(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6499300
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】スパイク状の損傷構造を形成して基板を劈開または切断するレーザー加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20190401BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20190401BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20190401BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20190401BHJP
【FI】
H01L21/78 B
B23K26/53
B23K26/38 Z
B23K26/08 D
H01L21/78 U
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-535972(P2017-535972)
(86)(22)【出願日】2014年10月13日
(65)【公表番号】特表2017-536706(P2017-536706A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】IB2014065274
(87)【国際公開番号】WO2016059449
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】517104194
【氏名又は名称】エバナ テクノロジーズ ユーエービー
(74)【代理人】
【識別番号】100106541
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 信和
(72)【発明者】
【氏名】バナガス エギジデュス
(72)【発明者】
【氏名】キンバラス ジシウガス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェセリス ラウリナス
【審査官】
石丸 昌平
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/079570(WO,A1)
【文献】
特開2008−311333(JP,A)
【文献】
特開2002−192367(JP,A)
【文献】
特開2008−175856(JP,A)
【文献】
特開2010−239157(JP,A)
【文献】
特表2013−536081(JP,A)
【文献】
特許第3283265(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/08 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
劈開面に沿って基板の劈開または切断を行うレーザー加工方法であって、
パルスレーザービームの照射に対して透明であり且つ少なくとも1つの平面を有する基板を劈開するために、前記パルスレーザービームを前記基板に照射する工程と、
前記パルスレーザービームを前記基板の光学的損傷の閾値のフルエンスの分布の長さがその横方向よりも大きいスパイク状の形状に集光し且つ開口数の幅が0.7〜0.9NAである少なくとも1つのビーム集束素子を有し、前記パルスレーザービームを前記基板に集光するために配置されるビーム集束ユニットによって、前記パルスレーザービームを変形する工程と、を備え、
前記スパイク状の閾値を超えるフルエンスの分布は、前記基板の表面では前記フルエンスがなく、前記基板の表面から近接した内部の第1領域で前記フルエンスが中値であり、前記第1領域より深い第2領域で前記フルエンスが中値より強い強値であり、前記第2領域より深い第3領域で前記フルエンスが前記中値を介して前記中値より弱い弱値になるビーム凝縮領域を有し、
前記ビーム凝縮領域は、前記第1領域の長さよりも前記第3領域の長さが長く、
前記パルスレーザービームを前記基板に照射する工程は、前記基板の内部の領域における前記スパイク状のフルエンスの分布を一定に保ちつつ、前記基板の劈開面に沿って、前記スパイク状のフルエンスの分布の一連の損傷領域を形成する、レーザー加工方法。
【請求項2】
前記ビーム集束ユニットにより集束する前記パルスレーザービームは、前記ビーム集束ユニットに配置された少なくとも1つのビーム発散制御ユニットを通るビームをガイドすることにより達成され、
少なくとも1つの前記ビーム集束素子を通して前記ビームを連続してガイドし、前記ビーム集束素子は非球面ビーム集束レンズである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
