(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6499650
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】DC回路におけるAC成分を検出するための装置およびその装置の使用
(51)【国際特許分類】
G01R 19/00 20060101AFI20190401BHJP
H04B 3/54 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
G01R19/00 K
H04B3/54
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-530437(P2016-530437)
(86)(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公表番号】特表2016-525692(P2016-525692A)
(43)【公表日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】EP2014065787
(87)【国際公開番号】WO2015014683
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年6月29日
(31)【優先権主張番号】102013108166.5
(32)【優先日】2013年7月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515078095
【氏名又は名称】エスエムエイ ソーラー テクノロジー アクティエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SMA Solar Technology AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ベーレンツ,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】クラトホフィル,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】オルビタ,ガリー
【審査官】
小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0141644(US,A1)
【文献】
西独国特許出願公開第02430294(DE,A)
【文献】
特開2001−313729(JP,A)
【文献】
特開平09−219754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00 − G01R 19/32
H04B 1/76 − H04B 3/44
H04B 3/50 − H04B 3/60
H04B 7/005 − H04B 7/015
H01F 17/00 − H01F 21/12
H01F 38/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流回路(1)に流れる電流iACDCの交流電流成分iACを検出するための装置であって、
− 前記直流電流回路(1)に配置されたインダクタ(9)と、
− 前記インダクタ(9)と電気的に並列に配置されたAC経路(3)であって、キャパシタ(4)および変圧器(6)の一次巻線(5’)から構成される直列回路を備えるAC経路(3)と、
− 電圧計測装置(7)と、
を備える装置において、
前記変圧器(6)の二次巻線(5”)が、低域通過フィルタ回路(8)を介して前記電圧計測装置(7)に接続されており、
前記低域通過フィルタ回路(8)は、既定された周波数範囲(24)における前記低域通過フィルタ回路(8)の伝達関数(21)が、前記既定された周波数範囲(24)において、前記インダクタ(9)および前記キャパシタ(4)を備える高域通過フィルタ(15)の伝達関数(20)のプロファイルに相補的であるプロファイルを有するように、設計され、その結果、前記既定された周波数範囲(24)における前記装置の総伝達関数(22)のプロファイルが、前記高域通過フィルタ(15)の前記伝達関数(20)に対して少なくとも5分の1に低減する変化を有することを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置において、キャパシタ(12)が、前記インダクタ(9)と電気的に並列に配置され、その結果、前記インダクタ(9)および前記キャパシタ(12)から構成される並列回路が、帯域阻止フィルタ(14)を形成することを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置において、前記変圧器(6)が、好適に前記二次巻線(5”)と電気的に並列に配置される終端抵抗器を備えることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、インダクタ(9)または帯域阻止フィルタ(14)と、キャパシタ(4)と、から構成される前記高域通過フィルタ(15)の遮断周波数(23)がそれぞれ、前記既定された周波数範囲(24)を超えているとともに、前記遮断周波数(23)と、前記既定された周波数範囲(24)の下限との間に、少なくとも5倍の開きがあることを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の装置において、前記低域通過フィルタ回路(8)が、能動的な低域通過フィルタであることを特徴とする装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置において、前記低域通過フィルタ回路(8)が、積分回路(30、43)であり、かつ、演算増幅器(31)を備えることを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項4に記載の装置において、キャパシタ(41)が、前記変圧器(6)の前記二次巻線(5”)と並列に配置され、前記変圧器(6)の前記二次巻線(5”)の漏れインダクタンスとともに共振回路(42)を形成するとともに、前記共振回路(42)の共振周波数が、前記高域通過フィルタ(15)の前記遮断周波数(23)と、前記既定された周波数範囲(24)の前記下限との間にあることを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項5に記載の装置において、前記低域通過フィルタ回路(8)が、二次積分回路(30)であり、かつ、演算増幅器(31)の直列接続を備えることを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の装置において、前記直流電流回路(1)のアーク検出用の、および/または電力線通信信号受信用の前記電圧計測装置(7)を用いることによって検出される前記交流電流成分iACを評価するように構成された評価装置(11)を備えることを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置において、前記評価装置(11)が、第1の既定された周波数範囲(24)では、前記直流電流回路(1)のアーク検出用の前記電圧計測装置(7)を用い、前記第1の周波数範囲(24)とは異なる第2の周波数範囲では、電力線通信信号の受信用の前記電圧計測装置(7)を用いることによって検出される前記交流電流成分iACを、評価するように構成されることを特徴とする装置。
【請求項11】
請求項10に記載の装置において、前記電力線通信信号の中心周波数が、前記第1の既定された周波数範囲(24)を超えるとともに、前記電力線通信信号の前記中心周波数が、前記キャパシタ(4)および前記変圧器(6)の一次巻線(5’)から構成される帯域通過フィルタ(13)、および/または前記インダクタ(9)および当該インダクタ(9)と電気的に並列に配置されたキャパシタ(12)から構成される帯域阻止フィルタ(14)の共振周波数に好適に対応することを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電流回路(DC回路)に流れる電流の交流電流成分(AC成分)を検出するための装置に関し、特に、高いDC電流強度を有する直流電流(DC)を輸送するために設けられた電気回路のアーク信号および/または通信信号を検出するための装置に関する。さらに、本発明は、光起電力システム内でのその装置の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
DC回路におけるAC成分を検出するための従来の電流センサは、AC成分によって生成された、時間につれ変動する磁界を介して誘導成分中に誘導されたAC電圧を検出する原理に基づいて動作し、誘導されたAC電圧は、計測されるべきAC成分に対応し、特に、計測されるべきAC成分に比例する。いわゆる電流コンバータは、特に、誘導成分として使用され、磁心材料を有するコイルから構成され、コンパクトな設計および少ない巻数でありながら同時に高いインダクタンス値を実現する。
【0003】
