【実施例】
【0051】
次に、本発明に記載の窒化鉄系磁石について、実施例・比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)まず、硫酸鉄七水和物(FeSO
4・7H
2O)167gと塩化鉄六水和物(FeCl
3・6H
2O)85gをイオン交換水に溶解し、鉄塩水溶液を作製した。2.5molアンモニア水溶液600gを30℃に保持し、先に調整した鉄塩水溶液を添加した後、液中熟成反応として70℃で一定となるように温度コントロールし、30分撹拌後、遠心分離機にて2Lのイオン交換水で3回洗浄を行い、酸化鉄スラリーを作製した。
【0053】
前記酸化鉄スラリーに、テトラエトキシシラン2.5g、エタノール21g、ジエチレングリコールモノブチルエーテル78gを添加し、Si被着処理を施した。この酸化鉄スラリーを85℃で24時間乾燥し、Fe
2O
3を含む酸化鉄粒子を作製した。
【0054】
前記酸化鉄粒子2gを焼成ボートに入れ、熱処理炉に静置した。炉内に窒素ガスを充填した後、水素ガスを1L/minの流量で流しながら、5℃/minの昇温速度で250℃まで昇温し、48時間保持して還元処理を行った。その後、水素ガスの供給を止めて窒素ガスを2L/minの流量で流しながら140℃まで降温した。続いて、アンモニアガスを0.2L/minにて流しながら、140℃で24時間窒化処理を行った。その後、窒素ガスを2L/minの流量で流しながら50℃まで降温し、空気置換を24時間実施し、窒化鉄系磁性粒子を得た。
【0055】
得られた窒化鉄系磁性粒子100gを十分に脱水したオクタン60gと混合し、さらに分散剤としてオレイルアミンを3g添加し、窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを作製した。得られた窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを粒子カレンダー処理機に投入し、窒化鉄系磁性粒子を扁平させ、円板型異方形状の窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを得た。この時、磁化容易軸方向に長い円板型異方形状の窒化鉄系磁性粒子を得るため、カレンダーロールの上下に電磁石による磁気回路を設置し、カレンダーの圧力方向に対して垂直方向に磁場を発生させた。
【0056】
次に得られた円板型異方形状の窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーをΦ10mmの円柱形状の金型に投入し、3kgf/cm
2の荷重をかけながら溶剤を加熱及び減圧雰囲気で揮発させ、窒化鉄系磁石を作製した。この時、荷重方向に対して垂直方向に磁場をかけることにより、窒化鉄系磁石を磁気配向させた。アルキメデス法による密度測定の結果、窒化鉄系磁石の相対密度は90%であることがわかった。後段の観察方法により、前記窒化鉄磁石を構成する窒化鉄系磁性粒子は、円板型異方形状であり、平均粒子長径は約72nmで、粒子の平均粒子長径/平均粒子短径であらわされる形状アスペクト比は4.1であることがわかった。
【0057】
(実施例2、3、4、5)圧縮成形の荷重を5、10、15、20kgf/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0058】
(実施例6、7、8、9)酸化鉄スラリーに添加するテトラエトキシシランの量を5.0、4.0、1.0、0.5gとした以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0059】
(実施例10、11、12)酸化鉄スラリーに添加するテトラエトキシシランの量を4.0、2.5、1.0gとし、窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するオレイルアミンの量を5gとした以外は、実施例5と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0060】
(実施例13、14、15)酸化鉄スラリーに添加するテトラエトキシシランの量を4.0、2.5、1.0gとし、窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するオレイルアミンの量を1gとした以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0061】
(比較例1)圧縮成形の荷重を、1kgf/cm
2とした以外は、実施例1と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0062】
(比較例2)窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するオレイルアミンの量を7gとした以外は、実施例5と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0063】
(比較例3)窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーに添加するオレイルアミンの量を0.5gとした以外は、実施例3と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0064】
(比較例4)窒化鉄系磁性粒子を含むスラリーを粒子カレンダー処理しなかった以外は、実施例5と同様の方法で窒化鉄系磁石を作製した。
【0065】
このようにして得られた窒化鉄系磁石の構成相、相対密度、粒子長径、形状アスペクト比、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を以下の手法により測定した。結果を表1に示す。
【0066】
≪窒化鉄系磁石の構成相≫
