(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚み2〜25mmの板ガラスと非接触に設けられた近赤外線ラインヒータにより近赤外線を切断予定線に沿って前記板ガラスの上面にライン状に前記板ガラスに対して集光照射し、
前記近赤外線が前記板ガラスを透過し、前記板ガラスの下面における前記切断予定線の真下が空気と接触している状態で、
前記板ガラスに対して、前記近赤外線ラインヒータを前記切断予定線に沿った方向に相対的に移動することにより、前記板ガラスを前記切断予定線に沿って切断する搬送切断工程を含む板ガラスの切断方法であり、
前記搬送切断工程は、前記板ガラスに対して、前記近赤外線ラインヒータを前記切断予定線に沿った方向に相対的に移動することにより、気体または水を吹きかけることなく、フルボディ切断の亀裂を前記板ガラスの前記切断予定線に沿って伸展させる工程と、
前記板ガラスにおける切断の終端領域を切断する際に、亀裂の先端より前方に向って流体を噴出して前記終端領域を冷却し、亀裂を切断予定線上のガラス表面を伸展させ、次いでガラスの端部の側面を伸展させ、さらにガラスの端部の裏面に亀裂を伸展させる冷却工程と、
を含むことを特徴とする板ガラスの切断方法。
厚み2〜25mmの板ガラスと非接触に設けられた近赤外線ラインヒータにより近赤外線を切断予定線に沿って前記板ガラスの上面にライン状に前記板ガラスに対して集光照射し、
前記近赤外線が前記板ガラスを透過し、前記板ガラスの下面における前記切断予定線の真下が空気と接触している状態で、
前記板ガラスに対して、前記近赤外線ラインヒータを前記切断予定線に沿った方向に相対的に移動することにより、前記板ガラスを前記切断予定線に沿って切断する搬送切断工程を含む切断板ガラスの製造方法であり、
前記搬送切断工程が、前記板ガラスに対して、前記近赤外線ラインヒータを前記切断予定線に沿った方向に相対的に移動することにより、気体または水を吹きかけることなく、フルボディ切断の亀裂を前記板ガラスの前記切断予定線に沿って伸展させる工程と、
前記板ガラスにおける切断の終端領域を切断する際に、亀裂の先端より前方に向って流体を噴出して前記終端領域を冷却し、亀裂を切断予定線上のガラス表面を伸展させ、次いでガラスの端部の側面を伸展させ、さらにガラスの端部の裏面に亀裂を伸展させる冷却工程と、
を含むことを特徴とする切断板ガラスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本発明は、赤外線ラインヒータを用いて、赤外線をライン状に脆性材料に対して集光照射しつつ、脆性材料に対して、赤外線ラインヒータをラインに沿った方向に相対的に移動することにより、脆性材料をラインに沿って切断する搬送切断工程を含む、脆性材料の切断方法である。
第1実施形態では、脆性材料として、赤外線を吸収して熱割れする脆性材料である板状のガラス2を切断するガラス切断装置1であって、固定されたガラス2に対して、赤外線ラインヒータ2を移動させるガラス切断装置1について説明する。
図1はガラス切断装置1の概略図であり、ガラス2が配置された状態を示す。
図2はガラス切断装置1の赤外線ラインヒータ10を説明する図である。
以下、赤外線ラインヒータ
10の搬送方向をX方向、X方向と垂直かつ水平な方向をY方向、ガラス2の厚さ方向をZ方向として説明する。
【0020】
(用語の説明)
以下、本明細書において用いる用語について説明する。
本明細書において、「フルボディ切断」とは、物体を2分割することを指す。また、「2分割」は、1本の切断予定線Lに対して2つに分割することを指す。
【0021】
本明細書において、
図1に示すように「切断予定線」とは、ガラス2の切断を行うラインLを指す。また、「切断予定線上」とは、切断予定線Lを含む面のうち、ガラスの厚み方向に平行な面内に存在することを指す。また、「ガラスの厚み方向に平行な面」は、切断後に切断面となる。
【0022】
本明細書において、「非接触切断」とは、例えば従来の折り割り工程のように、ガラスに装置や人の手等を接触させ力を加えて切断するような、加熱を除く外力を人為的に加えない切断を指す。
【0023】
(装置の説明)
図1に示すように、ガラス切断装置1は、固定台20と、固定台20に取り付けられた搬送レール21と、搬送レール21に沿って移動可能な門型のフレーム30と、フレーム30に保持された赤外線ラインヒータ10と、赤外線ラインヒータ10のオンオフを行う制御部50と、を備える。
また、本実施形態においてガラス切断装置1は、赤外線ラインヒータ10とともに移動する気体噴出装置40を備える。
【0024】
(固定台20)
固定台20は、矩形の板部材であり、作業者が作業し易い高さに保持されている。
固定台20上面のY方向の両側部のそれぞれには、X方向に延びる搬送レール21が取り付けられている。
また、固定台20上面における、両側部の搬送レール21の間には、X方向に沿って延びる2本の載置台22が配置されている。
【0025】
なお、本実施形態では載置台22を設けたが、これに限定されず、載置台22を配置しない構成であっても良い。ただし、載置台22を載置することにより、載置台22上に載置されたガラス2の裏面が、空気と接触することができる。この空気との接触により、後に詳細に説明するが、ガラス2の表面と裏面との間の温度勾配が付き易く、より良好な切断が可能となる。
