(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498668
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】二重結合含有基を含むフッ化カーボネート、その製造方法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07C 69/96 20060101AFI20190401BHJP
C07C 68/02 20060101ALI20190401BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20190401BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20190401BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20190401BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20190401BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20190401BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20190401BHJP
【FI】
C07C69/96 ZCSP
C07C68/02 B
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M12/06 G
H01M12/08 K
H01G11/60
H01G11/64
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-524814(P2016-524814)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公表番号】特表2016-531093(P2016-531093A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2014064734
(87)【国際公開番号】WO2015004195
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】13175668.6
(32)【優先日】2013年7月9日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ボムカンプ, マルティン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ハグスー
【審査官】
西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−231283(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/107786(WO,A1)
【文献】
特開2006−261092(JP,A)
【文献】
特表2012−532910(JP,A)
【文献】
特開昭56−005441(JP,A)
【文献】
Marrec O. et al.,Journal of Fluorine Chemistry,2010年,131(2),p.200-207
【文献】
Sawayama A.M. et al.,The Journal of Organic Chemistry,2004年,69(25),p.8810-8820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
H01M
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
R1R2CF−O−C(O)−O−R3
(式中、
R1は、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R2は、H、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、及び
R3はアルケニルである)
の化合物。
【請求項2】
R3はアリルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R2はHである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
R1は、H又はアルキル基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
R1はメチルであり、R2はHであり、R3はアリルであり、及び前記化合物は(1−フルオロエチル)アリルカーボネートである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
一般式(II)
R1R2CF−O−C(O)F
のフルオロホルマートを一般式(III)
R3−OH
のアルコールと反応させる工程を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の製造方法であって、
式中、
R1はH、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R2はHであり、及び
R3はアルケニルである、製造方法。
【請求項7】
ホスゲン又はホスゲン類似体を一般式(IV)
R1R2CF−OH
の化合物と反応させて、一般式(V)
R1R2CF−O−C(O)X
の中間体を形成する第1の工程と、前記一般式(V)の前記中間体を一般式(VI)
R3−OH
の化合物と反応させる第2の工程とを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の製造方法であって、
式中、