特に、光起電力システムのDC回路では、およそ数アンペアから数十アンペアまでの強度のDC電流が、頻繁に生じる。同時に、例えば、数kHzから数百kHzまでの周波数範囲においてDC回路で検出されるべきアークによって生成されるAC成分の振幅は、わずか数ミリアンペアである。
【0004】
磁心材料を有する電流センサを使用する場合、特にDC電流の強度がこのように高い場合には、磁心材料の飽和を回避しなければならない。この目的のために、透磁性の低い磁心材料を使用するか、または、磁心の体積を大きくする。しかしながら、透磁性が低くなると、センサの感度および直線性に対して悪影響が生じ、それは特に、広い周波数範囲にわたって極めて少量のAC電流を計測する場合に顕著になる。磁心の体積を大きくすると、今度は、サイズ面において、したがってコスト面において悪影響が生じる。
【0005】
あるいは、磁心のない空気コイルとして構成され、かつ、AC成分がそこで計測されることになる導体に対してトロイダル状に配置されている電流センサが公知である。磁心材料がないので、それらは飽和効果がなく、したがって高いDC電流のAC成分の計測に適している。そのようないわゆるロゴスキーセンサ(Rogowski sensors)は、振幅の大きなAC成分の計測、または高周波での少量のAC成分の計測には特に適している。しかしながら、それらは、低周波での少量のAC成分の計測に、いくぶんか適しているにすぎない。
【0006】
誘導電流センサの感度は、周波数依存性である。そのため、計測されるべきAC成分の周波数が低いほど、供給されるインダクタンスが大きくなければならない。磁心材料の透磁性を増大させることによって、または巻数を増やすことによって、インダクタンスを増大させると、サイズおよびコストが大きくなってしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、既定された周波数範囲において直流電流回路(DC回路)に流れる電流の交流電流成分(AC成分)を高感度で、かつ、正確に検出することを可能にする装置でありながら、その一方で経済的に製造することが可能である装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本目的は、DC回路に配置されたインダクタを含む直流電流回路(DC回路)に流れる電流の交流電流成分(AC成分)を検出するための装置であって、AC経路がインダクタと電気的に並列に配置され、かつ、キャパシタおよび変圧器の一次巻線から構成される直列回路を備える装置によって達成される。さらに、本装置は、電圧計測装置を備える。本装置は、低域通過フィルタ回路を特徴とし、変圧器の二次巻線が、低域通過フィルタ回路を介して電圧計測装置に接続されている。すなわち、変圧器の二次巻線は、入力部に接続され、電圧計測装置は、低域通過フィルタ回路の出力部に接続されている。
【0009】
本装置は、したがって電気的には、2つの経路、すなわちAC経路およびDC経路から構成され、2つの経路は、DC回路に流れる電流を、AC成分およびDC成分に分離し、低域通過フィルタ回路によってAC成分の下流側の線形化を行う。DC経路は、DC成分に対しては導電性であるインダクタであるが、AC成分に対しては周波数依存性である抵抗器を構成するとともに、周波数に相応してAC成分を妨害するインダクタを備える。なぜなら、DC経路のインピーダンスは周波数が増大するにつれて直線的に増大するからである。他方では、AC経路は、キャパシタがAC経路に配置されていることにより、DC成分に対して遮断される。その結果、電流のAC成分は、AC経路を介して好適に経路設定される。
【0010】
この回路の利点は、AC経路に配置される構成部品を、DC経路に流れる高いDC電流用に設計する必要がないということである。したがって、特に、変圧器の設計の際に飽和効果を考慮する必要がなく、AC経路の構成部品は、小さい電流搬送容量を示す必要があるにすぎない。DC経路内の、あるDC電流の強度、例えば、数十アンペアのDC電流の強度では、変圧器を本発明によるAC経路で使用することが可能であり、これは、従来のやり方で変圧器をDC経路に配置する場合よりも数桁小さい。DC経路に配置されたコイルだけは、生じるDC電流強度で飽和しないように設計しなければならない。
【0011】
1つの特定の実施形態では、DC経路のインダクタおよびAC経路のキャパシタによって形成された高域通過フィルタが、検出されるべきAC成分の周波数を超える遮断周波数を有する。一見したところ、この設計は、遮断周波数未満の高域通過フィルタの伝達特性が、周波数が増大するにつれて増大するプロファイル、すなわち非線形プロファイルを有するので、検出されるべきAC成分の検出には不利である。しかしながら、一方では、結果として、より大きな遮断周波数を選択するほど、使用可能なインダクタおよびキャパシタが、小さくなるという利点が生じる。
