(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6500614
(24)【登録日】2019年3月29日
(45)【発行日】2019年4月17日
(54)【発明の名称】エンジンの始動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20190408BHJP
F02N 11/10 20060101ALI20190408BHJP
【FI】
B60T7/12 A
F02N11/10 D
F02N11/10 C
F02N11/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-114869(P2015-114869)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2017-1435(P2017-1435A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】忠永 剛
(72)【発明者】
【氏名】久世 寛泰
【審査官】
羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−25381(JP,A)
【文献】
特開2000−127927(JP,A)
【文献】
特開2006−82629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12−8/1769
8/32−8/96
F02D 29/00−29/06
F02N 1/00−99/00
F16H 59/00−61/12
61/16−61/24
61/66−61/70
63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載したエンジンの始動及び停止を指令するイグニッション操作部と、
エンジンと車両の駆動輪との間に設けられエンジンの回転を駆動輪に伝達する自動変速機と、
ブレーキペダルの操作に基づいて車両に制動力を付与するブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置による制動力を制御するブレーキ装置制御手段と、を備え、
前記ブレーキ装置制御手段は、前記イグニッション操作部の始動操作開始後のクランキングによりエンジンの始動が完了するまでの間に、前記自動変速機のシフトポジションが走行レンジにある場合は、前記ブレーキ装置が所定量以上となるように制動力を付与するエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
前記所定量以上の制動力は少なくともエンジンの始動が完了するまで継続され、前記クランキングはエンジンの始動が完了するまで継続される
請求項1に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ装置制御手段は、前記ブレーキペダルからの入力による入力制動力が前記所定量に満たない場合に、前記ブレーキ装置による制動力が前記所定量以上に至るように前記入力制動力を補完して制動力を付与する
請求項2に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項4】
前記始動操作開始後エンジンの始動が完了する前に、前記入力制動力が途中で変化した場合、前記ブレーキ装置制御手段は、前記入力制動力の変化に応じて、前記ブレーキ装置による制動力が前記所定量以上に維持されるように補完する制動力を調整する
請求項3に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項5】
前記走行レンジは、前進走行に対応するドライブレンジと後退走行に対応するリバースレンジであり、非走行レンジは、駐車状態に対応するパーキングレンジと非駆動状態に対応するニュートラルレンジであり、
前記所定量は、前記始動操作開始後の前記パーキングレンジ又は前記ニュートラルレンジから前記リバースレンジへの変更の際と、前記パーキングレンジ又は前記ニュートラルレンジから前記ドライブレンジへの変更の際とで異なる値に設定され、前記リバースレンジへの変更の際に設定される前記所定量である第一の所定量は、前記ドライブレンジへの変更の際に設定される前記所定量である第二の所定量よりも大きく設定される
請求項1〜4の何れか1項に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のエンジンを始動させる際に、誤発進を防止するための制御を行うエンジンの始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンを搭載する車両では、エンジンの始動操作に起因する車両の急発進を防止するために、種々の方策が採られている。
【0003】
