(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、具体的な実施形態について、半導体発光素子とその製造方法を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、これらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する半導体発光素子の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みは、概念的に示したものであり、実際の厚みを示しているわけではない。また、後述するピットの大きさ等については、実際のものより大きく描いてある。
【0019】
(第1の実施形態)
1.半導体発光素子
図1は、本実施形態の発光素子100の概略構成を示す図である。
図2は、発光素子100における半導体層の積層構造を示す図である。発光素子100は、フェイスアップ型の半導体発光素子である。発光素子100は、III 族窒化物半導体から成る複数の半導体層を有する。
【0020】
図1に示すように、発光素子100は、基板110と、低温バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150と、発光層160と、p型クラッド層170と、p型コンタクト層180と、透明電極190と、n電極N1と、p電極P1と、を有している。低温バッファ層120と、n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150と、発光層160と、p型クラッド層170と、p型コンタクト層180とは、半導体層Ep1である。n型コンタクト層130と、n側静電耐圧層140と、n側超格子層150とは、n型半導体層である。p型クラッド層170と、p型コンタクト層180とは、p型半導体層である。また、n型半導体層は、ドナーをドープしていないud−GaN層等を有していてもよい。p型半導体層は、アクセプターをドープしていないud−GaN層等を有していてもよい。
【0021】
基板110の主面上には、半導体層Ep1が、低温バッファ層120、n型コンタクト層130、n側静電耐圧層140、n側超格子層150、発光層160、p型クラッド層170、p型コンタクト層180の順に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。p電極P1は、透明電極190の上に形成されている。
【0022】
基板110は、MOCVD法により、主面上に上記の各半導体層を形成するための成長基板である。そして、その表面に凹凸加工がされていてもよい。基板110の材質は、サファイアである。また、サファイア以外にも、SiC、ZnO、Si、GaNなどの材質を用いてもよい。
【0023】
低温バッファ層120は、基板110の結晶性を受け継ぎつつ、上層を形成するためのものである。そのため、低温バッファ層120は、基板110の主面上に形成されている。低温バッファ層120の材質は、例えばAlNやGaNである。
【0024】
n型コンタクト層130は、n電極N1とオーミック接触をとるためのものである。n型コンタクト層130は、低温バッファ層120の上に形成されている。また、n型コンタクト層130の上には、n電極N1が位置している。n型コンタクト層130は、n型GaNである。そのSi濃度は1×10
18/cm
3 以上である。また、n型コンタクト層130を、キャリア濃度の異なる複数の層としてもよい。n電極N1とのオーミック性を向上させるためである。n型コンタクト層130の厚みは、例えば、1000nm以上10000nm以下である。もちろん、これ以外の厚みを用いてもよい。
【0025】
n側静電耐圧層140は、各半導体層の静電破壊を防止するための静電耐圧層である。n側静電耐圧層140は、n型コンタクト層130の上に形成されている。
図2に示すように、n側静電耐圧層140は、n型GaN層141と、n型AlGaN層142と、ud−AlGaN層143と、ud−GaN層144と、n型GaN層145と、を有する。n型AlGaN層142は、第1のn型AlGaN層である。n型AlGaN層142のAl組成は、例えば、0.04以上0.30以下の範囲内である。好ましくは、0.04以上0.20以下である。より好ましくは、0.07以上0.20以下である。ud−AlGaN層143は、故意にドープされていないAlGaN層(ud−AlGaN:unintentionally doped AlGaN)である。ud−AlGaN層143のドナー濃度は、5×10
17/cm
3 以下の程度である。ud−GaN層144は、ud−AlGaN層143と同様である。
【0026】
n型GaN層141は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n型AlGaN層142は、n型GaN層141の上に形成されている。ud−AlGaN層143は、n型AlGaN層142の上に形成されている。ud−GaN層144は、ud−AlGaN層143の上に形成されている。n型GaN層145は、ud−GaN層144の上に形成されている。つまり、発光層160から遠い側から、n型GaN層141、n型AlGaN層142、ud−AlGaN層143、ud−GaN層144、n型GaN層145の順で形成されている。
【0027】
n型GaN層141の膜厚は、300nm以上1000nm以下である。n型AlGaN層142の膜厚は、1nm以上130nm以下である。ud−AlGaN層143の膜厚は、50nm以上500nm以下である。ud−GaN層144の膜厚は、10nm以上300nm以下である。n型GaN層145の膜厚は、10nm以上100nm以下である。これらの膜厚は、あくまで目安であり、これ以外の数値であってもよい。
【0028】
n側超格子層150は、発光層160に加わる応力を緩和するための歪緩和層である。より具体的には、n側超格子層150は、超格子構造を有する超格子層である。n側超格子層150は、n側静電耐圧層140の上に形成されている。
図2に示すように、n側超格子層150は、InGaN層151と、GaN層152と、n型GaN層153と、を積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。その繰り返し回数は、10回以上20回以下の範囲内である。ただし、これ以外の回数であってもよい。InGaN層151の膜厚は、0.3nm以上100nm以下の範囲内である。GaN層152の膜厚は、0.3nm以上10nm以下の範囲内である。n型GaN層153の膜厚は、0.3nm以上100nm以下の範囲内である。これらの膜厚は、あくまで目安であり、これ以外の数値であってもよい。
【0029】
発光層160は、電子と正孔とが再結合することにより発光する層である。発光層160は、n側超格子層150の上に形成されている。
図2に示すように、発光層160は、井戸層161と、キャップ層162と、障壁層163と、を積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。つまり、発光層160は、多重量子井戸構造(MQW構造)を有するものである。キャップ層162は、井戸層161を熱から保護するための保護層である。例えば、井戸層161のInを昇華させないようにする役割を担っている。
【0030】
この積層の繰り返し回数は、例えば、5回以上20回以下である。もちろん、これ以外の回数であってもよい。井戸層161は、InGaN層である。キャップ層162は、例えば、GaN層である。障壁層163は、AlGaN層である。障壁層163におけるAl組成は、7%程度である。この場合に、発光素子100の光出力は高い。これらの材料は、あくまで例示である。そのため、これらの半導体層の材料は、その他の組成の半導体であってもよい。例えば、障壁層163は、GaN層であってもよい。
【0031】
井戸層161の膜厚は、1nm以上5nm以下の範囲内である。キャップ162の膜厚は、0.2nm以上1.8nm以下の範囲内である。障壁層163の膜厚は、1nm以上10nm以下の範囲内である。これらの数値は、あくまで例示である。そのため、これら以外の数値範囲を用いてもよい。なお、発光層160の全体での厚みは、500nm以上1000nm以下の範囲内である。もちろん、これ以外の範囲内であってもよい。
【0032】
p型クラッド層170は、発光層160の上に形成されている。
図2に示すように、p型クラッド層170は、p型InGaN層171と、p型AlGaN層172と、を繰り返し積層して形成したものである。繰り返し回数は、例えば、5回以上20回以下である。もちろん、これ以外の回数であってもよい。p型InGaN層171のIn組成比は、0.05以上0.30以下の範囲内である。p型InGaN層171の膜厚は、0.2nm以上5nm以下である。p型AlGaN層172のAl組成比は、0.10以上0.4以下の範囲内である。p型AlGaN層172の膜厚は、1nm以上5nm以下である。これらの数値は、あくまで例示である。したがって、これ以外の数値であってもよい。また、p型クラッド層170は、上記と異なる構成であってもよい。
