(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両用シートの上部に収納され、ガスの供給を受けて膨張展開されると共に、乗員の頭部の前方を含む領域及び左右両側方を含む領域に展開して前記頭部を覆う一体の袋体として構成されたエアバッグ本体と、
前記エアバッグ本体の固定部及び前記エアバッグ本体の少なくとも一方に設けられ、前記エアバッグ本体に作用する張力が所定値以上となった場合に、前記エアバッグ本体をシート前方側へ伸長させるエアバッグ伸長機構と、
を有する乗員保護装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、ガス供給パイプがシートバック上に突出して設けられているので、見栄えが悪く、車両用シートの操作の際にガス供給パイプが邪魔になる。一方、特許文献2の構成では、膨張展開後に互いに接合される一対の頭部用のエアバッグ同士の接合強度、一対の頭部用のエアバッグに対する頭部用の副エアバッグの接合強度の確保が難しい。
【0005】
この対策として、一体の袋体として構成されたエアバッグを車両用シートの上部に収納し、乗員の頭部に対して前方及び左右両側から覆うように膨張展開させる構成を採用することが考えられる。しかしながら、前面衝突などの衝突時には、乗員がシート前方側へ慣性移動することで、エアバッグがシート前方側へ引き伸ばされることがある。そして、エアバッグが伸びきった状態となった場合、乗員の頭部に作用する拘束力(反力)が急上昇する虞がある。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、一体の袋体として構成されたエアバッグが折り畳まれた状態で車両用シートの上部に収納された構成において、車両の前面衝突時における乗員の頭部の拘束力が急上昇するのを抑制することができる乗員保護装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る乗員保護装置は、車両用シートの上部に収納され、ガスの供給を受けて膨張展開されると共に、乗員の頭部の前方を含む領域及び左右両側方を含む領域に展開して前記頭部を覆う一体の袋体として構成されたエアバッグ本体と、前記エアバッグ本体の固定部及び前記エアバッグ本体の少なくとも一方に設けられ、前記エアバッグ本体に作用する張力が所定値以上となった場合に、前記エアバッグ本体をシート前方側へ伸長させるエアバッグ伸長機構と、を有する。
【0008】
請求項1に記載の本発明に係る乗員保護装置では、車両用シートの上部にエアバッグ本体が収納されている。また、エアバッグ本体は、乗員の頭部の前方を含む領域及び左右両側方を含む領域に展開して乗員の頭部を覆う一体の袋体として構成されており、ガスの供給を受けて膨張展開される。これにより、各種の衝突形態に対してエアバッグ本体にて乗員の頭部を拘束して保護する。
【0009】
また、エアバッグ本体の固定部及びエアバッグ本体の少なくとも一方には、エアバッグ伸長機構が設けられている。そして、このエアバッグ伸長機構は、エアバッグ本体に作用する張力が所定値以上となった場合に、エアバッグ本体をシート前方側へ伸長させる。これにより、前面衝突などの衝突時に、乗員の頭部によってシート前方側へ引き伸ばされたエアバッグ本体に作用する張力が所定値以上となった場合であっても、エアバッグ伸長機構によってエアバッグ本体をシート前方側へ伸長させることができる。この結果、エアバッグ本体が伸びきった状態となるのを抑制することができる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る乗員保護装置は、請求項1の構成において、前記エアバッグ伸長機構は、前記エアバッグ本体の非膨張部に設けられた展開予定部であり、前記エアバッグ本体に所定値以上の張力が作用した場合に、前記展開予定部が展開される。
【0011】
請求項2に記載の本発明に係る乗員保護装置では、車両の前面衝突時に乗員の頭部によってエアバッグ本体がシート前方側へ引き伸ばされ、このエアバッグ本体に所定値以上の張力が作用すると、展開予定部が展開される。これにより、エアバッグ本体をシート前方側へ伸長させることができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明に係る乗員保護装置は、請求項2の構成において、前記展開予定部は、複数の縫製部を含んで構成されており、前記エアバッグ本体に作用する張力に応じて段階的に前記縫製部が破断される。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る乗員保護装置では、乗員の頭部のシート前方側への慣性移動量に応じてエアバッグ本体の伸長量を変えることができる。すなわち、乗員の体型が比較的小さい場合は、エアバッグ本体に作用する張力が小さく、一部の縫製部のみが破断されるため、エアバッグ本体のシート前方側への伸長量は少ない。一方、乗員の体型が比較的大きい場合は、エアバッグ本体に作用する張力が大きく、多くの縫製部が破断されるため、エアバッグ本体のシート前方側への伸長量が多くなる。
