特許第6498842号(P6498842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6498842イオン液体をフィラーのシラン化反応のインサイチュ触媒とする高性能トレッドゴムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498842
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】イオン液体をフィラーのシラン化反応のインサイチュ触媒とする高性能トレッドゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20190401BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20190401BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190401BHJP
   C08K 9/06 20060101ALN20190401BHJP
【FI】
   C08J3/20 BCEQ
   C08J3/20 D
   C08L21/00
   C08K3/36
   !C08K9/06
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-506471(P2018-506471)
(86)(22)【出願日】2016年4月20日
(65)【公表番号】特表2018-513265(P2018-513265A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】CN2016079803
(87)【国際公開番号】WO2016169484
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】201510193681.2
(32)【優先日】2015年4月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512000569
【氏名又は名称】華南理工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512077859
【氏名又は名称】北京化工大学
【氏名又は名称原語表記】BEIJING UNIVERSITY OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】517369483
【氏名又は名称】嘉興北化高分子助剤有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】517369494
【氏名又は名称】北京▲トン▼程創展科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】郭宝春
(72)【発明者】
【氏名】黄晶
(72)【発明者】
【氏名】唐征海
(72)【発明者】
【氏名】張立群
(72)【発明者】
【氏名】蘆咏来
(72)【発明者】
【氏名】孫敏利
(72)【発明者】
【氏名】張慶華
(72)【発明者】
【氏名】張寧
(72)【発明者】
【氏名】董棟
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/045944(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0293610(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0004359(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101831093(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103275365(CN,A)
【文献】 特開2012−153759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00− 3/28
C08L 9/00−21/02
C08K 3/36
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体をフィラーのシラン化反応のインサイチュ触媒とする高性能トレッドゴムの製造方法であって、
生ゴム、フィラー、シラン、イオン液体を順に開放式混練機又は密閉式混練機に投入して、混練して混練ゴムを得るステップ(1)と、
上記混練ゴムに高温切返しを行うステップ(2)と、
切返し後の室温の混練ゴムに加硫バッグと老化防止剤を添加するステップ(3)と、
混練ゴムを加硫して、加硫ゴムを得るステップ(4)とを含み、
前記シランは、官能基含有トリアルコキシシランであり、
