(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のIII族窒化物半導体基板、及び、III族窒化物半導体基板の製造方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0010】
詳細は後述するが、本発明者らは、平坦化処理の対象のIII族窒化物半導体基板の露出面(成長面)に、所定の成長条件でIII族窒化物半導体の結晶をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体層(カバー層)を形成した場合、当該カバー層を形成後のIII族窒化物半導体基板の露出面(カバー層の露出面)は、当該カバー層を形成前のIII族窒化物半導体基板の露出面よりも平坦性が高くなる(より平坦になる)ことを新たに見出した。カバー層の露出面に対するCMP等は不要である。
【0011】
なお、以下の実施例で示すが、平坦化処理の対象のIII族窒化物半導体基板の露出面(成長面)に、上記所定の成長条件(本実施形態の成長条件)と異なる一般的な成長条件でIII族窒化物半導体の結晶をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体層を形成した場合、当該III族窒化物半導体層を形成後のIII族窒化物半導体基板の露出面(III族窒化物半導体層の露出面)は、当該III族窒化物半導体層を形成前のIII族窒化物半導体基板の露出面と平坦性がほとんど変わらず、悪化する場合もある。そして、当該一般的な成長条件で形成したIII族窒化物半導体層の露出面は、上記所定の成長条件(本実施形態の成長条件)で形成したIII族窒化物半導体層(カバー層)の露出面よりも平坦性が悪くなる。
【0012】
本実施形態は、「平坦化処理の対象のIII族窒化物半導体基板の露出面(成長面)に、所定の成長条件でIII族窒化物半導体の結晶をエピタキシャル成長させてIII族窒化物半導体層(カバー層)を形成することで、III族窒化物半導体基板の露出面(成長面)を平坦化する」という新たな平坦化の方法を提供する。以下、詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法は、準備工程S10と、成長工程S20とを有する。
【0014】
準備工程S10では、III族窒化物半導体で構成された第1のIII族窒化物半導体層を準備する。第1のIII族窒化物半導体層の露出面(成長面)が平坦化処理の対象となる。
【0015】
準備工程S10では、例えば、第1のIII族窒化物半導体層を少なくとも一部に含むIII族窒化物半導体基板を準備してもよい。第1のIII族窒化物半導体層を少なくとも一部に含むIII族窒化物半導体基板は、例えば、第1のIII族窒化物半導体層のみからなるIII族窒化物半導体基板であってもよいし、第1のIII族窒化物半導体層と他の層(単層及び積層体を含む)とを含み、表面(成長面)に第1のIII族窒化物半導体層が露出したIII族窒化物半導体基板であってもよい。第1のIII族窒化物半導体層を含むIII族窒化物半導体基板の厚さは、例えば、100μm以上1000μm以下である。第1のIII族窒化物半導体層10の厚さは、例えば、100μm以上900μm以下である。
【0016】
第1のIII族窒化物半導体層の成長面(露出面)は、+C面、又は、+C面から59°以内の角度で傾いた面である。平坦化処理の対象である第1のIII族窒化物半導体層の成長面(露出面)は平坦でなく、凹凸が存在する。
【0017】
以下、準備工程S10では、第1のIII族窒化物半導体層のみからなるIII族窒化物半導体基板を準備したものとして説明する。なお、第1のIII族窒化物半導体層と他の層からなるIII族窒化物半導体基板を準備した場合も同様の処理で同様な作用効果を実現できる。
【0018】
図1に戻り、成長工程S20では、
図2に示すように、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面(第1の面)11上に所定の条件でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させることで、第2のIII族窒化物半導体層20を形成する。第2のIII族窒化物半導体層20が、上述したカバー層に該当する。
図2においては詳細が示されていないが、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面21(露出面)は、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11(第1の面)よりも平坦性が高い。第2のIII族窒化物半導体層20の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0019】
なお、
図3に示すように、第2のIII族窒化物半導体層20は、互いに膜組成が異なる3つの膜22乃至24で構成されてもよい。その他、図示しないが、第2のIII族窒化物半導体層20は、膜22及び膜24で構成されてもよいし、膜23及び膜24で構成されてもよいし、膜22及び膜23で構成されてもよいし、膜22で構成されてもよいし、膜23で構成されてもよいし、これらにその他の膜をさらに加えてもよい。以下、膜22乃至24各々の製造方法を説明する。
【0020】
膜22乃至24は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を用い、ダウンフロー方式でキャリアガスを第1のIII族窒化物半導体層10(基板)に供給しながら、所定の成長条件でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させることで形成される。
図3に示すような膜22乃至24からなる第2のIII族窒化物半導体層20を形成する際の成長条件は、以下の通りである。
