特許第6498565号(P6498565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6498565防舷材壁の位置調整構造および位置調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498565
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】防舷材壁の位置調整構造および位置調整方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/20 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
   E02B3/20 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-162750(P2015-162750)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-40111(P2017-40111A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 宣行
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−192924(JP,U)
【文献】 実開昭54−084798(JP,U)
【文献】 実開昭57−184116(JP,U)
【文献】 特公昭40−015540(JP,B1)
【文献】 実開昭55−118023(JP,U)
【文献】 特開2012−162848(JP,A)
【文献】 特開2002−161527(JP,A)
【文献】 実開昭51−050795(JP,U)
【文献】 特開昭54−149241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/20
E02B 3/26
E02B 3/28
B63B 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭体を有する係留施設に設置する防舷材壁の位置を調整するための構造であって、
防舷材壁と杭体の間に、該防舷材壁と杭体との間の距離を調整可能な調整装置を、水平方向に間隔を設けて複数設けてあることを特徴とする、
防舷材壁の位置調整構造。
【請求項2】
前記調整装置と杭体との連結態様が、
杭体の周側面を挟むように配置する複数の分割ピースと、
前記分割ピースから側方に延出するように設けた鍔部と、
一端を前記鍔部に連結し、他端に伸縮機構を接続する長尺材と、で構成したことを特徴とする、
請求項1に記載の防舷材壁の位置調整構造。
【請求項3】
前記調整装置と防舷材壁との連結態様が、
防舷材壁から側方に延出するように設けたブラケットと、
一端を前記ブラケットに連結し、他端に伸縮機構を接続する長尺材と、で構成したことを特徴とする、
請求項1または2に記載の防舷材壁の位置調整構造。
【請求項4】
杭体を有する係留施設に設ける防舷材壁の位置調整方法であって、
杭体の上方に設置した支保工に防舷材壁を架設し、
前記防舷材壁と杭体の間に、該防舷材壁と杭体との間の距離を調整可能な調整装置を、水平方向に間隔を設けて複数設け、
各調整装置の作動によって、前記防舷材壁の前後方向の平面位置、略鉛直軸回りの向き、および略水平軸回りの向きを調整することを特徴とする、
防舷材壁の位置調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桟橋やドルフィンなどの係留施設に設置する防舷材壁について、該防舷材壁の位置を迅速に調整可能な構造および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
桟橋やドルフィンの係留施設には、船舶の接岸時の衝撃を緩和するために、側面に防舷材を設けておく場合がある。
この防舷材を設ける方法として、水面上の桟橋側面に防舷材用の取付壁(以下「防舷材壁」)を設置し、防舷材壁の表面に防舷材を取り付ける方法がある。
前記防舷材壁は、水面上に設置するため波浪の影響を受けやすく、できるかぎり短時間で設置位置を確定して固定することが求められている。
【0003】
この課題を解決する方法の一つとして、出願人は、以下の特許文献1に係る技術を着想した。
特許文献1に記載の方法は、プレキャスト製の防舷材壁の上部にPC鋼棒を突出しておき、構築済みの桟橋に予め設けた貫通孔へと前記PC鋼棒を挿通して、防舷材壁を設置するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4896086公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した特許文献1に係る発明では、例えば以下の点において、改良点が考えられる。
(1)特許文献1に係る発明は、防舷材壁の固定位置が前記貫通孔の位置によって確定するため、より現場での微調整に自由度がある技術であると好ましい。
(2)特許文献1に係る発明は、桟橋が既に構築された状態を前提とするため、桟橋の構築前の現場でも適用できる技術であると好ましい。
【0006】