【0014】
請求項4に記載の本発明に係る乗員保護装置は、請求項1の構成において、前記エアバッグ伸長機構は、ヘッドレストに取り付けられて前記エアバッグ本体が固定された金属部材を含んで構成されており、前記金属部材は、前記エアバッグ本体の固定部を前記ヘッドレスト内へ引き込む方向の折曲部を備え、前記エアバッグ本体に所定値以上の張力が作用した場合に前記折曲部が開かれるように前記金属部材が塑性変形されることで前記固定部をシート前方側へ移動させる。
【0015】
請求項4に記載の本発明に係る乗員保護装置では、車両の前面衝突時に乗員の頭部によってエアバッグ本体がシート前方側へ引き伸ばされ、このエアバッグ本体に所定値以上の張力が作用した場合、金属部材が引っ張られる。これにより、折曲部が開かれるように金属部材が塑性変形され、エアバッグ本体の固定部をシート前方側へ移動させることができる。このようにして、エアバッグ本体をシート前方側へ伸長させることができる。また、金属部材を塑性変形させることで、エアバッグ本体から乗員の頭部への衝撃を吸収(EA)することができる。なお、ここでいう「エアバッグ本体の固定部をヘッドレスト内へ引き込む方向の折曲部」とは、張力が作用することでエアバッグ本体の固定部がヘッドレスト外側へ移動できるように折り曲げられた部位を指すものである。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、請求項1に記載の本発明に係る乗員保護装置によれば、一体の袋体として構成されたエアバッグが折り畳まれた状態で車両用シートの上部に収納された構成において、車両の前面衝突時における乗員の頭部の拘束力が急上昇するのを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0017】
請求項2に記載の本発明に係る乗員保護装置によれば、簡易な構造で車両の前面衝突時における乗員の頭部の拘束力が急上昇するのを抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係る乗員保護装置によれば、乗員の体型などに応じてエアバッグ本体のシート前方側への伸長量を変えることができるという優れた効果を奏する。
【0019】
請求項4に記載の本発明に係る乗員保護装置によれば、前面衝突時における乗員の頭部の拘束力が急上昇するのを抑制しつつ、乗員の頭部への衝撃を吸収することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10について、
図1〜
図5に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UPは、車両用シート12の前方向(着座者の向く方向)、上方向をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、シート前後方向の前方を向いた場合の左右を示すものとする。なお、この実施形態では、車両用シート12は、シート前後方向が車両の前後方向に一致され、シート上下方向が車両の上下方向に一致され、シート幅方向が車両幅方向に一致されている。そして、各図に適宜記す矢印INは、車両用シート12が搭載された車両としての自動車における車両幅方向の車両中央側を示している。
【0022】
(乗員保護装置の概略全体構成)
図1に示されるように、乗員保護装置10は、車両用シート12に搭載されている。車両用シート12は、図示しない自動車の車体における車両幅方向中央に対し左右何れか(本実施形態では左側)にオフセットして配置されている。車両用シート12は、シートクッション14と、シートクッション14の後端に下端が連結されたシートバック16と、シートバック16の上端に設けられたヘッドレスト18とを含んで構成されている。
【0023】
なお、各図では、保護すべき乗員のモデルとして衝突試験用のダミー(人形)Dが車両用シート12のシートクッション14に着座した状態を図示している。ダミーDは、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーDは、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢(正規の状態)で着座しており、車両用シート12は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。なお、ダミーDの頭部Hは、顔面を含めた首より上方の部位のことであり、顔面を車両前方(シート前方)へ向けている。以下、説明を分かり易くするために、ダミーDを「乗員D」と称する。
【0024】
図1及び