【0012】
他方では、変圧器の二次巻線に接続された低域通過フィルタ回路は、伝達特性の線形化を達成する。この目的のために、低域通過フィルタ回路は、既定された周波数範囲であって、その範囲内に検出されるべきAC成分が存在する周波数範囲における低域通過フィルタ回路の伝達関数が、既定された周波数範囲における高域通過フィルタの伝達関数のプロファイルに対して相補的であるプロファイルを有するように設計されている。具体的には、これは、既定された周波数範囲における低域通過フィルタ回路の伝達関数が、既定された周波数範囲における高域通過フィルタの伝達関数の傾きに類似するが、逆符号である傾きを有することを意味する。全体として、本装置は、既定された周波数範囲において、このようにほぼ一定の総伝達関数を有しているが、少なくとも、総伝達関数は、高域通過フィルタの伝達関数に対して低減する変化を有する。すなわち傾き、および/または伝達係数の変動範囲が低減する。具体的には、実施された適用事例では、既定された周波数範囲における総伝達関数のプロファイルが、高域通過フィルタの伝達関数に対して少なくとも5分の1に低減する変化を有することができる。
【0013】
このようにすることで、既定された周波数範囲は、検出されるべきAC成分を備え、かつ、DC経路のインダクタおよびAC経路のキャパシタによって構成される高域通過フィルタの遮断周波数未満にある。遮断周波数(例えば、数百キロヘルツ)と、検出されるべきAC成分の既定された周波数範囲の下限(例えば、数十キロヘルツ)との間に、2よりも大きい係数が存在する場合には、インダクタの小型化により得られる利点は、その後で低域通過フィルタ回路を介して線形化するために構成部品がさらに複雑になった結果生じる難点よりも重要性が高い。高域通過フィルタの遮断周波数は、既定された周波数範囲の下限の少なくとも5倍を超えることが好ましく、10倍を超えること、したがって、検出されるべきAC成分の既定された周波数範囲を超えることが特に好ましい。
【0014】
本発明の一実施形態では、変圧器が、変圧器の二次巻線と電気的に並列に、好適に配置される終端抵抗器を含む。終端抵抗器は、特に高域通過フィルタの遮断周波数の範囲において、単調増加するプロファイルを有する伝達関数が生じるように、高域通過フィルタの遮断周波数での、その伝達関数の共振昇圧が減衰されるか、または横ばいになるように設計可能であることが好ましい。あるいは、前述の特定の実施形態と比較して、終端抵抗器を増やすことにより、変圧器の一次巻線が、一次巻線と直列に接続されたキャパシタとともに、高域通過フィルタの遮断周波数を下回る顕著な共振最大値を有する帯域通過フィルタを形成してもよい。
【0015】
本発明のさらなる実施形態では、DC経路が、インダクタおよびキャパシタから構成される並列回路から構成される帯域阻止フィルタを備えることにより、DC経路のインピーダンスが、もはや周波数が増大するにつれて直線的に増大しないだけでなく、インダクタおよびキャパシタの設計によって決まる帯域阻止フィルタの共振周波数の周波数範囲において、非常に高くなる。その後、検出されるべきAC成分は、特にこの周波数範囲においては、大部分がもっぱらAC経路上に、経路設定される。好適な実施形態では、変圧器の終端抵抗器およびAC経路のキャパシタは、変圧器の一次巻線が、一次巻線と直列に接続されたキャパシタとともに、共振周波数が、帯域阻止フィルタの共振周波数と同じ周波数範囲にある帯域通過フィルタを構成するように設計されている。言いかえれば、AC経路の最小インピーダンスが、DC経路の最大インピーダンスと好適に一致する。その結果、最適の帯域通過挙動が得られる。特に、帯域通過フィルタおよび/または帯域阻止フィルタの共振周波数未満の周波数範囲は、その後、変圧器の二次巻線に接続された低域通過フィルタ回路を介して線形化される。加えて、帯域通過フィルタおよび/または帯域阻止フィルタの共振周波数での伝達関数の共振昇圧を、追加の、特に狭帯域の、電力線通信信号といったようなAC成分を最適に検出するために用いてもよい。
【0016】
低域通過フィルタ回路を、従来の受動的な低域通過フィルタとして、あるいはもう1つの選択肢として能動的な低域通過フィルタとして、特に、1段反転型もしくは2段反転型の、または非反転型の積分器として設計してもよい。増幅によって、能動的な低域通過フィルタを使用する場合には、検出されるべきAC成分の周波数範囲において、例えば、演算増幅器を用いることによって、インダクタまたは帯域阻止フィルタ、および帯域通過フィルタから構成される組み合わせによって引き起こされる、検出されるべきAC成分の減衰が補償されるようにすることができる。
