(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係合部が、前記チューブ状部材の材料の一部である樹脂で形成された部分、又は前記樹脂とは異質の材料で形成された部分であり、前記涙道チューブ操作具の先端外径よりも小径の内径を有する請求項2に記載の涙道チューブ。
前記未コーティング部分が前記チューブ状部材の周囲方向に沿うように、全域に亘って延びる又は部分的に亘って延びる請求項1〜6のいずれか1項に記載の涙道チューブ。
前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の少なくとも一部が、前記チューブ状部材の前記一方端に向かって先細る請求項1〜7のいずれか1項に記載の涙道チューブ。
前記未コーティング部分に隣り合う前記親水性コーティング部分の前記チューブ状部材も、前記チューブ状部材の前記一方端に向かって先細る請求項8に記載の涙道チューブ。
前記未コーティング部分のチューブ状部材及び前記未コーティング部分よりも前記他方端側に位置する親水性コーティング部分の前記チューブ状部材が共に前記一方端側に向かって先細りしており、
前記一方端側に向かって先細りした前記チューブ状部材において、前記親水性コーティング部分の全長が、前記未コーティング部分の全長に比べて長い請求項9に記載の涙道チューブ。
【背景技術】
【0002】
流涙症をもたらす涙道閉塞の治療には、(i)涙道ブジーによるプロービング、(ii)涙道チューブの留置、(iii)涙嚢鼻腔吻合術(DCR)、(iv)涙小管形成術、(v)鼻涙管形成術、(vi)涙丘移動術などがある。
【0003】
前記(i)の涙道ブジーによるプロービングは、ブジーと呼ばれる細管を涙道内に挿入することで閉塞部位を開通させ、涙液の流路を再建するものである。その後に使用する(ii)涙道チューブは、流路の維持と組織の再建を図るために留置する涙道内挿管器具である。これらの治療は容易で低侵襲であることから第一治療として行われる場合が多い。これに対して、(iii)涙嚢鼻腔吻合術(DCR)、(iv)涙小管形成術、(v)鼻涙管形成術、(vi)涙丘移動術は、効果は高いが、顔に切開を入れたり骨に穴をあけたりするので相対的に侵襲度が高く、最終手段として行われる。
【0004】
前記(ii)において使用する涙道チューブは、前記(i)の涙道ブジーによるプロービングのあと、流路の維持と組織の再建を図るために留置するものである。前記(ii)の涙道チューブの留置は前述の(iii)〜(vi)の各治療方法と比して容易で低侵襲、かつ効果が高い。その中でも特許文献1に示されるような、チューブの中央部分が細く柔らかいチューブやロッドで形成され、その両側が硬く太いチューブでできている涙道チューブ(例えば、特許文献1、2、3を参照)が広く普及している。
【0005】
当該涙道チューブは、チューブと、該チューブの両側の切れ目から挿入された一対のブジーからなり、ブジーを操作してチューブを涙道内へと誘導し留置する。尚、特許文献1の
図2に示すように、涙道は涙点(21、22)、涙小管(23、24)、涙嚢(26)、鼻涙管(27)などからなっている。この涙道内に涙道チューブが挿入される。
【0006】
しかし、前記涙道チューブを挿入するためには、涙道内操作を手探り状態で行わなければならず、ブジーは盲目的に操作されるため、チューブを突き破ったり、また正常な涙道以外に穴(仮道)を開けてしまうこともあり、その場合、治療成績は不良であった。
【0007】
また、近年の涙道閉塞治療の分野では、シース誘導内視鏡下穿破法に基づく手術が新たに行われるようになってきている。この手術は、涙道内視鏡に被せたテフロン(登録商標)製又はポリウレタン製の外筒部分のシースを涙道内で涙道内視鏡よりも先行させることで、涙道内の閉塞部をシース先端が開放する様子を後方から観察することが可能であり、また、前記シースをチューブ挿入のためのガイドとすることで、正確なチューブ挿入を行うことができる点で優れた手法である。具体的には、
図1(a)に示すように涙道内視鏡29に装着したシース30を、上涙点21から上涙小管23を経て涙道31の下鼻道28にある閉塞部位32に挿入し、この閉塞部位32を貫通した後、涙道内視鏡29を取り外す。次に
図1(b)に示すように前記シース30に涙道チューブ33を接続し、前記涙道チューブ33を接続した側と反対側から前記シース30を引っ張って涙道31内に前記涙道チューブ33を貫通させる。次に、
図1(c)に示すように前記シース30を取り外して前記涙道チューブ33を涙道31内に留置する。
次いで、図示しないが、涙道内視鏡29に装着した別のシース30を、涙道チューブ33を挿入していない下涙点22から下涙小管24を経て涙道31の下鼻道28にある閉塞部位32に挿入し、この閉塞部位32を貫通した後、涙道内視鏡29を取り外し、このシース30に、前記閉塞部位32を貫通していない涙道チューブ33の端部を接続し、前記涙道チューブ33を接続した側と反対側から前記シース30を引っ張って涙道チューブ33のもう一方の端部を貫通させ、最後に前記シース30を取り外して前記涙道チューブ33を涙道31内に留置する。
【0008】
しかし、上記の方法であると、患者の涙道に挿入されたシース30と前記涙道チューブ33とを接続する工程が必要であり、また、シース30と涙道チューブ33との接続が外れる場合は失敗に結びつく可能性がある。実際、シースとしては内径や材質などは様々なものが使用されており、手技の確実性、煩雑さの低減を考慮すると、涙道チューブには、種々の材質のシースの穴へもスムーズに挿入できる挿入性、手術中にシースとの接続が外れない固着性、及び涙道内でスムーズに操作できる操作性をいずれも満たす必要があった。
【0009】