R1は、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R2は、H、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R3はアルケニルであり、
X−は脱離基であり、ホスゲン類似体が、ジフルオロホスゲン(FC(O)F)、トリクロロメチルクロロホルメート(「ジホスゲン」)、ビス(トリクロロメチル)カーボネート(「トリホスゲン」)、S,S−ジメチルジチオカーボネート(DMDTC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N−ジフェニル尿素及びそれらの組合せからなる群から選択される、製造方法。
【請求項8】
ホスゲン又はホスゲン類似体を一般式(VI)
R3−OH
の化合物と反応させて、一般式(VII)
R3−O−C(O)X
の中間体を形成する第1の工程と、前記一般式(VII)の前記中間体を一般式(VIII))
R1R2CF−OH
の化合物と反応させる第2の工程とを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の製造方法であって、
式中、
R1は、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R2は、H、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R3はアルケニルであり、
X−は脱離基であり、ホスゲン類似体が、ジフルオロホスゲン(FC(O)F)、トリクロロメチルクロロホルメート(「ジホスゲン」)、ビス(トリクロロメチル)カーボネート(「トリホスゲン」)、S,S−ジメチルジチオカーボネート(DMDTC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N−ジフェニル尿素及びそれらの組合せからなる群から選択される、製造方法。
【請求項9】
リチウムイオン電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、スーパーキャパシタ、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の溶媒添加物又は溶媒としての請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項10】
リチウムイオン電池に有用な少なくとも1種の溶媒を含有し、請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種の化合物を更に含有する、リチウムイオン電池用、リチウム空気電池用、リチウム硫黄電池用、スーパーキャパシタ用、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の溶媒組成物。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種の化合物と、リチウムイオン電池又はスーパーキャパシタに有用な少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の電解質塩とを含有する、リチウムイオン電池用、リチウム空気電池用、リチウム硫黄電池用、スーパーキャパシタ用、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の電解質組成物。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも1種の化合物を含むリチウムイオン電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、スーパーキャパシタ、又はハイブリッドスーパーキャパシタ。
【請求項13】
Liイオン電池、Li空気電池、又はLi硫黄電池用の電解質組成物における、電解質組成物中の成分としての、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の使用であって、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の濃度は、前記電解質組成物の総重量に対して、1〜15重量%である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2013年7月9日付けで出願された欧州特許出願公開第131756686号の優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は、あらゆる目的において参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、二重結合含有基を含むフッ化カーボネート、その製造方法、並びに、リチウムイオン電池用及びスーパーキャパシタ用の溶媒又は溶媒添加物としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池、リチウム空気電池及びリチウム硫黄電池は、電気エネルギーを貯蔵するための周知の再充電可能な手段である。リチウムイオン電池は、溶媒と、導電性塩と、そして多くの場合添加剤とを含む電解質組成物を含む。溶媒は、導電性塩を溶解するために有用な非プロトン性有機溶媒である。例えば、適切な溶媒に関する情報を提供する国際公開第2007/042471号を参照のこと。適切な導電性塩は、当該技術分野において公知である。LiPF
6は好ましい導電性塩である。
【0004】
コンデンサーは電気エネルギーの貯蔵に広く使用されているデバイスである。様々なタイプのコンデンサーの中には、電気化学キャパシタ及び電解コンデンサーがある。
【0005】
ハイブリッドスーパーキャパシタは、2つの異なる電極タイプと電解質組成物を用いる電気化学的エネルギーの貯蔵デバイスであり、電極間の相違は一般的には容量又は組成である。
【0006】
ハイブリッドスーパーキャパシタにおける電解質組成物の最適化は、このようなシステムの性能特性を向上させる大きな可能性を更に与える。
【0007】
