特許第6499688号(P6499688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6499688電極材料の製造方法、及び電気化学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6499688
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法、及び電気化学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20190401BHJP
   C01G 23/04 20060101ALI20190401BHJP
   C01G 55/00 20060101ALI20190401BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190401BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190401BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20190401BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20190401BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20190401BHJP
   H01G 11/46 20130101ALN20190401BHJP
【FI】
   H01M4/48
   C01G23/04 Z
   C01G55/00
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   H01G11/36
   H01G11/32
   H01G11/42
   !H01G11/46
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-41265(P2017-41265)
(22)【出願日】2017年3月6日
(62)【分割の表示】特願2015-73496(P2015-73496)の分割
【原出願日】2005年12月9日
(65)【公開番号】特開2017-147228(P2017-147228A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/121022(WO,A1)
【文献】 特開2003−100284(JP,A)
【文献】 特開2005−174655(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/110930(WO,A1)
【文献】 特許第6167127(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 23/04
C01G 55/00
H01G 11/32
H01G 11/36
H01G 11/42
H01G 11/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li, Al, Si, P, B, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Nb, Mo, Pb, Ag, Cd, In, Sn, Sb, W, Ceのいずれかを含む一次粒子径1〜10nmの金属酸化物、ずり応力と遠心力の機械的エネルギーて、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、メソポーラス炭素またはこれら2種以上の複合材のいずれかの、内部に空隙部を有するカーボンの内表面に前記金属酸化物を担持させることを特徴とする電極材料の製造方法
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により生成された電極材料を用いた電気化学素子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料、及び電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等、液相反応において金属酸化物、金属水酸化物などの不溶性生成物を生成する反応方法が知られているが、このような反応方法としては、ゾル−ゲル法が代表的である。しかしながら、このゾル−ゲル法は金属塩の加水分解反応、重縮合反応等によるものであり反応速度は遅く、均一な生成物を得ることができない。その問題点を解決する方法として、触媒を用いて反応を促進する方法が知られている。このほか、反応性のよい反応物を用いたり(特許文献1)、撹拌方法を改善した例(特許文献2)がある。
さらに、このような液相反応によって生成される水酸化金属水和物が電気エネルギー貯蔵素子として用いられる試みがある(特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−239225号公報
【特許文献2】特開11−60248号公報
【特許文献3】特開2000−36441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような方法によっても反応を促進することができず、結果として均一な生成物を得ることができないという問題点があった。また、電気エネルギー貯蔵素子として好適なナノ粒子とすることができないという問題点があった。そこで、本発明は、従来にない液相反応において反応を促進する方法を用いて作成した金属酸化物ナノ粒子を高分散担持したカーボン、このカーボンを含有する電極材料、この電極材料を用いた電極及び電気化学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の金属酸化物ナノ粒子を担持したカーボン材料、このカーボン材料を含有する電極、及びこの電極を用いた電気化学素子を作製するための反応方法は、化学反応の過程で、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進することを特徴としている。この反応方法においては、反応物にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、このエネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で化学反応を促進させることができる。
【0006】