【0033】
p型コンタクト層180は、p型クラッド層170の上に形成されている。p型コンタクト層180の厚みは、10nm以上100nm以下である。p型コンタクト層180では、Mgが1×10
19/cm
3 以上1×10
22/cm
3 以下の範囲内でドープされている。
【0034】
透明電極190は、p型コンタクト層180の上に形成されている。透明電極190の材質は、ITO、IZO、ICO、ZnO、TiO
2 、NbTiO
2 、TaTiO
2 、SnO
2 のいずれかであるとよい。
【0035】
p電極P1は、透明電極190の上に形成されている。p電極P1は、透明電極190の側から、Ni、Auを順に形成したものである。もちろん、これ以外の構成であってもよい。
【0036】
n電極N1は、n型コンタクト層130の上に形成されている。n電極N1は、n型コンタクト層130の側から、V、Alを順に形成したものである。また、Ti、Alを順に形成してもよい。もちろん、これ以外の構成であってもよい。
【0037】
また、発光素子100は、半導体層Ep1等を保護する保護膜を有していてもよい。
【0038】
2.ピット
2−1.ピットの構造
図3は、発光素子100のピットK1を示す図である。発光素子100は、n型半導体層からp型半導体層まで達する複数のピットK1を有する。
図3では、n型半導体層の一部を取り出して描いてある。ピットK1は、発光素子100の半導体層Ep1を成長させる際に貫通転位Q1の箇所から形成される。ピットK1は、n側静電耐圧層140のn型AlGaN層142から成長する。つまり、基板110から上方に成長する貫通転位がn側静電耐圧層140の膜の内部で、横方向、すなわち貫通転位の成長方向に対して垂直な方向に広がる。そして、それがピットK1となる。そして、ピットK1は、p型コンタクト層180に達するまで成長する。
【0039】
ここで、ピットK1は、貫通転位Q1における起点J1から成長し始める。半導体層は、実際には、多数のピットK1を有している。ピットK1の起点J1は、n型AlGaN層142の内部に位置している。つまり、n型AlGaN層142は、複数のピットK1の起点J1を含む。そして、これらの多数のピットK1の起点J1は、n型AlGaN層142におけるほぼ同じ深さの位置に位置している。
【0040】
このピットK1のピット径は、n側静電耐圧層140の膜厚と、n側静電耐圧層140を成長させる成長温度とにより、変化する。n側静電耐圧層140の膜厚を厚くするほど、ピット径は大きくなる。逆に、n側静電耐圧層140の膜厚を薄くするほど、ピット径は小さくなる。また、n側静電耐圧層140を成長させる成長温度を高くするほど、ピット径は小さくなる。逆に、n側静電耐圧層140を成長させる成長温度を低くするほど、ピット径は大きくなる。
【0041】
発光層160とp型クラッド層170との境界面におけるピット径は、160nm以上200nm以下である。n側静電耐圧層140とn側超格子層150との境界面におけるピット径は、140nm以上180nm以下である。発光層160とp型クラッド層170との境界面におけるピットK1の平均ピット密度は、1.0×10
8 cm
-2以上4.0×10
8 cm
-2以下の範囲内である。発光層160とp型クラッド層170との境界面におけるピットK1が占める面積の割合は、3%以上7%以下の範囲内である。n側静電耐圧層140とn側超格子層150との境界面におけるピットK1が占める面積の割合は、2%以上6%以下の範囲内である。これらは、あくまで目安である。そのため、上記の指標は、これら以外の数値をとる場合がある。
【0042】
2−2.AlGaN層からピットを成長させる場合の効果
前述のように、ピットK1の起点J1は、n型AlGaN層142の内部に位置している。n型AlGaN層142は、GaN層に比べて高抵抗な半導体層である。そのため、キャリアがピットK1に入りにくい。つまり、キャリアが欠陥である貫通転位Q1に捕獲されにくい。そのため、貫通転位Q1における非発光再結合を抑制することができる。
【0043】