添加剤は、リチウムイオン電池の特性を、例えばサイクル寿命を伸ばすことによって向上させる。フルオロメチルメチルカーボネート及びカルバメートなどのフルオロアルキルアルキルカーボネートは、リチウムイオン電池用の公知の溶媒添加剤である。国際公開第2011/006822号には、1−フルオロアルキル(フルオロ)アルキルカーボネート及びカルバメートの製造が開示されている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、リチウムイオン電池用、リチウム空気電池用、リチウム硫黄電池用、又はスーパーキャパシタ用の改良された添加剤を提供することである。本発明の化合物は、粘度の修正や引火性の低減などの利点をもたらす。別の利点は、有益なフィルムの形成時の電極の改良である。更に、本発明の化合物はリチウムイオン電池で使用される材料に、特にはセパレーターなどに、良好なぬれ性を与える。本発明の化合物は、例えばレドックスシャトルとしての役割を果たすことによって、過充電に対する保護を好適に補助することができる。また別の利点は、電解質組成物の安定性の、例えば特定の集電体材料の起こり得る劣化によって形成され得る銅アニオンの存在下での、増加である。
【0009】
更に、本発明の化合物は、酸化に対する比較的低い安定性を有する一方、還元に対する高い安定性を有利に示す。あるいは、本発明の化合物は、還元に対する比較的低い安定性を有する一方、酸化に対する高い安定性を有利に示す。この特性は、例えば、電池の電極を改良することによって、特に電極上の保護層の形成によって、電池の性能の増加をもたらすことができる。
【0010】
更に、本発明の化合物は、スーパーキャパシタのエネルギー密度、その出力密度、又はそのサイクル寿命を増加させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】異なる濃度でのアリル 1−フルオロエチルカーボネートを使用するパウチセルのサイクル性能を示す。
【
図2】標準電解質、並びに、アリル 1−フルオロエチルカーボネート及びフェニル 1−フルオロエチルカーボネートをそれぞれ含む電解質を使用する線形掃引ボルタモグラム(LSV)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、一般式
R
1R
2CF−O−C(O)−O−R
3
(式中、
R
1及びR
2は、独立して、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、及び
R
3は二重結合含有基である)
の化合物に関する。
【0013】
「二重結合含有基」という用語は、少なくとも2つの原子が、二重結合によって化学的に共に結合される基のことをいう。従って、二重結合含有基は、アルケニル基並びにアリール及びヘテロアリール基を包含する。アルケニルの具体例としては、ビニル、アリル、及び1−ブテニルが挙げられる。アリール基は、特に、C6〜C10芳香族核、特に、フェニル又はナフチルなどの芳香族核から誘導される。ヘテロアリール基は、芳香族核における少なくとも1つの原子が、ヘテロ原子であり、好ましくは、少なくとも1つのヘテロ原子はO、S、又はNである芳香族核から誘導される。ヘテロアリール基の具体例は、チオフェン、フラン、トリアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、オキサゾール、チアゾール、及びイソオキサゾールである。
【0014】
用語「アルキル基」は、特にはC1〜C6アルキルなどの任意選択的に置換されていてもよい飽和炭化水素を骨格とする基の鎖のことをいう。例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、及びヘキシルを挙げることができる。アルキルは、例えば、ハロゲン、アリール、又はヘテロアリールによって任意選択的に置換されていてもよい。
【0015】
「シクロアルキル基」という用語は、飽和炭化水素系基の任意選択的に置換されていてもよい環式のことをいう。例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを挙げることができる。シクロアルキルは、例えば、ハロゲン、アリール、又はヘテロアリールによって任意選択的に置換されていてもよい。
【0016】
好ましい実施形態では、R
3はアルケニル基であり、より好ましくは、R
3はアリルである。
【0017】
別の好ましい実施形態では、R
3はアリール基又はアルキレン−アリール基であり、より好ましくは、R
3はフェニル又はベンジルであり、最も好ましくは、R
3はフェニルである。
【0018】
更に別の好ましい実施形態では、R
2はHである。
【0019】
更に別の好ましい実施形態では、R
1は、H又はアルキル基であり、より好ましくは、R
1はメチルである。
【0020】
最も好ましくは、一般式(I)の化合物は、(1−フルオロエチル)アリルカーボネート又は(1−フルオロエチル)フェニルカーボネートである。
【0021】
本発明の別の態様は、一般式
R1R2CF−O−C(O)F
のフルオロホルメートを一般式
R3−OH
のアルコールと反応させる工程を含む一般式
R1R2CF−O−C(O)−O−R3
の化合物の製造方法であって、
式中、
R1はH、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R2はHであり、及び
R3は二重結合含有基である、製造方法に関する。
【0022】
本発明の更なる別の態様は、ホスゲン又はホスゲン類似体を一般式
R1R2CF−OH
の化合物と反応させて、一般式
R1R2CF−O−C(O)X
の中間体を形成する第1の工程と、一般式
R1R2CF−O−C(O)X
の中間体を一般式
R3−OH
の化合物と反応させる第2の工程とを含む一般式
R1R2CF−O−C(O)−O−R3
の化合物の製造方法であって、
式中、