直進移動ステージでの移動中に、前記ビーム集束ユニット及び前記基板の前記表面との距離は、前記ビーム集束ユニット及び前記基板の前記表面との距離を監視する方法、圧電性のナノポジショナー又はモータ化された直進移動ステージによる方法によって維持され、前記基板の内部の領域における前記スパイク状のフルエンスの分布が一定に保たれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板の内部のスパイク状の集束レーザービームの強度分布は、前記ビーム集束素子の前の前記パルスレーザービームの発散、集束素子表面のデザイン、又は焦点深度を変更することにより、材料の性質及び前記基板の大きさに関して合わせられる、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビーム集束ユニットにより集束する前記パルスレーザービームは、前記ビーム集束ユニットに配置された少なくとも1つの補償光学部に沿ってビームをガイドし、球面ビーム集束レンズ又は非球面ビーム集束レンズから選択される少なくとも1つのビーム集光素子を使用してビームをガイドすることにより得られる、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ビーム集束ユニットにより集束する前記パルスレーザービームは、前記ビーム集束ユニットにおいてフェーズ及び/又は振幅変調器に沿ってビームをガイドし、球面ビーム集束レンズ又は非球面ビーム集束レンズから選択される少なくとも1つのビーム集光素子を使用してビームをガイドする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ビーム集束ユニットにより集束する前記パルスレーザービームは、補足的な回折ビーム変調素子に沿ってビームをガイドし、球面ビーム集束レンズ、非球面ビーム集束レンズ、または少なくとも1つの対物レンズから選択される少なくとも1つのビーム集光素子を使用してビームをガイドする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記パルスレーザービームの波長は500nm〜1,500nmの範囲である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記パルスレーザービームのレーザーパルスの時間幅は200fs〜1,000fsの範囲である、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記レーザーパルスの周波数は、50kHz〜500kHzの間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記レーザーパルスのエネルギーは1μJ〜50μJの間である、請求項9又は請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記パルスレーザービームのフルエンスは、0.1kJ〜10kJ/cm2の範囲である、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記損傷領域の間の距離は1〜10μmである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記基板は、サファイヤ、ケイ素、炭化ケイ素、又はダイヤモンドの一つで作られている、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーによる加工技術に関する。特に、本発明は、特別な形状を有するレーザービームを使用して、硬い材料を劈開/切断(ダイシング)する技術に関する。本発明は、基板に形成された半導体デバイスを分離する際に有用である。
【背景技術】
【0002】
デバイスはこれまで以上に微細かつ複雑になっており、ウェハダイシングは半導体デバイスの製造に重要な役割を果たす。古典的なダイシングの手法は、厚み100μm以上のシリコンウェハについてはダイヤモンドカッターの使用、100μmよりも薄い場合はレーザーアブレーションに基づく。
【0003】
ダイヤモンドディスクソー技術は、(硬質な材料に対して)その低い処理速度により制限されている。ダイヤモンドディスクソーは、一般に、広い幅、欠けた切り口及び低品質な端部を形成し、デバイスの歩留まり及び寿命を低下させる。ダイヤモンドディスクは短期間で劣化するため、技術が高価であり、水冷却及びクリーニングの必要性が生じるため、実用性も低い。加えて、ダイヤモンドディスクの使用は、切削される基板が薄い場合に限定される。
【0004】
レーザーアブレーションと呼ばれる別の古典的なレーザー加工技術は、遅い加工速度及び殆どの利用で広すぎる幅である10〜20μmに達する切り口の幅により制限される。さらに、レーザーアブレーションはクラックを誘発し、融解された残留物を残し、破片により切断領域を汚染する。熱による影響を受けた範囲が広いと、半導体デバイスの寿命及び有効性の低下に繋がる。
【0005】
アブレーション及びダイヤモンドディスクソー技術は、接着剤積層のためのフィルム等、特徴的な表面を有する特殊なウェハには使用できない。
