【実施例】
【0011】
本発明について、係留施設の構築手順に沿って説明する。
以下に示す各工程は、作業に矛盾の無い範囲で、適宜順番の入れ換えや同時実施を行うことができる。また、本発明の特徴部分と関連性の薄い足場などの図示は省略する。
【0012】
<1>杭体を用いた支保工の架設(
図1)
まず、水上に打設してある既設の杭体10の頭部に、支柱20を架設し、杭体10内部に中詰めコンクリートを打設して、前記支柱20を立設した状態とする。このとき、必要に応じて杭体10の頭部にせん断プレートや平板プレートを配置してもよい(図示せず)
次に、前記支柱20上に桁材30などを配置して支保工40を架設する。
前記杭体10は、係留施設が桟橋の際には基礎杭に相当し、接岸ドルフィンの際には係留杭に相当する部材である。本実施例では、杭体10を傾斜させて打設しているが、本発明では、杭体10は鉛直方向に打設したものであってもよい。
これらの作業は、公知の方法で実施することができる。
【0013】
<2>防舷材壁の浜出し、左右方向の平面位置の調整、高さ調整(
図2)
次に、工場または現場の別ブースで製作したプレキャスト製の防舷材壁50を、設置箇所近傍まで、クレーンAで吊り上げて運搬する。
防舷材壁50は、型枠51と、該型枠の中で部分的に構築された躯体52と、該躯体52に埋設して立設した支柱53と、該支柱53から横設する吊梁54と、を設けており、前記吊梁54を前記支保工40の上に設置することで、防舷材壁50を設置箇所近傍に配置することができる。
このとき、防舷材壁50の左右方向の平面位置の調整および高さ調整高さについては、適宜測量を行い、別途ガイド材(図示せず)などを用いて、正確な位置まで調整を行う。
防舷材壁50の左右方向の平面位置は、クレーンAでの吊り上げ時に調整する。
防舷材壁50の高さは、防舷材壁50の吊梁54と支保工40の桁材30との間にライナープレートを設置するなどの方法によって調整する。
【0014】
<3>調整装置の設置(
図3〜
図4)
次に、杭体10と防舷材壁50との間に、調整装置80を設置する。
調整装置80は、前記防舷材壁50と杭体10の間の距離を調整可能な装置である。
本実施例では、調整装置80を、杭体側の長尺材81aと、防舷材壁側の長尺材81bと、両長尺材の間に介設する伸縮機構82でもって構成している。各長尺材81a,81bは、H形鋼などの鋼材を用いることができる。
【0015】
<3.1>杭体との連結例(
図3)
調整装置80と杭体10との連結構造の一例について説明する。
まず、杭体10の外周に取り付ける部材として、杭体の外径よりもやや大きな内径とする筒状の部材を二分割してなる分割ピース61を用意する。
前記分割ピース61を、杭体10の周側面を挟み込むように配置し、分割ピース61同士を公知の連結機構でもって固定する。
分割ピース61の内側は、杭体10の重防食を傷つけないように、ゴムなどの弾性部材で養生しておくことが好ましい。
分割ピース61の側面には、側方向に延出するように配した鍔部62を設けておく。この鍔部62が、杭体側の長尺材81aを載置・連結する箇所となる。
杭体側の長尺材81aがH形鋼である際には、下側のフランジを切り欠いておき、中央のウェブ部を鍔部62上に載置してから、両者をボルトピンで結合するなどして両者を連結することができる。
【0016】
<3.2>防舷材壁との連結例(
図3)
調整装置80と防舷材壁50との連結構造の一例について説明する。
防舷材壁50の、杭体側の面(防舷材を取り付ける面と反対側の面)には、ブラケットなどの受け具70を設置しておく。
受け具70は、例えば防舷材壁50の躯体52に予め形成しておいたインサートを介したボルト結合などで、設置することができる。
この受け具70が、調整装置80の防舷材壁側の長尺材81bを載置する箇所となる。