本発明は、現場での防舷材壁の固定位置の微調整の自由度に優れた構造および方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、杭体を有する係留施設に設置する防舷材壁の位置を調整するための構造であって、防舷材壁と杭体の間に、該防舷材壁と杭体との間の距離を調整可能な調整装置を、水平方向に間隔を設けて複数設けてあることを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明または第2発明において、前記調整装置と杭体との連結態様が、杭体の周側面を挟むように配置する複数の分割ピースと、前記分割ピースから側方に延出するように設けた鍔部と、一端を前記鍔部に連結し、他端に伸縮機構を接続する長尺材と、で構成したことを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第1発明において、前記調整装置と防舷材壁との連結態様が、防舷材壁から側方に延出するように設けたブラケットと、一端を前記ブラケットに連結し、他端に伸縮機構を接続する長尺材と、で構成したことを特徴とする。
また、本願の第4発明は、杭体を有する係留施設に設ける防舷材壁の位置調整方法であって、杭体の上方に設置した支保工に防舷材壁を架設し、前記防舷材壁と杭体の間に、該防舷材壁と杭体との間の距離を調整可能な調整装置を、水平方向に間隔を設けて複数設け、各調整装置の作動によって、前記防舷材壁の前後方向の平面位置、略鉛直軸回りの向き、および略水平軸回りの向きを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に記載する効果を奏する。
(1)既設の杭体から反力をとるため、桟橋の構築前の現場や、係留杭のみからなるドルフィンでも適用が可能である。
(2)防舷材壁の固定位置について、微調整の自由度が高い。
(3)防舷材壁の位置調整のために反力を取る部材を溶接する必要がないため、溶接対象となる箇所(杭体や桁材など)が損傷する恐れがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る係留施設の構築手順(1)を示す概略図
図2】本発明に係る係留施設の構築手順(2)を示す概略図
図3】本発明に係る係留施設の構築手順(3)を示す概略図
図4】本発明に係る調整装置の設置例を示す概略平面図
図5】本発明に係る防舷材壁の位置調整作業を示す概略斜視図
図6】本発明に係る係留施設の構築手順(4)を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。
【実施例】
【0011】
本発明について、係留施設の構築手順に沿って説明する。
以下に示す各工程は、作業に矛盾の無い範囲で、適宜順番の入れ換えや同時実施を行うことができる。また、本発明の特徴部分と関連性の薄い足場などの図示は省略する。
【0012】
<1>杭体を用いた支保工の架設(図1
まず、水上に打設してある既設の杭体10の頭部に、支柱20を架設し、杭体10内部に中詰めコンクリートを打設して、前記支柱20を立設した状態とする。このとき、必要に応じて杭体10の頭部にせん断プレートや平板プレートを配置してもよい(図示せず)
次に、前記支柱20上に桁材30などを配置して支保工40を架設する。
前記杭体10は、係留施設が桟橋の際には基礎杭に相当し、接岸ドルフィンの際には係留杭に相当する部材である。本実施例では、杭体10を傾斜させて打設しているが、本発明では、杭体10は鉛直方向に打設したものであってもよい。
これらの作業は、公知の方法で実施することができる。
【0013】
<2>防舷材壁の浜出し、左右方向の平面位置の調整、高さ調整(図2
次に、工場または現場の別ブースで製作したプレキャスト製の防舷材壁50を、設置箇所近傍まで、クレーンAで吊り上げて運搬する。
防舷材壁50は、型枠51と、該型枠の中で部分的に構築された躯体52と、該躯体52に埋設して立設した支柱53と、該支柱53から横設する吊梁54と、を設けており、前記吊梁54を前記支保工40の上に設置することで、防舷材壁50を設置箇所近傍に配置することができる。
このとき、防舷材壁50の左右方向の平面位置の調整および高さ調整高さについては、適宜測量を行い、別途ガイド材(図示せず)などを用いて、正確な位置まで調整を行う。
防舷材壁50の左右方向の平面位置は、クレーンAでの吊り上げ時に調整する。
防舷材壁50の高さは、防舷材壁50の吊梁54と支保工40の桁材30との間にライナープレートを設置するなどの方法によって調整する。
【0014】
<3>調整装置の設置(図3図4
次に、杭体10と防舷材壁50との間に、調整装置80を設置する。
調整装置80は、前記防舷材壁50と杭体10の間の距離を調整可能な装置である。
本実施例では、調整装置80を、杭体側の長尺材81aと、防舷材壁側の長尺材81bと、両長尺材の間に介設する伸縮機構82でもって構成している。各長尺材81a,81bは、H形鋼などの鋼材を用いることができる。
【0015】
<3.1>杭体との連結例(図3
調整装置80と杭体10との連結構造の一例について説明する。
まず、杭体10の外周に取り付ける部材として、杭体の外径よりもやや大きな内径とする筒状の部材を二分割してなる分割ピース61を用意する。
前記分割ピース61を、杭体10の周側面を挟み込むように配置し、分割ピース61同士を公知の連結機構でもって固定する。