一方、シースのかわりに涙道チューブに涙道内視鏡を挿入して用いることも考えられるが、例えば、涙道に挿入できる外径を持ち、柔軟性を有する材料で構成された涙道留置用本体と、この涙道留置用本体の下端部に設けられ、涙道留置用本体よりも硬い材料で構成された柔軟性を有する筒体よりなるシース部とを備えたことを特徴とする涙道治療用具(特許文献4)が知られている。
しかし、前記涙道治療用具を前記シース誘導内視鏡下穿破法に使用する場合、前記涙道治療用具では、全長が長くなるために全般的に操作がし難くなる傾向があり、また、涙道内に配置後に涙道治療用具本体とシース部を分離する必要もあった。
【0010】
以上のように、現在、涙道閉塞治療では様々な手法が採用されているが、いずれの涙道閉塞治療であっても使用できる涙道チューブの開発は十分とはいえず、改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的は、様々な涙道閉塞治療に好適に使用できる涙道チューブ、具体的には、シース誘導内視鏡下穿破法のようにシースを用いる場合には、シースへの挿入性に優れながら、シースにしっかりと固定することができ、かつ、涙道チューブを直接涙道に挿入する場合には涙道の通過性や操作性に優れた涙道チューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく、鋭意検討を進めた。その結果、涙道チューブを構成するチューブ状部材の表面の構成に着目し、親水性コーティング部分と、親水性コーティングが形成されていない未コーティング部分とを設けることで、シース誘導内視鏡穿破法ではシースへの挿入性に優れながら、シースにしっかりと固定することができ、かつ、涙道チューブを直接涙道に挿入する場合には涙道の内部の通過性や操作性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
〔1〕一方端に内腔へ連通する開口部を有するとともに、涙道チューブ操作具を前記内腔に導く孔部を壁部に有する一対のチューブ状部材と、
前記チューブ状部材の他方端同士をつなげる接続部材と、
を含む涙道チューブであって、
前記チューブ状部材の表面に、親水性コーティング部分と前記親水性コーティングが形成されていない未コーティング部分とが含まれる涙道チューブ。
【0016】
〔2〕前記開口部付近の前記内腔に、前記涙道チューブ操作具の先端に係り合う係合部が含まれており、
前記未コーティング部分が、前記係合部を設けた位置の前記チューブ状部材の表面と重ならずにずれて形成されている前記〔1〕に記載の涙道チューブ。
【0017】
〔3〕前記係合部が、前記チューブ状部材の材料の一部である樹脂で形成された部分、又は前記樹脂とは異質の材料で形成された部分であり、前記涙道チューブ操作具の先端外径よりも小径の内径を有する前記〔2〕に記載の涙道チューブ。
【0018】
〔4〕前記未コーティング部分の一部又は全部が、前記チューブ状部材の一方端から12mm以下までの間に形成されている前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0019】
〔5〕前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の外径が1.0mm以上1.7mm以下である前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0020】
〔6〕前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の外径が1.2mm以上1.4mm以下である前記〔5〕に記載の涙道チューブ。
【0021】
〔7〕前記未コーティング部分が、前記チューブ状部材の一方端から3mmの位置に重なるように形成されている前記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0022】
〔8〕前記未コーティング部分が前記チューブ状部材の周囲方向に沿うように、全域に亘って延びる又は部分的に亘って延びる前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0023】
〔9〕前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の少なくとも一部が、前記チューブ状部材の前記一方端に向かって先細る前記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0024】
〔10〕前記未コーティング部分に隣り合う前記親水性コーティング部分の前記チューブ状部材も、前記チューブ状部材の前記一方端に向かって先細る前記〔9〕に記載の涙道チューブ。
【0025】
〔11〕前記未コーティング部分のチューブ状部材及び前記未コーティング部分よりも前記他方端側に位置する親水性コーティング部分の前記チューブ状部材が共に先細りしており、
その先細りした前記チューブ状部材において、前記親水性コーティング部分の全長が、前記未コーティング部分の全長に比べて長い前記〔10〕に記載の涙道チューブ。
【0026】
〔12〕前記チューブ状部材の最大外径が1.4mm以上1.7mm以下である前記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0027】
〔13〕前記孔部が、前記涙道チューブ操作具となる操作棒又は涙道内視鏡の挿入口である前記〔1〕〜〔12〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0028】
〔14〕前記一方端がシースの開口端に差しこまれることで、前記未コーティング部分と前記シースの内腔壁とが係り合い、そのシースの移動による連動で涙道内閉塞部に到達し、その閉塞部に留置される前記〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の涙道チューブ。
