(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498580
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ブラシレスレゾルバ及び回転角度検出装置
(51)【国際特許分類】
G01D 5/20 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
G01D5/20 110E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-193155(P2015-193155)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-67600(P2017-67600A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智哉
(72)【発明者】
【氏名】中里 憲一
(72)【発明者】
【氏名】矢▲崎▼ 学
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−113835(JP,A)
【文献】
特開2004−132477(JP,A)
【文献】
特開2012−231648(JP,A)
【文献】
特開2003−302255(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1相の励磁コイルが設けられたロータと、2相の検出コイルが設けられたステータとを備え、前記ロータがモータのシャフトに取り付けられて前記モータの回転角度を検出するブラシレスレゾルバであって、
前記シャフトの回りに誘起コイルが巻かれ、
前記誘起コイルは前記励磁コイルと接続されており、
前記シャフトに流れる前記モータの磁束の変化によって前記誘起コイルに誘起される起電力を前記励磁コイルに供給する励磁信号として用いることを特徴とするブラシレスレゾルバ。
【請求項2】
請求項1記載のブラシレスレゾルバにおいて、
前記モータの磁束は前記モータの漏れ磁束であることを特徴とするブラシレスレゾルバ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のブラシレスレゾルバにおいて、
前記誘起コイルは前記ロータに一体形成された巻枠に巻かれていることを特徴とするブラシレスレゾルバ。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかのブラシレスレゾルバと、
前記2相の検出コイルの出力信号から励磁信号成分を抽出し、検波信号として出力する励磁信号成分抽出回路と、
前記2相の検出コイルの出力信号を前記検波信号で同期検波して角度演算を行う角度演算回路と、
前記角度演算回路で算出された前記ロータの回転角度及び角速度が入力される角度保持回路とを備え、
前記角度保持回路は入力された角速度がゼロ以外の時には入力された回転角度を出力し、入力された角速度がゼロの時には直前に入力された回転角度を出力することを特徴とする回転角度検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はモータの回転角度を検出するブラシレスレゾルバ及びそのブラシレスレゾルバを用いる回転角度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5はブラシレスレゾルバの従来例として特許文献1に記載されている構成を示したものであり、ブラシレスレゾルバは回転中心となる軸11を覆う筒状ケース12内に配置された円環状のレゾルバ13と、レゾルバ13に並設された円環状の回転トランス20と、レゾルバ13及び回転トランス20に電気的に接続されたリード線27とから構成されている。
【0003】
レゾルバ13は軸11を中心に回転自在なレゾルバロータ14と、筒状ケース12に固定されたレゾルバステータ17とから構成されている。レゾルバロータ14はレゾルバロータ鉄心15にレゾルバロータ巻線16を巻回することによって構成されており、レゾルバステータ17はレゾルバステータ鉄心18にレゾルバステータ巻線19を巻回することによって構成されている。
【0004】
レゾルバ13が1相励磁2相出力のレゾルバの場合、レゾルバロータ巻線16は1相の分布巻線となり、レゾルバステータ巻線19は電気角として互いに90度ずれた2相の分布巻線(sin巻線とcos巻線)となる。このような構成のレゾルバ13では回転トランス20からの励磁信号によりレゾルバロータ14が励磁されると、レゾルバステータ17側に回転角に応じた2つの信号が発生し、この2つの信号から回転角を演算することができる。
【0005】
回転トランス20は軸11を中心に回転自在なロータトランス21と、筒状ケース12に固定されたステータトランス24とから構成されている。ロータトランス21は円環状のロータトランス鉄心22と、ロータトランス鉄心22の周方向にマグネットワイヤを多重巻きしてなるロータトランス巻線23とから構成されており、ステータトランス24は円環状のステータトランス鉄心25と、ステータトランス鉄心25内に配置されたボビンの周方向にマグネットワイヤを多重巻きしてなるステータトランス巻線26とから構成されている。
【0006】