分割ピース61の内側は、杭体10の重防食を傷つけないように、ゴムなどの弾性部材で養生しておくことが好ましい。
分割ピース61の側面には、側方向に延出するように配した鍔部62を設けておく。この鍔部62が、杭体側の長尺材81aを載置・連結する箇所となる。
杭体側の長尺材81aがH形鋼である際には、下側のフランジを切り欠いておき、中央のウェブ部を鍔部62上に載置してから、両者をボルトピンで結合するなどして両者を連結することができる。
【0016】
<3.2>防舷材壁との連結例(図3
調整装置80と防舷材壁50との連結構造の一例について説明する。
防舷材壁50の、杭体側の面(防舷材を取り付ける面と反対側の面)には、ブラケットなどの受け具70を設置しておく。
受け具70は、例えば防舷材壁50の躯体52に予め形成しておいたインサートを介したボルト結合などで、設置することができる。
この受け具70が、調整装置80の防舷材壁側の長尺材81bを載置する箇所となる。
防舷材壁側の長尺材81bについても、杭体側の長尺材81aと同様に、下側のフランジを切り欠いて、中央のウェブ部を受け具70上に載置して両者をボルトピン結合するなどして両者を連結することができる。
【0017】
<3.3>伸縮機構(図3
伸縮機構82は、前記防舷材壁50と杭体10との間の距離を離隔または接近するための装置である。
伸縮機構82には、杭体10から反力をとって前記防舷材壁50を押し出すことが可能な程度の公知の装置を用いることができる。
本実施例では、伸縮機構82に、油圧ジャッキを用いている。
【0018】
<3.4>調整装置の数(図4
本発明において、調整装置80は、一つの防舷材壁50に対して複数設置するものとする。本実施例では、一つの防舷材壁50に対して二基の調整装置80a,80bを、水平方向に間隔を空けて設けている。
【0019】
<3.5>調整装置の長手方向の向き(図4
本発明に係る調整装置80の長手方向の向きは適宜選択することができる。
本実施例では、各調整装置80を、防舷材50側の端部間距離が杭体10側の端部間距離よりも狭くなるように配置している。
なお、各調整装置80の長手方向が互いに平行となるように配置してもよい。
【0020】
<3.6>その他(図4
その他の部材について説明する。
本実施例では、調整装置80の間を襷掛けするように、杭体10と防舷材壁50間をピン連結する連結材90aや、各調整装置80の鍔部62間を連結する連結材90bなどを設けて、構造全体の安定性を高めている。
【0021】
<4>防舷材壁の前後方向の平面位置、鉛直軸回りの位置、および水平軸回りの位置の調整(図5
上記したように調整装置80を設置した状態で、各調整装置80の伸縮機構82を作動することにより、前記防舷材壁50の前後方向の平面位置、鉛直軸B回りの位置(「捩れX」ともいう。)、および水平軸C回りの位置(「建ちY」ともいう。)の調整を行うことができる。
【0022】
[1]前後方向の平面位置調整
例えば、両方の伸縮機構を駆動して防舷材壁の押し引きを行った場合には、防舷材壁の前後方向の平面位置が可能となる。
【0023】
[2]略鉛直軸回りの位置調整
また、一方の伸縮機構82のみを駆動して防舷材壁50の押し引きを行った場合には、防舷材壁50の略鉛直軸B回りの位置調整が可能となる。
【0024】
[3]略水平軸回りの位置調整
また、防舷材壁50の別の位置に、別途ガイド材を設けて、前記防舷材壁50の前後方向の移動を妨げるようにした状態で、両方の伸縮機構82を駆動して防舷材壁50の押し引きを行った場合には、前記ガイド材で押さえた箇所を中心に、防舷材壁50の略水平軸C回りの位置調整が可能となる。
【0025】
これらの位置を調整した後は、別途受け材を設置するなどして防舷材壁の位置を確定する。調整装置80は必要に応じて残したままでも撤去しても良い。
【0026】
<5>その後の工程(図6
防舷材壁50の位置が確定した後は、支保工40下方や、防舷材壁50上部などの躯体構築予定箇所に型枠を設置し、コンクリートを打設して、新規躯体55を構築する。
新規躯体55の構築後は、支柱20の上部や、桁材30などの支保工40、防舷材壁50の支柱53の上部や、吊梁54などの不要な部材を切断して撤去する。
このとき、まだ調整装置80が残ったままであれば、同時に撤去してもよい。
【0027】
<6>従来方法との対比
上述した方法により、防舷材壁の位置調整を短時間かつ高精度で実施することが可能となった。
また、従来の方法では、支保工40や杭体10から調整用の反力をとる固定用鋼材を配置して防舷材壁50の位置調整を行うため、工期は防舷材壁1基あたり6日を要していたところ、本発明に係る方法では、1基あたり2日まで短縮することが可能となった。
また、従来方法では、本設の杭体10に固定用綱材を溶接することで、杭体10が損傷する懸念があったが、本発明によれば分割ピース61でもって杭体10を挟んで固定するため、杭体10の損傷も未然に回避することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 杭体
20 支柱
30 桁材
40 支保工
50 防舷材壁
51 躯体
52 支柱
53 吊梁
54 新規躯体
61 分割ピース
62 鍔部
70 受け具
80 調整装置
81 長尺材
82 伸縮機構
90 連結材
A クレーン
B 略鉛直軸
C 略水平軸
X 捩れ
Y 建ち
図1
図2
図3
図4
図5
図6