(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の機能性繊維糸を構成する機能性繊維は、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、及びマイカを含有することが重要である。前記白色系微粒子は、太陽光を選択的に吸収して熱線を放射する性質を具備しているため、この微粒子を含有する合成繊維やこの合成繊維を含む糸条及び布帛も同様の性質を有する。
【0015】
上記白色系微粒子の内、酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子において、酸化アンチモンと酸化第二スズとの質量比率としては、酸化アンチモン/酸化第二スズ=0.5/99.5〜15.0/85.0が好ましい。
【0016】
一方、酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子において、採用しうる他の無機微粒子としては、特に限定されるものではないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウムなどがあげられる。また、質量比率としては、酸化アンチモン/酸化第二スズ/他の無機微粒子=0.5/5.0/94.5〜2.0/18.0/80.0が好ましい。
【0017】
白色系微粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下が好ましく、0.05〜1.0μmがより好ましく、0.05〜0.5μmがさらに好ましい。粒径が10.0μmを超えると、紡糸工程において濾材の目詰まりや糸切れなどが生じる傾向にあり好ましくない。
【0018】
機能性繊維中における白色系微粒子の含有量としては、0.8〜12.0質量%であることが好ましく、1.0〜10.0質量%がより好ましい。含有量が0.8質量%未満であると、織編物が全体として太陽光を吸収し熱線を放射する機能を十分に発揮しない。一方、12.0質量%を超えると、紡糸性が悪化すると同時に繊維の強度低下を招く。本発明においては、酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子と、酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子とを混合して用いてもよく、この場合の含有量としても上記範囲が好ましい。
【0019】
本発明における機能性繊維に含有される
マイカは、紡糸操業性と遠赤外線放射性能をより向上させるという観点から好ましい。
【0020】
マイカの平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下が好ましく、0.1〜5μmがより好ましく、0.3〜3μmがさらに好ましい。
マイカの平均粒子径が前記範囲内であれば、紡糸操業性に悪影響を及ぼすことなく、より優れた保温効果を奏させることができる。ここで平均粒子径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて測定される体積平均粒子径である。
【0021】
本発明における機能性繊維中の
マイカの含有量としては、特に制限されないが、例えば0.1〜10質量%が挙げられる。特に、本発明における機能性繊維では、
マイカの低含有量であっても、前述する白色系微粒子を併用しているため、優れた保温効果を奏するという利点がある。すなわち、本発明では、後述するように、白色系微粒子が発する熱を保温効果の向上そのものに利用できるだけでなく、その熱を
マイカの温度上昇にも利用でき、
マイカからは温度上昇に応じてより多くの遠赤外線が発せられるため、結果としてより優れた保温効果が奏されるのである。
【0022】
本発明における繊維複合の構成ポリマーとしては、溶融紡糸が可能であることを限度として特に限定されず、従来、繊維の原料として使用されているポリマーを使用することができる。このようなポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー;PLA(ポリ乳酸)やPBS(ポリブチレンサクシネート)等のバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるバイオマスポリマー;これらのポリマーを構成するモノマーの2種以上からなる共重合体等が挙げられる。
【0023】
また、これらのポリマーは、粘度、熱的特性、相溶性等を鑑みて、他の構成モノマーを含む共重合体であってもよい。例えば、ポリエステルの共重合体(共重合ポリエステル)を使用する場合であれば、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸:アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオール;グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等のヒドロキシカルボン酸;ε−カプロラクトン等の脂肪族ラクトンと、ポリエステルとの共重合体を使用してもよい。