【0021】
<膜22の成長条件>
TMGa(恒温槽0℃以上45℃以下):200ccm以上500ccm以下、好ましくは250ccm以上350ccm以下
NH
3:10slm以上30slm以下、好ましくは5slm以上10slm以下
V/III比:200以上1600以下、好ましくは350以上450以下
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
キャリアガス比率:H
2/(H
2+N
2)=0.7以上1.0以下、好ましくは0.8以上0.95以下
キャリアガス流量:15slm以上20slm以下
圧力:400torr以上760torr以下、好ましくは450torr以上600torr以下
成長温度:1180℃以上1300℃以下、好ましくは1200℃以上1300℃以下
成長速度:0.5μm/h以上2.0μm/h以下、好ましくは1.0μm/h以上2.0μm/h以下
膜厚:0.1μm以上0.5μm以下
【0022】
<膜23の成長条件>
TMGa(恒温槽0℃以上45℃以下):200ccm以上500ccm以下、好ましくは250ccm以上350ccm以下
NH
3:10slm以上30slm以下、好ましくは5slm以上10slm以下
V/III比:200以上1600以下、好ましくは350以上450以下
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
キャリアガス比率:H
2/(H
2+N
2)=0.7以上1.0以下、好ましくは0.8以上0.95以下
キャリアガス流量:15slm以上20slm以下
圧力:50torr以上300torr以下、好ましくは150torr以上250torr以下
成長温度:1180℃以上1300℃以下、好ましくは1200℃以上1300℃以下
成長速度:1.5μm/h以上8.0μm/h以下、好ましくは3.0μm/h以上5.0μm/h以下
膜厚:1.0μm以上3.0μm以下
【0023】
<膜24の成長条件>
TMGa(恒温槽0℃以上45℃以下):400ccm以上750ccm以下、好ましくは400ccm以上600ccm以下
NH
3:10slm以上30slm以下、好ましくは10slm以上20slm以下
V/III比:200以上1200以下、好ましくは450以上550以下
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
キャリアガス比率:H
2/(H
2+N
2)=0.7以上1.0以下、好ましくは0.8以上0.95以下
キャリアガス流量:15slm以上20slm以下
圧力:30torr以上200torr以下、好ましくは50torr以上150torr以下
成長温度:1180℃以上1300℃以下、好ましくは1200℃以上1300℃以下
成長速度:15.0μm/h以上40.0μm/h以下、好ましくは30.0μm/h以上40.0μm/h以下
膜厚:10.0μm以上15.0μm以下
【0024】
膜22及び膜24で構成された第2のIII族窒化物半導体層20、膜23及び膜24で構成された第2のIII族窒化物半導体層20、膜22及び膜23で構成された第2のIII族窒化物半導体層20、膜22で構成された第2のIII族窒化物半導体層20、膜23で構成された第2のIII族窒化物半導体層20を形成する場合は、上記各膜の成長条件における膜厚以外はそのまま適用し、成長時間を調整して膜厚を所望の値に調整することで実現される。1つの膜、及び、2つの膜で第2のIII族窒化物半導体層20を構成する場合、第2のIII族窒化物半導体層20の厚さを所望の値にするため、各膜の厚さを上記成長条件に示すものよりも厚くすることができる。
【0025】
上記膜22の成長条件によれば、III族窒化物半導体結晶の横方向(a軸方向及びm軸方向)への成長が少し促進される。上記膜23の成長条件によれば、III族窒化物半導体結晶の横方向(a軸方向及びm軸方向)への成長が強く促進される。すなわち、上記膜23の成長条件の方が、上記膜22の成長条件よりも、III族窒化物半導体結晶の横方向(a軸方向及びm軸方向)への成長が強く促進される。上記膜24の成長条件によれば、III族窒化物半導体結晶の縦方向(c軸方向)への成長が促進される。
【0026】
以下の実施例で示すが、このような成長条件で
図3に示すような第2のIII族窒化物半導体層20を形成した場合、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面21は、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11よりも平坦性が高くなる。
【0027】
なお、本発明者らは、第2のIII族窒化物半導体層20の中に、横方向成長が促進される条件(成長温度:1180℃以上1300℃以下、水素キャリア流量:10.5slm以上20.0slm以下)で形成された膜22及び膜23の少なくとも一方を入れることで、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面21は、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11よりも平坦性が高くなることを確認している。詳細は明らかでないが、横方向成長で形成される膜を存在させることで、下地の成長面(第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11)における凹凸が第2のIII族窒化物半導体層20の成長面21に現れにくくなるのではと考えている。
【0028】
また、本実施形態の場合、膜22及び膜23の少なくとも一方を形成後、縦方向にIII族窒化物半導体結晶を成長して得られる膜24を形成することで、グロースピットの発生を抑制する効果が得られる。
【0029】