このような特徴が追加されると、従来のカット及びアブレーションがより難しくなり、破片に対して弱くなる。切断されたデバイスの品質向上のため、レーザー加工方法及び装置が開発された。
【0006】
米国特許第6,992,026号(国際公開第02/022301号)には、レ一ザ加工方法及びレ一ザ加工装置の一態様が開示されている。
この方法及び装置によれば、加工対象物の表面に溶融の跡を作り及び切断予定ラインから外れて垂直に伸びるクラックを発生させることなく、加工対象物の切断が可能となる。加工対象物の表面は、多光子吸収を生じるために十分な条件下、予定された切断ラインに沿ってパルスレーザービームが照射され、ビームは加工対象物の内部に焦点(または集光点:高エネルギー/光子密度ゾーン)を作るように位置合わせされ、その結果、当該集点を劈開の表面に沿って移動させることにより、所定の劈開線に沿って改質領域を形成する。改質領域の形成後、加工対象物は比較的に小さな力で機械的に切断することができる。
【0007】
上述した加工方法及びその変形例は、「ステルスダイシング」技術として知られている。これらの変形例の全ては、ウエハを透過する波長の集光パルスレーザービームによる内部穿孔の形成に基づくが、例えば、内部のガラスのエッチングされた装飾ブロックなどで、焦点の非線形過程により吸収される。この内部穿孔は、表裏面に損傷や、汚れを発生させない。ウェハは通常、機械的に伸びるプラスチック製の粘着テープの上に配置され、穿孔がクラックを引き起こす。ステルスダイシング技術は、これまでの技術とは異なり、残留物、表面のクラックまたは熱ダメージが生じないと主張されている。上記の特性及び複数層について、MEMS(メムス、Micro Electro Mechanical Systems)デバイスも、同じ方法で分離可能である。
【0008】
ステルスダイシング技術の課題は、典型的には、ステルスダイシングを行うために、開口数(NA)が高いレンズを使用する必要があり、結果として焦点深度(DOF)が浅くなり、フォーカス状態が狭くなる。その結果、劈開する表面に複数の方向に広がるクラックが生じ、この劈開されたウェハから形成されたデバイスの寿命に影響を与える。また、ステルスダイシングは、サファイヤを加工する際に課題を生じる。この不具合は、切断のために分断線あたり1つのパスのみが必要な、厚み120〜140μmの基板では生じない。しかし、厚みがあるウェハ(通常、4〜6インチのサファイアウェハでは、140〜250μm又はこれ以上の厚さ)では、分断線あたり複数のパスが必要となる。その結果、長時間に渡りレーザーが材料に照射され、最終的なデバイスの性能及び生産量に悪影響を与える。加えて、複数パス工程は全体の加工速度及びスループットに遅れを生じる。
【0009】
材料加工に関する他の方法は、2013年5月23日に発行された、米国特許第2013/0126573号(特表2013−536081)に開示されている。この方法は、劈開ステップに向けて準備する際の透明基板の内部加工に用いられる。基板は、基板内にフィラメントを作り出すために選択されたパルスエネルギー及びパルス持続時間を有するパルスで構成される、集束レーザービームで照射される。基板は、一つ又は複数の更なる場所で基板を照射し、追加のフィラメントを作り出すため、レーザービームに対して並進される。結果物のフィラメントは、基板を劈開するための内部でスクライブされた経路を規定する配列を形成する。レーザービームパラメータは、フィラメント長及び位置を調節し、任意でV字チャネル又は溝を導入して、レーザー劈開された端部にベベルを提供するために変動させることができる。好ましくは、レーザーパルスは、バースト列の形で送達され、フィラメント形成のエネルギー閾値を低下させ、フィラメント長さを増加させ、フィラメント変性域を熱アニーリングして付随的な損傷を最小限に抑え、加工の再現性を改善し、
パルス周波数が低いレーザーを使用した場合に比べて加工速度を増加させる。
【0010】
この手法では、切削が荒くなり、ベア素材にのみ適用可能であり、高いパルスエネルギーを要するためダイシングには適しておらず、最終的な半導体装置に悪影響を与える。特に、上記方法でウェハをダイシングすると、結果物の発光ダイオード(LED)の漏電が増加し、高輝度(HB)LED及び超高輝度(UHB)LEDの性能を著しく低下させる。
【0011】
2012年9月20日に発行された米国特許出願公開第2012/234807号は、加工対象物に拡張深さを形成するレーザースクライビング方法を開示する。本方法は、意図的に収差を生じるようにレーザービームを集束する方法に基づく。球面の縦収差幅は、拡張深さが加工対象物に限定された球面の横収差幅で伸びるように調整される。本方法は、高エネルギーパルスによる粗い加工を行い、加工対象物の内部に垂直方向の損傷トレースを形成する。開口数が小さいレンズ(収束長さが0.1mm以下のもの)が使用され必要性によって、高パルスエネルギーが要求され、結果として集束が緩くなる。集束点は非常に平坦な空間強度プロファイルを有するため、作動状態において閾値のエネルギー密度が広範囲で比較的にピーク値が小さい状態で生じる。(光学破壊を起こすために必要な)パルス強度に対する要求の高まりにより、高いパルスエネルギーの必要性が高まっており、上述の通り、LEDでの漏電及びチップ壁面のクラックが生じるため、HB及びUHBのLEDでは加工に課題が生じる。