上記のように、一般に、n型AlGaN層の電気抵抗は、GaN層の電気抵抗より高い。そのため、一般に、半導体発光素子の半導体層としてAlGaN層を用いることは避けたほうが好ましい。しかし、本実施形態では、キャリアが貫通転位Q1で非発光再結合をすることを抑制するために、n側静電耐圧層140にn型AlGaN層142を設ける。ここで、n型AlGaN層142の膜厚は、それほど厚くないことが好ましい。高抵抗なn型AlGaN層142の膜厚が厚いと、ピットK1以外の平坦な領域に電流が流れにくくなるからである。そのため、n型AlGaN層142の膜厚は、例えば、1nm以上130nm以下であるとよい。詳しくは、後の実験の項目で述べる。
【0044】
3.半導体発光素子の製造方法
ここで、本実施形態に係る発光素子100の製造方法について説明する。有機金属化学気相成長法(MOCVD法)により、各半導体層の結晶をエピタキシャル成長させる。ここで用いるキャリアガスは、水素(H
2 )もしくは窒素(N
2 )もしくは水素と窒素との混合気体(H
2 +N
2 )である。窒素源として、アンモニアガス(NH
3 )を用いる。Ga源として、トリメチルガリウム(Ga(CH
3 )
3 )を用いる。In源として、トリメチルインジウム(In(CH
3 )
3 )を用いる。Al源として、トリメチルアルミニウム(Al(CH
3 )
3 )を用いる。n型ドーパントガスとして、シラン(SiH
4 )を用いる。p型ドーパントガスとして、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Mg(C
5 H
5 )
2 )を用いる。また、これら以外のガスを用いてもよい。
【0045】
3−1.n型コンタクト層形成工程
まず、基板110の主面上に低温バッファ層120を形成する。そして、バッファ層120の上にn型コンタクト層130を形成する。このときの基板温度は、1080℃以上1140℃以下である。
【0046】
3−2.n側静電耐圧層形成工程
次に、n型コンタクト層130の上にn側静電耐圧層140を形成する。まず、シラン(SiH
4 )を供給して、n型GaN層141を形成する。次に、シラン(SiH
4 )を供給して、n型AlGaN層142を形成する。そして、シラン(SiH
4 )の供給を停止して、ud−AlGaN層143を形成する。そして、シラン(SiH
4 )の供給を停止して、ud−GaN層144を形成する。そして、シラン(SiH
4 )を再び供給して、n型GaN層145を形成する。このときの基板温度は、750℃以上950℃以下の範囲内である。そして、この工程では、
図4に示すように、n型AlGaN層142を起点としてピットK2を形成する。そのためには、n型AlGaN層142を形成する際に、基板温度を降下させればよい。したがって、n型AlGaN層142を形成する際の基板温度は、n型GaN層141を形成する際の基板温度よりも低い。ピットK2は、この後の半導体層の成長にともなって成長し、ピットK1となる。このように、ピットK2を形成しつつ、n側静電耐圧層140を形成する。
【0047】
3−3.n側超格子層形成工程
次に、n側超格子層150を形成する。まずは、n側静電耐圧層140のn型GaN層145の上にInGaN層151から形成する。次に、InGaN層151の上にGaN層152を形成する。そして、GaN層152の上にn型GaN層153を形成する。このように、InGaN層151と、GaN層152と、n型GaN層153と、を積層した単位積層体を繰り返し積層する。
【0048】
3−4.発光層形成工程
次に、n側超格子層150の上に発光層160を形成する。そのために、井戸層161と、キャップ層162と、障壁層163と、をこの順序で積層した単位積層体を繰り返し積層する。つまり、発光層形成工程は、井戸層161を形成する井戸層形成工程と、井戸層161の上にキャップ層162を形成するキャップ層形成工程と、キャップ層162の上に障壁層163を形成する障壁層形成工程と、を有する。そして、これらの工程を繰り返し行う。そのため、障壁層163の上に再び井戸層161を形成することとなる。井戸層161を成長させる際の基板温度を730℃以上850℃以下の範囲内とする。
【0049】
3−5.p型クラッド層形成工程
次に、発光層160の上にp型クラッド層170を形成する。ここでは、p型InGaN層171と、p型AlGaN層172と、を繰り返し積層する。
【0050】
3−6.p型コンタクト層形成工程
次に、p型クラッド層170の上にp型コンタクト層180を形成する。基板温度を、900℃以上1050℃以下の範囲内とする。これにより、