自動変速機を搭載した一般的なオートマチック車では、エンジンの始動操作を行う際には、変速機のシフトレバーが、パーキングレンジ(以下、Pレンジと称する)やニュートラルレンジ(以下、Nレンジと称する。)といった走行不可能なレンジ(以下、非走行レンジと称する。)である場合にのみ、イグニッションのON操作によるエンジンの始動が許可され、クランキングが開始される仕組みとなっている。また、ドライブレンジ(以下、Dレンジと称する。)や、リバースレンジ(以下、Rレンジと称する。)といった走行可能なレンジ(以下、走行レンジと称する。)である場合には、イグニッションのON操作は許可されず、クランキングが開始されない仕組みとなっている。
【0004】
しかし、運転者あるいは運転条件によっては、イグニッションのON操作の後、いち早く走行を開始したいという場面がある。このような場面では、運転者は、イグニッションのON操作の後、エンジンの燃料室内における燃料の燃焼が完全に安定する前に、すなわち、エンジンの始動が完了した状態(外部からのアシストを必要とせず,エンジンが自立して運転できる状態)を迎える前に、PレンジやNレンジ等の非走行レンジから、DレンジやRレンジ等の走行レンジへのシフトチェンジを、適正なタイミングよりも早期に行ってしまう場合がある。ここで、適正なタイミングとは、エンジンの始動が完了を迎えた以後の状態をいう。エンジンの始動が完了した状態とは、燃焼室内における燃料の燃焼が安定し、エンジンの回転数が所定値以下の落ち着いた状態をいう。
【0005】
このような早期のシフトチェンジがあった場合、始動が完了する前の走行レンジへのシフトチェンジを検知して、スタータモータへの通電を遮断して、強制的にクランキングを停止させる技術がある(例えば、特許文献1の明細書段落0002)。しかし、強制的なクランキングの停止を行うことは、運転者が、その停止が車両側に起因する動作不良(故障)であるかのように誤認してしまう場合がある。
【0006】
そこで、変速機のシフトレバーが走行レンジにある場合においても、ブレーキペダルが操作されている場合には、イグニッションのON操作を許可する技術が開示されている(例えば、特許文献1の特許請求の範囲の請求項1ほか)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−348799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、強制的なクランキング停止のシステムを搭載しない車両では、始動が完了する前の走行レンジへの早期のシフトチェンジを行うと、車両が誤発進する可能性がある。
【0009】
また、特許文献1のように、走行レンジにおいて、ブレーキペダルが操作されている場合にイグニッションのON操作を許可すると、そのブレーキの踏み込み量が少ないときは、車両が誤発進する可能性がある。また、ON操作後、始動が完了する前にブレーキ力を緩めてしまい、結果として誤発進につながる場合もある。
【0010】
このような運転者が意図しない誤発進は確実に防止しなければならず、特に、PレンジからRレンジへのシフトチェンジの際に、運転者が視認していない後方へ向かって車両が動くことは避けなければならない。
【0011】
そこで、この発明の課題は、シフトポジションに関わらず、エンジンの始動時における車両の誤発進を確実に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、この発明は、車両に搭載したエンジンの始動及び停止を指令するイグニッション操作部と、エンジンと車両の駆動輪との間に設けられエンジンの回転を駆動輪に伝達する自動変速機と、ブレーキペダルの操作に基づいて車両に制動力を付与するブレーキ装置と、前記ブレーキ装置による制動力を制御するブレーキ装置制御手段と、を備え、前記ブレーキ装置制御手段は、前記イグニッション操作部の始動操作開始後のクランキングによりエンジンの始動が完了するまでの間に、前記自動変速機のシフトポジションが走行レンジにある場合は、前記ブレーキ装置が所定量以上となるように制動力を付与するエンジンの始動制御装置を採用した。
【0013】
前記所定量以上の制動力は少なくともエンジンの始動が完了するまで継続され、前記クランキングはエンジンの始動が完了するまで継続される構成を採用することができる。
【0014】
ここで、前記ブレーキ装置制御手段は、前記ブレーキペダルからの入力による入力制動力が前記所定量に満たない場合に、前記ブレーキ装置による制動力が前記所定量以上に至るように前記入力制動力を補完して制動力を付与する構成を採用することができる。
【0015】
また、前記始動操作開始後エンジンの始動が完了する前に、前記入力制動力が途中で変化した場合、前記ブレーキ装置制御手段は、前記入力制動力の変化に応じて、前記ブレーキ装置による制動力が前記所定量以上に維持されるように補完する制動力を調整する構成を採用することができる。
【0016】