このように回転トランス20を構成することにより、リード線27からステータトランス24に電送された励磁信号は、ステータトランス巻線26とロータトランス巻線23との巻数比に応じた電圧信号としてロータトランス21側に非接触で伝達される。次いで、この励磁信号がロータトランス21に接続されているレゾルバロータ14のレゾルバロータ巻線16に電送され、これによりレゾルバ13による回転位置の検出が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−101633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来のブラシレスレゾルバではレゾルバロータ巻線に励磁信号を供給するために回転トランスを用いるものとなっており、その分、部品点数が増え、部材費及び組立工数がかかるものとなっていた。
【0009】
この発明の目的はこの問題に鑑み、回転トランスを不要とし、よって従来に比し、部材費及び組立工数を削減することができ、安価に構成することができるようにしたブラシレスレゾルバを提供することにあり、さらにそのブラシレスレゾルバを用いて構成される回転角度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明によれば、1相の励磁コイルが設けられたロータと、2相の検出コイルが設けられたステータとを備え、ロータがモータのシャフトに取り付けられてモータの回転角度を検出するブラシレスレゾルバは、シャフトの回りに誘起コイルが巻かれ、誘起コイルは励磁コイルと接続され、シャフトに流れるモータの磁束の変化によって誘起コイルに誘起される起電力を励磁コイルに供給する励磁信号として用いるものとされる。
【0011】
請求項2の発明では請求項1の発明において、モータの磁束はモータの漏れ磁束とされる。
【0012】
請求項3の発明では請求項1又は2の発明において、誘起コイルはロータに一体形成された巻枠に巻かれているものとされる。
【0013】
請求項4の発明によれば、回転角度検出装置は請求項1乃至3記載のいずれかのブラシレスレゾルバと、2相の検出コイルの出力信号から励磁信号成分を抽出し、検波信号として出力する励磁信号成分抽出回路と、2相の検出コイルの出力信号を前記検波信号で同期検波して角度演算を行う角度演算回路と、角度演算回路で算出されたロータの回転角度及び角速度が入力される角度保持回路とを備え、角度保持回路は入力された角速度がゼロ以外の時には入力された回転角度を出力し、入力された角速度がゼロの時には直前に入力された回転角度を出力するものとされる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、ロータに設けられた励磁コイルに励磁信号を供給するために従来必要であった回転トランスを不要とすることができ、よってその分、部材費及び組立工数を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0015】
また、従来必要であった励磁信号生成用の励磁回路も不要となるため、その点でもコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明によるブラシレスレゾルバの一実施例を示す斜視図。
【
図4】この発明による回転角度検出装置の機能構成例を示すブロック図。
【
図5】ブラシレスレゾルバの従来例を示す片側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施形態を図面を参照して実施例により説明する。
【0018】
図1はこの発明による1相励磁2相出力のブラシレスレゾルバの一実施例を示したものであり、ブラシレスレゾルバ30は円環状をなすステータ40と、ステータ40の内部空間に位置されたロータ50とによって構成されている。
図2及び
図3はロータ50とステータ40を分けて示したものである。
図1中、60はロータ50が取り付けられるモータのシャフトを示す。
【0019】
ロータ50は円筒状をなし、その中心軸方向の一方の側の外周面にはティース51が周方向に等角間隔で配列されて突出形成されている。ティース51の数はこの例では8個とされている。各ティース51には1相の励磁コイル52が所定の巻数と巻き方向で巻かれており、詳細図示は省略しているが、これらの励磁コイル52は直列接続されている。
【0020】
一方、ロータ50の中心軸方向の他方の側の外周面には、この例では環状凹部53が形成されており、環状凹部53が形成されたロータ50の他方の側は巻枠54をなす。巻枠54には誘起コイル55が巻かれており、詳細図示は省略しているが、誘起コイル55は励磁コイル52と直列接続されている。
【0021】
円環状をなすステータ40の内周面にはティース41が周方向に等角間隔で配列されて突出形成されている。ティース41の数はこの例では14個とされている。ティース41には図を簡略化して示しているが、2相の検出コイル(COSコイル,SINコイル)42が巻かれている。COSコイル及びSINコイルは所定のティース41に所定の巻数と巻き方向でそれぞれ巻かれており、これらのCOSコイルは直列接続され、これらのSINコイルも直列接続されている。
【0022】
ロータ50は
図1に示したようにモータのシャフト60の回りに取り付けられ、ロータ50の回りにステータ40が固定配置されてブラシレスレゾルバ30が構成される。ロータ50の各ティース51の突出端面51aによって構成される仮想円筒面の径(ロータ外径)はステータ40の各ティース41の突出端面41aによって構成される仮想円筒面の径(ステータ内径)より所定量小さくされ、これによりロータ50はステータ40の内部空間で回転可能とされている。