図2に示されるように、乗員保護装置10は、乗員Dを各種形態の衝突から保護するための多方位エアバッグ装置20と、サイドエアバッグ装置22と、シートベルト装置24とを含んで構成されている。以下、シートベルト装置24、サイドエアバッグ装置22について概略構成を説明し、その後、多方位エアバッグ装置20の詳細構成を説明することとする。
【0025】
シートベルト装置24は、3点式のシートベルト装置とされており、一端がリトラクタ26に引き出し可能に巻き取られたベルト(ウエビング)28の他端がアンカ24Aに固定されている。また、ベルト28にはタングプレート24Tがスライド可能に設けられており、このタングプレート24Tをバックル24Bに係止させることで、ベルト28が乗員Dに装着されるようになっている。そして、ベルト28は、乗員Dへの装着状態で、乗員Dの上体に装着されたショルダベルト28Sと、タングプレート24Tからアンカ24Aまで延在されて乗員Dの腰部に装着されるラップベルト28Lとを含んでいる。
【0026】
本実施形態では、シートベルト装置24は、リトラクタ26、アンカ24A、及びバックル24Bが車両用シート12に設けられた所謂シート付のシートベルト装置とされている。また、本実施形態では、リトラクタ26は、作動されることで強制的にベルト28を巻き取るプリテンショナ機能を有する。リトラクタ26のプリテンショナ機能は、後述するECU(Electronic Control Unit)60によって作動が制御されるようになっている(
図4(A)参照)。
【0027】
サイドエアバッグ装置22は、インフレータ22Aと、サイドエアバッグ22Bとを含んで構成されており、サイドエアバッグ22Bの折り畳み状態でシートバック16における車両幅方向外側の側部に収納されている。インフレータ22Aは、作動されるとサイドエアバッグ22B内でガスを発生するようになっている。このガスによってサイドエアバッグ22Bは、シートバック16の側部から前方に突出され乗員Dに対する車両幅方向外側で膨張展開する構成とされている。この実施形態では、サイドエアバッグ22Bは、乗員Dの腰部P、腹部A、胸部B、肩部Sに対する車両幅方向外側で膨張展開する構成とされている。また、インフレータ22Aは、後述するECU60によって作動が制御されるようになっている(
図4(A)参照)。
【0028】
(多方位エアバッグ装置の構成)
図1〜3に示されるように、多方位エアバッグ装置20は、エアバッグ本体としての多方位エアバッグ30と、インフレータ32と、エアバッグ伸長機構としての展開予定部51とを含んで構成されている。また、モジュール化された多方位エアバッグ装置20は、車両用シート12の上部に設けられている。具体的には、多方位エアバッグ装置20は、シートバック16上においてヘッドレスト18のシート後方側に設けられている。
【0029】
多方位エアバッグ30は、乗員Dの頭部H(以下、単に「頭部H」という場合がある)を前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される一体の袋体として構成されている。より具体的には、多方位エアバッグ30は、頭部Hに対する左右両側でかつ上方を含む領域に間隔をあけて膨張展開する左右一対のフレームダクト35と、頭部Hの前方を含む領域に展開する前展開部36と、頭部Hの左右両側方を含む領域に展開する一対の横展開部38と、頭部Hの上方を含む領域に展開する上展開部48とを含んで構成されている。
【0030】
フレームダクト35は、頭部Hに対するシート幅方向の両側にそれぞれ設けられて一対を成しており、それぞれ側面視で下向きに開口する略U字状に膨張展開される構成である。具体的には、フレームダクト35は、膨張展開状態における側面視で、ヘッドレスト18に沿って上下に延びる後ダクト35Rと、後ダクト35Rの上端から前方に延びる上ダクト35Uと、上ダクト35Uの前端から垂下される前ダクト35Fとを含んでいる。
【0031】
ここで、
図3に示されるように、一対の後ダクト35Rは、ヘッドレスト18内をシート幅方向に延在された非膨張部54によって連結されている。そして、本実施形態では、この非膨張部54に展開予定部51が設けられている。展開予定部51の詳細については後述する。
【0032】
前展開部36は、頭部Hの前方で展開される部分を含む前膨張部40と、前膨張部40を複数の膨張部に区画する非膨張部42とを含んで構成されている。本実施形態では、前膨張部40は、それぞれ上下方向を長手方向としてシート幅方向に隣接して膨張展開される一対の上下膨張部40Aと、一対の上下膨張部40Aの下方に位置する上体拘束部としての下膨張部40Lとを含んで構成されている。一対の上下膨張部40Aは、頭部Hの前方(正面)で膨張展開される構成とされ、下膨張部40Lは、乗員Dの肩部S及び胸部Bの少なくとも一方に対するシート前方側で膨張展開される構成とされている。
【0033】
