特許第6500172号(P6500172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6500172窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス、蛍光部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500172
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス、蛍光部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/64 20060101AFI20190408BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20190408BHJP
   C09K 11/02 20060101ALI20190408BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20190408BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20190408BHJP
【FI】
   C09K11/64
   C09K11/80
   C09K11/02 Z
   C09K11/08 B
   H01L33/50
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-560337(P2017-560337)
(86)(22)【出願日】2017年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2017030566
(87)【国際公開番号】WO2018038259
(87)【国際公開日】20180301
【審査請求日】2017年11月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-166201(P2016-166201)
(32)【優先日】2016年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓実
(72)【発明者】
【氏名】多々見 純一
(72)【発明者】
【氏名】國分 一平
(72)【発明者】
【氏名】横内 正洋
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−538102(JP,A)
【文献】 特開2016−001669(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172025(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/053233(WO,A1)
【文献】 特表2010−514189(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/133612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00−11/89
H01L 33/00
H01L 33/48−33/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、
前記1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、
前記2次成形体を、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を作製する工程と、
前記焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程と、を有する窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法によって製造され、
サイアロン系化合物からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散され、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種と、を含み、
前記サイアロン系化合物は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物であり、
前記窒化物蛍光体は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物と、前記窒化物に含まれる発光中心元素を含み、
前記マトリックスと前記窒化物蛍光体からなる厚さが100μmの焼結体とした場合に、波長300nm〜500nmの光からなる励起光の全透過率が10%以上であることを特徴とする窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【請求項2】
前記窒化物は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2)で表されるα−サイアロン、一般式(Si,Al)(N,O)で表されるβ−サイアロン、および、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【請求項3】
前記発光中心元素は、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Gd、Cr、Sn、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Ag、Cd、In、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、BiおよびFeからなる群から選択される1種であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなることを特徴とする蛍光部材。
【請求項5】
前記窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材単位が2つ以上積層されてなり、
前記2つ以上の蛍光部材単位のそれぞれが発する蛍光色が互いに異なることを特徴とする請求項4に記載の蛍光部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス、蛍光部材に関する。
本願は、2016年8月26に、日本に出願された特願2016−166201号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色発光ダイオード(青色LED)が実用化され、この青色LEDを利用した白色LEDが開発されている。白色LEDは、既存の白色光源に比べて消費電力が低く、長寿命である。そのため、白色LEDは、液晶表示装置用バックライト、屋内外の照明機器等に適用されている。
白色LEDは、例えば、青色LEDと、その表面に塗布した窒化物蛍光体等とを備える。
【0003】
窒化物蛍光体は、粉体である。そのため、窒化物蛍光体は、光透過性の樹脂に分散されて、青色LEDの表面に固定されている。この場合、窒化物蛍光体と樹脂との屈折率差に起因する光の散乱により、白色LEDの発光効率が低減する。
【0004】
このような課題は、窒化物蛍光体のみからなる透明な塊(バルク体)を得ることによって解決できるものと考えられる。窒化物蛍光体からなる塊を透明化するためには、窒化物蛍光体の原料粉末の焼結を促進して、焼結体内に存在し、光の散乱源となる気孔を除去する必要がある。また、窒化物蛍光体は、屈折率が高い。そのため、窒化物蛍光体を焼成して得られた焼結体内に屈折率が低いガラス相が残存していると、焼結体の透明性が低下する。しかしながら、窒化物蛍光体からなる焼結体から気孔を除去する方法や、窒化物蛍光体からなる焼結体にガラス相を残存させないようにする方法が確立されていなかった。
【0005】
これに対して、窒化物蛍光体の原料粉末に適切な焼結助剤を添加して、適切な焼成プロセスを経ることにより、蛍光性を有する透明なバルク体である窒化物蛍光体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2015/133612号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の窒化物蛍光体は焼結体である。しかしながら、その焼結体は、厚さを100μm以下にしないと、入射した励起光を全て窒化物蛍光体が吸収してしまう。その結果、励起光が焼結体を透過することができないという課題があった。励起光が焼結体を透過することができないと、焼結体が発する蛍光と、焼結体を透過した励起光とを利用して、白色LEDを実現することができない。