【0026】
また、特に載置台22の切断予定線Lの直下は、熱を伝え難い材質を用いるのが好ましい。ガラス2は赤外光によって加熱されガラス表面、裏面及び内部の温度が上昇するが、熱伝導の良い材質がガラス2の裏面に接触すると、ガラスの熱が逃げてしまい、亀裂2aの進展速度が低下する傾向にある。簡単な方法としては、切断予定線Lの直下は空気と接触するのが好ましい。そのために、固定台20は分割されたものでもよく、また、複数のピン状で下からガラス2を支持するものでもよい。
【0027】
(フレーム30)
フレーム30は、それぞれの搬送レール21に移動可能に取り付けられた第1スライダ31と、第1スライダ31から上方に延びる昇降機構32と、を備える。
昇降機構32は、第1スライダ31に固定されたロッドアセンブリ32aと、そのロッドアセンブリ32aに挿入された連結具32bと、を備える。ロッドアセンブリ32aのロッド32aaは、連結具32bに設けられた第1の穴に挿入され、連結具32bに設けられたねじ32baを緩めることで、連結具32bはロッド32aaに対して上下方向に移動可能となり、ねじ32baを締めることにより連結具32bはロッド32aaに固定される。
【0028】
両側の昇降機構32の間には、懸架ロッド33が架け渡されている。懸架ロッド33は、両側の連結具32bに設けられた孔に挿入されることにより、昇降機構32の間に架け渡されている。
懸架ロッド33には、該懸架ロッド33に対してY方向に移動可能な第2スライダ34が挿入されている。
第2スライダ34は角棒形状で、Y方向に延びる第1貫通孔34aが設けられ、上述の懸架ロッド33は、その第1貫通孔34aに挿通されている。さらに、第2スライダ34には、第1貫通孔34aの下部に、第1貫通孔34aに対して直交する方向に延びる、ねじれ位置関係の第2貫通孔34bが設けられている。
第2貫通孔34bには、赤外線ラインヒータ10に固定されたヒータ保持板35を貫通するヒータ保持棒36が挿通されている。
ヒータ保持板35は、2枚設けられ、互いに平行な状態で赤外線ラインヒータ10の上部に固定されている。
【0029】
(赤外線ラインヒータ10)
赤外線ラインヒータ10は、
図2に示すように、筐体11と、筐体11の中に配置された赤外線ランプ12と、赤外線ランプ12の外周に配置された集光部13とを備え、制御部50によりオンオフ動作が行われる。
【0030】
筐体11は、長方形の箱型であり下面が開口し、筐体11の内部に赤外線ランプ12と集光部13とが保持されている。
【0031】
(赤外線ランプ12)
赤外線ランプ12が発生する赤外線としては、近赤外線、中赤外線、遠赤外線等が挙げられるが、赤外線のピーク波長の領域が780〜2500nmである近赤外線が好ましい。
その理由は、建築用に用いられる板ガラスであるソーダライムシリケートガラスは、近赤外線領域において透過率が約30〜85%であり、他の領域の赤外線と比べて透過性及び吸収性が高いからである。
すなわち、近赤外線を用いた場合、ガラス2の厚み方向において、ガラス表面から裏面に亘る全板厚で赤外線の吸収が可能で、より効果的に短時間でガラス面を加熱し、切断することが可能となる。
このため、ガラス2の全板厚方向に好適な温度分布を板幅の範囲に形成することが可能となり、切り口に欠陥のない良好な切断面を得ることができる。
【0032】
(集光部13)
集光部13としては、例えば反射鏡が用いられる。
反射鏡は、矩形の板部材を湾曲させた凹面鏡である。
楕円の第一の焦点に赤外線ランプ12が配置され、楕円の長軸(二焦点通る線分と一致)は赤外線ランプ12から放射される赤外線の照射軸と一致している。
赤外線ランプ12から発する赤外線光を無駄なく集光するために、反射鏡の長さは、赤外線ランプ12よりも長いものを使用するのが好ましい。また、反射鏡表面を金メッキ処理すると反射率が向上し、より赤外線光を無駄なく集光することができる。
【0033】
なお、集光部13としては、反射鏡に限定されず、シリンドリカルレンズ等の各種レンズを用いてもよい。シリンドリカルレンズを用いる場合は、赤外線ランプ12とガラス2との間に設置する。
【0034】
また、集光部13を用いて赤外線を集光する際、フルボディ切断の精度を上げるために焦点における集光幅を狭くするのが好ましい。本実施形態においては、集光幅は3mmである。また、更に集光幅を狭くさせるため、図示しない遮光スリットを用いても良い。
【0035】
図1に戻り、赤外線ラインヒータ10の上部は、上述したように2つのヒータ保持板35に固定され、2つのヒータ保持板25はヒータ保持棒36に保持されている。ヒータ保持棒36は第2スライダ34に保持され、第2スライダ34は懸架ロッド33に保持され、懸架ロッド33は連結具32bに保持されている。
したがって、連結具32bを、ロッドアセンブリ32aのロッド32aaに対して上下動することにより、懸架ロッド33とともに上下動する赤外線ラインヒータ10は、固定台20、すなわちガラス2に対して上下動可能である。
