【文献】
増野敦信,"無容器浮遊法による新機能性ガラスの合成",NEW GLASS 95,日本,一般社団法人ニューガラスフォーラム,2009年,Vol.24, No.4,Page.37-44,ISSN:0194-6563
【文献】
増野敦信,"無容器浮遊法による超高屈折率ガラスの開発",粉体および粉末冶金,日本,一般社団法人粉体粉末冶金学会,2014年 1月15日,Vol.61, No.1,Page.11-17,DOI:10.2497/jjspm.61.11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学ガラスは、モル%で、La
2O
3 13.5〜35%(ただし35%を含まない)、Gd
2O
3 0〜30%、Ta
2O
5 0〜1%(ただし1%を含まない)、及び、SiO
2+B
2O
3 0〜50%(ただし0%を含まない)を含有することを特徴とする。ガラス組成範囲をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0015】
La
2O
3はアッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。La
2O
3の含有量は13.5〜35%(ただし35%を含まない)であり、好ましくは15〜34%、より好ましくは18〜33%である。La
2O
3の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、La
2O
3の含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0016】
Gd
2O
3はアッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。Gd
2O
3の含有量は0〜30%であり、好ましくは0〜20%(ただし0%を含まない)、より好ましくは3〜14%である。Gd
2O
3の含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0017】
Ta
2O
5は屈折率を高める成分である。ただし、Ta
2O
5を多量に含有させると、アッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。従って、Ta
2O
5の含有量は0〜1%(ただし1%を含まない)であり、0〜0.3%であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0018】
SiO
2及びB
2O
3はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。無容器凝固法を用いることで、溶融ガラスと溶融容器の界面を起点とする結晶化は抑制することができるが、極端にガラス化しにくい組成では、特にガラス径が大きくなる(例えば直径5mm以上)と内部まで冷却するのに時間がかかり、結晶化が起こりやすくなる。本発明の光学ガラスはSiO
2及びB
2O
3を所定量含有するため、ガラス化が容易となり、大きいサイズのガラスを得ることが可能となる。SiO
2+B
2O
3の含有量は、0〜50%(ただし0%を含まない)であり、好ましくは5〜45%、より好ましくは10〜40%である。SiO
2+B
2O
3の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、SiO
2+B
2O
3の含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得られにくくなる。
【0019】
SiO
2及びB
2O
3のそれぞれの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0020】
SiO
2の含有量は、好ましくは0〜50%、より好ましくは0〜45%、さらに好ましくは2〜40%である。なお、SiO
2は耐候性を向上させる効果も有する。
【0021】
B
2O
3の含有量は、好ましくは0〜50%、より好ましくは0〜45%、さらに好ましくは2〜40%である。
【0022】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、Nb
2O
5、ZrO
2、Al
2O
3、Y
2O
3、Yb
2O
3またはTiO
2を含有させることができる。これらの成分を導入することで、所望の屈折率及びアッベ数を有するガラスを容易に作製することができる。
【0023】
Nb
2O
5は屈折率を高める効果が大きい成分であり、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、Nb
2O
5はアッベ数を低下させやすいため、その含有量が多すぎると、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、Nb
2O
5の含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0〜25%、さらに好ましくは0.5〜20%である。
【0024】
ZrO
2はアッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果がある。さらに、化学的耐久性を向上させる効果もある。ただし、ZrO
2を多量に含有させると、ガラス化しにくくなる。従って、ZrO
2の含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0.5〜25%、さらに好ましくは1〜20%である。
【0025】
Al
2O
3は中間酸化物としてガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。また、化学的耐久性を向上させる効果もある。ただし、Al
2O
3を多量に含有させると、屈折率及びアッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、Al
2O
3の含有量は、好ましくは0〜20%、より好ましくは0〜15%、さらに好ましくは0.1〜10%である。
【0026】
Y
2O
3はアッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。ただし、Y
2O
3を多量に含有させると、ガラス化しにくくなる。従って、Y
2O
3の含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0.5〜20%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0027】
Yb
2O
3はアッベ数をほとんど低下させることなく屈折率を高める成分である。ただし、Yb
2O
3を多量に含有させると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。従って、Yb
2O
3の含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは1〜10%である。
【0028】
TiO
2は屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、アッベ数を低下させやすいため、その含有量が多すぎると、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、TiO
2の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0.1〜5%である。
【0029】
本発明の光学ガラスには、上記成分以外にも、下記の成分を含有させることができる。
【0030】
GeO
2は屈折率を高める成分であり、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、GeO
2を多量に含有させると、アッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。従って、GeO
2の含有量は、好ましくは0〜30%、より好ましくは0〜15%、さらに好ましく0〜5%である。
【0031】
WO