【0008】
また、窒化物蛍光体が良好な励起光透過性を発現するためには、窒化物蛍光体の透明性を高める必要がある。そのためには、窒化物蛍光体の発光源と吸収源を低減する必要がある。しかしながら、窒化物蛍光体の発光源と吸収源を低減するために、賦活元素の濃度を低減させると、発光波長が変化する課題と、量子効率が低減する課題とがあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、励起光の透過性を向上した窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス、および、その窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材を提供することを目的とする。また、本発明は、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の濃度を調節することができる窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、前記1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、前記2次成形体を、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を作製する工程と、前記焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程と、を有する窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法によって製造され、サイアロン系化合物からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散され、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種と、を含み、前記サイアロン系化合物は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物であり、前記窒化物蛍光体は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物と、前記窒化物に含まれる発光中心元素を含み、前記マトリックスと前記窒化物蛍光体からなる厚さが100μmの焼結体とした場合に、波長300nm〜500nmの光からなる励起光の全透過率が10%以上である窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスである。
本発明の1つの態様の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、前記窒化物は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2)で表されるα−サイアロン、一般式(Si,Al)(N,O)で表されるβ−サイアロン、および、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンからなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
本発明の1つの態様の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、前記発光中心元素は、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Gd、Cr、Sn、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Ag、Cd、In、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、BiおよびFeからなる群から選択される1種であってもよい。
本発明の他の態様は、本発明の1つの態様の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材である。
本発明の他の態様の蛍光部材において、前記窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材単位が2つ以上積層されてなり、前記2つ以上の蛍光部材単位のそれぞれが発する蛍光色が互いに異なっていてもよい。
[1]サイアロン系化合物からなるマトリックスと、前記マトリックス中に分散され、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種と、を含むことを特徴とする窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0011】
[2]前記サイアロン系化合物は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物であることを特徴とする[1]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0012】
[3]前記窒化物は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2)で表されるα−サイアロン、一般式(Si,Al)(N,O)で表されるβ−サイアロン、および、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[2]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0013】
[4]前記窒化物蛍光体は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物をマトリックスとして発光中心元素を含むことを特徴とする[1]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0014】
[5]前記窒化物蛍光体は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2)で表されるα−サイアロン、一般式(Si,Al)(N,O)で表されるβ−サイアロン、および、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0015】
[6]前記発光中心元素は、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Gd、Cr、Sn、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Ag、Cd、In、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、BiおよびFeからなる群から選択される1種であることを特徴とする[1]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス。
【0016】
[7][1]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなることを特徴とする蛍光部材。
【0017】
[8]前記窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材単位が2つ以上積層されてなり、前記2つ以上の蛍光部材単位のそれぞれが発する蛍光色が互いに異なることを特徴とする[7]に記載の蛍光部材。
【0018】
[9]反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、前記1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、前記2次成形体を、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を作製する工程と、前記焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程と、を有することを特徴とする窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法。