【0029】
〔15〕前記シースの内腔の内径(DI)と、前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の外径(DT)とが、以下の関係式(1)を満たす前記〔14〕に記載の涙道チューブ。
1.00≦DT/DI≦1.89 (1)
〔16〕前記DIと、前記DTとが、以下の関係式(2)を満たす前記〔15〕に記載の涙道チューブ。
1.20≦DT/DI≦1.56 (2)
【発明の効果】
【0030】
本発明の涙道チューブによれば、一方端に内腔へ連通する開口部を有するとともに、涙道チューブ操作具を前記内腔に導く孔部を壁部に有する一対のチューブ状部材を用いているため、シース誘導内視鏡下穿破法のようにシースに挿入して用いるだけでなく、涙道チューブを直接涙道に挿入することもでき、特に、一方端が盲端となっている涙道チューブに比べると、前記孔部から挿入した内視鏡の先端を前記開口部付近にまで挿入することで、前記開口部を経て涙道内視鏡からの視野確保ができ、チューブが通されている経路の状況を確実に知ることができ、チューブが仮道を作ったりして、粘膜等を傷付け出血を引き起こす等の問題を避けることができる。
そして、前記チューブ状部材の表面に、親水性コーティング部分を設けることで、シースや涙道への挿入性や涙道内での操作性に優れるものとし、さらに前記チューブ状部材の表面に未コーティング部分を設けることで涙道チューブをシースに挿入した場合にしっかりと固定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明でいう涙道とは、
図2に示すように、上/下涙点(21/22)、上/下涙小管(23/24)、総涙小管(25)、涙嚢(26)、鼻涙管(27)、鼻腔管(図示せず)、Hasner’s valve(図示せず)から構成され、涙腺(図示せず)から産出された涙液を眼表面から下鼻道(28)へと導く管(眼球付属器)である。
図2は、涙道の解剖学的な構造を模式的に示したものである。尚、上涙点(21)から、上涙小管(23)、総涙小管(25)を経て下鼻道(28)へと導く管を上涙道といい、下涙点(22)から下涙小管(24)、総涙小管(25)を経て下鼻道(28)へと導く管を下涙道という。
【0034】
本発明の涙道チューブは、前記涙道内に留置されるチューブであり、
一方端に内腔へ連通する開口部を有するとともに、涙道チューブ操作具を前記内腔に導く孔部を壁部に有する一対のチューブ状部材と、
前記チューブ状部材の他方端同士をつなげる接続部材と、
を含む涙道チューブであって、
前記チューブ状部材の表面に、親水性コーティング部分と前記親水性コーティングが形成されていない未コーティング部分とを含む。
【0035】
前記チューブ状部材を構成する樹脂としては、特に限定はなく、例えば、シリコーン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、イソブチレン系共重合体、及びこれらのアロイなどを含む樹脂組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明では、上記アロイとしては特に限定はないが、例えば、ポリウレタンとイソブチレン系共重合体のアロイを用いる場合、前記イソブチレン系ブロック共重合体(A)と、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)との割合を調整することで、チューブの硬さを調整できる。熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合を大きく設定するほど、チューブの硬度を大きくすることができる。尚、抗血栓性、表面滑り性、柔軟性の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)が1重量%以上含まれていることが好ましい(即ち、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜99/1)。中でも、耐摩耗性の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜70/30であることが好ましい。特に、圧縮応力の観点から考えると、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)の割合が、重量比で(A)/(B)=1/99〜50/50であることが好ましい。本発明に用いられる一体のチューブ用の樹脂組成物はイソブチレン系ブロック共重合体(A)と熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)のみからなるものでもよいが他の成分を混合してもよい。
【0036】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)として、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下、SIBSという場合がある)である(株)カネカ社製の「SIBSTAR102T」が好ましい。熱可塑性ポリウレタン系樹脂(B)(以下、TPUという場合がある)として、エーテル系芳香環式ポリウレタンである日本ミラクトラン社製の「ミラクトランE385PNAT」、Lubrizol社製「テコタンTT1074A」又はエーテル系脂環式ポリウレタンであるLubrizol社製の「テコフレックスEG100A」、「テコフレックスEG85A」又はポリカーボネート系ポリウレタンであるLubrizol社製「カルボタンPC3575A」などが好ましい。
【0037】