非膨張部42は、一対の上下膨張部40Aをシート幅方向に区画する非膨張部42Aと、各上下膨張部40Aとフレームダクト35の前ダクト35Fとの間に介在される非膨張部42Bとを含んで構成されている。本実施形態では、非膨張部42Aは上下に延びる線状のシームにて構成され、非膨張部42Bは上下に延びる環(無端)状のシームにて囲まれた部分として構成されている。
【0034】
横展開部38は、ガスの供給を受けて頭部Hの側方で膨張展開される横膨張部44と、非膨張部46とを含んで構成されている。本実施形態では、膨張展開状態の横展開部38は、フレームダクト35によって後方、上方、前方の三方から囲まれており、側面視で略矩形状を成している。また、横展開部38は、側面視で頭部Hのほぼ全体にラップする大きさ(面積)を有している。この横展開部38の横膨張部44は、下向きに開口する逆U字状を成す非膨張部46によって、フレームダクト35と仕切られている。本実施形態では、横展開部38の横膨張部44は、その前端側がフレームダクト35の前ダクト35Fを介して間接的に前膨張部40に接続されている。
【0035】
左右の横展開部38は、多方位エアバッグ30の膨張展開状態で、それぞれの横膨張部44の下端44Bが乗員Dの肩部S上に接触するようになっている。この横膨張部44の下端44Bの肩部Sに対する接触によって、膨張展開状態の多方位エアバッグ30の乗員D(の頭部H)に対する上下方向の位置が決まる構成である。この位置決め状態で多方位エアバッグ30は、通常の着座姿勢をとる乗員Dに対して、前展開部36、左右の横展開部38、及び後述する上展開部48の何れも頭部Hと接触しない(隙間が形成される)構成とされている。
【0036】
上展開部48は、シート幅方向を長手方向として頭部Hの上方で膨張展開される展開部である。また、上展開部48には、図示しない非膨張部であるシームが設けられており、このシームによって上展開部48のシート上下方向の厚みが制限されている。
【0037】
以上のように構成された多方位エアバッグ30は、一例として、OPW(One Piece Wovenの略)により一体の袋体として形成されている。そして、多方位エアバッグ30は、折り畳まれた状態で、車両用シート12の上部に設けられたエアバッグケース50に収納されている。なお、例えば2枚の織物の周縁を縫い合わせる方法(Cut & Sew)にて多方位エアバッグ30を一体の袋体として形成してもよい。
【0038】
エアバッグケース50は、ヘッドレスト18を構成するヘッドレスト本体19のシート後方側に設けられている。ヘッドレスト本体19は、乗員Dの頭部を後方から支持できるように乗員Dの頭部Hの後方に配置されており、内部にクッション材を備えている。また、ヘッドレスト本体19は、ステー21を介してシートバック16に連結されている。
【0039】
図1に示されるように、インフレータ32は、多方位エアバッグ30と共にエアバッグケース50内に設けられている。また、インフレータ32は、燃焼式又はコールドガス式のものが採用され、作動されることで発生したガスを多方位エアバッグ30内に供給するようになっている。本実施形態のインフレータ32は、シリンダ型のインフレータとされ、シート幅方向を長手方向として配置されている。さらに、
図4(A)に示されるように、インフレータ32は、制御装置であるECU60によって作動が制御される。
【0040】
ECU60は、シートベルト装置24のリトラクタ26、サイドエアバッグ装置22のインフレータ22A、及び多方位エアバッグ装置20のインフレータ32と電気的に接続されている。また、ECU60は、プリクラッシュセンサなどの衝突予知センサ62及び衝突センサ64と電気的に接続されている。
【0041】
ECU60は、衝突予知センサ62からの信号に基づいて、自動車に対する各種形態の衝突が不可避であることを予測可能とされている。衝突予知センサ62は、例えば、ウインドシールドガラスの上部における車幅方向中央付近に設けられた図示しないステレオカメラを含んで構成される。そして、このステレオカメラによって車両の前方側を撮影し、車両への衝突体を検出するようになっている。また、ステレオカメラによって検出された衝突体までの距離や車両と衝突体との相対速度などを測定し、測定データをECU60へ出力するようになっている。そして、ECU60は、ステレオカメラからの測定データに基づいて車両の衝突が不可避であるかどうかについて判断する。なお、衝突予知センサ62をミリ波レーダなどによって構成してもよい。
【0042】
また、ECU60は、衝突センサ64からの信号に基づいて車両の衝突を検知すると、リトラクタ26のプリテンショナ機構を作動させると共にインフレータ32を作動させる。これにより、インフレータ32で発生したガスが多方位エアバッグ30へ供給される。なお、衝突センサ64は、一例として、フロントサイドメンバに配置された加速度センサから成るフロントサテライトセンサと、センタコンソール下方のフロアに配設された加速度センサから成るフロアセンサとを含んで構成されている。