【0017】
本発明の一実施形態では、低域通過フィルタ回路が、演算増幅器を備える一次積分回路から構成される。代替の実施形態では、低域通過フィルタ回路が、演算増幅器の直列接続を備える二次積分回路から構成される。
【0018】
本発明のさらなる実施形態では、キャパシタが、変圧器の二次巻線と並列に配置され、変圧器の二次巻線の漏れインダクタンスとともに、共振回路を形成する。この共振回路の共振周波数は、検出されるべきAC成分の周波数範囲の下限の範囲にあるが、少なくとも高域通過フィルタの遮断周波数未満、または帯域阻止フィルタの共振周波数未満、および/または帯域通過フィルタの共振周波数未満である。
【0019】
電圧計測装置によって検出された交流電流成分を、評価装置、例えばプロセッサ信号によって、予め設定可能な特性に関して評価してもよい。好ましくは、光起電力システムの特に直流電流回路において起こり得るように、直流電流回路に流れる直流が数アンペアの範囲の高振幅の場合に、直流電流回路に生じるアークは、特に、特有のAC成分を生じ、本発明による装置の設計では、この特有のAC成分を電圧計測装置によって検出することができ、評価装置によってアーク信号として特定することができる。
【0020】
加えて、交流電流成分を、通信目的で直流電流回路に流れる電流に印加することができる。そのようないわゆる電力線通信信号もまた、電圧計測装置によって検出され、評価装置によって相応して評価され、特にデジタル手段によって電力線通信相手装置に送信されてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態では、第1の既定された周波数範囲では、DC回路のアークを検出するための電圧計測装置を用いることによって検出されるAC成分を、また、この第1の周波数範囲とは異なる第2の周波数範囲では、電力線通信信号を受信するための電圧計測装置を用いることによって検出されるAC成分を評価するように、評価装置が構成されている。この場合、第1の既定された周波数範囲の下限は、帯域阻止フィルタおよび/または帯域通過フィルタの共振周波数の少なくとも5分の1よりも小さいことが好ましく、少なくとも10分の1よりも小さいことが、したがって、装置を介して直線的に伝達される周波数範囲の中にあることが特に好ましい。他方では、電力線通信信号の中心周波数は、帯域阻止フィルタおよび/または帯域通過フィルタの共振周波数を超えていることが好ましく、電力線通信信号の中心周波数は、帯域阻止フィルタおよび/または帯域通過フィルタの共振周波数に対応していることが特に好ましい。これは、狭帯域電力線通信信号には特に有利である。狭帯域電力線通信信号は一般に、十分な通信帯域幅を実現するために、100kHzよりも大きな周波数範囲にあるからである。
【0022】
本装置は、光起電力システムの直流電流回路で使用するのに、特に適している。なぜなら、一方では、そのような直流電流回路では、数アンペアから数十アンペアまでの振幅を有する非常に高いDC電流が流れている場合があり、従来の電流センサの使用を妨害するからである。また他方では、例えば、光起電力システムの直流電流回路のプラグ接続が損傷を受けた場合、または導線絶縁が不十分である場合には、まさに高いDC電流が原因でアークが生じる可能性があり、危険を防止するために、これを検出しなければならない。加えて、光起電力システムの直流電流回路は、電力線通信を用いることによって、光起電力システムの様々な構成部品間のデータのやり取り、例えば、インバータと、回路遮断器またはセンサといったような一部が光起電力モジュールに遠隔配置されている電子機器と、の間のデータのやり取りを可能にするために使用される。
【0023】
以下に、図に示される好ましい例示的な実施形態に基づいて、本発明を、より詳細に説明し、記述する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明による装置の一実施形態を示す。
【
図2】
図2は、本発明による装置の別の実施形態を示す。
【
図3】
図3は、本発明による装置の伝達関数を、概略図に示す。
【
図4】
図4は、本発明による装置に組み込まれた部分としての低域通過フィルタ回路の一実施形態を示す。
【
図5】
図5は、本発明による装置の別の実施形態を示す。
【0025】
図1は、本発明による装置の一実施形態を示す。電流i