また、本実施形態の場合、成長速度の制御も重要である。成長速度を適切に制御しないと、結晶性の劣化、グロースピットの発生、結晶中の不純物の増加、及び、所定の膜厚で平坦化できない等の不都合が発生し得る。本実施形態の場合、膜22、膜23及び膜24の成長速度を上述のように制御することで、上述のような不都合を抑制しつつ、所望の面の平坦化を実現することができる。
【0030】
なお、第2のIII族窒化物半導体層20を形成する前に、第1のIII族窒化物半導体層10に対して熱処理を実施してもよい。熱処理の条件は、例えば以下のようにできる。このような熱処理を加えることで、ゴミ等の付着物がなく、加工ダメージ層のない良好な表面を得ることができる。
【0031】
NH
3:5slm以上15slm以下
H
2:3slm以上6slm以下
N
2:8slm以上12slm以下
圧力:400torr以上600torr以下
温度:1100℃以上1300℃以下
処理時間:5分以上15分以下
【0032】
以上説明した本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、
図2に示すように、
III族窒化物半導体で構成された第1のIII族窒化物半導体層10と、
第1のIII族窒化物半導体層10の成長面(第1の面)11上にIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長することで形成され、露出している成長面21はCMP処理をなされておらず、かつ、成長面21は第1のIII族窒化物半導体層10の成長面(第1の面)11よりも平坦性が高い第2のIII族窒化物半導体層20と、
を有するIII族窒化物半導体基板が実現される。
【0033】
第2のIII族窒化物半導体層20は、互いに膜組成が異なる複数の膜からなってもよい。例えば、
図3の例の場合、膜22乃至膜24により第2のIII族窒化物半導体層20が構成されている。
【0034】
なお、「成長面に対してCMP処理をなされているか否か」は、微分干渉顕微鏡画像で表面モホロジーを観測する事で確認できる。
図11に、CMP処理をなされた表面画像を示す。また、
図12に、CMP処理をなされていない表面画像を示す。図示するように、CMP処理をなされている場合、うねり、ピット、ヒロックのない非常に平坦な表面となる。これに対し、CMP処理をなされていない場合、例えばm面を側面とした多角形が集合した表面が確認できる。このような特徴の違いにより、成長面に対してCMP処理をなされているか否かを確認することができる。
【0035】
次に、「第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11よりも第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の平坦性が高い」ことは、
図13で示すように、第1のIII族窒化物半導体層10及び第2のIII族窒化物半導体層20を含む積層体の断面を観察することで確認できる。
図13で示す例は、蛍光顕微鏡等を用いて第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11及び第2のIII族窒化物半導体層20の成長面21の断面を観察した画像である。図の場合、成長面11(成長界面)と成長面21(成長最表面)では、明らかに成長面21(成長最表面)の方が、うねり及び、ラフネスが小さい、すなわち平坦性が高いことが確認できる。
【0036】
その他、「第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11よりも第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の平坦性が高い」ことは、算術平均粗さRaの値の大小で確認してもよい。Raの値が小さい方が、平坦性が高いことを意味する。例えば、
図14で示す様に、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLを定めて、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦方向にY軸を取り、粗さ曲線をY=f(X)で表したときに、以下の式(1)によりRaの値が求められる。
図14の例の場合、成長面21(成長最表面)のRaは0.87nmとなり、成長面11(成長界面)のRaは16.22nmとなる。
【0038】
以上、本実施形態によれば、III族窒化物半導体基板の表面を平坦化する新たな方法が実現される。
【0039】
なお、本実施形態で得られる平坦度は、CMPによる平坦化処理(鏡面研磨等を含む)後の平坦度に比べて劣る。しかし、本実施形態の場合、CMPによる平坦化処理(鏡面研磨等を含む)に比べて、平坦化処理の作業時間を著しく短くすることができる。このため、本実施形態は、CMPによる平坦化処理(鏡面研磨等を含む)ほどの平坦度は要求されないが、作業時間を短くしたいとき等に最適であると考えられる。
【0040】
<変形例1>
図4は、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法の処理の流れの他の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法は、準備工程S10と、前処理工程S15と、成長工程S20とを有する。準備工程S10及び成長工程S20は、上述の通りである。
【0041】
前処理工程S15では、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11に対して簡易的な平坦化処理を行う。例えば、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11の凹凸が激しい場合、成長工程S20の前に前処理工程S15を行ってもよい。
【0042】