このように赤外線ラインヒータ10を、ガラス2に対して上下動することで、ガラス2の厚さが異なる場合においても、ガラス2の表面に赤外線ランプ12の光を適切な幅で集光可能である。
【0036】
(気体噴出装置40)
本実施形態において、赤外線ラインヒータ10のXマイナス側、すなわち進行方向の後方には、気体噴出装置40が取り付けられている。
気体噴出装置40は、圧縮空気をノズルより噴出する装置であり、赤外線ラインヒータ10により加熱される切断予定線Lに対して圧縮空気が噴射されるように取り付けられている。
【0037】
なお、本実施形態では、気体噴出装置40は、赤外線ラインヒータ10に取り付けられ、赤外線ラインヒータ10と同様に制御部50により操作可能である。
ただし、気体噴出装置40は、赤外線ラインヒータ10に取り付けられていなくても良く、また、赤外線ラインヒータ10と共通の制御部50により操作可能でなくてもよい。
例えば、気体噴出装置40は、作業者が手持ち等により赤外線ラインヒータ10と別個に操作するものであっても良い。
また、気体噴出装置40は、本実施形態では圧縮空気を噴出するが、これに限らず、圧縮していない空気でも、他の気体であってもよい。また、気体噴出装置40はガラス2表面の温度を下げることが出来ればよく、例えば水やミスト等を用いてもよい。
【0038】
(ガラス2)
本切断装置の切断対象の脆性材料は板状のガラス2である。
ガラス2の材料としては、赤外線光を吸収するガラス2であれば特に限定するものではないが、例えばソーダライムガラス、石英ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス等が挙げられる。なお、上記のガラスの他にも、赤外線光を吸収し、熱割れを生じる材料であればガラス同様に切断可能である。例えばアルミナ板等のセラミックス材料の板が挙げられる。
【0039】
本実施形態において切断するガラス2は、一般的な建築用板ガラス(例えばJIS R3202に記載の板ガラス)として用いられる、厚み2mm以上、25mm以下の板状のガラス2である。ただし、この厚みに限定されるものではない。
また、ガラス2を加熱可能であれば、2枚以上のガラス2を重ねたガラス積層体を切断してもよい。
【0040】
また、集光の効率を上げるために、ガラス2の表面の切断予定線L上に赤外線吸収層を形成してもよい。赤外線吸収層は集光幅以下とするのが好ましく、例えば黒色ペン等でラインを引くのが簡便である。
【0041】
(赤外線ラインヒータ10の配置)
図1に切断予定線Lとして示すように、本実施形態において、ガラス切断装置1の赤外線ラインヒータ10は、ガラス2の幅方向(Y方向)の中央部を切断する。
だだし、これに限定されず、ガラスの耳切工程に用いても良い。「耳切り」とは、ガラス2の端部の切断であり、製造過程で品質を上げることを目的として、一般的に行われている切断である。
【0042】
(切断方法)
次に、ガラス切断装置1の動作について説明する。
図3は、切断工程を説明する図であり、(a)〜(d)は切断工程を時系列に説明した図である。
まず、載置台22上に切断するガラス2を配置する。
そして、赤外線ラインヒータ10の照射領域が、ガラス2のXマイナス側端部を含むように、赤外線ラインヒータ10を移動させる。
ガラス2の厚さに応じて、赤外線ラインヒータ10から照射される赤外線の幅が、所望の幅(本実施形態では3mm)になるように、連結具32bをロッド32aaに対して上下することにより、赤外線ラインヒータ10の高さ方向の位置を調整する。
【0043】
赤外線ラインヒータ10をONにする。このとき、本実施形態においては、赤外線ラインヒータ10はまだ搬送せずに停止させたまま(V=0)にする(
図3(a))。
ガラス2の厚さにもよるが、ガラス2の表面に赤外線を照射してから約15〜30秒でガラス2に初期亀裂2aが発生する(
図3(b))。
【0044】
初期亀裂2aが発生したら、赤外線を照射しつつ、第1スライダ31を搬送レール21上でXプラス方向に移動させて、赤外線ラインヒータ10をガラス2の切断予定線Lに沿って搬送する(
図3(c))。
このときの搬送速度V1は、1〜1.5m/分が好ましい。搬送速度が低く、例えば0.2〜0.5m/分程度であると、ガラス2表面より数ミリ程度内部に熱が滞留し、その結果、ガラス2の切断面に筋が生じる場合がある。切断面の筋は、JIS R3202で定める規格上、問題にはならないが、筋の発生を抑制して、より高品質を求める場合、上記の1〜1.5m/分が好ましい。ただし、搬送速度V1は、切断速度以下であることが必要である。
切断速度を向上させたい場合には、単位長さあたりの赤外線ラインヒータ10出力を上げる、赤外線ラインヒータ10長さを長くする等で適宜対応できる。赤外線ラインヒータ10の単位長さあたりの出力を上げるためには、フィラメント径を太くする等で対応することができ、レーザなどに比べて容易に安価で高出力化できる。また、発熱形状も容易に変更することが可能である。
【0045】
赤外線ラインヒータ10を搬送速度V1で搬送していくと、
図3(c)に示すようにフルボディ切断の亀裂2aが、Xプラス方向に伸展し続ける。
【0046】
(フルボディ切断可能な理由)
このように、ガラス2は、切断予定線Lに沿ったフルボディ切断が可能となる。このフルボディ切断は、折り割り工程を経ることなく達成することが可能である。