ACDC(t)が、直流電流回路1に流れている。直流電流回路1は、インダクタ9が配置されているDC経路2を備える。AC経路3が、DC経路2と電気的に並列に配置され、AC経路3には、キャパシタ4および変圧器6の一次巻線5’から構成される直列回路が配置されている。終端抵抗器10が、変圧器6の二次巻線5”と電気的に並列に配置されている。終端抵抗器10を、変圧器6の転換率の2乗値による除算によって一次側に移してもよい。その結果、キャパシタ4および一次巻線5’から構成される直列回路が、帯域通過フィルタ13を構成する。
【0026】
キャパシタ4およびインダクタ9の周波数依存性インピーダンスにより、電流i
ACDC(t)は、インダクタ9によって形成されたDC経路2を介して流れる直流電流成分I
DC(DC成分)、および、AC経路3を介して流れる交流電流成分i
AC(t)(AC成分)に分かれる。したがって、キャパシタ4およびインダクタ9から構成されるこの配置は、必要ならば変圧器6の一次巻線5’を考慮して、高域通過フィルタ15を構成する。この場合、電流i
ACDC(t)の交流電流成分もまた、インダクタ9を介して流れることを排除しない。
【0027】
この高域通過フィルタ15の伝達関数は、遮断周波数未満の周波数範囲において直線的に増加するプロファイルを有し、遮断周波数は、キャパシタ4、インダクタ9、および変圧器6のサイズから決定される。終端抵抗器10のサイズに応じて、プロファイルの遮断周波数の範囲で生じる共振昇圧を、可能であれば終端抵抗器10を使わず済ませることにより減衰させてもよい。その結果、高域通過フィルタ15の伝達関数が、少なくとも遮断周波数まで単調増加する。高域通過フィルタ15の伝達関数は、遮断周波数を超える周波数では一定である。加えて、さらなる共振最大値を、終端抵抗器10の抵抗値を適切に増加させることによって遮断周波数未満に生成することができる。その結果、狭帯域AC成分、例えば通信信号が、この共振最大値の共振周波数で特に効率的に伝達される。
【0028】
AC経路に沿って流れるAC成分i
AC(t)は、変圧器6によって、その二次巻線5”に変換される。AC成分i
AC(t)を測定するために、ここで、例えば、電圧計測装置7を用いることによって、例えば、電圧計またはアナログ−デジタルコンバータを用いることによって、二次巻線5”で誘導された、終端抵抗器10の両端の電圧の計測を行うことは、原理的にはすでに可能であるが、二次巻線5”において誘導された電圧の振幅に対する所与の周波数での電流i
ACDC(t)中の各AC成分i
AC(t)の振幅の比率は、その所与の周波数に大きく左右される。ここで図示した配置では、交流電流成分i
AC(t)の周波数が、高域通過フィルタ15の遮断周波数未満である場合に、伝達関数の非線形性として知られているこの特性は、二次巻線5”において誘導された電圧に対して特に顕著である。
【0029】
したがって、低域通過フィルタ回路8は、二次巻線5”と電圧計測装置7との間に配置される。この低域通過フィルタ回路8は、高域通過フィルタ15の遮断周波数未満であり、かつ、検出の対象となっているAC成分i
AC(t)(例えば、アーク信号または電力線通信信号)を含んでいる周波数範囲における伝達関数が、高域通過フィルタ15の伝達関数に対して正確に相補的であるように設計されている。ここで、「相補的」とは、前記周波数範囲における低域通過フィルタ回路8の伝達関数が、高域通過フィルタの伝達関数の傾きの大きさと等しい大きさの傾きを有することを意味するが、個々の傾きが、互いに逆符号である。その結果、高域通過フィルタ15の遮断周波数未満の広周波数範囲における2つの前述の伝達関数の組み合わせである、
図1による装置の総伝達関数は、一定であるか、または、ほぼ一定である。
【0030】
具体的には、これは、総伝達関数が、変化、すなわち傾き残差または変動範囲を有することを意味し、この変化は、高域通過フィルタ15の伝達関数の変化に対して大幅に低減される。高域通過フィルタ15の伝達関数の変化は、実質的にその傾きに相当し、例えば、40dB/10年間である。特に、それは、単調増加するのではなく、例えば、数dB/10年間の範囲で変動に対応するだけである。したがって、直流電流回路1の装置の入力側で流れるAC成分の、出力側で計測されるAC電圧に対する線形写像が、この周波数範囲において得られ、電圧計測装置7を用いることによって検出されるべきAC成分を含んでいる。電圧計測装置7によって計測されたAC電圧は、計測されたAC電圧を評価する評価装置11に送られる。
【0031】