前記チューブ状部材の構造としては、同一の樹脂組成物からなる一体型のチューブでもよいし、樹脂の種類が異なる複数の層が厚み方向に積層された積層構造を有するチューブでもよいし、樹脂の異なるチューブを長手方向に沿って連結させた列構造を有するチューブでもよいし、前記積層構造及び列構造の混合構造を有するチューブでもよく、特に限定はない。
【0038】
前記チューブ状部材の内腔は、涙道チューブを涙道に挿入する際にはチューブ状部材の壁部に設けた孔部から挿入した涙道チューブ操作具などを収容するための空間となり、また涙道チューブを涙道に留置した際にはチューブ状部材の壁部に設けた孔部や開口部を通じて涙などの体液の流路となる。
前記内腔の直径及び形状については、市販の涙道チューブと同様であればよく、特に限定はない。
【0039】
また、前記内腔について、開口部付近の内腔に、前記棒状の涙道チューブ操作具の先端に係り合う係合部を設けることができる。
前記係合部は、前記涙道チューブ操作具の先端外径よりも小径の内径となるようにしていればよい。また、前記係合部は前記チューブ状部材の材料の一部である樹脂で形成されていてもよいし、前記樹脂とは異質の材料で形成されていてもよい。
【0040】
前記異質の材料としては、特に限定はなく、各種硬質樹脂、ステンレスなどの金属が挙げられる。体液や薬液などとの接触による腐食防止の観点から、ステンレスが好ましい。
前記異質の材料で形成された係合部としては、例えば、補強体が挙げられる。前記補強体の形状は特に限定はなく、チューブ状部材の開口部の近傍に配置可能であり、チューブ状部材の内腔に挿入された涙道内視鏡の視野の確保が可能で、涙道内視鏡のストッパーの役目を果たすことが可能な形状であればよく、略リング形状などが挙げられる。
具体的には、略リング形状の係合部とチューブ状部材が概ね同軸状に配されたうえで、係合部はその軸方向(チューブ状部材の軸方向と一致する)の両端が開口する筒状構造とすればよい。また、前記筒状構造としては、特に限定はないが、例えば、係合部とチューブ状部材の軸方向に対して垂直方向にある幅が、チューブ状部材の他方端側から一方端側に移行するにつれて連続的に減少するような構造、例えば、前記軸方向と垂直方向にある面が他方端側から一方端側に移行するにつれて縮径されるような構造、いわゆるテーパー形状であるもの、前記筒状構造の内壁面の構造が、例えばお椀状のように傾斜角度が連続的に変化して縮径したもの、前記筒状構造の内壁面の幅が連続的に減少する構造や、内壁面が連続的に縮径する構造、係合部がチューブ状部材と同軸状に配され、係合部とチューブ状部材の軸方向に対して垂直方向の係合部の幅が、段階的に減少する段差部を備えるような構造を採用することができる。
【0041】
前記係合部の配置位置は、前記チューブ状部材の開口部の近傍で、当該開口部から所定距離となるように構成されている。前記所定距離としては、涙道内視鏡に対するストッパーとしての役目と、涙道内視鏡の視野確保の観点から決定される。例えば、涙道内視鏡の視野確保の観点からは、涙道内視鏡先端部のレンズ位置が、チューブ状部材の開口部の最末端部から2mm以内であるのが好ましい。また、涙道内視鏡の視野範囲を70%以上確保する観点からは、涙道内視鏡先端部のレンズ位置は、より好ましくは1.5mm以内、さらに好ましくは1mm以内である。従って、涙道内視鏡の視野確保の観点からは、前記所定距離は、前記開口部(開口部の最末端部)から好ましくは2mm以内、より好ましくは1.5mm以内、さらに好ましくは1mm以内である。
【0042】
前記係合部は、チューブ状部材の一方端側の開口部付近の内径を、所定の外径の芯材に対し熱加工を用いて減径することで形成することができる。また、本発明の涙道チューブを構成するチューブ状部材の一方端側の開口部に、別のチューブ状部材を接続して減径してもよい。
また、前記係合部の形状としては、棒状操作具を係止できればよく特に限定はない。例えば、チューブ状部材の肉厚方向の断面形状が円形であってもよいし、円形のうちの一部が欠けた形状でもよいし、内腔に突き出た部分を少なくとも1つ以上有する形状でもよい。
【0043】
前記係合部におけるチューブ状部材の内径については、前記棒状操作具の直径よりも小さければよいが、涙道内視鏡の視野を十分に確保する観点から、0.50〜0.90mmであるのが好ましく、0.65〜0.86mmがより好ましい。
【0044】
前記のように、チューブ状部材の一方端の開口部の近傍で、開口部から所定距離になるように係合部を配していることによって、涙道内視鏡の視野を確保しつつ、涙道内視鏡に係る力を利用してのチューブ状部材の涙道への挿入が円滑になる。さらに開口部からの涙道内視鏡の不慮の突き抜けリスクも補強体などの係合部がストッパーの役目となり、低減できる。このような効果は、開口部からの距離に加え、開口部の開口径を上記のように調整することにより、さらに向上することが可能である。
また、涙道内視鏡を用いている間は、チューブ状部材が通されている経路を知ることが確実であり、チューブが仮道を作ったりして、粘膜等を傷つけ出血を引き起こす等の問題を避けることができる。
【0045】
前記チューブ状部材の一方端にある開口部は、涙道チューブを留置した際には涙などの体液の流路の一部となり、また壁部に設けた孔部から挿入した涙道内視鏡の先端部を前記開口部付近にまで挿入した際には、前記開口部を経て涙道内視鏡からの視野を確保して、チューブが仮道を作ったりして、粘膜等を傷付け出血を引き起こす等の問題を避けることができる。
