(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の管状部材の内表面の少なくとも一部、及び/又は、第二のスチームクラッカー合金を含む少なくとも一つの混合要素の少なくとも一部、の上に耐浸炭性層を更に含み、その耐浸炭性層がアルミナを含む、請求項1記載の伝熱チューブ。
第一のスチームクラッカー合金が65.0質量%以下の鉄、17.5質量%以上のクロム、及び25.0質量%以上のニッケルを更に含む、請求項1記載の伝熱チューブ。
第二のスチームクラッカー合金が5.0質量%〜10.0質量%のアルミニウムを含み、更に18.0質量%〜25.0質量%のクロム、0.5質量%以下のケイ素、及び35.0質量%以上の鉄を含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の90.0質量%以上がニッケルである、請求項1記載の伝熱チューブ。
第二のスチームクラッカー合金が5.0質量%〜8.0質量%のアルミニウム及び19.0質量%〜24.0質量%のクロムを含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の95.0質量%以上がニッケルである、請求項7記載の伝熱チューブ。
(a)熱分解炉を用意し、その熱分解炉が少なくとも一つの放射チューブを含み、その放射チューブが(i)アルミニウムを含む第一のスチームクラッカー合金を含む管状部材(第一の管状部材は内表面及び外表面を有する)、及び(ii)その管状部材の内表面と表面接触する一つ以上の混合要素(その混合要素の少なくとも一つがアルミニウムを含む第二のスチームクラッカー合金を含む)を含み、
(b)炭化水素及びスチームを用意し、
(c)炭化水素の少なくとも一部をスチームの少なくとも一部と合わせて炭化水素+スチーム混合物を生成し、炭化水素+スチーム混合物を放射チューブに押し込み、
(d)放射チューブ中の炭化水素+スチーム混合物を熱分解条件に暴露して炭化水素の少なくとも一部を熱分解することを含み、その管状部材のアルミニウム含量がアルミナ含有耐浸炭性スケールを熱分解条件下で管状部材の内表面上に形成するのに充分であり、かつ第二の管状部材のアルミニウム含量がアルミナ含有耐浸炭性スケールを熱分解条件下で混合要素の上に形成するのに充分であり、
前記スチームクラッカー合金は、スチームクラッキング炉に使用される合金であって、前記スチームクラッカー合金の質量を基準として、少なくとも10質量%のクロム及び15質量%のニッケルを含む合金を意味し、
前記混合要素は、前記第一の管状部材の内表面から伸びる突起であって、前記第一の管状部材内の炭化水素の流れを撹拌するように構成されている突起を意味し、
前記第一のスチームクラッカー合金が、第一のスチームクラッカー合金の質量を基準として、A1質量%のアルミニウムを含み、
前記第二のスチームクラッカー合金が、第二のスチームクラッカー合金の質量を基準として、A2質量%のアルミニウムを含み、
A2がA1よりも大きい、
熱分解方法。
【背景技術】
【0002】
スチームの存在下の炭化水素供給原料の熱分解(“スチームクラッキング”)は軽質オレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、及びブタジエンを製造するのに商業上重要な技術である。典型的な炭化水素供給原料は、例えば、エタン及びプロパン、ナフサ、ヘビーガス油、原油等の一種以上を含む。スチームクラッキングを行なうためのスチームクラッキング炉は一般に対流部分、対流部分の下流に配置された放射部分、及び放射部分の下流に配置された急冷ステージを含む。典型的には、少なくとも一つのバーナーが熱を対流部分及び放射部分に与えるためにスチームクラッキング炉に含まれる。バーナーは典型的には少なくとも一つのファイヤボックス中に配置され、そのファイヤボックスは放射部分に近接し、対流部分はバーナーにより生じた加熱ガス(典型的には燃焼ガス)の流れに関して放射部分の下流に配置される。管状導管(“チューブ”)は少なくとも(i) 炭化水素供給原料、スチーム、及びこれらの混合物を炉の対流部分及び放射部分中に運び、(ii)熱をスチームクラッキング反応のためにチューブ内の炭化水素及び/又はスチームに伝達し、(iii) 生成物流出物を放射部分から運び去り、(iv)コークを、例えば、対流チューブ及び/又は放射チューブ内から除去するためのディコーキング混合物を運び、かつ(v) ディコーキング流出物を放射部分から運び去るために利用される。或るスチームクラッカーチューブは伝熱チューブである。典型的には、対流部分に配置される伝熱チューブが“対流チューブ”と称され、放射部分に配置されるものが“放射チューブ”と称される。対流チューブ及び/又は放射チューブがコイル中に配置される場合、これらを“対流コイル”及び“放射コイル”と称することが典型的である。
一つの通常の方法において、炭化水素供給原料が対流コイルの少なくとも一つに導入される。対流コイルの外表面はバーナーから離れて導かれる加熱ガスに暴露される。炭化水素供給原料は熱を加熱ガスから対流コイル内に配置される炭化水素供給原料に間接的に伝えることにより予熱される。スチームが予熱された炭化水素供給原料と合わされて炭化水素+スチーム混合物を生成する。少なくとも一つの付加的な対流コイルが炭化水素+スチーム混合物を、例えば、有意な熱分解が生じる温度又はその丁度下の温度に予熱するのに利用される。
予熱された炭化水素+スチーム混合物がクロス−オーバーパイピングにより対流部分から放射部分に配置される少なくとも一つの放射チューブに導かれる。通常の放射チューブは典型的にはクロム、鉄、及びニッケルだけでなく、通常低濃度、例えば、5.0 質量%以下の種々のその他の元素を含むスチームクラッカー合金から形成されて、所望の性能を得る。予熱された炭化水素+スチーム混合物は、主としてバーナーから放射チューブの外表面への熱の伝達、例えば、ファイヤボックス中に配置される一つ以上のバーナー中で生じられる炎及び高温煙道ガスからの放射伝熱、ファイヤボックスエンクロージャーの内表面からの放射伝熱、放射部分を横行する燃焼ガスからの対流伝熱等により、放射チューブ中で間接的に加熱される。伝達された熱は予熱された炭化水素+スチーム混合物の温度を所望のコイル出口温度(COT)に迅速に上昇し、その温度は典型的には或る種の非常にヘビーなガス油供給原料についての1450°F(788 ℃)からエタン又はプロパン供給原料についての1650°F(871 ℃)までの範囲である。
【0003】
一つ以上の放射チューブ中に配置される予熱された炭化水素+スチーム混合物に伝達された熱がその混合物の炭化水素の少なくとも一部の熱分解をもたらして分子状水素、軽質オレフィン、その他の炭化水素副生物、未反応のスチーム、及び未反応の炭化水素供給原料を含む放射コイル流出物を生成する。移送ラインパイピングは典型的には放射コイル流出物を放射部分から急冷ステージに運ぶのに利用される。コークが炉中で熱分解中に、例えば、対流チューブの内表面そして特に放射チューブの内表面に蓄積する。望ましくない量のコークが蓄積した後に、ディコーキング混合物、典型的には空気−スチーム混合物の流れが、蓄積されたコークを除去するために炭化水素+混合物に代えて置換される。ディコーキング留出は離れて導かれる。コーク除去後に、炭化水素+スチーム混合物の流れがディコーキングされたチューブに回復される。その方法は、交互の熱分解モード及びディコーキングモードで続く。
熱分解モード中の軽質オレフィンへの選択率は短い接触時間、高温、及び低い炭化水素分圧により有利にされる。この理由のために、放射チューブは典型的には2050°F(1121℃)程度に高い温度(チューブ金属にて測定)で運転する。それ故、放射チューブは高温における望ましい性質、例えば、高いクリープ強さ及び高い破断強さを有する合金から製造される。チューブは炭化水素熱分解中に浸炭環境に暴露されるので、合金は典型的には耐浸炭性である。そしてチューブはディコーキング中に酸化環境に暴露されるので、合金は典型的には耐酸化性である。通常の伝熱チューブ合金は25質量%のクロム及び35質量%のニッケルを有する組成物(“25Cr/35Ni合金”と称される)、又は35質量%のクロム及び45質量%のニッケルを有する組成物(“35Cr/45Ni合金”と称される)をベースとするスチームクラッカー合金の変化を有するオーステナイトのFe-Cr-Ni 耐熱性鋼を含む。高温強度及び/又は耐浸炭性を高めるために微量合金元素の異なる組成物を使用することが通常である。
通常の合金では、Cr
2O
3 を含む表面酸化物が典型的には熱分解中に生成する。この酸化物は鉄部位及びニッケル部位を熱分解モード中に炭化水素との接触から保護し、それにより望ましくないコーク生成の量を少なくすると考えられる。しかしながら、一層過酷な熱分解条件、例えば、軽質オレフィン収率を増大するのに典型的に利用される条件下では、この保護酸化物層の生成が炭素含有相、例えば、Cr
3C
2 、Cr
7C
3 、及び/又はCr
23C
6を支持して抑制されることが観察される。従って、不連続性がチューブの内表面に配置される耐浸炭性スケール中に経時に発生し、炭化水素供給原料への鉄及びニッケル暴露をもたらし、コーク生成の比率の増大をもたらす。
【0004】
この難点を解消しようと試みて、米国特許出願公開第2012/0097289 号は5〜10質量%のアルミニウムを含む合金を使用することによりチューブの耐浸炭性を増大することを開示している。その合金は熱分解モード中にAl
2O
3 スケールを生成すると言われている。Al
2O
3スケールはクロムが酸化物よりもむしろ炭化物を優先的に生成する条件下でさえも安定な酸化物中に留まることが報告されている。このような耐浸炭性合金はアルミニウムを含まない通常の伝熱チューブ合金よりも低いクリープ強さ及び低い破断強さを有するので、その文献はアルミニウム含有合金から形成された連続の内部部材が一層高い強度の合金を含む管状外部部材の内表面に結合されるチューブ構造を開示している。このようなチューブはコーク生成を抑制するが、それらの二重層構築は経済的に並みはずれた要求をする。
強度を増大するためにスチームクラッカー合金中のアルミニウムの量を少なくし、それにより外部部材についての要望を省くことが通常である。例えば、2〜4質量%のアルミニウムを含むアルミニウム含有スチームクラッカー合金を開示する、米国特許第8,431,230 号を参照のこと。
【0005】
炭化水素+スチーム混合物を熱分解中に一層高い温度及び一層短い接触時間に暴露するためにチューブの伝熱効率を増大し、軽質オレフィン生成のために一層良好な選択率をもたらすことがまた通常である。例えば、炭化水素供給原料に暴露されるチューブの表面積を増大することにより伝熱を増大することが米国特許第6,419,885 号及び同第6,719,953号に記載されている。チューブの伝熱効率を増大するためのその他の方法は伝熱チューブの内表面上の混合要素(時折、“ビード”又は“フィン”と称される)の適用を含む。例えば、米国特許第5,950,718 号はプラズマ粉末溶接又はアーク溶接によりチューブ内表面に適用されるらせん形の混合要素を含む通常の25Cr/35Niチューブの使用を記載している。熱分解中の放射チューブ中の炭化水素+スチーム混合物の流れが放射チューブの内表面に隣接する境界層の形成をもたらすことが観察されていた。その境界層は炭化水素を含む。混合要素が境界層を乱して、境界層と炭化水素+スチーム混合物のコアーの流れの間に増大された混合をもたらす。一つ以上の混合要素を含む放射チューブを横行する炭化水素+スチーム混合物の圧力低下を少なくすることが通常である。例えば、米国特許第7,799,963 号は混合要素中の不連続性の結果として減少された圧力低下を与える構造を記載している。チューブ及び不連続の混合要素の両方が通常のスチームクラッカー合金、例えば、25Cr/20Ni、25Cr/35Ni、35Cr/45Ni、又はインコロイ