図5に示すように、基板110に各半導体層が積層されることなる。このとき、ピットK1は、n側静電耐圧層140からp型コンタクト層180に達するまでの領域にわたって形成されている。
【0051】
3−7.透明電極形成工程
次に、p型コンタクト層180の上に透明電極190を形成する。
【0052】
3−8.電極形成工程
次に、透明電極190の上にp電極P1を形成する。そして、レーザーもしくはエッチングにより、p型コンタクト層180の側から半導体層の一部を抉ってn型コンタクト層130を露出させる。そして、その露出箇所に、n電極N1を形成する。p電極P1の形成工程とn電極N1の形成工程は、いずれを先に行ってもよい。
【0053】
3−9.その他の工程
また、上記の工程の他、熱処理工程、絶縁膜形成工程、その他の工程を実施してもよい。以上により、
図1に示す発光素子100が製造される。
【0054】
4.実験
4−1.n型AlGaN層のAl組成と全放射束
図6は、n型AlGaN層142のAl組成と全放射束との間の関係を示すグラフである。
図6の横軸はn型AlGaN層142のAl組成である。
図6の縦軸は発光素子の全放射束Poである。なお、Al組成がゼロのときの全放射束Poの値を1とおいた。
図6に示すように、n型AlGaN層142のAl組成を大きくしていくと、全放射束は徐々に上昇する。そして、あるAl組成より大きくなると、全放射束は徐々に減少する。
【0055】
図6に示すように、n型AlGaN層142のAl組成は、0.01以上0.3以下であるとよい。n型AlGaN層142のAl組成が0.01以上0.3以下の場合における発光素子の全放射束の値は、n型AlGaN層142のAl組成が0であったとした場合における発光素子の全放射束の値よりも大きい。特に、n型AlGaN層142のAl組成は、0.04以上0.2以下であるとより好ましい。
【0056】
ここで、障壁層163は、Al組成が7%のAlGaN層である。後述する変形例の項目で説明するように、n型AlGaN層142のAl組成は、障壁層163のAl組成よりも大きいことが好ましい。発光層160からのキャリアの漏れを防止できるからである。そのため、さらに好ましくは、n型AlGaN層142のAl組成は、0.07以上0.2以下である。
【0057】
4−2.n型AlGaN層のAl組成と駆動電圧
図7は、n型AlGaN層142のAl組成と駆動電圧との間の関係を示すグラフである。
図7の横軸はn型AlGaN層142のAl組成である。
図7の縦軸は発光素子の駆動電圧Vfである。なお、Al組成がゼロのときの駆動電圧Vfの値を1とおいた。
図7に示すように、駆動電圧Vfは、n型AlGaN層142のAl組成にほとんど依存しない。
【0058】
4−3.n型AlGaN層の膜厚と全放射束
図8は、n型AlGaN層142の膜厚と全放射束との間の関係を示すグラフである。
図8の横軸はn型AlGaN層142の膜厚(Å)である。
図8の縦軸は発光素子の全放射束Poである。なお、n型AlGaN層142の膜厚がゼロのときの全放射束Poの値を1とおいた。このとき、n型AlGaN層は存在せず、代わりにn型GaN層が存在する。
図8に示すように、n型AlGaN層142の膜厚が大きくなると、発光素子の全放射束Poは上昇する。そして、全放射束Poが1.01程度で飽和する。
【0059】
図9は、
図8の拡大図である。
図9に示すように、膜厚が数百Åの範囲内では、発光素子の全放射束は膜厚の増加に伴って上昇する。
【0060】
4−4.n型AlGaN層の膜厚と駆動電圧
図10は、n型AlGaN層142の膜厚と駆動電圧との間の関係を示すグラフである。
図10の横軸はn型AlGaN層142の膜厚(Å)である。
図10の縦軸は発光素子の駆動電圧Vfである。なお、n型AlGaN層142の膜厚がゼロのときの駆動電圧Vfの値を1とおいた。
図10に示すように、駆動電圧Vfは、n型AlGaN層142の膜厚にほとんど依存しない。
【0061】
図11は、
図10の拡大図である。
図11に示すように、膜厚が数百Åの範囲内では、発光素子の駆動電圧Vfはほぼ一定である。
【0062】
4−5.n型AlGaN層の膜厚と静電耐圧歩留り
図12は、n型AlGaN層142の膜厚と静電耐圧歩留りとの間の関係を示すグラフである。
図12の横軸はn型AlGaN層142の膜厚(Å)である。
図12の縦軸は発光素子の静電耐圧歩留りである。