さらに、この反応は、旋回する反応器内で反応物を含む薄膜を生成し、この薄膜にずり応力と遠心力を加えることによって、薄膜内の反応物に大きなずり応力と遠心力が加わり、さらに化学反応を促進することができる。
【0007】
そして、このような化学反応を促進させるには、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔を備えるとともに、外筒の開口部にせき板を配置してなる反応器において、内筒の旋回による遠心力によって内筒内の反応物を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させ、外筒の内壁面に反応物を含む薄膜を生成するとともに、この薄膜にずり応力と遠心力を加えることによって実現することができる。
【0008】
ここで、薄膜の厚みを5mm以下とすることによって、この反応方法の効果を高めることができる。この場合、反応器の内筒内の反応物に加えられる遠心力を1500N(kgms-2)以上とすることによって、本発明の反応方法の効果を高めることができる。また、この化学反応は金属塩の加水分解反応または縮合反応に用いることができる。以上の化学反応によって、金属酸化物ナノ粒子を形成することができる。
【0009】
本発明のカーボンは、化学反応の過程で、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて生成した金属酸化物ナノ粒子と、旋回する反応器内でずり応力と遠心力を加えて分散したカーボン材料とからなり、金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンであることを特徴としている。このような金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンは、金属酸化物ナノ粒子の生成とともにこの金属酸化物ナノ粒子とカーボン材料が均一分散され、反応終了とともにカーボン材料の表面に金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させた状態となって形成される。このカーボンは前述した反応方法によって、反応物とカーボン材料を混合した状態で、反応させると同時に分散させることによって作成することができる。
【0010】
このカーボンは電気化学素子用電極材料として用いることができる。この電極はナノ化しているため、比表面積が格段に拡大しているので、リチウムイオンの貯蔵電極として用いた場合には出力特性が向上し、プロトンの貯蔵電極として用いた場合には容量特性が向上する。したがって、この電極を用いることによって、高出力、高容量特性を有する電気化学素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、前記の化学反応方法は、ずり応力と遠心力の双方が同時に反応物に加えられることによって、この機械的エネルギーが反応に必要な化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で化学反応が進行する。この方法を金属塩の加水分解、縮合反応に適用することによって、反応が瞬時に進行して本発明でカーボン材料に担持させる金属酸化物ナノ粒子を生成することができる。
【0012】
さらに、この化学反応過程で、反応物にカーボン材料を添加することにすることによって、金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンを得ることができ、このカーボンを電極として用いることによって、高出力、高容量特性を有する電気化学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の金属酸化物ナノ粒子を担持したカーボンを製造するための電気化学 素子反応に用いる反応器の1例である。
図2】実施例1において得られた酸化チタニウムナノ粒子を高分散担持させたケッ チェンブラックのTEM像である。
図3】実施例3において得られた酸化ルテニウムナノ粒子を高分散担持させたカー ボンナノチューブのTEM像である。
図4】実施例1、2の充放電挙動を示す図である。
図5】実施例1、2、比較例の容量保持率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の金属酸化物ナノ粒子を担持したカーボンを製造するための化学反応方法について、さらに詳細に説明する。
この化学反応方法は、例えば図1に示すような反応器を用いて行うことができる。図1に示すように、反応器は開口部にせき板1−2を有する外筒1と貫通孔2−1を有し旋回する内筒2からなる。この反応器の内筒内部に反応物を投入し、内筒を旋回することによってその遠心力で内筒内部の反応物が内筒の貫通孔を通って外筒の内壁1−3に移動する。この時反応物は内筒の遠心力によって外筒の内壁に衝突し、薄膜状となって内壁の上部へずり上がる。この状態では反応物には内壁との間のずり応力と内筒からの遠心力の双方が同時に加わり、薄膜状の反応物に大きな機械的エネルギーが加わることになる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、短時間で反応が進行する。
【0015】
この反応において、薄膜状であると反応物に加えられる機械的エネルギーは大きなものとなるため、薄膜の厚みは5mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。なお、薄膜の厚みはせき板の幅、反応液の量によって設定することができる。
【0016】
この反応方法は反応物に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現できるものと考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒内の反応物に加えられる遠心力によって生じる。したがって、本発明に必要な内筒内の反応物に加えられる遠心力は1500N(kgms-2)以上、好ましくは70000N(kgms-2)以上、さらに好ましくは270000N(kgms-2)以上である。
【0017】
以上の本発明の反応方法は液相反応であれば、加水分解反応、酸化反応、重合反応、縮合反応等様々な反応に適用することができる。
【0018】
なかでも、従来ゾル−ゲル法で行われていた金属塩の加水分解反応、縮合反応よる金属酸化物の生成に適用することによって、均一な金属酸化物ナノ粒子を形成することができる。
【0019】