R1及びR2は、独立して、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R3は二重結合含有基であり、及び
X−は脱離基であり、好ましくは、X−は塩化物又はフッ化物である、製造方法に関する。
【0023】
本発明の更なる別の態様は、ホスゲン又はホスゲン類似体を一般式
R3−OH
の化合物と反応させて、一般式
R3−O−C(O)X
の中間体を形成する第1の工程と、一般式
R3−O−C(O)X
の中間体を一般式
R1R2CF−OH
の化合物と反応させる第2の工程とを含む一般式
R1R2CF−O−C(O)−O−R3
の化合物の製造方法であって、
式中、
R1及びR2は、独立して、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、
R3は二重結合含有基であり、及び
X−は脱離基であり、好ましくは、X−は塩化物又はフッ化物である、製造方法に関する。
【0024】
「ホスゲン類似体」とは、ホスゲン代替品として当該技術分野で公知の化合物のことをいう。好ましくは、ホスゲン類似体はジフルオロホスゲン(FC(O)F)、トリクロロメチルクロロホルメート(「ジホスゲン」)、ビス(トリクロロメチル)カーボネート(「トリホスゲン」)、S,S−ジメチルジチオカーボネート(DMDTC)、カルボニルジイミダゾール(CDI)又はN,N−ジフェニル尿素である。
【0025】
本発明による方法の個々の工程は、塩基の存在下、例えば3級アミン(例えばトリエチルアミン又はピリジン)の存在下で行うことができる。あるいは、これらの工程は塩基なしで行うこともできる。
【0026】
本発明による方法の個々の工程は典型的には液相で、通常は溶媒の存在下で、好ましくは極性非プロトン性溶媒存在下で行われる。好適な溶媒の例としては、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、トルエン、CF
3−トルエン及びイオン性液体が挙げられる。あるいは、工程は溶媒なしで行うこともでき、もし反応が塩基の存在下で行われる場合は、塩基を溶媒として機能させることができる。
【0027】
個々の工程中の反応温度は重要ではない。多くの場合、反応は発熱的であり、したがって反応混合物を冷却することが望ましい場合がある。温度は好ましくは−80℃以上であり、より好ましくは−78℃以上である。上限温度は、圧力と出発物質の沸点に依存してもよい。多くの場合、温度は85℃以下である。反応はいずれの好適な反応器中でも、例えばオートクレーブ中で、行うことができる。反応は、バッチ毎に又は連続して実施可能である。
【0028】
得られる反応混合物は、例えば蒸留、沈殿、及び/又は結晶化によるなどの公知の方法によって分離可能である。必要に応じて、反応混合物は、水と接触させて水溶性成分を除去することができる。
【0029】
一般式(II)のフルオロホルメートの製造方法及び具体例CH
3CHFC(O)Fの製造方法は、国際公開第2011/006822号に記載されている。
【0030】
本発明の別の態様は、リチウムイオン電池、リチウム空気電池、リチウム硫黄電池、スーパーキャパシタ、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の、溶媒添加物又は溶媒としての、一般式
R1R2CF−O−C(O)−O−R3
(式中、
R1及びR2は、独立して、H、F、アルキル、シクロアルキル、アルキレン−アリール、又はアルキレン−ヘテロアリールであり、及び
R3は二重結合含有基である)
の化合物の使用である。
【0031】
本発明の別の態様は、リチウムイオン電池に有用な少なくとも1種の溶媒を含み、本発明による少なくとも1種の化合物を更に含む、リチウムイオン電池用、リチウム空気電池用、リチウム硫黄電池用、スーパーキャパシタ用、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の溶媒組成物に関する。
【0032】
式(I)の化合物は、多くの場合リチウムイオン電池又はスーパーキャパシタの分野の専門家に公知の少なくとも1種の好適な溶媒と共に、溶媒組成物中又は電解質組成物中で用いられる。例えば、有機カーボネートのみならず、ラクトン、ホルムアミド、ピロリジノン、オキサゾリジノン、ニトロアルカン、N,N−置換ウレタン、スルホラン、ジアルキルスルフォキシド、ジアルキルサルファイト、アセテート、ニトリル、アセトアミド、グリコールエーテル、ジオキソラン、ジアルキルオキシエタン、トリフルオロアセトアミドも溶媒として非常に適切である。
【0033】
好ましくは、非プロトン性有機溶媒はジアルキルカーボネート(直鎖)、アルキレンカーボネート(環状)、ケトン、及びホルムアミドの群から選択される。ジメチルホルムアミド、カルボン酸アミド類、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド及びN,N−ジエチルアセトアミド、アセトン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、環状アルキレンカーボネート類、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びビニリデンカーボネートが好適な溶媒である。
【0034】