これらの各構成において、前記走行レンジは、前進走行に対応するドライブレンジと後退走行に対応するリバースレンジであり、非走行レンジは、駐車状態に対応するパーキングレンジと非駆動状態に対応するニュートラルレンジであり、前記所定量は、前記始動操作開始後の前記パーキングレンジ又は前記ニュートラルレンジから前記リバースレンジへの変更の際と、前記パーキングレンジ又は前記ニュートラルレンジから前記ドライブレンジへの変更の際とで異なる値に設定され、前記リバースレンジへの変更の際に設定される前記所定量である第一の所定量は、前記ドライブレンジへの変更の際に設定される前記所定量である第二の所定量よりも大きく設定される構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、少なくとも、エンジンの始動操作開始時又は始動操作開始後エンジンの始動が完了する前に、自動変速機のシフトポジションが走行レンジにある場合、又は、非走行レンジから走行レンジへと変更された場合は、ブレーキ装置が所定量以上の制動力を発揮するように自動的に制動力を付与するようにした。このため、エンジンの始動が完了するまで自動的に所定量以上の制動力の付与が継続され、クランキングはエンジンの始動が完了するまで継続することができる。したがって、シフトポジションに関わらず、エンジンの始動時における車両の誤発進を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態のエンジンの始動制御装置による制御のフローチャートである。
【
図2】この発明のエンジンの始動制御装置及びそれを搭載した車両の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、この実施形態のエンジンの始動制御装置による制御のフローチャート、
図2は、エンジンの始動制御装置及びそれを搭載した車両の構成を概念的に示す模式図である。
【0020】
図2に示すように、車両の室内には、運転席11用のシートと助手席12用のシートが横並びに設けられ、その前方には、フロントガラス9の下にダッシュボード10を備える。運転席11の前方には操舵用のステアリング2、スピードメータやタコメータ等を配置したメータパネル7を備える。運転席11と助手席12との間のダッシュボード上には、ナビ等のモニタ8を備える。
【0021】
運転席11と助手席12との間には、自動変速機13のシフトレバー1が設けられている。自動変速機13は、エンジンと車両の駆動輪との間に設けられ、エンジンの回転を変速して駆動輪に伝達する。この実施形態では、自動変速機13として、トルクコンバータと変速機構とを備える。変速機構としては、例えば、ベルト式無段変速機(Continuously Variable Transmission)等を採用できる。
【0022】
エンジンの駆動力は、エンジンのクランクシャフトからトルクコンバータを経て変速機構に入力される。変速機構から出力された駆動力は、左右の駆動輪の間に設けられたデファレンシャルを経て、ドライブシャフトから駆動輪へと伝達される。この駆動輪への回転の伝達により、車両は走行する。
【0023】
運転席の足もとには、左から順に、フットレスト4、ブレーキペダル5、アクセルペダル6を備える。
【0024】
運転席11の前方には、車両に搭載したエンジンの始動及び停止を指令するスタータスイッチ(イグニッション操作部)3を備える。この実施形態では、運転者が行うボタンの押圧操作により、エンジンの始動及び停止が行われるようになっている。スタータスイッチ3の位置は、この図のようにステアリング2の右前方に配置される場合もあるし、ステアリング2の左前方、あるいは、運転席11と助手席12との間の変速操作部(シフトレバー)1の近くに配置される場合もある。
【0025】
シフトレバー1は、運転者が掴むシフトノブ1aと、そのシフトノブ1aに接続されたシフト軸1cを備える。シフト軸1cがシフト溝1b内を移動するようにシフトノブ1aを操作することにより、自動変速機13に設定される各種の走行モードが、切り替えできるようになっている。
【0026】
走行モードは、走行レンジと非走行レンジに分けられる。走行レンジは、前進走行に対応するDレンジ(ドライブレンジ)と後退走行に対応するRレンジ(リバースレンジ)である。非走行レンジは、駐車状態に対応して車輪が回転しないようにロックするPレンジ(パーキングレンジ)と、エンジンからの駆動力が伝達されないように動力伝達経路が切り離された非駆動状態に対応するNレンジ(ニュートラルレンジ)である。
【0027】
シフトレバー1の切り替え位置は、
図2(b)に示すように、車両の前方から後方に向かって、又は、上方から下方に向かって、順に、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、Dレンジの順に配置される。Dレンジは、ハイギヤードな通常のドライブレンジの他に、ローギヤードなドライブレンジであるLレンジを並列して配置する場合もある。
【0028】
また、車両の駆動輪及び従動輪には、各車輪の回転に抵抗を与えることで制動力を付与するブレーキ装置14を備える。
【0029】
