特許第6498883号(P6498883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498883
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】有糖コーヒー飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/24 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
   A23F5/24
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-140076(P2014-140076)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2016-15908(P2016-15908A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2017年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】谷 鷹明
(72)【発明者】
【氏名】杉野 良介
(72)【発明者】
【氏名】冨安 佑騎
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−113059(JP,A)
【文献】 特開平8−214847(JP,A)
【文献】 特開2007−289006(JP,A)
【文献】 特開2007−054062(JP,A)
【文献】 特開2008−086308(JP,A)
【文献】 特開2011−177110(JP,A)
【文献】 特開2012−100619(JP,A)
【文献】 特開2013−198435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー分に糖類が配合され、レトルト殺菌されたコーヒー飲料であって、飲料中の単糖(A)と二糖(B)の濃度比[(A)/(A+B)]が0.1〜0.8であり、単糖と二糖の総量(A+B)が0.5〜6.0重量%であり、そして単糖(A)がグルコースである、前記飲料。
【請求項2】
ブラックコーヒーである、請求項1に記載の飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱殺菌を行って製造される容器詰めコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは、焙煎されたコーヒー豆を、コーヒーミル等で挽いた後、ドリップ式、サイフォン式等の方法により、熱水又は水で抽出することにより得られる。抽出直後のコーヒーは香り高く美味であるが、コーヒーの香り、風味はとても繊細、不安定なものであり、抽出直後の香り、風味は時間の経過とともに変化していき、長時間保持できるものではない。工業的なコーヒー飲料の製造では、コーヒー豆と加熱水が接触する時間が長く、また、保存のために加熱殺菌がなされることから、コーヒーの重要な香りが消失し、風味も大きく変化する。そのため、工業的に製造される容器詰めコーヒー飲料は、家庭等で淹れたレギュラーコーヒーと香りや風味の点で顕著な差があった。
【0003】
そこで、レギュラーコーヒーの味わいを、缶等に充填された容器詰め飲料で実現するための工夫が種々提案されている。中でも、実行容易な方法として、糖類の利用が提案されている。例えば、コーヒー抽出液に糖類としてトレハロースを配合し、缶に充填してレトルト殺菌処理して得られる缶コーヒーは、香り、味とも良好な高品質であることが知られている(特許文献1,2)。
【0004】
また、缶コーヒーのような容器詰め飲料以外の形態でも、コーヒーの香りを維持する方法として糖類の利用が提案されている。例えば、ファミリーレストランやファーストフード店、コンビニエンスストアなどにおいてホットプレート等の大気中の保温器で抽出液を保存する場合のコーヒーの風味劣化を抑制する方法として、コーヒー抽出液に糖類を添加して保存することが提案されている(特許文献3)。また、単糖類、2糖類及びDP1〜7が10%以上となるマンナンオリゴマーの少なくとも1種の糖類を特定量配合した冷凍コーヒー濃厚物で、長期間の保存においてもレギュラーコーヒーのような味、香りを有したコーヒーを消費者が手軽に家庭で楽しむことができるものも提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−336363号公報
【特許文献2】特開平8−298932号公報
【特許文献3】特開2001−112416号公報
【特許文献4】特開2000−41578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コーヒー飲料(特に、ブラックコーヒー飲料)はその香りが重要視されるが、加熱殺菌して得られる容器詰めコーヒー飲料では、コーヒーを抽出してから製品になるまでの過程や長期保存の間に香りが飛散してしまい、抽出仕立時のような風味豊かなコーヒー飲料を製造することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、抽出仕立時のような風味豊かな容器詰めコーヒー飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、コーヒー抽出液に糖類を配合して得られるコーヒー飲料において、単糖と二糖とを合わせた糖類の濃度と、単糖と二糖の濃度比[(単糖)/(単糖+二糖)]を特定範囲に調製して得られるコーヒー飲料が、豊かなコーヒー風味を有し、かつすっきりとした後味を備えていることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