【0047】
このように、折り割り工程を経ることなくガラス2をフルボディ切断できる原理については以下のように考える。
赤外線ラインヒータ10の集光照射によって、ガラス2が局所的に加熱され、ガラス2に温度分布が発生する。
図4は実際に測定したガラス2内の板厚方向のYZ断面の温度分布の写真である。(a)はガラス2の切断直前の温度分布で、(b)は(a)の0.1秒後のガラス2の切断時の温度分布である。
また、
図5は、
図4(a)の温度分布が生じた時に、ガラス2内で発生する応力場を、有限要素法(FEM)にて3次元解析して得られた結果である。
【0048】
図4(a)に示すように、赤外線ラインヒータ10よって加熱されたガラス2内には、温度勾配が発生する。この温度勾配により、
図5に示すように、切断予定線L上のエッジの表層および下層に、30〜34MPa程度の引っ張り応力が、Y軸方向へ誘起される。
この引っ張り応力が、ガラス2のエッジの破壊強度を超えると、当該エッジの表層または下層を始点として、初期亀裂2aを生じる。
また、この時ガラス2のエッジ以外の、赤外線ラインヒータ10によって加熱されている領域のうち、エッジと反対側の終端付近には
図5に示したように圧縮応力が誘起されている。
【0049】
ガラス2の切断予定線L先端より生じた初期亀裂2aは、赤外線ラインヒータ10によって加熱されている領域の端部付近まで伸展していく。また、亀裂2aが上記の圧縮応力が誘起された領域まで達すると、亀裂2aの伸展速度が徐々に低下し始める。
そして、赤外線ラインヒータ10を搬送することによって、加熱される領域が移動し、それに伴い引っ張り応力が発生する領域も移動していくので、搬送速度に応じて亀裂が伸展し続ける。
【0050】
上述のように、本実施形態では、フルボディ切断が可能であるが、
図3(d)に示すように、ガラス2の終端から4〜5cm程度の終端領域2bまで亀裂2aが到達したところで、切断速度は落ちやすく、切断しにくくなる。
このため、本実施形態では、気体噴出装置40により、終端領域2bの切断予定線Lを含む領域に圧縮空気を吹き付ける。
【0051】
図6は圧縮空気吹き付け状態を説明する図である。
図7は圧縮空気吹き付け後のガラス2の分割を説明する図である。
図8は比較形態の折り割りを説明する図である。
ここで、圧縮空気を吹き付けて亀裂2aを伸展させた場合、終端領域2bにおいて、亀裂2aはガラスの表裏面表層のみに形成される。すなわち、終端領域2bにおいてはフルボディで切れていない未切断部分2eが存在する。
また、この時、終端領域2bのエッジ部分は赤外線ラインヒータ10によって集光照射されている為、切断予定線L上のエッジからXマイナス方向へ新たな亀裂が発生することもある。上記のように亀裂が発生してもフルボディで切れないことがあり、この場合も、圧縮空気を吹き付けることによって対応可能である。
【0052】
気体噴出装置40により、切断予定線Lに圧縮空気を吹き付けたときに、亀裂2aがガラス2の終端領域2bの表層付近のみで伸展し内部までは至らない理由については以下のように考えられる。
図9は、圧縮空気噴出による亀裂の伸展を説明する模式図であり、(a)はガラス2の上面図、(b)はガラス2の側面図である。
【0053】
本実施形態では、気体噴出装置40による圧縮空気の噴き付けを、ガラス2において終端から約50mmぐらいの位置まで亀裂2aが進んだ時に行う。
図9(a)に示すように、吹き付けは、亀裂2aの先端より前方の終端領域2bに行う。終端領域2bは、赤外線照射範囲内で切断予定線Lを含む。
図9(b)に示すように、ガラス2表面の、赤外線が照射されている終端領域2bの表面2b1は、空気が吹き付けられてガラス表面の温度が低下し、その結果、ガラス表面と内部で温度差が生じ、ガラス表面に引っ張り応力が誘起されて亀裂2aが、切断予定線L上のガラス表面を伸展する。
吹き付けられた空気はガラス2を回り込み、それに伴ってガラス2の端部の側面2b2を亀裂2aが伸展する。
さらに空気はガラス2の裏面まで回り込み、それに伴ってガラス2の端部の裏面2b3にも亀裂2aが伸展する。
このように亀裂2aはガラス2の終端領域2bの表層付近のみを伸展するので内部までは至らない。
【0054】
しかし、
図7に示すように、その後、始端領域
2c側を軽い力fで外に開くことで容易に分割可能である。この分割操作は、赤外線ラインヒータ10をOFFにした状態でも行うことができる。この場合、終端領域2bにおいては、フルボディ切断でない部分が生じることになるが、ガラスを開く水平方向に外力を加えても切断面は良好である。これは、ガラス2の切断面同士を離す方向に外力が加わり、ガラスエッジ同士が接触しない為に、一方のガラスエッジに他方のガラスエッジが接触することで生じるマイクロクラックが発生し難くなる為であると考えられる。
また、本実施形態においては、外力を加えるまではガラス2は完全には分割されていないので、ガラス2の載置台22からの滑落が防止される。
【0055】
なお、本実施形態において、ガラス2の亀裂先端に加わる外力は、初期亀裂2a側を外に開く水平方向に加わる力、すなわち引っ張り応力である。したがって、