ブレーキ装置14は、車輪とともに回転するブレーキディスクと、油圧等の作用によって、そのブレーキディスクを押圧するブレーキパッド等を備えたキャリパ等からなる。運転席に設けられたブレーキペダル5からの入力によって、ブレーキパッドによるブレーキディスクへの押圧力が増減され、制動力が調整される。具体的には、運転者が行うブレーキペダル5の踏み込み量に応じて、制動力が増減する。ブレーキペダル5からの入力に基づいてブレーキ装置14に作用する制動力を、以下、入力制動力と称する。運転者が行うブレーキペダル5の踏み込み量は、踏込量検知手段23が取得することができる。踏込量検知手段23は、ブレーキペダル5のストローク検知や、ブレーキフルード等の液圧によって踏み込み量を把握することができる。
【0030】
また、このブレーキ装置14は、この車両が搭載する電子制御ユニット(Electronic Control Unit)20が備えるブレーキ装置制御手段21によって、実際に車輪に作用する制動力が制御されるようになっている。ブレーキ装置制御手段21によるブレーキ装置14への制動力の付与は、ブレーキペダル5からの入力に基づいてブレーキ装置14に作用する入力制動力とは別に、又は、その入力制動力を補完するように行われ、その合計が実際に作用する制動力となる。したがって、入力制動力がない場合は、ブレーキ装置制御手段21によりブレーキ装置14へ指令される制動力が、実際に作用する制動力に等しくなる。
【0031】
この車両のエンジンや補機類、自動変速機13、ブレーキ装置14、その他エンジンの動作に必要な機器、エアコン等の車室内の設備は、それぞれケーブルを通じて、電子制御ユニット20に備えられた制御手段によって制御される。また、エンジンやその周囲に設けられるセンサ類からの必要な情報は、電子制御ユニット20が随時取得することができる。
【0032】
また、電子制御ユニット20は、始動状態検知手段22を備える。始動状態検知手段22は、スタータスイッチ3の操作による始動操作開始と、その後のクランキングによりエンジンの始動が完了したことを検知する機能を有する。したがって、始動状態検知手段22は、運転状態が、始動操作開始後で且つエンジンの始動が完了する前であることも検知できる。
【0033】
ブレーキ装置制御手段21は、少なくとも、始動状態検知手段22が、エンジンの始動操作開始時であるか、又は、その始動操作開始後で且つエンジンの始動が完了する前であると検知している状態で、自動変速機13のシフトポジションが走行レンジにある場合、又は、非走行レンジから走行レンジへと変更された場合に、ブレーキペダル5から入力された入力制動力に関わらず、ブレーキ装置14が所定量以上の制動力を発揮するように制動力を付与するように制御を行う。
【0034】
その所定量以上の制動力は、少なくともエンジンの始動が完了するまで継続され、クランキングはエンジンの始動が完了するまで継続される。なお、所定量以上の制動力は、運転者が行う最初のアクセルペダル操作(最初の踏み込み)まで、又は、走行を開始するために、運転者がブレーキペダルの踏み込みをやめた時まで継続することが望ましい。
【0035】
ここで、所定量とは、車両が前方又は後方へ動き出すことがないようにするのに必要十分な制動力を意味する。その値は、車種や仕様等に応じて車両毎に一定値を定めておいてもよいが、例えば、同じ車両であっても、車両が坂道の途中に停車している場合や、その時の搭乗者や荷物等を含む車両の総重量等を考慮して、電子制御ユニット20がその都度、必要十分な制動力を定めるようにしてもよい。車両の傾斜状態は、車両のいずれかの部分に傾斜計を備えることで、その情報を取得することができる。車両の総重量は、車両のいずれかの部分に重量検知装置を備えることで、その情報を取得することができる。
【0036】
また、ブレーキ装置制御手段21は、入力制動力が所定量に満たない場合に、ブレーキ装置14による制動力が、所定量以上に至るように入力制動力を補完して制動力を付与する制御を行う。なお、入力制動力が既に所定量以上である場合は、補完する制動力を付与する必要はないので、ブレーキ装置制御手段21は、特段に制動力の補完制御は行わない。
【0037】
さらに、始動状態検知手段22が始動操作開始後、且つ、エンジンの始動が完了する前であると検知している状態で、入力制動力が途中で変化した場合、ブレーキ装置制御手段21は、その入力制動力の変化に応じて、ブレーキ装置14による制動力が所定量以上に維持されるように補完する制動力を調整する制御を行う。例えば、始動操作開始時は所定量以上の入力制動力があったものの、その後、始動の完了を待たずにブレーキペダル5の踏み込み量が減少し、入力制動力が所定量を下回ってしまった場合等が相当する。
【0038】
また、この実施形態では、所定量は、非走行レンジであるPレンジ又はNレンジから、走行レンジのRレンジへの変更の際と、非走行レンジであるPレンジ又はNレンジから、走行レンジであるDレンジへの変更の際とで異なる値に設定されている。
【0039】
具体的には、Pレンジ又はNレンジからRバースレンジへの変更の際に設定される所定量である第一の所定量は、Pレンジ又はNレンジからDレンジへの変更の際に設定される所定量である第二の所定量よりも大きく設定される。これは、運転者が自分の目で視認している前方への誤発進よりも、視認していない後方への誤発進の方が危険であるという判断に基づくものである。
【0040】
この発明のエンジンの始動制御装置の制御の流れを、
図1のフローチャートに基づいて説明する。