【0043】
(展開予定部51の構成)
次に、本実施形態に係る展開予定部51について説明する。
図5(A)に示されるように、展開予定部51は、余長部52と、複数の縫製部56とを含んで構成されている。なお、
図5(A)及び
図5(B)では、説明の便宜上、ヘッドレスト18などの図示を省略している。後述する
図6についても同様である。
【0044】
余長部52は、非膨張部54のシート幅方向中央部分をシート後方側へ折り込んで形成されている。また、余長部52は、ティアシームによって複数箇所で縫製されており、本実施形態では一例として、5箇所で縫製されている。また、ティアシームによって縫製された5箇所の縫製部56は、余長部52に沿って等間隔に設けられている。
【0045】
ここで、縫製部56は、多方位エアバッグ30に作用する張力が所定値以上となった場合に破断される強度で縫製されている。また、本実施形態では、多方位エアバッグ30に作用する張力が所定値以上となった場合に、余長部52の根元側(シート前方側)の縫製部56から順に破断されるように構成されている。すなわち、多方位エアバッグ30に作用する張力に応じて段階的に縫製部56が破断される。そして、
図5(B)に示されるように、縫製部56が破断されることで展開予定部51の余長部52が展開され、余長部52が展開された長さ分だけ多方位エアバッグ30がシート前方側へ伸長される。
【0046】
(作用及び効果)
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0047】
本実施形態の乗員保護装置10では、車両の前面衝突などの衝突時には、多方位エアバッグ30が膨張展開されて乗員Dの頭部Hを保護する。ここで、乗員Dの頭部Hがシート前方側へ慣性移動することにより、多方位エアバッグ30がシート前方側へ引き伸ばされる。
【0048】
多方位エアバッグ30に作用する張力が所定値以上となった場合、縫製部56の一部又は全てが破断され、余長部52の少なくとも一部が展開される。これにより、展開された余長部52の長さ分だけ多方位エアバッグ30の横展開部38をシート前方側へ伸長させることができ、多方位エアバッグ30が伸びきった状態となるのを抑制することができる。この結果、一体の袋体として構成された多方位エアバッグ30が折り畳まれた状態で車両用シート12の上部に収納された構成において、簡単な構造で車両の前面衝突時における乗員Dの頭部Hの拘束力が急上昇するのを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態では、乗員Dの頭部Hのシート前方側への慣性移動量に応じて多方位エアバッグ30の伸長量を可変させることができる。すなわち、乗員Dの体型が比較的小さい場合(AM50よりも小さい場合)は、多方位エアバッグ30に作用する張力が小さく、一部の縫製部56のみが破断されるため、多方位エアバッグ30のシート前方側への伸長量は少ない。一方、乗員Dの体型が比較的大きい場合(AM50よりも大きい場合)は、多方位エアバッグ30に作用する張力が大きく、多くの縫製部56が破断されるため、多方位エアバッグ30のシート前方側への伸長量が多くなる。このようにして、乗員Dの体型などに応じて多方位エアバッグ30のシート前方側への伸長量を変えることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、多方位エアバッグ30は、乗員Dの頭部Hの前方を含む領域及び左右両側方を含む領域に展開して乗員Dの頭部Hを覆う一体の袋体として構成されている。これにより、車両の衝突時に多方位エアバッグ30によって乗員Dの頭部Hが覆われることで、各種の衝突形態に対して乗員Dの頭部Hを拘束して保護することができる。
【0051】
さらにまた、本実施形態では、多方位エアバッグ30がヘッドレスト本体19のシート後方側に設けられたエアバッグケース50に収納されている。このため、例えば、乗員Dの頭部Hを上方から囲むように配置されたガス供給パイプが常時車室内に突出している構成と比較して、同等以上の乗員保護性を確保しつつ作動前における見栄えを向上させることができる。また、多方位エアバッグ装置20によって車両用シート12の前後位置調整、高さ調整、リクライニング動作等が妨げられることがない。
【0052】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る乗員保護装置70について、
図6に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0053】
図6(A)に示されるように、本実施形態の乗員保護装置70を構成する多方位エアバッグ72は、第1実施形態の展開予定部51に替えて、エアバッグ伸長機構としての展開予定部73及び展開予定部76を備えている。
【0054】