【0024】
本発明における機能性繊維は、このように特定の白色系微粒子と、
マイカとを含有するものである。機能性繊維は、必要に応じて艶消し剤、難燃剤、抗酸化剤といった無機微粒子や有機化合物などを含有するものであってもよい。本発明の機能性繊維糸は、このような機能性繊維からなる糸条であり、通常、複数の機能性繊維を束にすることにより構成される。
【0025】
本発明において、機能性繊維の形態としては、ステープル、フィラメントのいずれでもよい。特にフィラメントとして使用する場合、モノフィラメント又はマルチフィラメントのいずれの形態でも使用できるが、一般にマルチフィラメントが好ましい。この場合、当該機能性繊維のみでマルチフィラメントを構成することが好ましいが、本発明の効果を損なわない限り、他の任意の繊維と混用してマルチフィラメントを構成してもよい。
【0026】
本発明を構成する機能性繊維は、このように白色系微粒子と
マイカをフィラメント内に含有するものであるが、このような構成を有することで、遠赤外線放射性能が、遠赤外線機能剤のみを含有する場合に比べ顕著に向上することを見出した。特に、特定の波長領域、具体的には15μm〜18μmの領域での遠赤外線放射量が増大し、全体的な遠赤外線放射効果が向上することを突き止めた。この理由は定かではないが、白色系微粒子が、従来利用されている太陽光を熱変換するだけでなく、特定の波長領域に遠赤外線を強く放射する機能を併せ持ち、遠赤外線放射機能剤の性能と相俟って、相乗的に遠赤外線を放射しているものと推測している。
【0027】
本発明では、かかる白色系微粒子を含有することで、太陽光を効率的に熱に変換し、十分な暖かさを付与できると共に、雨天時や室内など太陽光の届きにくい場合でも、
マイカにより暖かさを維持することができる。しかも本発明では、白色系微粒子及び
マイカの双方を同一繊維中に含有させることで、上記白色系微粒子が発する熱を、暖かさを付与することに利用するのみならず、近接する
マイカそのものの温度を上昇させることに利用し、遠赤外線放射効果を更に高める相乗効果を有するものである。特に白色系微粒子と
マイカを双方とも繊維の同一構成部位、すなわち芯部、もしくは鞘部に含有する場合には、両者がより近接するため、前記効果が効率的に奏され、微粒子の含有量を減少させても十分な保温効果が得られ、一方で、微粒子の含有量を減少させることにより紡糸操業性も安定するため、更に好ましい。なお、芯部に含有させる場合には、
マイカができるだけ繊維表面に近い部分に存在することが好ましく、芯鞘形状における芯部の比率を高くするか、芯部の形状を異形断面にするなども好ましい態様である。
【0028】
本発明における機能性繊維が、芯鞘構造を有する場合、芯鞘重量比(芯/鞘)については、95/5〜15/85、85/15〜40/60が好ましい。芯鞘重量比が前記範囲を充足することにより、紡糸操業性に悪影響を及ぼすことなく、より優れた保温効果を奏することができる。
【0029】
さらに、本発明における機能性繊維が、芯鞘構造を有する場合、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、マイカは芯部、鞘部のいずれに含まれていてもよい。この場合、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、マイカは共に芯部に含まれていてもよいし、共に鞘部に含まれていてもよい。また、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子が芯部に、
マイカが鞘部にそれぞれ含まれていてもよいし、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子が鞘部に、
マイカが芯部にそれぞれ含まれていてもよい。一般に、繊維表面近傍に機能剤が多く含まれていると、織編物の保温効果は増す傾向にあるが、糸条のガイド摩耗性が悪化する傾向にある。他方、繊維内層に機能剤が多く含まれていると、織編物の保温効果は幾分向上し難い傾向にあるが、糸条のガイド摩耗性は改善する傾向にある。したがって、繊維設計の際は、織編物の用途、生産性などを十分考慮したうえで、繊維中に機能材を含有することが好ましい。
【0030】
機能性繊維が、芯鞘構造を有する場合、具体的な構造としては、例えば、
図1、2のような同心芯鞘状のもの、
図3に例示するような芯部形状が多葉型断面形状のもの等が挙げられる。この他にも、図示しないが、サイドバイサイド状のものも採用できる。
【0031】
多葉型断面形状としては、通常、繊維のほぼ中心から放射状に延びる形状のものが採用される。具体的には、
図3(a)(e)に図示する放射状型、同(b)(c)(f)に図示する分離型フルーツセクション状型、同(d)に図示する連結型フルーツセクション状型等が採用できる。繊維中、特に
