい範囲について述べる。第3供給管105cの上流側の端部では、管温度および中心温度は、1420℃〜1470℃であることが好ましい。第1管区分PP1と第2管区分PP2との境界では、管温度は、1210℃〜1260℃であり、中心温度は、1300℃〜1350℃であることが好ましい。第2管区分PP2と第3管区分PP3との境界では、管温度は、1210℃〜1260℃であり、中心温度は、1250℃〜1300℃であることが好ましい。第3供給管105cの下流側の端部では、管温度および中心温度は、1240℃〜1280℃であることが好ましい。
【0060】
(3)特徴
実施形態のガラス板の製造方法は、供給工程S4において、耐火物106a〜106cに囲まれた第3供給管105cを通電加熱することで、第3供給管105cを通過しながら冷却される熔融ガラスの温度を細かく制御することができる。第3供給管105cは、3つの管区分PP1〜PP3に区画される。第1管区分PP1では、熔融ガラスが、成形工程S5に適した温度に近い温度まで冷却される。第2管区分PP2は、上流側の第1管区分PP1と比べて高電流が流れる部分であり、第3供給管105cの内壁面の近傍を流れる熔融ガラスの温度の低下が抑制される。その結果、第2管区分PP2では、第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度差が低減される。第3管区分PP3は、第1耐火物106aおよび第2耐火物106bに比べて断熱性能が高い第3耐火物106cに囲まれる。第3管区分PP3は、第1管区分PP1および第2管区分PP2と比べて熔融ガラスの保温力が高い部分であり、熔融ガラスの温度が維持されながら、第2管区分PP2において低減された熔融ガラスの温度差がさらに低減される。これにより、第3供給管105cの下流側の端部では、第3供給管105cの断面方向において、熔融ガラスの温度は実質的に均一になる。その結果、温度が均一な熔融ガラスが成形工程S5に供給されるので、熔融ガラスの脈理の発生が抑制される。従って、このガラス板の製造方法は、熔融ガラス中の脈理の発生を抑制し、均一な板厚を有するガラス板を製造することができる。
【0061】
また、このガラス板の製造方法では、第2管区分PP2は、第3供給管105cの内径が徐々に減少する部分を有する。そのため、第2管区分PP2では、第3供給管105cの外周面の面積が徐々に減少するので、第3供給管105cを介する熔融ガラスの放熱が抑制される。これにより、第2管区分PP2では、第3供給管105cの内壁面の近傍を流れる熔融ガラスの温度の低下が抑制される。従って、第2管区分PP2では、第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度差が低減される。
【0062】
また、このガラス板の製造方法では、第3管区分PP3を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流よりも小さい。そのため、第3管区分PP3では、第2管区分PP2と比べて第3供給管105cの温度が上昇しにくい。これにより、第3管区分PP3では、熔融ガラスの温度は、高い断熱性能を有する第3耐火物106cによってほぼ一定に維持される。従って、第3管区分PP3では、第3供給管105cの断面方向における熔融ガラスの温度差が低減される。
【0063】
(4)変形例
以上、実施形態のガラス板の製造方法およびガラス板製造装置100について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種種の変更が行われてもよい。例えば、本発明は、以下に説明する変更が適用されてもよい。
【0064】
(4−1)変形例A
実施形態のガラス板の製造方法では、第2管区分PP2は、第3供給管105cの内径が徐々に減少する部分を有する。しかし、第2管区分PP2は、第3供給管105cの内径が徐々に減少する部分を有さなくてもよい。その場合、第2管区分PP2における熔融ガラスの放熱を抑制するために、第2管区分PP2を流れる電流を実施形態の2000Aより高くしてもよく、第2管区分PP2を囲む第2耐火物106bとして、実施形態の第2耐火物106bより高い断熱性能を有する耐火物を用いてもよい。例えば、このような耐火物として、実施形態の第3耐火物106cが用いられてもよい。
【0065】
(4−2)変形例BA
実施形態のガラス板の製造方法では、第3管区分PP3を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流より小さい。しかし、第3供給管105cの内径、および、熔融ガラスの温度の目標値に応じて、第3管区分PP3を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流より小さくなくてもよい。例えば、第3管区分PP3を流れる電流は、第2管区分PP2を流れる電流と同じでもよい。この場合、第3管区分PP3を囲む耐火物として、実施形態の第3耐火物106cより高い断熱性能を有する耐火物を用いてもよい。
