【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震支承構造の一態様は、
建物の下部構造体及び上部構造体と、それらの間に介在する滑り免震装置と、により構成される滑り免震支承構造であって、
前記滑り免震装置は、曲率を有する摺動面を備えている上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間に配設され、曲率を有する上面と下面を備えている鋼製のスライダーと、を有し、
前記下部構造体に対して、前記下沓がボルト固定されずに載置されているのみであり、
前記上沓に対して、前記上部構造体がボルト固定されずに載置されているのみであり、
前記下沓に対する前記上沓の水平変位の際に前記上部構造体に作用するせん断力よりも、該上部構造体と該上沓の間の摩擦力及び前記下部構造体と該下沓の間の摩擦力が大きいことを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、下部構造体に対して下沓がボルト固定されずに載置されているのみであり、かつ、上沓に対して上部構造体がボルト固定されずに載置されているのみであることにより、下部構造体及び上部構造体に対する滑り免震装置の取り付けの際の施工手間を低減することができ、さらには、固定用のボルトを削減することによって構造上の煩雑さが解消され、可及的にシンプルな構成の滑り免震支承構造が形成される。滑り免震支承構造を形成する滑り免震装置は、上部構造体を直接支持する上沓から鋼製のスライダーに対して上部構造体に作用するせん断力を伝達することにより、スライダーが振り子のように摺動する過程でせん断力を低減する作用を有している。従って、上沓と上部構造体がボルト固定されず、上沓に対して上部構造体が単に載置されているのみであり、かつ、下沓と下部構造体もボルト固定されず、下部構造体に対して下沓が単に載置されているのみの構成が採用できる前提として、上部構造体に作用するせん断力よりも、上部構造体と上沓の間の摩擦力(静止摩擦力)及び下部構造体と下沓の間の摩擦力が大きいことを要する。すなわち、この条件を満足することにより、上沓と上部構造体の相対移動、及び下沓と下部構造体の相対移動を生じさせることなく、上部構造体に作用するせん断力を滑り免震装置に伝達することができる。このような新規な着想の下で、従来の滑り免震支承構造において必須と考えられていた、上部構造体と上沓のボルト固定、及び下部構造体と下沓のボルト固定を解消し、下部構造体に対して下沓を載置するのみとし、かつ上沓に対して上部構造体を載置するのみとする本態様の構成が適用されている。
【0010】
本態様による滑り免震支承構造を形成する滑り免震装置は、60MPa程度の高面圧下における適用を可能とするが、本発明者等は、10MPa乃至60MPaの面圧下において、滑り免震支承構造を加振する実験を行い、その際に上沓と上部構造体の相対移動、及び下沓と下部構造体の相対移動がないことを実証している。具体的には、下沓に対する上沓の水平変位が±600mm程度(水平変位量として想定される最大値)の際のせん断力を割出し、このせん断力よりも上沓と上部構造体の間の摩擦力、及び下部構造体と下沓の間の摩擦力が大きいことを実証している。
【0011】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、前記下部構造体を構成する鉄筋コンクリート製の立ち上り部に鋼製の下部ベースプレートが固定され、該下部ベースプレートに前記下沓がボルト固定されずに載置されており、
鋼製の上部ベースプレートと、該上部ベースプレートに接続される鉄骨柱と、該鉄骨柱に接続される鉄骨床梁と、を少なくとも備える前記上部構造体における該上部ベースプレートが前記上沓にボルト固定されずに載置されており、
前記上沓にボルト孔が開設され、前記上部ベースプレートに該ボルト孔よりも大径のルーズ孔が開設され、該ルーズ孔内でスライド自在なフェイルセーフ用ボルトが前記上沓の前記ボルト孔と前記ルーズ孔に挿通され、該フェイルセーフ用ボルトの上部には、前記上沓と前記上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられており、
前記フェイルセーフ用ボルトは、前記ルーズ孔によって前記上部構造体から作用するせん断力を負担せず、前記上部構造体から作用する引張力を負担することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、下沓と下部構造体、上沓と上部構造体がいずれもボルト固定されていない態様において、上部ベースプレートに開設されているルーズ孔と上沓に開設されているボルト孔に対してフェイルセーフ用ボルトが挿通され、上沓と上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられていることにより、想定しない引張力が上部ベースプレートに作用した場合でもこの引張力に抵抗することができる。フェイルセーフ用ボルトは、文字通り、安全を見込んだボルトであり、従来の滑り免震支承構造に適用されているように、上部構造体からのせん断力を上沓に伝達する(せん断力を負担する)ためのボルトではない。例えば巨大地震により上部構造体の架構を構成するブレース等から上部ベースプレートに対して引張力が作用した場合、本態様の滑り免震支承構造では上沓と上部構造体がボルト固定されていないことから、この想定外の引張力に対抗することができず、上沓に対して上部ベースプレートが脱落する恐れがある。そこで、本態様では、上部ベースプレートにルーズ孔を開設しておき、このルーズ孔内でフェイルセーフ用ボルトをスライド自在に挿通しておく。ここで、「ルーズ孔」とは、フェイルセーフ用ボルトよりも大径の孔を意味しており、フェイルセーフ用ボルトが移動自在に挿通される孔を意味する。フェイルセーフ用ボルトがルーズ孔内に挿通されていることにより、上部構造体から作用するせん断力をフェイルセーフ用ボルトが負担しない構成を形成できる。また、フェイルセーフ用ボルトの上部において、上沓と上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられていることによっても、上部構造体から作用するせん断力をフェイルセーフ用ボルトが負担しない構成を形成できる。一方、想定外の引張力が上部ベースプレートに作用した場合は、フェイルセーフ用ボルトの上部において、上沓と上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられていることにより、上部ベースプレートが一定量持ち上がった際に上部ベースプレートがナットに係止される。このことにより、上部ベースプレートの過度な持ち上がりに対して上沓が抵抗することができ、例えば上沓からの上部ベースプレートの脱落等を防止することができる。