【0019】
[10]前記混合物に、焼結助剤として、希土類酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化シリコンおよび酸化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも1種を添加することを特徴とする[9]に記載の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスによれば、励起光の透過性を向上することができる。
【0021】
本発明の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法によれば、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の濃度を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る蛍光部材の一実施形態を示す概略断面図である。
図2】実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定を行った結果を示すグラフである。
図3】実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの粒子形態を示す走査型電子顕微鏡像である。
図4】実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス、蛍光部材、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0024】
[窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス]
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、サイアロン系化合物からなるマトリックスと、マトリックス中に分散され、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種と、を含む。
【0025】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、後述するように、窒化ケイ素粉を含む原料を焼結してなる焼結体(バルク体)である。窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、粒子状(粉末状)ではない。窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、サイアロン系化合物からなる単結晶粒子と窒化物蛍光体の単結晶粒子とが多数集合してなる多結晶体である。すなわち、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、任意の形状をなす焼結体である。この焼結体の形状としては、特に限定されず、例えば、円盤状、平板状、凸レンズ状、凹レンズ状、球状、半球状、立方体状、直方体状、角柱や円柱等の柱状、角筒や円筒等の筒状等が挙げられる。なお、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスでは、多数のサイアロン系化合物の単結晶粒子が集合した多結晶体をサイアロンマトリックスと言い、窒化物蛍光体粒子はサイアロンマトリックス中に分散されている。
【0026】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、例えば、白色LEDに適用される場合、励起光源となる青色LEDの外周または上部(先端部)を覆う形状に成形されて用いられる。
【0027】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの厚さは、特に限定されない。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの厚さは、目的とする透明性(励起光の全透過率)に応じて適宜調整される。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの厚さは、100μm〜1mmであることが好ましい。
【0028】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける透明性は、後述するように窒化物蛍光体の含有量に応じて変化するため、特に限定されない。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける透明性は、厚さが100μmの焼結体(バルク体)とした場合の励起光の全透過率が10%以上であればよい。
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける励起光は、例えば、波長300nm〜500nmの光(紫外領域の光から青色領域の光)である。
【0029】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、窒化物蛍光体の含有量は特に限定されない。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の含有量は、目的とする透明性(励起光の全透過率)と蛍光性(蛍光強度、発光波長)に応じて適宜調整される。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の含有量は、例えば、0.1質量%〜99.9質量%であり、1質量%〜50質量%であることが好ましい。窒化物蛍光体の含有量を1質量%〜50質量%とすれば、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、より透明性に優れ、かつ蛍光性を有するものとなる。
【0030】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、サイアロンマトリックスを構成するサイアロン系化合物の単結晶粒子の平均粒径は、100nm〜700nmであることが好ましく、200nm〜500nmであることがより好ましい。
サイアロンマトリックスを構成するサイアロン系化合物の単結晶粒子の平均粒径が100nm以上であれば、良好な熱的、機械的特性が期待できる。一方、サイアロンマトリックスを構成するサイアロン系化合物の単結晶粒子の平均粒径が700nm以下であれば、高い透明性が期待できる。
【0031】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、窒化物蛍光体の単結晶粒子の平均粒径は、500nm〜30μmであることが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましい。
窒化物蛍光体の単結晶粒子の平均粒径が500nm以上であれば、サイアロンマトリックス中に均一な分散が可能である。一方、窒化物蛍光体の単結晶粒子の平均粒径が30μm以下であれば、良好な蛍光特性が期待できる。
【0032】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、サイアロンマトリックスを構成するサイアロン系化合物の単結晶粒子、および窒化物蛍光体の単結晶粒子の平均粒径は、ISO13383−1:2012に準拠したリニア・インターセプト法等を用いて、例えば、次のように測定される。
観察面を鏡面研磨し、プラズマエッチングして結晶粒子を明瞭にした後、走査型電子顕微鏡で結晶粒子の組織写真を得る。得られた組織写真上に直線を引き、直線と粒子界面の交点距離を測定することで粒子径とする。この粒子径の測定を繰り返し、得られた値を平均して、平均粒径とする。
【0033】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、蛍光色が互いに異なる(発光波長が互いに異なる)窒化物蛍光体を2種以上含んでいてもよい。本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスが窒化物蛍光体を2種以上含む場合、それぞれの窒化物蛍光体の含有量は、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスが発する光の色温度に応じて適宜調整される。