展開予定部73は、横膨張部44(横展開部38)と前ダクト35F(フレームダクト35)とを仕切る非膨張部46に設けられており、余長部74と、複数の縫製部75とを含んで構成されている。余長部74は、非膨張部46のシート幅方向中央部分をシート幅方向内側へ折り込んで形成されている。また、余長部74は、ティアシームによって複数箇所で縫製されており、本実施形態では一例として、3箇所で縫製されている。また、ティアシームによって縫製された3箇所の縫製部75は、余長部74に沿って等間隔に設けられている。
【0055】
一方、展開予定部76は、横膨張部44(横展開部38)と後ダクト35R(フレームダクト35)とを仕切る非膨張部46に設けられており、余長部77と、複数の縫製部78とを含んで構成されている。余長部77は、非膨張部46のシート幅方向中央部分をシート幅方向内側へ折り込んで形成されている。また、余長部77は、ティアシームによって複数箇所で縫製されており、本実施形態では一例として、3箇所で縫製されている。また、ティアシームによって縫製された3箇所の縫製部78は、余長部77に沿って等間隔に縫製されている。
【0056】
ここで、縫製部75及び縫製部78は、多方位エアバッグ72に作用する張力が所定値以上となった場合に破断される強度で縫製されている。また、本実施形態では、多方位エアバッグ72に作用する張力が所定値以上となった場合に、余長部74の根元側(シート幅方向外側)の縫製部75及び余長部77の根元側(シート幅方向外側)の縫製部78から順に破断されるように構成されている。すなわち、多方位エアバッグ30に作用する張力に応じて段階的に縫製部75及び縫製部78が破断される。そして、
図6(B)に示されるように、縫製部75及び縫製部78が破断されることで、展開予定部73の余長部74及び展開予定部76の余長部77が展開され、多方位エアバッグ72がシート前方側へ伸長される。なお、
図6(B)には、縫製部75及び縫製部78によって縫製された全ての縫製部が破断された状態が図示されている。
【0057】
(作用及び効果)
次に、第2実施形態の作用及び効果について説明する。
【0058】
本実施形態の乗員保護装置70では、車両の前面衝突などの衝突時には、多方位エアバッグ72が膨張展開されて乗員Dの頭部Hを保護する。ここで、乗員Dの頭部Hがシート前方側へ慣性移動することにより、多方位エアバッグ72がシート前方側へ引き伸ばされる。
【0059】
多方位エアバッグ72に作用する張力が所定値以上となった場合、縫製部75及び縫製部78の一部又は全てが破断され、余長部74及び余長部77の少なくとも一部が展開される。これにより、展開された余長部74及び余長部77の長さ分だけ多方位エアバッグ72をシート前方側へ伸長させることができ、多方位エアバッグ72が伸びきった状態となるのを抑制することができる。この結果、車両の前面衝突時における乗員Dの頭部Hの拘束力が急上昇するのを抑制することができる。その他の作用については第1実施形態と同様である。
【0060】
なお、本実施形態では、縫製部75における各縫製部の強度と、縫製部78における各縫製部の強度を同等の強度としたが、これに限定されない。例えば、縫製部78の縫製強度を縫製部75の縫製強度よりも高くしてもよい。この場合、乗員Dの頭部Hのシート前方側への慣性移動量が少ないときには、縫製部75のみが破断される。また、乗員Dの頭部Hのシート前方側への慣性移動量が多いときには、縫製部75及び縫製部78の両方が破断される構成となる。
【0061】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る乗員保護装置80について、
図7に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0062】
図7(A)に示されるように、本実施形態の乗員保護装置80を構成する多方位エアバッグ81の後端部81Aは、ヘッドレスト本体19のシート後方へ延在されており、エアバッグ伸長機構を構成する金属板(金属部材)83に固定されている。なお、多方位エアバッグ81におけるヘッドレスト18よりも外側の構成は図示していないが、第1実施形態の多方位エアバッグ30と同様に、乗員Dの頭部Hを前方及び左右両側方から覆うように膨張展開される一体の袋体として構成されている。
【0063】
多方位エアバッグ81が固定された金属板83は、締結具84によってブラケット82に取り付けられており、ブラケット82は、ステー21に溶接されている。すなわち、金属板83は、ブラケット82を介してステー21に固定されている。
【0064】
金属板83は、シート幅方向中央部分が締結具84によってブラケット82に固定されている。また、金属板83の先端部はそれぞれ、多方位エアバッグ81を固定するための固定部85とされており、この固定部85で多方位エアバッグ81の後端部81Aが固定されている。
【0065】