TMから形成される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
この記載及び特許請求の範囲の目的のために、下記の用語が定義される。“周期律表”は元素の周期律チャート, The Merck Index, 第12編, Merck & Co., Inc., 1996を意味する。
“スチームクラッカー合金”はC
2+ 不飽和炭化水素を製造するためのスチームクラッキング炉中の管材としての使用に適したあらゆる組成物、固溶体、又は固体混合物を意味する。このような合金は金属挙動を示す導電性を示し、スチームクラッカー合金の質量を基準として、少なくとも10質量%のクロム及び15質量%のニッケルを含む。
“溶接物”は二つ以上の部品を連結することにより形成されたユニットを意味し、この場合、その連結は少なくとも一つの溶接を含む。“溶接物”という用語は混合要素を管状部材にプラズマ粉末溶接することにより形成されたユニット、例えば、スチームクラッカー中の使用に適した伝熱チューブを含む。溶接物の全ての部品が溶接により溶接物に接合し得るが、これは必要とされない。
“伝熱チューブ”は熱分解炉の下記の部材:供給導管;希釈スチーム導管;スチームクラッカーファーネスチューブ、例えば、対流チューブ及び/又は放射チューブ(一つ以上のコイル中のこれらの配置を含む);クロスオーバーパイピング;移送ライン交換体;急冷ゾーン導管;及び500 ℃を超える温度で炭化水素+スチーム混合物に暴露され得る熱分解方法中のその他の部品のいずれかを含むが、これらに限定されない。“伝熱チューブ”という用語はまた浸炭が起こり得る方法を含む、炭化水素をアップグレードするためのその他の方法で伝熱機能(あったとしても、その他の機能の中で)を与えるチューブ、例えば、コーキングを受ける傾向があるかもしれない炭化水素プロセス流を輸送又は運送するための導管を含む。
“混合要素”は管状部材の内表面からの突起を意味し、但し、その突起が管状部材の内表面と突起の端部の間に形成された接触角を含むことを条件とし、例えば、内表面上の不完全な被覆物、例えば、スチームクラッカー合金から形成されたビード溶接物を意味する。混合要素は管状部材の内表面上の完全な被覆物ではないので、境界が(i) 混合要素により覆われていない管状部材の内表面の領域と(ii)混合要素により覆われている管状部材の内表面の領域の間に存在する。境界は典型的には接触角を含み、その接触角の頂点は典型的には管状部材の内表面上の混合要素の周囲に近接して配置される。接触角の程度(例えば、下側に延びている角度範囲)が巨視的に測定される。接触角の頂点に近接する界面領域が巨視的に見られる場合に観察されるかもしれないような、不完全な接触角が、本発明の範囲内にある。混合要素は不連続(例えば、管状部材の内表面上の島)又は連続(例えば、ビードの長さに沿って実質的に一定であり、かつビードの両側で実質的に等しい接触角を有する管状部材の内表面に沿っての連続の溶接ビード)であってもよい。特別な混合デザイン及び配置が米国特許第5,950,718 号、同第6,419,885 号、同第6,719,953 号、及び同第7,799,963 号に記載されており、特に米国特許第第7,799,963 号に記載された配置を有するものが挙げられ、それぞれの開示が本明細書にそのまま含まれる。
【0011】
特に示されない限り、本明細書に言及される全ての量、濃度、及び質量%は基準組成物、例えば、事情により、第一のスチームクラッカー合金、第二のスチームクラッカー合金等の合計質量を基準とする。
種々の局面が炭化水素+スチーム混合物をスチームクラッキング中に運ぶための伝熱チューブとして有益な溶接物に関して更に詳しく今記載されるであろう。本明細書に開示された方法及びシステムの精神及び範囲は選ばれる局面に限定されず、またこの記載は本発明の一層広い範囲内のその他の局面、例えば、スチームなしの炭化水素の熱分解を含む局面を排除することを意味しない。更に、当業者は
図1が特別な比率又はスケールで示されないこと、及び多くの変化が示された局面になし得ることを認めるであろう。簡略のために、或る範囲のみが本明細書に明らかに開示される。しかしながら、あらゆる下限からの範囲があらゆる上限と組み合わされて明らかに言及されない範囲を言及してもよく、同様に、あらゆる下限からの範囲があらゆるその他の下限と組み合わされて明らかに言及されない範囲を言及してもよく、同様に、あらゆる上限からの範囲があらゆるその他の上限と組み合わされて明らかに言及されない範囲を言及してもよい。更に、範囲内に、明らかに言及されないとしても、その終点の間のそれぞれの点又は個々の値を含む。こうして、それぞれの点又は個々の値はあらゆるその他の点もしくは個々の値又はあらゆるその他の下限もしくは上限と組み合わされたそれ自体の下限又は上限として利用できて、明らかに言及されない範囲を言及してもよい。
【0012】
スチームクラッキング炉
本発明の溶接物は軽質オレフィン、例えば、エチレン及び/又はプロピレンを製造するためのスチームクラッキングに有益である。例示のスチームクラッキング炉が
図1に示される。スチームクラッキング炉1は放射ファイヤボックス103 、対流部分104 及び煙道ガス排気装置105 を含む。煙道ガスは導管100 及び制御弁101 を経由して放射熱を炭化水素供給原料に与えて供給原料の熱分解により所望の熱分解生成物を生成するバーナー102に与えられる。バーナーが対流部分104 中を上向きに流れ、次いで導管105 を経由して炉から離れて流れる熱いガスを発生する。
炭化水素供給原料が導管10及び弁12を経由して少なくとも一つの対流コイル13に導かれる。対流コイル13に導入された炭化水素供給原料が熱い煙道ガスとの間接的な接触により予熱される。弁12は対流コイル13に導入される炭化水素供給原料の量を調節するのに使用される。対流コイル13は典型的には炭化水素供給原料の平行な流れのために第一のコイルバンク中に配置される複数の対流コイルの一つである。典型的には、複数の供給導管10及び11が炭化水素供給原料を第一のコイルバンクの平行の対流コイルのそれぞれに運ぶ。四つの供給導管が
図1に示されるが、本発明は供給導管の特別な数に限定されない。例えば、本発明は合計の炭化水素供給原料の平行な部分中で第一のコイルバンク中に配置された均等の数の対流コイルに運ぶための3、4、6、8、10、12、16、又は18の供給導管を有する対流部分と適合性である。示されていないが、複数の供給導管11のそれぞれが弁(弁12と同様の)を備えていてもよい。換言すれば、複数の導管11のそれぞれが(i) 第一のコイルバンク中に配置され、かつ(ii)対流コイル13と平行に運転する対流コイル(示されていない)と流体連通し得る。簡素化のために、第一の対流コイルバンクの記載は対流コイル13に集中するであろう。バンク中のその他の対流コイルが同様の様式で運転し得る。
【0013】
希釈スチームが煙道ガスからの熱の間接的な伝達による予熱のために希釈スチーム導管20を経由して弁22を通って対流コイルに与えられる。弁22は対流コイル23に導入される希釈スチームの量を調節するのに使用される。対流コイル23は典型的には平行の希釈スチーム流のために第二のコイルバンク中に配置される複数の対流コイルの一つである。典型的には、複数の希釈スチーム導管20及び21が希釈スチームを第二のコイルバンクの平行の対流コイルのそれぞれに運ぶ。四つの希釈スチーム導管が
図1に示されるが、本発明は希釈スチーム導管の特別な数に限定されない。例えば、本発明は合計の希釈スチームの量の平行な部分中で第二の対流コイルバンク中に配置された均等の数の対流コイルに運ぶための3、4、6、8、10、12、16、又は18の希釈スチーム導管を有する対流部分と適合性である。示されていないが、複数の希釈スチーム導管21のそれぞれが弁(弁22と同様の)を備えていてもよい。換言すれば、複数の導管21のそれぞれが対流コイル23と平行に運転する対流コイル(示されていない)と流体連通している。簡素化のために、第二の対流コイルバンクの記載はコイル23に集中するであろう。バンク中のその他の対流コイルが同様の様式で運転し得る。
予熱された希釈スチーム及び予熱された炭化水素供給原料は導管25中で、又はそれに近接して合わされる。炭化水素+スチーム混合物は対流コイル30中の炭化水素+スチーム混合物の予熱のために、導管25を経由して対流部分104 に再導入される。対流コイル30は典型的には予熱中の炭化水素+スチーム混合物の平行な流れのために第三のコイルバンク中に配置される複数の対流コイルの一つである。炭化水素+スチーム混合物を予熱するための一つの対流コイルが
図1に示されるが、本発明はこのような対流コイルの特別な数に限定されない。例えば、本発明は合計量の炭化水素+スチーム混合物の平行な部分中で運ぶための3、4、6、8、10、12、16、又は18の炭化水素+スチーム混合物対流コイルを有する第三のコイルバンクと適合性である。簡素化のために、第三の対流コイルバンクの記載はコイル30に集中するであろう。バンク中のその他の対流コイルが同様の様式で運転する。炭化水素+スチーム混合物は典型的には対流コイル30中で約750 °Fから約1400°F(400 ℃〜760 ℃)の範囲の温度に予熱される。
【0014】
クロス−オーバーパイピング31は炭化水素の熱分解のために予熱された炭化水素+スチーム混合物を放射部分103 中の放射コイル40に運ぶのに使用される。放射コイル40は典型的には複数の放射コイルの一つであり(その他は示されていない)、これらが放射部分103 中の放射コイルのバンクを一緒に構成する。導管30を出る加熱された混合物の温度は一般に有意な熱分解が始まる点付近であるように設計される。プロセス条件、例えば、対流コイル13中の供給原料予熱の量、対流コイル23中のスチーム予熱の量、対流コイル30中の炭化水素+スチーム混合物予熱の量、炭化水素供給原料及び希釈スチームの相対量、放射コイル40中の予熱された炭化水素+スチーム混合物の温度、圧力、及び滞留時間、並びに第一の時間間隔の期間(コイル13、23、30、及び40中の熱分解モードの期間)は典型的には炭化水素供給原料の組成、所望の生成物の収率、及び耐えられる炉(特に放射コイル)中のコーク蓄積の量に依存する。こうして、本明細書に記載された溶接物は放射コイル40として特に有益である。通常の炭化水素供給原料及び/又は通常のプロセス条件がスチームクラッキングに使用されるが、本発明の溶接物は特別な供給原料又はプロセス条件による使用に限定されず、この記載は本発明の一層広い範囲内のその他の供給原料及び/又はプロセス条件を排除することを意味しない、
