特許第6498980号(P6498980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6498980-廃油処理方法および廃油処理装置 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6498980
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】廃油処理方法および廃油処理装置
(51)【国際特許分類】
   C10G 19/02 20060101AFI20190401BHJP
   A62D 3/20 20070101ALI20190401BHJP
   B01D 17/025 20060101ALI20190401BHJP
   B01D 17/05 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C10G19/02
   A62D3/20
   B01D17/025 502A
   B01D17/025 502B
   B01D17/025 502D
   B01D17/05 501E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-61084(P2015-61084)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-180057(P2016-180057A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年9月28日
【審判番号】不服2018-8899(P2018-8899/J1)
【審判請求日】2018年6月27日
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】立見 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小倉 正裕
(72)【発明者】
【氏名】井出 昇明
(72)【発明者】
【氏名】後藤 幸宏
【合議体】
【審判長】 日比野 隆治
【審判官】 川端 修
【審判官】 天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−144259(JP,A)
【文献】 特開2013−130321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G19/02
C10M175/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸エステルを含有する廃油と、水酸化ナトリウム水溶液とを70℃以上で混合することにより混合液を得る混合工程を有し、
前記水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度が20〜40質量%(ただし、該濃度が40質量%である場合を除く。)であり、
前記混合工程では、リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を3以上にして前記混合を行い、
前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに油水分離する分離工程と、
前記第1液を水熱酸化分解処理する水熱酸化分解工程とを更に備える、廃油処理方法。
【請求項2】
前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及び、トリフェニルホスフェートの少なくとも何れかを含有する、請求項1に記載の廃油処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃油に含まれるリン酸エステルを除去する廃油処理方法および廃油処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リン酸エステル(例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)等)は、耐摩耗剤、極圧剤あるいは酸化防止剤等として潤滑油に添加されている。
使用済みの潤滑油(廃油)は、絶縁油として使用されたポリ塩化ビフェニル(PCB)等と混合されて保管されていることがある。PCB等は、毒性が高いため、例えば水熱処理により分解処理されている。
【0003】
しかし、PCB等を有する廃油をリン酸エステルの存在下で水熱処理をすると、アパタイト(Ca(PO(F、Cl、OH))が生成され、アパタイトによって水熱処理設備の配管が詰まるなどの問題がある。
【0004】
このようなことから、リン酸エステルを含有する廃油をアルカリ剤と混合することにより、リン酸エステルを分解し、油相からリン化合物を抽出することが行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−144259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では、廃油に含まれるリン酸エステルを十分に分解することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、廃油に含まれるリン酸エステルを十分に分解することができる廃油処理方法および廃油処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討したところ、リン酸エステルを含有する廃油と、水酸化ナトリウム水溶液とを所定温度で混合し、前記アルカリ水溶液が水酸化ナトリウムを所定量含有し、リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を所定範囲にして前記混合することにより、廃油に含まれるリン酸エステルを十分に分解できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、リン酸エステルを含有する廃油と、水酸化ナトリウム水溶液とを70℃以上で混合することにより混合液を得る混合工程を有し、
前記水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度が15質量%を超え、
前記混合工程では、リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を3以上にして前記混合を行う、廃油処理方法である。
【0010】