前処理工程S15では、例えば、リン酸及び硫酸の混合液を用いた成長面11のエッチングや、CMPによる簡易的な平坦化処理(鏡面研磨を含まない)等を行う。
【0043】
当該変形例によれば簡易的な平坦化処理を行った後に、成長工程S20を行うことができるので、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11の凹凸が激しい場合であっても、比較的簡易に、所望の平坦状態を得ることができる。
【0044】
また、当該変形例の場合、鏡面研磨を行う必要がない。このため、本変形例の場合、簡易的な平坦化処理(前処理工程S15)、及び、平坦化処理(成長工程S20)を含むが、鏡面研磨を含む平坦化処理に比べて、作業時間を短縮できる。すなわち、上述した実施形態と同様の作用効果を実現できる。
【0045】
<変形例2>
本実施形態の第2のIII族窒化物半導体層20は、炭素又はシリコンを不純物として含むことができる。第2のIII族窒化物半導体層20が複数の膜で構成される場合、その中の少なくとも1つの膜に、炭素又はシリコンが不純物として含まれていてもよい。炭素を含有させることで、高抵抗な層とすることができる。一方、シリコンを含有させることで、低抵抗な層とすることができる。炭素やシリコンをドープする方法は、従来技術に準じることができる。
【0046】
このような、本変形例によれば、平坦化を実現するカバー層(第2のIII族窒化物半導体層20)に、さらに、高抵抗又は低抵抗という機能を付与させることができる。すなわち、第2のIII族窒化物半導体層20は、第1のIII族窒化物半導体層10の成長面11を平坦化する機能に加えて、高抵抗又は低抵抗という機能を有することができる。
【実施例】
【0047】
<実施例1>
「第1のIII族窒化物半導体層10からなる基板の準備」
厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al
2O
3)基板を下地基板として用意した。そして、このサファイア基板上に、以下の条件で炭化チタンが分散した炭素層(第1の層)を形成した。
【0048】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:24秒
圧力:0.4Pa
印加電力:150W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:14.3scc
反応性ガス:炭化水素(CH
4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.3nm
【0049】
その後、第1の層の上に、以下の条件で炭化チタンの層(第2の層)を形成した。
【0050】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:30分
圧力:0.4Pa
印加電力:300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:27.0sccm
反応性ガス:CH
4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:100nm
【0051】
その後、第2の層を、以下の条件で窒化した。
【0052】
窒化温度:925℃
窒化時間:30分
窒化ガス:NH
3ガス、H
2ガス
【0053】
その後、窒化した第2の層の上に、以下の条件でGaN層を形成して積層体を得た。
【0054】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1040℃
成膜時間:150分
膜厚:400μm
【0055】
次に、熱処理を行なった。ここでは、
図5に示す容器6を使用して熱処理を行なった。はじめに、治具63の保持部631の溝に、上記積層体Bの外周縁をはめ込み、20枚の積層体Bを治具63に保持させた。
【0056】
その後、積層体Bを保持する治具63を、容器本体61内に挿入した。次に、Gaの液体を容器本体61内に充填し、全ての積層体BをGaの液体中に浸した。積層体Bは、完全にGaの液体に浸漬しており、Gaの液体から露出していなかった。次に、容器本体61の開口を蓋62でふさいだ。その後、HVPE装置内に容器6を配置して、容器6を窒素ガス雰囲気下で加熱した。熱処理条件は以下のようである。
【0057】
温度:1200℃
雰囲気:N
2ガス
処理時間:8時間
【0058】
熱処理の後、積層体Bを常温まで冷却し、観察した。GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。
【0059】
その後、当該GaN層に対して、リン酸及び硫酸の混合液を用いたエッチング(2時間)、及び、CMPによる簡易的な平坦化処理(鏡面研磨を含まない)をこの順に行った。CMPでは、N極性面(裏面)の簡易的な平坦化処理と、Ga極性面(表面)に対するスクラッチの除去等を行った。CMPの作業時間は、70時間程度であった。
【0060】
本実施例では、このようにして得られたGaN層を、第1のIII族窒化物半導体層10からなる基板とした。
【0061】
「第2のIII族窒化物半導体層20の形成」
第1のIII族窒化物半導体層10の成長面上に、MOCVD装置を用い、ダウンフロー方式でキャリアガスを第1のIII族窒化物半導体層10に供給しながら、
図3に示すような膜22乃至24からなる第2のIII族窒化物半導体層20を形成した。なお、第2のIII族窒化物半導体層20を形成する前に、第1のIII族窒化物半導体層10に対して熱処理を行った。熱処理及び膜22乃至24各々の成長条件は、以下の通りである。
【0062】
<熱処理>
NH
3:10slm
H
2:4.5slm
N
2:10.5slm3
圧力:500torr
温度:1200℃
【0063】
<膜22の成長条件>
TMGa(恒温槽2℃):300ccm
NH
3:8slm