金属酸化物の金属としては、Li, Al, Si, P, B, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Nb, Mo, Ru, Pb, Ag, Cd, In, Sn, Sb, W, Ce等を挙げることができる。酸化物としては、例えばMxOz、AxMyOz、Mx(DO4)y、AxMy(DO4)z(M:金属元素 A:アルカリ金属又はランタノイド元素 D: Be, B, Si, P, Ge等 )で表される酸化物であり、これらの固溶体とすることもできる。
【0020】
以上の金属酸化物ナノ粒子は電気化学素子用電極に好適な活物質として作用する。すなわち、ナノ粒子化することによって比表面積が格段に拡大して、出力特性、容量特性が向上する。
【0021】
さらに、このような金属塩の加水分解反応、縮合反応よる金属酸化物の生成反応において、反応過程でカーボン材料を加えることによって、金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンを得ることができる。すなわち、図1の反応器の内筒の内部に金属塩とカーボン材料を投入して、内筒を旋回して金属塩とカーボン材料を混合、分散する。さらに内筒を旋回させながら水酸化ナトリウムなどの触媒を投入して加水分解、縮合反応を進行させ、金属酸化物を生成するとともに、この金属酸化物とカーボン材料を分散状態で、混合する。反応終了とともに、金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンを形成することができる。
【0022】
ここで用いるカーボン材料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素等を挙げることができ、これらの複合材を用いることもできる。
【0023】
以上の金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンは場合によっては焼成して、バインダーと混錬、成型し、電気化学素子の電極、すなわち電気エネルギー貯蔵用電極とすることができるが、この電極は高出力特性、高容量特性を示す。
【0024】
ここで、この電極を用いることができる電気化学素子は、リチウムイオンを含有する電解液を用いる電気化学キャパシタ、電池、水系の電解液を用いる電気化学キャパシタ、電池である。すなわち、本発明の電極は、リチウムイオン、プロトンのレドックス反応を行うことができる。さらに金属種および酸化還元電位の異なる対極の選択によって、負極、正極として作動する。したがって、リチウムイオンを含有する電解液または水系の電解液を用い、対極として活性炭、リチウムがレドックス反応するカーボン、プロトンがレドックス反応する高分子、さらにはリチウムまたはプロトンがレドックス反応する金属酸化物を用いることによって、電気化学キャパシタ、電池を構成することができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
旋回反応器の中に40mlのイソプロピルアルコール、1.25gのチタンテトラブトキシド、1gのケッチェンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製、商品名:ケッチェンブラックEC600JD、空隙率78Vol.%、一次粒子径40nm、平均二次粒径337.8nm)を加え、反応器の中でこれらを撹拌した。さらに、1gの水を添加して、66,000N(kgms-2)の遠心力で10分間、内筒を旋回して外筒の内壁に反応物の薄膜を形成するとともに、反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させ、酸化チタニウムナノ粒子を高分散担持させたケッチェンブラックを得た。
【0027】
得られた酸化チタニウムナノ粒子を高分散担持させたケッチェンブラックをフィルターフォルダーに通してろ過し、100℃で6時間乾燥することにより、酸化チタニウムのナノ粒子がケッチェンブラックの内表面に高分散担持している構造体を得た。図2にこの構造体のTEM像を示す。図2においては、一次粒子径1〜10nmの酸化チタニウムナノ粒子がケッチェンブラックに高分散担持していることが分かる。
【0028】
(実施例2)
ケッチェンブラックに変えて、1gのカーボンナノチューブ(株式会社ジェムコ製)を用いて、実施例1と同様にして、酸化チタニウムナノ粒子を高分散担持させたカーボンナノチューブを得た。酸化チタニウムナノ粒子の一次粒子径は1〜10nmであった。
【0029】
(実施例3)
イソプロピルアルコール、チタンテトラブトキシド、ケッチェンブラックに変えて、40mlの水、1.965gの塩化ルテニウム、1gのカーボンナノチューブ(株式会社ジェムコ製)を用いて、実施例1と同様にして、酸化ルテニウムナノ粒子を高分散担持させたカーボンナノチューブを得た。図3にこの構造体のTEM像を示す。図3においては、一次粒子径1〜10nmの酸化ルテニウムナノ粒子がケッチェンブラックに高分散担持していることが分かる。
【0030】
(比較例)
従来のゾル−ゲル法によって、すなわち本発明の化学反応を行わず、実施例1と同様にして、酸化チタニウム粒子が担持したケッチェンブラックを得た。酸化チタニウム粒子の一次粒子径は10〜50nmであった。
【0031】
以上の結果から、比較例では10〜50nmにまで粒子成長して反応が終了しているが、実施例は1〜10nm粒子成長した時点で反応が終了しており、本発明の反応方法によって従来にない液相反応の促進が実現されていることが明らかである。
【0032】
実施例1、2、比較例で得られたサンプルについて400℃窒素雰囲気で12時間熱処理を行なった。熱処理したサンプルはバインダーと混合した後成形し、SUSメッシュに圧着することによって電極とした。この電極を真空乾燥した後、対極には金属リチウムを用い、電解液には1MLiPF6/EC-DEC(1:1vol%)を用いてセルを作製し、充放電挙動及びレート特性を調べた。結果を図4及び図5に示す。
【0033】
図4から、実施例1、実施例2の電極は、1.75〜2.0V付近にプラトーを持つ。これはTi(III)からTi(IV)の酸化還元に対応しており、この電極が電気化学素子用エネルギー貯蔵酸化物複合電極として作動できることを示している。
【0034】
図5から、実施例1、実施例2の電極は、比較例1と比べ高い電流においても高い容量保持率を示しており、高出力電気化学素子用電極として有効である。
【符号の説明】
【0035】
1…外筒
1−2…せき板
1−3…内壁
2…内筒
2−1…貫通孔
図1
図2
図3
図4
図5