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子及び
マイカを芯部に配置すると、機能剤が繊維表面に露出しなくなるため、紡糸機、織機、編機などのローラーやガイドなどが損傷され難くなる。本発明では、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子及び
マイカを芯部に配置したうえで、芯部の断面形状として、繊維のほぼ中心から放射状に延びる多葉型断面形状を採用し、さらに多葉型断面形状における葉数を6〜20の範囲にするとよい。こうすることで、製織編時のローラー摩耗やガイド摩耗が効果的に抑えられ、同時に織編物へ保温効果を効率的に付与できるようになる。本発明においては、
図3(a)(e)に例示する形状の繊維が好ましく採用される。同(a)(e)における芯部の形状では、葉数は8である。
【0032】
さらに、繊維芯部の断面形状として多葉型断面形状を採用する場合、葉の先端から繊維の縁に至る距離を調整すると、ガイド摩耗性と保温効果との両立をより向上させることができる。具体的には、葉の先端から繊維の縁に至る最短距離と、繊維半径との比率(DC)、すなわち、DC=(葉の先端から繊維の縁に至る最短距離)/繊維半径×100(%)で算出されるDCについて、好ましくは40%以下より好ましくは25%以下となるように調整にすると、当該両効果の両立に資するところが大きくなる。DCは、紡糸ノズルを適宜選択することにより調整できる。
【0033】
また、機能性繊維において、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、マイカが共に鞘部に含まれている場合、一層優れた保温効果を奏させるという観点から、鞘部100質量%に対して
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子を0.1〜2.5質量%、好ましくは0.5〜2質量%、更に好ましくは1.0〜2質量%含ませるとよい。一方、鞘部100質量%に対して
マイカを0.1〜2.5質量%、好ましくは0.5〜2質量%、更に好ましくは1.0〜2質量%含ませるとよい。さらに、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、マイカの合計の含有量としては、紡糸操業性の向上と保温効果の発現とを両立させる観点から、鞘部100質量%に対して0.2質量%以上3.0質量%未満であることが好ましい。
【0034】
本発明の機能性繊維糸がマルチフィラメント糸の形態である場合、その単糸繊度としては、例えば0.01〜30dtex、好ましくは0.1〜10dtexがより好ましく、更に好ましくは0.1〜3dtexが挙げられ、その総(トータル)繊度としては、例えば1〜500dtex、好ましくは5〜300dtex、更に好ましくは10〜200dtexが挙げられる。単糸繊度を小さくすることによって繊維表面積が増加し、それに伴って遠赤外線放射性能及び発熱性能を向上させ、保温効果を一層高めることができる。また、単糸繊度を小さくするか又は仮撚りを付与すると、空気層が増加し、結果としてデッドエアーに起因する保温効果が更に付加され得る。
【0035】
本発明の機能性繊維糸は、ポリマー、
マイカ及び白色系微粒子を用いて従来公知の方法で紡糸して得ることができる。本発明の機能性繊維糸を紡糸する方法としては、具体的には、紡糸速度が2000m/分以上の高速紡糸により半未延伸糸を得るPOY法;一旦2000m/分未満の低速若しくは2000m/分以上の高速で溶融紡糸し、巻き取った糸条を延伸熱処理する方法;巻き取ることなく続いて延伸を行う直接紡糸延伸法等が挙げられる。また、本発明における機能性繊維が芯鞘構造を有する場合、通常の芯鞘型複合溶融紡糸装置を用いて芯鞘構造を形成させることができる。
【0036】
さらに、機能性繊維糸は、前記繊維のみからなるものあってもよく、前記機能性繊維と他の繊維との混用糸条であってもよい。混用糸条である場合には、例えばインターレース加工、タスラン加工等の従来公知の方法により製造される。本発明の糸条が複合糸である場合、前記機能性繊維の含有量は、例えば、10質量%以上、好ましくは30〜90質量%、更に好ましくは50〜90質量%が挙げられる。
【0037】
また、本発明の糸条を必要に応じて撚糸してもよい。この場合の撚り数としては、特に制限されないが、例えば10〜3000T/m、好ましくは50〜2000T/m、更に好ましくは100〜1000T/mが挙げられる。撚糸を行う際は、一般にリング式撚糸機やダブルツイスターが用いられる。更に、本発明の糸条を仮撚加工してもよい。仮撚りの方法は特に限定されず、従来公知の条件を採用して行うことができる。本発明の糸条が仮撚加工による捲縮が形成されている場合、空気層が増加するためデッドエアーに起因する保温効果が更に付加され得る。また、仮撚加工と混繊加工とを組み合わせて、加工糸としてもよい。
【0038】