3は屈折率を高める効果がある。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、WO
3を多量に含有させると、アッベ数が低下してしまい、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、WO
3の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%、さらに好ましくは0〜3%である。
【0032】
SnO
2は屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、アッベ数を低下させやすいため、その含有量が多すぎると、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、SnO
2の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは1〜5%である。
【0033】
P
2O
5はガラス骨格を構成する成分であり、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、P
2O
5を多量に含有させると、分相しやすくなる。従って、P
2O
5の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜3%である。
【0034】
ZnO、MgO、CaO、SrO及びBaOはガラスの安定性と化学的耐久性を高める効果がある。ただし、その含有量が多すぎると、屈折率が低下して、所望の光学特性が得られにくくなる。従って、これらの成分の含有量は、それぞれ好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜5%である。
【0035】
Li
2O、Na
2O、K
2O及びCs
2Oは溶融温度を下げる効果があるが、屈折率が低下しやすくなるため、合量で0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましい。
【0036】
Bi
2O
3は屈折率を高める成分であるが、同時にアッベ数を低下させるため、その含有量が多すぎると、所望の光学特性が得られにくくなる場合がある。従って、Bi
2O
3の含有量は30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0037】
清澄剤としてSb
2O
3を添加することができる。ただし、着色を避けるため、あるいは環境面を考慮して、Sb
2O
3の含有量は0.1%以下であることが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0038】
F及びPbOは環境面から含有させないことが好ましい。
【0039】
本発明の光学ガラスの屈折率は、好ましくは1.80以上、より好ましくは1.83以上、さらに好ましくは1.90以上である。例えば、本発明の光学ガラスをレンズとして使用する場合、屈折率を高めるほどレンズを薄くすることが可能となり、光学デバイスを小型化する上で有利となる。なお、屈折率の上限は、ガラスの安定性を考慮して、好ましくは2.05以下、より好ましくは2.00以下である。
【0040】
本発明の光学ガラスのアッベ数は、好ましくは20以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは35以上である。アッベ数が高いほど屈折率の波長分散が小さくなるため好ましいが、高屈折率特性の維持とガラスの安定性の観点から、上限は47以下が好ましく、45以下がより好ましく、43以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の光学ガラスは例えば無容器凝固法により作製することができる。
図1は、無容器凝固法によりガラス材を作製するための製造装置の模式的断面図である。
【0042】
図1に示されるように、ガラス材の製造装置1は、成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aを有する。成形型10は、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は、特に限定されない。ガスは、例えば、空気や酸素であってもよいし、窒素ガスやアルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであってもよい。
【0043】
製造装置1を用いてガラス材を製造するに際しては、まず、ガラス原料塊12を成形面10a上に配置する。ガラス原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成形等により一体化したものや、原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0044】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、ガラス原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、ガラス原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー照射装置13からレーザー光をガラス原料塊12に照射する。これによりガラス原料塊12を加熱溶融してガラス化させ、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材を得ることができる。ここで、ガラス原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらにはガラス材の温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、ガラス原料塊12、溶融ガラス、さらにはガラス材と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
表1〜3は本発明の実施例及び比較例をそれぞれ示している。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
各試料は次のようにして調製した。まず表に示すガラス組成になるように調合した原料をプレス成型し、1250〜1400℃で12時間焼結することによりガラス原料塊を作製した。または、表に示すガラス組成になるように調合した原料をアルミナまたは白金坩堝中で1450〜1580℃で30分間溶融し、溶融ガラスをカーボン板状に流し出すことによりガラス原料塊(ガラス化せず)を作製した。
【0051】
次に、乳鉢中でガラス原料塊を粗粉砕し、0.1〜0.5gの小片とした。得られたガラス原料塊の小片を用いて、
図1に準じた装置を用いた無容器凝固法によってガラス材(直径約2〜8mm)を作製した。なお、熱源としては100W CO
2レーザー発振器を用いた。また、原料塊を浮遊させるためのガスとして酸素ガスを用い、流量1〜15L/minで供給した。
【0052】
得られたガラス材について、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0053】
屈折率(nd)は、ガラス材を厚さ5mmのソーダ基板上に接着後、直角研磨を行い、KPR−2000(島津製作所製)を用いて、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で評価した。
【0054】
アッベ数(νd)は上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.1nm)及びC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd−1)/(nF−nC)}の式から算出した。
【0055】
表1及び2に示すように、実施例1〜14のガラスは、屈折率が1.8690〜1.9700と高く、アッベ数も33.47〜43.39と高かった。
【0056】
一方、表3に示すように、比較例1〜3はガラス化しなかった。また、比較例4は屈折率が1.64532と低かった。さらに、比較例5は屈折率が2.01422と高いものの、アッベ数が19.42と低かった。