前記開口部の大きさ及び形状については、市販の涙道チューブと同様であればよく、特に限定はないが、涙道内視鏡の視野範囲は、涙道内視鏡のいわゆる視野角を別にすれば、開口部の径(特に開口部の一方端側の径)の大きさによっても影響を受け得るため、開口部の径(開口径とも称する)は、涙道内視鏡の視野確保の観点からは、大きいほど好ましい。一方、開口径を大きくすると、一方端側のチューブ状部材の肉厚が小さくなり、前記係合部を保持することが困難となり、涙道内視鏡にかかる力を利用してチューブ状部材を涙道へ挿入する際に、開口部から涙道内視鏡の先端が突き抜ける可能性がある。そのため、係合部を保持し、涙道内視鏡の突き抜け防止と涙道内視鏡の視野確保の観点から、開口部の径(開口径)は、0.5〜0.8mmであるのが好ましく、0.65〜0.75mmがより好ましい。
【0046】
前記チューブ状部材の壁部に設ける孔部は、涙道チューブを留置した際には涙などの体液の流路の一部となり、また、涙道チューブを涙道に挿入する際に涙道チューブ操作具などを挿入するための差し込み口となる。
前記孔部の大きさとしては、前記涙道チューブ操作具が挿入できればよく特に限定はないが、前記孔部と一方端の開口部との間を涙などの体液が流れる効果があるため、ある程度の大きさの孔であることが好ましく、また孔部の形状としては、円状、楕円形状、四角状、多角形状などの形状にすればよく特に限定はないが、涙道内視鏡との摩擦を低減するために楕円形状が好ましい場合がある。
【0047】
また、チューブ状部材の外径は、涙道に挿入可能な範囲であればよいが、例えば、最大外径は1.4mm以上1.7mm以下であれば、国籍、性別の違いによらず、幅広い患者の涙道に対応することができる。
【0048】
本発明の涙道チューブは、前記チューブ状部材の表面に、親水性コーティング部分と前記親水性コーティングが形成されていない未コーティング部分とを含む点に一つの特徴がある。親水性コーティング部分をチューブ状部材の表面に形成することで、シースや涙道への涙道チューブの挿入性や涙道内での涙道チューブの操作性を優れたものとし、さらに未コーティング部分も設けることで涙道チューブをシースに挿入した場合にシースをしっかりと固定することもできるため、本発明の涙道チューブは、現在行われている様々な涙道閉塞治療に幅広く対応することができる。
【0049】
前記親水性コーティング部分に用いる親水性コーティングとは、血液や涙液と接触した際に潤滑性が発現し、涙道挿入時の抵抗が低減され、涙道内で好適な操作性を実現するためのものである。親水性コーティングの種類は特に限定されず、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、モノメトキシポリアルキレングリコール等の親水性ポリマー、又はこれらのブレンド等が好適に使用される。
なお、親水性コーティング部分の位置については、特に限定はないが、シースや涙道への挿入性に優れる観点からは一方端側に設けることが好ましく、涙道内での操作性に優れる観点からは他方端側に設けることが好ましい。
【0050】
本発明において、未コーティング部分とは、前記親水性コーティング部分が形成されていないチューブ状部材の表面部分をいう。
【0051】
前記未コーティング部分は、チューブ状部材の一方端側のシースが挿入可能な範囲に設けられていればよい。
【0052】
例えば、涙道チューブに前記係合部を有する場合、シース誘導内視鏡下穿破法において、シースへの挿入時には涙道チューブの外径よりシースの内径の方が小さいために係合部付近に押圧が多大にかかるが、この係合部を設けた位置の前記チューブ状部材の表面(係合部表面)に親水性コーティング部分を形成することでシースへの挿入がスムーズに行うことができ、またこの係合部表面と重ならずにずれた位置に未コーティング部分を形成しておくことで、シースを挿入することで、係合部表面よりも他方端にシースを挿入した場合に、涙道チューブとシースとをしっかりと固着することができる。
【0053】
また、様々な種類のシースや手技にも好適適用できる観点から、前記未コーティング部分の一部又は全部は前記チューブ状部材の一方端から12mm以下までの間に形成されていることが好ましい。
中でも前記未コーティング部分が前記チューブ状部材の一方端から3mmの位置に設けられていると、シース誘導内視鏡下穿破法において用いるシースの開口端にチューブ状部材の一方端が過度に侵入することなく係合でき、しかも抜け落ちないという利点がある。
【0054】
なお、シースが嵌らないチューブ状部材の表面にまで未コーティング部分を設ける必要はないことから、未コーティング部分よりも他方端側のチューブ状部材の表面には親水性コーティング部分が設けることで、涙道内での涙道チューブの操作性を向上させることができる。
【0055】
また、前記未コーティング部分は、前記チューブ状部材の周囲に沿うように、全域に亘って延びるように形成されていてもよいし、部分的に亘って延びるように形成されていてもよく、特に限定はない。
【0056】
前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の外径は、シース誘導内視鏡下穿破法において用いるシースへの嵌り易さ及び抜けにくさ、涙点経由での涙道への入り易さの観点から、1.0mm以上1.7mm以下であることが好ましく、1.2mm以上1.4mm以下であることがより好ましい。
【0057】
また、前記未コーティング部分を含むチューブ状部材の形状について、シースや涙道へチューブ状部材が入り易くなる観点から、前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の少なくとも一部が前記チューブ状部材の一方端に向かって先細る形状であることが好ましい。
この先細る形状としては、例えば、未コーティング部分のチューブ状部材の一部又は全部にテーパーや段又はテーパーおよび段の両方が設けられていればよい。
【0058】
また、前記未コーティング部分に隣り合う親水性コーティング部分のチューブ状部材の形状について、涙道へチューブ状部材が入り易くなる観点から、前記親水性コーティング部分のチューブ状部材も、前記チューブ状部材の一方端に向かって先細る形状であることが好ましい。
