(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500346
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】ブレード及び風力発電用風車
(51)【国際特許分類】
F03D 80/00 20160101AFI20190408BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
F03D80/00
F03D1/06 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-106259(P2014-106259)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-222021(P2015-222021A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591104815
【氏名又は名称】株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 崇洋
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0223030(US,A1)
【文献】
特開2013−217372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F03D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面翼形状の本体部と、前記本体部の翼高さ方向に交互に複数配列される突出部と切欠部とを有すると共に前記本体部の後縁部に設けられるデバイスとを有するブレードであって、
前記切欠部の全域を覆って設けられるメッシュ材を備え、
前記メッシュ材の縁部は、隣接する前記突出部の先端同士を直線状に接続している
ことを特徴とするブレード。
【請求項2】
前記メッシュ材は、ガラスクロスであることを特徴とする請求項1記載のブレード。
【請求項3】
回転軸に対して放射状に複数設けられるブレードを有する風力発電用風車であって、 前記ブレードとして請求項1または2記載のブレードを備えることを特徴とする風力発電用風車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレード及び風力発電用風車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電用の風車等では、ブレードの回転によって騒音が発生することが知られている。このような騒音は、ブレードの周速の5乗または6乗に比例して発生するため、特にブレードのチップ側において大きくなる。騒音の原因としては複数考えられるが、ブレード周りに形成される乱流境界層とブレードの後縁とが干渉して発生するトレーリングエッジノイズが主たる原因と考えられる。
【0003】
このようなトレーリングエッジノイズの低減を図るために、例えば特許文献1〜3に示すように、ブレードの後縁側に鋸刃状の形状を有するデバイスを取り付ける構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第8267657号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0141277号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2012/0134837号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブレードの後縁側に鋸刃状の形状を有するデバイスを取り付けることにより一定の騒音低減効果が得られるものの、風力発電用の風車等の騒音は小さいほど好ましく、さらなる騒音の低減が求められている。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、風力発電用風車等のブレードにおいて、より騒音を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0008】
第1の発明は、断面翼形状の本体部と、上記本体部の翼高さ方向に交互に複数配列される突出部と切欠部とを有すると共に上記本体部の後縁部に設けられるデバイスとを有するブレードであって、上記切欠部を覆って設けられるメッシュ材を備えるという構成を採用する。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記メッシュ材が、ガラスクロスであるという構成を採用する。
【0010】
第3の発明は、回転軸に対して放射状に複数設けられるブレードを有する風力発電用風車であって、上記ブレードとして上記第1または2の発明であるブレードを備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メッシュ材によって、ブレードの腹側から背側に抜ける空気の量を減少させることで、ブレードの高さ方向における圧力変動パターンの振幅を小さくし、これによって騒音を低減させることが可能となる。したがって、本発明によれば、風力発電用風車等のブレードにおいて、より騒音を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態のブレードを備える風力発電用風車の模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態のブレードのチップ側かつ下流側の部位を拡大した模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が断面図である。
【
図3】(a)は風洞実験において仰角が0°の場合の実験結果であり、(b)は第3風洞実験において仰角が6°の場合の実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るブレード及び風力発電用風車の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
図1は、本実施形態のブレード4を備える風力発電用風車1の模式図である。風力発電用風車1は、地面に対して立設される支柱2と、支柱の先端に取り付けられる回転軸3と、回転軸3に対して放射状に複数設けられるブレード4と、ガラスクロス5(メッシュ材)を備えている。また、風力発電用風車1は、回転軸3と接続される不図示の発電機を備えており、ブレード4が風を受けることで生じる動力を発電機に回転軸3を介して伝達することにより発電を行う。
【0015】