図8に示すような、切断予定線L部分に曲げ応力Fを加えて機械的な手法で板ガラスを折り割る、いわゆる折り割りとは異なる工程である。このような折り割りの場合、ガラス下面2dのガラスエッジ同士の接触が不可避であり、その結果ガラスエッジにマイクロクラックやチッピング等の欠陥が生じてしまう。
【0056】
以上、気体噴出装置40により、切断予定線Lに圧縮空気を吹き付けることにより、終端領域2bにおける亀裂2aの伸展を早めることができ、終端領域2bでの搬送速度V2をV1と同じ、あるいは、V1に近い速度にすることが可能となる。
【0057】
そして、ガラス2の切断が完了したら赤外線ラインヒータ10をOFFにする。
なお、本実施形態では気体噴出装置40が取り付けられている形態について説明したが、これに限定されず、気体噴出装置40を設けない構造であってもよい。
この場合、圧縮空気の吹付を行わず、ガラス2の終端に近くなったら、ガラス2の終端までフルボディ切断が行われるように終端領域2bの搬送速度V2をV1より小さくする。これによると、切断に必要な時間が若干長くなるが、切断面に切り口欠陥等ない状態は同様である。
【0058】
なお、気体噴出装置40の代わりに、また、気体噴出装置40と並行して、予めガラスカッターでガラス2の終端領域2bのガラス断面、または表裏面を加傷しておいても良い。
また、切断予定線L上であれば上記の終端領域2bの他にも予め加傷をしてもよく、例えば、初期亀裂2aを発生させる時間を短縮するために、ガラス2のXマイナス側(赤外線照射が開始される始端領域2c)に浅く行っても良い。上記のような場合でも、折り割り工程がないため「キリコ」や「マイクロクラック」の発生を大幅に抑制する事ができる。
【0059】
また、初期亀裂2aを形成し、亀裂2aを進展させる際、切断予定線L上であれば、初期亀裂2aから離れた位置を赤外線ラインヒータ10で照射してもよい。このとき、照射領域と初期亀裂2aが形成されたガラスエッジとの距離が30mm以下程度であれば亀裂2aを進展させることが可能である。
また、切断予定線L上の始端領域2cにおいて、前述したようにガラス2表面をガラスカッター等で予め加傷した後、赤外線ラインヒータ10を照射し初期亀裂2aを形成する場合、形成した傷から離れた位置を同様に赤外線ラインヒータ10で照射してもよい。このとき、照射領域と傷が形成されたガラスエッジとの距離が30mm以下程度であれば初期亀
裂2aを形成させることが可能である。上記の傷はガラスエッジを含めばよく、ガラス2表面に浅く傷を形成した場合であっても、初期亀裂2aは全板厚に亘る亀裂とすることが可能である。
【0060】
なお、圧縮空気の吹き付けや、加傷がなくともガラス2の切断は十分可能であり、圧縮空気吹き付けや加傷は必須工程ではない。しかし、圧縮空気の吹き付けや加傷により、初期亀裂2aの形成と終端亀裂の形成にかかる時間を減らすことができ、簡易な操作で高い効果が見込める。
【0061】
(第1実施形態の効果)
以上、本実施形態によると、ガラス2、特に厚板ガラス2を折り割り工程を経ることなくフルボディ切断によって分割することができる。
本実施形態のガラス切断装置1は、赤外線ラインヒータ10の出力と集光位置と赤外線ラインヒータ10の搬送速度の調整による簡単な操作で、短時間で正確な切断を行うことができる。
さらに、本実施形態によれば、切断予定線L上おいて、全長に渡るスクライブの形成が不要である。そして、折り割りを行わないため、ガラス2を切断する際に切断ガラス2同士が触れることが無く、ガラス2の切断面に、「マイクロクラック」の発生が無く、エッジ強度の低下を抑制することができる。
切断によってカレットが発生しないため、切断面及びガラス2の表面に「キリコ」の付着を無くすことが可能である。また、「キリコ」が無いためガラス面内キズも低減することができる。
また、本実施形態により、切り口欠陥(「そげ」、「角」、「切り口のかけ」、「はま欠け」、「逃げ」など)のない切断面を得ることが可能である。
【0062】
ガラス2の長さ、厚さ、搬送速度を変えてガラス2を切断した第1実施形態の実施例について説明する。
【0063】
実施例1〜3の場合におけるガラス切断装置1におけるガラス2の切断条件を以下の表1に示す。
【0065】
本実施例で用いたガラス2は、ソーダライムガラス(300mm×1000mm、厚み25mm)である。
赤外線ラインヒータ10は、赤外線ラインヒータ(ハイベック社製 HYL25−28N、ランプ部分の長さ280mm、出力1960W、焦点距離25mm)である。
載置台22は、金属製(SUS304、SS400)の板であり、切断予定線Lを挟んで等間隔に配置した。
そして、赤外線ラインヒータ10をフレーム30に取り付け、手動でX軸に沿って走査させた。
【0066】
(実施例1)
まず、約30秒間、赤外線ラインヒータ10の先端を約280mm進ませた状態で固定して集光照射し、初期亀裂2aを発生させた。
次に、約60秒間かけて赤外線ラインヒータ10を走査し、切断予定線L上に亀裂2aを伸展させた。
次に、終端付近2bでガラス2の表面に圧縮空気を吹き付けて、ガラス2の表面〜裏面まで亀裂2aを発生させた。
次に、赤外線ラインヒータ10をOFFにした後、始端領域2c側のガラスを手で持ち、ガラス2の切断面を離すように水平方向に引き離して分割し、フルボディ切断を行った。