【0012】
先行技術に基づく手法では、基板の厚み、材料の種類及びウェハ分離に使用される加工の質などにおいて、制限が加えられていた。さらに厚みがある材料を加工するためには、上述の技術ではレーザー出力の増加または切断線を通過するレーザービームの数を増やす必要があった。このような調節は、半導体装置の性能及び製造工程に悪影響を与えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2013−536081
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/234807号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を改善するために、本発明は、単一基板に形成された半導体デバイス又は厚さが厚く、硬い固体基板を切断するために使用される、効果的かつ迅速なレーザー加工方法を提供する。劈開/切断(ダイシング)工程を行うデバイスまたは基板を準備するにあたり、劈開線に沿って深く狭い損傷領域を形成する。本方法はレーザービームが複数回にわたって切断ラインを通過する必要が無いため、生産量が増加する。従って、用語「加工対象物」には、基板、ウェハ、ウェハシート、デバイスまたは加工及びその後の機械的分離に用いる同様のアイテムが含まれ、当該用語は相互に使用される。
【0015】
レーザー加工方法には、集束ユニットでパルスレーザービームを変形する手順が含まれ、ビームが広がり、幅が調節され、加工対象物への集光が実施され、例えば「スパイク」状のビーム凝縮領域、具体的には加工対象物のバルクにおける加工対象物の材料の光学損傷閾値フルエンス(パワー分布)が生成される。材料は前記レーザー照射の波長に対して、部分的または全体的に透過性である。上述の手順において、多光子吸収、好ましくは部分溶解またはクーロン爆発を生成するために十分な状態において、材料
において、損傷構造とも言われている改質領域(「スパイク」型を有する)が形成される。
【0016】
レーザー加工方法はさらに、レーザービームの焦点に対する相対移動によって、所定の切断線に複数の損傷構造を形成するステップを有する。このような切断線の形成後、機械力を与えて、加工対象物を所定の境界線を有する2以上のピースに分離または切断することができることは、当業者にとっては自明である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明の理解を高めるために、本明細書は以下の図面を参照して説明する。これらの図は例示であり、本発明の範囲を減縮するものではない。
【
図1】入射するガウス分布配光レーザービーム(左側から入射)を集束することにより入手した、材料の内部深さ17〜30μmにおける「スパイク」状集束レーザービームの強度分布を数字的にシミュレートしたものである。
【
図2】入射するガウス分布配光レーザービームを集束することにより得られたより深い場合の集光状態(物質の内部深さ140〜230μm)における「スパイク」状集束レーザービームの物質内部の強度分布を数字的にシミュレートしたものである。
【
図3】実施形態の概略図であり、ビーム集束ユニットでレーザー放射を集束することにより、単一の損傷構造が作り出される。
【
図4】物質の内部でビーム集束ユニットを通じて集束している間に行われた、数値的にシミュレートされた、近軸のマージナルレーザー光集束の図である。
【
図5】一実施形態の例示であり、一連の損傷構造が劈開/切削面を形成するために形成される。
【
図6】「スパイク」状集束レーザービームの強度分布と、17〜30μmの深さで物質内部に生じる損傷の形状とを比較した写真である。
【
図7】「スパイク」状集束レーザービームの強度分布と、集束状態がより深い場合(140〜230μmの深さ)の物質内部に生じる損傷の形状とを比較した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、単一基板に形成された半導体デバイスを切断するため、または硬い固体基板を切断するためのレーザー加工方法を提供する。劈開/切断を行うためのサンプルを準備するにあたり、損傷の領域は予定された劈開線に沿った深く狭い損傷領域であることが特徴付けられる。
【0019】
最も望ましい実施形態においては、加工方法はビーム集束ユニットを用いて、加工対象物に集束パルスレーザービームを放射する手順を含み、ビーム集束領域(集光点、焦点)が加工対象物の内部で形成され、ビーム集束領域の形状と一致または近似する損傷構造を形成する。このような方法で形成されたビーム集束領域は、フルエンスが加工対象物の物質の損傷閾値を超える場所である、空間的フルエンス分布が