熱分解の所望の程度が放射部分103 中で達成された後に、炉流出物が冷却ステージ50中で迅速に冷却される。炉流出物を冷却するあらゆる方法が使用し得る。一局面において、冷却ステージ50が一次移送ライン交換体(TLE)を少なくとも含む。液体炭化水素、例えば、重質ナフサ及び全てのガス油供給原料を含む炭化水素供給原料について、間接的な急冷連結が一次TLEの下流でしばしば必要とされる。油急冷連結は熱分解生成物流への急冷油の添加を可能にして生成物流から注入された急冷油への直接の伝熱を与える。この目的のために、急冷媒体、例えば、急冷油がこの目的に適した少なくとも一つのフィッティングにより流出物に注入される。付加的な急冷ステージが冷却ステージ50中で利用でき、これらのステージは直列、平行、又は直列−平行に運転し得る。冷却された炉流出物は更なる分離及び/又は加工のために、例えば、エチレン及び/又はプロピレンを炉流出物から除去するために導管51を経由して流出する。スチームクラッキング炉中のそれらの使用の他に、又はそれに加えて、特定された溶接物がこうして記載された一つ以上のTLE又は急冷ステージ中で利用し得る。本発明は炉流出物の冷却方法に関して限定されない。
【0015】
炭化水素供給原料
本明細書に記載された溶接物は軽質オレフィンをスチームクラッキングにより生成し得る実質的にあらゆる炭化水素含有供給原料を運ぶのに使用し得る。或る局面において、炭化水素が比較的高い分子量の炭化水素(“ヘビー供給原料”)、例えば、スチームクラッキング中に比較的多量のSCTを生成するものを含む。ヘビー供給原料の例として、スチームクラッキングされたガス油及び残渣、ガス油、暖房用オイル、ジェット燃料、ディーゼル、ケロセン、コーカーナフサ、スチームクラッキングされたナフサ、接触分解されたナフサ、ハイドロクラッキング物、リフォーミング物、ラフィネートリフォーミング物、フィッシャー−トロプッシュ液、フィッシャー−トロプッシュガス、蒸留物、原油、大気圧パイプスチルボトム、真空パイプスチル流(ボトムを含む)、広い沸点範囲のナフサからガス油凝縮物まで、製油所からのヘビー非バージン炭化水素流、真空ガス油、ヘビーガス油、粗油、大気圧残渣、ヘビー残渣で汚染されたナフサ、C
4/残渣混合物、ナフサ/残渣混合物、ガス油/残渣混合物、及び原油の一種以上が挙げられる。炭化水素は少なくとも約600 °F(315 ℃)、一般に約950°F(510 ℃)より高く、典型的には約1100°F(590 ℃)より高く、例えば、約1400°F(760 ℃)より高い公称最終沸点を有し得る。公称最終沸点は特別なサンプルの99.5質量%がその沸点に達した温度を意味する。
その他の局面において、炭化水素が一種以上の比較的低い分子量の炭化水素(軽質供給原料)、特にC
2不飽和物(エチレン及びアセチレン)の比較的高い収率が所望されるこれらの局面を含む。軽質供給原料は典型的には5個より少ない炭素原子を有する実質的に飽和された炭化水素分子、例えば、エタン、プロパン、及びこれらの混合物を含む。本発明の溶接物は軽質供給原料をスチームクラッキングするための伝熱チューブとして、更に特別にはエタンのスチームクラッキングのための放射チューブとして特に有益である。
スチームクラッキイングのために以上の供給原料の一種以上を運ぶための伝熱チューブとして有益な溶接物が更に詳しく今記載されるであろう。本発明はこれらの供給原料を運ぶ溶接物に限定されず、この記載は本発明の一層広い範囲内のその他の炭化水素含有供給原料を運ぶためのこのような溶接物の使用を排除することを意味しない。
【0016】
溶接物
溶接物は(i) 第一のスチームクラッカー合金を含み、かつ内表面及び外表面を有する管状部材及び(ii)その管状部材の内表面と表面接触する少なくとも一つの混合要素を含む。その第一及び第二のスチームクラッカー合金はスチームクラッキング中に炭化水素への混合要素の表面の暴露中に混合要素の表面にアルミナ含有保護被覆物(例えば、スケール)を形成し得るこれらの合金の中からそれぞれ選ばれる。
溶接物は混合要素をあらゆる好適な溶接手段、例えば、プラズマ粉末溶接又はアルゴン/ヘリウムアーク溶接により管状部材の内表面に固定することにより生成されてもよい。プラズマ粉末溶接又はアルゴン/ヘリウムアーク溶接のいずれもが被覆技術、例えば、熱噴霧ではないが、その代わりに溶接オーバーレイ技術の例である。粉末プラズマ溶接では、例えば、金属粉末が融解され、ベースチューブの内表面にプラズマトーチにより溶接される。1.0 〜3.0 mm、1.5 〜2.5 mm、又は1.75〜2.25mmの厚さを有する管状部材の内表面の一部上の連続又は不連続の金属オーバーレイの形態の混合要素は溶接により強く結合されて実質的に孔のないオーバーレイを与える。得られる溶接物は必要により後焼なましされ、焼き戻され、レーザー融解され、又はこれらを組み合わされて混合要素の質量密度を増大し(かつその多孔度を減少し)てもよい。
【0017】
対照的に、通常の熱噴霧被覆方法、例えば、プラズマ、HVOF及びデトネーションガンは一般に管状部材の全内表面上に金属層の実質的に連続の被覆物を生じる。このような被覆物は本発明の混合要素から得られるもの、例えば、特定の第二のスチームクラッカー合金の不連続のビードを管状部材の内表面に粉末溶接することにより生成されたものよりも大きい多孔度を有する。通常の熱噴霧被覆物は融解又は軟化された粒子が基材への衝撃により適用される方法により生成される。如何なる理論又はモデルにより束縛されたくないが、このような通常の被覆物は冷表面を高速で衝突することにより平らにされた、小さい小球の迅速な固化から得られる網状又は層状の粒子構造を含むと思われる。全ての粒子が正確な同じサイズであり、同じ温度及び速度に達することは困難である。こうして、熱噴霧方法中の衝撃の際の個々の粒子の状態の変化が不均一な構造をもたらし、これが過度の多孔度を含む。
本発明の混合要素はチューブのデザインに従ってあらゆる都合の良い様式で構成されてもよい。例えば、混合要素は溶接物中を通過する炭化水素物質の流れを撹拌してチューブの横断面を横切る炭化水素物質の流れを乱して通過の全横断面を横切る概して一様な温度プロフィールを生じるように構成されるべきである。これは典型的にはチューブ中の流体の流れに実質的にオープンである内部の円形断面領域を有する管状部材を利用することにより達成され、その混合要素は管状部材の内表面上の少なくとも一つの領域から突き出ている。溶接物が複数の混合要素を含む場合、全ての混合要素が必要により実質的に同じ組成を有してもよく、必要により全てが同じサイズ及び形状のものであってもよい。例えば、複数の混合要素が管状部材の長さ方向の軸と実質的に交差する方向で突出するフィンの形態であってもよく、チューブ中の炭化水素物質の流れをそらすように働き得る。溶接物が放射チューブとして使用される場合、この配置はチューブの横断面に関する炭化水素+スチーム混合物の流れの温度プロフィールの一様性を増大する。混合要素は管状部材の内表面に沿っての複数の不連続に形成された突起又は連続突起を含んでもよい。突起(不連続又は連続を問わない)は、内表面に沿っての一つ以上の概してらせん形のデザインで配置されてもよい。混合要素を管状部材表面に固定するための方法だけでなく、混合要素の構成が米国特許第5,950,718 号及び同第7,799,963 号に記載されており、これらのいずれもが本明細書に記載された溶接物で使用されてもよい。
【0018】
第一の管状部材
溶接物は典型的には第一の管状部材を含み、その第一の管状部材は(i) 内表面及び外表面並びに(ii)管状部材の内表面により形成された少なくとも一つの内部チャンネルを有し、そのチャンネルは流体が管状部材へ、その中に、またその外へと流れるために開いている。第一のスチームクラッカー合金はあらゆる組成を有してもよいが、但し、(i) それがそれをスチームクラッキング炉中の使用に適するようにする性能特性(例えば、伝熱、延性、及び強度特性)を有し、かつ(ii)スチームクラッキング中に管状部材の内表面にアルミナ含有保護被覆物(例えば、スケール)を形成し得ることを条件とする。幾つかのこのような合金がクボタ社に譲渡された、米国特許第8,431,230 号の表1に記載されており、その特許が参考として本明細書にそのまま含まれる。第一のスチームクラッカー合金の或る例はアルミニウム、ニッケル、クロム、鉄及び炭素;そして必要によりこれらに加えてケイ素、マンガン、タングステン、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ホウ素の一種以上及び一種以上の希土類元素を含む。
第一のスチームクラッカー合金は典型的には約2.0 質量%以上、例えば、約2.5 質量%以上、例えば、約3.0 質量%以上、又は約3.5 質量%以上、又は約4.0 質量%以上、又は約4.5 質量%以上、又は約5.5 質量%以上、又は約6.0 質量%以上、又は約6.5 質量%以上、又は約7.0 質量%以上、又は約8.0 質量%以上、又は約9.0 質量%以上、又は約9.5 質量%以上、又は約10.0質量%以上のアルミニウムのレベルで、アルミニウムを故意に含む。更に、又は別途、第一のスチームクラッカー合金中のアルミニウムの濃度は約10.0質量%以下、例えば、約9.5 質量%以下、又は約9.0 質量%以下、又は約8.0 質量%以下、又は約7.0 質量%以下、又は約6.5 質量%以下、又は約6.0 質量%以下、又は約5.5 質量%以下、又は約4.5 質量%以下、又は約4.0 質量%以下、又は約3.5 質量%以下、約3.0 質量%以下、又は約2.5 質量%以下、又は約2.0 質量%以下であってもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中のアルミニウム含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約2.0 質量%〜約10.0質量%のアルミニウム、又は約2.0 質量%〜約8.0 質量%、又は約2.0 質量%〜約7.0 質量%、又は約2.0 質量%〜約6.0 質量%、又は約2.0 質量%〜約4.0 質量%、又は約2. 5 質量%〜約4.0 質量%、又は約3.0 質量%〜約4.0 質量%、又は約3.5 質量%〜約4.0 質量%のアルミニウム等を含む。チューブ内表面上の耐浸炭性層の充分な量の生成が所望される場合、少なくとも約2.0 質量%のアルミニウムが好ましい。例えば、第一のスチームクラッカー合金中の、アルミニウムの高濃度、例えば、約4質量%以上は、第一の管状部材の或る性質の劣化、例えば、延性の減少をもたらすことがあり、これがスチームクラッキングサービス中の溶接物の性能の低下をもたらし得る。この難点は溶接物中に第一の管状部材と概して同軸である第二の管状部材を含むことにより本発明の溶接物で解消し得ることが見い出され、その第一の管状部材の外表面は典型的には第二の管状部材の内表面に近接している。第二の管状部材は典型的には第一のスチームクラッカー合金と較べて、改良された機械的性質、例えば、改良された延性、クリープ、及び/又は破断強さを有する少なくとも一種の合金を含む。
【0019】