前記フィラーは、ホワイトカーボンブラックを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ(1)において、前記混練ゴムのゴム含有率は32wt%〜50wt%であり、前記フィラーはカーボンブラックとホワイトカーボンブラックを含み、フィラーの全量に対して、ホワイトカーボンブラックの比率が10wt%〜100wt%であり、シランの使用量はホワイトカーボンブラックの2wt%〜10wt%であり、イオン液体の使用量はホワイトカーボンブラックの1wt%〜8wt%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生ゴムは、天然ゴムと溶液重合スチレン−ブタジエンゴムとポリブタジエンゴムからなるトレッドゴムの基材ゴムであり、ポリブタジエンゴムは高シスポリブタジエンゴムであり、使用量が生ゴムの25〜35wt%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生ゴムは、天然ゴム又は溶液重合スチレン−ブタジエンゴムとポリブタジエンゴムからなるトレッドゴムの基材ゴムであり、ポリブタジエンゴムは好ましくはシスポリブタジエンゴムであり、その使用量が生ゴムの25〜35wt%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ホワイトカーボンブラックは、高分散ホワイトカーボンブラックであり、
前記官能基含有トリアルコキシシランは、一般式が硫黄含有シランであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン液体は、融点が100℃より低いイオン溶融塩であり、ジアルキルイミダゾール、アルキルピリジン又は有機ホスホニウム塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(1)では、前記混練時間は5〜10分間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(2)では、前記高温切返しは開放式混練機又は密閉式混練機において、125〜155℃で、時間5〜15分間行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記加硫バッグとは、硫黄と加硫活性化剤と促進剤、又は、過酸化物と活性化剤、又は、硫黄と過酸化物の配合系であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記老化防止剤は、p−フェニレンジアミン類とキノリン類のうちの1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン液体改質による高性能トレッドゴムの製造方法に関し、具体的に、イオン液体をフィラーのシラン化反応のインサイチュ触媒とする高性能トレッドゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「省燃料、高安全性及び耐久性」を特徴とする高性能タイヤはタイヤ工業の主流となっている。トレッドゴムにホワイトカーボンブラックを導入することにより、タイヤのウェットスキッド抵抗性を向上させて転がり抵抗を大幅に低下でき、高性能トレッドゴムにとって不可欠なフィラーとなる。ホワイトカーボンブラックを含有するトレッドゴムの性能をより向上させるために、タイヤトレッドゴムを製造する時に一般的にシラン化処理、特に硫黄含有シランを用いたシラン化処理が施される。この作用により、ホワイトカーボンブラックとゴムの界面性能を著しく改善できる。しかしながら、工業的に一般的に使用される硫黄含有シランの含有量が高い(たとえばホワイトカーボンブラックの使用量の10wt%である)。周知のように、シランとフィラーのシラン化反応過程が非常に複雑であり、アルコキシ基とフィラー表面にあるヒドロキシ基(たとえばシラノール基)の間の縮合反応だけでなく、アルコキシ基同士の加水分解反応と縮合反応を含むため、シラン化効率が極めて低い。シラン使用量が高すぎる場合、製造コストを増加させ、且つシランに関連する副反応がゴムの性能に影響を及ぼし、同時に界面構造の制御性が劣化する。現在、トレッドゴム製造に用いるシランの使用量を減少させてシランの使用効率を向上させるのに有効な方法はまだなかった。従って、トレッドゴム製造時のシランの有効な触媒方法の開発は、シランの使用効率と構造の制御性を大幅に向上させ、ゴム複合材の界面性能とフィラーの分散を改善し、さらにトレッドゴムの動的特性を効果的に向上させることができ、高性能タイヤの製造に対しては理論的にも実用的にも重大な意義がある。
【0003】
イオン液体は、融点が100℃以下のイオン溶融塩であり、環境保全型溶媒、触媒、電気化学等の諸分野に幅広く使用されている。異なる中心原子と置換基によって、イオン液体の陽イオン部分は本質的にオニウム塩である。イオン液体の極性基はホワイトカーボンブラック表面にあるヒドロキシ基との作用(たとえば水素結合の作用)により、ホワイトカーボンブラックの表面に吸着できる。ホワイトカーボンブラックの表面に吸着されるイオン液体のオニウムイオンが電荷の作用下でシラノールを効果的に活性化させ、すなわち、ケイ素−酸素陰イオンを生成することができる。ケイ素−酸素陰イオンの生成は、シロキサンとシラノールの縮合を行うのに必要なステップである。そのため、イオン液体を用いてシロキサンとフィラーの間のシラン化反応を効果的に触媒できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、シランとフィラーの反応を促進する方法、及びこの作用を利用して高性能トレッドゴムを製造する製造方法を提供することにある。本発明は、イオン液体の構造設計の柔軟性、シラン化反応に対する触媒作用に基づき、インサイチュ触媒作用を利用して、高動的特性を有するトレッドゴム材料を製造できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は以下の技術案によって実現される。
【0006】
イオン液体をフィラーのシラン化反応のインサイチュ触媒とする高性能トレッドゴムの製造方法は、
生ゴム、フィラー、シラン、イオン液体を順に開放式混練機又は密閉式混練機に投入して、混練して混練ゴムを得るステップ(1)と、