【0066】
(4−3)変形例C
実施形態のガラス板の製造方法では、第3供給管105cは、白金または白金合金で成形されるが、他の白金族金属で成形されてもよい。「白金族金属」は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金である。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。白金族金属は、高価であるが、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。そのため、白金族金属は、第3供給管105cの材質として適している。
【0067】
(4−4)変形例D
実施形態のガラス板の製造方法では、フラットパネルディスプレイ用のガラス板として好適な無アルカリガラスまたはアルカリ微量含有ガラスの製造のために調合されたガラス原料が用いられる。
【0068】
しかし、近年、フラットパネルディスプレイのさらなる高精細化を実現するために、従来のa−Si(アモルファスシリコン)・TFTではなく、p−Si(低温ポリシリコン)・TFTまたは酸化物半導体を用いたディスプレイが求められている。p−Si・TFTおよび酸化物半導体の形成工程では、a−Si・TFTの形成工程よりも高温の熱処理工程が存在する。そのため、p−Si・TFTおよび酸化物半導体が形成されるガラス板には、熱収縮率が小さい特性が求められている。ガラス板の熱収縮率を小さくするためには、ガラスの歪点を高くすることが好ましい。しかし、歪点が高いガラスは、液相温度が高く、かつ、液相粘度が低くなる傾向がある。すなわち、歪点が高いガラスの液相粘度は、成形工程S5における熔融ガラスの適正な粘度に近付く。そのため、ガラスの失透を抑制するために、成形装置104に熔融ガラスを供給する第3供給管105cにおいて、その断面方向における熔融ガラスの温度をできるだけ均一にすることがより強く求められている。
【0069】
実施形態のガラス板の製造方法は、温度が均一な熔融ガラスを成形装置104に供給できるので、例えば、歪点が665℃以上のガラスを用いるガラス板の製造方法にも適用できる。特に、p−Si・TFTおよび酸化物半導体に好適な、歪点が655℃以上、680℃以上または690℃以上のガラスを用いるガラス板の製造方法に、実施形態のガラス板の製造方法を適用することができる。また、液相粘度が6000Pa・s以下、5000Pa・s以下または4500Pa・s以下のガラスを用いるガラス板の製造方法にも、実施形態のガラス板の製造方法を適用することができる。
【0070】
歪点が665℃以上または液相粘度が4500Pa・s以下のガラスの組成は、例えば、SiO
2:52質量%〜78質量%、Al
2O
3:3質量%〜25質量%、B
2O
3:3質量%〜15質量%、RO(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaの少なくとも1種):3質量%〜20質量%を含有する。質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は、7〜20であることが好ましい。また、歪点をより上昇させるために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは、7.5以上であることが好ましい。歪点をさらに上昇させるために、β―OH値は、0.1mm
-1〜0.3mm
-1であることが好ましい。また、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を抑制するために、質量比CaO/ROは0.65であることが好ましい。
【0071】
また、ガラスの様々な特性を調節するために、ガラスの組成は、上述の成分に加えて、他の酸化物を含有してもよい。酸化物は、例えば、SnO
2、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3およびLa
2O
3である。液晶ディスプレイや有機ELディスプレイは、ガラス板の中の泡欠陥に対する要求基準が特に厳しい。その場合、ガラスの組成は、上記酸化物の中で清澄効果が特に大きいSnO
2を少なくとも含有することが好ましい。
【0072】
また、上記のROとして、硝酸塩や炭酸塩が用いられてもよい。熔融ガラスの酸化性を向上させるためには、適切な割合の硝酸塩を含む酸化物をROとして用いることが好ましい。