【0034】
例えば、白色光を得る場合の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの構成の一例を説明する。この場合、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスに、青色光によって赤色光を発光する窒化物蛍光体と、青色光によって緑色光を発光する窒化物蛍光体とを含有させる。さらに、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを、青色光を透過する透過性を有するものとする。これにより、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを透過した青色光と、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスから発光した赤色光および緑色光とが混ざり合う。その結果、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにより白色光を得ることができる。
【0035】
また、白色光を得る場合の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの構成の他の例を説明する。この場合、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスに、紫外光または紫色光によって青色光を発光する窒化物蛍光体と、紫外光または紫色光によって赤色光を発光する窒化物蛍光体と、紫外光または紫色光によって緑色光を発光する窒化物蛍光体とを含有させる。これにより、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスから発光した青色光、赤色光および緑色光が混ざり合う。その結果、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにより白色光を得ることができる。
【0036】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスでは、マトリックスを構成するサイアロン系化合物は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される透明な窒化物であることが好ましい。
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、サイアロンマトリックスは、サイアロン系化合物のみからなる厚さが100μmの焼結体(バルク体)とした場合に、励起光の全透過率が50%以上である。
【0037】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物からなるマトリックスと、そのマトリックス内に含まれる(存在する)発光中心元素と、を含有し、蛍光を発する窒化物である。
【0038】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおけるサイアロンマトリックスおよび窒化物蛍光体において、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0≦x/z<3、0<y/z<1)で表される窒化物は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(y=12、z=16、但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2)で表されるα−サイアロン、一般式(Si,Al)(N,O)(x=0、y=6、z=8)で表されるβ−サイアロン、および、一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。一般式M(Si,Al)(N,O)(但し、Mは、アルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.2≦x/z≦0.6、0.4≦y/z≦0.8)で表されるカズンにおいて、MがCa、x=1、y=2、z=3の場合、上記の窒化物は、CaSiAlN;MがCa、x=1、y=1、z=2の場合、上記の窒化物は、CaSiN;MがCa、x=2、y=5、z=8の場合、上記の窒化物は、CaSi;MがSr、x=1、y=28、z=32の場合、上記の窒化物は、SrSiAl19ON31;MがY、x=5、y=3、z=13の場合、上記の窒化物は、YSi12N;MがSi、x=5、y=26、z=37の場合、上記の窒化物は、SiAlSi2135である。
【0039】
α−サイアロンを表わす一般式M(Si,Al)12(N,O)16は、一般式MSi12−(b+c)Al(b+c)16−c(但し、Mは、Li、アルカリ土類金属および希土類金属からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦2、3.60≦b≦5.50、0≦c≦0.30)とも表わされる。
一般式MSi12−(b+c)Al(b+c)16−cにおいて、xが0.5以上2以下であることが好ましい。また、一般式MSi12−(b+c)Al(b+c)16−cにおいて、b/cが1.5以上であることが好ましい。
【0040】
β−サイアロンを表わす一般式(Si,Al)(N,O)は、一般式Si6−zAl8−z(但し、0≦z≦4.2)とも表わされる。
一般式Si6−zAl8−zにおいて、zが0以上1以下であることが好ましく、0.01以上0.5以下であることがより好ましい。
【0041】
また、一般式M(Si,Al)(N,O)において、x/zが0.2以上0.6以下、y/zが0.4以上0.8以下であることが好ましい。x=1、y=2、z=3の場合、上記の窒化ケイ素系化合物は、CaSiAlNである。
【0042】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおいて、一般式M(Si,Al)(N,O)で表される窒化物は、これらに限定されない。一般式M(Si,Al)(N,O)で表される窒化物としては、発光中心元素を賦活することによって、蛍光を発する化合物も用いることができる。
【0043】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体に含まれる発光中心元素としては、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Gd、Cr、Sn、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Ag、Cd、In、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、BiおよびFeからなる群から選択される1種が用いられる。
【0044】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、上記の窒化物と発光中心元素との組み合わせを調整することによって、種々の蛍光色を発することができる。これにより、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の色調を調整することができる。
【0045】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、例えば、上記の窒化物がCeで賦活したY−α−サイアロンである場合、発光可能な蛍光色が青色〜青緑色である。
また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、上記の窒化物がEuで賦活したCa−α−サイアロンである場合、発光可能な蛍光色が黄色である。
また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、上記の窒化物がEuで賦活したβ−サイアロンである場合、発光可能な蛍光色が緑色である。
また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体は、上記の窒化物がEuで賦活したCaSiAlNである場合、発光可能な蛍光色が赤色である。