本発明の織編物は、前記糸条を用いて形成される。本発明の織編物は、前記糸条単独で形成されていてもよく、又は本発明の効果を損なわない範囲で前記糸条と他の糸条が組み合わされて形成されていてもよい。また、本発明の布帛は、織物、編物、不織布等のいずれであってもよい。
【0039】
本発明が織物の場合、カバーファクター(CF)は1000〜3500の範囲内であることが好ましく、1500〜2500であることが特に好ましい。また、本発明が編物の場合、CFが500〜2500の範囲内であることが好ましく、800〜1800であることが特に好ましい。
【0040】
ここで、カバーファクター(CF)とは、織物の場合は下記式(1)によって算出され、編物の場合は下記式(2)によって算出されるものである。
CF=WAD×√DT+WED×√DT ・・・(1)
CF=CD×√DT+WD×√DT ・・・(2)
ここで、
DT:糸条の繊度(dtex)
WAD:経糸密度(本/2.54cm)
WED:緯糸密度(本/2.54cm)
CD:コース密度(本/2.54cm)
WD:ウェール密度(本/2.54cm)
【0041】
CFを前記範囲とすることで、布帛の密度が高くなるため、人体などの熱を逃がさず保温性を高くすることができると共に、機能性繊維同士の距離が近接するため、白色系微粒子が発生した熱を逃がさず効率的に伝達し、かつ機能性繊維同士が隣接するため、全方向からの熱が
マイカに効率的に伝達されるため、遠赤外線放射効果が更に高まる。
【0042】
加えて、保温効果を十分に発揮させるために、布帛全体に対し、前記機能性繊維糸を20〜100質量%使用することが好ましい。
【0043】
また、本発明の織編物は、必要に応じて、従来公知の方法に従い染色、着色プリント、エンボス加工、撥水加工、抗菌加工、蓄光加工、消臭加工等の処理が施されていてもよい。
【0044】
本発明の織編物は、前記機能性繊維糸を用いて構成されているため、白色に優れる。したがって、白色や淡色に仕上げることが可能であるし、染色により任意の色彩を鮮やかに再現することも可能である。よって、本発明の織編物は、衣服のファション性を高めるうえで有効である。織編物の白色は、WI(ホワイトインデックス)により評価できる。本発明の織編物は、WI80以上の白色仕上げが可能である。織編物の白度は、ミノルタ社製、分光光度計CM−3700Dを用い、ASTM−E−313法に準じ、UV=99.9%で測定する。
【0045】
本発明の織編物の用途については、特に制限されないが、例えば、各種インナー、Tシャツ、ジャケット、ウインドブレーカー、ウェットスーツ、スキーウエア、手袋、帽子、テント、靴の中敷き、布団の側地等の保温性が求められる繊維製品の素材として好適に使用される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて更に詳細に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
各測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0048】
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
【0049】
(2)DC
機能性繊維糸から機能性繊維(単糸)を取り出した後、その単糸の断面を光学顕微鏡(稲畑産業株式会社製「PCSCOPE PCS−81X(商品名)」)を使用して写真撮影し、DCを下記式に基づいて算出した。
DC=(葉の先端から繊維の縁に至る最短距離)/繊維半径×100(%)
ただし、繊維が芯鞘構造を有し、その芯部の断面形状が多葉型断面形状である場合、各葉について各々の先端から繊維外周に至る最短距離を測定し、それらを平均したものを、『葉の先端から繊維の縁に至る最短距離』とした。また、各々の葉の先端を経由させるようにして、繊維中心から単糸外周まで各々線を引き、それらを平均したものを、『繊維半径』とした。
【0050】
(3)遠赤外線放射性
各実施例及び比較例で得られた編物の遠赤外線放射強度を測定した。測定は、赤外分光光度計FT−IR装置を使用し、測定温度40℃、測定波長域5〜20μmで行った。その際、同条件における黒体の遠赤外線放射強度も測定し、各波長における黒体の放射強度を100%とした場合の各編物の放射強度の比率(%)を求め、各波長で算出された比率の平均値を平均放射率(%)として算出した。また、ブランクとして、機能剤A、Bを含まないこと以外は、各実施例及び比較例と同組成の繊維を用いて調製した編物(比較例2)を用い、同様に平均放射率(%)を求めた。そして、次式に基づいて、遠赤外線放射性を算出した。
<遠赤外線放射性の算出式>
遠赤外線放射性=〔(得られた編物の平均放射率(%)−ブランクの平均放射率(%))/ブランクの平均放射率(%)〕×100
【0051】
(4)発熱特性
各実施例及び比較例で得られた編物の表面に、照度10000LUXとなるようにレフランプから光を照射し、裏面からサーモグラフィーで編物の表面温度を観察した。