アルミニウムに加えて、第一のスチームクラッカー合金は典型的にはクロム及び/又はニッケルを含む。例えば、第一のスチームクラッカー合金は約15.0質量%以上のクロム、例えば、約17.5質量%以上、又は約18.0質量%以上、又は約20.0質量%以上、又は約22.0質量%以上、又は約24.0質量%以上、又は約30.0質量%以上、又は約35.0質量%以上、又は約40.0質量%以上のクロムを含み得る。更に、又は別途、スチームクラッカー合金は約50.0質量%以下、例えば、約45.0質量%以下、又は約40.0質量%以下、又は約35.0質量%以下、又は約30.0質量%以下、又は約25.0質量%以下、又は約22.0質量%以下、又は約18.0質量%以下、又は約16.0質量%以下の量のクロムを含んでもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中のクロム含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約15.0質量%〜約50.0質量%、又は約16質量%〜約30.0質量%、又は約20.0質量%〜約30.0質量%、又は約22.0質量%〜約30.0質量%、又は約24.0質量%〜約35.0質量%等を含む。クロムの濃度が少なくとも約15.0質量%である場合、溶接物の保全性は浸炭層の存在下で実質的に維持される。当業者はクロムの量が合金の高温機械的性質の低下、例えば、高温クリープ抵抗及び/又は高温破断強さの低下をもたらす程に多くてはならないことを認めるであろう。
【0020】
第一のスチームクラッカー合金中のニッケルの量は約18.0質量%以上のニッケル、例えば、約20.0質量%以上、例えば、約25.0質量%以上、又は約30.0質量%以上、又は約35.0質量%以上、又は約40.0質量%以上、又は約45.0質量%以上、又は約50.0質量%以上、又は約55.0質量%以上、又は約65.0質量%以上のニッケルであってもよい。更に、又は別途、スチームクラッカー合金中のニッケルの量は約70.0質量%以下、例えば、約65.0質量%以下、又は約55.0質量%以下、又は約50.0質量%以下、又は約45.0質量%以下、又は約40.0質量%以下、又は約35.0質量%以下、又は約30.0質量%以下、又は約20.0質量%以下、又は約25.0質量%以下のニッケルであってもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中のニッケル含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約18.0質量%〜約70.0質量%、又は約25.0質量%〜約45.0質量%、又は約30.0質量%〜約55.0質量%、又は約35.0質量%〜約55.0質量%、又は約40.0質量%〜約55.0質量%、又は約45.0質量%〜約55.0質量%、又は約50.0質量%〜約55.0質量%等を含む。ニッケルは、例えば、ディコーキングモード中で、スチームクラッカー合金に酸化耐性を与えると思われる。低濃度のニッケルは増加された鉄含量により補われるが、当業者は充分なニッケルが所望の耐浸炭性層の生成を阻害する酸化物、例えば、クロム酸化物、鉄酸化物、及び/又はマンガン酸化物の生成を防止するために合金中に含まれるべきであることを認めるであろう。
【0021】
第一のスチームクラッカー合金中の鉄の量は約65.0質量%以下、例えば、約65.0質量%以下、又は約55.0質量%以下、又は約45.0質量%以下、又は約35.0質量%以下、又は約25.0質量%以下、又は約15.0質量%以下、又は約5.0 質量%以下であってもよい。更に、又は別途、第一のスチームクラッカー合金は0質量%以上、例えば、約0.10質量%以上、例えば、約5.0 質量%以上、又は約15.0質量%以上、又は約25.0質量%以上、又は約35.0質量%以上、又は約45.0質量%以上、又は約55.0質量%以上の鉄の量の鉄を含んでもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中の鉄含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約0質量%〜約65.0質量%の鉄、又は約1.0質量%〜約65.0質量%、又は約5.0 質量%〜約65.0質量%、又は約15.0質量%〜約65.0質量%、又は約35.0質量%〜約55.0質量%、又は約40.0質量%〜約55.0質量%、又は約45.0質量%〜約55.0質量%、又は約50.0質量%〜約55.0質量%の鉄等を含む。
炭素は0.05質量%以上、例えば、約0.1 質量%以上、例えば、約0.2 質量%以上、又は約0.3 質量%以上、又は約0.4 質量%以上、又は約0.5 質量%以上、又は約0.6 質量%以上の炭素の量で第一のスチームクラッカー合金中に存在してもよい。更に、又は別途、炭素は約0.7 質量%以下、例えば、約0.6 質量%以下、又は約0.5 質量%以下、又は約0.4 質量%以下、又は約0.3 質量%以下、又は約0.2 質量%以下、又は約0.1 質量%以下の炭素の量で存在してもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中の炭素含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約0.05質量%〜約0.7 質量%の炭素、又は約0.05質量%〜約0.6 質量%、又は約0.05質量%〜約0.5 質量%、又は約0.05質量%〜約0.4 質量%、又は約0.05質量%〜約0.3 質量%、又は約0.05質量%〜約0.2 質量%、又は約0.05質量%〜約0.1 質量%、又は約0.3 質量%〜約0.5 質量%の炭素等を含む。炭素は第一の管状部材の可鋳性並びに高温機械的性質、例えば、クリープ抵抗及び破断強さを高めると思われる。当業者は炭素の量が(i) コーク又はその他の異なる炭素質の相の生成及び/又は(ii)合金の延性及び/又は靭性の低下をもたらす程に多くてはならないと認めるであろう。
【0022】
ケイ素が第一のスチームクラッカー合金中に存在する場合、それは約2.5 質量%以下のケイ素、例えば、約2.0 質量%以下、又は約1.5 質量%以下、又は約1.0 質量%以下、又は約0.5 質量%以下、又は約0.1 質量%以下のケイ素の濃度で存在してもよい。更に、又は別途、第一のスチームクラッカー合金中のケイ素濃度は0質量%以上、例えば、約0.1 質量%以上、例えば、約0.2 質量%以上、又は約0.3 質量%以上、又は約0.4 質量%以上のケイ素であってもよい。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中のケイ素含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約0質量%〜約2.5 質量%のケイ素、0質量%〜約2.0 質量%、0質量%〜約1.5 質量%、0質量%〜約1.0 質量%、0質量%〜約0.5 質量%、0質量%〜約0.1 質量%のケイ素等を含む。ケイ素は脱酸素剤として利用でき、融解状態の合金に一層高い流動性を与えると思われる。当業者はケイ素の量が合金の高温機械的性質の低下、例えば、高温クリープ抵抗及び/又は高温破断強さの低下をもたらす程に多くてはならないことを認めるであろう。
マンガンが、例えば、合金が融解状態にある時に酸素及び/又は硫黄脱除剤として利用できるために第一のスチームクラッカー合金中に存在してもよい。このような脱除機能が所望される場合、マンガンが一般に約3.0 質量%以下、例えば、約2.5 質量%以下、又は約2.0 質量%以下、又は約1.5 質量%以下、又は約1.0 質量%以下、又は約0.5 質量%以下、又は約0.1 質量%以下、又は約0質量%のマンガンの濃度で存在する。明らかに開示される第一のスチームクラッカー合金中のマンガン含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、0質量%〜約3.0 質量%のマンガン、0質量%〜約2. 5 質量%、0質量%〜約2.0 質量%、1.0 質量%〜約2.0 質量%、1.5 質量%〜2.5 質量%のマンガン等を含む。
【0023】
タングステン及び/又はモリブデンがまた0.1 質量%〜約10.0質量%、例えば、0.5 質量%〜10.0質量%、1.0 質量%〜5質量%、特に0.5 質量%〜10質量%のタングステン、1質量%〜8質量%のタングステン、及び/又は0.1 質量%〜5.0 質量%のモリブデン、0.5 質量%〜3質量%のモリブデンの量で第一のスチームクラッカー合金中に存在してもよい。モリブデン及びタングステンは合金の高温機械的性質、例えば、クリープ抵抗及び破断強さを高めると思われる。両方の元素が存在する場合、合わされた濃度は一般に10質量%を超えるべきではない。
必要により、第一のスチームクラッカー合金はチタン、ジルコニウム、及びニオブの一種以上を含んでもよい。使用される場合、これらの元素の合計濃度は一般に約0.1 質量%以上、例えば、約0.1 質量%〜約1.8 質量%、又は約0.1 質量%〜約1.5 質量%、又は約0.1 質量%〜約1.0 質量%、又は約0.1 質量%〜約0.6 質量%である。特に、チタン及び/又はジルコニウムは約0.1 質量%〜約0.6 質量%の量で存在してもよい。ニオブは約0.1-1.8 %の量で存在してもよい。
ホウ素が第一のスチームクラッカー合金中に存在してもよく、粒子境界性能を改良し得る。一般にホウ素は0質量%〜約0.1 質量%、例えば、0質量%〜0.07質量%、0質量%〜約0.5 質量%、又は0.05質量%〜約0.1 質量%の量で存在してもよい。
第一のスチームクラッカー合金はまた一種以上の希土類元素、即ち、周期律表中のランタンからルテチウムまでの範囲のランタニド系列の15の元素、並びにイットリウム及びスカンジウム、特にセリウム、ランタン及びネオジムを、約0.005 質量%〜約0.4 質量%の量で含んでもよい。本合金に混入される希土類元素について、セリウム、ランタン及びネオジムは合わされた量で、希土類元素の合計量の少なくとも約80%、更に好ましくは少なくとも約90%を形成してもよい。希土類元素の存在は耐浸炭性層の生成及び安定化に寄与すると思われる。
リン、硫黄、及びその他の不純物、例えば、その材料が調製される場合に合金に不可避に混入されるものを含む第一のスチームクラッカー合金は、本発明の範囲内にある。当業者はこれらの不純物の量が通常のスチームクラッカー合金で典型的である量を超える程に多くてはならないことを認めるであろう。
【0024】
或る局面において、第一の管状部材が以上の第一のスチームクラッカー合金の一種より多くを含む。特定された第一のスチームクラッカー合金組成物のいずれかの組み合わせ及び順列は明らかに本発明の範囲内である。好適な第一のスチームクラッカー合金として、米国特許第6,409,847 号及び同第7,963,318 号(これらが参考として本明細書にそのまま含まれる)に開示されたものが挙げられる。特別な局面において、第一のスチームクラッカー合金が65.0質量%以下の鉄、18.0質量%以上のクロム、及び25.0質量%以上のニッケル、例えば、約20.0質量%以上のクロム、及び鉄を含む。鉄は典型的には、必ずしも必要ではないが、約25.0質量%以上の濃度で存在する。第一のスチームクラッカー合金は、例えば、商品名アフタロイ
TMとして入手し得るこれらのクボタ合金、及びセントラロイ
TMHTEとして入手し得るこれらのSchmidt and Clemens GmbH & Coの合金から選ばれる。
第一のスチームクラッカー合金はあらゆる好適な手段、例えば、鋳造、鍛造、圧延、接合、機械加工等の一つ以上により管状部材に成形されてもよい。通常の成形方法、例えば、遠心鋳造が使用し得るが、本発明はこれらに限定されない。例示の遠心鋳造装置及び方法が米国特許第5,223,278 号(参考として本明細書にそのまま含まれる)に記載されている。しかしながら、本発明はそれにより限定されない。
【0025】
一つ以上の混合要素