図1及び2に示されるような「スパイク」のような幾何学構造の形状である。用語「損傷」とは、後述する劈開において、(境界線に沿って)制御されたクラックを生じるように、物質の機械的性質を変形する、物質の局所変形を定義する。このような変形または損傷の構造(部分的損傷部、領域)は、多光子吸収のメカニズムによって達成され、これは、加工対象物の物質が使用されるレーザー照射の中心波長(物質のバンドギャップが光子エネルギーを、好ましくは複数回超過する)に対して部分的又は全体的に透明であれば可能であり、ビーム集束時に短波パルス及び超短波パルスを使用して十分な光子密度が達成できる。好ましくは、加工対象物の物質のバンドギャップエネルギーは0.9eV以上である。
【0020】
加工方法は、離間した位置でサンプルの連続的な照射を更に含み、複数の損傷構造は切断/分離線を形成する。これは、加工対象物をモータ化された構造物である直進移動ステージに取り付け、加工対象物を劈開線に沿って所望の方向に動かし、劈開面を形成する。異なる形状の移動ステージを用いても良いことは当業者にとって自明であり、例えば、集束ユニット及び加工対象物の関連のある移動が確保できれば、回転ステージを用いることを含み、集束ユニットを動かすことを含んでいてもよい。加工対象物として、サファイヤ、炭化ケイ素ウェハ、ダイヤモンド基板又は他の機械的加工が難しい硬いデバイスを使用してもよく、特に厚みがある材料(例えば厚さ500μm)に対して使用することができる。
【0021】
最も好ましい実施形態では、上述する手段を実行するための最も好ましい方法は、
図3に示される通り、パルスレーザービーム(1)、好ましくは球状−楕円球状のガウス強度分布であるパルスレーザービーム源(2)、ビーム集束ユニット(3、4、5)、例えばビームエキスパンダ(3)、ビーム集束素子(4)、ビーム集束素子(4)又はユニット(3、4、5)と加工対象物(6)との間隔を安定させる手法等、モータが取り付けられた直進ステージ等、加工対象物(6)を保持及び移動(7)する方法を使用することである。上述のパルスレーザービーム源(2)は、好ましくは、安定的に連続した定偏波のレーザーパルスを生成し、十分に定義された一時的エンベロープを有するレーザー(2)である。レーザービーム源は好ましくはガウスビームであり、パルス幅が
200fs〜1,000fsの間であり、中心波長が500
nm〜
1,500nmの範囲であり、周波数が
50kHz〜
500kHzの間である。レーザービーム源は集束ユニット(3、4、5)の後ろで、パルスエネルギーの幅が1
μJ〜
50μJ、フルエンスが0.1
kJ〜10kJ/cm
2とするために十分なパルスを有する。ビーム形成光学(3)は、好ましくはビームエキスパンダ(3)を含み、例えばケプラン式又はガリレオ式ビームエキスパンダ、又は集束素子の前に適切なビーム幅及び発散を達成する必要があればその他の構造を含む。ビーム集束素子(4)は、好ましくは非球面集束(集光)レンズ(4)又は対物レンズ、及びレンズとサンプルとのプリセット幅を維持するための手法を有する。当該手法は例えば、圧電性のナノポジショナー又はモータ化された直進移動ステージ(5)による距離監視方法であり、これらは集束素子(5)の作動距離でビーム集束ユニット(3、4、5)と加工対象物(6)との間の距離を維持し、移動スピードが300m/秒におけるエラーの最大量が約2μmである。ビーム集束素子(5)は、ビームが加工対象物に対して集束されると、「スパイク」状の集光点(上述の損傷の閾値のフルエンスの空間分布)が形成される。
図1及び
図3に示すように、高い空間強度分布と同様及び/またはスパイク状の形状を有する。形成された損傷構造(8)は加工対象物の第1表面(9)から延伸して形成され、必要であれば、例えば表面(10)にアブレーション(アブレーションが形成したピット(10))を誘発することにより形成される。ビーム集束素子(4)については、高い開口数(NA>0.7)が好ましいが、他の実施例では0.5〜0.9の範囲で選択できる。光学レーザービームのコンポーネントに近い光学軸(ビーム集束素子の中心部)が集光され、加工対象物の第一表面(9)に近接する集光部は、ビーム構成要素が光学軸から横方向に伝播し、さらに深い方向(加工対象物(6)の第一表面(9)からの距離)で集束されるようデザインされている。典型的な光線がたどる「スパイク」状の集束領域の画像が
図4に示される。
【0022】
表面に到達する各レーザーパルスの間隔は1〜10μmの間であり、電動の移動ステージ(7)の移動速度を変更することによって調整可能である。劈開/切断面(11)は、電動の移動ステージ(7)の直線移動によって形成される。一つの劈開線に対するパスの数(移動の繰り返し)は最大2であるが、これに限定されない。
図5は、劈開線を形成する方法を示す。この場合、タイトな集束及び鋭利な「スパイク」状の集束強度分布を組み合わせられ、非球面レンズのパラメータ、素材の光学性能または入射されるビームの性質を操作することによりコントロールできる。