(1)コーヒー分に糖類を配合した液を加熱殺菌処理して得られるコーヒー飲料であって、飲料中の単糖(A)と二糖(B)の濃度比[(A)/(A+B)]が0.025〜1であり、単糖と二糖の総量(A+B)が0.1〜10重量%である、前記飲料。
(2)ブラックコーヒーである、(1)に記載の飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、レトルト殺菌のような過酷な加熱殺菌で製造される容器詰めコーヒー飲料でありながら、レギュラーコーヒーのような香り高いコーヒー飲料が得られる。この容器詰めコーヒー飲料は、開栓後における酸素等の影響も受けにくいので、飲み始めから飲み終わりまで、温度変化に拠らずに、一定の風味を楽しむことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[コーヒー飲料]
本明細書でいう「コーヒー飲料」とは、コーヒー分を原料として使用し、加熱殺菌工程を経て製造される飲料製品のことをいい、内容量100g中にコーヒー生豆換算で1g以上(好ましくは2.5g以上、より好ましくは5g以上)のコーヒー豆から抽出又は溶出したコーヒー分を含むものをいう。コーヒー分の上限は制限されないが、香味の観点からコーヒー生豆換算で10g以下、好ましくは9g以下程度である。
【0011】
ここで、コーヒー分とは、コーヒー豆由来の成分を含有する溶液のことをいい、例えば、コーヒー抽出液、すなわち、焙煎、粉砕されたコーヒー豆を水や温水などを用いて抽出した溶液が挙げられる。また、コーヒー抽出液を濃縮したコーヒーエキス、コーヒー抽出液を乾燥したインスタントコーヒーなどを、水や温水などで適量に調整した溶液も、コーヒー分として挙げられる。特に、本発明のコーヒーの風味が顕著に発揮される観点から、L値13〜35の焙煎コーヒー豆より得られたコーヒー抽出液をコーヒー分として用いることが好ましい。ここで、L値とは、焙煎コーヒー豆を粉砕したコーヒー顆粒の表面色を数値化したもので、明度の指標となる値である(0が黒、100が白)。コーヒー顆粒のL値は、例えば色彩色差計を用いて測定することができる。
【0012】
[糖類]
本発明の容器詰めコーヒー飲料は、糖類を配合して得られる。配合される糖類としては、ショ糖、グルコース、フルクトース、キシロース、果糖ブドウ糖液などが使用できる。
【0013】
本発明のコーヒー飲料は、コーヒー飲料中の単糖と二糖とを合わせた糖類の濃度と、単糖と二糖の濃度比[(単糖)/(単糖+二糖)]を特定範囲にすることを特徴とする。ここで、単糖とは、一般式C(HO)で表される炭水化物であるが、本明細書でいう「単糖」とは、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)を示す。また、二糖とは、一般式C12(HO)11で表される炭水化物であるが、本明細書でいう「二糖」とは、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)を示す。
【0014】
本発明のコーヒー飲料では、単糖と二糖の濃度比[(単糖)/(単糖+二糖)]が、0.025〜1.0となるように含有させることにより、飛散しやすいコーヒー特有の軽いトップの香気を増強することが可能となる。特に、単糖としてブドウ糖を配合し、ブドウ糖/(単糖+二糖)が0.025〜1.0、好ましくは0.04〜1.0、より好ましくは0.5〜1.0、さらに好ましくは0.1〜0.9、特に好ましくは0.1〜0.8となるように含有させたコーヒー飲料は、焙煎香気を強く有し、かつ、口の中で広がりを持続する香りを堪能できる飲料になる。
【0015】
一般に、コーヒー飲料に配合される糖類としては、甘味度の温度依存性が小さいショ糖が使われる(生物工学会誌89巻8号,公益社団法人日本生物工学会,第486〜490頁,2011年8月25日発行)。本発明の好適な態様の一つであるブドウ糖は、レトルト加熱殺菌・高温保存中にpHの低下をきたすため、通常は缶コーヒーのような加熱殺菌処理を経て製造されるコーヒー飲料には使用されていない(改訂新版 ソフト・ドリンクス,株式会社光琳,第421〜435頁,平成元年12月25日発行)。本発明では、通常は使用されていないブドウ糖を特定濃度で配合することによって、レトルト殺菌のような過酷な加熱殺菌で製造される容器詰めコーヒー飲料でありながら、トップと後味に強いロースト感のある、焙煎コーヒー特有の優れた焙煎香気を有する飲料となる。ここで、トップの香り(トップノートともいう)とは、揮発度により相対的に3つのパートに分類される香りの一つで、一般には低沸点の揮発性が高い物質で構成される、飲料の最初の印象を決める香り成分をいう。ここでは、飲用前に鼻から感じられる香り、口に含んだ瞬間に鼻孔から感じられる香りをトップの香りという。また、後味の香り(ラストの香り、ラストノートともいう)とは、香りの深みと味覚に関係し、一般には揮発性が低く比較的高沸点の物質によって構成されている成分であり、ここでは飲用時の後味に味覚として感じられる香りをいう。
【0016】
また、本発明のコーヒー飲料では、単糖と二糖とを合わせた糖類の濃度(以下、糖類濃度)が、0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜6.0重量%となるように含有させる。この濃度範囲で糖類を配合することにより、常温で長期間保存した状態や開栓後の温度変化のある状態で飲用しても、味と香りのバランスが保たれ、後味に苦味、渋味、えぐ味等の少ない、すっきりした味わいを有する飲料となる。