第一の管状部材に加えて、本明細書の溶接物は管状部材の内表面と表面接触している少なくとも一つの混合要素を含む。混合要素は溶接物の一つ以上の内部通路中で運ばれる炭化水素物質(すなわち、スチームクラッカー供給原料、スチームクラッキングされた生成物等)の流れを撹拌するのに利用できる。複数の混合要素が溶接物中に存在する場合、混合要素のそれぞれが同じ組成のものであってもよいが、これは必要とされない。少なくとも一つの混合要素は典型的には約2.0 質量%以上、例えば、約2. 5 質量%以上、又は約3.0 質量%以上、又は約3.5 質量%以上、又は約4.0 質量%以上、又は約4.5 質量%以上、又は約5.0 質量%以上、又は約5.5 質量%以上、又は約6.0 質量%以上、又は約6.5 質量%以上、又は約7.0 質量%以上、又は約8.0 質量%以上、又は約9.0 質量%以上、又は約9.5 質量%以上、又は約10.0質量%のアルミニウムのアルミニウムの濃度を有する第二のスチームクラッカー合金を含む。更に、又は別途、アルミニウムの濃度は約10.0質量%以下、例えば、約9.0 質量%以下、又は約8.0 質量%以下、又は約7.0 質量%以下、又は約6.5 質量%以下、又は約6.0 質量%以下、又は約5.5 質量%以下、又は約5.0 質量%以下、又は約4.0 質量%以下、又は約3.0 質量%以下であってもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中のアルミニウム含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約5.0 質量%〜約10.0質量%のアルミニウム、又は約6.0 質量%〜約10.0質量%、又は約7.0 質量%〜約10.0質量%、又は約5.0 質量%〜約9.0 質量%、又は約5.5 質量%〜約8.0 質量%、又は約6.0 質量%〜約8.0 質量%、又は約5.0 質量%〜約8.0 質量%、又は約6.0 質量%〜約6.5 質量%のアルミニウムを含む。混合要素は溶接物製造中、特に溶接の間及びその後に第一の管状部材の内表面上の混合要素の固化中に亀裂を生じる傾向があり得ることが観察された。この難点は第二のスチームクラッカー合金が鉄及び/又はケイ素を含む場合、特に第二のスチームクラッカー合金がケイ素及び鉄、例えば、0.05質量%〜5.0 質量%のケイ素及び35.0質量%〜65.0質量%の鉄を含む場合に解消し得ることが見い出された。
【0026】
驚くことに、混合要素を形成するのに使用されるアルミニウム含有スチームクラッカー合金が広い組成範囲にわたって、特に第二のスチームクラッカー合金中のアルミニウム含量の広い範囲にわたって管状部材の内表面への充分な金属結合を形成することが見い出された。第二のスチームクラッカー合金の実質的に一様な被覆物が被覆物離層を防止するために管状部材の内表面上に必要とされるであろうと予想された。当業者は、例えば、凝集力及び接着力の不均衡が、一種のアルミニウム含有合金を別のアルミニウム合金に金属結合する場合にかなりの複雑さを導入することを認めるであろう。更に、界面で接触する異なる合金、例えば、少量だが、アルミニウムを含む第二の合金と接触するアルミニウム含有合金は、一般に第二の合金(例えば、基材合金)を“湿潤する”第一の合金(例えば、表面合金)の能力を制限し得る不適合性を示す。この作用は一般に、例えば、表面層の周囲における90°以上の値への接触角の増大(また内部接触角増大と称される)として顕在化する。内部接触角の増大は表面層が基材に液体として適用され、表面層がその後に固化される場合の内部エネルギー密度のバランスから生じる。表面合金は接触角が90°より小さい場合に“湿潤”であり、接触角が90°以上である場合に非湿潤である。一般に、表面合金と基材合金の間の増大する組成の非類似性が湿潤の低下及び被覆物離層に向かう増大された傾向をもたらす。換言すれば、接触角が増大するにつれて、被覆物離層に向かっての一層大きい傾向がある。離層に向かっての傾向は、表面合金が基材の実質的に連続の内表面の上の実質的に一様な被覆物の形態である場合に、異なる合金の基材上に固化された非湿潤合金表面についてさえも、少なくし得る。これの例はチューブの内表面上の実質的に一様な被覆物である。このような場合には、接触角がない。何とならば、表面合金−基材合金表面張力が管状基材の全内表面にわたって対称的に分布される(例えば、バランスされる)からである。驚くことに、アルミニウム含有合金は混合部材が管状部材の内表面上の実質的に連続の被覆物であることを必要としないで種々のスチームクラッカー合金により種々の合金への満足な金属結合を有することが見い出された。混合要素中に使用されるアルミニウム含有合金は驚くことに被覆物離層を防止するのに利用できる実質的に一様な表面力の不在にもかかかわず下にある合金に接着する。特に混合部材が形成される合金のアルミニウム含量が管状部材が形成される合金よりも大きいアルミニウムの濃度を有する場合に、充分な金属結合がアルミニウムを含む管状部材と管状部材とは異なるアルミニウム濃度を有する合金から形成された混合要素の間で生じることは更に一層驚くべきことである。
【0027】
従って、或る局面において、第一(A
1)及び第二(A
2)のスチームクラッカー合金中のアルミニウムの量が実質的に等しくてもよい。その他の局面において、第二のスチームクラッカー合金及び第一のスチームクラッカー合金中のアルミニウムの濃度が約1.0 質量%以上、例えば、約2.0 質量%以上、又は約3.0 質量%以上、又は約4.0 質量%以上、又は約5.0 質量%以上、又は約6.0 質量%以上、又は約7.0 質量%以上異なってもよい。特別な局面において、第二のスチームクラッカー合金のアルミニウム濃度が第一のスチームクラッカー合金の濃度とは約1.0 質量%から約5.0 質量%、又は約1.0 質量%から約4.0 質量%、又は約1.0 質量%から約3.5 質量%、又は約1.0 質量%から約3.0 質量%、又は約1.0 質量%から約2.5 質量%、又は約1.0 質量%から約2.0 質量%、又は約1.0 質量%から約1.5 質量%異なる。これらの条件を満たすあらゆる第一及び第二のスチームクラッカー合金が使用されてもよいが、第二のスチームクラッカー合金が典型的には第一のスチームクラッカー合金よりも高い濃度のアルミニウムを有する。管状部材の内表面への混合要素の接着は、特にスチームクラッキング条件下で運転する放射チューブとして利用される溶接物について、第二のスチームクラッカー合金のアルミニウム含量が第一のスチームクラッカー合金のそれより大きく、即ち、A
2≧A
1である場合、例えば、A
2マイナスA
1が0.5 質量%以上であり、又はA
2マイナスA
1が1.0 質量%以上である場合でさえも、得られることが観察される。A
2≧A
1である場合でさえも、溶接中の第一の管状部材の内表面上の混合要素の固化中の混合要素亀裂が第二のスチームクラッカー合金中に鉄及び/又はケイ素、例えば、ケイ素及び鉄、例えば、0.05質量%〜5.0 質量%のケイ素及び35.0質量%〜65.0質量%の鉄を含むことにより減少又は排除し得る。
【0028】
上記されたアルミニウム濃度を有するあらゆる第二のスチームクラッカー合金が使用されてもよいが、特定された範囲のアルミニウム含量に加えて、必要によりクロム、ニッケル、鉄、炭素、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、アンチモン、鉛、パラジウム、白金、銅、銀、金、スカンジウム、ランタン、イットリウム、及びセリウムの一種以上を更に含んでもよい第二のスチームクラッカー合金を含む、例示の第二のスチームクラッカー合金が更に詳しく今記載されるであろう。
第二のスチームクラッカー合金は更にクロム、例えば、約15.0質量%以上のクロム、例えば、約18.0質量%以上、又は約20.0質量%以上、又は約22.0質量%以上、又は約25.0質量%以上、又は約30.0質量%を含み得る。更に、又は別途、第二のスチームクラッカー合金は約30.0質量%以下、例えば、約25.0質量%以下、又は約24.0質量%以下、又は約22.5質量%以下、又は約20.0質量%以下、又は約18.0質量%以下の量のクロムを含んでもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中のクロム含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約15.0質量%〜約30.0質量%のクロム、又は約18質量%〜約30.0質量%、又は約20質量%〜約30.0質量%、又は約22.0質量%〜約30.0質量%、又は約25.0質量%〜約30.0質量%、18.0質量%〜25.0質量%、又は19.0質量%〜24.0質量%、又は20.0質量%〜22.5質量%のクロム等を含む。
第二のスチームクラッカー合金は更にニッケル、例えば、約20.0質量%以上のニッケル、例えば、約25.0質量%以上、又は約30.0質量%以上、又は約35.0質量%以上、又は約40.0質量%のニッケルを含み得る。更に、又は別途、例示の第二のスチームクラッカー合金中のニッケルの量は約45.0質量%以下、例えば、約40.0質量%以下、又は約35.0質量%以下、又は約30.0質量%以下、又は約25.0質量%以下であってもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中のニッケル含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約20.0質量%〜約45.0質量%、又は約25.0質量%〜約45.0質量%、又は約30.0質量%〜約45.0質量%、又は約35.0質量%〜約45.0質量%、又は約40.0質量%〜約45.0質量%等を含む。第二のスチームクラッカー合金中のニッケルの量は第二のスチームクラッカー合金中のその他の成分の量、例えば、アルミニウム、クロム、及び鉄の量に依存し得る。例えば、第二のスチームクラッカー合金がアルミニウム、クロム、及び鉄を含む場合には、第二のスチームクラッカー合金の残部の90.0質量%以上がニッケルを含み、実質的にニッケルからなり、又は更にはニッケルからなり得る。典型的には、残部の95.0質量%以上、例えば、99.0質量%以上、例えば、99.9質量%以上がニッケルである。本発明は残部の実質的に全てがニッケルである第二のスチームクラッカー合金を含む。特別な局面において、第二のスチームクラッカー合金が5.0 質量%〜10.0質量%のアルミニウム、18.0質量%〜25.0質量%のクロム、0.5 質量%以下のケイ素、及び35.0質量%以上の鉄を含み、第二のスチームクラッカー合金の残部(100 質量%に達するため)がニッケルを含み、実質的にニッケルからなり、又は更にはニッケルからなる。これらの局面において、ニッケルの量が、例えば、約25.0質量%から約40.0質量%までの範囲であってもよい。
【0029】
第二のスチームクラッカー合金は更に鉄、例えば、約35.0質量%以上の鉄、例えば、約40.0質量%以上、又は約45.0質量%以上、又は約50.0質量%以上、又は約55.0質量%以上の鉄を含み得る。更に、又は別途、第二のスチームクラッカー合金が約55.0質量%以下、例えば、約50.0質量%以下、又は約45.0質量%以下、又は約45.0質量%以下の鉄を含んでもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中の鉄含量の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約35.0質量%〜約55.0質量%、又は約40.0質量%〜約55.0質量%、又は約45.0質量%〜約55.0質量%、又は約50.0質量%〜約55.0質量%、又は約35.0質量%〜約40質量%の鉄、等を含む。