【0023】
図6、7では、形成された劈開/切断面を表す。当業者にとっては、複雑な加工対象物を効果的に割るために、異なる長さの損傷構造を生成することができるのは、言うまでもない。
【0024】
他の実施形態においては、同じビーム集束ユニット(3、4、5)を使用して、同時に4本のレーザービームを集束し、複数の集束点を生成し、加工速度を高める。
【0025】
他の実施形態では、ビーム集束ユニットを使用して、集束パルスレーザービームを加工対象物に照射する際、ビーム集束ユニットは少なくとも1つの回折素子を有し、ビーム増加または形状を置換するよう形成されており、入射ビームがビーム集束素子を通過すると、「スパイク」状の強度分布が達成される。
【0026】
他の実施例では、ビーム集束ユニットを使用して、集束パルスレーザービームを加工対象物に照射する際、ビーム形成素子は少なくとも1つの補償光学部を有し、入射ビームがビーム集束素子を通過する際、「スパイク」状の強度分布を形成する。これによって、様々な入射ビーム(特に異なって変形された)の使用または加工パラメータの変動に対する調整を可能とする。このビーム形成部は、可変形鏡、ピエゾ素子型可変形状ミラー等に基づく。
【0027】
他の実施形態においては、ビーム集束ユニットを使用して、集束パルスレーザービームを加工対象物に照射する際、補償光学部は、液晶光変調器またはミクロ−ミラーマトリクス等のフェーズ及び/又は振幅変調器で代替される。
【0028】
他の実施形態においては、前述した実施例に基づき、ビーム集束ユニットを使用して加工対象物に対し、集束パルスレーザービームを照射する際、補償光学部は少なくとも1つの
補足的な回折ビーム変調素子と代替可能である。例としては、フラット・トップビーム形状の回折光学素子、収差補正のための回折光学素子、または他の素子であり、これらは全て適切なパラメータである。
補足的な回折ビーム変調素子は、当業者によって選択され、このような素子で変調されたビームは、ビーム集束素子で集光でき、「スパイク」状の強度分布を達成する。また、このような素子は、入射時にビーム集束素子で光路に沿って配置できる。
【0029】
本発明をより理解しやすく開示するために、以下の実施例を提示する。
下記の例およびパラメータは、本発明の理解のために提供されるものであり、本発明を限定するものではない。これらのパラメータを広いインターバルで変更すると、同様または異なる結果を生じるが、本発明のダイシング工程に変更を与えない。
【0030】
<実施例1>
加工対象物の材料は、酸化アルミニウム(AI
2O
3)である。加工対象物は基板形状であり、厚みは約140μmである。レーザー源はフェムト秒レーザーであり、発振波長1,030nm、パルス幅が300fs以下(半値幅/1.41)、出力周波数が100kHzである。ビーム集束素子として、集束ユニットは0.8NA対物レンズで構成される。ビーム集束ユニットの通過後のパルスエネルギーは5μJ、フルエンスは約0.7kJ/cm2、凝縮領域はウェハの第一表面から10μm深く形成される。
損傷構造の長さは3μmである。加工スピード、特に直線移動ステージでの移動速度は、300mm/秒である。
図8は、加工後(左)及びダイシング後(右)の状態を示す。
【0031】
<実施例2>
加工対象物の材料は、ポリタイプ4Hの炭化ケイ素(4H−SiC)である。加工対象物は基板形状であり、厚みは約100μmである。レーザー源はフェムト秒レーザーであり、発振波長1,030nm、パルス幅が300fs以下(半値幅/1.41)、出力周波数が100kHzである。ビーム集束素子として、集束ユニットは0.5NA対物レンズで構成される。ビーム集束ユニットの通過後のパルスエネルギーは30μJ、フルエンスは約1kJ/cm2、凝縮領域はウェハの第一表面から30μm下層に形成される。損傷構造の長さは3μmである。加工スピード、特に直線移動ステージでの移動速度は、300mm/秒である。
図9は、加工後(左)及びダイシング後(右)の状態を示す。
【0032】
<実施例3>
非球面レンズ係数は、入射ビーム広がりと目的とする
焦点深度のインターバルに応じて、選択が可能となる。入射ビーム広がりを−1mRadとした場合(ビーム広がり制御ユニットで測定)、
表面からの焦点深度は17〜140μmであり、第1レンズ表面における非球面レンズ係数:R = 2.75 (曲線の半径); k = -0.5426984 (コーニック係数、頂点で測定); 0以外の係数A4 = -3.1954606 10-4; A6 = -4.3977849 10-5; A8 = 1.8422560 10-5; A10 = -1.5664464 10-6。第2表面: R = -3.21; k = -12.41801; A4 = 9.0053074 10-3; A6 = -1 .3597516 10-3; A8 = 1.1366379 10-4; A10 = -4.2789249 10-6; 屈折率 n= 1.597,
設計波長:830 nm.