この先細る形状としては、例えば、親水性コーティング部分のチューブ状部材の一部又は全部にテーパーや段又はテーパーおよび段の両方が設けられていればよい。
【0059】
また、前記未コーティング部分のチューブ状部材と、未コーティング部分より他方端側に位置する親水性コーティング部分のチューブ状部材とがともに先細る形状となっている場合、親水性コーティング部分の全長を未コーティング部分の全長に比べて長くすることで、特に涙道チューブを涙道に直接挿入する際の挿入性や涙道内での操作性に優れたものとなり、患者への負担を軽減させることができる。
【0060】
また、本発明では、前記シースの内腔の内径(DI)と、前記未コーティング部分の前記チューブ状部材の外径(DT)とが以下の関係式(1):
1.00≦DT/DI≦1.89 (1)
を満たすことで、チューブ状部材がシース開口部に入り易く、かつ入ってしまうとシース内腔壁と未コーティング部分のチューブ状部材の表面との間での接触が十分となり、シースから涙道チューブが押し戻されることもなくなる。
なお、前記「DT/DI」が大きいほど、シースの内腔の内径に対して未コーティング部分のチューブ状部材の外径の方が大きくなるためシース開口部への涙道チューブの挿入がし難くなり、またシースから涙道チューブが押し出される力が強くなり、反対に、前記「DT/DI」が小さいほどシースの内腔の内径に対して未コーティング部分のチューブ状部材の外形が小さくなるためシース開口部への涙道チューブの挿入がし易くなるが、シース内腔壁と未コーティング部分のチューブ状部材表面との間で未接触部分が生じ易くなる。
また、前記DT/DIは、以下の関係式(2):
1.20≦DT/DI≦1.56 (2)
を満たすことが好ましく、以下の関係式(3):
1.26≦DT/DI≦1.47 (3)
を満たすことがより好ましい。
【0061】
本発明で用いられるシースは、シリコン、ポリウレタン、ポリエチレン、テフロン(登録商標)などの柔軟性を有する透明又は半透明の円筒体で構成されているものであればよく、涙道閉塞治療に使用できるものであればよい。
なお、シース内径については、挿入するチューブ状部材の外径との関係から、0.9〜1.0mmの範囲であることが好ましい。
【0062】
前記接続部材は、2つのチューブ状部材の他方端どうしを接続するためのものであり、チューブ状部材よりも小さい径であればよい。接続部材を構成する樹脂としては、柔軟な樹脂で構成されていればよく、例えば、シリコーン、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、イソブチレン系共重合体、及びこれらのアロイなどを含む樹脂組成物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明で用いられる涙道チューブ操作具としては、涙道チューブを涙道に挿入、留置する際に涙道チューブに挿入した状態で涙道チューブを涙道内に誘導し、その後、抜去する器具のことをいい、例えばブジーなどの操作棒がこれに該当する。また、涙道内を目視により観察しながら挿入する際には、ブジーなどの操作棒に替えて涙道内視鏡をするが、このような涙道内視鏡も、涙道チューブ操作具に該当する。
前記操作棒及び涙道内視鏡としては、涙道閉塞治療に使用できるものであればよく、特に限定はない。
【0064】
以下に本発明に係る涙道チューブを図面に示した複数の実施形態に基づき説明するが、本発明はこれらの実施態様により何ら制限されるものではない。
【0065】
図3は、本発明の涙道チューブ1の外観の一例を示したものである。涙道チューブ1は、一方端に開口部2、側壁に内腔3に通じる孔部4を有する一対のチューブ状部材5a、5bと、前記チューブ状部材5a、5bの他方端同士をつなげる接続部材6とを含む。
本実施形態の涙道チューブ1では、チューブ状部材5a、5bは、該チューブ状部材5a、5bよりも細く形成された接続部材6と接続されている。
チューブ状部材5a、5bと接続部材6との接続については、例えば、チューブ状部材5a、5bの外側樹脂材料と接続部材6とを接続する場合は、チューブ状部材5a、5bの開口部2と反対側の端部を縮径し、その外側樹脂材料を最端部に配置するように閉じてから接続部材6と溶着すればよい。また、チューブ状部材5a、5bの内側樹脂材料と接続部材6とを接続する場合は、チューブ状部材5a、5bの開口部2とは反対側の内腔内に接続部材6の端部を挿入したのち、常法に従って、加熱してチューブ状部材5a、5bと接続部材6とを溶着すればよい。
【0066】
チューブ状部材5a、5bとしては、
図3に示すように、円筒状の形状であってもよいし、
図5に示すように、一方端側に向かって先細りした形状でもよい。
【0067】
チューブ状部材5a、5bの最大外径は、1.4mm以上、1.7mm以下であることが好ましい。
【0068】
図4は、
図3に示す涙道チューブ1の孔部4から棒状の涙道チューブ操作具(操作棒)7が挿入されている状態を示す。なお、
図3、4に示す孔部4の形状は、楕円形状となっているが、棒状の涙道チューブ操作具7が挿入し易い大きさの円形状、四角形状、多角形状の孔や切り込み形状であってもよい。
前記棒状の涙道チューブ操作具7としては、涙道内視鏡も含まれる。
【0069】
図5(a)は、本発明の涙道チューブ1の一実施形態であり、
図5(b)はチューブ状部材5aの一方端側の概略図を示す。このチューブ状部材5aの表面には、未コーティング部分8が設けられており、前記未コーティング部分8以外のチューブ状部材5aの表面は、親水性コーティングが施された親水性コーティング部9となっている。
【0070】
未コーティング部分8は、
図5(a)、