第二のスチームクラッカー合金は更にケイ素、例えば、0.50質量%以下のケイ素、例えば、約0.45質量%以下、又は約0.40質量%以下、又は約0.35質量%以下、又は約0.30質量%以下、又は約0.25質量%以下、又は約0.20質量%以下、又は約0.10質量%以下、又は約0質量%を含み得る。更に、又は別途、ケイ素は約0質量%以上、例えば、約0.10質量%以上、約0.20質量%以上、又は約0.25質量%以上、又は約0.30質量%以上、又は約0.35質量%以上、又は約0.40質量%以上、又は約0.45質量%以上の量で存在してもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中のケイ素含量の例示の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約0質量%〜約0.50質量%のケイ素、又は約0.10質量%〜約0.45質量%、又は約0.20質量%〜約0.40質量%、又は約0.25質量%〜約0.35質量%のケイ素、等を含む。
【0030】
炭素が第二のスチームクラッカー合金中に存在し得る。例えば、炭素が約0質量%以上、例えば、約0.02質量%以上、例えば、約0.05質量%以上、又は約0.07質量%以上、又は約0.09質量%以上の量で存在してもよい。第二のスチームクラッカー合金が炭素を含む場合、炭素の量が典型的には約0.1 質量%以下の炭素、例えば、0.08質量%以下、又は約0.05質量%以下の炭素である。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中の炭素含量の例示の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、0質量%〜約0.10質量%の炭素、又は約0.02質量%〜約0.08質量%、又は約0.05質量%〜約0.08質量%、又は約0.09質量%〜約0.10質量%の炭素、等を含む。炭素が炭化物沈澱の形態として第二のスチームクラッカー合金中に存在してもよく、それが時間の延長された期間にわたって高温に暴露される時にこれが改良されたクリープ強さに寄与すると考えられる。
第二のスチームクラッカー合金は更に0.01質量%〜4.0 質量%、例えば、0.03質量%〜約3.7 質量%、又は約0.05質量%〜約3.5 質量%、又は約0.07質量%〜約3.3 質量%、又は約1.0 質量%〜約3.0 質量%、又は約1.3 質量%〜約2.7 質量%、又は約1.5 質量%〜約2.5 質量%、又は約1.7 質量%〜約2.3 質量%、又は約2.0 質量%の、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、及びこれらの組み合わせから選ばれた少なくとも一種の元素を含んでもよい。第二のスチームクラッカー合金中の元素のこの群の合計量は一般に約4.0 質量%以下、例えば、約2.0 質量%以下、又は約1.0 質量%以下、又は約0質量%である。
【0031】
合金元素、例えば、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、アンチモン、鉛、パラジウム、白金、銅、銀及び金は、コーキング生成を抑制すると考えられる。何とならば、これらの元素は表面炭素転移反応の触媒ではないからである。合金元素、例えば、レニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銅、銀及び金は、増大された被覆物保全性、安定性及び耐久性を与え、かつ/又は第二のスチームクラッカー合金中の欠陥濃度を低下し得る。こうして、第二のスチームクラッカー合金は約0.10質量%〜約2.0 質量%、例えば、約0.5 質量%〜約1.5 質量%、又は約0.75質量%〜約1.25質量%、又は約1.00質量%のガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、アンチモン、鉛、パラジウム、白金、銅、銀及び金並びにこれらの組み合わせから選ばれた少なくとも一種の元素を含んでもよい。第二のスチームクラッカー合金中の元素のこの群の合計量は一般に約3.0 質量%以下、例えば、約2.0 質量%以下、又は約1.0 質量%以下、又は約0質量%である。更に、又は別途、第二のスチームクラッカー合金が0.1 質量%〜2.0 質量%、例えば、約0.5 質量%〜約1.5 質量%、又は約0.75質量%〜約1.25質量%、又は約1質量%のレニウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金、銅、銀及び金から選ばれた少なくとも一種の元素を含んでもよい。第二のスチームクラッカー合金中の元素のこの群の合計量は一般に約3.0 質量%以下、例えば、約2.0 質量%以下、又は約1.0 質量%以下、又は約0質量%である。
第二のスチームクラッカー合金は更にスカンジウム、ランタン、イットリウム、及びセリウムから選ばれた少なくとも一種の元素を約0.10質量%以上、例えば、約0.30質量%以上、例えば、約0.50質量%以上、又は約0.70質量%以上、又は約1.0 質量%以上、又は約1.30質量%以上、又は約1.50質量%以上、又は約1.70質量%以上の量で含んでもよい。更に、又は別途、スカンジウム、ランタン、イットリウム、及びセリウムの少なくとも一種が約2.0 質量%以下、例えば、約1.70質量%以下、又は約1.50質量%以下、又は約1.30質量%以下、又は約1.00質量%以下、又は約0.70質量%以下、又は約0.50質量%以下、又は約0.30質量%以下の量で存在してもよい。明らかに開示される第二のスチームクラッカー合金中の例示の含量範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、約0.01質量%〜約2.0 質量%、又は約0.03質量%〜約1.7 質量%、又は約0.05質量%〜約1.5 質量%、又は約0.07質量%〜約1.3 質量%、又は約1.0 質量%を含む。第二のスチームクラッカー合金中の元素のこの群の合計量は一般に約3.0 質量%以下、例えば、約2.0 質量%以下、又は約1.0 質量%以下である。
先に列記された元素のいずれかが0.1 質量%〜30.0質量%の量でNi
3Al 、NiAl等を含むが、これらに限定されない金属間沈澱の形態で第二のスチームクラッカー合金中に存在してもよい。同様に、第二のスチームクラッカー合金が、例えば、0.01質量%〜5.0 質量%の量の酸化物、炭化物、窒化物及び/又は炭素窒化物の形態で上記元素のいずれかを含んでもよい。これらの金属間沈澱及び介在物は特に鉄、ニッケル、クロム、アルミニウム及びケイ素を含むが、これらに限定されない第二のスチームクラッカー合金を構成する元素から生成される。金属間沈澱並びに酸化物、炭化物、窒化物及び炭素窒化物介在物の両方が改良された高温クリープ強さを与え得る。
【0032】
第二のスチームクラッカー合金は典型的には低い多孔度を有し、これが石油化学ユニット及びリファイニング方法ユニット中で炭化水素流に暴露される場合に腐食及びコーキングに対するその改良された耐性に寄与する。第二のスチームクラッカー合金は、例えば、2.0 容量%以下の多孔度、又は1.0 容量%以下の多孔度、又は0.5 容量%以下の多孔度、又は0.1 容量%以下の多孔度を有する。第二のスチームクラッカー合金中の過度の多孔度(存在する場合)は、石油化学ユニット及びリファイニング方法ユニット中で炭化水素流のガス分子の通路として利用できてガス分子を望ましくない程に移送するであろう。ガス分子の移送は機械強度の腐食劣化に寄与し得る。こうして、最少量の多孔度を含む第二のスチームクラッカー合金を得ることが有利である。
【0033】
第二のスチームクラッカー合金の特別な局面が更に詳しく今記載されるであろう。本発明はこれらの局面に限定されず、この記載は本発明の一層広い範囲内の第二のスチームクラッカー合金のその他の局面を排除することを意味しない。第二のスチームクラッカー合金の或る例示の局面は5.0 質量%〜10.0質量%のアルミニウム、18.0質量%〜25.0質量%のクロム、0.5 質量%未満のケイ素、35.0質量%以上の鉄を含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の90.0質量%以上、例えば、95.0質量%以上、又は99.9質量%以上がニッケルである。第二のスチームクラッカー合金は、例えば、プラズマ粉末溶接により特定された第一の管状部材の内表面に溶接し得る。第二のスチームクラッカー合金は典型的には米国特許出願公開第2012/0097289 号(これが参考として本明細書にそのまま含まれる)に特定された条件にかけられた時に一種以上の酸化物を含む保護の、耐浸炭性表面層を形成するものである。その酸化物層は典型的にはアルミナ、クロミア、シリカ、ムライト、及びスピネルの一種以上を含む。その他の局面において、第二のスチームクラッカー合金が5.0 質量%〜8.0 質量%のアルミニウム、19.0質量%〜24.0質量%のクロム、0.5質量%以下のケイ素、及び35.0質量%以上の鉄を含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の90.0質量%以上、例えば、95.0質量%以上、例えば、99.9質量%以上がニッケルである。
更にその他の局面において、第二のスチームクラッカー合金が更に一種以上の任意の成分を含む。例えば、第二のスチームクラッカー合金が更に炭素、例えば、0.01質量%以下の炭素を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.1 質量%〜2.0 質量%のGa、Ge、As、In、Sn、Sb、Pb、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAuの一種以上を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.1 質量%〜2.0 質量%のRe、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAuの一種以上を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.01質量%〜2.0 質量%のSc、La、Y、及びCeの一種以上を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.01質量%〜2.0 質量%の、典型的にはAl、Si、Sc、La、Y、及びCeの一種以上の粒状物の形態の、酸化物を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.01質量%〜4.0 質量%のMn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、及びWの一種以上を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.1 質量%〜30.0質量%の少なくとも一種の金属間沈澱、例えば、Ni3Al 、NiAl、及び/又はシグマ相を含み得る。第二のスチームクラッカー合金が更に0.01質量%〜5.0 質量%の少なくとも一種の介在物、例えば、酸化物介在物、炭化物介在物、窒化物介在物、及び/又は炭素窒化物介在物を含み得る。