低域通過フィルタ回路8を使用することにより、インダクタ9およびキャパシタ4を、検出されるべきAC成分の周波数範囲よりもはるかに大きい周波数範囲用に設計することができる。その結果、大幅に小型化された構成部品を、特にインダクタ9用に使用することが可能になる。例えば、10kHzから100kHzの周波数範囲におけるAC成分i
AC(t)が、一定の伝達関数を有する電圧計測装置7によって計測されるのであれば、低域通過フィルタ回路8を介して実現可能な、高域通過フィルタ15の遮断周波数未満の伝達関数の非線形プロファイルの補償を無しで済ませる場合には、そして、10μFのキャパシタンスを有するキャパシタ4が設けられる場合には、約10kHzの遮断周波数を設定するためには、約25μHのインダクタンスを有するインダクタ9が必要である。しかしながら、低域通過フィルタ回路8を使用することで、遮断周波数を大幅に、例えば10倍の約100kHzに高めることができる。その結果、キャパシタンスC_ACが一定のままであるとすれば、わずか約250nHだけが、インダクタ9に必要である。その結果、必要な構成部品のコスト、損失およびサイズを全体的に減少する。
【0032】
図2は、キャパシタ12がDC経路2のインダクタ9と電気的に並列に配置される、さらなる実施形態を示す。インダクタ9およびキャパシタ12から構成される並列回路が、DC経路2に位置する帯域阻止フィルタ14を構成する。この帯域阻止フィルタ14は、共振周波数において最大インピーダンスを有する、周波数依存性インピーダンスを特徴とする。結果として、ここでは帯域阻止フィルタ14と、キャパシタ4および帯域通過フィルタ13と、から形成されている高域通過フィルタ15の伝達関数の傾きが、さらに増大する。この増大した傾きを、変圧器6の二次側の低域通過フィルタ回路8を介して帯域阻止フィルタ14の共振周波数未満に補償することもまた可能である。DC経路2の帯域阻止フィルタの共振周波数の周波数範囲における帯域通過挙動が、このように電圧計測7で得られ、装置の総伝達関数は、特に、帯域阻止フィルタ14の共振周波数未満では、適切に構成された低域通過フィルタ回路8を用いることによって、概ね一定のプロファイルを有してもよい。好適な一実施形態では、キャパシタ4と、適切なサイズの終端抵抗器10を有する変圧器6の一次巻線5’と、から構成される直列回路を介して形成されているAC経路3の、帯域通過フィルタ13の共振周波数もまた、DC経路の帯域阻止フィルタの共振周波数と同一に設計されている。
【0033】
図3は、
図1による装置の例として、キャパシタ4およびインダクタ9から構成される高域通過フィルタ15の伝達関数20と、低域通過フィルタ回路8の伝達関数21と、結果として生じる装置の総伝達関数22と、を示している。キャパシタ4およびインダクタ9から構成される高域通過フィルタ15の伝達関数20は、伝達関数20の傾きが、遮断点23’で線形から一定のプロファイルへと移行するのに一致する遮断周波数23を有し、終端抵抗器10が適切に選択されていることにより、終端抵抗器のない変圧器6を使用する場合に遮断周波数23で生じている共振昇圧は、伝達関数20の結果を単調増加させるように、減衰される。この実施形態では、AC成分の周波数範囲24の上方端が検出されるように、遮断周波数23を選択した。検出されるべきAC成分の周波数範囲24は、このように伝達関数20の低周波の阻止帯域にあり、キャパシタ4およびインダクタ9から構成される高域通過フィルタ15を介してAC成分の減衰が起こっている。
【0034】
二次側の変圧器から下流の、低域通過フィルタ回路8は、特に遮断周波数23未満の周波数では、ちょうど反対の、すなわち、キャパシタ4およびインダクタ9から構成される高域通過フィルタ15の伝達関数20に相補的な伝達関数21を有する。なぜなら、この伝達関数21は、傾きが伝達関数20に同一であるプロファイルを有するが、傾きの符号が逆であるからである。総伝達関数22は、その結果、検出されるべきAC成分i
AC(t)の周波数範囲24における計測の点では、理想的な一定のプロファイルを有することになる。これにより、出力信号は、AC成分に対して比例し、かつ、線形であるので、低域通過フィルタ回路8の出力部に配置された電圧計測装置7は、検出されるべきAC成分に対応する出力信号を供給する。実際は、低域通過フィルタ回路8を介して補償されない伝達関数20とは異なり、総伝達関数22は、特に、単調な傾きをもはや有しておらず、その変化はわずかに数dB/10年間である。すなわち、総伝達関数22の変化は、したがって、伝達関数20の変化の少なくとも5分の1よりも小さい。
【0035】
具体的には、