【0013】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、
建物の下部構造体及び上部構造体と、それらの間に介在する滑り免震装置と、により構成される滑り免震支承構造であって、
前記滑り免震装置は、曲率を有する摺動面を備えている上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間に配設され、曲率を有する上面と下面を備えている鋼製のスライダーと、を有し、
前記下部構造体に対して、前記下沓がボルト固定されており、
前記上沓に対して、前記上部構造体がボルト固定されずに載置されているのみであることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、下沓と下部構造体がボルト固定されていることにより、下部構造体に対して滑り免震装置を据え付ける際の位置決めとずれ防止を図ることができる。尚、ここで言う「ボルト固定」は、せん断力を伝達する態様でボルトにて固定することを意味している。
【0015】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、前記下部構造体を構成する鉄筋コンクリート製の立ち上り部に鋼製の下部ベースプレートが固定され、該下部ベースプレートに前記下沓がボルト固定されており、
鋼製の上部ベースプレートと、該上部ベースプレートに接続される鉄骨柱と、該鉄骨柱に接続される鉄骨床梁と、を少なくとも備える前記上部構造体における該上部ベースプレートが前記上沓にボルト固定されずに載置されており、
前記上沓にボルト孔が開設され、前記上部ベースプレートに該ボルト孔よりも大径のルーズ孔が開設され、該ルーズ孔内でスライド自在なフェイルセーフ用ボルトが前記上沓の前記ボルト孔と前記ルーズ孔に挿通され、該フェイルセーフ用ボルトの上部には、前記上沓と前記上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられており、
前記フェイルセーフ用ボルトは、前記ルーズ孔によって前記上部構造体から作用するせん断力を負担せず、前記上部構造体から作用する引張力を負担することを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、下沓と下部構造体がボルト固定され、上沓と上部構造体がボルト固定されていない態様において、上部ベースプレートに開設されているルーズ孔と上沓に開設されているボルト孔に対してフェイルセーフ用ボルトが挿通され、上沓と上部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられていることにより、想定しない引張力が上部ベースプレートに作用した場合でもこの引張力に抵抗することができる。
【0017】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、
建物の下部構造体及び上部構造体と、それらの間に介在する滑り免震装置と、により構成される滑り免震支承構造であって、
前記滑り免震装置は、曲率を有する摺動面を備えている上沓及び下沓と、該上沓と該下沓の間に配設され、曲率を有する上面と下面を備えている鋼製のスライダーと、を有し、
前記上沓に対して、前記上部構造体がボルト固定されており、
前記下部構造体に対して、前記下沓がボルト固定されずに載置されているのみであることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、上沓と上部構造体がボルト固定されていることにより、上沓に対して上部構造体を据え付ける際の位置決めとずれ防止を図ることができる。尚、ここで言う「ボルト固定」は、せん断力を伝達する態様でボルトにて固定することを意味している。
【0019】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、
建物の下部構造体及び上部構造体と、それらの間に介在する滑り免震装置と、により構成される滑り免震支承構造であって、
鋼製の上部ベースプレートと、該上部ベースプレートに接続される鉄骨柱と、該鉄骨柱に接続される鉄骨床梁と、を少なくとも備える前記上部構造体における該上部ベースプレートが前記上沓にボルト固定されずに載置されており、
前記下沓にボルト孔が開設され、前記下部ベースプレートに該ボルト孔よりも大径のルーズ孔が開設され、該ルーズ孔内でスライド自在なフェイルセーフ用ボルトが前記下沓の前記ボルト孔と前記ルーズ孔に挿通され、該フェイルセーフ用ボルトの上部には、前記下沓と前記下部ベースプレートを締付け固定しない状態でナットが取り付けられていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明による滑り免震支承構造の他の態様は、前記上部ベースプレートと前記上沓の上面との間の肌すき、及び、前記下部ベースプレートと前記下沓の下面との間の肌すきが、いずれも3mmまで許容されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、ボルト固定されない上沓と上部構造体や、下沓と下部構造体の間に肌すきが3mmある場合においても、上部構造体からせん断力が作用した際に、上沓と上部構造体の相対変位や、下沓と下部構造体の相対変位が生じないことが実証されている。