【0046】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、サイアロン系化合物からなるマトリックスと、マトリックス中に分散され、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とからなる塊である。したがって、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、そのままの形態で所定の形状に成形して、白色LEDに適用することができる。したがって、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスによれば、従来のように、窒化物蛍光体を樹脂に分散させて用いる必要がない。そのため、窒化物蛍光体と樹脂との屈折率差に起因する光の散乱により、白色LEDの発光効率が低減することがない。
【0047】
また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、全体にわたって窒化物蛍光体が均一に存在する。そのため、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、蛍光の発光が偏りなく均一であるとともに、励起光の全透過率も偏りなく均一である。したがって、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスに励起光を入射した場合、この窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを励起光が透過することができる。これにより、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを透過した励起光と、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスから発光した蛍光とが混ざり合って、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにより白色光を得ることができる。
【0048】
さらに、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、後述する製造方法によって製造されている。その結果、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、内部に気孔やガラス相が少ない。そのため、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、気孔やガラス相に起因する透明性の低下が少なく、光透過性に優れたものとなる。
【0049】
[窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法]
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、2次成形体を、窒素雰囲気下でガス圧焼結し、焼結体を作製する工程と、焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程と、を有する。
【0050】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、サイアロン系化合物がα−サイアロンである場合とβ−サイアロンである場合とカズンである場合に適用される。
以下、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法を、サイアロン系化合物がα−サイアロンである場合で説明する。
【0051】
「サイアロン系化合物がY−α−サイアロンの場合」
まず、窒化ケイ素(Si)粉末と、窒化アルミニウム(AlN)粉末と、酸化イットリウム(Y)粉末と、上述の窒化物蛍光体の少なくとも1種とを所定のモル比となるように秤量する。
なお、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末および酸化イットリウム粉末は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末、すなわち、反応によりサイアロン系化合物の構成要素となる原料粉末である。また。窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末は、焼結助剤としても機能する。
【0052】
窒化ケイ素粉末と、窒化アルミニウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、窒化物蛍光体との配合比は、特に限定されない。その配合比は、目的とする窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの透明性と蛍光性に応じて適宜調整される。
【0053】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法で用いられる窒化物蛍光体は、特許文献1(国際公開2015/133612号)に記載の製造方法に準じて製造されたものである。すなわち、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法で用いられる窒化物蛍光体は、平均粒径が所定の範囲(例えば、500nm〜30μm)となるように粉砕された粉末状のものである。
【0054】
次いで、これらの原料粉末に、分散剤を添加して、ボールミルにより、エタノール中で湿式混合を行う。これにより、原料粉末を含むスラリーを調製する。
次いで、得られたスラリーを、マントルヒーター等のヒーターを用いて加熱して、スラリーに含まれるエタノールを充分に蒸発させる。これにより、原料粉末の混合物(混合粉末)を得る。
【0055】
次いで、目開きの大きさが異なる2つ以上の篩を段階的に用い、上記の混合粉末を、それらの篩を強制的に通過させて、所定の粒径を有する混合粉末を造粒する。
次いで、充分に融解したパラフィン等のバインダーと、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)等の滑剤と、シクロヘキサン等の溶媒とを、充分に攪拌、混合する。これにより、バインダー溶液を調製する。
【0056】
次いで、そのバインダー溶液に、造粒した混合粉末を添加し、混合粉末全体にバインダー溶液が染み渡るように混合しながら、その混合物を加熱して、溶媒を蒸発させる。
次いで、溶媒を充分に蒸発させた後、所定の大きさの目開きを有する篩を用い、混合粉末を、その篩を強制的に通過させて、所定の粒径を有する造粒粉末を得る。
【0057】
次いで、金型を用いた成形後の成形体の厚さが所定の大きさとなるように、所定量の造粒粉末を採取し、その造粒粉末を金型内に供給する。
次いで、一軸加圧成形機を用いて、圧力50MPaで、30秒間、一軸加圧成形を行い、1次成形体を得る。
【0058】
次いで、得られた1次成形体の面取りを行い、真空パックにて袋詰めする。
次いで、真空パックに袋詰めされた1次成形体を、冷間静水圧加圧装置を用いて、圧力200MPaで、1分間、1回、または、繰り返し10回の冷間静水圧加圧(Cold Isostatic Pressing、CIP)成形して、2次成形体を得る。
【0059】
次いで、アルミナボート上に、2次成形体を載置し、環状抵抗炉を用いて、70L/minの空気気流中、2次成形体を加熱する。これにより、2次成形体を脱脂し、2次成形体に含まれるバインダーを除去する。この脱脂工程では、2次成形体の加熱温度および加熱時間を2段階に設定する。1段階目の加熱では、加熱温度が500℃、加熱時間が3時間である。2段階目の加熱では、加熱温度が560℃、加熱時間が3時間である。
【0060】
また、2次成形体に含まれるバインダーや滑剤がある程度蒸発することを促すため、または、バインダーや滑剤の熱分解による炭素の残留を防ぐためには、2次成形体の加熱温度が300℃〜600℃、加熱時間が1時間〜10時間であることが好ましい。
【0061】
次いで、脱脂した2次成形体を、多目的高温焼結炉を用い、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を得る。