【0034】
典型的には、第二のスチームクラッカー合金の更に別の局面において、第二のスチームクラッカー合金が約31.0質量%〜約36.0質量%のニッケル、例えば、約32.0質量%〜約34.0質量%のニッケル;約20.0質量%〜約22.0質量%のクロム;約6.1 質量%〜約6.4質量%のアルミニウム;約37.9質量%〜約39.9質量%の鉄;及び約0.40質量%〜約0.45 質量%のケイ素を含む。
更に別の有利な局面において、第二のスチームクラッカー合金が約33.0質量%〜約36.0 質量%のニッケル、約21.7質量%〜約22.5質量%のクロム、約6.7 質量%〜約7.1 質量%のアルミニウム、約35.9質量%〜約36.7質量%の鉄、約0.16質量%〜約0.24質量%のケイ素を含む。
或る局面において、第二のスチームクラッカー合金が約26.0質量%〜約39.0質量%のニッケル、約20.0質量%〜約22.5質量%のクロム、約6.0 質量%〜約8.0 質量%のアルミニウム、約35.0質量%〜40.0質量%の鉄、及び約0.45質量%以下のケイ素を含む。
更に別の局面において、第二のスチームクラッカー合金が約31.0質量%〜約37.0質量%のニッケル、約20.0質量%〜約22.0質量%のクロム、約6.0 質量%〜約6.5 質量%のアルミニウム、約37.0質量%〜40.0質量%の鉄、約0.45質量%以下のケイ素を含む。
更にその他の局面において、第二のスチームクラッカー合金が約28.5質量%〜約40.0質量%のニッケル、約19.0質量%〜約24.0質量%のクロム、約5.0 質量%〜約7.0 質量%のアルミニウム、約35.0質量%〜約40.0質量%の鉄、及び約0.3 質量%以下のケイ素を含む。
【0035】
複数の混合要素が溶接物中に存在する場合、混合要素のそれぞれが実質的に同じ第二のスチームクラッカー合金を含み得るが、これは必要とされない。その他の局面において、溶接物が複数の混合要素を含み、複数の中の少なくとも一つの混合要素が一つ以上のその他のものとは実質的に異なる組成を有する。異なる組成の一つ以上の混合要素が異なる第二のスチームクラッカー合金、例えば、特定された第二のスチームクラッカー合金の中から選ばれる別の第二のスチームクラッカー合金を含み得る。複数のうちの少なくとも一つの混合要素が特定された第二のスチームクラッカー合金の少なくとも一種を含む限り、溶接物の残りの混合要素が第二のスチームクラッカー合金として特定されたものの中ではない合金を含み得る。例えば、溶接物が(i) 特定された第二のスチームクラッカー合金の一種以上を含む少なくとも一つの第一の混合要素及び(ii)少なくとも一つの第二の混合要素を含むことができ、その第二の混合要素が特定された第二のスチームクラッカー合金の中ではない合金(例えば、アルミニウムを含まない合金)を含む。最大の耐浸炭性のために、複数の混合要素のそれぞれが特定された第二のスチームクラッカー合金の少なくとも一種を含むことが好ましい。
溶接物の混合要素は第二のスチームクラッカー合金を第一の管状部材の内表面にプラズマ粉末溶接することにより第二のスチームクラッカー合金から生成し得る。炭化水素熱分解サービスにおけるファーネスチューブとして使用される場合、特定された酸化物層(又は多層)が熱分解中にその場で生成し得る。別途、又は更に、特定された酸化物層又は多層が溶接物の内表面(混合要素の露出された表面を含む)を米国特許出願公開第2012/0097289 号に明記された制御された低酸素分圧環境に暴露することにより生成し得る。例えば、特定された酸化物層の生成は溶接部内表面を(i) H
2O とH
2のガス混合物、(ii)COとCO
2 のガス混合物、及び必要により(iii) CH
4 又はその他の炭化水素ガス、NH
3 、N
2、O
2、及びArから選ばれた一種以上のガスの一種以上を含む制御された低酸素分圧環境の存在下で約1時間から約500 時間までの範囲の時間にわたって500 ℃から1200℃までの範囲の温度に暴露することにより行ない得る。必要により、溶接物の内表面が更に一つ以上の高密度化処理、例えば、後焼きなまし、焼きもどし及び/又はレーザー融解により処理し得る。所望ならば、溶接物の内表面の表面粗さの少なくとも一部(例えば、混合要素の露出された表面の全て又は一部)が、例えば、機械研磨、電気研磨、及びラッピングの一つ以上の方法により少なくし得る。典型的には、溶接物の内表面(混合要素の露出された表面を含む)が1.1 μm未満の平均表面粗さ(Ra)を有する。
特定された第二のスチームクラッカー合金を含む特定された混合要素を利用することはこれらが、例えば、製油所及び石油化学プロセス作業中の炭化水素供給原料の輸送のための管式加熱炉及び移送ライン交換体中の、炭化水素加工中の熱交換チューブとして、特に熱分解ファーネスチューブとして利用される場合に特定された溶接物中の腐食、コーキング及び/又は汚損の量を少なくする。
【0036】
耐浸炭性層
本明細書に記載された溶接物は溶接物の内部チャンネル中に保護層(例えば、スケール)を含む。本明細書中で耐浸炭性層と称される、保護層は、特に(i) 第一の管状部材の内表面及び(ii)混合要素の表面に近接して、スチームクラッキング中の浸炭に向かう溶接物の傾向を少なくする。この状況における“耐浸炭性”という用語は層が第一及び/又は第二のスチームクラッカー合金への炭素の拡散を少なくすることを意味する。混合要素の露出された表面上の耐浸炭性層の存在はその表面を1056°F(566 ℃)以上の温度及び2バール以上の圧力を含むスチームクラッキング条件下で特定された炭化水素供給原料の少なくとも一種に24時間にわたって暴露し、次いで合金に拡散した炭素の量を測定することにより検出し得る。耐浸炭性層の存在は第二のスチームクラッカー合金に拡散した炭素の量が0.1 質量%以下である場合に示される。
耐浸炭性層はアルミナを含み、典型的には(i) 第一の管状部材の露出された内表面の少なくとも一部、例えば、90%以上の面積、例えば、95%以上の面積、又は99%以上の面積、又は99.9%以上の面積、実質的に全て、本質的に全て、又は100 %の面積及び(ii)混合要素の露出された表面の上に形成する。或る局面において、耐浸炭性層がクロムを実質的に含まないと記載されるかもしれず、特に炭化クロムを実質的に含まない層と記載し得る。その他の局面において、クロム含有粒子が第一の管状部材及び/又は混合要素の少なくとも上の合金に隣接する耐浸炭性層の部分中で分散し得る。この領域におけるクロム濃度は耐浸炭性層がその上に形成する合金のそれよりも高いかもしれない。特別な局面において、耐浸炭性層がAl
2O
3 、例えば、70〜100 質量%のAl
2O
3 、80〜100 質量%のAl
2O
3 、85〜99質量%のAl
2O
3 を含む。
【0037】
浸炭層が望ましくない量のスポーリングを生じないで炭化水素熱分解中の浸炭の量を少なくするように充分に厚い限り、耐浸炭性層の厚さは特に重要ではない。混合部材の露出された表面上の耐浸炭性層(第一の管状部材と接触しない混合部材の表面のその部分)は典型的には一種以上の酸化物、例えば、アルミナを含む。単層酸化物が本発明の範囲内であるが、露出された表面が多層酸化物構造を有し得る。酸化物層(単層又は多層)は典型的には約1μmから約100 μmまでの範囲の厚さを有する。或る例示の局面において、耐浸炭性層が1.0 nm以上、例えば、約5.0 nm以上、例えば、約10.0nm以上、又は約25.0nm以上、又は約50.0nm以上、又は約100.0 nm以上、又は約1.0 μm以上、又は約5.0 μm以上、又は約7.5 nm以上であってもよい。更に、又は別途、耐浸炭性層の厚さが約10.0μm以下、例えば、約7.5 μm以下、又は約5.0 μm以下、又は約1.0 μm以下、又は約100.0 nm以下、又は約50.0nm以下、又は約25.0 nm以下、又は約10.0 nm以下、又は約5.0 nm以下であってもよい。耐浸炭性層の例示の範囲は先に列記された値のいずれかの組み合わせ、例えば、1.0 nm〜100.0 μm、又は10.0nmから50.0μmまで、又は100.0 nm〜10.0μmを含む。必要により、耐浸炭性層は実質的に一様の厚さのものであってもよいが、これは必要とされない。或る局面において、混合要素の上に配置される耐浸炭性層のその部分の厚さが管状部材の内表面の残部の上に配置されるその部分よりも厚い。別途、又は加えて、管状部材の出口に近接する溶接物の耐浸炭性層の厚さが管状部材の入口に近接する厚さよりも大きくてもよく、又はその逆であってもよい。その他の局面において、耐浸炭性層の厚さが管状部材の入口と出口の間の位置で最大である。
【0038】
或る局面において、耐浸炭性層が溶接物を空気のそれより小さい熱力学的酸素分圧を有するガス環境を含む、制御された低い酸素分圧環境に暴露することにより形成されてもよい。制御された低い酸素分圧環境の非限定例は製油所又は石油化学プラントのスチーム、ガスのH
2O:H
2 混合物及びガスのCO
2:CO混合物である。制御された低い酸素分圧環境は更にその他のガス、例えば、CH
4 、N
2、O
2、He、Ar及び炭化水素を含んでもよく、これらが更に耐浸炭性層の形成を可能にし得る。それ故、耐浸炭性層はスチームクラッキングプロセス条件への暴露の前に形成されてもよい。制御された低い酸素分圧環境に適した温度は典型的には約500 ℃以上、例えば、500 ℃〜1200℃、又は600 ℃から1100℃までである。暴露時間は典型的には約1時間以上、例えば、1時間〜500 時間、又は1時間から300 時間まで、又は1時間から100 時間までである。
上記耐浸炭性層は別途第一の管状部材の内表面及び少なくとも一つの混合要素の表面を0.05〜2.5 の表面粗さ(Ra)まで機械加工し、その後に少なくとも1050℃の酸化雰囲気中で溶接物の内部を熱処理することにより形成されてもよい。この熱処理が1050℃より低い(が、900 ℃より低くない)温度で行なわれる場合には、第一及び第二のスチームクラッカー合金中の希土類元素の下限が0.06質量%であるべきであり、タングステンの上限が6質量%に設定されるべきである。
耐浸炭性層が熱処理により、例えば、混合要素及び/又は管状部材の内表面を酸化雰囲気中で少なくとも1050℃の温度に暴露することにより形成される局面において、耐浸炭性層中のAl
2O
3 の生成が0.005 質量%以上の希土類元素濃度により容易にされる。
【0039】
任意の第二の管状部材
本明細書に記載された発明の局面の溶接物は必要により第一の管状部材の外表面と表面接触する外部管状部材を含んでもよい。第二の管状部材は第一の管状部材の延性が望ましくない程に低い場合に特に有益である。第二の管状部材は米国特許出願公開第2012/0097289号に開示されたように溶接物中に含まれてもよい。必要により、第一の管状部材が第二の管状部材の内表面上の被覆物の形態であってもよい。第二の管状部材は少なくとも一種の第三のスチームクラッカー合金を含み、その第三のスチームクラッカー合金は典型的には第一のスチームクラッカー合金より大きい延性を有する。第三のスチームクラッカー合金は典型的には第一のスチームクラッカー合金と較べて質量基準で少ないアルミニウムを含む。必要により、第三のスチームクラッカー合金は実質的にアルミニウムを含まず、アルミニウムが不純物を示す濃度、例えば、約0.2 質量%以下、又は約0.1 質量%以下、又は約0.05質量%以下、又は約0.03質量%以下、又は約0.02質量%以下、又は約0.01質量%以下、又は検出し得ない量で存在することを意味する。
