特許第6500527号(P6500527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6500527-珪藻土れんが 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500527
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】珪藻土れんが
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/16 20060101AFI20190408BHJP
   C04B 33/138 20060101ALI20190408BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
   C04B35/16
   C04B33/138
   C04B35/622 040
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-54187(P2015-54187)
(22)【出願日】2015年3月18日
(65)【公開番号】特開2016-172673(P2016-172673A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年1月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591040236
【氏名又は名称】石川県
(74)【代理人】
【識別番号】100136331
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】棚辺 洋一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直哉
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−054512(JP,A)
【文献】 特開平04−126582(JP,A)
【文献】 特開平05−317836(JP,A)
【文献】 特開平11−199308(JP,A)
【文献】 特開昭55−047251(JP,A)
【文献】 特開2009−190017(JP,A)
【文献】 佐々木直哉ら,耐火断熱れんがの高品質化環境低負荷製造技術の開発,石川県工業試験場研究報告,2011年12月16日,No.60,p.43-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 33/00−33/36,35/00−35/84
B09B 3/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪藻土(X)を55≦X<100重量%に、アルミスラッジ(Y)を0<Y≦45重量%混合し、さらに、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して5〜20重量%のカルシウム化合物(焼成時に珪藻土の中に含まれる硫黄と反応して硫酸カルシウムを生成するもの)を混合して成形し、850〜1150℃で焼成したことを特徴とする珪藻土れんが。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪藻土を主な原料とするれんがに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ表面処理工程では多量のアルミスラッジが発生し、アルミスラッジを処分する際には乾燥させる必要があり、多額の費用を要するため、その処分に苦慮している。従来、アルミスラッジの再利用の用途としては、廃硫酸に溶解させて硫酸アルミニウム(硫酸バンド)を製造し、これを凝集剤として用いる用途があったが(例えば、特許文献1参照)、需要がさほど多いとは言えず、高品質なものを製造しようとすればコストもかかるため、より有効な用途が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−59715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上に述べた実情に鑑み、アルミスラッジを有効利用できる耐熱性に優れた珪藻土れんがの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために請求項1記載の発明による珪藻土れんがは、珪藻土(X)を55≦X<100重量%に、アルミスラッジ(Y)を0<Y≦45重量%混合し、さらに、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して5〜20重量%のカルシウム化合物(焼成時に珪藻土の中に含まれる硫黄と反応して硫酸カルシウムを生成するもの)を混合して成形し、850〜1150℃で焼成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によるレンガは、珪藻土に所定量のアルミスラッジとカルシウム化合物を混ぜたことで、焼成温度よりも高い温度で使用しても収縮を小さく抑えることのできる耐熱性に優れるレンガになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】(a)は1000℃で焼成し、1100℃で再加熱した後の珪藻土れんがの外観写真であり、(b)は1000℃で焼成し、1200℃で再加熱した後の珪藻土れんがの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の珪藻土れんがは、珪藻土(X)を55≦X<100重量%に、アルミスラッジ(Y)を0<Y≦45重量%混合し、さらに、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して5〜20重量%のカルシウム化合物を混合して成形し、850〜1150℃で焼成したことを特徴とする。本珪藻土れんがは、焼却炉の壁面等に用いることのできる、珪藻土質耐火断熱れんがである。
珪藻土とアルミスラッジとは、両者を合わせて100重量%となるように混合するものであり、例えば珪藻土が80重量%のときは、アルミスラッジは20重量%である。カルシウム化合物は、珪藻土とアルミスラッジの合計(100重量%)に対して、5〜20重量%添加するものである。
【0009】
アルミスラッジは、アルミニウム合金の表面処理工程で排出される廃液を中和して得られる、水酸化アルミを主成分とする生成物である。水酸化アルミは、焼成するとアルミナになり、そのアルミナによって珪藻土れんがの耐熱性が向上する。
アルミスラッジは、水分を5〜25%含んだものを用いることができる。すなわち本珪藻土れんがにおいては、アルミスラッジを乾燥させることなく、水分を含んだまま用いることができる。アルミスラッジに適度に水分を含んでいることで、押出成形などの成形がしやすくなる利点がある。
アルミスラッジは、上限を45重量%としているが、これは珪藻土質耐火断熱れんがは、珪藻土が酸化ケイ素として50%以上含まれる必要があるからである。アルミスラッジ45重量%の場合は酸化ケイ素の割合が50重量%となり、アルミスラッジが45重量%より多い場合は酸化ケイ素の割合が50重量%未満となるため、アルミスラッジの添加量は45重量%までとした。またアルミスラッジは、僅かでも含まれていればよいが、アルミスラッジを配合することで耐熱性が向上することや、アルミスラッジの有効利用の観点から、5重量%以上添加することが好ましい。