図12に示すように、n型AlGaN層142の膜厚が1300Åより大きいと、発光素子の歩留りが低下する。そのため、n型AlGaN層142の膜厚は、130nm以下であることが好ましい。つまり、n型AlGaN層142の膜厚は、1nm以上130nm以下であるとよい。
【0063】
4−6.n型AlGaN層の効果
本実施形態では、ピットK1の起点J1が、n型AlGaN層142の内部に位置している。n型AlGaN層142の抵抗は、n型GaN層の抵抗に比べて高い。つまり、n型AlGaN層142は、キャリアのブロック機能を有している。そのため、キャリアが、n型AlGaN層142の内部のピットK1の起点J1のまわりに存在しにくい。よって、キャリアが貫通転位Q1の箇所で非発光再結合することがほとんどない。その結果、発光素子の全放射束Poは向上している。
【0064】
図6について考慮すると、n型AlGaN層142のAl組成が小さすぎると、貫通転位Q1におけるキャリアの漏れを十分に抑制することが困難であると考えられる。n型AlGaN層142のAl組成が大きすぎる場合には、n型AlGaN層142の抵抗が高い。そのため、ピットK1以外の箇所において電流が流れにくくなると考えられる。
【0065】
また、
図8および
図9について考慮すると、n型AlGaN層142の膜厚が薄すぎると、貫通転位Q1におけるキャリアの漏れを十分に抑制することが困難であると考えられる。n型AlGaN層142の膜厚が厚すぎる場合には、n型AlGaN層142の抵抗が高い。そのため、ピットK1以外の箇所において電流が流れにくくなると考えられる。
【0066】
5.変形例
5−1.n型AlGaN層のAl組成
本実施形態では、障壁層163は、AlGaN層である。このように、障壁層163は、Alを含有する。ここで、n型AlGaN層142のAl組成は、障壁層163のAl組成より大きいとよい。これにより、発光層160に閉じ込められているキャリアが発光層160から漏れ出しにくいからである。つまり、この場合には、n型AlGaN層142は、発光層160からのキャリアの漏れを抑制する。そして、この場合には、この発光素子の発光効率は従来より高い。
【0067】
5−2.ピットの埋め込み
本実施形態では、ピットK1は、n側静電耐圧層140からp型コンタクト層180まで達している。しかし、ピットK1をp型クラッド層170まで達したところで埋め込んでもよい。ピットK1は、n型半導体層からp型半導体層まで形成されていることに変わりないからである。このように、ピットK1は、p型半導体層の途中で埋めて良い。
【0068】
5−3.発光層
本実施形態では、発光層160は、井戸層161と、キャップ層162と、障壁層163と、を積層した単位積層体を繰り返し積層したものである。しかし、キャップ層162は、無くてもよい。その場合には、井戸層161と、障壁層163と、を単位積層体として繰り返し積層すればよい。
【0069】
5−4.フリップチップ
本実施形態の発光素子100は、フェイスアップ型の発光素子である。しかし、フリップチップ型の発光素子にも、本技術を適用することができる。
【0070】
5−5.n側静電耐圧層
本実施形態では、n側静電耐圧層140は、5層構造である。しかし、これ以外の構造であってもよい。n側静電耐圧層140は、ピットK1の起点J1を有するn型AlGaN層142を有すればよい。
【0071】
6.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の発光素子100においては、n側静電耐圧層140は、n型AlGaN層142を有する。n型AlGaN層142は、その内部にピットK1の起点J1を有する。そのため、キャリアが貫通転位Q1の箇所から漏れにくい。これにより、全放射束が向上した発光素子100が実現されている。
【0072】
なお、以上に説明した実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。積層体の積層構造については、必ずしも図に示したものに限らない。積層構造や各層の繰り返し回数等、任意に選択してよい。また、有機金属気相成長法(MOCVD法)に限らない。キャリアガスを用いて結晶を成長させる方法であれば、他の方法を用いてもよい。また、液相エピタキシー法、分子線エピタキシー法等、その他のエピタキシャル成長法により半導体層を形成することとしてもよい。
【0073】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。n側静電耐圧層の積層構造が、第2の実施形態と第1の実施形態との間で異なっている。そのため、異なる点について説明する。