図5(b)に示すように、チューブ状部材5aの周囲方向に沿うように全域に亘って延びて形成されていてもよいし、
図6(a)に示すように、チューブ状部材5aの周囲方向に沿うように部分的に亘って延びるように形成されていてもよい。また、
図6(b)に示すように、複数の未コーティング部分8が形成されていてもよい。
【0071】
未コーティング部分8の位置については、未コーティング部分8の一部又は全部がチューブ状部材5aの一方端から12mm以下までの間に形成されていることが好ましい。例えば、
図5(b)、
図6(a)、6(b)において、Xの位置がチューブ状部材5aの一方端から12mmの位置であるとすると、
図5(b)では未コーティング部分8の全部、
図6(a)、6(b)では未コーティング部分8の一部がそれぞれ前記一方端から12mm以下までの間に形成されている状態を示す。
【0072】
また、未コーティング部分8は、チューブ状部材5aの一方端から3mmの位置に重なるように形成されていることが好ましい。例えば、
図5(b)、
図6(a)、6(b)のチューブ状部材5aでは、該チューブ状部材5aの一方端から3mmの位置Yに未コーティング部分8が設けられている。また、未コーティング部分8の位置としては、例えば、
図5(b)、
図6(a)、6(b)に示す位置Yよりも、チューブ状部材5aの一方端側に延びるように形成されていてもよい。
【0073】
未コーティング部分8のチューブ状部材5aの形状としては、少なくとも一部がチューブ状部材5aの一方端に向かって先細る形状であることでシースへの挿入性がより向上する。前記先細る形状としては、例えば、
図5(b)、
図6(a)、6(b)に示すように、テーパーが設けられていてもよいし、
図7(a)に示すように段が設けられていてもよい。
【0074】
前記未コーティング部分8に隣り合う親水性コーティング部分9のチューブ状部材5aの形状としては、少なくとも一部がチューブ状部材5aの一方端に向かって先細る形状であってもよい。前記先細る形状としては、例えば、
図5(b)、
図6(a)、6(b)に示すようにテーパーが設けられていてもよいし、
図7(a)、7(b)に示すように段が設けられていてもよい。
【0075】
また、
図5(b)、
図6(a)、6(b)、
図7(a)、7(b)に示すように、未コーティング部分8のチューブ状部材5a及び前記未コーティング部分8よりも他方端側に位置する親水性コーティング部分9のチューブ状部材5aが共に先細りしている場合、前記親水性コーティング部分9の全長が、未コーティング部分8の全長に比べて長いことが好ましい。ここで、長さとは、チューブ状部材5aの長手方向Zの長さをいう。
親水性コーティング部分9の全長とは長手方向Zで最大の長さをいい、親水性コーティング部分9が複数ある場合にはその合計の長さをいう。例えば、
図6(a)に示すように未コーティング部分8がチューブ状部材5aの全周囲に設けられていない場合、一方端から他方端までの親水性コーティング部分9の長さが全長となる。また、
図7(a)に示すように未コーティング部分8がチューブ状部材5aの全周囲に設けられていて、親水性コーティング部分9が2つにわかれている場合には、それぞれの長さの合計が親水性コーティング部分9の全長となる。
同様に、未コーティング部分8の全長も同様に、長手方向Zで最大の長さという。
【0076】
また、前記未コーティング部分8のチューブ状部材5aの外径としては、1.0mm以上1.7mm以下が好ましく、1.2mm以上1.4mm以下がより好ましい。
前記親水性コーティング部分9のチューブ状部材5aの外径については、特に限定はない。
【0077】
また、
図8(a)、8(b)に示すように、チューブ状部材5aの開口部2付近の内腔3に、前記涙道チューブ操作具7の先端に係り合う係合部10a、10bが設けられていてもよい。
係合部10a、10bは、孔部4から内腔3内に収まった涙道チューブ操作具7の先端と係わり合うことで、前記涙道チューブ操作具7の先端が開口部2から突き出ることを防ぐことができる。
【0078】
例えば、
図8(a)に示す係合部10aのようにチューブ状部材5aの厚みを変え、内腔3の内径を狭めることで形成されていてもよいし、
図8(b)に示す内腔3よりも小径の略リング状の係合部10bでもよい。略リング状(底を開口にしたカップ状)の係合部10bは、チューブ状部材5aとは別の各種硬質材質、ステンレスなどの金属で形成されていてもよい。
前記係合部10bの形状としては特に限定はないが、例えば、前記チューブ軸方向に垂直方向の幅が、一方端側に向かって連続的に減少するテーパーや段階的に減少する段差部を備えていてもよい。
【0079】
また、前記係合部10a、10bを有する本発明の涙道チューブ1では、
図8(a)、8(b)に示すように、前記係合部10a、10bのチューブ状部材5aの表面に親水性コーティング部分9が形成され、前記表面と重ならずに未コーティング部分8が形成されていることが好ましい。
【0080】
本発明の涙道チューブ1は、シース誘導内視鏡下穿破法にも好適に使用される。例えば、
図9に示すように、前記一方端がシース30の開口端に差しこまれ、未コーティング部分8と前記シース30の内腔壁とが係り合い、そのシース30の移動による連動で涙道内閉塞部に到達してから、その閉塞部に留置される。
この場合、
図9に示すように、涙道チューブ1の一方端にシース30を装着する際に、シース30の内腔の内径(DI)と、前記未コーティング部分8のチューブ状部材5aの外径(DT、図示せず)が以下の関係式(1):
1.00≦DT/DI≦1.89 (1)
を満たす涙道チューブ1であれば、シース30へ挿入性及び固着性に優れたものとなる。また、前記DT/DIとしては、好ましくは以下の関係式(2):
1.20≦DT/DI≦1.56 (2)