【0041】
図1のステップS1において、運転者がエンジンの始動操作を行う。次のステップS2では、ブレーキペダルの踏み込み量を検知し、続くステップS3では、その踏み込み量が所定値未満であるかどうかを判定する。踏み込み量が所定値未満であれば、ステップS4へ移行する。踏み込み量が所定値以上であれば、制動力の補完制御は行われず、ステップS6へ移行して、以後、始動が完了するのを待って始動制御を終了する(ステップS6,S7,S10参照)。
【0042】
ここで、踏み込み量の所定値は、入力制動力が前述の所定量にある状態に対応する数値に設定される。したがって、踏み込み量が所定値未満である場合は、入力制動力が、車両の移動を規制するのに必要な所定量に満たないと推定される。
【0043】
ステップS4では、自動変速機13のシフトポジションが走行レンジ、すなわち、DレンジかRレンジにあるかどうかが判定される。シフトポジションが走行レンジにある場合、ステップS5で、ブレーキ装置制御手段21による制動力の補完制御が行われる。シフトポジションが走行レンジでない場合、すなわち、PレンジかNレンジにある場合は、制動力の補完制御は行われず、ステップS6へ移行して、以後、始動が完了するのを待って始動制御を終了する(ステップS6,S7,S10参照)。
【0044】
ここで、ステップS5へ移行するのは、例えば、シフトポジションが走行レンジにある場合に、エンジンの始動操作を開始した(スタータスイッチ3を操作した)場合が挙げられる。また、シフトポジションが非走行レンジにある場合にエンジンの始動操作を開始したものの、その始動操作開始後で且つエンジンの始動が完了する前に、シフトポションを非走行レンジから走行レンジへと変更した場合が挙げられる。
【0045】
後者の例は、運転者がイグニッションの始動開始操作後、エンジンの始動が完了を迎える前に、PレンジやNレンジ等の非走行レンジから、DレンジやRレンジ等の走行レンジへのシフトチェンジしてしまう場合が当たる。シフトレバー1とスタータスイッチ3とが互いに近い位置にある場合、例えば、シフトレバー1のすぐ横にスタータスイッチ3がある場合、このような早期のシフトチェンジを行いやすいという傾向がある。また、シフトレバー1を扱う手(例えば左手)と、スタータスイッチ3を扱う手(例えば右手)とが互いに反対側の手である場合に、このような早期のシフトチェンジを行いやすいという傾向もある。
【0046】
ステップS5では、ブレーキ装置制御手段21による制動力の補完制御において、入力制動力を補完するアシストブレーキ量が決定され、その決定されたアシストブレーキ量がアシストブレーキとして付与される。入力制動力とアシストブレーキ量に相当する制動力の和が、ブレーキ装置14が実際に動作させる制動力である。アシストブレーキ量の決定方法については、前述の通りである。
【0047】
アシストブレーキの付与は、少なくとも、ステップS6において、エンジンの始動が完了したと判定されるまで継続されることが必要であるが、現実には、運転者が行う最初のアクセルペダル操作(最初の踏み込み)まで継続するか、又は、運転者がブレーキペダルの踏み込みをやめた時まで継続することが望ましい(ステップS7,S8,S9参照)。なお、クランキングはエンジンの始動が完了するまで継続される。
【0048】
ステップS9において、アシストブレーキが解除されれば、ステップS10へ移行して始動制御を終了する。
【0049】
アシストブレーキの実行中に、ブレーキペダル5からの入力による入力制動力が途中で変化した場合、エンジンの始動が完了する前であれば、その入力制動力の変化がステップS2で検知されるので、その後は同様な流れで、エンジンの始動が完了するまで、ブレーキ装置14による制動力が所定量以上に維持されるようにアシストブレーキ量が調整される。
【0050】
この実施形態では、アシストブレーキを実行するか否かの閾値となる所定量を、非走行レンジであるPレンジ又はNレンジから、走行レンジであるRレンジへの変更の際と、非走行レンジであるPレンジ又はNレンジから、走行レンジであるDレンジへの変更の際とで異なる値に設定し、特に、Rレンジへの変更の際に設定される所定量である第一の所定量を、Dレンジへの変更の際に設定される所定量である第二の所定量よりも大きく設定したが、特に、制動力に差異を設ける必要がない仕様の車両においては、これらの所定値を全て同一の値にしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 シフトレバー(変速操作部)
1a シフトノブ
1b シフト溝
1c シフト軸
2 ステアリング
3 スタータスイッチ(イグニッション操作部)
4 フットレスト
5 ブレーキペダル
6 アクセルペダル
7 メータパネル
8 モニタ
9 フロントガラス
10 ダッシュボード
11 運転席
12 助手席
13 自動変速機
14 ブレーキ装置
20 電子制御ユニット
21 ブレーキ装置制御手段
22 始動状態検知手段
23 踏込量検知手段
P パーキングレンジ
R リバースレンジ
N ニュートラルレンジ
D ドライブレンジ
L ドライブレンジ(ローギヤード)