【0074】
1.n側静電耐圧層
図13に示すように、本実施形態の発光素子200は、n型コンタクト層130の上にn側静電耐圧層240を有している。n側静電耐圧層240は、n型GaN層241と、n型AlGaN層242と、n型AlInGaN層243と、ud−AlInGaN層244と、ud−InGaN層245と、ud−GaN層246と、n型GaN層247と、を有する。つまり、発光層160から遠い側から、n型GaN層241、n型AlGaN層242、n型AlInGaN層243、ud−AlInGaN層244、ud−InGaN層245、ud−GaN層246、n型GaN層247の順で形成されている。
【0075】
発光素子200は、複数のピットK1を有する。ピットK1の起点J1は、n型AlGaN層242の内部に位置している。つまり、n型AlGaN層242は、複数のピットK1の起点J1を含む。
【0076】
n型GaN層241の膜厚は、300nm以上1000nm以下である。n型AlGaN層242の膜厚は、1nm以上30nm以下である。n型AlInGaN層243の膜厚は、10nm以上50nm以下である。ud−AlInGaN層244の膜厚は、10nm以上100nm以下である。ここで、n型AlGaN層242とn型AlInGaN層243とud−AlInGaN層244との合計の膜厚は、21nm以上130nm以下である。ud−InGaN層245の膜厚は、10nm以上100nm以下である。ud−GaN層246の膜厚は、10nm以上300nm以下である。n型GaN層247の膜厚は、10nm以上100nm以下である。これらの膜厚は、あくまで目安であり、これ以外の数値であってもよい。
【0077】
2.Inの効果
n型AlInGaN層243にドープされたInがポテンシャルバリアを形成する。そのため、電子および正孔の存在確率は、貫通転位のまわりで低い。したがって、貫通転位での非発光再結合がより抑制されている。また、In原子のサーファクタント効果により、半導体層の表面の平坦性は向上する。そのため、発光効率に優れた半導体発光素子が実現されている。
【0078】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。n側静電耐圧層の積層構造が、第3の実施形態と第1の実施形態との間で異なっている。そのため、異なる点について説明する。
【0079】
1.n側静電耐圧層
図14に示すように、本実施形態の発光素子300は、n型コンタクト層130の上にn側静電耐圧層340を有している。n側静電耐圧層340は、n型GaN層341と、n型AlGaN層342と、n型AlInGaN層343と、n型InGaN層344と、ud−InGaN層345と、ud−GaN層346と、n型GaN層347と、を有する。つまり、発光層160から遠い側から、n型GaN層341、n型AlGaN層342、n型AlInGaN層343、n型InGaN層344、ud−InGaN層345、ud−GaN層346、n型GaN層347の順で形成されている。
【0080】
発光素子300は、複数のピットK1を有する。ピットK1の起点J1は、n型AlGaN層342の内部に位置している。つまり、n型AlGaN層342は、複数のピットK1の起点J1を含む。
【0081】
n型GaN層341の膜厚は、1nm以上1000nm以下である。n型AlGaN層342の膜厚は、1nm以上30nm以下である。n型AlInGaN層343の膜厚は、5nm以上110nm以下である。ここで、n型AlGaN層342とn型AlInGaN層343との合計の膜厚は、6nm以上130nm以下である。n型InGaN層344の膜厚は、10nm以上100nm以下である。ud−InGaN層345の膜厚は、10nm以上500nm以下である。ud−GaN層346の膜厚は、10nm以上300nm以下である。n型GaN層347の膜厚は、10nm以上100nm以下である。これらの膜厚は、あくまで目安であり、これ以外の数値であってもよい。
【0082】
2.Inの効果
n型AlInGaN層343にドープされたInがポテンシャルバリアを形成する。そのため、電子および正孔の存在確率は、貫通転位のまわりで低い。したがって、貫通転位での非発光再結合がより抑制されている。また、In原子のサーファクタント効果により、半導体層の表面の平坦性は向上する。そのため、発光効率に優れた半導体発光素子が実現されている。