【0067】
(実施例2)
図10は実施例2における切断を説明する図である。実施例2では、最所に切断予定線L上の始端領域2cのエッジ部分(ガラス断面)に、浅くガラスカッターで加傷した。
次に、赤外線ラインヒータ10の先端を約140mm進ませた図示の状態で固定して約12秒間集光照射し、赤外線ラインヒータ10の照射範囲に亀裂2aを伸展させた。
次に、約53秒間かけて赤外線ラインヒータ10を走査し、実施例1と同様に終端領域2bでガラス2の表面に圧縮空気を吹き付けた後、水平方向にガラス2を引き離してフルボディ切断を行った。
【0068】
(実施例3)
図11は、実施例3における切断を説明する図である。実施例1と同様に、約30秒間、赤外線ラインヒータ10の先端を約280mm進ませた状態で固定し集光照射を行って、初期亀裂2aを発生させた。次に、約60秒かけて赤外線ラインヒータ10を走査し、切断予定線L上に亀裂2aを伸展させた。
次に、終端領域2bで搬送を停止させ、赤外線ラインヒータ10による赤外線照射を行い、フルボディ切断を行った。
図11は終端領域2bにおいて搬送を停止させた時の赤外線ラインヒータ10とガラス2との位置関係を示す。図示するように、終端領域2bでは、ガラス2の端部から50mmに、赤外線ラインヒータ10の端部が位置する。なお、初亀裂発生時のラインヒータとガラス板の位置関係は実施例1と同じである。
【0069】
本実施例によると、実施例1、実施例2、実施例3のいずれの場合もガラス2を折り割り工程なしでフルボディ切断することができ、切断面も良好であった。また、実施例3は非接触で切断することができた。また、実施例1、実施例2は全工程を非接触切断で行っていないが、切断時間を大幅に短縮することができた。
【0070】
図12は、切断した板ガラスの切断面の写真である。写真で示すように、本手法によって切断した板ガラスの切断面は、厚板ガラスであっても直線性、直角性が非常に高く、切り口欠陥も無いことから、後工程での手直しも不要である。
【0071】
(第1実施形態の変形形態)
また、第1実施形態では、1つの赤外線ラインヒータ10を使用したが、これに限らず、赤外線ラインヒータ10は2以上であってもよい。
【0072】
赤外線ラインヒータ10はガラス2の上側に設置したが、これに限らず、赤外線ラインヒータ10を載置台22の下に設けることも、上下両側に設置することも可能である。
【0073】
また、本発明のガラス切断装置1において全工程を非接触で行う場合は、前述したように、集光した赤外線光の照射のみによりガラス2を分割する。この分割は切断予定線L上に生じる強い引っ張り応力によるため、場合によっては分割されたガラス2が切断面同士を離すように載置台22上を滑ることがある。
このような場合、載置台22の大きさによっては分割したガラス2が載置台22の下へ落下してしまう可能性もあるため、予め落下防止用の補助部材を設置してもよい。
当該補助部材はガラス2の落下を防ぐ事が可能であれば載置台22上に設置してもよく、また載置台22とは別に設置するものであってもよい。また、補助部材は切断前からガラス2に接触していても、分割されたガラス2が載置台22を滑った際に接触するように設置するものでもよい。
なお、前述したように終端領域2bに圧縮空気を吹き付ける場合、最後の分割操作を弱い力fを加えることによって行う為、滑落等を抑制することができる。
【0074】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図13はガラス切断装置101の概略図であり、ガラス102が配置された状態を示す。
本実施形態では、ガラス102の搬送方向をマイナスX方向、X方向と垂直かつ水平な方向をY方向、ガラス102の厚さ方向をZ方向として説明する。
【0075】
(装置の説明)
図13に示すように、ガラス切断装置101は、2つの赤外線ラインヒータ110と、ガラス102を搬送する搬送台120と、制御部130と、を備える。
【0076】
(赤外線ラインヒータ110)
赤外線ラインヒータ110は、第1実施形態と同様の構成であるので説明を省略する。
【0077】
(搬送台120)
搬送台120としては、本実施形態では、図示しない回転ローラの間に輪状の幅広のベルト122を架け渡したベルト搬送台を用いる。ベルト122の幅方向の外側には外枠121が配置されている。
なお、ベルト122は、赤外線に曝されることから、耐熱性の部材を用いるのが好ましい。また、ガラス102の切断される部分と接する面にグラスウール等の断熱材を設置することで赤外線による載置台の直接加熱を防止するようにしてもよい。
【0078】
(制御部130)
制御部130は、作業者の操作により、搬送台120の搬送開始及び停止、速度調整、赤外線ラインヒータ110のオンオフ、赤外線ラインヒータ110の上下の位置調整等を行う。
【0079】
(ガラス102)
本切断装置の切断対象の脆性材料は板状のガラス102は、第1実施形態のガラス2と同様であるので説明を省略する。
【0080】
(赤外線ラインヒータ110の配置)
図13に示すように、本実施形態においてガラス切断装置101の赤外線ラインヒータ110は、ガラス102の幅方向(Y方向)の端部に配置し、いわゆる耳切り工程に用いる。