図2に図示した、帯域阻止フィルタ14および帯域通過フィルタ13から構成される高域通過フィルタ15の伝達関数20の傾きは、計測されるべきAC成分の周波数範囲24において、+40dB/10年間である。総伝達関数22の線形化を実現するために、低域通過フィルタ回路8は、傾きが−40dB/10年間である、対応する反対の伝達関数21を有していなければならない。これは、例えば、受動的な二次低域通過フィルタを介して実現してもよい。
【0036】
計測されるべきAC成分i
AC(t)の周波数範囲24における高域通過フィルタ15の伝達関数20の非線形性に加えて、これらのAC成分i
AC(t)の減衰もまた補償するために、低域通過フィルタ回路8を、能動的な低域通過フィルタ回路として、特に、演算増幅器を含んでいる2つの能動的な反転型または非反転型の積分回路であって、それぞれが20dB/10年間の増幅を有する積分回路の直列接続から構成される二次積分器として設計してもまたよい。
【0037】
図4は、例として、低域通過フィルタ回路8を、2つの演算増幅器31を備える能動的な非反転型二次積分回路30の形態で示している。キャパシタ32が演算増幅器に連結されていることにより、この積分回路30は、周波数に依存して増幅し、能動的な低域通過フィルタを構成する。この能動的な低域通過フィルタの特性は、抵抗器33に基づいて最適化されてもまたよい。
【0038】
そのような能動的な非反転型の積分回路30を使用するのであれば、非反転型の積分回路30の積分時定数は高域通過フィルタ15の伝達関数20に一致するので、非反転型の積分回路30の増幅が、高域通過フィルタ15の遮断周波数23を超える値1になるように、総伝達関数22を遮断周波数23を超える周波数に線形化してもまたよい。こうして、たとえ遮断周波数23を超えても、低域通過フィルタ8の出力部において、総伝達関数22の一定のプロファイルが生まれ、計測されるべきAC成分i
AC(t)の周波数範囲24を、遮断周波数を超える周波数まで広げることができる。高域通過フィルタ15の部品構成に応じて、特に、終端抵抗器10のサイズおよび、DC経路がインダクタ9または帯域阻止フィルタ14を備えているかどうかに応じて、遮断周波数23の範囲における総伝達関数22のプロファイルは、単調なプロファイルまたは共振昇圧を有してもまたよい。
【0039】
図5は、装置の代替的な実施形態を示す。ここでは、インダクタ9が、直流電流回路1のDC経路2に配置され、キャパシタ41が、変圧器6の二次巻線5”と並列に配置されている。キャパシタ41は変圧器6の二次巻線5”の漏れインダクタンスとともに、共振回路42を形成している。この共振回路42の構成部品を、共振回路42が、遮断周波数23未満であり、かつ、周波数範囲24内の共振点を形成するようなサイズとしてもよい。共振回路42の共振周波数は、既定された周波数範囲24の下限に好適に対応している。計測されるべきAC成分の周波数範囲24における、高域通過フィルタ15の伝達関数20の傾きは、この共振回路42を介して20dB/10年間に低減される。そのような方法で低減されたこの傾きを、一次低域通過フィルタ8を介して、例えば、
図5に図示した、演算増幅器31およびキャパシタ32から構成される、計測されるべきAC成分の周波数範囲24において20dB/10年間の増幅を有する一次積分回路43を介して補償してもよい。任意選択の抵抗器44に基づいて、共振回路42の共振周波数23の範囲の減衰をさらに最適化して、インダクタ9と、帯域通過フィルタ13と、共振回路42と、積分回路43と、から構成される組み合わせを用いることによって広くなった周波数範囲において、装置の線形の総伝達関数22を実現するようにしてもよい。具体的には、例えば、遮断周波数23の範囲における総伝達関数22のプロファイルを、構成部品を適切に選択することによって、および/または、変圧器6の一次巻線5’と直列の抵抗器を追加することによって特定の用途の場合に最適化したり、例えば、線形化したりすることで、検出されるべきAC成分i
AC(t)の周波数範囲を、遮断周波数23を超えて広げることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 直流電流回路
2 DC経路
3 AC経路
4 キャパシタ
5’ 一次巻線
5” 二次巻線
6 変圧器
7 電圧計測装置
8 低域通過フィルタ回路
9 インダクタ
10 終端抵抗器
11 評価装置
12 キャパシタ
13 帯域通過フィルタ
14 帯域阻止フィルタ
15 高域通過フィルタ
20 伝達関数
21 伝達関数
22 総伝達関数
23 遮断周波数
23’ 遮断点
24 周波数範囲
30 積分回路
31 演算増幅器
32 キャパシタ
33 抵抗器
41 キャパシタ
42 共振回路
43 積分回路
44 抵抗器