【0052】
(5)ガイド摩耗性
各実施例及び比較例で得られた機能性繊維糸について、ステンレス製のトラベラーを有するリワインド機で100000mリワインドした後、トラベラーの表面状態を顕微鏡で観察し、下記判定基準に従ってガイド摩耗性を評価した。
<ガイド摩耗性の判定基準>
◎:摩耗が全く認められない。
○:わずかな摩耗があるが問題のない程度である。
△:やや摩耗している。
×:強い摩耗が認められる。
【0053】
(実施例1)
繊維の芯部材料として、極限粘度が0.65のポリエチレンテレフタレートを用意した。一方、鞘部材料として、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレートに
、平均粒子径1.5μmのマイカを鞘部材料全体の1.0質量%、及び白色系微粒子として酸化アンチモンドーピング酸化第二スズを鞘部材料全体の1.0質量%含有したものを用意した。そして、芯部材料及び鞘部材料を複合紡糸機に投入し、紡糸速度3500m/分、芯鞘比率80:20で紡糸し、56dtex24fの機能性繊維糸を得た。得られた機能性繊維は、
図2に示す断面形状であった。得られた機能性繊維糸を供給糸として、32ゲージの丸編機を用い、スムース生地を作製した。この生地に、80℃で20分間精練処理し、その後、130℃で30分間熱水処理し、本発明の編物を得た。
【0054】
(実施例2)
酸化アンチモンドーピング酸化第二スズの含有量を9.0質量%に変更すること以外は、実施例1と同様に行い、機能性繊維糸及び編物を得た。
【0055】
(比較例1)
白色系微粒子を使用しないこと以外は、実施例1と同様に行い、機能性繊維糸及び編物を得た。
【0056】
(比較例2)
極限粘度が0.65のポリエチレンテレフタレートのみで紡糸した以外は、実施例1と同様に行い、機能性繊維糸及び編物を得た。
【0057】
(実施例3)
繊維の芯部材料として、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレートに
、平均粒子径1.5μmのマイカを芯部材料全体の1.0質量%、及び白色系微粒子として酸化アンチモンドーピング酸化第二スズを芯部材料全体の9.0質量%含有したものを用意した。一方、鞘部材料として、極限粘度が0.65のポリエチレンテレフタレートを用意した。そして、芯部材料及び鞘部材料を複合紡糸機に投入し、芯部断面形状として放射状型が得られるノズルを使用し、紡糸速度3500m/分、芯鞘比率20:80で紡糸し、56dtex24fの機能性繊維糸を得た。得られた機能性繊維は、
図3(e)に示す断面形状であった。以降は、得られた機能性繊維糸を供給糸として、実施例1の場合と同様に行い、編物を得た。
【0058】
(実施例4、5)
DCの値を表1記載のものに変更すること以外は、実施例3と同様に行い、機能性繊維糸及び編物を得た。
【0059】
(実施例6)
芯部断面形状として分離型フルーツセクション状型が得られるノズルを使用することで、
図3(c)に示す形状の繊維とすること以外は、実施例3と同様に行い、機能性繊維糸及び編物を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
以上の結果より、本発明の機能性繊維糸を含む編物は、発熱と遠赤外線放出の両方の作用を同時に実現することができ、保温効果に優れていた。
【0062】
さらに、各実施例における機能性繊維糸は、ガイド摩耗性において総じて問題は認められなかったが、実施例1、2における機能性繊維糸のように、
酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズからなる白色系微粒子又は酸化アンチモンをドーピングした酸化第二スズを他の無機微粒子にコーティングしたものからなる白色系微粒子、マイカを鞘部に配した繊維から構成される糸は、機能剤を芯部に配したものから構成される糸(実施例3〜6)と比べ、ガイド摩耗性の点でやや劣る結果となった。また、比較例の編物は、遠赤外線放射性及び発熱特性の両方を同時に実現することはできなかった。
【0063】
本発明の編物において、白色系微粒子により発生する熱が
マイカの温度上昇にも利用されることによって遠赤外線放射効果がどの程度向上したかについても検証した。具体的には、試験片として実施例3の編物を使用し、「(3)遠赤外線放射性」で測定を行うに際し、測定温度を40℃に代えてブランク(比較例2)との温度差である3.8℃を加え、43.8℃とした。
【0064】
その結果、遠赤外線放射性が、実施例3の編物については12.5となった。すなわち、本発明の織編物によれば、白色系微粒子が発する熱を保温効果の向上そのものに利用できるだけでなく、その熱を
マイカの温度上昇にも利用でき、
マイカからは温度上昇に応じてより多くの遠赤外線が発せられることが示された。
【0065】
なお、実施例の編物は、いずれも白色であったため、白色染め、淡色染めを行っても、外観に影響を及ぼさないものであった。