ただし、本実施形態の切断装置は、耳切り工程に限定されるわけではない。耳切り以外の、例えば製品切断のようにガラスを所望のサイズに分割する場合においても利用可能である。
【0081】
(切断方法)
次に、実施形態のガラス102の切断方法について説明する。
図14は、切断方法を説明する図であり、(a)〜(d)は切断工程を時系列に説明した図である。第2実施形態におけるガラス102の切断方法は、第1実施形態と略同様であるが、第1実施形態において赤外線ラインヒータ10が移動したが、第2実施形態では赤外線ラインヒータ10ではなく、ガラス102が移動する点が異なる。
まず、搬送台120の上に切断するガラス102を配置する。そして、ガラス102を、その端部の位置が赤外線ラインヒータ110の照射領域の端部と略一致するように移動させる。
第1実施形態と同様に、ガラス102の厚さに応じて、赤外線ラインヒータ110から照射される赤外線の幅が、所望の幅(本実施形態では3mm)になるように赤外線ラインヒータ110の高さ方向の位置を調整する。
【0082】
赤外線ラインヒータ110をONにする。このとき、本実施形態においては、ガラス102は搬送せずに停止させたまま(V=0)にする(
図14(a))。
ガラス102の厚さにもよるが、ガラス102の表面に近赤外線を照射してから約15〜30秒でガラス102に初期亀裂102aが発生する(
図14(b))。
【0083】
初期亀裂102aが発生したら、赤外線を照射しつつ、搬送台120を作動させてガラス102を切断予定線Lに沿って搬送する(
図14(c))。
このときの搬送速度V1は、第1実施形態と同様の理由で1〜1.5m/分が好ましい。
【0084】
ガラス102を搬送速度V1で搬送していくと、
図14(c)に示すようにフルホディ切断の亀裂102aが、ガラス102の搬送方向に伸展し続ける。
しかし、
図14(d)に示すように、ガラス102の終端から1〜2cm程度まで亀裂102aが伸展したところで、切断速度は落ちやすく、切断しにくくなる。
このため、ガラス102の終端に近くなったら、ガラス102の終端までフルホディ切断が行われるよう搬送速度VをV1より低速のV2にする。
また、この際ガラス表面、又は、裏面、もしくは、両面を、圧縮エアー等で冷却することで終端クラックの形成が容易になる。
そして、ガラス102の切断が完了した
ら赤外線ラインヒータ110をOFFにする。
【0085】
本実施形態によると、第1実施形態と同様に、ガラス102は、全長に渡って切断予定線Lに沿ったフルホディ切断が可能となる。
【0086】
ガラス102の切断予定線L先端より生じた初期亀裂102aは、赤外線ラインヒータ110によって加熱された領域の終端付近まで伸展していく。また、亀裂が上記の圧縮応力が誘起された領域まで達すると、亀裂の進展速度が徐々に低下し始める。
そして、ガラス102を搬送することによって、加熱される領域が移動し、それに伴い応力が発生する領域も移動していくので、搬送速度に応じて亀裂が進展し続ける。
【0087】
以上、本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0088】
ガラス102の長さ、厚さ、搬送速度を変えてガラス102を切断した第2実施形態の実施例について説明する。
使用したライン赤外線ラインヒータ110は、第1実施形態の実施例と同様である。
使用したガラス102の長さ、厚さ、搬送速度及び切断結果について表
2に示す。ガラス102の種類は板状のフロートガラスである。
【0090】
表
2に示すように、本実施例によると、表に示す実施例(4)から(10)のいずれの場合もガラス102を折り割り工程なしでかつ非接触状態でフルホディ切断することができた。
【0091】
以下、各実施例を詳細に説明する。
実施例(4)と(5)とは、ガラス102の長さ及び搬送速度は同じであるが、ガラス102の厚さが異なる。切断時間(電源ONから切断完了までの時間)は、板厚25mmの実施例(5)のほうが板厚15mmの実施例(4)よりも長いが、いずれも切断可能であった。
【0092】
実施例(6)〜(8)も、ガラス102の長さ及び搬送速度は同じであるが、ガラス102の厚さが異なる。この場合も、いずれも切断可能で切断面も良好であった。
【0093】
実施例(7),(9),(10)は、ガラス102の長さ及びガラス102の厚さは同じであるが、搬送速度が異なる。
実施例(7)の搬送速度が1〜1.5m/分は切断面に筋は発生しなかったが、実施例(9)の搬送速度が0.2m/分、実施例(10)の搬送速度が0.5m/分の場合、切断面に筋が発生した。
切断面の筋は、上述のようにJIS R3202で定める規格上、問題にはならないが、これらの結果より、搬送速度が1〜1.5m/分のほうが好適であることが分かった。
【0094】
次に、本実施形態の切断方法により、切断した切断ガラス102Aの切断面の強度の測定結果について説明する。
本実施形態の切断方法により、厚み19mmのガラス102を切断し、試験片(25mm×100mmを作成した。この試験片について、JIS R1601(1995)「ファインセラミックスの曲げ試験方法」に準拠する方法で四点曲げ試験を行った。