上述の式(I)の化合物とは異なるフルオロ置換化合物、例えば、フルオロ置換エチレンカーボネート、ポリフルオロ置換ジメチルカーボネート、フルオロ置換エチルメチルカーボネート及びフルオロ置換ジエチルカーボネートの群から選択されるフッ素化炭素エステルは、他の溶媒であるか、又は好ましくは電解質組成物中の好適な追加的添加剤である。好ましいフルオロ置換カーボネートは、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート及び4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート;フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート及びビス(トリフルオロ)メチルカーボネートを含むジメチルカーボネート誘導体;2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート及びエチルトリフルオロメチルカーボネートを含むエチルメチルカーボネート誘導体;エチル(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、及びビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートを含むジエチルカーボネート誘導体;4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、及び4,5−ジフルオロ−4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、フルオロメチルフェニルカーボネート、2−フルオロエチルフェニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフェニルカーボネート及び2,2,2−トリフルオロエチルフェニルカーボネート、フルオロメチルビニルカーボネート、2−フルオロエチルビニルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルビニルカーボネート及び2,2,2−トリフルオロエチルビニルカーボネート、フルオロメチルアリルカーボネート、2−フルオロエチルアリルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルアリルカーボネート及び2,2,2−トリフルオロエチルアリルカーボネートである。
【0035】
本発明による電解質組成物に有用なその他の適切な更なる添加剤は、国際公開第2007/042471号に記載のものである。
【0036】
溶媒組成物又は電解質組成物はベンゼン、フルオロベンゼン、トルエン、トリフルオロトルエン、キシレン、又はシクロヘキサンを追加的に含んでもよい。
【0037】
溶媒又は追加の溶媒添加剤として適切な部分的にフッ素化されたエステルは、例えば、米国特許第6677085号に記載されている、式R
1CO−O−[CHR
3(CH
2)
m−O]
n−R
2(式中、R
1は(C1〜C8)アルキル基又は(C3〜C8)シクロアルキル基であり、前記基のそれぞれは、基の少なくとも1つの水素原子をフッ素で置換するように部分的にフッ素化されているかパーフルオロ化されており、R
2は(C1〜C8)アルキルカルボニル又は(C3〜C8)シクロアルキルカルボニルであり、前記アルキルカルボニル基又はシクロアルキルカルボニル基は任意選択的に部分的にフッ素化されているかパーフルオロ化されていてもよく、R
3は水素原子又は(C1〜C8)アルキル又は(C3〜C8)シクロアルキルであり、mは0、1、2又は3であり、nは1、2、又は3である)に対応するジオールから誘導される部分的にフッ素化された化合物である。
【0038】
本発明の別の態様は、本発明による少なくとも1種の化合物と、リチウムイオン電池又はスーパーキャパシタに有用な少なくとも1種の溶媒と、少なくとも1種の電解質塩とを含む、リチウムイオン電池用、リチウム空気電池用、リチウム硫黄電池用、スーパーキャパシタ用、又はハイブリッドスーパーキャパシタ用の電解質組成物に関する。
【0039】
電解質組成物は、一般式(I)の少なくとも1種の化合物に加えて、少なくとも1種の溶解された電解質塩を含んでなる。このような塩は一般式M
aA
bで表される。Mは金属カチオンであり、Aはアニオンである。塩M
aA
b全体の電荷は0である。Mは、好ましくはLi
+及びNR
4+から選択される。好ましいアニオンはPF
6−、PO
2F
2−、AsF
6−、BF
4−、ClO
4−、N(CF
3SO
2)
2−及びN(i−C
3F
7SO
2)
2−である。
【0040】
好ましくは、MはLi
+である。特に好ましくは、MはLi
+であり、溶液はLiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiN(CF
3SO
2)
2及びLiN(i−C
3F
7SO
2)
2からなる群から選択される少なくとも1種の電解質塩を含む。ビス(オキサラト)ホウ酸リチウムは、更なる添加剤として使用可能である。電解質塩の濃度は、好ましくは0.8〜1.2モル、より好ましくは1.0モルである。多くの場合、電解質組成物はLiPF
6及びLiPO
2F
2を含んでもよい。
【0041】
LiPO
2F
2が唯一の電解質塩である場合、電解質組成物中のその濃度は、言及した通り、好ましくは、0.9〜1.1モル、より好ましくは1モルである。LiPO
2F
2が、別の電解質塩と共に、特にLiPF
6と共に添加剤として使用される場合、電解質塩、溶媒、及び添加剤を含む電解質組成物全体が100重量%とされるとき、電解質組成物中のLiPO
2F
2の濃度は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上であり、その濃度は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0042】
式(I)の化合物は、別々に、又は他の化合物との混合物の形態で、例えば、電解質組成物に使用される1種以上の溶媒との混合物として、又は電解質塩若しくは他の添加剤と一緒に、電解質組成物に導入することができる。
【0043】
本発明の更に別の態様は、上記概説された溶媒組成物又は上記概説された電解質組成物を含んでなるリチウムイオン電池、リチウム空気電池及びリチウム硫黄電池である。
【0044】
本発明による化合物は、電解質組成物の総重量に対して、1〜15重量%、好ましくは3〜10重量%、より好ましくは4〜6重量%、最も好ましくは約5重量%の濃度で、溶媒、溶媒添加物、又は共溶媒として、有利に使用されることができる。
【0045】