2次成形体を焼結するには、カーボン製の筐体内に、反応焼結により作製された多孔質のSi製の坩堝を配置する。さらに、その坩堝の中に多孔質のSi製の棚板を設置し、その棚板上に2次成形体を配置する。
【0062】
この焼結工程では、2次成形体の焼結温度が1500℃〜1700℃、焼結時間が1時間〜6時間である。また、窒素雰囲気下、焼結時の圧力が0.9MPaである。
【0063】
次いで、焼結終了後、焼結体を室温まで自然放冷して冷却する。
【0064】
次いで、焼結体を、熱間等方圧加圧加工(Hot Isostatic Pressing、HIP)装置を用いて、窒素雰囲気下で、圧力50MPa〜200MPa、温度1600℃〜1800℃で、1時間〜4時間、加圧焼結処理する。
これにより、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを得る。
【0065】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程を経る。これにより、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の濃度を調節することができる。また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、2次成形体を、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を作製する工程と、焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程とを経る。これにより、焼結体において、光の散乱源となる屈折率の異なる領域や、光の吸収源となるガラス相を除去することができる。その結果、得られる窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、全体にわたって窒化物蛍光体が均一に存在する。そのため、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、蛍光の発光が偏りなく均一であるとともに、励起光の全透過率も偏りなく均一である。また、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、内部に気孔やガラス相が少ない。そのため、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、気孔やガラス相に起因する透明性の低下がなく、光透過性に優れたものとなる。
【0066】
「サイアロン系化合物がCa−α−サイアロンの場合」
まず、窒化ケイ素(Si)粉末と、窒化アルミニウム(AlN)粉末と、炭酸カルシウム(CaCO)粉末と、上述の窒化物蛍光体の少なくとも1種とを所定のモル比となるように秤量する。
なお、窒化ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末および炭酸カルシウム粉末は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末、すなわち、反応によりサイアロン系化合物の構成要素となる原料粉末である。また。窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末は、焼結助剤としても機能する。
【0067】
窒化ケイ素粉末と、窒化アルミニウム粉末と、炭酸カルシウム粉末と、窒化物蛍光体との配合比は、特に限定されず、目的とする窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの透明性と蛍光性に応じて適宜調整される。
【0068】
本実施形態で用いられる窒化物蛍光体は、サイアロン系化合物がY−α−サイアロンの場合と同様のものが用いられる。
【0069】
以下、サイアロン系化合物がY−α−サイアロンの場合と同様にして、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを得る。
【0070】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程を経る。これにより、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける窒化物蛍光体の濃度を調節することができる。また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法は、1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、2次成形体を、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を作製する工程と、焼結体を、窒素雰囲気下で加圧焼結処理する工程とを経る。これにより、焼結体において、光の散乱源となる屈折率の異なる領域や、光の吸収源となるガラス相を除去することができる。その結果、得られる窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、全体にわたって窒化物蛍光体が均一に存在する。そのため、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、蛍光の発光が偏りなく均一であるとともに、励起光の全透過率も偏りなく均一である。また、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、内部に気孔やガラス相が少ない。そのため、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、気孔やガラス相に起因する透明性の低下がなく、光透過性に優れたものとなる。
【0071】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造方法では、反応によりサイアロン系化合物となる原料粉末と、発光中心元素を含有する窒化物蛍光体の少なくとも1種とを含む混合物に、焼結助剤として、希土類酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化シリコンおよび酸化ハフニウムからなる群から選択される少なくとも1種を添加してもよい。
【0072】
本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、高輝度発光ダイオード(LED)、屋外灯、手術用照明、投光器、プロジェクター、植物プラント用照明等の長時間高輝度発光が要求される用途に好適に用いられる。また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、シンチレータ、レーザー等の発光装置、テレビジョン、パソコン用ディスプレイ等の表示装置、センサ等にも適用することができる。
【0073】
従来、窒化物蛍光体は、光透過性の樹脂に分散されて、励起光源であるLEDの表面に固定されて用いられたりしていた。そのため、従来の窒化物蛍光体を適用したLED等の耐熱性は、光透過性の樹脂の耐熱性に依存している。すなわち、従来の窒化物蛍光体を適用したLED等は、耐熱性が低く、高温の環境での使用には適していなかった。これに対して、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、例えば、白色LEDに適用される場合、青色LEDや青色レーザー等の励起光源の外周や上部(先端部)を覆う形状に成形して用いることができる。また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、樹脂を全く含まない。そのため、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを適用した白色LEDは、耐熱性が高く、高温の環境での使用にも耐えることができる。
【0074】
また、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、温度上昇に伴う消光が極めて小さく、演色性等に優れる発光装置を実現できる。
【0075】
[蛍光部材]
本実施形態の蛍光部材は、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる。
本実施形態の蛍光部材としては、例えば、蛍光板等が挙げられる。
【0076】