使用した装置はテンシロン万能材料試験機(オリエンテック社製、RTC−2410)である。
【0095】
荷重スパン(=加圧治具幅)は60mm
支持スパン(=支持治具幅)は180mm
試験速度は1mm/min
である。
得られた結果の算術平均を算出し、平均破壊応力値を得た結果を以下に示す。
【0097】
なお、比較形態の試験片は、熟練作業者が超硬工具刃(カッター)によって、切断予定線L上の表面にスクライブ線を入れ、スクライブ線に直交する方向に曲げ応力を加えて、100mm×400mmのサイズに折り割って作製した、いわゆる、クリーンカットサンプルである。サイズが異なるため、必ずしも正確な比較ができるわけではないが、本実施形態の切断ガラス102Aの平均破壊強度はトップが109MPa、ボトムが83Mpaであった。一方比較形態はトップが50Mpa、ボトムが72Mpaであった。
以上、本実施例による切断ガラス102Aは、熟練作業者が折り割って作製したクリーンカットガラスに比べ、TOP面側で約2倍、BOTTOM面側で約1、15倍強度的にも優れたエッジ強度を有する板ガラスを得ることができた。
【0098】
本実施形態の切断方法で切断された切断ガラス102Aの切断面を光学顕微鏡で観察した結果を
図15に示す。
図15において(a)は従来の折り割りによって、熟練作業者が折り割りを行った従来品の切断ガラスであり、(b)は本実施形態の方法で切断した切断ガラス102Aの切断面である。
【0099】
図15(a)に示すように、従来品は切断ガラスの断面にカッター傷によるマイクロクラックが見られる。
しかし、本実施形態によると
図15(b)に示すように切断ガラス102Aの断面にマイクロクラックや切り口欠陥等は生じていない。すなわち、鋭利な刃物で裁断したようなきれいな切断面が得られた。また、(b)に示す本実施形態による切断ガラス102Aの切断面の稜線は、鋭利であるにもかかわらず、稜線を指でなぞっても、指を切創することがなかった。これは切断面にマイクロクラックの発生が無く、稜線においてガラス102の微細な凹凸が形成されていないためである。
【0100】
厚板ガラスの耳切りに用いた場合、従来の折り割り工程を経る切断方法では、切り離す側にある程度の幅(両端300mm程度の幅の切り代(合わせて600mm)が必要)がないと、切断線が曲がってしまい不良となる。
しかし、本実施形態は折り割り工程が不要であることから耳切り幅を小さくすることが可能であり、従来よりも大きなサイズの製品取りが可能となる。
具体的には、概ね板厚程度(厚さ25mmのガラスの場合25mm幅)の切り代で切断が可能である。
【0101】
図16は、厚さ25mmのガラスの場合25mm幅の切り代で切断したガラスの写真である。このように、製品として使用できる領域が広がるのでコスト的に非常に有利となる。
図17及び
図18は、切断した板ガラスの切断面の写真である。写真で示すように、本手法によって切断した板ガラスの切断面は、厚板ガラスであっても直線性、直角性が非常に高く、切り口欠陥も無いことから、後工程での手直しも不要である。
【0102】
(第2実施形態の変形形態)
なお、本実施形態では
図14において説明したように、ガラス102の端部の位置が赤外線ラインヒータ110の照射領域の端部と略一致するようにした状態で、ガラス102の速度をV=0として赤外線ラインヒータ110をONにした。
しかし、これに限定されず、ガラス102の端部の位置が赤外線ラインヒータ110の照射領域の端部よりも手前の状態で赤外線ラインヒータ110をONにし、ガラス102の搬送を開始し、搬送速度をV1で等速搬送しても良いし、V1よりも低速にして、初期亀裂102aが発生したら、速度をV1にするようにしてもよい。
【0103】
また、本発明の手法は、赤外線ラインヒータ110を照射する事によって、ガラス102に生じた亀裂を伸展させる事が可能である。そのため、初期亀裂aを発生させる時間を短縮するために、予め任意の方法でエッジ表面、または、断面にスクライブ線等を入れ、これを初期亀裂102aとして亀裂を伸展させてもよい。上記だと初期亀裂aの入れ方によっては全工程が非接触切断にならない場合があるが、折り割り工程がないため「キリコ」や「マイクロクラック」の発生を大幅に抑制する事ができる。
【0104】
また、本実施形態では、2つのライン赤外線ラインヒータ110を使用したが、これに限らず、ライン赤外線ラインヒータ110は1つであってもよいし、3つ以上であっても良い。
【0105】
搬送台120は、ベルト式に限らず、X方向に延びる外枠と、その外枠に対して長手方向がY方向に沿うように配置された複数のローラとを備え、ローラ上に搬送物を載せて移動させる装置であってもよい。
【0106】
さらに、搬送台自体が移動するものでなく、ガラス102を搬送台上で、手動で移動させてもよい。この場合、搬送台におけるライン赤外線ラインヒータ110が照射される位置をくりぬき、赤外線が照射されることによる搬送台の熱による損傷を防ぐことができる。
【0107】
赤外線ラインヒータ110は、第1実施形態と同様に搬送台120の下に設けることも、上下両側に設置することも可能である。
【0108】
また、第1実施形態と同様に予め落下防止用の補助部材を設置してもよい。