V/III比:400
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
H
2:13.5slm
N
2:1.5slm
圧力:500torr
成長温度:1250℃
成長速度:1.5μm/h
膜厚:0.3μm
【0064】
<膜23の成長条件>
TMGa(恒温槽2℃):300ccm
NH
3:8slm
V/III比:400
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
H
2:13.5slm
N
2:1.5slm
圧力:200torr
成長温度:1250℃
成長速度:4.0μm/h
膜厚:2.0μm
【0065】
<膜24の成長条件>
TMGa(恒温槽2℃):500ccm
NH
3:16slm
V/III比:500
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
H
2:13.5slm
N
2:1.5slm
圧力:100torr
成長温度:1180℃
成長速度:20.0μm/h
膜厚:15.0μm
【0066】
「観察」
図6に示すように、基板の中心を原点(0,0)とし、任意にX軸及びY軸を設定した。そして、(0,0)、(10,0)、(20,0)、(−10,0)、(−20,0)、(0,10)、(0,20)、(0,−10)、(0,−20)の9点各々を中心とする縦横1500μm×1500μmの観察エリアを9点設定した。なお、(M,N)は、中心からX軸方向にMmm移動し、さらに、Y軸方向のNmm移動した位置を示す。
【0067】
図7に、第2のIII族窒化物半導体層20における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像、及び、第2のIII族窒化物半導体層20を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像(図中、エピ成長前)を示す。平面微分干渉顕微鏡画像より、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の方が、第1の窒化物半導体層の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0068】
また、観察エリアごとにSa(μm)を算出し、その平均を算出した。第2のIII族窒化物半導体層20の平均値は、0.174μmであったのに対し、第1のIII族窒化物半導体層10の平均値は5.113μmであった。この結果からも、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の方が、第1の窒化物半導体層の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0069】
<実施例2>
「第1のIII族窒化物半導体層10からなる基板の準備」
実施例1と同様とした。
【0070】
「第2のIII族窒化物半導体層20の形成」
第1のIII族窒化物半導体層10のSa平均値が異なる基板を用いた点を除き、実施例1と同様とした。
【0071】
「観察」
図8に、第2のIII族窒化物半導体層20における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像、及び、第2のIII族窒化物半導体層20を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像(図中、エピ成長前)を示す。平面微分干渉顕微鏡画像より、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の方が、第1の窒化物半導体層の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0072】
また、観察エリアごとにSa(μm)を算出し、その平均を算出した。第2のIII族窒化物半導体層20の平均値は、0.132μmであったのに対し、第1のIII族窒化物半導体層10の平均値は3.7561μmであった。この結果からも、第2のIII族窒化物半導体層20の成長面の方が、第1の窒化物半導体層の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0073】
<比較例1>
「第1のIII族窒化物半導体層10からなる基板の準備」
【0074】
実施例1と同様とした。
【0075】
「第2のIII族窒化物半導体層20に対応する層の形成」
第1のIII族窒化物半導体層10の成長面上に、MOCVD装置を用い、ダウンフロー方式でキャリアガスを第1のIII族窒化物半導体層10に供給しながら、第1膜及び第2膜がこの順に積層した積層体を形成した。なお、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前に、第1のIII族窒化物半導体層10に対して熱処理を行った。熱処理及び積層体の成長条件は、以下の通りである。
【0076】
<熱処理>
NH
3:15slm
H
2:10.5slm
N
2:4.5slm
圧力:500torr
温度:1050℃
<第1膜の成長条件>
TMGa(恒温槽2℃):250ccm
NH
3:15slm
V/III比:1000
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
H
2:10.5slm
N
2:4.5slm
圧力:500torr
成長温度:1100℃
成長速度:1.5μm/h
膜厚:0.5μm
【0077】
<第2膜の成長条件>
TMGa(恒温槽2℃):300ccm
NH
3:15slm
V/III比:1000
キャリアガス:H
2とN
2の混合ガス
H
2:10.5slm
N
2:4.5slm
圧力:200torr
成長温度:1150℃
成長速度:5.0μm/h