ここで、金属板83には、多方位エアバッグ81の固定部85をヘッドレスト18内に引き込む方向へ折り曲げられた第1折曲部83A及び第2折曲部83Bが形成されている。具体的には、金属板83は、第1折曲部83Aでシート後方側かつシート幅方向内側へ折り曲げられている(折り返されている)。また、金属板83は、第1折曲部83Aよりも先端側の第2折曲部83Bでシート幅方向外側へ折り曲げられている。そして、第2折曲部83Bよりも先端側に多方位エアバッグ81の固定部85が設定されている。
【0066】
また、第1折曲部83A及び第2折曲部83Bは、多方位エアバッグ81に所定値以上の張力が作用した場合に、開かれる方向へ塑性変形されるように構成されている。このため、多方位エアバッグ81に所定値以上の張力が作用すると、金属板83が
図7(B)に示されるように塑性変形され、多方位エアバッグ81の固定部85をシート前方側へ移動させる。
【0067】
(作用及び効果)
次に、第3実施形態の作用及び効果について説明する。
【0068】
本実施形態の乗員保護装置80では、車両の前面衝突などの衝突時には、多方位エアバッグ81が膨張展開されて乗員Dの頭部Hを保護する。ここで、乗員Dの頭部Hがシート前方側へ慣性移動することにより、多方位エアバッグ81がシート前方側へ引き伸ばされる。
【0069】
多方位エアバッグ81に作用する張力が所定値以上となった場合、金属板83の第1折曲部83A及び第2折曲部83Bが開かれる方向へ塑性変形される。これにより、多方位エアバッグ81の固定部85がシート前方側へ移動され、多方位エアバッグ81をシート前方側へ伸長させることができる。この結果、多方位エアバッグ81が伸びきった状態となるのを抑制することができ、車両の前面衝突時における乗員Dの頭部Hの拘束力が急上昇するのを抑制することができる。また、金属板83を塑性変形させることで、多方位エアバッグ81から乗員Dの頭部Hへの衝撃を吸収(EA)することができる。その他の作用については第1実施形態と同様である。
【0070】
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態に係る乗員保護装置90について、
図8に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0071】
図8(A)に示されるように、本実施形態の乗員保護装置90を構成する多方位エアバッグ91の後ダクト35Rからシート後方側かつシート幅方向内側へ非膨張部92が延在されている。非膨張部92は、ヘッドレスト本体19とエアバッグケース50との間に入り込んでおり、エアバッグ伸長機構を構成する金属部材としての金属板93に固定部95で固定されている。
【0072】
金属板93は、シート幅方向に延在されており、シート幅方向内側の端部が平板状のブラケット94に溶接されている。また、ブラケット94は、ステー21の後部に溶接されているため、金属板93は、ブラケット94を介してステー21に固定されている。
【0073】
金属板93のシート幅方向外側の端部には、固定部95が設定されており、この固定部95に多方位エアバッグ91の非膨張部92が固定されている。ここで、金属板93のシート幅方向中央部分は、シート後方側へ湾曲されて折曲部としての湾曲部93Aを構成している。そして、この湾曲部93Aによって、多方位エアバッグ91の固定部95がヘッドレスト18内に引き込まれるように構成されている。
【0074】
また、金属板93の近傍には、外側ガイドピン96、内側ガイドピン97及び係止ピン98が設けられている。これらの外側ガイドピン96、内側ガイドピン97及び係止ピン98はそれぞれ、シート上下方向に延在されており、両端部がヘッドレスト18に固定されている。
【0075】
金属板93のシート幅方向外側の端部は、ブラケット94と外側ガイドピン96との間に通されている。また、金属板93のシート幅方向内側の端部は、ブラケット94と内側ガイドピン97との間に通されている。さらに、外側ガイドピン96と内側ガイドピン97との間には、係止ピン98が設けられており、この係止ピン98のシート後方側に間隔を開けて金属板93の湾曲部93Aが位置している。
【0076】
ここで、多方位エアバッグ91に所定値以上の張力が作用した場合に、金属板93に張力が作用し、金属板93がシート幅方向外側へ引っ張られる。このため、金属板93は、湾曲部93Aが開くように塑性変形されて、湾曲部93Aと係止ピン98との隙間が小さくなる。さらに金属板93が引っ張られることにより、
図8(B)に示されるように、湾曲部93Aが係止ピン98に当接し、係止ピン98によって金属板93の塑性変形が停止される。このように金属板93が塑性変形されることにより、金属板93における多方位エアバッグ91の固定部95がシート幅方向外側へ移動され、多方位エアバッグ91をシート前方側へ伸長させる。
【0077】
(作用及び効果)
次に、第4実施形態の作用及び効果について説明する。
【0078】