防舷材壁側の長尺材81bについても、杭体側の長尺材81aと同様に、下側のフランジを切り欠いて、中央のウェブ部を受け具70上に載置して両者をボルトピン結合するなどして両者を連結することができる。
【0017】
<3.3>伸縮機構(
図3)
伸縮機構82は、前記防舷材壁50と杭体10との間の距離を離隔または接近するための装置である。
伸縮機構82には、杭体10から反力をとって前記防舷材壁50を押し出すことが可能な程度の公知の装置を用いることができる。
本実施例では、伸縮機構82に、油圧ジャッキを用いている。
【0018】
<3.4>調整装置の数(
図4)
本発明において、調整装置80は、一つの防舷材壁50に対して複数設置するものとする。本実施例では、一つの防舷材壁50に対して二基の調整装置80a,80bを、水平方向に間隔を空けて設けている。
【0019】
<3.5>調整装置の長手方向の向き(
図4)
本発明に係る調整装置80の長手方向の向きは適宜選択することができる。
本実施例では、各調整装置80を、防舷材50側の端部間距離が杭体10側の端部間距離よりも狭くなるように配置している。
なお、各調整装置80の長手方向が互いに平行となるように配置してもよい。
【0020】
<3.6>その他(
図4)
その他の部材について説明する。
本実施例では、調整装置80の間を襷掛けするように、杭体10と防舷材壁50間をピン連結する連結材90aや、各調整装置80の鍔部62間を連結する連結材90bなどを設けて、構造全体の安定性を高めている。
【0021】
<4>防舷材壁の前後方向の平面位置、鉛直軸回りの位置、および水平軸回りの位置の調整(
図5)
上記したように調整装置80を設置した状態で、各調整装置80の伸縮機構82を作動することにより、前記防舷材壁50の前後方向の平面位置、鉛直軸B回りの位置(「捩れX」ともいう。)、および水平軸C回りの位置(「建ちY」ともいう。)の調整を行うことができる。
【0022】
[1]前後方向の平面位置調整
例えば、両方の伸縮機構を駆動して防舷材壁の押し引きを行った場合には、防舷材壁の前後方向の平面位置が可能となる。
【0023】
[2]略鉛直軸回りの位置調整
また、一方の伸縮機構82のみを駆動して防舷材壁50の押し引きを行った場合には、防舷材壁50の略鉛直軸B回りの位置調整が可能となる。
【0024】
[3]略水平軸回りの位置調整
また、防舷材壁50の別の位置に、別途ガイド材を設けて、前記防舷材壁50の前後方向の移動を妨げるようにした状態で、両方の伸縮機構82を駆動して防舷材壁50の押し引きを行った場合には、前記ガイド材で押さえた箇所を中心に、防舷材壁50の略水平軸C回りの位置調整が可能となる。
【0025】
これらの位置を調整した後は、別途受け材を設置するなどして防舷材壁の位置を確定する。調整装置80は必要に応じて残したままでも撤去しても良い。
【0026】
<5>その後の工程(
図6)
防舷材壁50の位置が確定した後は、支保工40下方や、防舷材壁50上部などの躯体構築予定箇所に型枠を設置し、コンクリートを打設して、新規躯体55を構築する。
新規躯体55の構築後は、支柱20の上部や、桁材30などの支保工40、防舷材壁50の支柱53の上部や、吊梁54などの不要な部材を切断して撤去する。
このとき、まだ調整装置80が残ったままであれば、同時に撤去してもよい。
【0027】
<6>従来方法との対比
上述した方法により、防舷材壁の位置調整を短時間かつ高精度で実施することが可能となった。
また、従来の方法では、支保工40や杭体10から調整用の反力をとる固定用鋼材を配置して防舷材壁50の位置調整を行うため、工期は防舷材壁1基あたり6日を要していたところ、本発明に係る方法では、1基あたり2日まで短縮することが可能となった。
また、従来方法では、本設の杭体10に固定用綱材を溶接することで、杭体10が損傷する懸念があったが、本発明によれば分割ピース61でもって杭体10を挟んで固定するため、杭体10の損傷も未然に回避することができる。