好適な第三のスチームクラッカー合金は少なくとも18.0質量%のCr及び10.0質量%のNi、有利には少なくとも20.0質量%のCr及び30.0質量%のNiを含むものを含む。このような合金の非限定例として、HP45Nb、HP16Nb、HN10NiNb、HP 40 Mod 、Manoir HP 40W、Manoir Manaurite XM、Manoir Manaurite XTM 、及びKubota KHR 45Aが挙げられる。表1は第三のスチームクラッカー合金としての使用に適している或る種の合金をリストする。
表1:例示のAlを含まない第三のスチームクラッカー合金
【0041】
試験方法
化学組成は電子プローブ・ミクロ−アナライザー(EPMA)により測定し得る。EPMAは基本的には化学分析の追加された能力を有する走査電子顕微鏡 (SEM)と同じである。EPMAの主な重要性は波長分散分光学 (WDS)により正確な、定量的元素分析を獲得する能力である。分析の空間スケールが、サンプルの詳しい像を生じる能力と組み合わされて、物質をその場で分析し、単相内の複雑な化学変化を解明することを可能にする。
粗さは算術平均粗さ(Ra)として常套的に表わされる。平均線からの不規則性の粗さ成分の算術平均高さがサンプル長さL内で測定される。標準カットオフは4.8 mmの測定長さで0.8 mmである。この測定はANSI/ASME B46.1 “表面組織−表面粗さ、うねり及び加工模様 (Lay)”に合致し、これは本開示に従って表面粗さを測定するのに使用された。
【0042】
本発明の例示の実施態様が特殊性でもって記載されたが、種々のその他の変更が本発明の精神及び範囲から逸脱しないで当業者に明らかであろうし、また直ぐになし得ることが理解されるであろう。従って、特許請求の範囲が本明細書に示される例及び記載に限定されることは意図されていないが、むしろ請求項が本発明が関係する当業者により均等物として処理されるであろう全ての特徴を含む、本発明にある特許性の新規性の全ての特徴を含むと見なされることが意図される。
あらゆる優先権書類及び/又は試験操作を含む、本明細書に記載される全ての書類はこのような通例が許される全ての司法権の目的のためにそれらがこの明細書と不一致ではない程度にまで本明細書に参考として含まれるが、但し、最初に出願された出願又は出願書類に挙げられていない優先権書類が本明細書に参考として含まれないことを条件とする。以上の一般の記載及び特別な実施態様から明らかであるように、本発明の形態が説明され、記載されたが、種々の変更が本発明の精神及び範囲から逸脱しないでなし得る。従って、本発明はそれにより限定されることは意図されていない。特にことわらない限り、全ての%、部数、比等は質量基準である。特にことわらない限り、化合物又は成分への言及は化合物又は成分それ自体だけでなく、その他の化合物又は成分と組み合わせての化合物又は成分、例えば、化合物の混合物を含む。同様に、“含む(comprising)”という用語は”含む(including)“という用語と同義と考えられる。同様に、組成物、元素又は元素の群が“含む”という移行句で先行される時にはいつでも、本発明者らはまた組成物、一種以上の元素の言及に先行する“実質的に・・・からなる”、“からなる”、“からなる群から選ばれる”又は“である”という移行句を有する同じ組成物又は元素の群を意図しており、その逆もまた真であることが理解される。本発明の局面は明らかに言及されておらず、また記載されていないいずれかの元素、工程、組成物、成分又はその他の請求項要素を実質的に含まず、本質的に含まず、又は完全に含まないものを含む。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕熱分解炉中の使用に適した溶接物であって、その溶接物が
a) 第一のスチームクラッカー合金を含み、かつ内表面及び外表面を有する第一の管状部材、及び
b) 第一の管状部材の内表面と表面接触する一つ以上の混合要素
を含み、その混合要素の少なくとも一つが第二のスチームクラッカー合金を含み、
(i) 第一のスチームクラッカー合金が、第一のスチームクラッカー合金の質量を基準として、A1質量%のアルミニウムを含み、
(ii)第二のスチームクラッカー合金が、第二のスチームクラッカー合金の質量を基準として、A2質量%のアルミニウムを含み、かつ
(iii) A1が2.0 質量%以上であり、かつA2が2.0 質量%以上であることを特徴とする前記溶接物。
〔2〕A1が2.0 質量%から10.0質量%までの範囲であり、かつA2が2.0 質量%から10.0質量%までの範囲である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔3〕A2がA1以上である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔4〕A2マイナスA1が0.5 質量%以上である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔5〕A2マイナスA1が1.0 質量%以上である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔6〕A1が2.0 質量%から4.0 質量%までの範囲である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔7〕A2が5.0 質量%から8.0 質量%までの範囲である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔8〕第一の管状部材の外表面と表面接触する第二の管状部材を更に含む、前記〔1〕記載の溶接物。
〔9〕第一の管状部材の内表面の少なくとも一部及び/又は第二のスチームクラッカー合金を含む混合要素の少なくとも一つの少なくとも一部の上に耐浸炭性層を更に含み、その耐浸炭性層がアルミナを含む、前記〔1〕記載の溶接物。
〔10〕耐浸炭性層がクロムを実質的に含まない、前記〔9〕記載の溶接物。
〔11〕第一のスチームクラッカー合金が65.0質量%以下の鉄、17.5質量%以上のクロム、及び25.0質量%以上のニッケルを更に含む、前記〔1〕記載の溶接物。
〔12〕第一のスチームクラッカー合金が20.0質量%以上のクロム及び30.0質量%以上のニッケルを含む、前記〔11〕記載の溶接物。
〔13〕第二のスチームクラッカーが5.0 質量%〜10.0質量%のアルミニウムを含み、更に18.0質量%〜25.0質量%のクロム、0.5 質量%以下のケイ素、及び35.0質量%以上の鉄を含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の90.0質量%以上がニッケルである、前記〔1〕記載の溶接物。
〔14〕第二のスチームクラッカー合金が5.0 質量%〜8.0 質量%のアルミニウム及び19.0質量%〜24.0質量%のクロムを含み、第二のスチームクラッカー合金の残部の95.0質量%以上がニッケルである、前記〔13〕記載の溶接物。
〔15〕第二のスチームクラッカー合金が更に0.01質量%以下の炭素を含む、前記〔1〕記載の溶接物。
〔16〕第二のスチームクラッカー合金が(i) 0.1 質量%〜2.0 質量%のガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、インジウム、スズ、アンチモン、鉛、パラジウム、白金、銅、銀及び金の少なくとも一種、(ii)0.1 質量%〜2.0 質量%のレニウム、ルテニウム、ロジウム、及びイリジウムの少なくとも一種、(iii) 0.01質量%〜2.0 質量%のスカンジウム、ランタン、イットリウム、及びセリウムの少なくとも一種、及び(iv)0.01質量%〜4.0 質量%のマンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、及びタングステンの少なくとも一種の少なくとも一つを更に含む、前記〔1〕記載の溶接物。
〔17〕第二のスチームクラッカー合金の0.01質量%〜2.0 質量%が一種以上の粒状酸化物の形態である、前記〔16〕記載の溶接物。
〔18〕(i) 第二のスチームクラッカー合金のアルミニウムの少なくとも一部がNi3Al 金属間沈澱及び/又はNiAl金属間沈澱の形態であり、かつ(ii)合計のNi3Al 金属間沈澱及びNiAl金属間沈澱が第二のスチームクラッカー合金の質量を基準として、0.1 質量%〜30.0質量%の範囲の合計量(Ni3Al 金属間沈澱+NiAl金属間沈澱)で存在する、前記〔1〕記載の溶接物。
〔19〕第二のスチームクラッカー合金の0.01質量%〜0.5 質量%が酸化物介在物、炭化物介在物、窒化物介在物、炭素窒化物介在物、及びこれらの組み合わせの形態である、前記〔1〕記載の溶接物。
〔20〕第二のスチームクラッカー合金を含む混合要素の中に、(i) 第一の管状部材の内表面からの突起の形態であり、及び(ii)管状部材中を通過する炭化水素の流れを撹拌して第一の管状部材の内部の横断面を横切っての炭化水素の流れを乱して内部の横断面を横切っての概して一様の温度プロフィールを生じるように構成される少なくとも一つがある、前記〔1〕記載の溶接物。
〔21〕(i) 第二のスチームクラッカー合金を含む混合要素の中に、フィンの形態である少なくとも一つがあり、(ii)フィンが第一の管状部材の長さ方向の軸と実質的に交差する方向に突き出し、かつ(iii) フィンが管状部材中を通過する炭化水素の流れをそらして第一の管状部材の内部の横断面を横切っての炭化水素の流れを乱して内部の横断面を横切っての概して一様の温度プロフィールを生じるように構成される、前記〔1〕記載の溶接物。
〔22〕第二のスチームクラッカー合金を含む混合要素の中に、不連続かつ/又はらせん形の溶接ビードの形態である少なくとも一つがある、前記〔1〕記載の溶接物。
〔23〕熱分解炉中の使用のための伝熱チューブであって、その伝熱チューブが前記〔1〕から〔22〕のいずれかに記載の溶接物を含むことを特徴とする前記伝熱チューブ。
〔24〕少なくとも一つの伝熱チューブを含む熱分解炉であって、その伝熱チューブが前記〔1〕記載の溶接物を含むことを特徴とする前記熱分解炉。
〔25〕(a) 熱分解炉を用意し、その熱分解炉が少なくとも一つの放射チューブを含み、その放射チューブが(i) アルミニウムを含む第一のスチームクラッカー合金を含む管状部材(第一の管状部材は内表面及び外表面を有する)、及び(ii)その管状部材の内表面と表面接触する一つ以上の混合要素(その混合要素の少なくとも一つがアルミニウムを含む第二のスチームクラッカー合金を含む)を含み、
(b) 炭化水素及びスチームを用意し、
(c) 炭化水素の少なくとも一部をスチームの少なくとも一部と合わせて炭化水素+スチーム混合物を生成し、炭化水素+スチーム混合物を放射チューブに押し込み、
(d) 放射チューブ中の炭化水素+スチーム混合物を熱分解条件に暴露して炭化水素の少なくとも一部を熱分解することを含み、その管状部材のアルミニウム含量がアルミナ含有耐浸炭性スケールを熱分解条件下で管状部材の内表面上に形成するのに充分であり、かつ第二の管状部材のアルミニウム含量がアルミナ含有耐浸炭性スケールを熱分解条件下で混合要素の上に形成するのに充分であることを特徴とする熱分解方法。