を満たすこと、より好ましくは以下の関係式(3):
1.26≦DT/DI≦1.47 (3)
を満たすことで、シース30への挿入性及び固着性がより優れたものとなる。
【実施例】
【0081】
(実施例1)
表1に示すような構成のチューブ状部材5a−1〜5a−3と接続部材6とを用い、以下のようにして涙道チューブ1を作製した(なお、チューブ部状部材5bについてはチューブ状部材5aと構成が同じであるため、説明は省略する。)。
まず、接続部材6の両端の各々に、チューブ状部材5a−1を溶着して繋げた後に、その表面に親水性コーティングを施した。その後、このチューブ状部材5a−1の先端(自由端)に、未コーティングのチューブ状部材5a−2、このチューブ状部材5a−2の先端に、親水性コーティングを施したチューブ状部材5a−3を順にセットし溶着させ、テーパー形状とした(テーパー形状については、
図5(b)の未コーティング部分8と、その未コーティング部分8から一方端側に隣接する親水性コーティング部分9及び他方端側に隣接する親水性コーティング部分9とを参照。なお、表1に各部材の材質、形状等を記載する)。
次いで、このように、一対のチューブ状部材5a−1〜5a−3と接続部材6とを一連状にした後、各チューブ状部材5a−3の自由端から30mmの位置に孔部4を形成し、さらにチューブ状部材5a−3部分の内腔の直径を縮径して係合部を形成した。
次いで、各チューブ状部材5a−3の先端(自由端)をカットして、カット後の先端を先細形状にし、かつ各チューブ状部材5a−3の先端から2mm〜5mmの位置に、チューブ状部材5a−2を配置させるようにした(
図5(b)参照)。
このようにして表面全周に亘って未コーティング部分8(チューブ状部材5a−2部分)を形成したチューブ状部材5aを有する涙道チューブを作製した。
なお、涙道チューブについては、チューブ状部材5aの一方端から3mmの部分の外径(DT)が0.9mm〜1.4mまで0.1mm毎に異なる6種類の涙道チューブとなっている。
【0082】
【表1】
【0083】
(比較例)
未コーティング部分8のかわりに親水性コーティング部分9を形成し、一方端から3mmの部分の外径(DT)が0.9mm〜1.1mmまで0.1mm毎に異なるチューブ状部材5a、5bを用いた以外は、実施例1と同様にして3種類の涙道チューブを作製した。
【0084】
(試験例)
18Gシース(サーフロフラッシュ(テルモ製)、コード番号SR-FS1851(長さ51mm、外径1.3mm、内径(DI)0.95mm))を用い、以下の測定方法に従って、シースへの挿入性、固着安定性、引抜荷重を調べた。
【0085】
(測定方法)
1)18Gシース(30)を付け根からカットし、末端部から5mmまでの位置を円周上で半分カットし(
図10)、次いで縦にスリットを入れて、ピンセットで把持できる部分を作製した(参考資料:あたらしい眼科29(7);933〜940)。
2)1)で作製したシースが全長35mmになるようにカットした。
3)シース及び涙道チューブ内を生理食塩水でフラッシュした。
4)ブジー(LACRIFAST((株)カネカ製、カタログ番号LF-R105)の付属品)を荷重計(デジタルフォースゲージFGC−0.5(日本電産シンポ株式会社社製))に取り付けた後、涙道チューブ内に孔部からブジーを挿入した。
5)涙道チューブの表面を濡らした後、把持部側のシースの開口部から涙道チューブの一方端から3mmまでを挿入した時の荷重を測定した(挿入荷重)。
6)次いで、涙道チューブ内からブジーを引抜いた。
このブジー引き抜き時又はブジー引き抜き後に涙道チューブがシースから飛び出るかどうかを調べた(固着安定性)。
7)涙道チューブとシースをチャックして、引張試験機を使用して、シースから涙道チューブを引抜く時の荷重を測定した(引抜荷重)。
【0086】
なお、引張試験機の条件は以下のとおり。
・ロードセルオートグラフ EZ−TEST(株式会社島津製作所):20N
・チャック間距離:20mm
【0087】
測定結果を表2に示す。なお、評価基準は以下のとおり。
判定 (サンプル数N=3)
(シースへの挿入性)
○ :チューブ先端から3mmの位置までシース内へ入る
× :チューブ先端から3mmの位置までシース内へ入らない
(シースへの挿入荷重)
◎ :平均1.5N以上、最低1.5N以上
○ :平均1.5N以上、最低1.5N以下
△ :平均1.0N以上、最低1.0N以下
× :平均0.5N以上、最低0.5N以下
(シース内での固着安定性)
○ :チューブ状部材を一方端からシース内へ挿入後、ブジー引抜時又はブジー引抜後にチューブ状部材がシースから飛び出る事がない
× :不安定 :チューブ状部材を一方端からシース内へ挿入後、ブジー引抜時又はブジー引抜後にチューブ状部材がシースから飛び出る場合がある
(シースからの引抜荷重)
○ :平均1.0N以上、最低1.0N以上
△ :平均1.0N以上、最低1.0N以下
× :平均1.0N以下、最低1.0N以下
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示す結果より、未コーティング部分を形成した涙道チューブはチューブ状部材の一方端から3mmの位置の外径(DT)が1.0〜1.4mmに調整されていれば、シースに挿入でき、挿入時の荷重も適当なものであり、固着安定性もあり、シースから引き抜き難いものであることがわかる。
一方、チューブ状部材の表面に未コーティング部分がない比較例1の涙道チューブはいずれもシース内に挿入可能であり、また挿入荷重が低いことから入り易かったものの、引き抜き荷重も低いことから引き抜き易いため、手術中に抜ける可能性が高いものであった。
また、チューブ状部材の外径が1.1mmのものはブジー引き抜き後にシースから涙道チューブが自然に飛び出してしまう場合もあった。