なお、以下の説明では、回転軸3を中央とする半径方向を翼高さ方向とし、翼高さ方向におけるブレード4の先端をチップ、ブレード4の根元をハブと称する。また、ブレード4は、
図1に示すように、時計回りに回転され、回転方向の前方を上流、回転方向の後方を下流と称する。
【0016】
図2は、ブレード4のチップ側かつ下流側の部位を拡大した模式図であり、(a)が平面図であり、(b)が断面図である。これらの図に示すように、本実施形態のブレード4は、断面翼形状の本体部4aと、本体部4aの後縁部4a1に取り付けられるデバイス4bとによって構成されている。
【0017】
デバイス4bは、
図2(a)に示すように、本体部4aの高さ方向に等間隔で交互に複数配列される突出部4b1と切欠部4b2とを有している。このようなデバイス4bは、例えば、本体部4aの翼弦長をC、突出部4b1の翼弦長方向の長さをLとしたときに、L/Cが2.3%であり、突出部4b1の先端厚さが1.2mmとされている。また、突出部4b1同士の離間距離をλとしたときに、L/λが1.5とされている。さらに、突出部4b1の先端が曲率半径2mmの円弧形状とされている。なお、これらの値はあくまでも一例であり、他の値のデバイスを用いることも当然に可能である。
【0018】
なお、
図2(b)に示すように、デバイス4bは、本体部4aに対して位置決めしやすいように、本体部4aの腹側に突起状の部位を有している。この突起状の部位については、空力性能の向上のため、切削等の加工によって除去することが望ましい。
【0019】
ガラスクロス5は、デバイス4bの腹側に貼付されている。このガラスクロス5は、切欠部4b2を覆うように設けられている。このようなガラスクロス5は、例えば、「JIS R 3414」の規格に基づくものであり、番手がたて、よこ共に67.5texであり、織り密度が、たて32本/25mm、よこ25本/25mmであり、厚さが0.16mmであり、質量が139g/m
2以上であり、引張強さがたて657以上、よこ510以上、織り組織が平織のものである。
【0020】
次に、種類の異なるブレードを用いて風洞実験を行った結果について説明する。本実験では、ブレードとして、本発明ブレードと、第1ブレード〜第5ブレードを用いて実験を行った。第1ブレードは、L/Cが2.3%であり、突出部4b1の先端厚さが1.2mmであり、L/λが1.5であり、突出部4b1の先端が曲率半径2mmの円弧形状とされたデバイスを備えるブレードである。第2ブレードは、第1ブレードに対してL/Cを4.3%、L/λを2.83に変更したデバイスを有するブレードである。第3ブレードは、第2ブレードに対して、ガラスクロス5よりも極めて織り密度が低いメッシュ材をガラスクロス5に換えて貼付したブレードである。第4ブレードは、第2ブレードにガラスクロス5を貼付したブレードである。第5ブレードは、第1ブレードにガラスクロス5を貼付したブレードである。
【0021】
図3(a)は、風速が50m/sであり、仰角が6°の場合の実験結果である。
図3(b)は、風速が50m/sであり、仰角が10°の場合の実験結果である。
図3のグラフにおいて、横軸は周波数を示し、縦軸は後縁側が薄型化されていないデバイス(方形デバイス)を用いた場合の騒音の音圧レベルとの差を示している。なお、
図3において、黒丸で示すグラフは第1ブレードを用いた実験結果を示し、黒三角で示すグラフは第2ブレードを用いた実験結果を示し、黒四角で示すグラフは第3ブレードを用いた実験結果を示し、白丸で示すグラフは第4ブレードを用いた実験結果を示し、白三角で示すグラフは第5ブレードを用いた実験結果を示している。
【0022】
これらの図に示すように、第4ブレードを用いた場合には、第2ブレードを用いた場合と比較して、高周波側の騒音の音圧レベルがより低下していることが分かる。また、第5ブレードを用いた場合には、第1ブレードを用いた場合と比較して、高周波側の騒音の音圧レベルがより低下していることが分かる。したがって、ガラスクロス5を貼付することによって、高周波側の騒音の音圧レベルがより低下していることが分かる。これは、ガラスクロス5によって、切欠部4b2を通じてブレードの腹側から背側に抜ける空気の量が減少することで、切欠部4b2の位置に応じた周期を有するブレードの高さ方向における圧力変動パターンの振幅が小さくなり、これによって騒音が低減したものと考えられる。なお、第3ブレードを用いた場合には、第2ブレードを用いた場合と比較して僅かに低周波側の騒音が低減されたのみであったことから、高周波側の騒音の音圧レベルをより低減させるためには、織り密度が高いことが望ましい。
【0023】
以上のような本実施形態のブレード4及び風力発電用風車によれば、ガラスクロス5によって、ブレード4の腹側から背側に抜ける空気の量を減少させることで、ブレードの高さ方向における圧力変動パターンの振幅が小さくなり、これによって騒音を低減させることが可能となる。
【0024】
また、本実施形態のブレード4は、本発明のメッシュ材としてガラスクロス5を用いている。このような本実施形態のブレード4によれば、織り密度の高いメッシュ材とすることができ、騒音をより低減させることが可能となる。
【0025】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0026】
例えば、上記実施形態においては、本発明のブレードを風力発電用風車に適用する例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、回転動力を得るための風車全般に適用したり、またガスタービンエンジンに適用したりすることも可能である。
【0027】
また、上記実施形態においては、メッシュ材として、ガラスクロス5を用いる構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、メッシュ材として他の材料を用いることも可能である。このような場合であっても、効果の大小はあるものの、騒音をより低減することが可能となる。
【0028】
また、上記実施形態においては、ブレード4の腹側のみにガラスクロス5を貼付する構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ブレード4の背側のみにガラスクロス5を貼付したり、背側と腹側の両方にガラスクロス5を貼付しても良い。
【0029】
また、デバイス4bにガラスクロス5の一部を埋設することでデバイス4bにガラスクロス5を固定し、切欠部4b2のみにガラスクロス5を設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 風力発電用風車、2 支柱、3 回転軸、4 ブレード、4a 本体部、4a1 後縁部、4b デバイス、4b1 突出部、4b2 切欠部、5 ガラスクロス(メッシュ材)