従って、本発明の別の態様は、Liイオン電池、Li空気電池、又はLi硫黄電池用の電解質組成物における、電解質組成物中での本発明による化合物の使用に関し、この場合に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の化合物の濃度は、電解質組成物の総重量に対して、1〜15重量%、好ましくは3〜10重量%、より好ましくは4〜6重量%、最も好ましくは約5重量%である。
【0046】
本発明の別の態様では、リチウムイオン電池は、負極(好ましくは銅箔を含む炭素からなる負極)と、正極(好ましくはアルミニウム箔を含むリチウム金属酸化物からなる正極)と、セパレーター(好ましくは絶縁ポリマーからなるセパレーター)と、上述したような溶媒組成物又は電解質組成物とを含む。負極及び正極で用いられる箔は、集電体とも呼ばれる。
【0047】
本発明のまた別の態様は、上で概説したような溶媒組成物又は上で概説したような電解質組成物を含むスーパーキャパシタ又はハイブリッドスーパーキャパシタである。
【0048】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願、及び刊行物の開示が、用語を不明確にし得る程度本願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0049】
本発明は、本明細書を限定することを意図することなく実施例にて更に記載される。
【実施例】
【0050】
実施例1:アリル 1−フルオロエチルカーボネートの合成
加熱したダブルマントル、還流コンデンサー、及びメカニカルスターラーを備えた2.5lのパーフルオロアルコキシアルカンの反応器に、1023gの1−フルオロエチルフルオロホルメートを入れた(国際公開第2011/006822号に記載の通り調製)。3℃まで材料を冷却した後、231gのピリジンと517gのアリルアルコールとの混合物を2時間かけてゆっくり添加した。反応温度は60℃未満に維持した。室温に冷却した後、混合物をクエン酸溶液で2回洗浄した(30%の脱イオン水)。生成物を無色液体として得た(収率:91%、GC純度>95%)。生成物は、任意選択的には蒸留によって更に精製されて、GC純度>99.9%で生成物を得ることができる。
【0051】
実施例2:1−フルオロエチルフェニルカーボネートの合成
加熱したダブルマントル、還流コンデンサー、及びメカニカルスターラーを備えた2.5lのパーフルオロアルコキシアルカンの反応器に、1007gの1−フルオロエチルフルオロホルメートを入れた(国際公開第2011/006822号に記載の通り調製)。3℃まで材料を冷却した後、238gのピリジンと819gのフェノールとの混合物を2時間かけてゆっくり添加した。反応温度は45℃未満に維持した。室温に冷却した後、混合物をクエン酸溶液で3回洗浄した(30%の脱イオン水)。生成物を無色液体として得た(収率:81%、GC純度>94%)。生成物は、任意選択的には蒸留及び/又は結晶化によって精製されて、GC純度>99.9%で生成物を得ることができる。
【0052】
実施例3:性能試験
試験システム:正極として[LiCoO
2:Super−P(登録商標)(MMM Carbon、Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=92:4:4(重量%)]及び負極として[SCMG−AR(登録商標)(昭和電工株式会社から入手可能な人工グラファイト):Super−P(登録商標)(MMM Carbon、Belgiumから入手可能な導電性カーボンブラック):PVdF(Solvay Specialty PolymersのSolef(登録商標)5130)バインダー=90:4:6(重量%)]からなるパウチフルセル。ポリエチレンをセパレーターとして使用した。標準電解質組成物[(1.0MのLiPF
6/エチレンカーボネート+ジメチルカーボネート(1:2(v/v)]をこれに使用し、本発明によるフッ化添加剤を乾燥した室内雰囲気下にて加えた。
【0053】
パウチセルの調製は、この順序にて以下の工程:(1)混合工程、(2)被覆及び乾燥工程、(3)プレス工程、(4)切り込み工程、(5)タップ溶接工程、(6)巻き取り工程、(7)ジェリーロールプレス工程、(8)ジェリーロールタップ工程、(9)パウチ成形工程、(10)パウチ2側封止工程、(11)電解質充填工程、及び(12)真空封止工程からなった。
【0054】
サイクル性能については、300サイクルを1.0のC速度の下で実施した。
【0055】
図1は、異なる濃度におけるアリル 1−フルオロエチルカーボネートの予想外の有益な効果を示す(x軸:サイクル数、y軸:効率[%])。300サイクルの後、3、5、7.5、及び10重量%を含む電解質組成物を使用することにより、それぞれ、84.4%、91.5%、87.1%、81.1%の残留効率を得た。比較例においては、標準電解質組成物を使用することにより、75.6%の残留効率を得た。
【0056】
実施例4:線形掃引ボルタンメトリー(LSV)
以下のように3つの電極を含むビーカー型セルにおいて試験を実施した。
a)参照電極としてLi金属
b)作用電極としてLiCoO
2
c)対極としてLi金属
【0057】
標準電解質(エチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの1:2の体積/体積%混合物における1.0MのLiPF
6)を使用した。試験されるそれぞれの本発明の化合物を、1重量%の濃度でこの標準電解質に加えた。
【0058】
0.1mVs
−1の走査速度で3.0〜7.0Vの電圧範囲にて電気化学的アナライザーを使用して、試験を実施した。
【0059】
図2は、LSV試験の結果を示す。
曲線(1):標準電解質
曲線(2):1重量%の1−フルオロエチルフェニルカーボネートを有する標準電解質
曲線(3):1重量%のアリル 1−フルオロエチルカーボネートを有する標準電解質
【0060】
結果は、リチウム二次電池の負極の保護のための添加剤として、本発明の化合物の有用性を示している。