また、本発明に係る廃油処理方法の一の態様では、前記リン酸エステルが、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及び、トリフェニルホスフェートの少なくとも何れかを含有する。
【0011】
さらに、本発明に係る廃油処理方法の他の態様は、前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに分離する分離工程と、
前記第1液を水熱酸化分解処理する水熱酸化分解工程とを更に備える。
【0012】
斯かる廃油処理方法によれば、前記水熱酸化分解工程を行う前に前記混合工程でリン酸エステルを十分に分解し、油相からリン化合物を抽出することができるので、前記廃油にポリ塩化ビフェニルが含有されていても、前記水熱酸化分解工程で十分にポリ塩化ビフェニルを分解することができる。
【0013】
さらに、本発明は、リン酸エステルを含有する廃油と、水酸化ナトリウム水溶液とを70℃以上で混合することにより混合液を得る混合部を備えており、
前記水酸化ナトリウム水溶液における水酸化ナトリウムの濃度が15質量%を超え、
リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を3以上にして前記混合を行う、廃油処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃油に含まれるリン酸エステルを十分に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る廃油処理装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について、廃油として、リン酸エステルとともにポリ塩化ビフェニル(PCB)を含有する廃油を処理する場合を例にして説明する。
【0017】
まず、本実施形態の廃油処理装置について説明する。
図1に示すように、本実施形態の廃油処理装置1は、リン酸エステル及びPCBを含有する廃油Aと、水酸化ナトリウム水溶液Bとを70℃以上で混合することにより混合液を得る混合部2と、前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに分離する分離部3と、前記第1液から固形分を除去する固形分除去部4と、該固形分除去部4で固形分が除去された前記第1液のポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解するPCB分解部5と、前記第2液から水溶性リン化合物を除去するリン除去部6と、該リン除去部6で水溶性リン化合物が除去された前記第2液を中和する中和部7とを備えている。
【0018】
前記廃油Aは、通常、リン酸エステルを10〜20質量%含有している。また、前記廃油Aは、通常、PCBを40質量%程度含有している。
また、前記廃油Aは、リン酸エステルやPCB以外に、鉱物油や合成油を含有し、例えば、潤滑油や絶縁油等を含有する。潤滑油や絶縁油としては、パラフィン系ベースオイル、ナフテン系ベースオイル等が挙げられる。パラフィン系ベースオイルとしては、ニュートラル油、ブライトストック油等が挙げられる。
前記リン酸エステルは、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルを含む概念である。前記リン酸トリエステルとしては、例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)等が挙げられる。
【0019】
前記混合部2は、容器と容器内の内容液(油)を加熱する加熱器(例えばジャケット)とを備え、更に該内容液を撹拌するホモジナイザー、ラインミキサ、回転ミル、超音波振動発生機等を用いて廃油Aと水酸化ナトリウム水溶液Bとを撹拌し混合するように構成されている。
前記リン酸エステルがTCPである場合には、廃油Aと水酸化ナトリウム水溶液Bとを混合することにより、TCPは、下記式の反応で水酸化ナトリウムと反応し分解される。
【0020】
【化1】
【0021】
前記混合部2で用いる前記水酸化ナトリウム水溶液Bは、水酸化ナトリウムの濃度が15質量%を超え、好ましくは20質量%以上、より好ましくは20〜40質量%である。
前記混合部2での混合は、リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を3以上にして行い、好ましくはこの比を3〜15にして行う。なお、前記「リンの量」は、廃油中のリン濃度と、前記水酸化ナトリウムに混合される前記廃油の量とから求めることができる。前記廃油中のリン濃度は、廃油を酸分解した後、酸分解した廃油を定容しICP分析により求めることができる。
この比が3以上であることにより、エステル結合を1分子に複数有するリン酸ジエステルやリン酸トリエステルがリン酸エステルとして廃油Aに多く含まれていても水酸化ナトリウムによってリン酸エステルを十分に分解することができる。
前記混合部2での混合温度は、70℃以上、好ましくは、70〜100℃である。
前記廃油Aと、前記水酸化ナトリウム水溶液Bとの混合時間(撹拌時間)は、好ましくは30〜500分、より好ましくは100〜300分である。
【0022】
前記分離部3は、前記混合液を静置することにより、前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに分離する槽3aを有している。
【0023】
前記固形分除去部4は、前記第1液に含まれる固形分を前記第1液から除去するフィルターを備えている。
【0024】
前記PCB分解部5は、前記固形分除去部4で固形分が除去された前記第1液を水熱分解処理して、該前記第1液のポリ塩化ビフェニル(PCB)を分解するように構成されている。
【0025】
前記リン除去部6は、金属カルシウム(Ca)、金属マグネシウム(Mg)、金属ナトリウム(Na)、金属アルミニウム(Al)の少なくとも何れかを含有する固形吸着剤が充填された無機充填槽を有している。該リン除去部6は、前記混合部2で生成された水溶性リン化合物を前記無機充填槽で前記固形吸着剤と接触させ、水溶性リン化合物を金属塩(例えば、アパタイト(Ca(PO(F、Cl、OH))として無機充填槽に固定化するように構成されている。