得られた窒化鉄系磁石の構成相は、粉末X線回折装置(XRD、リガク製RINT−2500)により同定を行った。
【0067】
≪窒化鉄系磁石の相対密度≫
得られた窒化鉄系磁石の相対密度は、窒化鉄系磁石をアルキメデス法による磁石素体の密度測定を行い、Fe
16N
2相の理論密度に対しての相対密度として求めた。
【0068】
≪窒化鉄系磁石中の粒子長径、形状アスペクト比≫
図1に示すとおり、得られた窒化鉄系磁石を、磁気配向方向2に対して垂直な方向に断面が出るように削り出した。得られた断面を磁場型電子顕微鏡(TEM、日本電子製JEM−2000FX)にて観察した。TEM観察像の中から1000個の粒子を選び、粒子の中心をとおる弦の長さが最も長い径3を粒子長径とし、粒子の中心をとおり粒子長径に対して垂直に交わる径4を粒子短径とし、それぞれの平均値を算出した。また、平均粒子長径/平均粒子短径で表される形状アスペクト比とした。J
【0069】
≪窒化鉄系磁石の残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)≫
得られた窒化鉄系磁石の残留磁束密度Brと保磁力HcJをB−Hトレーサー(東英工業製TRF−5BH)による減磁曲線の測定結果から求めた。残留磁束密度Brが500mT以上、かつ、保磁力HcJが2.8kOe以上の窒化鉄系磁石を許容とした。
【表1】
【0070】
全ての実施例と比較例で、Fe
16N
2相が主相であることが確認された。
【0071】
実施例1、2、3、4、5のように、窒化鉄系磁石の相対密度が90%、93%、95%、97%、99%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が72nm、アスペクト比が4.1の場合、残留磁束密度(Br)が510mT以上、保磁力(HcJ)が3.0kOe以上であることが確認できた。また、相対密度が95%以上である実施例3、4、5において、残留磁束密度(Br)が580mT以上となり、さらに高い残留磁束密度がられた。
【0072】
実施例6、7、3、8、9のように、窒化鉄系磁石の相対密度が95%、前記窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が24nm、31nm、72nm、148nm、155nm、アスペクト比が4.1、4.3、4.1、4.2、4.3の場合、残留磁束密度(Br)が570mT以上、保磁力(HcJ)が2.8kOe以上であることが確認できた。特に平均粒子長径が30〜150nmの範囲にある場合、残留磁束密度(Br)が580mT以上、保磁力(HcJ)が3.1kOe以上の良好な特性が得られた。
【0073】
実施例10、11、12のように、窒化鉄系磁石の相対密度が95%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が32nm、68nm、148nm、アスペクト比が2.1、2.2、2.1の場合、残留磁束密度(Br)が580mT、保磁力(HcJ)が3.0kOe以上であることが確認できた。
【0074】
実施例13、14、15のように、窒化鉄系磁石の相対密度が95%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が35nm、74nm、150nm、アスペクト比が8.0、7.8、7.8の場合、残留磁束密度(Br)が580mT、保磁力(HcJ)が3.1kOe以上であることが確認できた。
【0075】
比較例1のように、窒化鉄系磁石の相対密度が89%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が72nm、アスペクト比が4.1の場合、残留磁束密度(Br)が490mT、保磁力(HcJ)が3.5kOeと、十分に高い残留磁束密度を得ることができなかった。これは、磁石素体に含まれるFe
16N
2相が少ないためであると考えられる。
【0076】
比較例2のように窒化鉄系磁石の相対密度が87%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が68nm、アスペクト比が1.7の場合、残留磁束密度(Br)が470mT、保磁力(HcJ)が2.8kOeと、十分に高い残磁束密度と保磁力を得ることができなかった。これは、窒化鉄系磁石中のFe
16N
2粒子のアスペクト比が2未満では、圧縮成形時にFe
16N
2粒子が一方向に整列しにくくなるため、窒化鉄系磁石の相対密度が90%未満となってしまい、残留磁束密度が低下し、さらに、Fe
16N
2粒子が十分な形状異方性を有さないため、保磁力が低下したと考えられる。
【0077】
比較例3のように窒化鉄系磁石の相対密度が95%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が73nm、アスペクト比が8.3の場合、残留磁束密度(Br)が580mT、保磁力(HcJ)が2.8kOeと、十分に高い保磁力を得ることができなかった。これは窒化鉄系磁石中のFe
16N
2粒子のアスペクト比が8を超える場合では、窒化鉄系磁石中のFe
16N
2粒子の結晶構造が歪むため、保磁力が低下したと考えられる。
【0078】
比較例4のように窒化鉄系磁石の相対密度が70%、窒化鉄系磁石を構成するFe
16N
2粒子の平均粒子長径が71nm、アスペクト比が1の場合、残留磁束密度(Br)が380mT、保磁力(HcJ)が2.5kOeと、十分に高い残留磁束密度と保磁力を得ることができなかった。これは窒化鉄系磁石中のFe
16N
2粒子の形状が円板型異方形状でないため、圧縮成形時にFe
16N
2粒子が球状粒子の最密充填構造しか形成できず、窒化鉄系磁石の相対密度が90%未満となってしまい、残留磁束密度が低下し、さらに、Fe
16N
2粒子が形状異方性を有さないため、保磁力が低下したと考えられる。