本実施形態の乗員保護装置90では、車両の前面衝突などの衝突時には、多方位エアバッグ91が膨張展開されて乗員Dの頭部Hを保護する。ここで、乗員Dの頭部Hがシート前方側へ慣性移動することにより、多方位エアバッグ91がシート前方側へ引き伸ばされる。
【0079】
多方位エアバッグ91に作用する張力が所定値以上となった場合、金属板93の湾曲部93Aが開かれる方向へ塑性変形される。これにより、金属板93における多方位エアバッグ91の固定部95がシート幅方向外側へ移動し、多方位エアバッグ91をシート前方側へ伸長させることができる。この結果、多方位エアバッグ91が伸びきった状態となるのを抑制することができ、車両の前面衝突時における乗員Dの頭部Hの拘束力が急上昇するのを抑制することができる。また、金属板93を塑性変形させることで、多方位エアバッグ91から乗員Dの頭部Hへの衝撃を吸収(EA)することができる。その他の作用については第1実施形態と同様である。
【0080】
以上、本発明の第1実施形態〜第4実施形態に係る乗員保護装置について説明したが、これらの実施形態を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせてもよい。この場合、
図5(A)に示される展開予定部51と
図6(A)に示される展開予定部73及び展開予定部76とを備えた構成となり、よりシート前方へ多方位エアバッグを伸長させることができる。
【0081】
また、第1実施形態や第2実施形態のように非膨張部に展開予定部が設けられた構成に対して、第3実施形態や第4実施形態のように塑性変形可能な金属部材を備えた構成を組み合わせてもよい。この場合、よりシート前方へ多方位エアバッグを伸長させつつ、衝撃吸収性能を向上させることができる。
【0082】
さらに、第1実施形態及び第2実実施形態では、ティアシームによって縫製された複数箇所の縫製部を、余長部に沿って等間隔に縫製したが、これに限定されない。例えば、意図的に縫製部のピッチを変化させてもよく、それぞれの縫製部における縫製強度を変化させてもよい。また、上記実施形態では、余長部を複数の縫製部で縫製することによって展開予定部を構成したが、これに限定されない。例えば、余長部を接着材などを用いて接合することで展開予定部を構成してもよい。この場合、エアバッグ本体に作用する張力が所定値以上となった場合に、接合部が剥離するように接合強度を調整すれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
さらにまた、第3実施形態では、
図7(A)に示されるように、金属板83に第1折曲部83A及び第2折曲部83Bを設けたが、これに限定されず、他の折曲部を設けた構成としてもよい。例えば、第1折曲部83Aのみを備えた構成としてもよい。また、多方位エアバッグ81の固定部85をヘッドレスト18内に引き込む方向に折り曲げていれば、他の折り曲げ方を採用してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、ステー21を介してシートバック16に連結されたヘッドレスト18に多方位エアバッグ装置20を設けたが、これに限定されない。例えば、ヘッドレスト18とシートバック16とが一体とされた構成に適用してもよい。この場合、乗員Dの背部の上部を支持する部位から頭部Hを支持する部位までの領域が本発明の「車両用シートの上部」に相当する。
【0085】
さらに、本実施形態では、インフレータ32をエアバッグケース50の内部に配置したが、これに限定されない。例えば、インフレータ32をシートバック16の上部の内部に配置してもよい。また、インフレータ32の数や配置についても限定されず、例えば、インフレータ32をシートバック16の内部にシート上下方向が長手方向となるように縦置きに配置してもよい。
【0086】
さらにまた、シートベルト装置24が車両用シート12に設けられた構成に限定されず、リトラクタ26やアンカ24A、バックル24B等が車体側に設けられた構成としてもよい。また、乗員保護装置10がシートベルト装置24を備える構成において、シートベルト装置24は3点式に限られることはなく、4点式シートベルト装置などであってもよい。
【0087】
また、本実施形態では、車両用シート12がシート幅方向を車両幅方向に一致させて配置された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、車両用シート12は車体に対し斜めに配置されてもよく、車体に対する向きが変更(上下軸回りに回転)可能である構成としてもよい。このような構成であっても、多方位エアバッグ30が乗員Dの頭部Hを覆うように膨張展開されるため、頭部Hの良好な保護に寄与し得る。また、ヘッドレスト18に多方位エアバッグ30を収納しているため、車室内面や車室内構成品と干渉し難く、車両用シート12の車体に対する向きの変更動作を阻害することが抑制又は防止される。