前記リン除去部6は、金属カルシウム(Ca)、前記無機充填槽の代わりに、金属マグネシウム(Mg)、金属ナトリウム(Na)、金属アルミニウム(Al)の少なくとも何れかのイオンを含有する水溶液を収容し、収容液を撹拌する撹拌分離槽を有してもよい。該リン除去部6は、前記混合部2で生成された水溶性リン化合物を前記撹拌分離槽で前記水溶液と接触させることにより、水溶性リン化合物を金属塩(例えば、アパタイト(Ca(PO(F、Cl、OH))として撹拌分離槽で晶析して分離するように構成されている。
【0026】
前記中和部7は、前記リン除去部6で水溶性リン化合物が除去された前記第1液をpH7付近(例えば、pH5〜9)に中和させて廃水Cを得るように構成されている。
該廃水Cは、廃水処理装置1外に移送される。
【0027】
次に、本実施形態の廃油処理方法について説明する。
【0028】
本実施形態の廃油処理方法は、本実施形態の廃油処理装置を用いて、廃油Aに含まれるリン酸エステル及びPCBを分解する方法である。
【0029】
本実施形態の廃油処理方法は、リン酸エステルを含有する廃油Aと、水酸化ナトリウム水溶液Bとを前記混合部2で70℃以上で混合(撹拌)することにより混合液を得る混合工程と、前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに前記分離部3で分離する分離工程とを備えている。
また、本実施形態の廃油処理方法は、前記第1液から固形分を前記固形分除去部4で除去する固形分除去工程と、該固形分除去工程で固形分が除去された前記第1液のPCBを前記PCB分解部5で分解するPCB分解工程とを更に備えている。
さらに、本実施形態の廃油処理方法は、前記第2液から水溶性リン化合物を前記リン除去部6で除去するリン除去工程と、該リン除去部6で水溶性リン化合物が除去された前記第2液を前記中和部7で中和する中和工程とを更に備えている。
【0030】
本実施形態の廃油処理装置及び廃油処理方法は、上記のように構成されているので、以下の利点を有するものである。
【0031】
即ち、本実施形態の廃油処理方法は、リン酸エステルを含有する廃油Aと、水酸化ナトリウム水溶液Bとを70℃以上で混合することにより混合液を得る混合工程を有する。前記水酸化ナトリウム水溶液Bが、水酸化ナトリウムを15質量%以上含有する。前記混合工程では、リンの量に対する水酸化ナトリウムの量のモル比を3以上にして前記混合を行う。
斯かる廃油処理装置1によれば、廃油Aに含まれるリン酸エステルを十分に分解し、油相からリン化合物を抽出することができる。
【0032】
また、本実施形態の廃油処理方法は、前記混合液を、油相たる第1液と水相たる第2液とに分離する分離工程と、前記第1液を水熱酸化分解処理する水熱酸化分解工程とを更に備える。
【0033】
斯かる廃油処理方法によれば、前記水熱酸化分解工程を行う前に前記混合工程でリン酸エステルを十分に分解し、油相からリン化合物を抽出することができるので、前記廃油Aにポリ塩化ビフェニルが含有されていても、前記水熱酸化分解工程で十分にポリ塩化ビフェニルを分解することができる。
【0034】
尚、本発明の廃油処理方法および廃油処理装置は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明の廃油処理方法および廃油処理装置は、上記した作用効果に限定されるものでもない。さらに、本発明の廃油処理方法および廃油処理装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記分離工程では、油水分離した際に、分離部3の槽3aの上部から上層を排出し、その後、槽3aの下部から下層を排出するようにしても良い。また、分離部3の槽3aの下部に2つの排出口を設けて、一方の排出口を通じて下層を排出した後、他方の排出口を通じて上層を排出するようにしてもよい。このように排出口を下層用排出口と上層用排出口に分けることで油相側に水が混入すること(又は水相側に油が混入すること)を抑制することができる。
なお、油水分離において、油相と水相との何れが上層になるかは、例えば、油相におけるPCBの含有量や水相の水酸化ナトリウムの含有量によって変わる。例えば、油相におけるPCBの含有量が大きいと、油の比重が大きくなり油相が下層となり、油相におけるPCBの含有量が小さいと、油の比重が小さくなり油相が下層となる傾向にある。
また、槽3aで分離した水相や油相をそれぞれ油水分離槽で更に油水分離するようにしても良い。
水相にPCBが少量混入することがあるが、水相にPCBが混入した場合には、PCBを抽出することができる抽出溶剤を水相に添加し、PCBを水相から抽出溶剤で抽出してもよい。該抽出溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の試験例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
リン酸エステルとしてのトリクレジルホスフェート(TCP)と表1、2の溶媒油とを表1、2のリン濃度となるようにして仮想廃油を調製した。
なお、溶媒油としては、JX日鉱日石エネルギー社製の炭化水素系洗浄剤(商品名:NS200)と、出光興産社製の電気絶縁油(商品名:出光トランスフォーマーオイルH)(以下、「出光H」ともいう。)とを用いた。
また、表1、2の水酸化ナトリウム濃度となる水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
次に、表1、2に示す仮想廃油の処理条件で、仮想廃油と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合した。
そして、混合後(処理後)の仮想廃油中のリン濃度を測定し、リンの除去率を算出した。結果を表1、2に示す。
なお、混合後(処理後)の仮想廃油中のリン濃度は、仮想廃油を酸分解した後、酸分解した仮想廃油を定容しICP分析により求めた。或いは、混合後(処理後)の仮想廃油中のリン濃度は、水相中のリン濃度より算出した。なお、水相中のリン濃度は、流れ分析法(JIS K0170−4:2011「流れ分析法による水質試験方法−第4部:りん酸イオン及び全りん」)によって測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表1、2に示すように、本発明の範囲内の廃油処理方法によれば、廃油からリン化合物を十分に除去できることがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1:廃油処理装置、2:混合部、3:分離部、3a:槽、4:固形分除去部、5:PCB分解部、6:リン除去部、7:中和部、A:廃油、B:水酸化ナトリウム水溶液、C:廃水
図1