【0017】
[容器詰め飲料]
本明細書でいう、「容器詰め飲料」とは、シングルストレングス、すなわち容器詰飲料を開封後、常態として薄めずにそのまま飲めるものをいい、飲用時に薄めて飲むことが前提である濃縮コーヒーは本発明の範疇から明確に除かれる。
【0018】
本発明のコーヒー飲料は、加熱殺菌して製造される容器詰めコーヒー飲料である。本明細書でいう加熱殺菌とは、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法とをいい、120℃で4分相当(致死値F0=3.1)以上の加熱殺菌をいう。
【0019】
本発明の効果は、加熱殺菌強度が強い方が顕著であるので、レトルト殺菌処理を行う缶入りのコーヒーに好適に適用される。缶入りのコーヒー飲料は、コーヒー分に対して、所定量及び濃度の糖類を配合し、所望によりその他原料を混合した上で、金属缶に充填後、食品衛生法に定められた殺菌条件でレトルト殺菌処理して製造することができる。
【0020】
上述のとおり、本発明のコーヒー飲料には、所望によりその他原料を配合することができる。その他原料としては、乳成分、抗酸化剤、pH調整剤、乳化剤、香料等が挙げられるが、本発明の効果はブラックコーヒーの方が顕著であるので、乳成分や乳化剤を配合しない仕様とするのが好ましい。また、レギュラーコーヒーのような自然な風味が増強できるという本発明の効果を考慮して、香料不使用とすることが好ましい。
【0021】
本発明のコーヒー飲料のpHとしては4〜7が好ましく、飲料の安定性の面からpH5〜7がより好ましく、pH5〜7が特に好ましい。pH調整剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ニナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、本発明の効果の観点からアルカリ性ナトリウム塩又はアルカリ性カリウム塩が好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが最も好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、濃度等は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。また、実施例における単糖濃度及び二糖濃度は、HPLC糖分析装置(LC-20AD株式会社 島津製作所社製)を以下の条件で操作し、検量線法により定量して測定した。
・カラム:Inertsil NH2,φ3mm×150mm[ジーエルサイエンス株式会社]
・カラム温度:室温
・移動相:アセトニトリル:水=8:2
・流量:0.7ml/min
・注入量:5μL
・検出:示差屈折計 RID-10A [株式会社 島津製作所]
(実施例1:ブラックコーヒー飲料の製造)
コーヒー分として、コロンビア産のコーヒー豆から製造された既存のコーヒーエキスを用いた。コーヒーエキスを、コーヒー固形分が1.55%となるように水で希釈し、これを500メッシュで濾過して不溶性固形分を除き、使用した(以下、コーヒー調合液という)。
【0023】
このコーヒー調合液に、表1に示す種々の糖類を配合し、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム)を用いてpHを6.7に調整し、この液を190mLずつ缶に充填してレトルト殺菌処理を行った。
【0024】
【表1】
【0025】
得られた容器詰めコーヒー飲料について、専門パネルによる官能評価を行った。評価は、トップの香ばしい香り(トップ香)の強さ、後味に感じる香ばしい香り(ラスト香)の強さ、後味のすっきり感(キレ)の良さについて、No.1を対象(3点)として、5点:対象よりもとても強い又はとても良い、4点:対象よりも強い又は良い、3点:対象と同程度、2点:対象よりも弱い又は悪い、1点:対象よりもとても弱い又はとても悪いで各人が評価した結果から平均点を算出した。また、総合的な好ましさについても同様に評価した。
【0026】
結果を表2に示す。単糖と二糖の濃度比(A/(A+B))が0.025〜1.0で香り立ちに優れ、焙煎コーヒー特有の優れた焙煎香気を有する飲料となることが示唆された。特に、単糖と二糖の濃度比(A/(A+B))が0.04〜1.0の飲料は、対象と比較して顕著にトップの香り立ちとラスト香に強いロースト感があり、かつ後味に苦味、渋味、えぐ味等の少ない、すっきりした味わいを有するコーヒー飲料で、華やいだ香りとやわらかい口当たりとのバランスの取れたコーヒー飲料であった。
【0027】
【表2】
【0028】
(実施例2:ミルク入りコーヒー飲料の製造)
実施例1のコーヒーエキスに牛乳113mL/Lを配合し、さらにコーヒー固形分が1.55%となるように水で希釈して、コーヒー調合液を得た。これに、表3に示す種々の糖類を配合して、実施例1と同様に缶入りのミルク入りコーヒー飲料を製造し、評価した。
【0029】
【表3】
【0030】
結果を表4に示す。単糖と二糖の濃度比(A/(A+B))が0.025〜1.0で香り立ちに優れ、焙煎コーヒー特有の優れた焙煎香気を有する飲料となることが示唆された。
【0031】
【表4】

【0032】
(実施例3:ミルク入りコーヒー飲料の製造)
実施例2のNo.8及びNo.14の牛乳を乳糖を含まない牛乳に変える以外は同様にして、缶入りのミルク入りコーヒー飲料を製造し、得られた容器詰めコーヒー飲料について評価した。結果を表5に示す。単糖と二糖の濃度比を特定範囲に調製したコーヒー飲料が、香り立ちに優れ、焙煎コーヒー特有の優れた焙煎香気を有する飲料となることが示唆された。
【0033】
【表5】