本実施形態の蛍光部材は、本実施形態の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光部材単位が2つ以上積層されてなるものであってもよい。この場合、2つ以上の蛍光部材単位のそれぞれが発する蛍光色が互いに異なっている。
【0077】
ここで、図1に本実施形態の蛍光部材の一例を示す。
本実施形態の蛍光部材10は、例えば、図1に示すように、第1の蛍光部材単位11と、第2の蛍光部材単位12とがこの順に積層されたものである。
第1の蛍光部材単位11は、例えば、赤色光を発光する窒化物蛍光体(以下、「赤色窒化物蛍光体」と言う。)を含み、励起光である青色光を透過する透明性を有する、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光板である。第2の蛍光部材単位12は、例えば、緑色光を発光する窒化物蛍光体(以下、「緑色窒化物蛍光体」と言う。)を含み、励起光である青色光と赤色光を透過する透明性を有する、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスからなる蛍光板である。
【0078】
このような蛍光部材10に対して、第1の蛍光部材単位11側(紙面の下側)から励起光である青色光を入射すると、青色光の少なくとも一部が第1の蛍光部材単位11に含まれる赤色窒化物蛍光体を励起して、その赤色窒化物蛍光体から赤色光が発光する。この赤色光は、第2の蛍光部材単位12に入射する。また、赤色窒化物蛍光体の励起に寄与しなかった青色光は第1の蛍光部材単位11を透過して、第2の蛍光部材単位12に入射する。
【0079】
続いて、第2の蛍光部材単位12に入射した青色光の少なくとも一部が第2の蛍光部材単位12に含まれる緑色窒化物蛍光体を励起して、その緑色窒化物蛍光体から緑色光が発光し、蛍光部材単位12の外部(紙面の上側)に出射する。また、第2の蛍光部材単位12に入射した赤色光は、第2の蛍光部材単位12を透過して、第2の蛍光部材単位12の外部(紙面の上側)に出射する。さらに、緑色窒化物蛍光体の励起に寄与しなかった青色光は第2の蛍光部材単位12を透過して、第2の蛍光部材単位12の外部(紙面の上側)に出射する。これにより、青色光と、赤色光および緑色光とが混ざり合って、蛍光部材10により白色光を得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実験例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0081】
「実験例1」
(窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造)
まず、窒化ケイ素(Si)粉末(商品名:SN−E10、純度>98%、平均粒径:0.6μm、宇部興産社製)と、窒化アルミニウム(AlN)粉末(Fグレード、純度>98%、平均粒径:1.29μm、トクヤマ社製)と、CaCO(純正化学社製)とを、モル比で、3:3:1(=Si:AlN:CaCO)となるように秤量した。
【0082】
次いで、これらの混合粉末の総量(100質量部)に対して、Euで賦活したCa−αサイアロン(Ca−αSiAlON:Eu2+)粒子を1質量部添加した。なお、Ca−αSiAlON:Eu2+粒子は、特許文献1(国際公開2015/133612号)に記載の製造方法に準じて製造されたものを用いた。
【0083】
次いで、これらの原料粉末の総量に対して、分散剤(商品名:セルナE503、ポリアクリル酸系、中京油脂社製)を2質量%添加して、ボールミル(ポット:窒化ケイ素製、内容積:400mL、サイアロンボール:粒径5mm、1400個)により、エタノール中で、回転速度110rpmで48時間、湿式混合を行った。これにより、原料粉末を含むスラリーを調製した。
【0084】
次いで、得られたスラリーを、マントルヒーター等のヒーターを用いて加熱して、スラリーに含まれるエタノールを充分に蒸発させた。これにより、原料粉末の混合物(混合粉末)を得た。
【0085】
次いで、♯32(呼び寸法:500μm)の篩と、♯48(呼び寸法:300μm)の篩とをこの順に用いて、上記の混合粉末を、それらの篩を強制的に通過させて、所定の粒径を有する混合粉末を造粒した。
【0086】
次いで、充分に融解したバインダーのパラフィン(融点46℃〜48℃、純正化学社製)と、滑剤のフタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(純度97.0%、和光純薬工業社製)と、溶媒のシクロヘキサン(純度99.5%、和光純薬工業社製)とを、充分に攪拌、混合した。これにより、、バインダー溶液を調製した。ここで、原料粉末の総量に対する、パラフィンの添加量を4質量%、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)の添加量を2質量%とした。また、シクロヘキサンの添加量を35mL/100gとした。
【0087】
次いで、そのバインダー溶液に、造粒した混合粉末を添加し、混合粉末全体にバインダー溶液が染み渡るように混合しながら、その混合物を加熱して、溶媒を蒸発させた。
【0088】
次いで、溶媒を充分に蒸発させた後、♯60(呼び寸法:250μm)の篩を用い、混合粉末を、その篩を強制的に通過させて、所定の粒径を有する造粒粉末を得た。
【0089】
次いで、直径15mmの円筒形状のステンレス製金型を用いた成形後の成形体の厚さが2mmとなるように、0.7gの造粒粉末を採取し、その造粒粉末を金型内に供給した。
【0090】
次いで、一軸加圧成形機(商品名:MP−500H、マルトー社製)を用いて、圧力500MPaで、30秒間、一軸加圧成形を行った。これにより、1次成形体を得た。
【0091】
次いで、得られた1次成形体の面取りを行い、真空パックにて袋詰めした。
【0092】
次いで、真空パックに袋詰めされた1次成形体を、冷間静水圧加圧装置(商品名:SEハンディCIP50−2000、アプライドパワージャパン社製)を用いて、圧力200MPaで、60秒間、1回の冷間静水圧加圧成形した。これにより、2次成形体を得た。
【0093】
次いで、アルミナボート上に、2次成形体を載置し、管状抵抗炉を用いて、70L/minの空気気流中、2次成形体を加熱し、2次成形体を脱脂した。これにより、2次成形体に含まれるバインダーを除去した。この脱脂工程では、温度500℃で3時間の加熱と温度560℃で3時間の加熱を行った。
【0094】
また、2次成形体に含まれるバインダーや滑剤がある程度蒸発することを促すため、または、バインダーや滑剤の熱分解による炭素の残留を防ぐために、2次成形体を、温度250℃で3時間加熱した。
【0095】
次いで、脱脂した2次成形体を、多目的高温焼結炉(商品名:ハイマルチ5000、富士電波工業社製)を用い、窒素雰囲気下で予備焼結し、焼結体を得た。
【0096】
2次成形体を焼結するには、カーボン製の筐体内に、反応焼結により作製された多孔質のSi製の坩堝を配置した。さらに、その坩堝の中に多孔質のSi製の棚板を設置し、その棚板上に2次成形体を配置した。
【0097】
この焼結工程では、2次成形体の焼結温度が1600℃、焼結時間が4時間であった。また、焼結時の圧力が、窒素雰囲気下、0.9MPaであった。
【0098】
次いで、焼結終了後、焼結体を室温まで自然放冷して冷却した。
【0099】
次いで、焼結体を、熱間等方圧加圧加工装置(商品名:SYSTEM15X、神戸製鋼社製)を用いて、窒素雰囲気下で、圧力100MPa、1600℃で、1時間、加圧焼結処理した。これにより、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス(Eu2+賦活Ca−α−SiAlON分散型Ca−α−SiAlON)を得た。
【0100】
また、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの形状は、円柱状であった。また、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスを機械加工により薄片化し、その窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの厚さを最終的に100μmとした。薄片化と同時に、窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの両面鏡面研磨を行った。