【0010】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等を用いることができる。カルシウムは、珪藻土の中に含まれる硫黄と反応して硫酸カルシウム(石膏)になり、珪藻土れんがの収縮を抑える働きを持つ。
カルシウム化合物は、上限を20重量%としているが、20重量%以上添加させると、逆に再加熱収縮率が大きくなることを事前に確認しているためである。
【0011】
焼成温度の上限を1150℃としているのは、1150℃よりも高い温度、例えば1200℃で加熱すると、原料が溶けてれんがの形を維持するのが困難だからである(図1(b)参照)。また、焼成温度の下限を850℃としているのは、850℃より低い温度では、カルシウムが、珪藻土に含まれる硫黄と反応して硫酸カルシウム(石膏)になって珪藻土れんがの収縮を抑える働きが促進されないからである。なお焼成温度は、耐熱性を向上する上で950〜1050℃がより好ましい。
【0012】
本発明の珪藻土れんがは、より好ましい範囲として、珪藻土とアルミスラッジとカルシウム化合物を次の1及び2に示す配合量で混合して成形し、950〜1050℃で焼成したものとすることができる。
1.珪藻土の配合量(X)が80≦X<100重量%、アルミスラッジの配合量(Y)が0<Y≦20重量%であり、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して10〜20重量%のカルシウム化合物を混合したもの
2.珪藻土の配合量(X)が60≦X<80重量%、アルミスラッジの配合量(Y)が20<Y≦40重量%であり、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して5〜15重量%のカルシウム化合物を混合したもの
上記の構成によれば、焼成温度よりも高い温度で再加熱したときに収縮率を2%以下に抑えることができ、より優れた耐熱性を有する。
【0013】
本珪藻土れんがの製造手順を説明する。まず、珪藻土、アルミスラッジ、カルシウム化合物を、それぞれ上記の所定の配合割合となるように測り取る。次に、測り取った材料を混合機に入れて撹拌し、十分に混合する。
なお、材料として、珪藻土、アルミスラッジ、カルシウム化合物の他に、水、木くず等を適宜加えることができる。木くずを加えた場合には、焼成すると木くずが燃えて空隙ができるので、断熱性をより向上することができる。
混合した材料は、プレス成型機などを用いて成形する。成形の仕方は任意であり、型に入れて押し固めてもよいし、押出成形してもよい。
成形した原料は、炉に入れて850〜1150℃で焼成することで珪藻土れんがとなる。
【0014】
以下の表1に示すように、アルミスラッジを0〜40重量%、カルシウム化合物を0〜20重量%で種々変化させたテストピースを作り、焼成温度よりも高い温度で再加熱を行い、そのときの収縮率を測定した。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウムを用いた。
テストピースの製作手順は、珪藻土、アルミスラッジ、カルシウム化合物をそれぞれ測り取り、測り取った材料を混合機に投入して撹拌し、十分に混合する。次に、混合した材料を、プレス成形機(ENERPAC製 WPM-20)を用いて直径50mmの円柱状に成形した。成形したテストピースは、電気炉に入れて1000℃で焼成し、冷却後ノギスを用いて直径を測定した。
その後、テストピースを電気炉で1100℃、12時間保持の条件で再加熱を行い、冷却後ノギスを用いて直径を測定し、加熱前後での直径の変化を百分率で算出し再加熱収縮率を求めた。再加熱収縮率の値が小さいほど、耐熱性が高いことを意味する。図1(a)は、再加熱後のテストピースの一例を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
表1より明らかなように、アルミスラッジとカルシウム化合物の両方を配合したものは、両方とも配合しないものと比較して、再加熱収縮率が半分以下に抑えられる。傾向としては、アルミスラッジの配合割合が多くなるにつれて再加熱収縮率が小さくなる(カルシウム化合物の配合割合が15,20重量%のときを除く)、カルシウム化合物の配合割合が多くなるにつれて再加熱収縮率が小さくなる(アルミスラッジの配合割合が30,40重量%のときを除く)傾向がある。再加熱後のテストピースは、図1(a)に示すように、再加熱する前と外観上特に違いは見られなかった。
表1中に太線で囲った領域、すなわちアルミスラッジの配合割合が0重量%より多く20重量%以下で、カルシウム化合物の配合割合が10〜20重量%のとき、及びアルミスラッジの配合割合が20重量%より多く40重量%以下で、カルシウム化合物の配合割合が5〜15重量%のときは、再加熱収縮率が2%以下に抑えられており、耐熱性が特に優れている。
また、アルミスラッジの配合割合が40重量%で、カルシウム化合物の配合割合が5,10重量%のものは、再加熱収縮率が約1.5%と非常に小さく、しかもアルミスラッジを多く使用できるので、耐熱性向上とアルミスラッジの有効利用の観点から優れている。
【0017】
次に、同じようにアルミスラッジとカルシウム化合物の配合割合を種々変化させたものを、850℃で焼成し、1100℃で再加熱した場合の収縮率を、シミュレーションによって求めた。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】
【0019】
850℃で焼成し1100℃で再加熱した場合は、再加熱収縮率の値は1000℃で焼成し1100℃で再加熱した場合よりは劣るが、傾向としては1000℃で焼成し1100℃で再加熱した場合(表1)と同じ傾向であった。
【0020】
以上に述べたように本珪藻土れんがは、珪藻土に所定量のアルミスラッジとカルシウム化合物を混ぜたことで、焼成温度よりも高い温度で使用しても収縮を小さく抑えることのできる耐熱性に優れるレンガになる。アルミスラッジは、乾燥することなく使用することができるため、コストをかけずに有効に再利用できる。
さらに、珪藻土の配合量(X)が80≦X<100重量%、アルミスラッジの配合量(Y)が0<Y≦20重量%であり、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して10〜20重量%のカルシウム化合物を混合したもの、及び珪藻土の配合量(X)が60≦X<80重量%、アルミスラッジの配合量(Y)が20<Y≦40重量%であり、珪藻土とアルミスラッジの合計に対して5〜15重量%のカルシウム化合物を混合したものを成形し、950〜1050℃で焼成したものであれば、焼成温度よりも高い温度で再加熱したときに収縮率を2%以下に抑えることができ、より優れた耐熱性を有する。
【0021】
本発明は以上に述べた実施形態に限定されない。珪藻土、アルミスラッジ、カルシウム化合物の配合割合は、請求項に記載した範囲内で適宜変更することができる。珪藻土の産地、品質等は問わない。カルシウム化合物としては、炭酸カルシウムの他、水酸化カルシウム等を用いることができる。本発明の珪藻土れんがの用途は特に限定されず、焼却炉等の断熱材として用途の他、花壇や塀などに用いることもできる。
図1