【0023】
上記のような構成を有するブラシレスレゾルバ30は
図5に示した従来のブラシレスレゾルバと異なり、ロータ50に巻かれた励磁コイル52に励磁信号を供給するための回転トランスを具備しておらず、ロータ50に一体形成された巻枠54に巻かれた誘起コイル55を具備するものとなっている。誘起コイル55はこのようにロータ50の巻枠54に巻かれているため、モータのシャフト60の回りにシャフト60の周方向に巻かれた配置となっており、よって誘起コイル55にはシャフト60に流れるモータの磁束の変化によって起電力(誘導起電力)が誘起されるものとなっている。この例ではこの誘起コイル55に誘起される起電力を励磁コイル52に供給する励磁信号として用いる。
【0024】
従って、この例では励磁コイル52に励磁信号を供給するための多くの部品よりなる回転トランスは不要であって、その分、部材費及び組立工数を削減することができる。また、誘起コイル55に誘起される起電力を励磁信号として用いるため、従来必要であった励磁信号生成用の励磁回路も不要とすることができる。
【0025】
なお、上述した例では誘起コイル55を巻く巻枠54をロータ50に一体形成しているが、巻枠54をロータ50と別体としてもよい。
【0026】
モータの磁束の変化によって誘起コイル55に誘起される起電力、即ち上述したブラシレスレゾルバ30における励磁信号は、
V
E=φ・2πf・K・cos(2πft)
但し、φ:磁束
f :回転数
K :誘起コイル巻数、シャフト断面積によって定まる定数
と表すことができる。
【0027】
なお、シャフト60に流れるモータの磁束とは、例えばモータの漏れ磁束であり、モータの漏れ磁束を利用して励磁信号を生成することができるが、これに限らず、例えばモータから励磁信号生成用の磁束を積極的に発生させるといったことも考えられる。
【0028】
次に、上述したブラシレスレゾルバ30を用いて構成される回転角度検出装置の構成を
図4を参照して説明する。
【0029】
回転角度検出装置はこの例では
図4に示したように、ブラシレスレゾルバ30と励磁信号成分抽出回路70と角度演算回路80と角度保持回路90とによって構成されている。ブラシレスレゾルバ30の2相の検出コイル(COSコイル,SINコイル)42から出力される2相の出力信号(COS信号,SIN信号)は励磁信号成分抽出回路70及び角度演算回路80にそれぞれ入力される。これらCOS信号及びSIN信号は下式で表すことができる。
COS信号:V
C=A・cosωt・cosNθ
SIN信号:V
S=A・cosωt・sinNθ
但し、A=φ
L・2πf・K・T
ω=2πf
T:変圧比
N:軸倍角
θ:回転角度
【0030】
励磁信号成分抽出回路70は入力されたCOS信号,SIN信号から励磁信号成分を抽出する。励磁信号成分は下式の演算を行うことによって抽出される。
√(V
C2+V
S2)=√{(A・cosωt・cosNθ)
2
+(A・cosωt・sinNθ)
2}
=√{A
2・cos
2ωt(cos
2Nθ+sin
2Nθ)
=A・cosωt
【0031】
励磁信号成分抽出回路70は抽出した励磁信号成分を検波信号として角度演算回路80に出力する。
【0032】
角度演算回路80は例えば従来公知のトラッキングループ方式の角度演算を実行するものとされ、入力されたCOS信号,SIN信号を入力された検波信号で同期検波して角度演算を行う。
【0033】
ここで、モータ停止時は磁束の変化がなくなるため、ブラシレスレゾルバ30の出力信号(COS信号,SIN信号)がゼロとなり、角度演算ができないことになる。この例ではこのモータ停止時の出力を補償するため、角度保持回路90を備えている。
【0034】
角度保持回路90には角度演算回路80で算出されたロータ50の回転角度及び角速度が入力される。角度保持回路90は入力された角速度がゼロ以外の時には入力された回転角度を出力する。一方、入力された角速度がゼロの時には直前に入力された回転角度を出力する。
【0035】
上記のような構成を採用したことにより、モータ停止時においてもロータ50の回転角度を検出でき、即ちモータの回転角度を検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明によるブラシレスレゾルバ及び回転角度検出装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータの回転子の回転位置検出やモータによって駆動される工作機械等、各種機器の回転位置検出に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
11 軸 12 筒状ケース
13 レゾルバ 14 レゾルバロータ
15 レゾルバロータ鉄心 16 レゾルバロータ巻線
17 レゾルバステータ 18 レゾルバステータ鉄心
19 レゾルバステータ巻線 20 回転トランス
21 ロータトランス 22 ロータトランス鉄心
23 ロータトランス巻線 24 ステータトランス
25 ステータトランス鉄心 26 ステータトランス巻線
27 リード線 30 ブラシレスレゾルバ
40 ステータ 41 ティース
41a 突出端面 42 検出コイル
50 ロータ 51 ティース
51a 突出端面 52 励磁コイル
53 環状凹部 54 巻枠
55 誘起コイル 60 シャフト
70 励磁信号成分抽出回路 80 角度演算回路
90 角度保持回路