【0101】
(透過率の測定)
実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、紫外光(波長:380nm)および青色光(波長:440nm)の全透過率の測定を行った。結果を表1に示す。
厚さ100μmの試料をテープで冶具に固定し、LAMBDA750(Perkin Elmer社製)を用い、紫外光および青色光の全透過率を測定した。なお、表1は窒化物蛍光体を含まず、サイアロン系化合物のみからなるサイアロンセラミックスの全透過率を100%とした場合の相対値を示す。
表1の結果から、窒化物蛍光体の含有量が増えるに従って、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける紫外光および青色光の全透過率が低下することが分かった。
【0102】
(発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定)
実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定を行った。
発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定では、FP6300(Jasco製)を用い、測定波長域を、発光スペクトルを405nm励起で430nm〜700nm、励起スペクトルを540nm励起で280nm〜500nm(270nmカットフィルタ下)とした。結果を図2に示す。
図2の結果から、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、579nmで発光することが分かった。
【0103】
(耐熱性の評価)
実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスと、市販の蛍光体粉末(商品名:標準蛍光体、株式会社サイアロン製)を含むエポキシ樹脂(商品名:jER807、三菱化学株式会社製)とを250℃で3時間加熱した。
加熱の前後において、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス(厚さ100μm)、および、市販の蛍光体粉末を含むエポキシ樹脂(厚さ100μm)の全透過率を測定した。また、これらの外観も目視により観察した。
その結果、実験例1の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、加熱の前後において、全透過率と外観が変化しなかった。一方、市販の蛍光体粉末を含むエポキシ樹脂は、加熱の前後において、全透過率と外観が変化した。
【0104】
「実験例2」
(窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造)
窒化ケイ素(Si)粉末(商品名:SN−E10、純度>98%、平均粒径:0.6μm、宇部興産社製)と、窒化アルミニウム(AlN)粉末(Fグレード、純度>98%、平均粒径:1.29μm、トクヤマ社製)と、酸化イットリウム(III)(Y)(商品名:RU−P、純度>99.9%、平均粒径:1.1μm、信越化学工業社製)とを、モル比で、21:9:1(=Si:AlN:Y)となるように秤量した。
【0105】
次いで、これらの混合粉末の総量(100質量部)に対して、Euで賦活したβ−サイアロン(β−SiAlON:Eu2+)粒子を1質量部添加した。なお、β−SiAlON:Eu2+粒子は、特許文献1(国際公開2015/133612号)に記載の製造方法に準じて製造されたものを用いた。
【0106】
これ以外は、実験例1と同様にして、実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス(Eu2+賦活β−SiAlON分散型Y−α−SiAlON)を得た。
【0107】
(窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの観察)
実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの粒子形態を走査型電子顕微鏡(SEM、商品名:JSM−6390LV、日本電子社製)で観察した。結果を図3に示す。
【0108】
(透過率の測定)
実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、実験例1と同様にして全透過率の測定を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、窒化物蛍光体の含有量が増えるに従って、実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける紫外光および青色光の全透過率が低下することが分かった。
【0109】
(発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定)
実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定を行った。
発光スペクトルおよび励起スペクトルの測定では、FP6300(Jasco製)を用い、測定波長域を、発光スペクトルを405nm励起で430nm〜700nm、励起スペクトルを540nm励起で280nm〜500nm(270nmカットフィルタ下)とした。結果を図4に示す。
図4の結果から、実験例2の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスは、529nmで発光することが分かった。
【0110】
「実験例3」
(窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスの製造)
窒化ケイ素(Si)粉末(商品名:SN−E10、純度>98%、平均粒径:0.6μm、宇部興産社製)と、窒化アルミニウム(AlN)粉末(Hグレード、純度>98%、平均粒径:1.29μm、トクヤマ社製)と、窒化カルシウム(Ca)(SIGMA−ALDLICH社製)とを、モル比で、1:1:0.016:0.984(=Si:Al:Eu:Ca)となるように秤量した。
【0111】
次いで、これらの混合粉末の総量(100質量部)に対して、Euで賦活したCaAlSiN(CaAlSiN:Eu2+)粒子を1質量部添加した。なお、CaAlSiN:Eu2+粒子は、特許文献1(国際公開2015/133612号)に記載の製造方法に準じて製造されたものを用いた。
【0112】
これ以外は、実験例1と同様にして、実験例3の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックス(Eu2+賦活CaAlSiN分散型CaAlSiN)を得た。
【0113】
(透過率の測定)
実験例3の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスについて、実験例1と同様にして全透過率の測定を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、窒化物蛍光体の含有量が増えるに従って、実験例3の窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスにおける紫外光および青色光の全透過率が低下することが分かった。
【0114】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、そのままの形態で所定の形状に成形して、白色LEDに適用することが可能な窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスが得られる。また、本発明によれば、従来のように、窒化物蛍光体を樹脂に分散させて用いる必要がない窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスが得られる。したがって、本発明によれば、耐熱性に優れ、長寿命であり、白色LEDの発光効率が低減することがない窒化物蛍光体粒子分散型サイアロンセラミックスが得られる。従って、本発明は極めて有用である。
【符号の説明】
【0116】
10・・・蛍光部材、11・・・第1の蛍光部材単位、12・・・第2の蛍光部材単位。
図1
図2
図3
図4