膜厚:15.0μm
【0078】
「観察」
図9に、第2膜における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像、及び、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像(図中、エピ成長前)を示す。平面微分干渉顕微鏡画像より、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10の方が、第2膜の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0079】
また、観察エリアごとにSa(μm)を算出し、その平均を算出した。第2膜の平均値は、1.407μmであったのに対し、第1のIII族窒化物半導体層10の平均値は3.226μmであった。この結果からも、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10の方が、第2膜の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0080】
<比較例2>
「第1のIII族窒化物半導体層10からなる基板の準備」
実施例1と同様とした。
【0081】
「第2のIII族窒化物半導体層20に対応する層の形成」
第1のIII族窒化物半導体層10のSa平均値が異なる基板を用いた点を除き、比較例1と同様とした。
【0082】
「観察」
図10に、第2膜における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像、及び、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10における各観察エリアの平面微分干渉顕微鏡画像(図中、エピ成長前)を示す。平面微分干渉顕微鏡画像より、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10の方が、第2膜の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0083】
また、観察エリアごとにSa(μm)を算出し、その平均を算出した。第2膜の平均値は、1.099μmであったのに対し、第1のIII族窒化物半導体層10の平均値は4.007μmであった。この結果からも、第1膜及び第2膜からなる積層体を形成する前の第1のIII族窒化物半導体層10の方が、第2膜の成長面よりも平坦性が高いことが分かる。
【0084】
以下、参考形態の例を付記する。
1. III族窒化物半導体で構成された第1のIII族窒化物半導体層と、
前記第1のIII族窒化物半導体層の第1の面上にIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長することで形成され、露出している成長面はCMP(Chemical Mechanical Polishing)処理をなされておらず、かつ、前記成長面は前記第1のIII族窒化物半導体層の前記第1の面よりも平坦性が高い第2のIII族窒化物半導体層と、
を有するIII族窒化物半導体基板。
2. 1に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記第2のIII族窒化物半導体層は、炭素を不純物として含むIII族窒化物半導体基板。
3. 1に記載のIII族窒化物半導体基板おいて、
前記第2のIII族窒化物半導体層は、シリコンを不純物として含むIII族窒化物半導体基板。
4. 1から3のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記第2のIII族窒化物半導体層は、互いに膜組成が異なる複数の膜からなるIII族窒化物半導体基板。
5. III族窒化物半導体で構成された第1のIII族窒化物半導体層を準備する準備工程と、
前記第1のIII族窒化物半導体層の第1の面上に、所定の条件でIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させることで、露出している成長面が前記第1のIII族窒化物半導体層の前記第1の面よりも平坦性が高い第2のIII族窒化物半導体層を形成する成長工程と、
を有するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
6. 5に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記成長工程では、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置を用い、成長温度を1180℃以上1300℃以下とした成長条件で、III族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体基板の製造方法。
7. 5又は6に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記成長工程では、MOCVD装置を用い、水素キャリア流量を10.5slm以上20.0slm以下とした成長条件で、III族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体基板の製造方法。
8. 5から7のいずれかに記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記成長工程では、互いに膜組成が異なる3つの膜が積層した前記第2のIII族窒化物半導体層を形成し、
最下層の膜の成長速度は、0.5μm/hr以上2.0μm以下であり、
前記最下層の直上の膜の成長速度は、1.5μm/hr以上8.0μm以下であり、
最上層の膜の成長速度は、15.0μm/hr以上40.0μmであるIII族窒化物半導体基板の製造方法。