上記混練ゴムに高温切返しを行うステップ(2)と、
切返し後の混練ゴムに加硫バッグと老化防止剤を室温で添加するステップ(3)と、
混練ゴムを加硫して、加硫ゴムを得るステップ(4)とを含む。
【0007】
上記方法では、ステップ(1)において、前記混練ゴムのゴム含有率は32wt%〜42wt%であり、前記フィラーはカーボンブラックと淡色フィラーを含み、フィラーの全量に対して、淡色フィラーの比率が10wt%〜100wt%であり、シランの使用量は淡色フィラーの2wt%〜10wt%であり、イオン液体の使用量は淡色フィラーの1wt%〜8wt%である。
【0008】
上記方法では、前記生ゴムは、天然ゴム及び/又は溶液重合スチレン−ブタジエンゴムとポリブタジエンゴムからなるトレッドゴムの基材ゴムであり、ポリブタジエンゴムは好ましくは高シスポリブタジエンゴムであり、使用量が生ゴムの25〜35wt%である。
【0009】
上記方法では、前記フィラーは、カーボンブラックと淡色フィラーを含み、前記淡色フィラーはホワイトカーボンブラック、粘土、金属酸化物のうちの1種又は1種以上の混合物を含み、淡色フィラーは好ましくはホワイトカーボンブラック、ホワイトカーボンブラックは好ましくは高分散性ホワイトカーボンブラックであり、前記シランは官能基含有トリアルコキシシランであり、好ましくは一般式が硫黄含有シランである。
【0010】
上記方法では、前記イオン液体は、融点が100℃より低いイオン溶融塩であり、ジアルキルイミダゾール、アルキルピリジン又は有機ホスホニウム塩を含み、有機ホスホニウム塩イオン液体が好ましい。
【0011】
上記方法では、ステップ(1)において、前記混練時間は5〜10分間である。
【0012】
上記方法では、ステップ(2)において、前記高温切返しは開放式混練機又は密閉式混練機において、125〜155℃で、時間5〜15分間行われる。
【0013】
上記方法では、前記加硫バッグは、硫黄と加硫活性化剤と促進剤、又は、過酸化物と活性化剤、又は、硫黄と過酸化物の配合系である。
【0014】
上記方法では、前記老化防止剤はp−フェニレンジアミン類とキノリン類のうちの1種以上を含む。
【0015】
ステップ(3)では、前記加硫バッグは、硫黄を主加硫剤、スルフェンアミドを主促進剤とする加硫系であり、加硫剤の具体的な種類及び使用量は生成の必要に応じて決定される。老化防止剤とは、トレッドゴムが一般的に使用する老化防止剤、好ましくはp−フェニレンジアミン類及び/又はキノリン類老化防止剤である。
【0016】
本発明の基本的な原理は、イオン液体の陽イオンが電荷の作用により淡色フィラーの表面にあるヒドロキシ基、たとえばシラノール基を活性化できることにある。そのため、イオン液体の作用下で、ケイ素−酸素陰イオンの濃度が効果的に増加し、アルコキシ基とシラノール基の縮合効率が大幅に向上する。効果的に向上させた界面化学反応によって、ホワイトカーボンブラックの分散程度と界面の相互作用が向上し、加硫ゴムの静的特性(特に弾性率)と動的特性が大幅に改善する。従って、この方法で高性能トレッドゴム材料を製造できる。
【発明の効果】
【0017】
従来のプロセス技術に比べて、本発明は下記利点を有する。
(1)本発明は、従来のゴム加工過程においてインサイチュ実施するため、加工装置又はステップを増設する必要がない。
(2)イオン液体は、多種多様な構造を有するため、本発明の前記触媒効果とゴムの動的特性の調整がイオン液体の構造を変えることで簡単に調整できる。
(3)本発明の前記方法は、シラン使用量を低減させて、コストを削減させ、トレッドゴムの動的特性を大幅に向上させ、高性能タイヤの製造への利用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明の実施形態は以下に制限されず、特に明記しないプロセスパラメータは、通常の技術を参照すればよい。(1)生ゴム、フィラー、シラン、イオン液体を順に開放式混練機に投入して、10分間混練して混練ゴムを得る。(2)上記混練ゴムに高温切返しを行う。(3)切返し後の混練ゴムに必要な加硫系と老化防止系を室温で添加する。(4)混練ゴムを加硫して、加硫ゴムを得る。ステップ(2)において、前記高温切返しは開放式混練機において、145℃で、8分間混練する。
【0019】
ステップ(4)の前記加硫は、150℃で表2に記載の最適加硫時間で加硫する。
【0020】
本発明の前記方法の利点を証明するために、溶液重合スチレンブタジエンとポリブタジエンゴムを基材ゴムとするタイヤトレッドゴム処方を用いて、異なるシランとイオン液体の種類及び含有量を選定して、本発明の上記方法により比較例と4個の実施例を製造した。具体的な処方は表1に示され、表中の単位はいずれもgである。
【0021】
【表1】
【0022】
中国国家標準に準じてすべての処方による特性を全面的にテストし、典型的な特性を表2に示す。表2から明らかなように、本発明の前記方法は、トレッドゴムの転がり抵抗(60℃でのtan deltaとして示される)と動的発熱を著しく低下させて、加硫ゴムの弾性率を著しく向上させた。また、処方のシランの使用量は大幅に低下した。
【0023】
【表2】
【0024】
本発明の上記実施例は本発明を明瞭に説明するための例示に過ぎず、本発明の実施形態を限定するものではない。当業者であれば、上記説明に基づいてほかの形態の変化又は変更をすることができる。ここで、すべての実施形態を例示することができない。本発明の精神と原則を脱逸することなく行う修正、同等置換や改良等はいずれも、本発明の特許の請求の範囲に属する。